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第 8 回 4K サービスに向けたアクセス回線とホームネットワークの高度化 日本ケーブルラボ事業調査部主任研究員竹内正巳 4K/8Kに対応するネットワークを考えたとき いくつかの新技術導入が必要となる場合がある アクセス回線においては 所要伝送容量が6MHzのチャンネル幅で伝送可能な範囲を超えた場合や周波数利用効率向上のための対応が必要となってくる ホームネットワークにおいては 日本の住宅事情を考慮すると Wi-Fiの適合性が高い 大容量データをスムーズに送受信するためには 複数のアンテナを立て分割処理する マルチユーザー MIMO などの最新技術が適応すると考えられる 今回はそういった大容量の宅内伝送についても解説する ( 図版提供 : 日本ケーブルラボ ) ー 34 ー

第 1 章はじめに 本号においては 4Kサービスに向けたアクセス回線とホームネットワークの高度化について取り上げ さらに将来の 8Kサービスに向けた技術についても解説する 4K/8Kサービスのアクセス回線に用いられる技術については 6 月号において複数搬送波分割伝送方式や高度なデジタル有線テレ ビジョン放送方式 (J.382 方式 ) などを紹介したが 本号ではこれらについてもより詳細な説明を行う またホームネットワークで 4K/8Kサービスを IP 伝送するためにも 安定した高速伝送が不可欠であり それを実現するための有線 LAN 技術 無線 LAN 技術について解説する 第 2 章 4K/8K サービスに必要とされる伝送容量と現状技術の課題 本章では 4K/8Kサービスを所定の伝送路で伝送するための所要伝送容量をもとに アクセス回線およびホームネットワークの現状技術に関わる課題について述べる 2.1 4K/8K サービスに必要とされる伝送容量表 1は 6 月号で解説した HEVC 符号化による 4K/8Kサービスの各映像プロファイルの所要伝送容量である 4K 60Pでは20 ~ 30Mbps 8Kサービスでは総務省令で定められた2つの映像プロファイルを伝送するためには70 ~ 110Mbpsが必要となる 表 1 4K/8Kサービスの所要伝送容量 2.2 アクセス回線の課題国内現行規格のJ.83 Annex Cを利用するRF 伝送方式においては 64QAMで 29.16Mbps 256QAM で38.88Mbps の伝送能力がある ケーブルテレビ回線上において複数 TS 伝送方式を使用する場合は TSMF( 複数 TS 多重フレーム ) ヘッダーが付加されるので 正味容量は上記の約 98% となる 実際の放送波ではデータ放送や番組情報なども伝送する必要があり そのためのマージンも必要である 4Kサービスについては 所要伝送容量が 20 ~ 30Mbpsであるため既存の 6MHz 幅のチャンネルを用いる64QAMあるいは 256QAM 変調により伝送可能である しかしながら8Kサービスになると所要伝送容量が6MHzの256QAMで伝送可能な容量を大幅に超えるため 3.1および 3.2で述べるような新しい伝送技術が必要になる IP 伝送方式の場合 現在の主流となっているチャネルボンディング可能なDOCSIS 3.0で所要伝送容量を満たすことができる ただし インターネット等の他のトラヒックと帯域を共有すると 4K/8Kサービスの品質確保が難しいため 専用の帯域を使用する必要がある ー 35 ー

2.3 ホームネットワークの課題ホームネットワークについては 利用シーンとして4K/8Kサービスを家族 4 人が同時視聴することを想定すると 4Kでは25Mbps 4 = 100Mbps 程度 8Kでは90 4=360Mbps 程度の伝送容量となる 有線 LANとして IEEE 802.3イーサネットを用いれば 4K/8Kサービスの同時視聴に必要な伝送容量はギガビットイーサネットで達成できる しかしながら既設住宅ではLAN 配線工事が不可能なケースが多く 代替策は宅内の既存配線を用いる有線 LANや無線のWi ー F iとなる 既存配線については 外国で利用されているMoCA( 同軸方式 ) は ホームネットワーク用としては日本における利用実績がない 電力線や電話線を利用する方式は 外国において300Mbp 以上の通信速度を達成して いても 日本国内の電波規制により 100Mbps 以下の実効速度となり 表 1に記載した通信速度や必要な到達距離を達成できない場合がある 電気的雑音や電力線の異相接続などで顕著な信号減衰のある環境では 数 Mbpsの実効速度やリンク切れとなってしまうという課題がある Wi ー Fiにおいては 旧来の IEEE 802.11a や802.11gを用いるとリンク速度は最大 54Mbpsである 表 1の値や想定した利用シーンを考慮すると 4Kサービスの単独視聴用としては利用可能であるが 4K 複数同時視聴や8Kサービスの視聴には不十分である 802.11nの場合 最大 4ストリームを使用してリンク速度の最大は 600Mbpsとなる 複数同時視聴を行うと1ストリーム当たりは最大 150Mbpsとなり 4K/8Kサービスの視聴が可能と見込まれる ただし 電波環境が悪いと速度が低下することが課題となる 第 3 章 4K/8K サービスに対応するアクセス回線技術 3.1 複数搬送波伝送方式本方式は既存ケーブルテレビのセンター設備や伝送路を大きく変更することなく 簡易に放送伝送することを目指して開発された方式であり 既存のITU-TのJ.183 勧告を複数搬送波で伝送するように拡張したもので 現在 J.183 勧告の改訂を日本が提案している 図 1に示すように 4K/8Kサービスの大容量信号をケーブルテレビ局の送信設備で分割して複数の搬送波で伝送し受信側で合成するが 分割 合成機能については新たに開発する必要がある 複数の256QAM もしくは 64QAM 信号を用いて多重伝送することにより必要な伝送速度を得ることができ 使用する搬送波の数を増加することにより 8Kサービスまで対応可能な方式となっている 複数のケーブルテレビ事業者の実際の伝送路を利用した本方式による伝送実験もすでに行われ 実証されている 本方式では256QAMと64QAMのビットレートの比が 4:3であるという点に着目し 両変調方式で伝送された信号について受信側で同期合成できる スーパーフレーム を定義している 複数 TS 多重フレーム (TSMF) のペイロードは 5 2 スロット 1 で構成される 拡張 TSMFヘッダー と呼ばれる情報がフレーム毎に挿入され フレーム同期 バージョン番号識別や各種フラグの伝送 誤り検出といった役割を担っている 拡張 TSMFヘッダー内の新規フィールドで定義されたグループ IDやフレーム順序などの情報を用いて 複数搬送波におけるフレーム分割 合成処理を実行する 搬送波間のフ ー 36 ー

図 1 複数搬送波を用いたケーブルテレビ伝送の概要 図 2 複数搬送波伝送方式におけるスーパーフレームによる伝送 レーム位相合わせは 各搬送波のスーパーフレームの先頭を基準として合わせる 複数のグループ IDを駆使することにより 4Kサービスと8K サービスの混在伝送なども可能な仕様となっている 1 スロットとは 複数 TS 多重方式において 最小のデータ単位のこと TS パケットと同じ 188 バイトである スーパーフレームによる伝送の概要を 図 2 に示す 3.2 高度なデジタル有線テレビジョン放送方式 (J.382 方式 ) 国際勧告である J.382 方式 (DVB ー C2) は 欧州などで実用化している DVB ー Cに続く第 ー 37 ー

2 世代デジタルケーブル規格である J.382 方式の大きな特徴として キャリア伝送方式に OFDMを採用したことが挙げられる これらは衛星規格のDVB-S2 地上波規格のDVB ー T2で採用されたものをケーブル伝送用でも採用したものである 国内で現在使われているJ.83 Annex Cでは 変調方式は 64QAM/256QAMであるが J.382 方式はマルチキャリアの OFDM 方式であり 帯域内に複数のサブキャリアを立て 回線品質に応じてそれぞれ16QAMから4096QAMまでの多値変調を選択可能である 誤り訂正は 従来のリード ソロモン符号に替わり J.382 方式では内符号にLDPC(Low Density Parity Check) 外符号にはBCH(Bose ー Chaudhuri ー Hocqenghem) を採用している LDPC 符号化率は2/3から9/10までの 5 種類があり チャンネル幅は 6MHz 若しくは 8MHzを選択でき さらに本方式では PLP Bundling と呼ばれる物理チャンネル連結送信技術を利用してチャンネル境界を意識せずに信号帯域幅を拡大できることも特徴である 8Kサービスのような膨大な情報を複数のDS(Data Slice) に分割して伝送し 受信機で合成する方法も規定されている J.382 方式 (DVB ー C2) と従来方式の DVB-C 国内現行規格であるJ.83 Annex Cの比較を表 2に示す 伝送路の所要 CN 比を 図 3に示す J.382 方式の方が 同一速度で比較すると DVB-C に比べ所要 CN 比が約 7dB 緩和される なお所要 CN 比は 外符号復号後のBER( ビット誤り率 ) が1 10 ー 11 以下となるように設定されている 表 2 DVB 系の各方式比較 ー 38 ー

図 3 所要 CN 比 伝送速度と 変調方式 符号化率との関係 さらに十分な CN 比を得られるのであれば 4096QAM( 符号化率 4/5) を使用すると 6MHz 帯域で 53.1Mbpsの伝送速度が達成できる 6MHz 幅で実現可能な伝送容量を超える 8K J.83 Annex Cの256QAM(38.88Mbps) と比較して CN 比が同じ場合 (30dB) は 3 割増の伝送速度が得られ 逆に同じ伝送速度をJ.382 方式においては256QAM / 符号化率 5/6で7dB 低いCN 比で得ることができる サービスについては J.382 方式では 図 4に示したようなトランスモジュレーション方式を採用することによって 6MHz 帯域 2で1 番組伝送可能であり 6MHz 帯域 3が必要な複数搬送波伝送方式よりも周波数利用効率の点 図 4 高度なデジタル有線テレビジョン放送方式 (J.382 方式 ) ー 39 ー

で有利である 4K/8Kサービスのみならず HDサービスに利用する場合においても 周波数利用効率が良いことを利用して伝送可能な番組数を増加させる目的で J.382 方式を積極的に活用することも可能である 3.3 DOCSIS 3.1 DOCSIS はHFC 上で4K/8Kサービスを含むIPTVや高速データサービス等を提供することが可能なシステム仕様で 現在の主流はDOCSIS 3.0であるが 2013 年 10 月には最新のDOCSIS 3.1がリリースされた DOCSIS 3.0と3.1の概要を 表 3に示す DOCSIS 3.1は OFDMとLDPC 多値変調などの採用により DOCSIS 3.0に比べて周波数利用効率を3 割以上向上している CATVチャンネル幅 6MHzの制約が撤廃され チャンネル幅 24MHzから192MHzまで柔軟に設定できる仕様となっている さらに下り の上限周波数が1GHz 以上 上りの上限周波数も204MHz 以上まで拡大された 諸条件が許せばHFC 伝送路の上限周波数を最大 1.8GHzまで拡大することや上下回線の分割周波数を変更することにより 上下回線とも伝送容量の飛躍的な拡大を図ることが可能である 一般的な設備構成では下り5Gbps 上り 1Gbps 程度の伝送容量を実現できる また 従来の64QAMや256QAMを扱うQAM 変復調器を一定数備えることにより DOCSIS 3.0との共存も可能としている DOCSIS 3.1においては 大容量化するために最大 4096QAMのような高次変調が仕様化されており 伝送路の所要 CN 比が非常に大きくなる CN 比劣化を極力少なくするには 同軸ケーブルで伝送する距離を大幅に短縮する必要がある 図 5に同軸ケーブルによる伝送距離を短縮するFiber Deep 構成を従来のHFCと比較して示す 表 3 DOCSIS 3.0 と 3.1 の比較 ー 40 ー

図 5 Fiber Deep 構成による同軸ケーブル区間の短縮 第 4 章 4K/8K サービスに対応するホームネットワーク 本章においては 2.3において既に述べた課題を考慮した上で 4K/8Kサービスに対応可能な有線系と無線系の宅内ネットワーク方式として代表的なものを いくつか取り上げる 4.1 有線 LAN ホームネットワーク上の IP 伝送方式において IEEE 802.3イーサネットによる有線 LAN は速度 信頼性 安定性 秘匿性などの点で有利な方式である 1 ギガビットイーサネットで4K/8Kサービスに対応可能である 既存配線を使用するMoCAは 同軸ケーブルを利用した高速ネットワークである その他にも 電力線を利用するHD ー PLC HomePlug AV UPA 電話線を利用する HomePNA(3.1 版では同軸ケーブルも利用可能 ) など 様々な方式が開発 利用されている 宅内の同軸ケーブル 電力線 電話線の全てを利用し かつ複数の方式を整理し 高性 能な規格を策定する計画を掲げたのが Home Grid Forumである ITU ー T(SG15) において 有線系ホームネットワーク向け規格 G.hn の策定を進め G.9960(PHY) G.9961( データリンク ) G.9972( 他方式との共存規格 ) として勧告化されている 本方式の概要を表 4に示す 通信速度は 規格上は同軸で1Gbps 程度 (100MHz 帯域を使用した場合 ) 電力線や電話線で 300Mbps 弱が期待される 同軸においては 日本国内では G.hnの規格上 200MHzの連続した帯域幅を使用できるが 具体的にどの周波数を使うかは未確定である 電力線においては 日本国内では最高周波数が30MHzに制限され送信パワーが低く 他の無線局への干渉を避けるためのノッチも有るので 到達距離や通信速度について十分な注意が必要となる 図 6は G.hnをホームネットワークに適用した例である この例は 統合ブロードバンドルータを経由して複数台の 4K/8K 同時視聴に ー 41 ー

表 4 G.hn の概要 図 6 G.hn の利用事例 対応する形態となっている 宅内の同軸ケーブル 電力線 電話線の全てをリンクアグリゲーションの形で利用し できるだけ高い通信速度を確保する事を意図している なお 外国市場においては既にG.hnモデムなどの製品を入手 ー 42 ー

できる状況であるが 国内向けにはまだ製品化されていない 4.2 無線 LAN IEEE 802.11ac (Wi-Fi) 現実的なホームネットワーク方式としては 無線方式であるWi ー Fiが有望である 特に日本においては 木造住宅が多く住宅規模が比較的小さいといった事情により Wi ー Fi の適合性は高い その中でも最新規格であり4K/8Kサービスの IP 伝送に必要なギガビット級の速度を発揮できる 802.11acは有利であ る 方式概要と 従来方式である802.11n との比較は 表 5の通りである 4 4:3 SS(4 4 MIMO 3 空間ストリーム~ SS) 8 8:3 S Sのようなアンテナ数や空間ストリーム数の多いMIMO 構成 80MHz 80+80MHz 160MHzのような十分に広い帯域を利用すると ギガビット級の速度を達成できる ただし これまでの Wi-Fi 製品がそうであったように 広範な機能を段階的に製品に実装されてくるため 802.11ac 対応製品であってもどこまでの機能がサポートされているのか確認が必要である 表 5 5GHz 帯を使用する Wi-Fi の概要 図 7 マルチユーザー MIMO の動作 ー 43 ー

802.11ac Wave2で追加された マルチユーザー MIMO 機能が有り 図 7に示すように複数の端末に対して独立した空間ストリームを使用し LANスイッチ的な動作を行う Wi ー Fi 系全体の性能向上が可能であり 複数台の同時視聴にも対応できる この例では全ての子機に対して 2 2のマルチユーザー MIMOとして動作し 最大 866.7bps x 2 で動作するため 規格上は4K/8Kサービスの4 台同時視聴が可能となる マルチユーザー MIMOと共に使用可能な ビームフォーミング 技術は 受信側(Wi ー Fi 子機 ) からのフィードバックを受信した上で送信側のパラメーターを調整する 送信側ではアンテナを複数使用し それらに位相差給電を行うことにより 任意の方向の送信電界強度を強めることが可能である 他の方向については送信電界強度を弱め 電波干渉を軽減する アンテナ指向性が向いている方向においては 2.5 db 程度のSNR 改善効果があり Wi ー Fiエリア内の中距離の下り通信速度の向上に寄与する 第 5 章無線 LAN 環境の改善 Wi ー Fiではアクセスポイントからの距離が遠い場合や外部からの干渉波が存在すると CN 比が低下し 十分な通信速度を達成できなくなる また アクセスポイントからの距離のみならず壁 床などの障害物による電波の減衰が戸建て住宅の規模でも顕著である 4K/8Kサービスへの対応になると 必要な通信速度が非常に高くなるため Wi ー Fiでの LAN 構築には厳密な設計と管理が望ましい Wi ー Fi 環境の改善を目的として Wi ー Fiルーターの多段接続が想定され それに伴い IPネットワークを改善するアプローチも必要である IPv6 環境を考慮済みであり拡張性が高く かつ利用者にとって使い勝手の良いホームネットワークのアーキテクチャーである HIPnet が IETFや米国 CableLabsにおいて検討が進められている 図 8のような多段接続 機器の自動検出 IPv6/RA 2 と IPv4/DHCPの同時サポートなど 多彩な自動設定機能を有している このように複数のWi ー Fiルーターを配置して電波到達範囲を拡大し あわせて機器設定や管理作業の複雑化も回避するアプローチとなっている 2 RouterAdvertisement: ルーター広告 図 8 HIPnet 利用事例 : ルーターの多段接続 ー 44 ー

まとめ 本号で述べたとおり 4K/8Kサービスの時代になるとアクセス回線やホームネットワークの高速化や安定化は必須である アクセス回線は 第 3 章で述べた新規伝送方式を採用することにより 8Kサービスまで対応可能な高速化が達成できる ホームネットワークについては 第 4 章で述べたように固定した場所での利用であれば有線 LAN 接続 (IEEE 802.3) が4K/8Kサービスの視聴には優れているが 新規配線工事を伴うという課題が有り G.hnのような既存配線を利用する方式が代替案としてある 無線 LANの場合 5GHz 帯を使う最新の802.11acを用い電波環境の改善に配慮することで 4K/8K サービスに対応したホームネットワークを構築できる 参考資料 総務省 4K 8K ロードマップに関するフォローアップ会合 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/4k8kroadmap/ 総務省情報通信審議会情報通信技術分科会放送システム委員会ケーブルテレビ UHDTV 作業班報告 ( 素案 ) www.soumu.go.jp/main_content/000321741.pdf ITU-T J.183 https://www.itu.int/rec/t-rec-j.183-200103-i/en 8K スーパーハイビジョン国内最大のケーブルテレビ施設での伝送実験に成功 (NHK 報道資料 ) http://www.nhk.or.jp/pr/marukaji/pdf_ver/369.pdf ITU-T J.382 https://www.itu.int/rec/t-rec-j.382-201401-i CableLabs (Featured Technology, DOCSIS 3.1) http://www.cablelabs.com/innovations/featured-technology/ Video Over DOCSIS (VDOC) Tutorial https://www.nanog.org/meetings/nanog48/presentations/sunday/riddel_vdoc_n48.pdf HomeGrid Forum http://www.homegridforum.org/ G.hn TRANCEIVER (MARVELL) http://www.marvell.com/in-home-networking/ghn/ G.hn Solutions (SIGMA DESIGN) http://www.sigmadesigns.com/media-connectivity/g-hn-solutions/ Wi-Fi Alliance (802.11ac) http://www.wi-fi.org/discover-wi-fi/wi-fi-certified-ac inssider 3.1.2.1 http://www.techspot.com/downloads/5936-inssider.html Greenlee Communications http://www.greenleecommunications.com/ ekahou http://www.ekahau.com/ HIPnet Demo at IETF 86 Bits-N-Bites https://www.youtube.com/watch?v=3svhtll8atg ー 45 ー