背景 オフィスや家庭での無線 LAN 利用に加えて スマートフォンの普及に伴い空港 駅や競技場 イベント会場におけるモバイルデータ オフロードが増えています さらに モノがインターネットにつながる IoT *2 (Internet of Things) などの進展によって 無線 LAN の通信量 (

Similar documents
資料2-3 要求条件案.doc

Microsoft Word - 【プレス】 _ミツウロコ・京セラ・NEC_IoT協業_Final-2.docx

Microsoft PowerPoint - PM4 安川_無線の基礎及びISA100.11a技術の特徴g.pptx

<4D F736F F F696E74202D2091E FCD91BD8F6489BB82C691BD8F E835A83582E >

Microsoft PowerPoint - acr_rod_ b.ppt [互換モード]

出岡雅也 旭健作 鈴木秀和 渡邊晃 名城大学理工学部

無線LAN/Wi-Fiの通信技術とモジュール活用

マルチベンダー間での100 ギガビットイーサネット相互接続実験に成功

<4D F736F F F696E74202D208EFC A6D95DB939982C98AD682B782E988D38CA98F9182CC8E518D6C8E9197BF5F E707074>

Microsoft PowerPoint - 資料3-1_技術試験(案).ppt

資料 通信放送以外のアプリケーションも想定した電波資源の活用と産業育成 2018 年 2 月 16 日 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 浅見徹 2018/2/16 電波有効利用成長戦略懇談会 親会

「フレッツ・テレビ」及び「スカパー!プレミアムサービス光」の商用ネットワークを用いた4K映像伝送の成功について

Microsoft Word - H5-611 送信タイミング等.doc

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 02__⁄T_ŒÚ”�.doc

ネットワーク高速化装置「日立WANアクセラレータ」のラインアップを強化し、国内外の小規模拠点向けに「オフィスモデル」を新たに追加

資料1-2 5GHz帯無線LANの周波数拡張に係る技術的条件の検討開始

802.11ac技術の機器組込み時に理解しておきたいこと

各種の固定電話回線で無鳴動 双方向接続を提供する LifeLink 集中監視システム 株式会社関西コムネット代表取締役社長中沼忠司目次 1. はじめに 2.LifeLink 集中監視システム 3. 無鳴動 双方向接続を可能とする4 通りの方式 4. 既設の T-NCU 集中監視システムを 継続して活

2014 年電子情報通信学会総合大会ネットワークシステム B DNS ラウンドロビンと OpenFlow スイッチを用いた省電力法 Electric Power Reduc8on by DNS round- robin with OpenFlow switches 池田賢斗, 後藤滋樹

Press Release 報道関係各位 2019 年 6 月 11 日 IoT の導入から運用まで必要な機能をパッケージ化した amnimo sense beta( アムニモセンスベータ ) を 6 月 11 日 ( 火 ) からサービス提供開始 アムニモ株式会社 ( 本社 : 東京都武蔵野市代表

帯電話加入数携帯電話加入者数の推移 年 9 月末現在加入数 ( 人口普及率 ) 携帯電話: 約 13,930 万加入 (108.8%) 第 3 世代携帯電話 (3G): 約 10,730 万加入 (83.8%) 3.9 世代携帯電話 (LTE): 約 3,200 万加入 (25.0%)

自律的無線ネットワークによる被災情報提供システム ~避難所間ネットワーク構築技術~

920MHz 帯 RFID の屋外利用等に関する技術的条件 調査検討報告書概要 2017 年 10 月 19 日 電気興業株式会社

センターでは,WAP からの位置情報を受信し, WAP が適切に設置されたかどうかを確認する 提案システムのシーケンス概要 図 2 に提案システムのシーケンスを示す. 携帯端末は,WAP から無線 LAN の電波を受信すると, DHCP サーバに対して IP アドレスを要求する. この要

メッシュ型無線解説 メッシュ型無線解説 to LAN 基地局 バックホール用 :.11j 中継局 バックホール用 :.11j 中継局 バックホール用 :.11j ネットワーク機器 制御データ アクセスポイント用 :.11b/g アクセスポイント用 :.11b/g 映像 / 音声等 無線 LAN 内蔵

資料 2-1 VHF 帯での利用を計画する 具体的システムの提案について 平成 30 年 12 月 21 日 ( 株 )NTT ドコモ 2018 NTT DOCOMO, INC. All Rights Reserved.

CONTENTS 1. 放送 と モバイル の違い 2. モバイルデータトラヒックの現状と推移予測 3. スマホによる動画視聴の現状 4. トラヒック急増への対応状況 5. 5G で目指す世界 6. モバイルによる4K/8K 動画同時配信の実現性 7. 5G における4K/8K 動画サービスのイメー

報道資料

Microsoft PowerPoint - ⑥説明者(太刀川).ppt

電波に関する問題意識(原座長提出資料)

内容 1.10 年後のワイヤレスブロードバンドの姿 2. 新たな無線通信システム導入のための電波有効利用技術の研究開発の方向性 3. 今後取り組むべき研究開発 ( 例 ) 4. まとめ 2

電波法関係審査基準 ( 平成 13 年 1 月 6 日総務省訓令第 67 号 ) の一部を改正する訓令案新旧対照表 ( 下線部は変更箇所を示す ) 改正案 現行 別紙 2 ( 第 5 条関係 ) 無線局の目的別審査基準 別紙 2 ( 第 5 条関係 ) 無線局の目的別審査基準 第 1 ( 略 ) 第


平成19年度・地球工学研究所の知的財産に関する報告会 - 資料集

エリクソンの5Gに対する展望と取り組み

外出先でもインターネット環境があればデジタルノード局の運用ができる WIRES-X ポータブルデジタルノード機能 ポータブルデジタルノード機能によって 旅行先の宿泊施設 空港 車両 Wi-Fi アクセスポイントなどからワイヤーズエックスのノード局やルームへの接続が可能となり 従来の HRI-200

<4D F736F F D A91D196B390FC4C414E82CC8EFC CF8D5882C98AD682B782E9834B E63494C52E646F63>

技術協会STD紹介

DVIOUT-ma


電波利用料技術試験事務に関する評価検討会議事次第

目次 NETGEAR WiFi Analytics を使用した WiFi 環境の調査方法... 1 NETGEAR WiFi Analytics を使用した WiFi 環境の調査方法... 3 Windows... 4 事前準備... 4 NETGEAR Genie のインストール... 4 NET

無線 LAN について 1 無線 LAN について 無線を使って構築されるLAN IEEE( 米国電気電子学会 )802 委員会のIEEE802.11グループで標準化されたものが無線 LA Nとして広く使用されている 無線 LAN 技術の推進団体であるWi-Fi Allianceによって相互接続性の

発表の流れ 1. 研究の背景と目的 2. 相互接続の概観 3. ワームホールデバイスの動作の概要 4. 実験 性能評価 5. まとめ DICOMO2007 2

< 目次 > 1 LTE-Advanced の高度化について 2 5G に向けた取組状況について 3 < 参考 >5G(28GHz 帯 ) の共用検討について

150MHz 帯デジタルデータ通信設備のキャリアセンスの技術的条件 ( 案 ) 資料 - 作 4-4

<4D F736F F F696E74202D F B8817A93648AC E096BE8E9197BF E >

多様なサービスの創出を支えるワイヤレスアクセス技術

報道関係各位 2018 年 6 月 13 日 NEC マグナスコミュニケーションズ株式会社 次世代の高速通信規格 G.fast に対応した集合住宅向け VDSL 装置 VC1602G/VF500G 発売 NEC マグナスコミュニケーションズ ( 本社 : 東京都港区 代表取締役社長 : 山内俊史以下

航空無線航行システム (DME) 干渉検討イメージ DME:Distance Measuring Equipment( 距離測定装置 ) 960MHz から 1,215MHz までの周波数の電波を使用し 航空機において 当該航空機から地表の定点までの見通し距離を測定するための設備 SSR:Secon

更新履歴 日付 Ver. 変更内容 作成者 備考 2012/10/ 初版作成 河野 2016/09/ TSND151,AMP-151 対応 足立 i

開発の背景 2020 年の東京オリンピック パラリンピックに向け 第 5 世代移動通信システム (5G) の実用化を目指した研究開発が活発化している この背景には スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い 高精細動画サービスなどによるデータ通信量が急激に増大していることや IoT( モノのインター

資料 5-4 APT 無線通信フォーラム (AWF) における 700MHz 帯の利用に関する検討状況 総務省

報道関係者各位

他無線システムとの干渉検討とラボ内試験の実施方法について

平成25年度電波の利用状況調査の評価について

Mobile Techno Corp.

Microsoft Word - r0703.doc

801ZT オンラインマニュアル

CONTENTS 1. 5G が目指す世界 2. 5G サービス提供のイメージ 3. ( 想定 ) 5G 導入シナリオ 4. 5G 早期実現に向けた NTT ドコモの取り組み状況 5. 5G 早期実現と発展に向けた課題認識 1

2004年度情報科学科卒論アブスト テンプレート

ic3_lo_p29-58_0109.indd

4. 簡易 NAS としての利用を可能とする USB ポート 搭載 AtermWR8700N(HP モデル ) の背面に搭載した USB ポートに USB ハードディスクや USB メモリを接続して簡易 NAS(Network Attached Storage) として利用が可能 映像や音楽などのデ

No43 テレビ放送電波はどんな形?(その1・概説)

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

背景 スマートフォンやタブレットとインターネットの普及により いつでも どこでも 高速のインターネット環境を利用したいという社会ニーズが顕在化し 高速走行する列車と地上間の高速通信環境の実現に向けた研究開発が各所で実施されています 最近では旅客サービス以外にも 走行車両内の防犯カメラ映像や営業車によ

Microsoft PowerPoint - ①無線通信システム概要12

コンテンツセントリックネットワーク技術を用いた ストリームデータ配信システムの設計と実装

大規模災害時における、DNSサービスの継続性確保のために

クラウド基盤向けに処理性能や拡張性を強化した「HA8000シリーズ」の2プロセッサーサーバを販売開始

取組みの背景 これまでの流れ 平成 27 年 6 月 日本再興戦略 改訂 2015 の閣議決定 ( 訪日外国人からの 日本の Wi-Fi サービスは使い難い との声を受け ) 戦略市場創造プラン における新たに講ずべき具体的施策として 事業者の垣根を越えた認証手続きの簡素化 が盛り込まれる 平成 2


図 : StarBoard Student Tablet Software の利用イメージ StarBoard Student Tablet Software Ver. 2.0 の主な特長 1. StarBoard Software との連携の強化 StarBoard Software と Star

Microsoft Word - STD-T93−TŠv.doc

地局装置を介して位置情報管理サーバに伝えられ 位置情報として地図上に表示することができます 利用イメージを図 2 に示します 図 2 業務用無線システムの利用イメージ 3. 中継無線システムの開発 (1) 開発の背景中継伝送路を救済する既存の災害対策用無線システムでは 156 Mbit/s または

街角情報ステーション

大規模データの匿名加工処理を高速化する技術を開発

ITS 安全運転支援システムイメージ

に個人 企業情報が残っているか否かの調査等を行うこととし 今回は 中古乗用車に実 装されていた HDD ナビゲーション装置 を評価しましたので その結果をご報告申し上げ ます (1) 個人 企業情報の消去 破壊を前提としたリユース ( リペアメントを含む ) リサイクルの推進を目指すガイドラインの策

平成 29 年 4 月 12 日サイバーセキュリティタスクフォース IoT セキュリティ対策に関する提言 あらゆるものがインターネット等のネットワークに接続される IoT/AI 時代が到来し それらに対するサイバーセキュリティの確保は 安心安全な国民生活や 社会経済活動確保の観点から極めて重要な課題

15群(○○○)-8編

報道資料

PowerPoint プレゼンテーション

5GHz 作 15-4 DFS 試験時の通信負荷条件定義について 2019 年 3 月 1 日 NTT 東芝 クアルコムジャパン 1

3. 測定方法 測定系統図 測定風景写真

電波型式を決める規則 電波型式は アルファベット 数字 ( 例外もあります ) アルファベット の 3 文字で構成され それぞれの 文字の意味は 次の表のとおりです 第 1 文字第 2 文字第 3 文字 主搬送波の変調の型式主搬送波を変調する信号の性質伝送情報の型式 無変調 N 変調信号無し 0 無

本研究では以下の機材を用いて実験を行った 無線 LAN アクセスポイント Buffalo 社製 WAPM-APG600H Allied Telesis 社製 AT-TQ4400 Allied Telesis 社製 AT-TQ3200 無線 LAN コントローラ Allied Telesis 社製 A

スライド 1

2011-R 年 1 月 19 日 クラウド時代に対応した企業向け新ネットワークサービス Universal One の提供開始について ~ 高品質 高信頼ネットワークを国内外シームレスに展開 ~ NTT コミュニケーションズ ( 略称 :NTT Com) は クラウド利用に最適化し

報道関係者各位 プレスリリース 2019 年 01 月 15 日 株式会社ネオジャパン グループウェア desknet's NEO バージョン 5.2 を 1 月 15 日に提供開始 ~ 業務アプリ作成ツール AppSuite との連携を強化 他にも AppSuite 連携 API 公開など多数の機

Presentation Title Arial 28pt Bold Agilent Blue

報道関係各位 2018 年 5 月 8 日 株式会社ミツウロコクリエイティブソリューションズ 日本電気株式会社 LP ガスの配送業務効率化に向けた 国内初の大規模実証を名古屋で開始 株式会社ミツウロコクリエイティブソリューションズ ( 注 1 以下ミツウロコ CS) 日本電気株式会社 ( 注 2 以

資料 3 第 4 世代移動通信システムに関する 公開ヒアリング資料 2014 年 1 月 23 日 Copyright 2014 eaccess Ltd. All rights reserved

ワイヤレス_print

もくじ axの 的と展開領域 標準化スケジュール 先 市場の ち上がり 主要技術 規定 スループット改善効果 ( 例 ) ax 導 に関連する電波法規則 2

(1000 字を超える長文のため 以下に主な意見趣旨を抜粋 ) 150MHz 帯生体検知通報システムについて 山岳救助用を含めて 142.5~ MHz と ~146.99MHz としたらどうか 登山者検知通報システムについては時間的なチャネル共用が可能のため 当該システムにお

SAPジャパン、日立、ESRIジャパンが、社会インフラに関する将来予測を可能にするビッグデータ利活用システム基盤の開発・検証を実施

2 研究開発項目 高信頼リモート管理技術の研究開発 (1) リモート管理プロトコルポータル リモート管理マネージャプロトコル仕様書の作成 およびエージェント向けリモート管理マネージャ API 仕様書の作成を行った (2) リモート管理マネージャ技術リモート管理マネージャ通信基盤基本設計書の作成とリモ

Transcription:

プレスリリース 報道関係各位 2018 年 3 月 29 日 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 株式会社モバイルテクノ 複数周波数帯の無線チャネルを用いて同時伝送を行う無線 LAN 技術の有効性を基礎実験により確認 ~ より高速で安定な無線 LAN 通信の実現を目指して ~ 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 ( 本社 : 京都府相楽郡精華町 ( けいはんな学研都市 ) 代表取締役社長: 浅見徹 略称 :ATR) と株式会社モバイルテクノ ( 本社 : 神奈川県横浜市西区みなとみらい 社長 : 長谷川淳一 ) は 限りある周波数資源を万遍なく密に使用し これまでよりも多くのデータの伝送を可能にする新たな無線 LAN 技術の有効性を基礎実験で確認しました 今回開発を進めている技術では 無線 LAN が使用する免許不要周波数帯で空き状態になっている複数の無線チャネルを見つけ それらを同時に利用してデータ伝送を行います これにより 人の多い場所など これまで無線 LAN の速度低下が発生していた場所でも より高速で安定した通信を行うことが可能になります 今後 早期の実用化を目指して研究開発を推進し 様々な環境での検証評価により技術の完成度を高めていきます また IEEE 802.11 *1 無線 LAN 国際標準規格への反映を図るため 標準化活動も併せて進めていきます 図 -1 周波数資源を万遍なく密に使用することによる周波数利用効率の向上 1

背景 オフィスや家庭での無線 LAN 利用に加えて スマートフォンの普及に伴い空港 駅や競技場 イベント会場におけるモバイルデータ オフロードが増えています さらに モノがインターネットにつながる IoT *2 (Internet of Things) などの進展によって 無線 LAN の通信量 ( トラヒック ) は増加の一途を辿っています 既存の無線 LAN は 基本的に一つの無線チャネルを使用して無線通信を行います 無線 LAN が通信に使用する周波数帯は免許不要で利用可能であり 様々な無線機器等で共用して使用しているため いつどのタイミングで無線チャネルが使用されるかを事前に把握することができません そのため 無線 LAN がデータの送信を行う場合には 通信に使用する無線チャネルの状態を確認し 空き状態であることが確認できた場合にだけ送信を行う仕組みが採用されています 無線機器の数が増えてトラヒックが増加すると 空き状態となる時間が短くなり 無線機器の間でデータ送信の権利を得るために競い合う状態となります このような場合 各無線機器は自身が送信したいタイミングでは送信することができず 送信までの遅延時間が大きくなるなどしてスループットが低下し 十分な通信品質が得られなくなる問題が発生します そのため 良好な通信品質を保ちつつ今後も増え続ける無線 LAN トラヒックを収容するために 限りある周波数資源をより効率良く利用可能な無線 LAN 技術が強く望まれていました 研究内容 人の多い場所などであっても 周波数帯やその中での無線チャネルの使用状況に少なからず偏りがあります 今回有効性を確認した無線 LAN 技術では そのことに着目し 複数の周波数帯の無線チャネルを柔軟に利用して複数同時伝送を行うことで 通信に使用せずに空き状態のまま未使用になってしまう周波数資源を極力少なくする点が大きな特長です 具体的には 無線 LAN が使用する複数の周波数帯の無線チャネルの空き状況をリアルタイムに把握し 空き状態の無線チャネルを見つけて複数同時に利用してデータ伝送を行います これにより 有限な周波数資源を万遍なく密に使用し これまでよりも多くのデータの伝送を可能にして通信品質の低下を抑制し 高速で安定な通信を実現します 今回開発した無線 LAN 技術では 複数の免許不要周波数帯 (2.4 GHz 帯 5 GHz 帯 920 MHz 帯等 ) に散在する空き状態の無線チャネルをリアルタイムに検出し それらを複数使用して同時伝送を行います 本技術による複数周波数帯の無線チャネルを用いた同時伝送のイメージを図 -2 に示します 図 -2 複数周波数帯の無線チャネルを用いた同時伝送 2

一般に 周波数帯が異なる場合には無線信号の伝搬特性が異なるため データを送信する際の適切な伝送速度が周波数帯間で変わってきます そのため 送信側では 各周波数帯の無線チャネルの伝送速度を考慮し 送信に要する時間が同一になるように送信データを適切に分割してタイミングを合わせて同時に送信します 受信側では 異なる周波数帯で送信された無線信号を同時に受信して統合し データを結合します 今回は この同時伝送技術の効果を高めるためのキー技術である 1 無線チャネルの空き状況予測に基づく無線アクセス制御技術 2 周波数ダイバーシチ効果を活用した誤り制御技術の二つの技術について有効性を基礎実験で確認しました なお 1については株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 2については株式会社モバイルテクノが技術検討と実験を担当しました 1 無線チャネルの空き状況予測に基づく無線アクセス制御技術複数周波数帯の無線チャネルを用いて同時伝送を行う場合 データを送信する際に複数の無線チャネルが同時に空き状態になっている必要があります ところが どの無線チャネルも混んでいて空き状態の時間がそれほど多くない場合には 送信しようとしたときに同時に複数の無線チャネルが空き状態になっていない確率が高くなり 同時伝送できる機会が少なくなるため 本技術の適用効果が小さくなってしまいます 前述のように 免許不要周波数帯では いつどのタイミングで無線チャネルが使用されるかを事前に正確に把握することはできません これに対し 無線チャネルの過去の利用状況に基づいて近い将来における利用タイミングを高い精度で予測することができれば 例えば 図 -3 に示すように 送信しようとしたときに1つの無線チャネルしか空き状態でなかったとしても もう少しだけ待てばもう 1 つ ( あるいは 2 つ ) の無線チャネルが空き状態になることが予測された場合 少し待って 2 つ ( あるいは 3 つ ) の無線チャネルで同時伝送を行うようなことが可能になり このような無線チャネルの空き状況予測に基づく無線アクセス制御を行うことにより 同時伝送による効果を向上させることができます 図 -3 無線チャネルの空き状況予測に基づく無線アクセス制御 この無線チャネルの空き状況予測に基づく無線アクセス制御の有効性を検証するため 電 波暗室内で 2.4 GHz 帯と 5 GHz 帯の 2 つの周波数帯を用いて試作機による基礎実験を行いま 3

した ( 図 -4) この基礎実験では 事前に取得した無線 LAN トラヒックデータを用いて空き継続時間の確率分布をオフラインで算出しておき 当該無線 LAN トラヒックを再生して干渉トラヒックを発生させた環境下で 予め算出しておいた確率分布の情報を利用して簡易な無線アクセス制御を行ってスループットの向上度合いを評価しました その結果 空き状況予測を行わずに無線アクセス制御を行った場合には 1つの無線チャネルのみを使用する既存の無線 LAN 装置よりも約 2.2 倍のスループット向上効果が得られ さらに上述の簡易な空き状況予測を行った場合には 既存装置に対するスループット向上効果が約 2.5 倍にまで高まることが確認できました ( 図 -5) 図 -4 試作機による電波暗室での基礎実験 図 -5 無線チャネルの空き状況予測に基づく無線アクセス制御の基礎実験結果 4

2 周波数ダイバーシチ効果を利用した誤り制御技術複数周波数帯を用いて同時伝送を行う場合 たとえ送信電力が同じであったとしても周波数帯毎の伝搬特性の違いにより受信電力に差が生じることになります また 無線信号が異なる複数の伝搬路を通って受信されることで周波数選択性フェージングが発生しますが その特性も周波数帯毎に異なります そこで この伝搬特性の違いを活用し 複数周波数帯で伝送する送信データを各周波数帯に分割後に個別に符号化する ( 図 -6(a)) のではなく 複数周波数帯で伝送する送信データを一括で符号化した後に各周波数帯に分割し ( 図 -6(b)) これによって得られる周波数ダイバーシチ効果で通信品質を向上させる誤り制御技術を考案しました Data Encoding Interleaving Encoding Interleaving a) 個別符号化 Data Encoding Interleaving Frame b) 一括符号化 図 -6 符号化処理単位の違い 考案した誤り制御技術の有効性を検証するため この技術を適用した複数周波数帯同時伝送実験装置 ( 図 -7) を開発し 電波暗室およびオフィス環境において 2.4GHz 帯及び 5.2GHz 帯の 2 つの無線チャネルを用いて実証実験を行いました その結果 考案技術の適用によってフレーム誤りが低減し 従来技術と比較してスループットが向上することが確認できました ( 図 -8) 図 -7 複数周波数同時伝送実験装置 5

スループット [Mbps] 80 70 60 50 40 30 一括符号化 ( シミュレーション ) 20 一括符号化 ( 実験 ) 10 個別符号化 ( シミュレーション ) 個別符号化 ( 実験 ) 0-95 -90-85 -80-75 -70 受信電力 @5.2GHz[dBm] 図 -8 スループット評価結果 今後の展開 今後は 更なる性能向上に向けて各技術の高度化を図るべく技術検討を進めていきます また 今回ご紹介した無線チャネルの空き状況予測機能をハードウェア化して試作装置に実装することにより 時々刻々と変化するトラヒックパターンに応じてリアルタイムに空き状況予測を行えるようにして種々の環境で実験評価を進めるとともに 誤り制御技術等の複数周波数帯同時伝送の特徴を積極的に活用した伝送品質向上技術についても引き続き実験での評価を進め 本技術の有効性を検証していきます 今回開発した技術を搭載した無線 LAN が実現すれば これまで適用が難しかった高信頼性 低遅延性が要求される制御や遠隔操作といった用途にも対応できるようになり 様々な産業の生産性やサービス性の向上が期待できます 本技術の次世代無線 LAN への採用を目指して IEEE 802.11 無線 LAN 国際標準化会合において技術提案を開始する等 本研究開発の成果をタイムリーに展開していく予定です < 用語 解説 > *1) IEEE 802.11: IEEE( 米国電気電子技術者協会 ) が策定した無線 LAN の国際標準規格 *2) IoT(Internet of Things): 身の回りの様々な物がインターネットに接続され 互いに情報交換を行うことで様々な制御を行えるようにする仕組み 研究支援 本技術は 総務省電波資源拡大のための研究開発 複数周波数帯域の同時利用による周波数 利用効率向上技術の研究開発 によるものです 6

株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) について本社 : 619-0288 京都府相楽郡精華町光台二丁目 2 番地 2( けいはんな学研都市 ) 代表者 : 代表取締役社長浅見徹 TEL:0774-95-1111 URL:http://www.atr.jp/ 事業内容 : 脳情報科学 ライフ サポートロボット 無線通信 生命科学などの情報通信関連分野における研究開発及び事業化 株式会社モバイルテクノについて本社 : 220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい四丁目 4 番 5 号代表者 : 代表取締役社長長谷川淳一 TEL:045-228-8850 URL:http://www.fujitsu.com/jp/group/mtc/ 事業内容 : モバイル通信システム 多重無線システム 公共無線通信システム 近距離無線通信システム 放送 / 衛星システム その他無線システムに関するシステムデザイン ハードウェア ファームウェア ソフトウェア開発 モバイル通信システム評価サービス 本件に関するお問い合わせ先 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (ATR) 経営統括部企画 広報チーム TEL:0774-95-1176 FAX:0774-95-1178 Email:pr@atr.jp 株式会社モバイルテクノ総務部 TEL:045-228-8850 FAX:045-228-8864 Email:mtc-info@cs.jp.fujitsu.com 7