態である新生血管の発生を一部再現したものであり 疾患モデル動物の代替として病態解析や創薬スクリーニングに応用できる可能性があります 本研究の成果は 平成 29 年 6 月 14 日 ( 英国時間 ) 付けで Scientific Reports 誌 ( 電子版 ) に掲載されます 本研究は 文部科学

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セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

報道発表資料 2007 年 4 月 11 日 独立行政法人理化学研究所 傷害を受けた網膜細胞を薬で再生する手法を発見 - 移植治療と異なる薬物による新たな再生治療への第一歩 - ポイント マウス サルの網膜の再生を促進することに成功 網膜だけでなく 難治性神経変性疾患の再生治療にも期待できる 神経回

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

<4D F736F F F696E74202D2097CE93E08FE188EA94CA8D EF D76342E B8CDD8AB B83685D>

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研究成果報告書

報道発表資料 2005 年 8 月 2 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人京都大学 ES 細胞からの神経網膜前駆細胞と視細胞の分化誘導に世界で初めて成功 - 網膜疾患治療法開発への応用に大きな期待 - ポイント ES 細胞の細胞塊を浮遊培養し 16% の高効率で神経網膜前駆細胞に分化させる系

日本の糖尿病患者数約 890 万人糖尿病の可能性が否定できない人約 1320 万人合わせて約 2210 万人 (2007 年厚生労働省による糖尿病実態調査 ) 糖尿病の患者様の約 40% に網膜症発生 毎年 3000 人以上が糖尿病網膜症で失明 2

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背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

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はじめに か加 れいおうはんへんせい齢黄斑変性は治療せずに放っておくと 視力が著しく低下し 視野の中心が見えなく なります 文字を読んだり ものや人の顔を見分ける日常の行動がしづらくなり Q キュウオーエル OL ( 生活の質 ) が低下します しかし V ブイイージーエフ EGF 阻害薬の登場によ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

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平成14年度研究報告

ン投与を組み合わせた膵島移植手術法を新たに樹立しました 移植後の膵島に十分な栄養血管が構築されるまでの間 移植膵島をしっかりと休めることで 生着率が改善することが明らかとなりました ( 図 1) この新規の膵島移植手術法は 極めてシンプルかつ現実的な治療法であり 臨床現場での今後の普及が期待されます

PowerPoint プレゼンテーション

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

Microsoft Word Eylea Japan Launch JPN final(東証用).doc

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No. 2 2 型糖尿病では 病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります そのため 腸内フローラを適切に維持し 血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です プロバイオティクス飲

研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

2005年勉強会供覧用

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ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

スライド 1

共同研究報告書

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 01.doc

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

学報_台紙20まで

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

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CONTENTS CEO CSR 3 31 IMSJPM 213 IMS Health IMS-JPM

ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

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研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

する新規薬剤 ( ピレスパ ) の導入が一定の効果を上げていますが 治療成績については十分とは言えず 特発性肺線維症に対する有効な新規治療薬の開発が急務となっています 特発性肺線維症は肺胞周辺組織の炎症に始まり 病状が進行するに従って 間質が肥厚し 肺胞が潰れ 肺組織が硬く線維化することにより肺活量

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

再生医療市場

学位論文の要約

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

3. 研究結果 1) ヒト ips 細胞から 3 次元的な心臓組織モデルを作製したはじめに ヒト ips 細胞から心筋細胞を分化誘導し 温度感受性培養皿注 4 を用いて細胞シートを作製することにより 細胞 5-6 層からなる 3 次元的構造を作りました しかし心筋細胞のみのシートでは TdP は発生

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

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記者発表資料

リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用

背景 ヒトの表皮細胞を用いて作られる人工表皮, いわゆる表皮モデルは, 様々な皮膚疾患, 加齢変化のメ カニズムや表皮機能の解明といった基礎研究に応用されるだけでなく, 新薬の開発や化粧品開発での安 全性試験にも用いられる重要なリサーチツールであり, 多くの研究者が注目しています しかし, これ ま

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

研究内容 心不全は 心臓の筋肉が障害されることにより心臓のポンプ機能が低下し 肺や全身の臓器に必要な血液量を送り出すことができない病態です 心不全患者の一部において 左心房の血圧の上昇が肺に血液を送り出す動脈 ( 肺動脈系 ) に影響し 肺動脈の収縮や肥厚 ( リモデリング ) が引き起こされ 肺高

報道関係者各位

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報告にも示されている. 本研究では,S1P がもつ細胞遊走作用に着目し, ヒト T 細胞のモデルである Jurkat 細胞を用いて血小板由来 S1P の関与を明らかにすることを目的とした. 動脈硬化などの病態を想定し, 血小板と T リンパ球の細胞間クロストークにおける血小板由来 S1P の関与につ

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

この問題点の一つとして従来からの細胞培養法が挙げられます 長年行われている細胞培養法では 細胞培養フラスコやディッシュなどを使用していますが これらは実験者にとって操作しやすいものの 細胞自身に適したものでは決してありません それは 細胞が本来あるべき環境とは異なるからです 私たちの体において 細胞

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

Transcription:

平成 29 年 6 月 13 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科東北大学大学院医学系研究科 失明に繋がる網膜疾患の病態を一部生体組織チップ上で再現病態解析や創薬スクリーニングへの応用に期待 発表のポイント 眼内の網膜と呼ばれる光を感知する神経組織の一番外側の構造を模倣して チップ上でヒト由来の網膜の細胞と血管の細胞を培養しました チップ上の細胞を低血糖状態や低酸素状態にすると 血管の細胞が網膜の細 胞側に移動し 網膜の細胞がダメージを受けることを示しました 滲出型加齢黄斑変性 ( 注 1) の主要な病態である新生血管の発生を一部再現したものであり 病態解析や創薬スクリーニングに応用できる可能性があります 概要 ヒトでは感覚入力の約 80% が眼からの入力であるため 失明に繋がる網膜疾患 を罹患すると 患者の生活の質の著しい低下を招きます 加えて 網膜疾患は高齢者に多く 超高齢化社会を迎えた我が国では視機能障害対策が喫緊の課題となっています 網膜疾患に対する医薬品候補化合物の評価には 疾患モデル動物が使われていますが ヒトと動物の種差があるので得られる結果の信頼性が必ずしも高いわけではなく コスト面 倫理面においても課題を有しています 最近 創薬を目的とした生体組織チップの開発が盛んに行われていますが 肺や肝臓 腸などを 対象としたものがほとんどで 眼を対象とした研究はほとんど行われていませんでした 東北大学大学院工学研究科の梶弘和准教授らは 同医学系研究科の阿部俊明 教授らと共同で 失明に繋がる網膜疾患の病態の一部をチップ上で再現することに成功しました まず 網膜の一番外側の構造を模倣して チップ上でヒト由来の網膜の細胞と血 管の細胞を培養しました 細胞がある程度成長した後に 網膜の細胞を低血糖状態や低酸素状態にすると 血管の細胞が網膜の細胞側に移動し 網膜の細胞がダメージを受けることがわかりました この過程は 滲出型加齢黄斑変性の主要な病 www.tohoku.ac.jp

態である新生血管の発生を一部再現したものであり 疾患モデル動物の代替として病態解析や創薬スクリーニングに応用できる可能性があります 本研究の成果は 平成 29 年 6 月 14 日 ( 英国時間 ) 付けで Scientific Reports 誌 ( 電子版 ) に掲載されます 本研究は 文部科学省科学研究費助成事業の支援 を受けて行われました 研究内容 ヒトでは感覚入力の約 80% が眼からの入力であるため 失明に繋がる慢性網膜疾患を罹患すると Quality of Life(QOL) の著しい低下を招きます 加えて 網膜 疾患は高齢者に多く 超高齢化社会を迎えた我が国では網膜疾患の病態解析と治 療法開発が喫緊の課題となっています 網膜疾患に対する医薬品候補化合物の評価には 疾患モデル動物が使われていますが ヒトへの外挿性の他 倫理面 コスト面でも課題を有しています 加齢黄斑変性など新生血管の出現は失明原因の主要な病態として重要ですが 加齢 酸素濃度 エネルギー代謝 圧 血流 遺伝子など様々な因子が関わっており その背景は複雑です 新しい薬剤や治療法の開発には 眼疾患の病態メカニズムを正確に理解することが必須であり 複雑で慢性的 な病態を簡単に模擬できる培養モデルが極めて有用です 最近 創薬を目的としたヒト生体組織チップ ( 注 2) の開発が盛んに行われていますが 現在検討されている培養モデルのほとんどが 肺 肝 腸などの消化呼吸器系を対象としており これまで眼組織を対象とした生体組織チップ的なアプローチはほとんど検討されてきてお りませんでした 本研究では 眼底構造を模倣して ヒト由来の網膜色素上皮 (RPE) 細胞 ( 注 3) と血 管内皮細胞を 3 次元マイクロ流路デバイス内に配置 培養して 細胞周囲環境を制御下で両細胞間の相互作用を検討しました 本研究に用いた 3 次元マイクロ流路デバイスは 2 層式のマイクロ流路から成り 各流路がポーラス膜で隔てられています ( 図 1a) まず 片方のマイクロ流路に RPE 細胞を導入して ポーラス膜 ( 多孔質の膜 ) 上で単層組織を形成させた後 もう片方のマイクロ流路に血管内皮細胞を導入して RPE 層の反対側のポーラス膜に血管内皮細胞を接着させて共培養系を作 製しました ( 図 1b) この状態でも多少血管内皮細胞がポーラス膜を通過して RPE 層側に遊走する様子が観察されましたが RPE 層側に低グルコース負荷や擬似低酸素負荷を与えると RPE 層側に遊走する血管内皮細胞の数が増加し 対応して RPE 層の崩壊面積も増加しました ( 図 1c) RPE 細胞の単培養において 低グルコース負荷や擬似低酸素負荷が RPE 細胞からの血管内皮成長因子 (VEGF) の分泌量を増加させることを確認しており 当共培養系における血管内皮細胞の応答 は RPE 細胞が分泌した VEGF によるものであると考えられます また 低グルコース負荷や擬似低酸素負荷では RPE 層の崩壊は認められなかったので RPE 層側に遊走した血管内皮細胞が RPE 層を崩壊させたと考えられます この過程は 滲

出型加齢黄斑変性の主要な病態である新生血管の発生を一部再現したものであり 疾患モデル動物の代替として病態解析や創薬スクリーニングに応用できる可能性があります 今後の展開として 血管内皮細胞の毛細血管網化や神経網膜の追加などにより より生体機能に近い生体組織チップの開発が考えられます また 患者 ips 由来の成熟分化細胞で各細胞を置換することで 個々の患者に合せた治療法の開発や創薬スクリーニングへの発展も見込めます さらに 他の臓器を模倣した生体組織チップと接続することで 全身の薬物動態を検討できる可能性もあります (a) 上面図 断面図ポーラス膜 上層流路 (b) 200 μm 100 μm 上面図 下層流路 RPE 細胞 100 µm 断面模式図 (c) 血管内皮細胞 低グルコース 低グルコース + 低酸素 図 1. マイクロ流路デバイス内での RPE 細胞と血管内皮細胞の共培養 用語説明 注 1 加齢黄斑変性 網膜組織中心の黄斑に異常な老化現象が起こり 視機能が低下する難治性の網膜疾患 大きく分けると萎縮型と滲出型の 2 つの種類がある 萎縮型は網膜色素上皮が徐々に萎縮していき 網膜が障害され視力が徐々に低下していく 滲出型は

異常な血管 ( 脈絡膜新生血管 ) が脈絡膜から網膜色素上皮の下あるいは網膜と網膜色素上皮の間に侵入して網膜が障害される 欧米では成人の失明原因の 1 位であり 日本においては緑内障 糖尿病網膜症 網膜色素変性についで 4 位 社会の高齢化に伴い近年患者数が急激な増加傾向にある 注 2 生体組織チップ生体組織 臓器の構造や機能を模倣した新しいタイプの 3 次元培養モデル 微細加工技術やマイクロ流体技術を利用して 生体内に近い環境で細胞を培養する 古典的な培養細胞モデルと動物モデルの中間に位置する 注 3 網膜色素上皮 (RPE) 細胞網膜の一番外側にある網膜色素上皮層を一層構造で形成する細胞 視細胞と脈絡膜の間にあり 主な機能は 血管網膜バリア 視細胞外節の貪食 栄養因子の分泌などで網膜の恒常性を維持する 論文題目 Microfluidic co-cultures of retinal pigment epithelial cells and vascular endothelial cells to investigate choroidal angiogenesis ( 脈絡膜新生血管精査のための網膜色素上皮細胞と血管内皮細胞のマイクロフルーイディック共培養 ) Li-Jiun Chen, Shuntaro Ito, Hiroyuki Kai, Kuniaki Nagamine, Nobuhiro Nagai, Matsuhiko Nishizawa, Toshiaki Abe, Hirokazu Kaji Scientific Report 問い合わせ先 東北大学大学院工学研究科担当梶弘和 ( かじひろかず ) 電話 022-795-4249 E-mail kaji@biomems.mech.tohoku.ac.jp