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問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

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ジュリスト No 頁 ) しかし 民事執行法の中に 上記の思想を盛り込まないままで それは 153 条でまかなっていただこう というのは 無理がある 例えば10 万円の給与のうち2 万 5000 円を差し押さえられた債務者が153 条の申立をし 他に収入はないこと ( 複数給与の不存在

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東京弁護士会知的財産権法部判例研究 33 審判制度の概要と最近の動向 特許庁審判部審判企画室室長佐藤智康 はじめに ただ今ご紹介戴きました特許庁審判部審判企画室の佐藤と申します 宜しくお願い致します 今日は 審判制度の概要と最近の動向 ということで, 審判の話を中心にお話しさせて戴きます まず, 知的財産権として特許庁が所管するものは, 特許, 実用新案, 意匠, 商標の四法ですけれども, 私の所属している審判部に事件が移管されて来るまでには, 審査という段階を経ているということは皆さん既にご存知のことと思います すなわち, 審査で結果が出たもの, 例えば審査で拒絶されたものについて不服があるもの, あるいは審査で登録されたものに対して無効審判が請求されたものが, 審判部に事件として移管されて来るということです 特許で言いますと出願件数は現在 40 万件ぐらいありますが, それを審査部で審査官が判断 処理をして, その中で, 出願したものが拒絶査定になった時に, それに不服がある人が請求人となって拒絶査定不服審判を請求することになります また, 仮に審査の段階で特許になり, 権利が発生した場合, 第三者がこの権利は自分の事業の障害になるということで先行技術を調査したところ, 本来この特許権は無効とされるべきものではないかと主張すると, 無効審判という審判事件として私ども審判部に事件が移管されて来るということになります 審判部の組織 続いて, 特許庁審判部の組織についてご紹介します 審判部の審判官の人数は 387 名で, 審判部は 38 の部門に分れています その 38 の部門の中に, 意匠が 2 部門, 商標が 4 部門, それ以外の 32 の部門は特許と実用新案を担当しています そして, 審判官としての仕事に従事するためには, 特許法施行令に規定されているように, 主として審査官として 5 年以上の審査実 務経験と所定の研修課程を終了していなければならないという 2 つの要件があり, 審判実務をやる為には, それ相当の経験が必要だということになります 審判の業務は基本的には, 個々の事件の審理を行う訳ですが, 各部門の審理処理計画や事件の進捗管理とか, 審判部全体のマネージメントや企画関係も必要となって参ります そのような業務を担当しているのが審判企画室です また, 審判部には特許侵害業務室という部署もあり, ここは主に無効審判事件の事務手続きを行っているところです さらに, 訟務室は, 審決に不服がある場合には, 知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起できますので, 主にその関係の業務を担当している部署です 特許庁審判部の組織 審判事件の種類 次に, 審判事件の種類についてご説明したいと思います まず, 権利設定前のものについてですが, 拒絶査定不服審判 というものがあります これは, 審査官がある特許出願を審査した結果, 拒絶査定を行った場合, その結論に不服のある出願人の方が請求するとい Vol. 63 No. 3 93 パテント 2010

うものです 審判で結論を出す場合には, 基本的には 3 人, 審判長と審判官 2 人という合議体で行うこととなっています 場合によっては 5 人の合議体で行う場合もありますが, 通常は 3 人の合議体で行います そして, その合議体の出した結論に不服がある場合には先ほども申し上げたように, 知的財産高等裁判所に審決取消訴訟を提起することができます 知的財産高等裁判所では, 原告は審判請求人, 被告は特許庁長官となりますが, 長官の指定代理人として当該事件を担当した審判官等が担当することになります また 補正却下不服審判 というものもあります これは意匠と商標だけに限ったものです 例えば, 審査の段階で, 意匠であれば図面とか見本を補正したりすることがありますが, その補正が当該意匠の要旨変更にあたる場合には, その補正を却下するという決定を行います そして, この補正の却下の決定について争う場合に請求される審判が補正却下不服審判です 次に, 権利設定後の審判ですが, まず 無効審判 があります この無効審判については先ほども申し上げましたけれども, 権利発生後に, その特許は本来特許とすべきものではないと考える人が請求することが一般的です 無効審判は, 法律上, 何人も, そして, 何時でも請求できるということになっています また, 無効審判というのは, 審理の方式が他の審判事件とは異なっていて, 口頭審理を原則としています もちろん, 審判長の職権によって口頭審理をするまでもなく, 書面審理だけで十分だという場合には書面審理もできますが, 当事者の納得性を高めるためには口頭審理の方が適していると思います また, 審理構造は当事者対立構造となっています 無効審判の審決の結論によって, 請求人あるいは被請求人側に不服が生じることになりますが, その場合, 拒絶査定不服審判と同様に, それぞれの者は知的財産高等裁判所へ審決取消訴訟を提起することができます その際には, 特許庁が出した審決ではあるのですが, 原告と被告は当事者の一方と他方ということになります また 訂正審判 というものもあります これは特許になった後に, 例えば権利者自らが無効事由を事前に回避しておくためにクレームの一部修正しておきたいというような場合に請求するものです また同様の手続として, 無効審判の手続の中で請求することができる 訂正請求 というものもあります 次に, 取消審判 についてですが, これは商標についての審判であり, ある商標が権利者によって 3 年間継続して使われておらず, 第三者がその商標を使いたいと考えた場合等, その商標の不使用を理由として 権利設定前 権利設定後 審判等の種類内容 拒絶査定不服審判 (121 条 ) 補正却下不服審判 ( 意匠法 47 条, 商標法 45 条 ) 拒絶査定に対する不服出願の補正を却下した決定に対する不服 審判制度の種類とその概要 無効審判 (123 条 ) 権利の無効 口頭審理 主たる審特許庁審出訴 ( 知財高裁 ) 請求人理方式理結果原告被告特許庁 - 書面審理出願人審決出願人長官 - - 書面審理出願人審決出願人 第三者 ( 何人も ) 審決 当事者の一方 訂正審判 (126 条 ) 権利の訂正 - - - 書面審理権利者審決権利者 取消審判 ( 商標法 50 条 ) 商標の不使用による取消 異議申立権利設定に対する ( 商標法 43 条の 2) 異議申立 判定 ( 当事者 特許庁 ) (71 条 ) 鑑定 ( 裁判所 特許庁 ) (71 条の 2) 権利の技術的範囲等についての見解を提供 権利の技術的範囲等についての見解を提供 - - - 書面審理 - - - 書面審理 書面審理 書面審理 第三者 ( 何人も ) 第三者 ( 何人も ) 権利者又は利害関係人裁判所からの嘱託 審決 決定 判定 鑑定書 当事者の一方 権利者 特許庁長官 当事者の他方特許庁長官当事者の他方特許庁長官 出訴無し 出訴無し パテント 2010 94 Vol. 63 No. 3

取り消しを求めたいときに請求するものです また, 異議申立 という制度もあります これも商標に限ったものですが, 商標の登録がなされた場合, その時点から 2 ヶ月間, その商標が例えばどこかで既に使われているというような場合に, 異議を申し立てることができるというものです 以前は, 特許法の中にも異議申立というものがあったのですが, 平成 15 年の法改正の際, 異議申立制度は無効審判に吸収しました その他に 判定 と 鑑定 という制度もありますが, これは他の審判事件とは少し性質が違います 判定という制度は四法に共通してあるのですが, 権利者又は利害関係人が特許庁に対して技術的範囲についての公的な見解を求めるというものです 例えばよくあるのが意匠についてです ある人が権利を持っているオートバイの意匠について, どこかの企業が真似しているというような場合に, その人が, 真似されているというオートバイのデザインが自分の権利範囲に抵触しているかどうかという点について, 特許庁に対して 判定 という制度を用いて見解を求めるというような場合に請求することができるものです 最後に 鑑定 ですが, 権利の技術的範囲等について裁判所が特許庁に鑑定を求めるというもので, 実際にはほとんどないのですが, このようなこともできるということになっています 考えられますが, その場合, その特許が無効かどうかを早期に判断することで, 特許権を巡る紛争の解決に資するという訳です ここで, 審判事件全体のボリュームについてですが, 審査部から審判部に事件が移管されて来る中で, 最も多いのが 拒絶査定不服審判 です 年間に約 3 万 3 千件あります これは審査部での拒絶査定全体の 2 割程度です 2 割程度ということは, 審査ではどれくらい拒絶しているのかということになりますと, 逆算して戴ければいいのですが, 年間 16 万件ぐらい拒絶査定を行っているということになるかと思います また, 商標の異議申立が年間約 510 件, 無効審判が四法あわせて約 460 件で, 特許と実用新案だけですと, 約 300 件です 同様に, 判定が年間約 50 件, 訂正が約 140 件, 取消審判が約 1600 件となっています そして, 審判部の判断について知的財産高等裁判所で争うというのが, 大体, 四法あわせて年間で 490 件程あります これらは, すべて 2008 年の数字です もちろん, 知的財産高等裁判所の判決に不服があれば, 最高裁判所で争うこともできます 審判の役割 次に, 審判の役割とは如何なるものかということについてお話しします まず第 1 には, 審査官が行った拒絶査定の妥当性について審判部で再度判断するという, 審査の上級審というような役割を担っています このことは,2 度目の審査を審判が行うということでは決してありません 以前は, 審判でもう一度判断してくれるから審判請求しとけばとりあえずいいや, ということで審判を請求していたと聞いたことがありますが, 基本的にはそうではなくて, 審査官が自ら発見した証拠に基づいてロジックを組み立てて出した結論に対して, その結論が正しかったか否かレビューするというのが, 審判の役目だと思っています 第 2 の役割としては, これは基本的には無効審判について言えることだと思いますが, 紛争の早期解決を図ることと考えています すなわち, 無効審判が請求される場合, その何割かは侵害事件が関係しているケースだと 審判制度の概要 各種審判事件の動向 続いて各種審判事件の動向についてご紹介させて戴きます まず審判請求 審理の動向ですが, 拒絶査定不服審判については, 審判事件の中で最も大きなボリュームを占めているもので, 審判部としても拒絶査定不服審判事件を如何に迅速に着手 審理して行くかというのが一つの課題となっております 1998 年乃至 99 年ぐらいが, 件数的には一番少なかったのですが, その後 Vol. 63 No. 3 95 パテント 2010

右肩上がりになっています 2008 年で特許に関して言いますと,32000 件ぐらいの請求があります 意匠, 商標も併せると 33000 件ぐらいになり, これを 387 人の審判官で審理しています このような大量の事件を限られた人的リソースで審理していく訳ですから, 残念ながら事件に着手するまでの待ち期間が長期化して来てしまいます 現在, 特許と実用新案に関しましては, 審理待ち期間が通常,25 月程度, すなわち 2 年近くあります 意匠につきましては 7.6 月, 商標については 9.6 月となっています 特許と実用新案に関しては審理待ち期間が 25 月と申し上げましたが, それでも, ここ 4 年ぐらいは短縮化の方向に向っております しています 以前は無効審判の審決が出るまでに 40 月かかっていたというような時代もありました これについては後でお話し致しますが, 無効審判の審決が出るのが遅いことについては非常に問題になりました なお, 意匠が 7.1 月, 商標が 11 月というように, 最近では四法とも 1 年以内には審決がなされるようになりました 続いて, 無効審判の動向ですが, 特許と商標とは同じような動きをしていまして,2004 年,2005 年は, 特許で無効審判の件数が増えています これは 2003 年, すなわち平成 15 年に, 特実について異議申立を廃止して無効審判と統合した結果, 以前は異議申立を申し立てていたものの一部が無効審判として請求されることになったからと, 分析できるかと思います ここ 3 年ぐらいは, 特実に関しては 300 件程度で, 無効審判の請求件数としては安定しているという傾向になっています そして, 無効審判の平均審理期間についてですが,1997 年からはずっと右肩下がりで早くなっています 97 年の頃には無効審判の平均審理期間は 20 月を超えていて, およそ 22 月から 23 月ぐらいでしたが,2008 年においては 9.5 月となり, 約半減 次に, 訂正審判ですが, 訂正審判はボリューム的には余り大きくありません 訂正審判の平均審理期間は年々短縮化しており,2008 年には 2.4 月になっています 訂正審判は請求時期についての要件があり, 無効審判が継続しているときには訂正審判が請求できないこととなっています ただし, 無効審判の審決の後, 審決取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起すると, その提起日から 90 日以内に限って訂正審判を請求できます ( 注 : 無効審決に限らず, 有効審決について審決取消訴訟が知的財産高等裁判所に提起された場合も, その提起日から 90 日以内であれば訂正審判を請求することができます ) パテント 2010 96 Vol. 63 No. 3

続いて, 判定ですが, この制度は, 昭和 34 年の法律改正の時に導入されました ただ, 余り利用実績が多くなかったというのが実態です 2000 年の時に 120 件ぐらい請求され, ピークを迎えているのですけれども, 実は平成 11 年の改正法で運用改善等をしたこともあり, 利用が増えたのではないかと思われます ただし, 判定の場合は, 大企業よりも中小企業 個人の方がよく利用されている制度なので, ご案内のようにボリューム的にはそれほどありません 判定の審理期間は, 特実では 5 月, 意匠では,7 月くらいです 商標では 6 月ぐらいのスピードでやっています この判定のように特許庁が公的な見解を出すという仕組もある一方, 民間でも, 例えば裁判外紛争手続 (ADR) として日本知的財産仲裁センターというものも存在します 審理の厳正化 話題を少し変えまして拒絶査定不服審判における審理の厳正化という点についてお話ししたいと思います まず, 拒絶査定不服審判において請求成立 ( 拒絶査定取消 ) とした審決の割合は, 特許, 実用新案では右肩下がりとなっており, 請求人が審査官の拒絶査定について, 不服を持って審判を請求しても, 審判の方でもやはり拒絶査定取消という結果にはならないという傾向が強くなって来ています 96 年頃には 9 割弱が請求成立となっていましたが, 最近は, 審判部は第 2 の審査をやる部署ではないという方針を強く打ち出しており, 請求人の方には, 審判を請求する際, 補正をするのであればきっちりと補正をして下さいとお願いをしています そういったこともあり, 審判は一回勝負と言いますか, 審判を請求した時の内容で合議体は判断をしているという, その結果の現れではないかと思います では, 技術分野毎にどれぐらい請求が成立しているかと言いますと, 技術分野間には大差はありません 化学系では 5 割に近づいているというぐらいで, 各技術分野においてそれ程大きな差があるという訳ではないと思います また, 意匠 商標につきましては, 特実とは逆の傾向で, 請求の成立する割合がここ数年増えて来ています 次に, 異議申立と取消審判についてですが, 異議申立は減少傾向にあります 一方, 取消審判の方は, ここ 10 年近く 1600 から 1700 件ぐらいのボリュームで推移しています 異議申立の平均審理期間は約 9 月で, 取消審判は 6.1 月ぐらいです 審理結果の概要 次に, 審理結果の概要についてです 拒絶査定の結果に不服の場合には審判請求ができますが, 請求期間については今年の 4 月から,30 日から 3 ヵ月に延長されました その審判請求されたものの中で, 約 8 割が審判請求時に補正がなされています 残りの 2 割の中には, 審査官の決定に全く納得できないので補正するまでもないというものと, 補正して権利の内容を縮小してまで権利は欲しくないというものが含まれていると思います Vol. 63 No. 3 97 パテント 2010

ところで, 補正をするのが 8 割と大多数なのですが, 審判請求時に補正をすると, 法律では前置審査に付されることとなり, 審査官にもう一度審査をさせることとなっています 前置審査の段階で半分は登録となり, 残り半分は前置報告という手続きを行います この前置報告は, 法律上は長官に対して報告をするという形式になっています 前置報告書の内容としては, 審判請求時になされた補正を考慮しても依然として拒絶査定が維持されるべきであるというものが多いようです また, 前置報告書には前置審査の際に審査官が発見した新たな引用文献等の証拠をその報告書の中に記載しておくということもあります いずれにしても, 前置審査されたものの半分と, 補正なしのものと併せておおよそ審判請求の 6 割が, 実際の審判の合議体による審理に付されるということになります 現在は, この前置報告がなされた事件については, 審判の段階で着手する何カ月か前に, 前置報告書を審判請求人に送付し意見を聞くという運用をしています これは審尋というのですが, この審尋は単に意見を聞くだけですので, この審尋に対して補正はできません そして審判の合議体は, 審尋に対する意見の内容も参考にしながら, 実体審理を行うこととなります その後, 審判の合議体が審理をして,46% ぐらいが特許審決となる, すなわち, 請求人の拒絶査定不服審判の請求が成立します また,54% ぐらいが依然として拒絶査定が維持される審決となります 次に, 下記のグラフは審査と審判の審理結果の内訳の推移なのですが, 各グラフの一番下の部分は, 審査段階で拒絶査定となったものが審判段階では拒絶理由通知書を通知することなく特許となったものの割合です 下から二番目の部分は, 審判段階で拒絶理由を通知し, その後特許になったというものです その上の部分は, 拒絶理由を通知し, その後拒絶査定となったものの割合です 一番上の部分は, 審査段階で拒絶査定となったものが審判段階でも拒絶理由通知書を通知 することなく拒絶査定が維持されたものの割合です このグラフを見ていきますと, 点線で示してありますように, 審査と審判の判断の基準の乖離が縮小傾向にあるということがわかると思います ただ, 審判段階で拒絶理由通知を出すまでもなく, 例えば審判請求時にある程度きちんと補正をして戴ければ, そもそも拒絶理由通知を発する必要もなかったし, もっと言えば前置の段階で登録になったという可能性もあると思います ですから, 審判部としては, 審判の段階で拒絶理由通知等を発する機会を極力少なくできるように, 補正をきっちりして下さいというお願いをしているところです 拒絶査定不服審判の審理結果 ( 全体 ) 審決取消訴訟と侵害裁判の動向 次に審決取消訴訟の動向についてですが, この審決取消訴訟には, 拒絶査定不服審判, 補正却下不服審判及び訂正審判に対する審決取消訴訟を総称して査定系審決取消訴訟と言われているものと, 無効審判と取消審判に対する審決取消訴訟を総称して当事者系審決取消訴訟と言われているものがあります まず, 査定系審決取消訴訟ですが, この中で特許と実用新案については, 知的財産高等裁判所への出訴件数は毎年 170 件乃至 190 件で推移しています この出訴率は 2% から 2.5% です 知的財産高等裁判所で審決が支持される率は最近若干下がって来ておりますが,8 割以上は特許庁の審決が支持されるという結果になっています これは査定系の話で, 基本的に特許庁で拒絶したものがどれだけ裁判所で維持されているかという割合です 後程お話ししますけれども, 当事者系での, 特許庁で登録するという結論を出した後の審決取消訴訟の動向とは, 傾向がちょっと違っています パテント 2010 98 Vol. 63 No. 3

先ほど, 権利者が敗訴する場合が多いと言いましたが, その負けた原因はどのようなものかと言うと, 多くの場合が非侵害で 6 割以上,: 権利無効というのも 2 割 5 分程度あります さて, 侵害訴訟と無効審判の動向についてですが, 侵害事件の地方裁判所判決動向としては,2000 年 4 月から 2008 年までの判決を分析したところ, 地裁での侵害事件で権利者が敗訴した割合が多くなっています 何故 2000 年 4 月からデータをとっているのかと言いますと,2000 年 4 月に最高裁でキルビー判決が出されたからです この判決では, 明らかに無効なものは権利の濫用であり, 侵害裁判所においても権利の無効が明らかな場合には権利行使を制限することができると判示しており, それが契機となって, 侵害裁判所でそのような判決がたくさん出始めたと考えられるからです キルビー判決が出された背景としましては, それ以前は裁判所では, 侵害事件とともに特許庁において無効審判が同時に継続しているような場合は, 無効審判の結論を待ってから裁判を進めていたようです しかしながら, 無効審判の結論が出るのに時間がかかるため特許権を巡る紛争の解決に長期間要していたこと等が考えられます その後, キルビー判決の中の 明らか という要件について, 産業界の方から 明らか かどうかはよくわからないという不満が出て来ました そこで, 平成 16 年の改正法の中で特許法 104 条の 3 という条文で明文化し, 無効審判で無効と認められるべきものである場合には という表現にし, 仮に無効審判で判断するのであれば無効であるというような判断がされるであろうということが当然予測されるような場合には, 権利行使を制限することができるという条文を新たに特許法の中に制定しました ところで, 先ほど特許法 104 条の 3 の話をしましたけれども, 審決は対世効ですが, 侵害裁判所での判断は当然のことながら当事者間だけにしか効力がない相対効となっています 104 条の 3 によって, 侵害裁判所の審理の中で, 被疑侵害者が防御方法の一つとして, 無効抗弁の主張ができることになった訳ですが, その際, 無効抗弁も主張しつつ無効審判も請求するという使い方が多くなっています 104 条の 3 を導入する際には, 侵害事件において無効抗弁が主張できる訳ですから, 紛争も 1 回的に解決可能になるので, 無効審判は減少するのではないか, 要するに侵害事件が起きた場合には, 裁判所で解決しようとするのではないかと考えていたのですが, 実際には無効抗弁プラス無効審判という使い方が多いという結果になっています 被疑侵害者にしてみれば, 無効にできるチャンスが無効抗弁と無効審判という複数の手段がある訳ですから, 権利を無効にする確率をあげるため両方の制度を使うことは特異なことではないと思います このように, Vol. 63 No. 3 99 パテント 2010

そもそもの立法の際の意図とはちょっと違った使い方 をされているというようなことがわかるかと思います 無効審判の審決の時期 また, 侵害事件関連の無効審判の審理期間については, まず, 地方裁判所の侵害訴訟の審理の期間自体, 右肩下がりで早くなって来ています それとともに, 無効審判も大分早くなって来ています 両方とも審理スピードが早くなって来ているというのが現在の状況です 無効審判の平均審理期間については, まだ, 多少のスピードアップは図れるかもしれませんが, 個人的には, そろそろ限界値に近づいてきたかなと思っています 無効審判の審決の時期なのですが, 無効審判が判決前に出ているのか, 判決後に出ているのかと言うと, 近年は, 大部分が判決の前に審決を出せるようになって来ました ただ, 無効審判と侵害事件というのは, スタート時点が同じということはなく, 侵害事件が起ってから無効審判が請求されるケースが多いので, 無効審判の審理期間が早くなったとは言え, 必ずしも, 判決の前に無効審判の結論が出るという訳ではありません しかしながら, 現在は, 侵害事件と審判事件が同時に始まるとすると, 統計上は, 無効審判の方が早く結論を出せるというような状況にはなっております 無効審判の事件が侵害事件と関連しているかどうかについてですが, 無効審判を請求した時に侵害事件が係属していたかどうかの割合を見てみますと, 実はそれ程多い訳ではなく, 一番多いときでも 44%, つまり半分もいっていないことから, 意外と無効審判独自の利用形態というのが多いのだというのがわかって戴けるかと思います すなわち, 事業に投資する時にある権利が障害になるということで, 侵害事件になる前に無効審判を利用して権利を無効にしておくというような, 言わば予防的な使い方というのが無効審判の主な使い方であるというのが, 統計的に現れていることがわかるかと思います 無効審判請求に占める侵害関連事件の割合 侵害訴訟と同時係属する無効審判の平均審理期間 無効審判の審理状況についてご説明します 無効審判で無効審決となる割合がどれくらいかと言いますと,2008 年では半分強が無効審決となっています すなわち, 審査部でも審判部でもよいのですけれども, 一旦特許庁で特許が成立するというように判断をした後, それに対して第三者が無効審判を請求した時に無効になる割合が半分強あるという実態があります これを多いと見るか, 少ないと見るかは別ですけれども, パテント 2010 100 Vol. 63 No. 3

本来ならば無効の割合は低いというのが理想だとは思います しかし, 現実的な話と致しまして, 事業を展開しようとする時に, ある特許権が障害になる場合, 普通の企業であれば 時間 と 人 と お金 をかけてその権利を無効にすべく対処するはずですから, 新たな証拠が出てくる可能性が多いのでこのような結果になって来るのだと思います ただ, 無効審判が請求されるのは特許に関しては, 年間に 300 件程度で, それ以前にどれくらいの登録査定をしているかというと, 膨大な数な訳ですから, それらの特許の中での 300 件と考えて戴くと見方も少し違ってくるかと思います 無効審判の審決支持率の推移 無効審判事件の審決取消訴訟の動向ですが, 先ほど査定系審決取消訴訟の出訴率が 2% 乃至 2.5% だと申し上げましたが, その時に当事者系審決取消訴訟とは傾向がちょっと異なっていますということを申し上げたかと思います 実は当事者系審決取消訴訟の 2008 年の出訴率というのは 66.5% もあります 無効審判事件の審決数は 281 件あったのですが, その内の 187 件が出訴されたということです この数字を見ると高い数字のようにも見えますが, 例えば, 無効審判は当事者系なので, 不利な結論を出された方は不服があるのは当然ですから, 次の段階, 即ち知財高裁に提訴するのは普通のことであり, このような数字になるのもやむをえないことかと個人的には思っています そして, 知的財産高等裁判所での無効審判の審決支持率ですが, 大体 7 割から 8 割くらいです 特許権が有効であるという審決を出した場合の審決取消訴訟での支持率は, 以前は 39% ということもありましたが, 2008 年に 70.2% まで上がっています 一方, 無効の審決を出した場合の支持率は以前から非常に高かったのですが, 昨年ころから若干下がりつつあって, 両者が段々収束して来たような状況になっています 次に, 侵害訴訟 ( 地裁 ) での特許の有効性の判断と無効審判の判断が違ったものがどのくらいあったのかについてですが,2000 年 4 月から 2008 年 12 月に判決が出されたものについて分析した結果, 全判決 170 件のうち 22 件,13% が違っていたという分析結果が出ています この 13% が, 大きいと見るか小さいと見るかというのについても, 色々見方があるかと思います 例えば, 無効審判の結論と侵害訴訟の結論とが違うのは特異なことではなく, それはそもそも司法である裁判と行政である無効審判がそれぞれ機能した結果なので, 両方の制度が有効に機能している証拠ではないかと言う方もおられます 一方, こういった判断の相違は困る, というような声も聞かれることもまた事実です また, 何故判断の相違があったのかというその原因なのですが, 基本的には進歩性の判断の相違と, 当事者が主張した無効理由の相違というものがあるかと思います 例えば, 侵害事件で無効の抗弁を主張する時に, 特許庁の無効審判では提出していなかった証拠を提出していたとか, 無効の理由が異なっていたというのがあります もちろん, 全く同じ条件で, 地裁の判断と特許庁の無効審判の判断が相違していたケースもありました ただ, 裁判は弁論主義ですから, 当事者がきちんと主張 立証しないといけませんが, 特許庁の無効審判というのは職権主義ですので, 当事者間の Vol. 63 No. 3 101 パテント 2010

主張の上手下手のみで結論が大きく変わることは少ないということがあります すなわち, 審理形態の違いというところが, 裁判所と特許庁での判断の相違の一つの原因となっているとも思っております 以上が統計を交えた審判制度のご紹介です 特許性検討会 続きまして, ちょっと違う話をさせて戴きたいと思います 我々審判官は日々各種の審判事件を審理している訳ですが, その他に特許性検討会というものも行っています 元々この検討会というのは 2006 年に発足したのですが, そのきっかけは, 裁判所の進歩性の判断が厳し過ぎるのではないかという企業の方々等のユーザーの声でした そこで, 本当にそうなのかということで, ユーザーの方も交えて, 裁判所の判決と特許庁の審決を分析 検討してみましょうということで, この検討会を開始した訳です そしてその結果を外部に公表すると同時に, 我々審判官もその検討会の中での様々なご意見を日々の審理業務に活かして行こうということで始めました 最初の 2 年間は, 進歩性だけをターゲットにやっていたのですが, 昨年, 記載の要件も検討してはどうかという要望がありまして, 昨年度からは進歩性の外に, 記載要件を含めて検討の対象としています そして名称も特許性検討会という名称に変更しました この検討会の検討分野というのは大体 4 技術分野, 機械, 化学, バイオ, 電気で, 検討体制は, 知財協, 弁理士, 弁護士, 審判官となっています 技術分野毎に 10 名前後で一つの分科会を作って, そこの中で検討して貰うこととなっています 弁護士の方にも, 昨年は,3 名から 4 名ぐらい参加して戴いております この報告書類は特許庁のホームページからダウンロードできます その中で昨年度は 4 つの分科会で 11 事例を取り上げたのですが, その中で 2 つ程面白いものがあったので簡単にご紹介したいと思います そのうちの一つが, 下記のエアーマッサージ機の事 例です このエアーマッサージ機ですが, 足のふくらはぎの部分を包蔵して, そこを空気で膨らませて, 締め付け, 圧迫感を与えることによってマッサージをするというものです この発明は審決で有効になったのですが, 裁判所では容易だということで無効であると判事されました その裁判所の判断について, 検討会ではいろいろ意見が出たのですが, それをご紹介します まず, 特許庁の審決では, 足のふくらはぎの側面部分から空気を入れて圧迫する時に, 真横ではなくて開放部の方にずらして圧迫をすると, 足が開放部の方向に逃げて行かないという所に効果を認めて登録した訳です しかし, 裁判所は審決取消訴訟の段階で, 足を押さえるのであれば, 真横から押さえるか, それより少し前に出すか, 少し後ろにずらすかのその 3 通りしかないのだから, 少し前にずらしたというのは, 極めて容易だというように判断をして, 審決が取り消されました その裁判所の 容易 という判断について検討会で検討したところ, 裁判所の判断が絶対間違いだというような強硬な意見はなかったのですが, 例えば 解決手段のうち特定の一つを採用しなければならない特段の事情が認められないとの理由で, 当該相違点に係る構成を採用することは容易であると判断することは, 論理づけの検討が十分とはいえず, 当事者の納得感を得ることはできない というものがありました すなわち, 裁判所がその 3 通りしかないと説示したことについて, その論理づけが不十分なのではないかということです 結論としては容易だったかも知れないけども, もう少しそこは論理をきちんと理由づけて判示すべきではなかったのか, そうではないと当事者間の納得は得られないのではないかというような意見が出た事例です パテント 2010 102 Vol. 63 No. 3

もう一つの事例ですが, これも下記にありますように, 車に取り付けるエアコンの発明です 本願発明は, エアコンのファンと言われる送風機と冷却器とヒーターをどういう風に配置するかという, その配置関係についてのものです 下記の図に示すように, 図の左側に示してある A のところが送風機で, B のところがヒーター, C のところが冷却器で, このような位置関係に置いたものが本願発明です そして引用例となったものがその右の二つです 真ん中の主引用例というのは, 下から送風機, 冷却器, ヒーターという風に一直線に垂直に上げて行く, いわゆる垂直型と言われるものです 引用例 3 は, 下記の図に示されるように配置にしたものです ここで何が問題になったかと言いますと, 裁判所は, この引用例 3 から送風機, ヒーター及び冷却器の配置は収容スペースとの関係で適宜決められる技術常識だと読み取り, その 3 つの配置は, スペースの関係で適宜置けば良いものであるというように判断しました 更に 引用例 1( これは垂直型のものですが ) においても, 諸事情により, 上下方向のスペースが不足し, 装置全体が垂直にでき ない場合があることは当然あり得る その場合, 収容スペースが不足する場合の対策を享受する引用例 3 に従い, ブロワ ( 送風機 ) をオフセット配置することは当業者が容易に想起できることである と判事しています このオフセットというのは一直線に並べないということで, 一つ何かを位置的にずらして置くことをオフセットと言います 垂直に置くと右ハンドルの車でも左ハンドルの車でも採用できるという利点がある訳ですが, 裁判所は, そのような利点を放棄して, 自動車用空調装置の前後方向の寸法を小さくするというような発想をするのが, 適宜選択し得る設計事項であるというように判断しました しかし検討会では, 引用例 1 の発明が, そもそも左右対称に装置を配置することを前提とした発明であることから, これにスペース不足の対策を講じる場合, 送風機ユニットを車幅方向にオフセットさせるという発想は生じないのではないか, つまり, 引用例 1 にオフセット配置を採用することは阻害要因があるのではないか という意見が出ました このように, 現場で実務をされている企業の方, 代理をなさっている弁理士 弁護士の方々が, 裁判所の判断について必ずしも納得している訳ではないということが垣間見える事例でした 以上, このような検討会を開催しているというようなことも皆さんにも知っておいていただこうかと思い, お話し致しました 色々と雑多なお話になってしまいましたが, これで私からのお話を終わらせて戴きます 有り難うございました ( 原稿受領 2010. 1. 6) Vol. 63 No. 3 103 パテント 2010