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平成24年7月x日

スライド 1

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60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 11 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー性ぜんそくなど 気道過敏症を引き起こす悪玉細胞を発見 - アレルギー 炎症性疾患の根治が大きく前進 - のどがヒューヒュー鳴り 咳が止まらない厄介な発作が続くぜんそくは 治りにくい病気の 1 つに数え上げられています 一方 食物アレルギーや花粉症などアレルギー疾患は多岐にわたり 日本人では約 3 割の人がかかる国民的な病気となっています この 2 つの病気に深く関係するアレルギー性ぜんそくは 世界保健機関の統計でも 世界で 3 億人 日本で約 300 万人の患者数が報告され 増加する一方となっています 原因は 花粉 ダニ ハウスダストなどのアレルギー物質であったり 風邪のウイルス タバコ 香水の強い香りであったり と外界からの刺激が要因とされています アレルギー性ぜんそくは こうした刺激により のど ( 気道 ) の過敏が高まって発症するとされていますが その分子メカニズムや原因細胞は分かっていませんでした 免疫 アレルギー科学総合研究所センター免疫制御研究グループは アレルギーを伴い気道過敏を引き起こす悪玉細胞が 細胞間のコミニケーション機能を果たすインターロイキン -17 レセプター B(IL-17RB) という受容体を特異的に発現する 一部のナチュラルキラー T 細胞 (NKT 細胞 ) であることを発見しました アレルギーモデルマウスを使った実験で この悪玉細胞が実際に気道過敏症に関与していることや モデルマウスに抗 IL-17RB 抗体を投与すると アレルギー性気道炎症の発症を抑制できることも突き止めました この分子メカニズムの知見から 抗体治療などを利用して悪玉細胞を人為的に制御できれば 気道過敏症の悪化を抑制でき 社会的に求められているアレルギー性ぜんそくの克服が実現できます

図アレルギーぜんそくの初期反応の分子メカニズム

報道発表資料 2008 年 11 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー性ぜんそくなど 気道過敏症をひき起こす悪玉細胞を発見 - アレルギー 炎症性疾患の根治が大きく前進 - ポイント IL-17RB 陽性 NKT 細胞が 気道性過敏症発症をひき起こす細胞と判明 抗 IL-17RB 抗体投与で マウスのアレルギー気道炎症を抑制 IL-25 IL-17RB が 抗アレルギー 炎症性疾患薬の新しい創薬ターゲットに独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は 気道過敏症 1 発症に中心的な役割をする細胞が インターロイキン 2-17 レセプター B(IL-17RB) という受容体を発現している一部のナチュラルキラー T 細胞 (NKT 細胞 ) 3 であることを発見し その分子メカニズムを明らかにしました 理研免疫 アレルギー科学総合研究センター ( 谷口克センター長 ) 免疫制御研究グループの谷口克グループディレクターと渡会浩志上級研究員らによる研究成果です アレルギー疾患は 日本人の約 3 割がかかっている国民的な病気です 花粉症 食物アレルギーなど 症状は多岐にわたりますが 中でもアレルギー性ぜんそくは 患者数が約 300 万人 毎年の死者数が 3,000 人にも及びます これまで アレルギー性ぜんそくの多くは ダニ ハウスダスト 花粉などのアレルゲン 4 や風邪のウイルス ストレス タバコの煙 香水の強い香りといった外界からの刺激が引き金となり これらに対する過敏反応によって 気道過敏症の亢進などを起こし 発作的なぜんそく 咳などの症状をきたすと考えられてきました しかし どのようにして この引き金が引かれ増悪へと向かうのか 具体的なメカニズムは不明なままでした 研究チームは IL-17RBという受容体が NKT 細胞の一部に特異的に発現することを見いだし この細胞がIL-17RB を介して そのリガンド 5 であるIL-25 というサイトカイン 6 に反応し 気道過敏症をひき起こす悪玉細胞であることを明らかにしました 実際に アレルギーモデルマウスを用いた実験で IL-17RBを発現したNKT 細胞が 気道過敏症発症に関与していることを確認しました また このマウスに抗 IL-17RB 抗体を投与することにより アレルギー性気道炎症の発症が抑制できることを突き止めました IL-17RB を発現した NKT 細胞の機能を人為的に抑制することで 気道過敏症の増悪を抑えられることが明らかになり 社会的要請の高いアレルギー性ぜんそくの克服が可能となります 本研究成果は 米国の科学雑誌 Journal of Experimental Medicine オンライン版 (11 月 17 日付け : 日本時間 11 月 17 日 ) に掲載されます

1. 背景アレルギー疾患は 日本人の約 3 割がかかっており 国民的な病気の 1 つとなっています 中でもアレルギー性ぜんそくは 世界保健機関 (WHO) の ICD (International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems : 疾病及び関連保健問題の国際統計分類 ) の統計によると 患者数は世界で 3 億人 日本で約 300 万人と報告され 死亡者数も世界で年間 25 万人超 日本でも 3,000 人超にも及び 年々増加の一途をたどっています これまでぜんそくの多くは ダニ ハウスダスト 花粉などのアレルゲンや風邪のウイルス ストレス タバコの煙 香水の強い香りといった外界からの刺激が要因と考えられてきました 増悪した慢性のアレルギー性ぜんそくの基本病態としては 2 型ヘルパー T (Th2) 細胞 好酸球 肥満細胞と呼ばれる一群の炎症細胞が中心的な役割を担っており IL-4 IL-5 IL-13 といった Th2 細胞から分泌されるサイトカインが 気道炎症 杯 ( さかずき ) 細胞からの気道粘膜分泌 気道上皮細胞の損傷と再構築による肥厚などをひき起こすことが知られています しかし このような病態形成に至る発症の分子メカニズムやアレルギー性ぜんそくの引き金となる細胞などは不明のままでした 2. 研究手法と成果研究チームは DNA マイクロアレイを用いて 種々の免疫担当細胞における遺伝子の発現パターンを比較しました その結果 NKT 細胞において高発現する IL-17RB 遺伝子を見いだしました IL-17RB の生理的な機能を調べるため まず IL-17RB を特異的に認識するモノクローナル抗体 7 を作製し この特異的モノクローナル抗体を用いて IL-17RB の発現様式を解析しました その結果 IL-17RB は NKT 細胞の一部に特異的に発現することが明らかとなりました ( 図 1) そこで IL-17RB を発現する NKT 細胞 (IL-17RB 陽性 NKT 細胞 ) に IL-17RB のリガンドである IL-25 を加えたところ IL-17RB 陽性 NKT 細胞から IL-13 IL-4 などのいわゆる Th2 サイトカインが大量に産生されることが分かりました この結果は IL-17RB 陽性 NKT 細胞が 気道過敏症をひき起こす最初の細胞であることを示しています 次に 実際に生体内で IL-17RB 陽性 NKT 細胞が 気道過敏症発症に関与しているか否かを確認するために ぜんそく症状を誘発する際のアレルゲンとしてよく用いられている卵白アルブミン (OVA) を使って アレルギー性ぜんそくを誘発させたモデルマウスで解析を行ないました その結果 1NKT 細胞ノックアウトマウス 8 では IL-25 依存性のアレルギー気道炎症が誘導されないこと 2 抗 IL-17RB 抗体投与によりマウスのアレルギー気道炎症がまったく発症しなくなること 3NKT 細胞ノックアウトマウスに IL-17RB 陽性 NKT 細胞を移入すると アレルギー気道炎症が細胞数依存的に増悪すること が明らかになりました ( 図 2) 3. 今後の期待今回研究チームは IL-17RB という受容体が NKT 細胞の一部に特異的に発現することを見いだし 実際にマウスを使って この細胞が IL-17RB を介してそのリガンドである IL-25 というサイトカインに反応して気道過敏症をひき起こす悪玉細

胞となることを明らかにしました ( 図 3) この細胞の機能を抗体治療などで人為的に抑制することで 気道過敏症の増悪を抑えることができ 社会的要請の高いアレルギー性ぜんそくの克服に貢献できると期待できます ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所免疫アレルギー総合研究センター免疫制御研究グループ上級研究員渡会浩志 ( わたらいひろし ) Tel : 045-503-7008 / Fax : 045-503-7006 横浜研究推進部企画課 Tel : 045-503-9113 / Fax : 045-503-9117 ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 Tel : 048-467-9272 / Fax : 048-462-4715 Mail : koho@riken.jp < 補足説明 > 1 気道過敏症非特異的な種々の刺激に対して気道が収縮しやすいことであり ぜんそく患者のほとんどすべてに認められる ぜんそくの人は健康な人にとって無害な刺激 ( 冷気 タバコの煙 線香の煙 香水のにおいなど ) にも敏感に反応して発作を起こす アレルギー性ぜんそくは気道の慢性炎症性疾患のことを指す 2 インターロイキンインターロイキン (Interleukin) とは 白血球 (leukocyte から -leukin) によって分泌され 細胞間 (inter-) コミュニケーションの機能を果たす一群のサイトカイン IL と略される 3 ナチュラルキラー T 細胞 (NKT 細胞 ) 1986 年に谷口克センター長らが発見した T 細胞 B 細胞 NK 細胞に続く第 4 のリンパ球 免疫の制御や がんの免疫学的監視などのさまざまな役割を担う 4 アレルゲンアレルギーをひき起こす原因となるもので 確認されているものだけで 200 近くある 花粉 ダニの死骸 ホルムアルデヒドなどの代表的なものだけでなく 寒さなどもアレルゲンとなる

5 リガンド特定の受容体に特異的に結合する物質のこと リガンドが対象物質と結合する部位は決まっており 選択的または特異的に高い親和性を発揮する 例えば 酵素タンパク質とその基質 ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質とその受容体などがある 6 サイトカイン細胞同士の情報伝達にかかわる さまざまな生理活性を持つタンパク質の総称 7 モノクローナル抗体単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体 ( 免疫グロブリン ) 分子 通常の抗体 ( ポリクローナル抗体 ) は抗原で免疫した動物の血清から調製するために いろいろな抗体分子種の混合物となるが モノクローナル抗体では免疫グロブリン分子種自体が均一である モノクローナル抗体では 1 つのエピトープに対する単一の分子種となるため 抗原特異性がまったく同一の抗体となる 8 ノックアウトマウス目的の遺伝子を人為的に欠損させたマウス 図 1 IL-17RB は一部の NKT 細胞に特異的に発現が見られる マウス脾臓 ( ひぞう ) 中の各種免疫担当細胞における IL-17RB の発現様式を 樹立した特異的モノクローナル抗体で解析した 縦軸が細胞数で 図中数字が IL-17RB を発現している細胞の割合 (%) である IL-17RB は NKT 細胞のうち 約 4 分の 1(27.9%) で発現が認められるが ほかの免疫担当細胞では発現が認められない

図 2 IL-17RB 陽性 NKT 細胞が気道過敏症を誘導する ぜんそく症状を誘発する際のアレルゲンとしてよく用いられている卵白アルブミン (OVA) を用いて アレルギー性ぜんそくを誘発させたモデルマウスで解析を行った NKT 細胞のいないマウスでは IL-25 誘導性のぜんそく症状 (A. 気道圧の上昇 B. 細胞の浸潤 C.Th2 サイトカインの産生 ) が見られない

図 3 新しく明らかにしたアレルギー性ぜんそくにいたる気道過敏症発症の概念図 アレルゲンにさらされた細胞は IL-25 を産生する これに反応して IL-17RB 陽性 NKT 細胞が IL-13 IL-4 といった Th2 サイトカインや TARC MDC といった Th2 サイトカイン ECF-L などを産生する これが引き金となって Th2 細胞の誘導 活性化や好酸球浸潤が起こり 結果としてアレルギー性ぜんそくに至る