2012.10 CareNet Continuing Medical Education 非専門医のための 早わかり認知症講座 Dementia 2 監修筑波大学医学医療系臨床医学域精神医学教授朝田隆先生
1. 認知症の概要 診断 目次 2. アルツハイマー病 3. 介護者へのアドバイス 4. 認知症診療における地域連携 1
アルツハイマー病の特徴は? 2
アルツハイマー病の特徴 発症 進行 潜行性に発症し 緩徐に進行 近時記憶障害 ( 情報入力後 3~4 分保持できない ) が特徴的 特に記憶課題の遅延再生が 健常者や他の認知症疾患との鑑別にも有用 認知機能障害 進行に伴い見当識障害や頭頂葉症状 ( 視空間認知障害 構成障害 ) が加わる 初老期発症のアルツハイマー病では 失語症状や視空間認知障害 視覚構成障害などの記憶以外の認知機能障害が前景に立つことも多い 精神症状 病識の低下 うつ症状やアパシーなどの精神症状 場合わせや取り繕い反応といった特徴的な対人行動がみられる 比較的初期から 物盗られ妄想が認められる場合がある 局所神経症候 病初期から著明な局所神経症候 ( 錐体外路症状やミオクローヌス 痙攣発作など ) を認めることは少ない 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012. p.126. より作表 3
アルツハイマー病の 診断のポイントは? 4
アルツハイマー病の診断のポイント 初期アルツハイマー病の場合 記憶障害の特徴を捉えることが 正常老化によるもの忘れ うつ病 せん妄との鑑別に重要 正常老化によるもの忘れ 十分な自覚あり しばしば単独で受診 うつ病 大げさにもの忘れを訴えることが多い 老年期うつ病では 身体愁訴が前景に立ち うつ気分が目立たない場合あり 注意 集中力低下により スクリーニングテストで初期のアルツハイマー病と同程度の成績を示す せん妄 記憶障害などの認知障害が認められても それが変動し 意識の変容 幻視が存在 アルツハイマー病の臨床的確診には 記憶障害以外に 失語 失行 失認 遂行機能障害といった認知機能障害が 1 つ以上必要 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ; 2012. p.128. より作表 5
正常老化によるもの忘れとアルツハイマー病の鑑別 正常老化によるもの忘れの特徴 何年経っても もの忘れ ( 記憶障害 ) が進行しない もの忘れ ( 記憶障害 ) によって日常生活に重大な支障を来さない 行動障害 ( 迷子や徘徊 暴力行為など ) がみられない 場所に対する認識が保たれる ( 自分の現在の状況を理解している ) 人格は保たれている 川畑信也. 患者 家族からの質問に答えるための認知症診療 Q&A. 日本医事新報社 ; 2007. p42. 6
うつ状態とアルツハイマー病の鑑別 うつ状態 ( 仮性認知症 ) アルツハイマー病 発症発症の日時はある程度明確発症は緩徐なことが多い 経過 発症後 症状は急速に進行し 日内 日差変動を認める 経過は一般に緩徐で 変動が少ないことが多く 一般に進行性 持続 数時間 ~ 数週間 永続的 もの忘れの訴え 強調する 自覚がないこともある 自己評価 自分の能力低下を嘆く 自分の能力低下を隠す 言語理解 会話 困難でない 困難である 答え方 症状の内容 質問に わからない と答える 最近の記憶も昔の記憶も同様に障害 誤った答え 作話やつじつまを合わせようとする 昔の記憶より最近の記憶の障害が目立つ 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012.p.7. より引用 一部改変 7
せん妄とアルツハイマー病の鑑別の要点 せん妄 アルツハイマー病 発症急激緩徐 初発症状 錯覚 幻覚 妄想 興奮記憶力低下 日内変動夜間や夕刻に悪化変化に乏しい 持続数日 ~ 数週間永続的 身体疾患 合併していることが多い時にあり 薬剤の関与しばしばありなし 環境の関与関与することが多いなし 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012. p.7. 8
重症度の区別は? 9
認知症の重症度さまざまな症状を呈するため区別は難しい 軽度 認知機能低下を原因として 基本的日常生活動作は自立しているが 社会的 手段的日常生活動作には支障があるもの 中等度 認知機能低下を原因として 基本的日常生活動作に障害があり 日常生活を行ううえである程度の介護が必要な状態 重度 ほとんどの機能が失われ 常時介護を要する 嚥下障害や呼吸器感染症を来すことが多い 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012. p.118,121. 10
アルツハイマー病の病期分類 (FAST) FAST stage 臨床診断 FASTにおける特徴 1. 認知機能の障害なし 正常 主観的および客観的機能低下は認められない 2. 非常に軽度の認知機能低下 年齢相応 物の置き忘れを訴える 喚語困難 3. 軽度の認知機能低下境界状態 4. 中等度の認知機能低下軽度の AD 5. やや高度の認知機能低下中等度の AD 熟練を要する仕事の場面では機能低下が同僚によって認められる 新しい場に旅行することは困難 夕食に客を招く段取りをつけたり 家計を管理したり 買い物をしたりする程度の仕事でも支障を来す 介助なしでは適切な洋服を選んで着ることができない 入浴させるときにもなんとかなだめすかして説得することが必要なこともある a) 不適切な着衣 b) 入浴に介助を要する 入浴を嫌がる 6. 高度の認知機能低下やや高度の AD 7. 非常に高度の認知機能低下高度の AD c) トイレの水を流せなくなる d) 尿失禁 e) 便失禁 a) 最大限約 6 語に限定された言語機能の低下 b) 理解しうる語彙はただ1つの単語となる c) 歩行能力の喪失 d) 着座能力の喪失 e) 笑う能力の喪失 f) 昏迷および昏睡 Reisberg B, et al. Ann NY Acad Sci.1984;435:481-483. 11
認知症状が現れるまでの過程は? 12
アルツハイマー病の進行過程 β アミロイド沈着 タウ介在神経障害 認知機能障害 臨床症状発現 バイオマーカー異常 タウ介在神経障害 ( 脳脊髄液 ) シナプス機能障害 (FDG-PET fmri) β アミロイド沈着 ( アミロイドイメージング [PiB-PET] 脳脊髄液 ) 脳萎縮 (3D MRI) 認知機能 臨床症状 正常 preclinical 軽度認知 認知症 障害 clinical disease stage Jack CR Jr, et al. Lancet Neurol. 2010;9:119-128. より引用 一部改変 13
軽度認知障害 (MCI) とは? 14
軽度認知障害 (MCI) の診断基準 主観的なもの忘れの訴えがある 年齢に比して明らかな記憶障害 記憶以外の認知機能は正常 日常生活には支障を来していない 認知症の診断基準は満たさない Petersen RC, et al. Arch Neurol. 1999;56:303-308. 15
アルツハイマー病の 認知機能障害に対する 薬物療法は? 16
アルツハイマー病の認知機能障害に対する治療薬 一般名ドネペジルガランタミンリバスチグミンメマンチン 商品名アリセプトレミニール イクセロン / リバスタッチ メマリー 発売年月 1999 年 11 月 2011 年 3 月 2011 年 7 月 2011 年 6 月 作用機序 アセチルコリンエステラーゼ阻害 アセチルコリンエステラーゼ阻害およびニコチン性受容体増強作用 アセチルコリンエステラーゼ阻害およびブチリルコリンエステラーゼ阻害 NMDA 受容体阻害作用 適応軽度 ~ 高度軽度 ~ 中等度軽度 ~ 中等度中等度 ~ 高度 剤型 錠剤口腔内崩壊錠細粒剤経口ゼリー剤 錠剤口腔内崩壊錠経口液剤 パッチ剤 錠剤 1 日投与回数 1 回 2 回 1 回 1 回 1 日用量 開始 3mg 1~2 週後 5mg 高度 10mg まで可 開始 8mg 4 週間後 16mg 最大 24mg まで可 開始 4.5mg 4 週ごとに 4.5mg 増量維持量 18mg 開始 5mg 1 週ごと 5mg 増量維持量 20mg 各製品添付文書より 17
中等度へ病期別の治療薬剤の選択アルゴリズム 1 軽度 コリンエステラーゼ阻害薬を 1 つ選択 効果なし ~ 不十分 / 副作用 他のコリンエステラーゼ阻害薬を選択 その後進行していった場合 その後進行していった場合 効果なし / 副作用投与中止 * その後進行していった場合 コリンエステラーゼ阻害薬 : ドネペジル ガランタミン リバスチグミン * 効果なしの場合の投薬中止は慎重に検討すること 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012. p.139. 18
病期別の治療薬剤の選択アルゴリズム 2 中等度 コリンエステラーゼ阻害薬を 1 つあるいはメマンチンを選択 効果なし ~ 不十分 / 副作用 他のコリンエステラーゼ阻害薬あるいはメマンチンに変更 併用していなければコリンエステラーゼ阻害薬の1つとメマンチンの併用 いずれも効果なし / 副作用投与中止 * その後進行していった場合 その後進行していった場合 その後進行していった場合 重度へコリンエステラーゼ阻害薬 : ドネペジル ガランタミン リバスチグミン * 効果なしの場合の投薬中止は慎重に検討すること 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012. p.139. 19
病期別の治療薬剤の選択アルゴリズム 3 重度 ドネペジルあるいはメマンチンを選択 ドネペジル 5mg/ 日の場合 10mg/ 日に増量 併用していなければドネペジルとメマンチンの併用 効果なし / 副作用投与中止 * * 効果なしの場合の投薬中止は慎重に検討すること 日本神経学会監修. 認知症疾患治療ガイドライン 2010 コンパクト版 2012. 医学書院 ;2012. p.139. 20
アルツハイマー病の薬物療法は いつ開始すべき? 21
薬物治療開始のタイミング 早期に治療を開始したほうが 認知機能が高く維持されたという報告があり 早期に開始することが望ましい MMSEスコアの投与開始時との得点差改善 2 1 0-1 悪化 -2-3 -4-5 -6-7 早期投与開始群 [ ドネペジル ドネペジル ] ** * *** 投与開始遅延群 [ プラセボ ドネペジル ] 期間全体 p=0.004-8 二重盲検比較試験オープンラベル試験 -9 0 24 52 78 104 130 156 ( 週 ) 試験期間対象 : 軽度 中等度アルツハイマー型認知症 286 例方法 : ドネペジル早期投与開始群 142 例と投与開始遅延群 (1 年後投与開始 )144 例で認知機能を検討 Winblad B, et al. Dement Geriatr Cogn Disord. 2006; 21:353-363. L.S.Mean±S.E. *:p<0.05 **:p<0.01 ***:p<0.001 群間比較 * 22
アルツハイマー病は 予防できるのか? 23
アルツハイマー病の防御因子と促進因子 防御因子 知的活動 運動 食事 アルコール NSAIDs 降圧薬 教育 加齢 遺伝的要因 社会経済的要因 高血圧 血管因子ライフスタイルうつ病 頭部外傷職業的暴露 促進因子 年齢 24
次回は 介護者 ( 家族 ) への アドバイス 25