表紙

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Bull. Nagano Environ. Conserv. Res. Inst. No.8(2012) 3. 結果および考察 3.1 長野県における手足口病患者およびヘルパンギーナ患者からのエンテロウイルス検出状況 手足口病患者およびヘルパンギーナ患者 67 検体のうち, が 45 株 (67 %

平成 28 年度愛媛衛環研年報 19 (2016) 愛媛県において手足口病患者検体より検出されたコクサッキーウイルス A6 型の遺伝子解析 越智晶絵溝田文美 *1 山下育孝 *2 木村俊也 *3 井上智四宮博人 Detection and genetic analysis of Coxsackiev

埼衛研所報第 52 号 2018 年 埼玉県におけるエンテロウイルス検出状況について ( 年度 ) 中川佳子篠原美千代富岡恭子鈴木典子峯岸俊貴小川泰卓青沼えり内田和江岸本剛 Enterovirus Isolated in Saitama Prefecture(April 2016-

Microsoft Word - 【要旨】_かぜ症候群の原因ウイルス

図 年岡山県における手足口病発生状況 図 2 保健所別患者発生状況 2.2 方法患者発生状況は, 毎週の患者報告数から1 定点医療機関あたりの患者数 ( 定点あたり患者数 ) を算出し, 保健所別, 年齢群別に比較解析した 流行開始時期の判定は, インフルエンザで用いられる定点あたり患

図 /2010~2015/2016 におけるシーズン毎の検出状況 ( 丸の大きさが検出数の程度を表し グラフ内の数字が検出数を示す ) 図 2. RdRp 領域と VP1 領域の遺伝子型の分類 及び検出状況 /2016~2016/17(2 シーズン ) における VP1

案1 SIDMR

分離ヒトアデノウイルスの遺伝子学的型別法を用いた同定法の確立

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2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

大阪府の市街地における蚊の調査について

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顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

Microsoft Word - WIDR201826

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

<4D F736F F D E95F14E565F838C D955F907D90E096BE5F8F4390B394C5816A2E646F63>

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

Microsoft Word - WIDR201839

1 月号は以下の情報を掲載しています 1. 茨城県感染症発生動向調査事業に基づく試験検査 検出状況 1) 全数把握疾患 2) 病原体定点依頼検査その他の検査 3) 集団 ( 施設や学校等 ) 事例 月別検出件数 1) 三類 四類 五類 ( 全数把握 ) 2) 五類 ( 定点 ) その他の検査 3)

Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

表 3 衛研番号 複数のウイルスが検出された検体 検出ウイルス採取月日診断名年齢性別住所咽頭糞便 Polio 1 Polio 2 H 腸重積 11 ヶ月女福島市 Adeno 2 Noro virus GⅡ H 急性腸

鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

1

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

広島市衛研年報 36, 46-51(2017) 2016/17 シーズンに広島市で流行したノロウイルス GⅡ.2 の遺伝子解析 * 藤井慶樹則常浩太兼重泰弘八島加八 山本美和子 松室信宏 2016/17 シーズンは全国的にノロウイルス (NoV)GⅡ.2 を原因とする感染性胃腸炎が多発し, 広島市に

広島市衛研年報 35, 52-60(2016) 2005/06 シーズンから 2015/16 シーズンまでに検出されたノロウイルス GⅡ の遺伝子型解析と流行状況の分析 藤井慶樹則常浩太八島加八山本美和子 松室信宏 石村勝之 2005/06 シーズンから 2015/16 シーズンまでの間に, 広島市


感染症情報22週(週報)

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定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

Microsoft Word - H30eqa麻疹風疹実施手順書(案)v13日付記載.docx

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

Ⅰ 滋賀県感染症発生動向調査事業の概要

熊本県感染症情報 ( 第 14 週 ) 県内 165 観測医の患者数 (4 月 4 日 ~4 月 10 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 10 8 ヘルパンギーナ 6 5 咽頭結膜熱 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り 2. 平成 3 年 月 29 日 ~ 3 月 4 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

Microsoft Word - H24年報表紙・目次・合紙

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り. 平成 3 年 2 月 5 日 ~ 3 月 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

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鹿児島県感染症発生動向調査事業 感染症のホームページアドレス 咽頭結膜熱の報告数は, 前週と同数の 59 人 ( 定点当たり 報告数 1.09) でした 保

日産婦誌58巻9号研修コーナー

別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 歳 歳以上 合計 ( 注 ) *

記号の説明 前からの推移 : 倍以上の減少.~ 倍未満の減少. 未満の増減.~ 倍未満の増加 倍以上の増加流行状況 : 空白発生なし 僅か 少し やや多い 多い 非常に多い 定点当り患者数について 過去 年間の標準偏差値に感染症の種類毎に係数を乗じた値を 等分し 流行状況の目安として 段階で表示して

汎発性膿庖性乾癬の解明

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流行の推移と発生状況疾病名 推移 発生状況 疾病名 推移 発生状況 インフルエンザ RSウイルス感染症 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎 水痘 手足口病 伝染性紅斑 突発性発疹 百日咳 ヘルパンギーナ 流行性耳下腺炎 急性出血性結膜炎 流行性角結膜炎 細菌性髄膜炎 無菌性髄膜炎

耐性菌届出基準

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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広島市衛研年報 34, 37-43(2015) 2014/15 シーズンにおけるノロウイルス GⅡ/11 の流行 *1 藤井慶樹則常浩太加藤寛子 *1 瀧口由佳理 八島加八 山本美和子 京塚明美 石村勝之 *2 野田衛 2014/15 シーズンに広島市で発生した食中毒や有症苦情事例の患者便から検出さ

山梨県週別発生動向 疾病推移状況定点報告数定点報告数定点報告数定点報告数 インフルエンザ横ばいです 平年並みです RS ウイルス感染症減少しています平年並みです 咽頭結膜熱

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Microsoft Word - 案1 week14-21

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

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計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 0-5 ヶ月 6-11 ヶ月 1 歳 歳以上 合計 (

2001~2002年度の札幌市における

東京都感染症発生動向調査事業実施要綱

記号の説明 前からの推移 : 倍以上の減少.~ 倍未満の減少. 未満の増減.~ 倍未満の増加 倍以上の増加 流行状況 : 空白発生なし 僅か 少し やや多い 多い 非常に多い 定点当り患者数について 過去 年間の標準偏差値に感染症の種類毎に係数を乗じた値を 等分し 流行状況の目安として 段階で表示し

表 1. 疾病別の被検者数及び検体件数内訳 疾病名インフルエンザ様疾患麻しん風しんデング熱ジカ熱日本脳炎 SFTS リケッチア感染症無菌性髄膜炎手足口病ヘルパンギーナ発疹症感染性胃腸炎流行性角結膜炎その他計 被検者数 ( 人 ) 検体数 ( 件 ) 咽頭拭い液鼻腔拭い液糞便髄液血液血清尿その他 19

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症.6 伝染性紅斑 りんご病

インフルエンサ 及び小児感染症の疾病別推移グラフ 平成 年 京都市 _ 本年 全国 _ 本年 京都市 _ 過去 5 年平均値 全国 _ 過去 5 年平均値 6 インフルエンザ 8 手足口病 RS ウイルス感染症

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

「組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性審査の手続」の一部改正について

疾患名 平均発生規模 ( 単位 ; 人 / 定点 ) 全国 県内 前期 今期 増減 前期 今期 増減 県内の今後の発生予測 (5 月 ~6 月 ) 発生予測記号 感染性胃腸炎 水痘

クチ ワ ン で安心 予防接種は集団生活前に子育て応援券を有効活用 感染症発生動向速報 ( 平成 31 年第 10 週分 3 月 4 日 ~3 月 10 日 ) インフォメーション 予防接種をご確認くださいこの春から保育所 幼稚園に通い始めるお子さんも多いと思います 一般に乳幼児は感染症に対する抵抗

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

Microsoft Word - 【H29-5F】報文 修正版4

各特別区保健衛生主管部長 八王子市保健衛生主管部長 町田市保健衛生主管部長 殿 31 福保健感第 488 号 令和元年 7 月 4 日 東京都福祉保健局健康安全部長 ( 公印省略 ) 都内における手足口病の発生状況に係る情報提供等について 平素より都の保健衛生施策に御理解と御協力をいただき厚く御礼申

平成 25 年 8 月号目次 トピックス 横浜市における 2012/2013 シーズンのインフルエンザウイルス流行株の解析 1 平成 24 年度薬事検査について 5 感染症発生動向調査 感染症発生動向調査委員会報告平成 25 年 7 月 6 情報提供 衛生研究所 WEB ページ情報 ( 平成 25

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第 53 号 (2016) 35 資料 石川県におけるインフルエンザの流行状況 2015/2016 シーズン 石川県保健環境センター健康 食品安全科学部児玉洋江 成相絵里 崎川曜子 和文要旨 2015/16シーズンの集団かぜの発生施設数および患者数, 感染症発生動向調査事業のインフルエンザ累積患者報

1. 腸管出血性大腸菌 (EHEC) の系統解析 上村健人 1. はじめに近年 腸管出血性大腸菌 (EHEC) による食中毒事件が度々発生しており EHEC による食中毒はその症状の重篤さから大きな社会問題となっている EHEC による食中毒の主要な汚染源の一つとして指摘されているのが牛の糞便である

Weekly Report on Aomori Prefecture Infectious Disease 青森県感染症発生情報 (2019 年第 3 週 ) 発行青森県感染症情報センター (2019 年 1 月 24 日 ) ( 青森県環境保健センター : 担当微生物部 ) TEL

TuMV 720 nm 1 RNA 9,830 1 P1 HC Pro a NIa Pro 10 P1 HC Pro 3 P36 1 6K1 CI 6 2 6K2VPgNIa Pro b NIb CP HC Pro NIb CP TuMV Y OGAWA et al.,

A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

平成14年度研究報告

Transcription:

12. 神奈川県で検出されたコクサッキーウイルス A6 型の 分子系統解析と臨床症状との関連 佐野貴子 近藤真規子 ( 神奈川県衛生研究所 ) 目的 コクサッキーウイルスは乳幼児を中心に夏季に流行する手足口病 ヘルパンギーナ 無菌性髄膜炎等の病因ウイルスの一つである 手足口病は口腔粘膜および手や足などに現れる水疱性発疹を主症状とし コクサッキーウイルス A16 型またはエンテロウイルス 71 型の感染が主な病因となっている 1) ヘルパンギーナは口腔粘膜に現れる水疱性発疹と発熱を特徴とする急性ウイルス性咽頭炎で コクサッキーウイルス A2 型 A4 型 A5 型 A6(CA6) 型等の感染によるものが多い 2) 神奈川県では 従来ヘルパンギーナの病因ウイルスであった CA6 型が 2011 年に手足口病患者から多数検出され 全国からも同様の報告が相次いだ 2012 年以降も手足口病患者から CA6 型株の検出が続いている 海外においては 2008 年に欧州 3) 2010 年に台湾 4) 2012 5) 年には米国等で CA6 型による手足口病の流行が報告されている この CA6 型による感染では 水疱性発疹が口腔粘膜だけでなく 手 足さらには大腿部や臀部にも出現していること 6),7) さらには回復後に爪甲脱落症の報告例もあることから 8),9) 病態の変化が顕著である また 乳幼児のみならず成人の発症例も報告されている 7) 神奈川県で手足口病を引き起こした CA6 型株の遺伝子学的特徴やその浸淫時期等を検証することは 今後の流行を監視する上で重要である 本研究では 神奈川県で検出された CA6 型株について過去に遡って遺伝子解析を実施し 海外で報告された CA6 型株の遺伝子データと合わせて分子系統解析を行うとともに 臨床症状との関連について調査を行った 材料と方法 1. 材料感染症発生動向調査事業において 2000~2013 年の間に神奈川県内の小児科病原体定点医療機関から得られた手足口病患者およびヘルパンギーナ患者の咽頭ぬぐい液から 中和試験 補体結合反応試験 遺伝子増幅法等で CA6 型と同定された 256 例のうち 哺乳マウス法により分離したウイルス株 104 例 (2000 年 13 例 2002 年 5 例 2003 年 1 例 2004 年 3 例 2005 年 10 例 2007 年 2 例 2008 年 12 例 2009 年 15 例 2010 年 19 例 2011 年 12 例 2012 年 4 例 2013 年 8 例 :2001 年と 2006 年は検体なし ) を用いた 2. 方法分離株から RNA 抽出を行い VP1 部分領域を標的とした 187, 188, 189/011 10) のプライマーセットを用いて RT-PCR 法を行った PCR 産物については ダイレクトシーケンス法によ - 57-

り VP1 領域の 765bp の塩基配列を決定した その後 米国生物工学情報センターが提供する塩基配列データベース (GenBank) に登録された海外 CA6 型株の VP1 領域の塩基配列データとともに分子系統解析を行った 遺伝距離は kimura-2-parameter 法を用いて推定し ブートストラップサンプリングを 1,000 回行い 近隣接合法にて系統樹を作成した 解析には MEGA version 6 ソフトウェア 11) を使用した また 医師が記入した検査票に基づき 患者の臨床所見 ( 年齢 発熱 体温 口内炎 上気道炎 胃腸炎 関節痛 ) を集計し 系統樹上分類したグループ間について統計解析を行った 解析法は 年齢と体温については Mann-Whitney U test その他症状については Fisher's exact test を用いた 3. 倫理的配慮今回 使用した検体は 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 の規定に基づく感染症発生動向調査において収集されたものである 本研究については 神奈川県衛生研究所倫理審査委員会の承認を受けた 結果 2000~2013 年に手足口病およびヘルパンギーナ患者検体から検出された CA6 型ウイルス株 104 例の VP1 部分領域 (765bp) の分子系統樹を図に示した 104 例中 42 例が 1 つのクラスターを形成しており ( ブートストラップ値 :98% グループ A) グループ A には 2009 年分離株 15 例中 2 例 (13%) 2010 年分離株 19 例中 16 例 (84%) 2011 年以降に分離された 24 例すべてが含まれていた グループ A で最も古い 2009 年の分離株 2 例は 10 月に手足口病と診断された患者から得られた また 2008 年にフィンランドで手足口病患者から検出された CA6 型 GenBank 登録株 ( アクセッション番号 KM114057) 2009 年と 2011 年の台湾株 (JN582001 JQ946050) 2011 年の静岡株 (AB678778) もグループ A に分類された グループ A 以外のグループ B には 2000~2010 年までの株が含まれており 年ごとにサブクラスターを形成する傾向にあったが 2011 年以降の株は含まれていなかった グループ間での VP1 領域の塩基配列の平均相違率は 3.9% アミノ酸では 0.3% であった グループ A の 42 例およびグループ B の 57 例 (62 例のうち症状未記載例 5 例を除いた ) について年齢や各症状を比較したところ 発疹の出現には有意差が見られたが 年齢 発熱 体温 口内炎 上気道炎 胃腸炎 関節痛には差が見られなかった ( 表 ) 神奈川県においては爪甲脱落症の報告例はなかった 考察 CA6 型は従来 ヘルパンギーナの原因ウイルスの一つであったが 2008 年に初めて欧州で CA6 型による手足口病の流行が報告された その後 2010 年に台湾 2011 年に日本 2012 年に米国で報告が続き 日本においては 2013 年に再び CA6 型による手足口病の流行が発生した 神奈川県において過去 14 年間に分離された CA6 型株 104 例について解析した結果 2009 年と 2010 年に分離された株の一部と 2011 年以降の分離株のすべてが一つのクラス - 58-

131425/HA 131402/HA 131410 75 131417 131431 検体番号の上二桁は西暦を示す 36 66 111636 111587 AB678778/CA6/Shizuoka18/2011 ( 例 )131425:2013 年検出株 検体番号に続く記号 (/HA) はヘルパンギーナ患者検体を示す *HA の標記のないものは手足口病検体である AB678778 KM114057 JN582001 JQ946050 AY421764 は CA6 の GenBank 登録株である AY421762 の CA4 High Point 株をアウトグループとして解析した 111584 40 111639/HA 41 95 111592/HA KM114057/CA6/Finland/2008 51 131450/HA 90 72 121652 121656 121643/HA 121644/HA 111574 111577 111565/HA 89 111622/HA 35 111621/HA 131545 131432/HA 64 101393 56 JN582001/CA6/1537/TW/2011 28 79 JQ946050/CA6/20/TW/2009 111618 98 111590/HA 101284 26 95 1012 47 101288 83 101339 86 101335/HA 101262 21 091431 091396 101077 15 101125 101051 101124 101319/HA Group A 2013 年 2012 年 2011 年 2010 年 2009 年 62 101285/HA 101344 101352 101338 091172/HA 091183 66 69 93 091186/HA 091190/HA 091192/HA 091185/HA 091307/HA 091162 091168 081176/HA 081210/HA 081194/HA 081188 88 87 081178/HA 081177/HA 081167/HA 98 081157 081148/HA 081124/HA 081220/HA 71 95 081212/HA 071185/HA 41 071165/HA 94 091191/HA 091217/HA 091218/HA 091176/HA 051309/HA 051286/HA 36 031155/HA 021228 021261/HA 98 021227 8135 021269/HA 021252/HA 001342 48 001259/HA 001260/HA 54 001217/HA 001287 001302 001317 64 001321/HA 001249/HA 65 001232/HA 001239/HA 001224 65 001236/HA 101302/HA 101268/HA 101269/HA 63 53 051293 051295/HA 53 65 051268 60 0512/HA Group B 2010 年 2009 年 2008 年 2007 年 2005 年 2004 年 2003 年 2002 年 2000 年 78 69 60 051296/HA 051273/HA 051276/HA 051283 041217/HA 041223/HA 041216/HA AY421764/CA6/Gdula/USA/1949 AY421762/CA4/High_Point 0.05 図 CA6 の VP1 部分領域 (765bp) を用いた系統樹 - 59-

表グループ別の臨床所見の比較 Group A (N=42) Group B (N=57 * ) P value 年齢 中央値 1 歳 7ヶ月 (0-32 歳 ) 中央値 2 歳 2ヶ月 (0-33 歳 ) 0.28 発熱 33(79%) 48(84%) 0.60 体温 中央値 38.9 中央値 38.7 0.54 口内炎 28(67%) 28(49%) 0.10 上気道炎 9(21%) 16(28%) 0.49 発疹 26(62%) 17(30%) 0.002** 胃腸炎 1(2%) 6(11%) 0.23 関節痛 0 3(5%) 0.26 *62 件のうち5 件は症状未記入のため57 件で集計した **:1% 有意 ターを形成した ( グループ A) グループ A には 2011 年以降の CA6 型による手足口病流行時期の株がすべて含まれ また 海外で手足口病から分離された 2008 年のフィンランド株 2009 年と 2011 年の台湾株も含まれていたことから 世界各地に同様の CA6 型近縁株 (CA6-HFMD 型 ) バリアントが存在し 流行を起こしていたと考えられた 神奈川県では CA6-HFMD 型は 2009 年 10 月には存在しており その 2 年後には流行株となったことが分かった 臨床症状をグループ A とグループ B とで比較したところ 発疹の出現のみ有意差が見られ その他の症状には差が見られなかった しかし 従来型の手足口病の発熱頻度は約 50% との報告があり 12) CA6-HFMD 型の発熱頻度は 79% で かつグループ B の発熱頻度と同様の傾向であったことから CA6-HFMD 型は従来 CA6 型の高頻度の発熱の症状に加え 発疹を起こしやすい性質が加わったものと思われた 今回 病態変化と遺伝子変異との直接的な関連については解析が出来なかったが 更なる遺伝子解析研究により CA6 型の病態変化の解明が待たれるところである 感染症のグローバル化が急速に進み 世界各地の疾病流行状況の把握は極めて重要となっている 当所では引き続き エンテロウイルス感染症の流行状況および原因ウイルスの解析等を行い 疾病流行の調査および監視を行っていきたい 謝辞 本研究を実施するにあたりご協力を頂きました神奈川県内小児科病原体定点医療機関の先生方および県健康危機管理課の皆様 また 研究助成を頂きました公益財団法人大同生命厚生事業団に深謝致します 参考文献 1) 国立感染症研究所感染症情報センター : 感染症の話 手足口病, 国立感染症研究所感染症発生動向調査週報,2001 年第 27 号,8-10(2001) - 60-

2) 国立感染症研究所感染症情報センター : 感染症の話 ヘルパンギーナ, 国立感染症研究所感染症発生動向調査週報,2003 年第 8 号,10-11(2003) 3)Österback R., Vuorinen T., Linna T., et al.: Coxsackievirus A6 and hand, foot, and mouth disease, Finland, Emerg. Infect. Dis.,15,1485 1488(2009) 4) Chen YJ, Chang SC, Tsao KC, et al.: Comparative Genomic Analysis of Coxsackievirus A6 Strains of Different Clinical Disease Entities. PLoS ONE 7(12): e52432 (2012) 5) MMWR Morb Mortal Wkly Report :Notes from the field: Severe hand, foot, and mouth disease associated with coxsackievirus A6 - Alabama, Connecticut, California, and Nevada, November 2011-February 2012. MMWR 61: 213 4 (2012) 6) 小林正明, 藤本嗣人, 花岡希, 他 :2011 年のコクサッキーウイルス A6 型感染による手足口病の臨床的特徴 静岡県, 国立感染症研究所病原微生物検出情報,32,230-231(2011) 7) 中田恵子, 山崎謙治, 加瀬哲男 : コクサッキーウイルス A6 型による手足口病の成人例 大阪府, 国立感染症研究所病原微生物検出情報,32,231(2011) 8) 柏井健作, 仲浩臣, 寺杣文男, 他 : 手足口病後の脱落した爪からのコクサッキーウイルス A6 型の検出 和歌山県, 国立感染症研究所病原微生物検出情報,32,339-340(2011) 9)Fujimoto T., Iizuka S., Enomoto M., et al.: Hand, foot, and mouth disease caused by coxsackievirus A6, Japan, 2011, Emerg. Infect. Dis., 18, 337-339 (2012) 10) Oberste MS., Maher K., Flemister MR., et al.: Comparison of classic and molecular approaches for the identification of untypeable enteroviruses, J Clin Microbiol, 38, 1170-4 (2000) 11) Tamura K., Stecher G., Peterson D., et al.: MEGA6: Molecular Evolutionary Genetics Analysis version 6.0. Molecular Biology and Evolution, 30, 2725-2729 (2013) 12) 加納和彦, 牧野友彦, 藤本嗣人 : コクサッキー A6 ウイルスの病像変化に関する研究 : ヘルパンギーナから HFMD への病像変化, 第 61 回日本ウイルス学会学術集会,374 (2013) 経費使途明細 使途明細 RNA 抽出試薬 :QIAamp Viral RNA Mini Kit RT-PCR 試薬 :Access RT-PCR System 遺伝子解析試薬 :BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit 器材 :MicroAmp Optical 96-Well Reaction Plate 器材 :ART200LR マイクロポイント NF ヒンジラック消費税振込手数料合計 金額 109,320 円 50,490 円 112,710 円 4,910 円 3,590 円 17,686 円 1,704 円 300,410 円 - 61-