< F2D93798FEB AA90CD964082CC8A4A94AD2E6A7464>

Similar documents
PC農法研究会

○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○

現場での微量分析に最適 シリーズ Spectroquant 試薬キットシリーズ 専用装置シリーズ 主な測定項目 下水 / 廃水 アンモニア 亜硝酸 硝酸 リン酸 TNP COD Cr 重金属 揮発性有機酸 陰イオン / 陽イオン界面活性剤 等 上水 / 簡易水道 残留塩素 アンモニア 鉄 マンガン

植物生産土壌学5_土壌化学

DOJOU_SHINDAN

DOJOU_SHINDAN

A6/25 アンモニウム ( インドフェノールブルー法 ) 測定範囲 : 0.20~8.00 mg/l NH 4-N 0.26~10.30 mg/l NH ~8.00 mg/l NH 3-N 0.24~9.73 mg/l NH 3 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の

<連載講座>アルマイト従事者のためのやさしい化学(XVII)--まとめと問題 (1)

Word Pro - matome_7_酸と塩基.lwp

i ( 23 ) ) SPP Science Partnership Project ( (1) (2) 2010 SSH

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

<4D F736F F D C8B9E945F91E58EAE90B682B282DD94EC97BF89BB2E646F63>

Taro-化学3 酸塩基 最新版

<4D F736F F F696E74202D FEB89C28B8B91D D836A B C >

キレート滴定

Microsoft Word - basic_15.doc

土壌溶出量試験(簡易分析)

04千葉県農耕地土壌の現状と変化.indd

14551 フェノール ( チアゾール誘導体法 ) 測定範囲 : 0.10~2.50 mg/l C 6H 5OH 結果は mmol/l 単位でも表示できます 1. 試料の ph が ph 2~11 であるかチェックします 必要な場合 水酸化ナトリウム水溶液または硫酸を 1 滴ずつ加えて ph を調整

研究報告58巻通し.indd

ト ( 酢酸 ) を用いた ( 図 1) 各試薬がすでに調合されており操作性が良い また この分析方法は有害な試薬は使用しないため食品工場などでの採用が多く ISO などの国際機関も公定法として採用している F-キット ( 酢酸 ) での測定は 図 1の試薬類と試料を 1cm 角石英セル に添加し

取扱説明書 ba75728d09 07/2015 メソッドデータ V 2.15

untitled

< イオン 電離練習問題 > No. 1 次のイオンの名称を書きなさい (1) H + ( ) (2) Na + ( ) (3) K + ( ) (4) Mg 2+ ( ) (5) Cu 2+ ( ) (6) Zn 2+ ( ) (7) NH4 + ( ) (8) Cl - ( ) (9) OH -

FdData理科3年

ウスターソース類の食塩分測定方法 ( モール法 ) 手順書 1. 適用範囲 この手順書は 日本農林規格に定めるウスターソース類及びその周辺製品に適用する 2. 測定方法の概要試料に水を加え ろ過した後 指示薬としてクロム酸カリウム溶液を加え 0.1 mol/l 硝酸銀溶液で滴定し 滴定終点までに消費

注釈 * ここでニッケルジメチルグリオキシム錯体としてのニッケルの重量分析を行う場合 恒量値を得るために乾燥操作が必要だが それにはかなりの時間を要するであろう ** この方法は, 銅の含有量が 0.5% 未満の合金において最も良い結果が得られる 化学物質および試薬 合金試料, ~0.5 g, ある

研究成果報告書

土壌含有量試験(簡易分析)

渋谷清掃工場 平成 28 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 不燃物 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰 ( 含有試験 ) 6 4 周辺大気環境調査結果 7 5 試料採取日一覧 8 (

Microsoft PowerPoint - 土壌診断の勧め

2009年度業績発表会(南陽)

注 ) 材料の種類 名称及び使用量 については 硝酸化成抑制材 効果発現促進材 摂取防止材 組成均一化促進材又は着色材を使用した場合のみ記載が必要になり 他の材料については記載する必要はありません また 配合に当たって原料として使用した肥料に使用された組成均一化促進材又は着色材についても記載を省略す

目 的 大豆は他作物と比較して カドミウムを吸収しやすい作物であることから 米のカドミウム濃度が相対的に高いと判断される地域では 大豆のカドミウム濃度も高くなることが予想されます 現在 大豆中のカドミウムに関する食品衛生法の規格基準は設定されていませんが 食品を経由したカドミウムの摂取量を可能な限り

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

電子配置と価電子 P H 2He 第 4 回化学概論 3Li 4Be 5B 6C 7N 8O 9F 10Ne 周期表と元素イオン 11Na 12Mg 13Al 14Si 15P 16S 17Cl 18Ar 価電子数 陽

土壌化学性診断 土壌の化学性関係項目を分析し 作物生育等との関係を解析し 改善すべき点をアドバイスします 診断メニューは 全項目診断 改善経過を見る主要項目のみの診断や微量要素の過不足が疑われる場合の診断とともに 解析 診断のみといったメニューを取り揃えています 一般分析土壌の施肥特性など把握すると

(Microsoft Word - \230a\225\266IChO46-Preparatory_Q36_\211\374\202Q_.doc)

高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

千葉県農耕地土壌の実態と変化

<333092B78D5D8FF290858FEA8C6E2E786C7378>

しょうゆの食塩分測定方法 ( モール法 ) 手順書 1. 適用範囲 この手順書は 日本農林規格に定めるしょうゆに適用する 2. 測定方法の概要 試料に水を加え 指示薬としてクロム酸カリウム溶液を加え 0.02 mol/l 硝酸銀溶液で滴定し 滴定終点までに消費した硝酸銀溶液の量から塩化ナトリウム含有

近畿中国四国農業研究センター研究報告 第7号

<4D F736F F D2095BD90AC E93788D4C88E689C88A778BB389C88BB388E78A778CA48B868C6F94EF95F18D908F912E646F6378>

 資  料 

亜硝酸態窒素除去 タルシオン A-62MP(FG) はじめに平成 26 年 1 月 14 日 水質基準に関する省令 ( 平成 15 年厚生労働省令第 101 号 ) の一部が改正され 亜硝酸態窒素に係る基準 (0.04mg/L) が追加され 平成 26 年 4 月 1 日から施行となりました ( 厚

< F2D B4C8ED294AD955C8E9197BF C>

1. 測 定 原 理 アルカリ 溶 液 中 で 亜 鉛 イオンは ピリジルアゾレゾルシノール(PAR)と 反 応 して 赤 色 の 錯 体 を 形 成 し これを 光 学 的 に 測 定 し 2. アプリケーション 本 法 は 亜 鉛 イオンを 測 定 し 不 溶 性 や 錯 体 と 結 合 した

<4D F736F F D2089BB8A778AEE E631358D E5F89BB8AD28CB3>

(3) イオン交換水を 5,000rpm で 5 分間遠心分離し 上澄み液 50μL をバッキングフィルム上で 滴下 乾燥し 上澄み液バックグラウンドターゲットを作製した (4) イオン交換水に 標準土壌 (GBW:Tibet Soil) を既知量加え 十分混合し 土壌混合溶液を作製した (5) 土

“にがり”の成分や表示等についてテストしました

に島尻マージが観察される地域である. 沖縄本島の南西約 450km の距離に位置する西表島では, 図 5-3に示すように, 平成 15 年 3 月と平成 15 年 8 月に 22 箇所で赤土を採取している. 海岸沿いを通る島唯一の車道沿いで, 掘削切土面や崖露頭面等を利用して赤土の堆積土を採取してい

IC-PC法による大気粉じん中の六価クロム化合物の測定

Microsoft Word - 酸塩基

フォルハルト法 NH SCN の標準液または KSCN の標準液を用い,Ag または Hg を直接沈殿滴定する方法 および Cl, Br, I, CN, 試料溶液に Fe SCN, S 2 を指示薬として加える 例 : Cl の逆滴定による定量 などを逆滴定する方法をいう Fe を加えた試料液に硝酸

平成27年度 前期日程 化学 解答例

<4D F736F F D20938C8B9E945F91E58CE393A190E690B62E646F6378>

0 部分的最小二乗回帰 Partial Least Squares Regression PLS 明治大学理 学部応用化学科 データ化学 学研究室 弘昌

北清掃工場 平成 28 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7 4

練馬清掃工場 平成 28 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7


品川清掃工場 平成 28 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7

PowerPoint プレゼンテーション

足立清掃工場 平成 28 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7

DOJOU_SHINDAN

TNT820-1 化学的酸素要求量 (COD) (DR1900 用 ) DOC 加熱分解法方法 ULR (1~60 mg/l COD) TNTplus TM 820 用途 : 下水 処理水 地表水 冷却水 : 本測定方法は 分解を必要とします 測定の準備試薬パッケ

平成 24 年度維持管理記録 ( 更新日平成 25 年 4 月 26 日 ) 1. ごみ焼却処理施設 (1) 可燃ごみ焼却量項目単位年度合計 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 A B 炉合計焼却量 t 33, ,972

土づくりpdf用.indd

2011年度 化学1(物理学科)

有明清掃工場 平成 28 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7

環境研究センター年報(HP) .indd

厚生労働省委託事業 「 平成25年度 適切な石綿含有建材の分析の実施支援事業 」アスベスト分析マニュアル1.00版

No. QCVN 08: 2008/BTNMT 地表水質基準に関する国家技術基準 No. QCVN 08: 2008/BTNMT National Technical Regulation on Surface Water Quality 1. 総則 1.1 規定範囲 本規定は 地表水質

チャレンシ<3099>生こ<3099>みタ<3099>イエット2013.indd

02.参考資料標準試料データ

Taro-化学5 無機化学 最新版

2 Zn Zn + MnO 2 () 2 O 2 2 H2 O + O 2 O 2 MnO 2 2 KClO 3 2 KCl + 3 O 2 O 3 or 3 O 2 2 O 3 N 2 () NH 4 NO 2 2 O + N 2 ( ) MnO HCl Mn O + CaCl(ClO

photolab 6x00 / 7x00 バーコードのない測定項目 バーコードのない測定項目 使用できる測定法 これらの測定項目の分析仕様は 付録 4 に記載されています ここでは 使用方法は カラム 5 の測定法番号を使用して手動で選択します 測定法の選択方法の説明は 光度計の機能説明の 測定法の

PowerPoint プレゼンテーション

(Microsoft Word -

本品約2g を精密に量り、試験液に水900mLを用い、溶出試験法第2法により、毎分50回転で試験を行う

<82BD82A294EC82C697CE94EC82CC B835796DA>

平成22年度事故情報収集調査結果について(概要速報)

すとき, モサプリドのピーク面積の相対標準偏差は 2.0% 以下である. * 表示量 溶出規格 規定時間 溶出率 10mg/g 45 分 70% 以上 * モサプリドクエン酸塩無水物として モサプリドクエン酸塩標準品 C 21 H 25 ClFN 3 O 3 C 6 H 8 O 7 :

Microsoft Word -

スライド 1

AYBTJ8_HY_01_P.indd

2004 年度センター化学 ⅠB p1 第 1 問問 1 a 水素結合 X HLY X,Y= F,O,N ( ) この形をもつ分子は 5 NH 3 である 1 5 b 昇華性の物質 ドライアイス CO 2, ヨウ素 I 2, ナフタレン 2 3 c 総電子数 = ( 原子番号 ) d CH 4 :6

基礎化学 Ⅰ 第 5 講原子量とモル数 第 5 講原子量とモル数 1 原子量 (1) 相対質量 まず, 大きさの復習から 原子 ピンポン玉 原子の直径は, 約 1 億分の 1cm ( 第 1 講 ) 原子とピンポン玉の関係は, ピンポン玉と地球の関係と同じくらいの大きさです 地球 では, 原子 1

スライド 1

2,3-ジメチルピラジンの食品添加物の指定に関する部会報告書(案)

練馬清掃工場 平成 29 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7

Microsoft Word - 50タイトル(3-Ⅶ).doc

中央清掃工場 平成 29 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 主灰 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) 汚水処理汚泥 ( 含有試験 ) 7

世田谷清掃工場 平成 27 年度環境測定結果 1 排ガス測定結果 1 (1) 煙突排ガス 1 (2) 煙道排ガス 2 2 排水測定結果 3 3 焼却灰等測定結果 5 (1) 不燃物 ( 含有 性状試験 ) 5 (2) 飛灰処理汚泥 ( 含有 溶出試験 ) 6 (3) スラグ ( ガス化溶融 )( 含

木村の化学重要問題集 01 解答編解説補充 H S H HS ( 第 1 電離平衡 ) HS H S ( 第 電離平衡 ) そこで溶液を中性または塩基性にすることにより, つまり [ H ] を小さくすることにより, 上の電離平衡を右に片寄らせ,[ S ] を大きくする 193. 陽イオン分析 配位

表紙.indd

<4D F736F F D208BC68A4582CC94AD8CF595AA8CF595AA90CD CC8C9F97CA90FC82F08BA492CA89BB82B782E982B182C682C982E682E92E646F63>

ポリソルベート 80


Transcription:

1. 土壌診断分析法の開発 (1) 東京農大式土壌診断システム の開発 東京農業大学土壌学研究室は 初代学長横井時敬先生の息子さんである横井利直先生により昭和 33 年 (1958 年 ) に創設された 横井先生は東京農大赴任前まで農林省振興局研究企画管理官として戦後の開拓事業の推進にかかわってきた そのため 土壌学研究室創設後も主な研究内容は全国各地の開拓予定地原野の土壌調査であった 筆者らが土壌学研究室に入室した昭和 46 年 (1971 年 ) にもその流れが続いていて 夏休みには土壌調査補助員として北海道や東北に駆り出された 毎日 竹藪をかき分けて 20 ヶ所くらいの試坑調査と土壌試料採取を行った そのような作業が 2 ~ 3 週間続くので 調査後には数百点の土壌分析作業が待っていた そのような状況であったため 筆者が土壌学研究室に入室する以前から分析の迅速化が検討され さまざまな工夫が組み込まれた土壌分析法として確立されていた その当時としては 最新 最速の分析法で 分析数も全国の大学ばかりでなく国公立の農業試験場などより断然多かった 筆者が東京農大に入学する以前には 全国各地の農業試験場の土壌担当者を集めて 土壌分析法の講習会が行われていたようである 土壌学研究室に入室後大学院修士課程を修了するまでは 春休みや夏休みにはそのような開拓予定地の調査と土壌分析を行っていた そのお陰で わが国の土壌がいかに痩せた不良土壌であるかを身を以て体験でき それがその後の土壌分析法の開発と全国各地の野菜生産地の土壌診断調査 さらには 全国土の会 の立ち上げにつながった 東京農業大学土壌学研究室のプロフィール 横井利直先生 蜷木翠先生 昭和 33 年 (1958) 東京農業大学農学部農芸化学科土壌学研究室 設立 研究室創設当初より一貫して 農業生産現場に密着した土壌肥料学 を実践 平成 10 年 学部改組により 応用生物科学部生物応用化学科生産環境化学研究室 学部名 学科名から 農 が消滅したが それまで以上に 農 へのこだわり! 昭和 50 年 (1975 年 )3 月に大学院修士課程を修了後は 3 年間無給副手として東京農大に在職し 昭和 53 年 (1978 年 )4 月に助手に採用された その後から開始した研究が土壌分析法の改良であった それまでは 土壌分析用機器としては ph と光電比色計による可給態リン酸の分析のみで 他はキレート滴定法などの容量分析法とその後の原子吸光分析 -1-

が主流であった 筆者が目をつけた分析機器が ICP 発光分光分析と FIA であった 何れも高価な機器であったが 幸運にも文部省などの補助金などで入手することができたので それらを用いて 土壌分析の迅速 精密化を図った そして 昭和から平成に変わる頃までに 東京農大式土壌診断システム を確立した その頃には 土壌調査 が 土壌診断調査 に変わっていた ちょうど 人の 身体検査 が 健康診断 に変わった時期と同じであった すなわち 土壌診断 とは 土の健康診断 ということになる 東京農大式土壌診断システム 試料採取 (5 ヶ所から採取 土壌スコップ ) 風乾処理 (35 通風乾燥 ) EC ph(h 2 O) 風乾土水分 (105 24 時間 ) 全炭素 全窒素 (NC コーダー ) 無機態窒素 (FIA) 可給態窒素 (FIA) 交換性,Mg,K,Na,Mn(ICP) 可給態 P 2 O 5 (FIA) CEC(FIA) 微粉砕 リン酸吸収係数 ( 正リン酸法 )(FIA) 可給態 B Fe Mn Zn Cu(ICP) 酸分解性無機成分 (ICP) 主成分分析 (SiO 2 TiO 2 Al 2 O 3 Fe 2 O 3 MnO MgO O Na 2 O K 2 O P 2 O 5 )(ICP) -2-

(2) 新東京農大式土壌診断システム の開発 1. はじめにわが国で土壌診断が始まってからすでに 40 年以上が経過しているにもかかわらず 2008 年の肥料価格高騰に伴い土壌診断が一躍注目を集めるようになった その背景には これまで全国で行われてきた土壌診断の在り方に問題があったといわざるを得ない 農業生産現場で行われてきたこれまでの土壌診断では 肥料や土壌改良資材の販売と絡むことが多いため 土壌養分の過剰が明らかになっても積極的な施肥削減が行われないケースも少なくなかった さらに そのような土壌診断では 分析が無料で行われることが多く 生産者自身が分析結果の価値を軽んじてきた傾向がある 本来 土壌診断の役割とは 1 適正な施肥管理による土壌生産性の向上と農業資材経費の抑制 2 土壌環境の保全による食の安心 安全および水域の富栄養化抑制 3リン酸 カリ資源の節約 延命化 でなければならない 筆者らは 1980 年代に ICP 発光分析装置や FIA 装置という その当時としては最新の化学分析装置を土壌診断分析に応用して 年間に数万点の分析も可能な 東京農大式土壌診断システム を開発し 全国各地の野菜生産地で土壌診断調査を行ってきた それらの現地調査を通じて 年季の入った野菜畑やハウスでは交換性カリウムや可給態リン酸の過剰が目立つにもかかわらず さらにそれらを助長するような過剰施肥が行われている実態を目の当たりにした そこで 平成元年に農家のための土と肥料の研究会 全国土の会 (URL : http://www.nodai.ac.jp/app/soil/) を立ち上げ 農家に土壌診断に基づいた施肥管理を啓発することにした 現在では 全国各地に 22 の支部が作られ 約 600 名の会員が登録している 会員からの要請による土壌診断分析では 東京農大式土壌診断システム で 18 項目の分析を行っているが 全てのデータを会員に提供するには最短でも1 週間程度 ( 一度に 100 点程度の土壌試料を分析する場合 ) を要する そのため 数年前より土壌診断分析の著しく精度を損なうことなく より迅速化を図るための研究を重ね この度 新東京農大式土壌診断システム を開発した 2. 年間十万点の分析も夢ではない 新東京農大式土壌診断システム 東京農大式土壌診断システム で使用している分析装置は 土壌肥料学分野の研究機関では日常的な分析手法として利用されているが 操作が煩雑でかつ高額なため一般の土壌診断室にはほとんど普及していない 土壌診断とは いわば土の健康診断であり 人の健康診断と同じようなものだ 人の健康診断のための臨床分析では血液や血清 尿中の多種類の成分を迅速に測定するために自動化学分析装置という機器 ( 写真 1) が用いられている 人の健康診断に使われている分析装置が土の健康診断に使えないはずはなかろうと検討した結果 一台の装置で土壌診断分析に必要な項目の中で微量要素を除く全ての測定が可能で 測定スピードは一時間当たり 240 点に達することがわかった 驚くべき速さだ このような装置を現状の土壌診断室に導入し 従来の方法で土壌から抽出した養分の測定に用いれば それだけでもかなりスピードアップできる -3-

写真 1 自動化学分析装置 ( 高速土壌養分自動分析装置 SNA-24i) 従来法 新法 ( マルチ抽出法 ) しかし それだけではこの装置の性能を充 P NH 4 N Mg K CEC B 分に活かすことにはな P NH 4 N + + + + + らない 従来の土壌分 K + SO 4 Al 析では土壌中の養分を Mg さまざまな溶液で抽出 抽出 し それを分析装置で ろ過抽出抽出抽出抽出抽出測定することが基本とろ過ろ過ろ過ろ過ろ過なっている 現状では 養分毎に抽出溶液が違 B P NH 4 N NH 4 N P Mg K CEC ろ液うため 同じような抽 K SO Al 4 Mg 出操作を繰り返さなけ 複数の分析装置図 1 従来法と新法による土壌養分抽出法の相違 ろ液ればならない そこで 一つの抽出液で全ての養分を抽出 ( マルチ抽出 図 1) し 自動化学分析装置にかければ飛躍的な迅速化が図れる そのための試薬として 安価で無 害 使用後も下水に流せるというコンセプトで塩化ナトリウム ( 食塩 ) を選んだ 具体的に は 土壌中の養分を 5.8 % 塩化ナトリウム溶液で抽出し 懸濁状態で ph を測定する 活 -4-

性炭で処理したろ液を自動化学分析装置 ( 写真 1) にセットして 窒素 ( 硝酸 アンモニア ) リン酸 カリ 石灰 苦土 アルミニウム 硫酸の8 成分を分析する 陽イオン交換容量 (CEC) と電気伝導率 (EC) については 8 成分の測定値から統計的に推定する この 新東京農大式土壌診断システム に大規模な土壌診断室ですでに使われている土壌養分抽出ロボットを導入すれば ひとつの土壌診断室で年間十万点の分析も夢ではない ただし いくつかの課題も残されている 従来の 東京農大式土壌診断システム に比べて著しく迅速化される替わりに分析精度が低下する ただし 農業生産現場でのデータ活用に支障をきたすことはない また 新システムは土壌養分が多い園芸土壌には最適であるが 水田や牧草地のような養分の少ない土壌には適さない 最大の課題は 新システムにより得られた測定値が従来値とは異なることだ そのため 新しい診断基準値の設定が必要となるが 両者には高い相関性があるので 回帰式を用いて従来法の値に読み替えることもできる 3. 北の国から 始まった 新東京農大式土壌診断システム 2006 年の農水省の調査によると 全国に 904 ヶ所ある土壌診断室で分析されている土壌試料数は年間およそ 50 万点で 全農耕地を対象とすると 9.8ha 野菜ハウスだけでも 2.3ha に一ヶ所の割合でしか土壌診断が行われていない 土壌診断本来の目的を果たすためには 土壌診断分析法そのものから チェンジ することが不可欠だ 新東京農大式土壌診断システム をその先駆けとしたい 全国土の会 では 本年 4 月より新システムへの切り替えを行った その準備段階として 富良野市にある ふらの土の会 の土壌診断調査では 2008 年より従来法と新システムの両法により分析を行い 両者を比較しているが 図 2のようにほぼ一致する 新東京農大式土壌診断システム は 北の国から 始まった 旧システム 新システム * 土壌試料は 北海道富良野市山部のメロンハウスの作土 新システム * では 新システムによる分析値を 回帰式により読み替えて作図した 土壌診断図の上下限値は 地力増進法の普通畑改善目標値に準拠して設定 図 2 新 旧東京農大式土壌診断システムで分析した結果を示す土壌診断図 -5-

新東京農大式土壌診断システムのフロー 精密土壌診断分析法 土壌採取風乾処理 (35 通風乾燥 ) 風乾土水分 (105 24 時間 ): 実用分析では省略 1M/L 塩化ナトリウムによる多量要素マルチ抽出 ph(nacl):ph(h 2 O) の推定 自動化学分析装置 : 2+ Mg 2+ K + Al 3+ NH 4+ NO 3- PO 3-4 SO 2-4 電気伝導率 (EC):pH(NaCl) 陰イオン3 成分分析値から推定 CEC: 多量要素 8 成分分析値から推定 簡易リアルタイム土壌診断分析法 農大式簡易土壌診断キット みどりくん 高速土壌養分自動分析装置 SNA-24i については http://www.fujihira.co.jp/seihin/soi/sna24i.html 農大式土壌診断キット みどりくん については http://fujiwara-sc.co.jp/pg132.html https://www.youtube.com/watch?v=2gbcuhznsxe 土壌診断スコップ については こちら http://www.zenpi.jp/gyokai/ronten03_03.html -6-