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日臨外会誌 74(8),2205 2209,2013 症 例 術前診断が困難であった盲腸子宮内膜症の 1 例 東京厚生年金病院外科, 同病理診断科 2) 松永理絵 東久登 根岸真人 山形誠一 増田幸蔵 志田晴彦 井上泰 2) 症例は50 歳, 女性.2012 年 8 月腹痛を主訴に当院受診. 来院時, 右下腹部に圧痛と反跳痛を認めた.CT 検査にて盲腸から上行結腸に壁肥厚と腹水あり, 盲腸から上行結腸に及ぶ癌を疑い当科入院となった. 下部消化管内視鏡検査では盲腸から一部上行結腸に発赤を伴う隆起を認め, 粘膜下腫瘤と考えた. 生検では炎症細胞のみ. 注腸検査では, 盲腸から一部上行結腸に立ち上がりのなだらかな隆起を認めた. 以上より盲腸から上行結腸に及ぶ粘膜下腫瘤と考えた. 悪性疾患が否定できないため切除の方針とした. 回盲部切除術施行. 経過良好で術後 7 日目退院. 病理組織検査で子宮内膜症の診断. 腸管子宮内膜症は主座が粘膜下層以深のため術前診断は極めて困難である. 多くの場合, 確定診断には切除が必要であり, 本症例でも術前確定診断には至らなかった. また, 閉経前女性の腹痛において腸管子宮内膜症を鑑別診断に挙げる必要があると考える. 索引用語 : 腸管子宮内膜症, 盲腸, 回盲部切除術 緒言子宮内膜症は子宮内膜組織が異所性に増殖する疾患だが, 腸管に発生することは比較的稀である. 病変が粘膜下層に存在することが多いため確定診断は困難とされる. 今回われわれは術前診断が困難であった盲腸子宮内膜症の 1 例を経験したので, 若干の文献的考察を加えて報告する. 症例症例 :50 歳, 女性. 主訴 : 腹痛. 既往歴 : 子宮筋腫, 経過観察のみ. 家族歴 : 特記すべきことなし. 現病歴 :2012 年 8 月, 4 日前からの腹痛にて受診. 最終月経から約 4 週間経過.2012 年初旬頃から月経周期はやや不順, 月経痛は認めず. 入院時現症 : 身長 160cm, 体重 54kg. 体温 36.7, 血圧 111/67mmHg, 脈拍 72 回 / 分. 腹部は軟でやや膨隆あり, 右下腹部に圧痛および反跳痛を認めた. 入院時検査所見 : 血液検査ではCRP 1.57mg/dlと軽 2013 年 4 月 24 日受付 2013 年 5 月 15 日採用 所属施設住所 162-8543 東京都新宿区津久戸町 5-1 度上昇を認めたが, 他の血液生化学は正常範囲であった. 腹部単純 X 線検査では異常認めず. 腹部造影 CT 検査では, 盲腸から上行結腸に壁肥厚および周囲の脂肪織の濃度上昇を認めた. 虫垂に明らかな腫大は認めず. 盲腸外側から回腸末端周囲に限局性の腹水あり. 子宮には10cm 大の子宮筋腫を認めた (Fig.. 以上から盲腸から上行結腸に及ぶ癌と, 癌に伴う周囲への炎症の波及を疑った. 精査加療目的に当科入院となった. 下部消化管内視鏡検査 : 盲腸から一部上行結腸に不整形の隆起を認めた. 粘膜表面性状は平滑で, 潰瘍やびらんは認めず, 粘膜下腫瘤と考えた (Fig. 2). 回盲弁には病変は及ばず, 回腸末端へのスコープの挿入は可能で異常は認めなかった. 発赤の強い部などから生検を行ったが, 炎症細胞を認めるのみであった. 下部消化管造影検査 : 盲腸から一部上行結腸に立ち上がりのなだらかな隆起性病変を認めた. 隆起の肛門側を中心にひだの集中を伴っていた (Fig. 3). 腫瘍マーカー :CEA 0.8ng/ml,CA19-9 24.0U/ml, CA125 97.5ng/ml と CA125のみ上昇していた. 入院後経過 : 入院後, 絶食, 抗菌薬投与を行った. 徐々に腹痛は改善し食事再開とした. 以上より, 盲腸から上行結腸に及ぶ粘膜下腫瘤と診断した. すなわち悪性リンパ腫,GIST, 平滑筋腫, 163

2206 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 Fig. 1 Abdominal enhanced CT shows an enhanced wall thickness of the cecum and ascending colon arrow ; ascites is present arrow head. Fig. 2 Colonoscopy shows a submucosal tumor with erythema at the cecum and ascending colon. 腹膜播種 転移性大腸癌 子宮内膜症や Crohn 病など の炎症性腸疾患 腸結核などの感染症を鑑別診断とし 上行結腸には炎症の波及によるひきつれを認めた Fig. 4a 病理組織学的所見 粘膜下腫瘤は漿膜下層に主座が て考えた 悪性疾患が否定できないため 手術の方針 あり固有筋層から一部粘膜下層に広範に拡がる子宮内 となった 手術所見 腹水はなし 盲腸から上行結腸の一部に やや硬い腫瘤を形成し 漿膜面のひきつれを認めた 膜腺を認めた また全体に線維化が強かった 盲腸子 宮内膜症の診断となった Fig. 4b 子宮筋腫あり 両側卵巣は異常なし 癌の可能性も考 治療経過 術後経過は良好で術後 7 日目に退院 婦 え 病変から10cm の位置で口側 肛門側とも切離し 人科受診し 子宮内膜症の再発予防のため ホルモン 検体を摘出 迅速病理検査に提出し子宮内膜症の診断 療法を行う方針となった 考 となった リンパ節郭清はせず 回腸と上行結腸を側々 察 子宮内膜症は 異所性に発生および増殖した子宮内 吻合し手術終了とした 切除標本所見 盲腸に 5 cm 大の粘膜下腫瘤があり 膜組織に起因し 閉経前女性の約10 に発生すると言 粘膜表面に不整はなかった 虫垂は巻き込まれていた われる1 腸管壁に発生したものは腸管子宮内膜症と 164

8 号 盲腸子宮内膜症の 1 例 2207 Fig. 3 Enema X-ray examination shows a gradually elevated defect in the cecum, ascending colon arrow,and iliocecal valve arrow head. Fig. 4 a Macroscopic findings of the specimen include a submucosal tumor 5 cm in the cecum. a-1 Resected specimen, a-2 Cut surface of the fixed specimen. b Histological findings include endometrial glands. b-1 H.E. 40, b-2 H.E. 200. 呼ばれ 子宮内膜症の12.3 とされる2 発生部位の な症例であった 医学中央雑誌では1983年から2012年 頻度については月経血に晒されやすいために S 状結 まで 盲腸子宮内膜症 回腸に及ばない 会議録を 腸や直腸に多いとされている 松隅ら の報告では 除く で検索すると 8 例の報告3 5 11 のみであった 3 4 回盲部の発生例が 5 を占めるとされているが 本症 Table 1 例は回腸には及ばずに盲腸から上行結腸に発生した稀 165 症状では本症例と同様に腹痛が多かった 桐井ら12

2208 日本臨床外科学会雑誌 74 巻 Table 1 Reported cases of cecal endometriosis in Japan Case Year Age (years)/ Sex Chief Complaint Preoperative diagnosis CA125 (U/mL) 1 2 3 4 5 6 7 8 Our case 1993 1997 1998 2001 2004 2007 2009 2010 2013 45 / F 48 / F 37 / F 36 / F 36 / F 50 / F melena observation on CS invagination invagination 39.2 28.9 97.5 :submucosal tumor, CS:colonoscopy の報告でも, 臨床症状としては腹痛が最も多く47%, 次いで血便が33%, 便秘が14% であったが, 無症状の症例もあった. また, 子宮内膜症ではCA125 高値を認めることがあり, 本症例でも高値を示した. 他の報告例では, 術前に子宮内膜症が鑑別診断に入れられていることが少なく未検の例が多かった. 測定例でも, 正常もしくは軽度上昇のみであった. 泉ら 13) は腸管子宮内膜症を腫瘤形成主体のendome- trioma 型と狭窄症状主体のdiffuse endometriosis 型の 2 つの形態に分類している. 前者は腸管壁に着床した異所性の子宮内膜腺が増殖する際に早期に粘膜下に達し, そこで増殖し, さらに月経時に粘膜を破って腸管腔内に出血する型であり, 後者は腸管壁の漿膜側で増殖し, 壁内に出血や消退を繰り返し壁の線維化を引き起こす型と考えられている. 本症例では肉眼的には腫瘤を形成していたが, 病変の主座は漿膜下層であり線維化が強いものの狭窄を認めなかったことから, どちらにも分類できないと考える. 下部消化管内視鏡検査では, 長主ら 14) は腸管子宮内膜症の61.3% に隆起性病変を認め, そのうち47.4% に隆起表面に発赤, 出血, びらんを伴っていたと報告している. 確定診断を得るには生検により子宮内膜腺を見出す必要がある. 月経中であれば粘膜表面に発赤, びらん, 潰瘍が出現することが多く, この時に生検を行えば診断できることが多いと考えられている. しかし実際には生検の陽性率は低く, 松隅ら 3) は 9 %, 片山ら 15) は 6 % と報告しており, 術前診断は困難である. 本症例では粘膜面に大きな異常を認めず, 生検での診断はできなかった. また, 回腸に異常を認めない右側結腸のみの病変であったため, 子宮内膜症は鑑別診断の上位には上がらなかった. 盲腸子宮内膜症の過去の 8 例でも術前診断には至っていない. 腸管子宮内膜症の治療は, 通常の子宮内膜症と同様に薬物療法と手術療法があるが, 診断がつけばまずホルモン療法で保存的に経過をみるべきと考えられている. ただし, ホルモン療法を施行しても狭窄症状や血便, 腹痛の改善がなく手術に至ることも多い. また, 確定診断がつかず悪性疾患が否定できない場合には手術適応になる. 坂口ら 16) の報告では94% の症例で外科的切除が行われている. 本症例では, 下部消化管内視鏡検査,CT 検査, 下部消化管造影検査を合わせ, 上行結腸から盲腸に及ぶ粘膜下腫瘤の診断となったが, 下部消化管内視鏡検査の生検で炎症細胞しか認めず, 確定診断には至らなかった. 前述の通り, 本症例では病変の主座が漿膜下層から固有筋層であり, 術前の生検で診断することは不可能であったと考える. 超音波 17) 下部消化管内視鏡下穿刺吸引生検の適応についても考慮しえたが, 本症例のように漿膜下層を中心に散在する子宮内膜腺を検出することは困難だったと考えられる. 悪性リンパ腫や転移性大腸癌などの悪性疾患が否定できないため, 手術の方針とした. また近年, 腹腔鏡下手術にて切除した報告も散見されるが 5), 本症例は比較的大きな腫瘤を形成し, 周囲への炎症も強いと考え, 開腹手術を選択した. 術後の維持療法としてホルモン療法を行う場合がある. 腸管子宮内膜症では, 腸管に多発していることも多く, 術後の再発率が高いとされている. 本症例でもホルモン療法を行う方針となった. 結語腸管子宮内膜症は主座が粘膜下層以深であることから術前診断は極めて困難である. 閉経前女性の腸管腫瘤として腸管子宮内膜症を鑑別診断に入れること, 稀 166

8 号 盲腸子宮内膜症の 1 例 2209 であるが盲腸にも発生し得ることを念頭に置く必要がある. 多くの場合, 確定診断には切除が必要であり, 本症例でも術前確定診断には至らなかった. 文献 地主誠, 北出真理 : 腸管内膜症. 産と婦 2010;77:1452-1458 2)Macafee CH, Greer HL : Intestinal endometriosis. A report of 28 cases and a survey of the literature. J Obstet Gynaecol Br Emp 1960 ; 67 : 539-555 3) 森下実, 山田哲司, 八木真悟他 : 腸重積をきたした盲腸子宮内膜症の 1 例. 臨外 2001;56: 961-964 4) 松隅則人, 松尾義人, 鶴田修他 : 腸管子宮内膜症の 2 例 本邦報告例 78 例の検討を含めて. Gastroenterol Endosc 1989;31:1577-1583 5) 桒田亜希, 中光篤志, 今村祐司他 : 腸重積をきたした盲腸子宮内膜症に対する腹腔鏡補助回盲部切除術の 1 例. 日内視鏡外会誌 2010;15:755-759 6) 古宇家正, 藤本英夫, 三好剛一他 : 回盲部腸重積を形成した盲腸子宮内膜症の 1 例. 現代産婦人科 2009;58:117-121 7) 浦川雅己, 池野龍雄, 宮本英雄他 : 盲腸子宮内膜症の 1 例. 手術 2007;61:1345-1348 8) 狩野契, 鋤柄稔, 高山昇二郎 : 腸重積をきたした盲腸子宮内膜症の 1 例. 日消外会誌 2004; 37:1910-1913 9) 星野澄人, 柿沼知義, 浅見健太郎他 : 盲腸に発生した腸管子宮内膜症の 1 例. 胃と腸 1998;33: 1381-1384 10) 堀口祐司, 鈴木知勝, 加藤紘之他 : 盲腸に発生した腸管子宮内膜症の 1 例. 北海道外科誌 1997; 42:38-41 1 河村勝弘, 石田亘宏, 太田正隆他 : 下血にて発症した腸管エンドメトリオーシスの 1 例. 日臨外医会誌 1993;54:160-163 12) 桐井宏和, 天野和雄, 瀬古章他 : 両側気胸を併発した腸管子宮内膜症の 1 例 腸管子宮内膜症本邦報告 90 例の検討を含めて. 日消誌 1999; 96:38-44 13) 泉泰治, 松永浩明, 梶原正章他 : 直腸,S 状結腸子宮内膜症の 2 例. 日消外会誌 1994;27: 932-936 14) 長主直子, 米井嘉一, 塚田信広他 : 広基性隆起病変を呈した S 状結腸子宮内膜症の 1 例. 日消誌 1997;94:591-596 15) 片山利夫, 窪田良彦, 森淑美他 : 生検にて診断し得た大腸子宮内膜症の 1 例.Prog Dig Endosc 1996;48:210-211 16) 坂口昌幸, 久米田茂喜, 岩浅武彦他 : 直腸狭窄をきたした子宮内膜症の 1 例. 臨外 1997;52: 967-970 17) 丹羽康正, 廣岡芳樹, 北畠秀介他 : 超音波大腸内視鏡下穿刺術. 消外 2004;27:347-352 A CASE OF ENDOMETRIOSIS OF THE CECUM THAT WAS DIFFICULT TO DIAGNOSE PREOPERATIVELY Rie MATSUNAGA, Hisato HIGASHI, Manato NEGISHI, Seiichi YAMAGATA, Kozo MASUDA, Haruhiko SHIDA and Yasushi INOUE 2) Departments of Surgery and Pathology 2), Tokyo Kosei Nenkin Hospital A 50-year-old woman presented to our emergency department with. Abdominal enhanced CT showed an enhanced wall thickness with inflammation of the cecum and ascending colon ; ascites was also present. Thus, colon cancer was suspected, and the patient was emergently admitted. Colonoscopy revealed a submucosal tumor with erythema in the cecum and ascending colon. A biopsy specimen showed only inflamed cells. Enema X-ray examination showed a gradually elevated defect in the cecum and ascending colon, suggesting a submucosal tumor of the cecum and ascending colon. Atlhough a definitive diagnosis was not obtained, a malignant tumor could not be ruled out. So an iliocecal resection was performed. The patient had an uncomplicated postoperative course and was discharged 7 days after surgery. Endometriosis of the cecum was diagnosed on pathology. The patient underwent hormonal therapy to prevent recurrence. Given that the main lesion of intestinal endometriosis is located under the submucosal layer of the bowel, it is quite difficult to diagnose preoperatively. In most cases, as in this case, surgery is necessary to make a correct diagnosis. Key words:intestinal endometriosis,cecum,iliocecal resection 167