243 日本臨床麻酔学会第 35 回大会シンポジウム日臨麻会誌 Vol.37 No.2, 243 251, 2017 医療法改正による院内事故調査委員会の在り方 進め方 問題点を考える 医療事故調査制度の課題 新たな 医療事故 の概念について 加藤 * 愼 [ 要旨 ] 医療事故調査制度 ( 以下 医療事故調 ) は,2014 年 6 月に成立した改正医療法で設置され, 医療の安全を確保し, 医療事故の再発防止を図ることを目的とすると位置付けられている. この制度はその後 2015 年 10 月より施行され, 既に 1 年余りが経過するに至った (2017 年 1 月現在 ). この1 年間の統計的な数値については, 毎月更新されながら開示されており, 全国での実施状況を窺い知ることができるが, それを見る限り, 事故調査の現場となるべき医療機関や, その調査対象となりうる臨床医の制度に対する理解が深まり, 制度が軌道に乗っているとは言い難い状況にある. また, 既に施行されているにもかかわらず, 医療事故調査制度のあり方に関する議論や, 運用上の疑問に関する検討も収束しているとはいえない. 医療事故調に関する課題は, 医療事故自体の定義に始まり, 調査の手順, 報告書のあり方等多岐にわたっている. そんな中で, 本稿は, 臨床医である麻酔科医が日常の診療の中で知っておくべき基礎知識として, 医療事故調の対象となるべき 医療事故 とは何か, またこの制度によって臨床の現場にどのような影響があるかを考える. 日常の診療において医療事故調に惑わされたり煩わされたりすることなく, 麻酔科医として医療を提供する一助となれば幸いである. キーワード : 医療事故調査制度, 医療事故 Ⅰ 医療事故調査制度の開始 2014 26 6 2015 10 2013 6 2007 2005 10 10 1 231 0007 2 21 3
244 Vol.37 No.2/Mar. 2017 2 Ⅱ 医療事故調の概要 1. 医療事故とは 6 11 6 10 2 1 1 3 2 2. 医療事故調の手続 図 1 2 2
245 図 1 医療事故に係る調査の流れ 2
246 Vol.37 No.2/Mar. 2017 図 2 医療に起因する ( 疑いを含む ) 死亡または死産の考え方 27 5 8 0508 1 Ⅲ 医療事故調における 医療事故 の課題 1. 医療の提供に起因する とは 図 2 4 1
247 図 3 医療事故の定義について ( 当該死亡または死産を予期しなかったもの ) 27 5 8 0508 1 5 2. 予期せぬ 予期する とは 図 3 6
248 Vol.37 No.2/Mar. 2017 7 1 8 Ⅳ 医療事故調施行に伴う 新たな 医療安全 のあり方 1. 予期 に関する規則 1 9 2. 医療事故調の施行が臨床現場にもたらすもの 1
249 1 1 2 おわりに 2015 10 1 2017 1 1,500
250 Vol.37 No.2/Mar. 2017 2016 9 388 161 16 2 10 2014 6 25 2 10 註 1) 医療事故が刑事事件になったものの, 判決において医師の刑事責任が否定された例としては, 福島地裁平成 20 年 8 月 20 日判決, 東京高裁平成 20 年 11 月 20 日判決等が挙げられる. 2) 厚生労働省はこの点につき 医療事故調査制度の目的は, 医療法の 第 3 章医療の安全の確保 に位置づけられているとおり, 医療の安全を確保するために, 医療事故の再発防止を行うことです. と説明している( 厚生労働省 医療事故調査制度に関する Q&A(Q1) ). 実 際の医療法の改正作業にあたっても, 当初の大綱案では事故調査報告の対象が 誤った医療行為による死亡 予期しなかった死亡 の 2 類型とされていたのに対し, 最終的には 予期しなかった死亡 のみが対象となり, いわゆる過誤事例が除外された経過がある. こうしたことからすると, やはり医療事故調は法的責任の追及とは切り離された制度であると理解すべきであろう. 3) こうした理由から, 法律の成立時より 医療事故 の名称は適切ではない, むしろ 医療関連死 とすべきではないかとの意見は多い. 現に, 制度の検討段階で行われていたモデル事業においても, その名称は 医療行為に関連した死亡の調査分析事業 (2005 年 ) とされていた. 4) 地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行 ( 医療事故調査制度 ) について ( 平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号 ) より抜粋 5) 厚生労働省によれば, このような症例について 死亡が発生した医療機関から, 搬送元となった医療機関に対して, 当該患者の死亡の事実とその状況について情報提供し, 医療事故に該当するかどうかについて, 両者で連携して判断した上で, 原則として当該死亡の要因となった医療を提供した医療機関から報告していただくことになります. と説明している( 厚生労働省 医療事故調査制度に関する Q&A(Q3) ). 6) 地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律の一部の施行 ( 医療事故調査制度 ) について ( 平成 27 年 5 月 8 日医政発 0508 第 1 号 ) より抜粋 7) 厚生労働省による医療事故調施行前の説明では,1と 2が原則,3は例外的な場合との説明がなされていたようである. 8) なお, 図 3 の右欄にあるように, 厚生労働省の通知では省令の解釈として, 説明と記録につき 一般的な死亡の可能性についての説明や記録ではなく, 当該患者個人の臨床経過等を踏まえて, 当該死亡又は死産が起こりうることについての説明及び記録であることに留意すること. とされている. この解釈によれば, 疾患の一般的な可能性ではなく, 患者の具体的な病態, 経過, 検査データ等に基づく具体的な死亡リスクが 予期 であることが示されている. 9) 前掲の 図 3 における右側 通知 欄でも, 厚生労働省令の解釈として 患者等に対し当該死亡又は死産が予期されていることを説明する際は, 医療法第一条の四第二項の規定に基づき, 適切な説明を行い, 医療を受ける者の理解を得るよう努めること. とされている. 10) 改正医療法附則第 2 条 2 項
251 Issues Regarding the Medical Accident Investigation System Shin KATO Kato Law Office The Medical Accident Investigation System(MAIS)was established according to the Amended Medical Service Law(2014)and enacted in October 2015 to help ensure the safety of medicine and prevent the recurrence of medical malpractice. The latest statistical document is released every month, it looks that understanding of medical care providers is not still enough. In addition, neither debate over a vision of what MAIS should be nor consideration of operational issues are yet to settle. There are a wide array of issues ranging from the definition of medical accidents to procedures of investigation and the role of reporting. This section describes basic elements of the system anesthesiologists need to know in their daily medical practice. Problems with MAIS are also discussed. Key Words : Medical malpractice, Medical Accident Investigation System The Journal of Japan Society for Clinical Anesthesia Vol.37 No.2, 2017