Microsoft Word 今村三千代(論文要旨).docx

Similar documents
夫婦間でスケジューラーを利用した男性は 家事 育児に取り組む意識 家事 育児を分担する意識 などに対し 利用前から変化が起こることがわかりました 夫婦間でスケジューラーを利用すると 夫婦間のコミュニケーション が改善され 幸福度も向上する 夫婦間でスケジューラーを利用している男女は 非利用と比較して

man2

(Microsoft Word

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

論文内容の要旨

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

Microsoft Word - 209J4009.doc

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

Microsoft Word - 210J4061.docx

(Microsoft Word \227F\210\344\226\203\227R\216q\227v\216|9\214\216\221\262.doc)

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

3. 家族とのコミュニケーションを増やしたい さらに 家庭で使いやすい IT ツールがあれば使ってみたい と思う オンライン家族 予備軍は 41.2% 家族とのコミュニケーションに IT ツールを 2~3 日に 1 回以下 の頻度で使っている人の中には 今よりも 家族とのコミュニケーションを増やした

01表紙福島

<4D F736F F F696E74202D AAE90AC94C5817A835F C581698FE39E8A90E690B6816A2E >

困窮度別に見た はじめて親となった年齢 ( 問 33) 図 94. 困窮度別に見た はじめて親となった年齢 中央値以上群と比べて 困窮度 Ⅰ 群 困窮度 Ⅱ 群 困窮度 Ⅲ 群では 10 代 20~23 歳で親となった割 合が増える傾向にあった 困窮度 Ⅰ 群で 10 代で親となった割合は 0% 2

DV問題と向き合う被害女性の心理:彼女たちはなぜ暴力的環境に留まってしまうのか

冊子.indd

15 第1章妊娠出産子育てをめぐる妻の年齢要因

Microsoft Word - manuscript_kiire_summary.docx

Unknown

初めて親となった年齢別に見た 母親の最終学歴 ( 問 33 問 8- 母 ) 図 95. 初めて親となった年齢別に見た 母親の最終学歴 ( 母親 ) 初めて親となった年齢 を基準に 10 代で初めて親となった 10 代群 平均出産年齢以下の年齢で初めて親となった平均以下群 (20~30 歳 ) 平均

Microsoft Word - 概要3.doc

~「よい夫婦の日」、夫婦間コミュニケーションとセックスに関する実態・意識調査~

調査研究方法論レポート

Microsoft Word - ★調査結果概要3.17版new.doc

1 調査目的 今年度策定する 津山市総合戦略 で 子どもを産み 育てやすい環境づくりに 向けた取組みを進めるにあたり 出産 子育ての現状を把握するために実施した 2 調査内容の背景と設問設定理由国では 出生率を 2.07 まで高めることで 2060 年に現状の社会構造を維持できる人口 1 億人程度を

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

Microsoft Word - 212J4055.docx

平成18年度推進計画の進行状況_参考資料

夫婦の家事分担に関する調査

 

Powered by TCPDF (

出産・育児・パートナーに関する実態調査(2015)

=平成22年度調査結果の概要===============

<4D F736F F D F18D908F B B8F9C82AD816A2E646F63>

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

初めて親となった年齢別に見た 就労状況 ( 問 33 問 8) 図 97. 初めて親となった年齢別に見た 就労状況 10 代で出産する人では 正規群 の割合が低く 非正規群 無業 の割合が高く それぞれ 22.7% 5.7% であった 初めて親となった年齢別に見た 体や気持ちで気になること ( 問

アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国の中学 3 年生までの子どもをもつ父親 母親およびその子どものうち小学 4 年生 ~ 中学 3 年生までの子 該当子が複数いる場合は最年長子のみ 2. サンプル数父親 母親 1,078 組子ども 567 名 3. 有効回収数 ( 率 ) 父親 927

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F DC58F49817A2E646F63>

調査会社から提供された予想回答率から配信数を決定し調査を行った結果, 配信数 名に対し, 名の回答が回収された ( 調査協力率 :14.5%) さらに, スクリーニング調査の 1 週間後に本調査の 1 回目を実施した スクリーニング調査において 過去一ヵ月以内に インターネ

養護教諭を志望する 学生のアイデンティティ と特徴 森恭子 後藤和史 後藤多知子 ( 愛知みずほ大学 )

( 別刷 ) 中年期女性のジェネラティヴィティと達成動機 相良順子伊藤裕子 生涯学習研究 聖徳大学生涯学習研究所紀要 第 16 号別冊 2018 年 3 月

研究年報62集1号

岡正 荒島 : 保育者に求められる子ども 子育て支援のための地域福祉アセスメントツール開発に向けた基礎研究 子育て支援のための地域福祉アセスメントツール開発に向けた基礎研究 保幼小の円滑な接続のための資料としては 保育所で子どもの育ちを支えるための資料を 保育所児童保育要録 として小学校へ送付するこ

中カテゴリー 77 小カテゴリーが抽出された この6 大カテゴリーを 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーの構成概念とした Ⅲ. 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストの開発 ( 研究 2) 1. 研究目的研究 1の構成概念をもとに 地域包括支援センター保健師のコンピテンシーリストを

資料2(コラム)

ご主人へはチョコレート ( または贈り物 ) を贈りましたか? 93% (6,740) 7% (534) 贈った 贈らなかった (n=7,274 バレンタイン直後実施アンケート結果 ) 夫はホワイトデーに贈り物をしない? ご主人にバレンタインデーの贈り物をした人に ご主人からホワイトデーの贈り物はあ

第4章妊娠期から育児期の父親の子育て 45

小学生の英語学習に関する調査

Microsoft Word - notes①1210(的場).docx

<4D F736F F D20819C B83678C8B89CA94E48A E C668DDA97706E65772E646F63>

26 問題 近年, 人口減少と少子高齢化の急速な進展に対する危機感から, 社会が女性に求める役割は多様化の一途をたどっている 日本政府により平成 19 年には 仕事と生活の調和 ( ワーク ライフ バランス ) 憲章, 平成 27 年には 女性活躍推進法 が策定され, 多様な働き方 生き方が選択でき

ブック 1.indb

出産・育児調査2018~妊娠・出産・育児の各期において、女性の満足度に影響する意識や行動は異なる。多くは子どもの人数によっても違い、各期で周囲がとるべき行動は変わっていく~

Microsoft Word - news1205b訂正版.doc

PowerPoint プレゼンテーション

QOL) を向上させる支援に目を向けることが必要になると考えられる それには統合失調症患者の生活の質に対する思いや考えを理解し, その意向を汲みながら, 具体的な支援を考えなければならない また, そのような背景のもと, 精神医療や精神保健福祉の領域において統合失調症患者の QOL 向上を目的とした

問題 近年, アスペルガー障害を含む自閉症スペク トラムとアレキシサイミアとの間には概念的な オーバーラップがあることが議論されている Fitzgerld & Bellgrove (2006) 福島 高須 (20) 2

News Release 2019 年 4 月 5 日共働き世帯のおふろ掃除 調理などの 家事シェア 実態と意識調査女性が誰かに任せたいトップ 3 は おふろ掃除 食後の洗いもの 調理 25~34 歳ミレニアル世代男性のおふろ掃除率は 45~49 歳より 24.6 ホ イント高い ~IoT 家電を使

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

男女共同参画に関する意識調査

<4D F736F F D20819D819D F F9193C18F FEA816A8DC58F4994C52E646F6378>

地域包括支援センターにおける運営形態による労働職場ストレス度等の調査 2015年6月

Medical3

た 観衆効果は技能レベルによって作用が異なっ 計測をした た 平均レベル以下の選手は観衆がいると成績が 下がったが, 平均以上の選手は観衆に見られると成績が上がった 興味深いことに, 観衆効果は観衆の数に比例してその効果を増すようである ネビルとキャン (Nevill and Cann, 1998)

第 3 章 保護者との関わり 子育て支援 に来園する親子の平均組数は 国公立で 14.1 組 私立で 19.2 組だった ( 図 表 3-3-1) では どのようなことを親子は体験しているのだろうか 実施内容について複数回答で聞いたところ 私立幼稚園と国公立幼稚園で違いがみられた (

1. 交際や結婚について 4 人に3 人は 恋人がいる または 恋人はいないが 欲しいと思っている と回答している 図表 1 恋人が欲しいと思わない理由は 自分の趣味に力を入れたい 恋愛が面倒 勉強や就職活動に力を入れたい の順に多い 図表 2 結婚について肯定的な考え方 ( 結婚はするべきだ 結婚

自己愛人格目録は 以下 7 因子が抽出された 誇大感 (α=.877) 自己愛憤怒 (α=.867) 他者支配欲求 (α=.768) 賞賛欲求 (α=.702) 他者回避 (α=.789) 他者評価への恐れ (α=.843) 対人過敏 (α=.782) 情動的共感性は 以下 5 因子が抽出された 感


結婚しない理由は 結婚したいが相手がいない 経済的に十分な生活ができるか不安なため 未婚のに結婚しない理由について聞いたところ 結婚したいが相手がいない (39.7%) で最も高く 経済的に十分な生活ができるか不安なため (2.4%) 自分ひとりの時間が取れなくなるため (22.%) うまく付き合え

2. 調査結果 1. 回答者属性について ( 全体 )(n=690) (1) 回答者の性別 (n=690) 回答数 713 のうち 調査に協力すると回答した回答者数は 690 名 これを性別にみると となった 回答者の性別比率 (2) 回答者の年齢層 (n=6

第 3 章各調査の結果 35

PowerPoint プレゼンテーション

「夫婦関係調査2017」発表

ANOVA

部のうち今回使用する属性 ( 性別 年齢 自身の学校区分 居住形態 ) が揃っている 967 部 ( 有効回答率 100%) を分析に使用した 分析に使用したデータにおいて 男性が 465 人 (48.1%) 女性が 502 人 (51.9%) で男女に差がない 年齢では 19 歳と答えた人が 31

Microsoft Word - 12_田中知恵.doc

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

因子分析

07-p61-67cs6.indd

従業員満足度調査の活用

25~44歳の子育てと仕事の両立

様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 内田遼介 ) 論文題名 スポーツ集団内における集合的効力感の評価形成過程に関する研究 論文内容の要旨 第 1 章研究の理論的背景集団として 自信 に満ちた状態で目前の競技場面に臨むことができれば, 成功への可能性が一段と高まる これは, 競技スポーツを経験してきた

(Microsoft Word - \222\206\220\354\221\361\227v\216|)

実習指導に携わる病棟看護師の思い ‐ クリニカルラダーのレベル別にみた語りの分析 ‐

人生100年時代の結婚に関する意識と実態

小学校の結果は 国語 B 算数 A で全国平均正答率を上回っており 改善傾向が見られる しかし 国語 A 算数 B では依然として全国平均正答率を下回っており 課題が残る 中学校の結果は 国語 B 以外の教科で全国平均正答率を上回った ア平成 26 年度全国学力 学習状況調査における宇部市の平均正答

56_16133_ハーモニー表1

(1) 庁内外の関係機関と密に連携を図りつつ必要に応じてひとり親家庭を訪問 1 背景ひとり親家庭からの相談窓口に寄せられる相談件数は増加傾向にある また養育に問題を抱える父母からの相談 父母や子どもが精神的に不安定であるケースに関する相談等 相談内容やその背景も複雑化してきていることから 碧南市では

( 続紙 1) 京都大学博士 ( 教育学 ) 氏名田村綾菜 論文題目 児童の謝罪と罪悪感の認知に関する発達的研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は 児童 ( 小学生 ) の対人葛藤場面における謝罪の認知について 罪悪感との関連を中心に 加害者と被害者という2つの立場から発達的変化を検討した 本論文は

<30348FE391EB93D58E F648BB482CC82BC82DD2E696E6464>

.A...ren


過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

Microsoft Word - ギャラップ:民主党は資本主義より社会主義についてより肯定的.docx

寺島圭

Microsoft Word - 8章 .doc

調査結果からみえてきたこと 2017 年の出生数は 1899 年の統計開始以降 最も少ない 94.6 万人になりました 急速な少子化の進行は 日本の人口構造に変化を与え 労働力不足や社会保障の在り方など さまざまな面に課題をもたらします こうした社会環境の中にあって 0~1 歳児を育てている母親の

<4D F736F F D208F9790AB82AA979D917A82C682B782E B835882CC8C588CFC82C982C282A282C42E646F6378>

Transcription:

父親の育児家事参加と母親の育児不安の検討 - 家庭内ゲートキーパーに着目して - Maternal Gatekeeping ; Father Involvement in Family Work and Mother Anxiety 児童学研究科児童学専攻 2001124012 今村三千代 問題と目的日本の親研究は, 父親の子育て関与が母親の精神的健康や子どもの発達に対して良い影響があることを繰り返し報告してきたが, 母親自身が父親の関与を封じてしまう可能性についてはほとんど検討されてこなかった ( 加藤, 黒澤, 神谷,2012) アメリカの研究で報告されている Maternal Gatekeeping という現象は, この 母親自身が父親の関与を封じてしまう可能性 について検討したものである S. M. Allen and Alan J. Hawkins(1999) は, 育児家事労働における夫婦間の協力関係を妨げる信念と行動を Maternal Gatekeeping とし, 母親のもつこだわりと責任感, 母親としてのアイデンティティ, 役割分業観の 3 次元からなる母親のゲートキーパー傾向を示した Maternal Gatekeeping に関する研究は主にアメリカで多数報告されており,(S.J.Schoppa-Sullivan, G.L.Brown,E.A.Cannon,S.C.Mangelsdorf 2008,M.Lee 2010,L.E.Altenburger 2012,Gaunt 2008, Fagan and Barnet 2003 など ), 母親は父親の育児家事関与を抑制するだけではなく促進する働きをもつという複数の報告もある (Sokolowski2007, Cannon et al.2008) 日本では, この点に関連して, 加藤 (2007) が父親からの援助に対する母親の抵抗に焦点をあてた 中川 (2010) は, 伝統的な性別役割分業観や Maternal gatekeeping(s.m.allen et al,1999) の意識によって, 夫への働きかけという行動が抑えられることを示唆している さらに中川は S.M.Allen et al. の Maternal gatekeeping を, 妻の育児 家事への責任意識 ( 家庭責任意識 ) とし, 妻の家庭責任意識と育児家事遂行が夫の育児家事行動を制約することを示唆した Allen et al. の主張する Maternal gatekeeping が家庭責任意識と同義であるかという点には検討の余地が残るが, 少なくとも夫の育児家事参加には社会的要因や夫だけでなく妻自身の要因が重要であることを示したのである 母親の子育てのストレスを軽減するもっとも重要な要因は夫である ( ハロウェイ,2014) にもかかわらず, この最も頼るべき父親の育児家事参加への抵抗を示すという母親は, どの 1

ような状態に置かれているのであろうか 育児家事関与が先進国のなかで最も少ない (OECD) といわれる日本の父親たちは, この母親にどう影響を与えているのであろうか そして父親の育児家事参加を抑制するという母親は, 中川のいう 家庭責任意識 をもって積極的に育児家事を引き受け, 生き生きと過ごしているのであろうか この問いに答えることは, 育児支援を充実させるために意味のあることと思われた 本研究では, アメリカを中心に研究され, 中川が 家庭責任意識 とした Maternal Gatekeeping という概念を著者なりに捉えなおし, その実情について踏み込んだ分析を試みた あわせて父親の育児家事参加がこのゲートキーパーにどう影響を与え, 母親自身の育児不安とどう関連しているかを検討した 父親の育児家事行動を抑制または促進する母親の信念と行動を家庭内ゲートキーパーと定義し, 父親の育児家事参加, 母親自身の育児不安との関連を調べるため, 以下の仮説をたてて検証をおこなった 父親の育児家事参加は母親の家庭内ゲートキーパー行動と関連がある ( 仮説 1) 父親の育児家事行動が長いほど母親の育児不安が低く, 短いほど母親の育児不安は高い ( 仮説 2) 家庭内ゲートキーパーは母親自身の育児不安と関連がある( 仮説 3) 予備調査父親の育児家事参加と母親の育児不安との関連を検討するため, 母親が子育てをする過程で抱える思いを理解することを目的とする 方法 A 県内の幼稚園の未就園児クラスに参加する母親 78 名を対象に, 質問紙調査を行った 子どもを育てる過程で得られる肯定的あるいは否定的感情などについて自由記述形式で回答を求めた 調査時期は 2013 年 6 月であった 結果子どもの行動や発達について自分のこと以上に強い関心を寄せていた 本調査 1 目的家庭内ゲートキーパー尺度と家庭生活感尺度を作成することを目的とする 方法 A 県内の幼稚園に通う 3 歳から 5 歳の子を持つ母親 270 名を対象に質問紙調査を行った 209 名から回答があり, 回収率は 77% であった 調査時期は 2014 年 12 月であった 2

家庭内ゲートキーパー尺度 ( 自作 ) 父親の育児家事参加を抑制または促進する母親の心理, 行動傾向を測定する尺度は日本では見当たらなかったため, 新たに作成した 作成にあたっては,S.M.Allen et al. (1999) の Maternal Gatekeeping Dimension と Jay Fagan and Marina Barnett(2003) の Maternal Gatekeeping Scale を参考に項目を収集し,4 件法で回答を求めた 結果家庭内ゲートキーパー尺度の因子構造主因子法プロマックス回転による因子分析の結果, 配慮と支援 家事否定 諦め 縄張り意識 の4 因子が抽出された これは S.M.Allen et al. の Maternal Gatekeeping Dimension の3 次元構造とは一部異なっていた 諦め と 縄張り意識 は先行研究において指摘されておらず, アメリカにおける先行研究とは異なる因子構造が認められ, 日本の独自性があらわれた結果となった 家庭生活感尺度 ( 自作 ) 予備調査で得られた 子どもを育てる過程で得られる肯定的 否定的感情 と, 育児不安尺度の作成に関する研究 ( 吉田 山中 巷野 太田 山口 牛島,2013) を参考に, 家庭生活の満足度に関する質問紙を作成し, 就学前の子どもを育てる母親の肯定的, あるいは否定的な心理状態について回答を求めた 結果家庭生活感尺度の因子構造主因子法プロマックス回転による因子分析の結果, 家庭満足感 不平等感 育児不安 家庭責任感 の4 因子が抽出された これらの尺度を以後の研究に用いた 本調査 2 父親の育児家事参加と育児不安との関連 - 家庭内ゲートキーパーに着目してー目的以下の3つを目的とする 第 1に父親の育児家事参加と母親の家庭内ゲートキーパーとの関連を明らかにする 第 2に父親の育児家事参加と母親の家庭生活感との関連を明らかにする 第 3 に家庭内ゲートキーパーと母親自身の育児不安との関連を明らかにする 方法 A 県内の幼稚園に通う 3 歳から 5 歳の子をもつ母親計 270 名を対象に質問紙調査を行 3

い,209 名から回答があった 2014 年 12 月に調査を実施した フェースシートで父親の育児家事参加の時間について尋ね, 本研究 1 で作成した家庭内ゲートキーパー尺度と家庭生活感尺度を使用して質問紙調査を行った 結果父親の育児家事時間の長短による母親の家庭内ゲートキーパーの差父親の育児家事参加時間を短い順から3 群にわけて独立変数とし, 家庭内ゲートキーパーの下位尺度を従属変数とした一元配置の分散分析を行った 分析の結果, 父親の育児家事参加は母親の配慮と支援行動を促進し, 諦めの感情を抑制することが明らかになった 一方父親の育児家事参加時間が中程度の時に母親の家事否定と縄張り意識の平均得点が高くなり, 父親の参加が長くなるほど母親の家事否定と縄張り意識の平均得点は低くなった 仮説 1 父親の育児家事参加は母親の家庭内ゲートキーパー行動と関連がある は支持された 父親の育児家事参加と母親の家庭生活感の関連父親の育児家事参加時間を短い順から 3 群にわけて独立変数とし, 家庭生活感の下位尺度を従属変数とした一元配置の分散分析を行った その結果, 父親の育児家事参加は母親の家庭満足感を高め, 一方で父親の育児家事参加が少ないほど母親の家庭責任感が高まった 父親の育児家事参加が少ないほど母親の不平等感は高まるが, 父親の平日の育児時間は母親の抱く不平等感に影響を与えなかった また休日の父親の育児関与は母親の育児不安に影響を与えないが, 平日に父親が育児に関わる時間が少ない場合母親の育児不安が高まった 父親の留守中に子育てに一人で向き合う母親のかかえる不安をあらわす結果となった 仮説 2の 父親の育児家事行動が長いほど母親の育児不安が低く, 短いほど母親の育児不安は高い は一部支持された 家庭内ゲートキーパー尺度と家庭生活感の関連家庭内ゲートキーパーの下位尺度を独立変数とし, 家庭生活感を従属変数とした一元配置の分散分析を行った 夫の育児家事行動に対して配慮と支援を怠らない母親は家庭満足感が高く, 夫に対して諦めの感情をもつ母親は家庭満足感が低かった また夫の家事参加に対して否定的な態度をとる母親は夫婦間の育児家事分担に不満を抱いており, 育児不安が高く, 責任感が強い傾向にあった 縄張り意識の強い母親は, 不平等感と育児不安が高かった 仮説 3 家庭内ゲートキーパーは母親の育児不安と関連がある は支持された 4

総合考察本研究の目的は, 頼るべき父親の育児家事参加を抑制する母親の心理と行動について, 実態を把握し, 父親の育児家事参加と母親自身の育児不安との関連を調べることであった 分析の結果, 家庭内ゲートキーパーには, 配慮と支援 家事否定 諦め 縄張り意識 の4つの傾向があることが認められ, アメリカで指摘されている Maternal gatekeeping とは異なった因子が抽出された 父親の育児家事参加は母親の 配慮と支援 に影響を与えていたことが明らかになった 平日の父親の家事参加が増えるほど妻の家事否定は減少した 平日の父親の家事参加は母親の父親に対する否定的な態度を抑制する可能性が示唆された この 家事否定 は 手伝う夫を家事から遠ざける妻のいやがらせ という妻の行動を説明し より多く父親が家事をこなせば妻の否定的な行動は少なくなると言える 諦め はアメリカの先行研究では指摘されなかったが, 父親の育児家事遂行時間, 家庭生活感のいずれとも強い影響が認められた この傾向が日本独自のものであるかは今後の検討課題であるが, 先行研究が共働きの夫婦や離婚家庭を対象としていたのに対し, 本研究の対象者のおよそ6 割が専業主婦であったことも考慮にいれる必要があるだろう 調査により, 父親の育児家事参加が少ないほど母親の 諦め の念が強くなり, 夫に対する不満や育児不安を募らせていく母親の心理状態が明らかになった 諦めが強い母親は家庭満足感が低く, より強い責任感をもっていた 縄張り意識 は, ゲートキーパーという言葉自体があらわす 門番 という概念と共通の, ある種の囲い込みともいえる母親の心理状態を表すものである 家庭内で重要な位置を占める育児家事という領域に母親自身が固執し, 父親にその領域を明け渡すことに抵抗を感じる母親の心理状態を表している この縄張り意識は父親の家事参加が中程度のときが最も強くなり, 父親の家事参加がより多くなると縄張り意識は弱くなった 父親の家事参加が母親の縄張り意識を抑制する可能性が示唆された 家庭生活感との関連においては, 縄張り意識が高い母親は夫に対する強い不平等感を抱き, 育児不安が高かった 自分で育児家事の領域を囲い込んで父親に明け渡さず, 結果として不平等感と育児不安を募らせるという, 自縄自縛ともいえる母親像が明らかになった 5