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装い としてのダイエットと痩身願望 - 印象管理の視点から - 東洋大学大学院社会学研究科鈴木公啓 要旨 本論文は, 痩身願望とダイエットを装いの中に位置づけたうえで, 印象管理の視点からその心理的メカニズムを検討することを目的とした 全体として, 明らかになったのは以下のとおりである まず, 痩身が装いの一つであること, そして, それは独特の位置づけであり, また, 他の装いの前提条件的な位置づけであることが明らかになった 従来, 痩身を装いの中で扱った研究は見られなかったが, 本研究により, 痩身についての新たなアプローチを切り開いたといえる そして, 痩身を装いの中に位置づけたうえで, 痩身の印象管理モデルを提示し, 装いの機能の一つである対他的機能の部分について, 検討をおこなった 結果, 承認欲求は体型による印象管理予期へ影響し, 体型による印象管理予期は, 痩身願望に影響し, さらに痩身願望はダイエットに影響するという印象管理モデルの妥当性が示された このモデルにより, 痩身の印象管理のメカニズムについて, 有益な知見を得ることができたと考えられる 以下, 各章の概要を順に述べることとする 第一章においては, 痩身願望とダイエットの心理的メカニズムの実証的解明に先立ち, 実際の女性の体型および, 理想とされる規範の歴史的変遷, さらに, 現代女性の体型への認識, やせ願望やダイエットの現状について, その概観をまとめた 日本人女性の BMI の平均は 20.5 へと低下しており, 痩せた体型になってきている 世界的に見てもその経済水準からは極めて痩せているといえる しかし, それでも, 痩せを理想とする文化が存在し, 若年女性は, 痩せていたり普通の体型であっても太っていると認識している 体型に対する不満は強く, また, 痩身願望を有している者も多い そして, 太っている人のみならず, 平均的な体型であったり, 痩せていたりしても, さらに痩せたいと考えている者が多い その結果, 多くの者がダイエットの経験を有している ダイエットに関心がある者は全体の 9 割ほど存在し, また, 全体の 6 割ほどが過去にダイエットの経験をしているといえる これらのことが, 先行研究により明らかになった そこで, さらに, なぜ痩身を目指すかについて, 先行研究のレビューをおこなった 痩せを目指す背景には, 痩せを美とする考えが背景にあること, そして, 痩せた体型のベネフィットや現在の体型のコストについて意識されていることが示された しかし, 十分な研究がおこなわれているわけではなく, 痩身願望やダイエットの心理的メカニズムについては十分に検討されているわけではないといえた そのため, 新たな枠組みからの検討の必要性が示唆された i

第二章においては, 痩身の心理的メカニズムの解明のために, 新たなアプローチとして, 装いの枠組から検討することの有用性を述べた 痩身は直接的に外見と関連しており, 痩せるということは, 外見が変わるということである そして, ダイエットは, 外見を変化させることを目的とした行動, ということができる つまり, 痩身は外見変化を目的としている装いの一つと考えられた そこで, まず, 装いの性質についてまとめ, その後, 装いとしての痩身についてまとめた 装いの中での痩身の位置づけが独特であり, 一時的な装いと永続的な装いの中間であること, ただし, 機能という点では, 装いと痩身に共通している部分があることが考えられた このことから, 痩身が装いの一つであるとすると, 痩身にも装いと同様の機能があり, 痩身には対自的機能と対他的機能という二つの心理的機能が存在すると考えられた さらに, 装いの背景にある印象管理というプロセスが痩身にも存在し, 印象管理という観点から痩身について検討することが可能であることが示唆された これらの内容に基づき, 次章以降の方向性を示した 痩身を装いの中に位置づけ, 実証的に検証した研究は見受けられないが, 痩身を装いの枠組みで検討することは, 新たな視点からの検討であり, 今までの限定されたアプローチでは得られなかった新たな知見をもたらす可能性が考えられた 第三章においては, 痩身が装いの中でどのような位置づけにあるのかについての検討をおこなった 装いは, 一時的 - 永続的, と, 身体的 - 外部的の 2 つの軸により, i) 一時的 外部的,ii) 一時的 身体的, そして iii) 永続的 身体的, の 3 つに分類できると考えられている 痩身の性質を考慮すると, 痩身は, 身体的装いであり, また, 一時的と外部的の中間に位置すると考えられた ここでは, 行動レベルであるダイエットを扱い, その位置づけについて,1) 興味と経験, そして,2) イメージ, の 2 つの側面について, 他の装いの位置づけとの対比から検討した 予備調査において, 装いについてのイメージを測定するための項目収集をおこなった その後, 本調査において, ダイエットが装いの中でどのような位置づけにあるのか,1) 興味と経験, そして,2) イメージ, の 2 つの側面から, 他の装いとの位置づけの比較から検討した 大学の女子学生ら計 188 名を対象とし, 複数の装いについて, 装いの興味 経験およびイメージについての回答を求めた 結果, 興味と経験, およびイメージの両次元において, ダイエットは独特の位置づけを有しており, 一時的装いと永続的装いの中間に位置することが確認された 両次元で得られたダイエットの位置づけは, 当初想定したとおりであった これらの結果は, 装いとしてのダイエットの性質の一端を明らかにしたといえる また, イメージ, および興味と経験の両次元において, 装いの布置が類似していることが明らかになった このことから, 各装いのイメージと興味および経験の次元が相互に影響しあっている可能性が考えられた なお, ダイエット以外の装いであるが, 従来言われていた分類に一致しない部分があることが明らかになった これは, イメージおよび興味と経験の次元において同様であった 従来の概念的な分類は, 現代の現実場面での装いのイメージや興味と経験における分類と一致しない可能性もあり, ii

現象とそのメカニズムを考えていく際に, 適切に分類を考え直していく必要性が考えられた 第四章においては, 前章において痩身が装いの一つとして位置づけることが可能であったことをふまえ, 痩身の機能についての認知内容について検討し, また, それらと痩身願望との関連について尺度を作成し検討した 痩身が装いの中に位置づけられるとすると, 他の装いと同様の心理的機能があると考えられた そこで, 痩身の心理的機能にどのような内容が認められるか, また, それが装いにおけるその分類と同様かについて, 体型コスト ベネフィット認知を扱い検討した 体型コスト ベネフィット認知は, 痩身体型ベネフィット認知と現体型コスト認知の 2 つの側面からなる 前者は, 痩せた体型にどのようなメリットがあるかという認知であり, また, 後者は, 現在の体型にどのようなデメリットがあるかという認知である 両者は, 痩身願望やダイエットと関連していると考えられた 大学の女子学生ら計 100 名を対象とし, 痩せた場合, そして, 痩せている場合のメリット, また, 太った場合, そして, 太っている場合のデメリットについて自由記述で回答を求めた 得られた自由記述をまとめたところ, 痩身体型ベネフィット認知と現体型コスト認知の両者において類似した内容の 11 のカテゴリーに分類可能であった その内容は, 身体保護機能や対自的機能, そして, 対他的機能と対応した内容を含んでおり, 他の装いと同様の内容であった また, 他の装いの促進という特徴を有しており, 痩身は, 他の装いをおこなううえでの前提条件的位置づけとなっていると考えられた このことは, 装いとしての痩身の独自の特徴を示していると考えられ, 痩身の心理的メカニズムの解明に有益であると考えられた さらに, 装いの心理的メカニズムの解明にも寄与すると考えられた 次に, 痩身体型ベネフィット認知と現体型コスト認知を測定する尺度を作成し, それらが痩身願望と関連していることを確認した 大学の女子学生ら計 253 名を対象に, 先の自由記述を元に作成した項目を実施し, 項目精選をおこない, 尺度の信頼性と妥当性について確認した 結果, 適切な尺度が作成された さらに, 痩身願望との関連を検討したところ, 一部を除き, 痩身体型ベネフィット認知と現体型コスト認知はともに痩身願望と関連していることが確認された 本章によって, 痩身には装いと同様の機能があること, そしてそれらについての認知が痩身願望と関連していることが明らかになったといえる また, 他者の目を通した機能である対他的機能がが存在することが確認された これは, 痩身について印象管理という観点から検討可能であることを示していると考えられた 第五章以降においては, 痩身の印象管理モデルの妥当性について検討することを目的とした 痩身の印象管理モデルとは, 承認欲求は体型による印象管理認知へ影響し, 体型による印象管理認知は, 痩身願望に影響し, さらに痩身願望はダイエットに影響するという内容のモデルである まず, 第五章においては, 痩身の印象管理モデルの検討に先立ち, ダイエットと賞賛獲得欲求および拒否回避欲求との関連について明らかにすることを目的とした 印象管理の背景にある基本的な目的には他者からの承認があるが, 承認の目的にはプラスの評価を獲 iii

得することとマイナスの評価を回避することがあり, それぞれに対応した賞賛獲得欲求と拒否回避欲求の 2 つの欲求があるとされている 装いが印象管理というプロセスを有していることから, 痩身はこれらの 2 つの欲求と関連していると考えられた そこで, この 2 つの欲求と痩身の関連について, 他の装いも同時に扱い比較検討することとした また, 装いのパターンについても検討することとした 大学の女子学生ら計 220 名を対象とし, 賞賛獲得欲求 拒否回避欲求と, ダイエット, 化粧, そして, 衣服の装い度との関連について検討した 結果, 賞賛獲得がすべての装いに共通して関連し, また, 拒否回避はすべての装いに共通して関連していないことが明らかになった これは, 今回扱った装いすべてに共通していた ただし, 今回は, 承認欲求と行動の直接的な関連のみ検討しているという限界があった 体型による印象管理予期を媒介とした痩身の印象管理モデル全体についての検討が必要といえた ところで, クラスター分析の結果から, 特定の装い度が高い群は, その装いが何であろうが, 全般的に装い度が低い群よりも賞賛獲得欲求が高いことが示された このことから, 賞賛獲得欲求が高い人は, その時期の自分の興味 関心, または状態に応じて, 戦略的に装いを選択しているということが示唆された 第四章の調査 1 において, 痩身が他の装いの前提条件としての位置づけを有していることが示されたが, 今回の結果も, それを示唆しているといえた この, ある特定の装いが他の装いの前提条件になっているという現象についての検討は, 痩身のみならず装いの心理的メカニズムの解明に有用と考えられた 第六章においては, 痩身の印象管理モデル全体についての検討をおこなった 痩身の印象管理モデルは, 承認欲求は体型による印象管理予期へ影響し, 体型による印象管理予期は, 痩身願望に影響し, さらに, 痩身願望はダイエットに影響するという関連を示している内容である 承認欲求は, 賞賛獲得欲求および拒否回避欲求の 2 つを, また, 体型による印象管理予期は, 痩身体型ベネフィット認知および現体型コスト認知を扱った 具体的には, 他者からの肯定的評価についての印象管理予期である痩身体型ベネフィット認知は賞賛獲得欲求の影響を受け, 一方, 他者からの否定的評価についての印象管理予期である現体型コスト認知は拒否回避欲求の影響を受け, そして, それぞれ痩せ願望を経由してダイエットに関連するというモデルである さらに, 拒否回避欲求が現体型コスト認知を経由で痩身体型ベネフィット認知に影響を与えている可能性もあることから, 現体型コスト認知から痩身体型ベネフィット認知へのパスも加えたモデルも扱い比較検討することとした なお, 本研究では, 印象を与える他者の性質について明らかにするために, 他者の性別を同性と異性に区別し扱った 大学の女子学生ら 457 名を対象に, このモデルの検討をおこなったところ, 痩身の印象管理モデルの妥当性が示された このことから, 痩身願望は, 承認欲求を背景とした他者評価への認知が要因の一つとなっている行動ということが可能であり, さらに, このことは, 承認欲求そして他者評価への認知という観点, ひいては, 印象管理というプロセスからの痩身願望やダイエットへのアプローチが可能であることが示されたと言える なお, このモデルは, 他の装いにも拡張できる可能性が考えられ iv

た また, 同じ印象管理であっても,Leary(1983) の対人不安の自己呈示モデルとはそのプロセスが異なっていることが示され, 痩身願望やダイエットを検討する際に, 独自の印象管理モデルにて説明される必要性が示された ところで, 拒否回避欲求も, 現体型コスト認知を経由して痩身体型ベネフィットに影響し, 最終的にダイエットに関連していることが示された これは, 体型による印象管理予期を承認欲求と痩身の媒介要因としておくことの重要性, また, 痩身の印象管理のメカニズムの特徴を示していると考えられ, 従来の研究では十分に扱われてこなかった当該要因の重要さを確認できたといえる ところで, 評価する他者についてであるが, 性別に関して興味深い知見が得られた 体型に関する印象管理予期として扱った体型コスト ベネフィット認知と痩身願望の関連において, 評価する対象の性別にかかわらずその関連の仕方が同様であることが明らかになった そのことから, 他者として同性と異性を区別する必要が無く, 他者という因子を仮定し, それぞれの性別の対象への認知はその他者に対応する形で表出されたものである可能性が示唆された 第七章においては, 第六章において検討し支持された痩身の印象管理モデルの中の, 体型による印象管理認知と痩身願望の関連部分について, 状況を設定し, 他者の性質を考慮したうえで検討した 前章では, 痩身の印象管理モデルを検討するにあたり, 同性と異性という区別をおこない性別という要因についても検討したが, これだけでは, 他者の性質による影響を明らかにするには不十分といえる そこで, 本章ではこの他者について拡張し, 親密度の違いという要因も含めて検討することとした 具体的には, 親密度の違いとして, 仲の良い友人, 多少知っている知り合い, そして, 見知らぬ他人の 3 種を設定し, それらに対する印象管理予期と痩身願望の関連について検討した なお, 対象の親密度だけではなく, 対象の性別についても扱った これらの対象について, 一般的な状況と身体がより強調される状況の 2 つの状況を設定し, 各状況における各対象についての印象管理予期と, 状態としての痩身願望の関連について明らかにすることとした 印象管理予期については, 前章と同様に, 体型コスト ベネフィット認知を扱った 大学の女子学生ら 253 名を対象に検討したところ, 体型による印象管理予期は, 状況や対象の性別, また親密度にかかわらず, その状況での痩身願望と関連していることが明らかになった 印象管理予期と状態痩身願望の関連について, 状況や親密度, そして, 性別による差異を詳細に検討したところ, 興味深い知見が得られた 性別については異性の方が, 親密度についてはその親密さの程度が中くらいもしくは低い方が, 状態痩身願望と強く関連していることが明らかになった それぞれの性別と親密度毎の体型による印象管理予期と状態痩身願望の関連の強さに加え, 各状況, そして各対象の痩身体型ベネフィット認知および現体型コスト認知の程度とあわせて考えると, 高次の因子として他者の評価に対する意識が存在し, それが状況や対象によって顕在化しているとみなした方が適切な可能性が考えられた これらについては, 前章と同様の知見が得られたといえる 本研究の結果から, 体型による印象管理予期において評価する対象の性別や親密度という要因が痩身願望との関連において v

どのような影響力を有しているかについて明らかになったといえ, 痩身の印象管理モデルの当該部分について, より詳細に明らかにすることができたといえる さらに, このことにより, 痩身の印象管理モデルの妥当性が示されたといえる なお, 各対象毎の体型による印象管理予期であるが, 同性 異性ともに, 大まかには逆 U 字型, つまり, 親しさが半知りの相手に対する評価が高いという結果であり, 少なくとも親密度により直線的な関連を有しているわけではなかった これは, 女性の外見に対する意識の一端を表しているといえた また, このことからも, 痩身の印象管理のメカニズムが, 対人不安や羞恥心のそれとは大きく異なっていることが示された 第八章では, 第一章から第七章のまとめと, 本論文の意義について述べた 本論文では, 痩身を装いの中に位置づけることが有用であること, また, 痩身願望やダイエットが印象管理のメカニズムで説明可能なことを示したが, これらが本研究の意義といえる 従来の観点, つまり, 摂食障害の原因や肥満の治療方法としての位置づけではなく, 一般の人が普通におこなう装いとして痩身を位置づけ, その枠組みから検討することにより, 痩身の心理的メカニズムをより適切に, そして深くとらえることができるようになったと考えられる また, 痩身が他の装いの前提条件として位置づけられていることが示唆され, より一層, 痩身の装いにおける位置づけとその意義について示されたといえよう 従来の研究においては痩身を装いの中に位置づけようとする試みはおこなわれなかったが, 本研究はその点で極めて独自性を有しており, また, そこにおいて明らかになった装いにおける痩身の位置づけやそのメカニズムの解明は, 非常に有益であると考えられる そして, 装いの機能の一つである対他的機能に関する部分について, 印象管理という視点から説明可能であったことは, 痩身願望やダイエットをより深く, また, 学術的に扱いうることも示すことができたと考えられる このことは, 痩身願望やダイエットの研究, さらに, 装いの研究の今後の発展可能性の一端を示したと考えられる このように, 今回の研究枠組みとそこで得られた知見は, 独自性を有しつつ, 有用であると考えられ, この枠組みからの今後の研究が期待される 第九章においては, 本論文の問題点と今後の課題についてまとめた 本論文にはいくつかの限界が認められるが, それぞれの内容について問題点を挙げ, そして, それらについての今後の課題について述べた 以上が本論文の概要である 痩身を装いの枠組みで検討するという新たな観点からのアプローチが可能であることが示されたことも含め, 本論文によって得られた知見は, 痩身の心理的メカニズムの解明に寄与すると考えられる vi