Microsoft PowerPoint - sfc07-1.ppt

Similar documents
高次脳機能障害診断基準ガイドライン案

函館市認知症ケアパス

untitled

みんなで学ぼう! 認知症

flF™m…−…n2011_’Î−Û

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

<4D F736F F D208E9197BF C D8FC782C68C D8B40945C8FE18A5182C982C282A282C42E646F63>

Ø Ø Ø

脳循環代謝第20巻第2号

認知症診療 実践ハンドブック

賀茂精神医療センターにおける精神科臨床研修プログラム 1. 研修の理念当院の理念である 共に生きる 社会の実現を目指す に則り 本来あるべき精神医療とは何かを 共に考えて実践していくことを最大の目標とする 将来いずれの診療科に進むことになっても リエゾン精神医学が普及した今日においては 精神疾患 症

2) 各質問項目における留意点 導入質問 留意点 A B もの忘れが多いと感じますか 1 年前と比べてもの忘れが増えたと感じますか 導入の質問家族や介護者から見て, 対象者の もの忘れ が現在多いと感じるかどうか ( 目立つかどうか ), その程度を確認する. 対象者本人の回答で評価する. 導入の質

< F2D90B8905F8EE892A08EC08E7B977697CC B8C292E6A7464>

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

PowerPoint プレゼンテーション

介護における尊厳の保持 自立支援 9 時間 介護職が 利用者の尊厳のある暮らしを支える専門職であることを自覚し 自立支援 介 護予防という介護 福祉サービスを提供するにあたっての基本的視点及びやってはいけ ない行動例を理解している 1 人権と尊厳を支える介護 人権と尊厳の保持 ICF QOL ノーマ

久保:2011高次脳機能障害研修会:HP掲載用.pptx

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

kisaihouhou

高次脳機能障害の理解と診察

<8CA788E389EF95F D E717870>

PowerPoint プレゼンテーション

0_____目次.indd

Microsoft PowerPoint - 参考資料

000-はじめに.indd

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

語と考えられる 因みに 認知科学辞典に依れば 忘却 は 学習した項目の記憶減衰 健忘症 は 狭義の健忘症 ( 健忘症候群 ) は知能や注意能力が保たれているにも拘らず記憶障害のみが突出している病態を指す と記されている 記憶障害 はあくまで症状を示す用語であり 認知症などの疾患を表す言葉ではない 英

脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

Microsoft PowerPoint ppt

認知症治療薬の考え方,使い方

越智啓太 福田由紀 のが現状である そこで本論文では 主としてアメリカ の研究者によって追試されている たとえば August とイギリスにおける心理学的手法を用いた性的虐待の識 Forman 1989 は 性的虐待被害児童は アナトミカ 別についての研究の状況を調査し これらの方法を本邦 ルドール

神経心理学 19 & 筑波大学 ( 望月聡 ) 1 / 5 精神医学 臨床心理学と 神経心理学, 認知 - 感情 - 社会神経科学 精神医学における分類 (DSM-5) 神経精神医学 neuropsychiatry 神経発達症群 Neurodev

2

ER・ICU 100のdon'ts−明日からやめる医療ケア

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

Microsoft Word - 【確定】東大薬佐々木プレスリリース原稿

11総法不審第120号

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

健康な生活を送るために(高校生用)第2章 喫煙、飲酒と健康 その2

神経発達障害診療ノート

<4D F736F F F696E74202D EA474AE71B6A9A4D32DA4E9A4E5C1BFBD5A28B1C6AAA9ABE1292E707074>

図表 リハビリテーション評価 患 者 年 齢 性 別 病 名 A 9 消化管出血 B C 9 脳梗塞 D D' E 外傷性くも幕下出血 E' 外傷性くも幕下出血 F 左中大脳動脈基始部閉塞 排尿 昼夜 コミュニ ケーション 会話困難 自立 自立 理解困難 理解困難 階段昇降 廊下歩行 トイレ歩行 病

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

BA081: 教養 B( 放送大学 心理学概論 ) 科目番号 科目名 BA081 教養 B 放送大学 心理学概論 (Liberal Arts B) 科目区分 必修 選択 授業の方法 単位数 教養教育系科目 選択 講義 2 単位 履修年次 実施学期 曜時限 使用教室 1 年次 2 学期 月曜 1 限

英和対照表

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

子どもの心を診るための発達検査

Microsoft Word - シラバス.doc

Transcription:

認知神経科学の主要な方法論 記憶の認知神経科学 Cognitive Neuroscience of Human Memory 慶應義塾大学文学部心理学研究室 梅田聡 1) 脳損傷の患者を対象とした研究 ( 認知神経心理学 ) 2) 精神疾患の患者を対象とした研究 ( 精神医学 ) 3) 発達障害や遺伝子疾患の患者を対象とした研究 ( 発達認知神経心理学 ) 4) 脳機能画像 (fmri, PET, MEG など ) を用いた研究 ( 認知神経科学 ) 健忘症 (amnesia) 記憶障害を呈する疾患 側頭葉性健忘 ( 純粋健忘 ), 間脳性健忘 ( コルサコフ症候群, 視床性健忘 ), 前脳基底部健忘, 脳梁膨大後部健忘, 一過性全健忘, ウイルス性健忘, 全生活史健忘など 認知症 ( 痴呆症 ) (dementia) 老年性アルツハイマー型 (SDAT), レビー小体型 (DLB), 脳血管性 (CVD), 前頭側頭型 ( ピック病 ), クロイツフェルト ヤコブ病 (CJ) など 想起量記憶の神経回路 前向健忘と逆向健忘 過去発症現在 逆向健忘 Retrograde Amnesia 時間的傾斜 (temporal gradient) 前向 ( 順向 ) 健忘 Anterograde Amnesia Papez 回路 ( 内側辺縁系回路 : 情動回路 記憶回路 ) Case N.A. Teuber et al. (1968): Neuropsychologia 海馬 脳弓 乳頭体 視床前核 帯状回 海馬 (Papez, 1937 Arch Neurol Psychiatry) 1

Case N.A. Teuber et al. (1968): Neuropsychologia フェンシングの剣先が鼻孔から脳に突き刺さり, 左視床背内側核に小さな損傷.( 他の損傷部位については議論がある.) 知的機能は保たれており (IQ 124), 言語能力, 視空間知覚能力, 前頭葉機能, 運動機能に障害はなかった. 逆向健忘はなかった. 重度の前向健忘があり, 発症後の出来事はすべて断片的に思い出せるだけであった. 順序への固着, 頑固さ, 記憶補助の不使用, 置き場所のこだわりなど, 記憶障害を原因とする日常生活の変化が起きた. 前脳基底部健忘 (Basal Forebrain Amnesia) 前脳基底部健忘 (Basal Forebrain Amnesia) 前交通動脈瘤破裂に伴う前脳基底部の損傷 Anterior Communicating Artery (ACOM, ACoA) Subarachnoid Hemorrahage (SAH) コルサコフ症候群 (Korsakoff Syndrome) * アルコール性と非アルコール性に分けられる. ビタミンB1 (thiamine, チアミン ) 欠乏によるウェルニッケ脳症に伴う乳頭体, 視床背内側核および前頭葉の損傷. 間脳性健忘 (diencephalic amnesia) コルサコフ症候群の神経心理学的特徴 1. 短期記憶の障害がない ( 数唱 6~7 桁 ). 2. 意味記憶 知的機能には障害がない (WAIS-R: 80 以上 ). 3. 手続き記憶には障害がない. 4. 前向健忘が認められる. 自由再生 再認課題の成績は低い. 5. 逆向健忘が認められる. 時間的傾斜 (temporal gradient) が見られる. コルサコフ症候群の神経心理学的特徴 6. 作話 ( 当惑作話と空想作話 ) が亜急性期に目立つ. 7. 時間感覚 (duration judgement, temporal order judgement) 生起した事象を想起できないため, 経過時間を過小評価する. 無関係に生起した事象間の時間順序の記憶障害 前頭葉機能障害 8. 前頭葉機能検査 (WCSTなど) の成績が低い. 9. 見当識障害がある. 10. 病識がない. 2

作話 (confabulation) 事実でないことを話す自動的な補償作用. 意識的なものである うそ とは異なり, 本人が作話していることには気づかない点が特徴. 作話の背後にあるメカニズムとして, ソースモニタリング (source monitoring) の障害が考えられている. 当惑作話 (momentary / embarrassment confabulation) 話の内容が当惑に対する一時的な対処となるような作話. コルサコフ症候群などの健忘症においてよく見られる. 空想作話 (fantastic / productive confabulation) 話の内容が当惑的対処を超えたものであり, 空想的に展開するタイプの作話. 健忘症や前頭葉の病変などによって生じる. ブザー課題 ブザーが鳴ったら手を叩いて下さい と教示し, 検査開始 20 分後にブザーを鳴らした. プロンプト A: 何か忘れていませんか プロンプト B: ブザーが鳴ったら何かしなければなりませんでしたね プロンプトなしで何らかの行為を行なった場合 存在想起可 最初に行なった行為が正しい内容である場合 内容想起可 課題を頼まれたことは覚えていますか, と最後に尋ねた時に 覚えている と答えられた場合 意図再認可 対象 慢性期のコルサコフ症候群症例 8 名平均年齢 58.3 歳平均教育歴 11.6 年 WAIS-R 平均得点 : VIQ 89.9 PIQ 82.0 FIQ 85.9 健常者 8 名平均年齢 63.1 歳平均教育歴 13.1 年 結果意図再認健常群 : 全員が可能であった. コルサコフ症候群 : 8 名中 7 名が可能であった. 3

側頭葉性健忘 (Temporal Amnesia) 純粋健忘 (Pure Amnesia) 単純ヘルペス脳炎 (Herpes Simplex Encephalitis, HSE), 無酸素症 (anoxia) の後遺症. 海馬を中心とした損傷 海馬 ( 側頭葉内側部 ) の認知機能 Successful encoding (Wagner et al., Brewer et al., 1998 Science, fmri) (Cameron et al., 2001 Neuron, Single-unit recording) (Strange et al., 2002 J Neurosci, fmri) Conscious recollection (Eldridge et al., 2000 Nature Neurosci, fmri) (Stark & Squire, 2000 J Neurosci, fmri) (Bayler & Squire, 2002 J Neurosci, Lesion) Implicit contextual learning (Chun & Phelps, 1999 Nature Neurosci, Lesion) Recovery of semantic / perceptual information (Cabeza et al., 2001 PNAS, fmri) Working memory maintenance (Ranganath & D Esposito, 2001 Neuron, fmri) Unconscious novelty detection (Hunkin et al., 2002 Neuropsychologia, fmri) 意味記憶障害 (semantic memory disorder) 意味記憶の障害 知識に関する記憶の障害 生物, 人工物, 身体部位などに関する記憶が失われている病態. 生物 無生物知識の障害 疾病や外傷の後遺症としての意味記憶障害 生物領域 ( 動物 植物など ) に関する知識が選択的に失われた患者 無生物 ( 人工物など ) に関する知識が選択的に失われた患者 カテゴリーとしての知識構造と脳との関係を考える上で重要な手がかりになる. Warrington & Shallice (1984): Brain 生物 無生物知識に関する 2 つの仮説 1) 生物 - 無生物の違いは, 進化の過程で知識領域として備えられた. 生物と無生物の意味記憶障害が独立している. 2) 生物 - 無生物の違いは, 各概念のメンバーの同定に, 視知覚的特性 ( 生物 ) と機能的特性 ( 無生物 ) のどちらがより必要とされるかの違いである. 4

Gainotti et al. (2000): Cortex 生物 野菜 食物 楽器と身体部位 人工物の障害には, 解離が見られる. 生物のみが障害されているケースは少ない. 1) の仮説に反する. 健忘症の分類 器質性健忘 (organic amnesia) 脳の特定部位の損傷や機能低下を原因とする健忘 心因性健忘 (psychogenic amnesia) 機能性健忘 (functional amnesia) 心的外傷やストレスと密接な関連を持つ健忘 全生活史健忘 (amnesia of personal history) 社会的知識や一般的知識は保たれているが, 自己の生活史に密接に関連する記憶を失っている病態. 非適応的な性格傾向や, 山積する葛藤状態などを背景にして発症する. 健忘が生体の一種の防衛機制として機能する. 健忘が苦痛に満ちた現実を抑圧している場合があることに留意して治療を進めなければならない. 解離性健忘 (dissociative amnesia) 他の高次認知機能が保たれていて, 記憶だけに障害を呈する孤立性健忘とは異なり, 解離 (dissociation, Pierre Janet) を原因とする. 優勢な障害は, 個人的な情報で, 通常外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能になる. 生活史を完全に喪失すると, 解離性人格 ( 意識の統合性欠如 ) に陥る場合がある. その人格が多数に渡る場合は, 多重人格になる. 心的外傷後ストレス障害 (PTSD) や急性ストレス障害 (ASD) などの経過中にのみ起こるものではなく, 薬物乱用や頭部外傷による健忘などの直接的な生理学的作用によるものでもない. 痴呆 ( 認知症, dementia) とは 痴呆とは, それまで正常であった知的 認知機能が何らかの後天的な脳の器質的異常により低下し, 日常生活や社会生活に支障を来たす状態をいう. もともとの精神発達に何らかの問題があり, 知能発達に障害のある場合は, 精神発達遅滞 (mental retardation) と呼ぶ. 痴呆を満たす条件 1. 脳の器質的な障害が認められる. 2. 全般的な知的機能や認知機能の低下が認められる. 3. 意識障害がない. 4. 日常生活 (ADL), 対人関係に支障が出ている. ( 例 : 物忘れの増加, 配偶者の誤認識, 感情変化, 脱抑制 ) 痴呆の症状 中核症状記憶障害, 見当識障害, 判断障害 周辺症状感情面 : 不安, 焦燥, 躁状態, 欝状態, 多幸意欲面 : 意欲低下, 意欲亢進, 自発性低下行動面 : 徘徊, 失禁, 暴力精神面 : 幻覚, 妄想, 作話意識面 : 譫妄 5

ネガティブプライミング (Negative Priming) Tipper (1985): Q J Exp Psychol 課題 : 赤色で描かれたものの名前を言ってください. Umeda et al. (2005): NeuroImage Neurobiological Studies of PTSD Frontal lobe abnormalities in PTSD (Carrion et al., 2001; Biol Psychiatry) Functional abnormalities in left DLPFC in PTSD (Clark et al., 2003; Biol Psychiatry) Functional abnormalities in anterior cingulate cortex in PTSD (Shin et al., 2001; Biol Psychiatry) (Lanius et al., 2003; Biol Psychiatry) Anterior cingulate volume reduction in PTSD (Yamasue et al., 2003; PNAS) 6