1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

Similar documents
Microsoft Word - 01.doc

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

共同研究グループ 理化学研究所創発物性科学研究センター 量子情報エレクトロニクス部門 量子ナノ磁性研究チーム 研究員 近藤浩太 ( こんどうこうた ) 客員研究員 福間康裕 ( ふくまやすひろ ) ( 九州工業大学大学院情報工学研究院電子情報工学研究系准教授 ) チームリーダー 大谷義近 ( おおた

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

マスコミへの訃報送信における注意事項

論文の内容の要旨

イン版 (2 月 22 日付け : 日本時間 2 月 23 日 ) に掲載されます 注 )R. Yoshimi, K. Yasuda, A. Tsukazaki, K.S. Takahashi, N. Nagaosa, M. Kawasaki and Y. Tokura, Quantum Hall

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

トポロジカル絶縁体ヘテロ接合による量子技術の基盤創成 ( 研究代表者 : 川﨑雅司 ) の事業の一環として行われました 共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関物理部門強相関物性研究グループ研修生安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 東京大学大学院工学系研究科博士課程 2 年 ) 研

AlGaN/GaN HFETにおける 仮想ゲート型電流コラプスのSPICE回路モデル

特別研究員高木里奈 ( たかぎりな ) ユニットリーダー関真一郎 ( せきしんいちろう ) ( 科学技術振興機構さきがけ研究者 ) 計算物質科学研究チームチームリーダー有田亮太郎 ( ありたりょうたろう ) ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 強相関物性研究グループグループディレクター十倉好紀

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

<4D F736F F F696E74202D2091E688EA8CB4979D8C768E5A B8CDD8AB B83685D>

Microsoft PowerPoint - H30パワエレ-3回.pptx

Microsoft PowerPoint - 東大講義09-13.ppt [互換モード]

<4D F736F F D208CF595A890AB F C1985F8BB389C88F CF58C9F8F6F8AED2E646F63>

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

記者発表資料

PowerPoint Presentation

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

マスコミへの訃報送信における注意事項

マスコミへの訃報送信における注意事項

Microsoft PowerPoint - semi_ppt07.ppt

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

Microsoft PowerPoint - 14.菅谷修正.pptx

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

マスコミへの訃報送信における注意事項

Microsoft PowerPoint - 9.菅谷.pptx

Microsoft PowerPoint - 第2回半導体工学

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

Microsoft Word - 2_0421

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

量子力学の基本原理

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

第1章 様々な運動

PowerPoint Presentation

Microsoft PowerPoint - semi_ppt07.ppt [互換モード]

Microsoft PowerPoint pptx

Microsoft PowerPoint - 第5回電磁気学I 

<4D F736F F F696E74202D2094BC93B191CC82CC D B322E >

Microsoft Word - note02.doc

PowerPoint プレゼンテーション

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

Microsoft Word -

銅酸化物高温超伝導体の フェルミ面を二分する性質と 超伝導に対する上純物効果

PowerPoint Presentation

Microsoft PowerPoint - 第11回半導体工学

本成果は 以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 戦略的創造研究推進事業総括実施型研究 (ERATO) 研究プロジェクト : 伊丹分子ナノカーボンプロジェクト 研究総括 : 伊丹健一郎 ( 名古屋大学大学院理学研究科 / トランスフォーマティブ生命分子研究所拠点長 / 教授 ) 研究期間

京都大学博士 ( 工学 ) 氏名宮口克一 論文題目 塩素固定化材を用いた断面修復材と犠牲陽極材を併用した断面修復工法の鉄筋防食性能に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 本論文は, 塩害を受けたコンクリート構造物の対策として一般的な対策のひとつである, 断面修復工法を検討の対象とし, その耐久性をより

Transcription:

2014 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人東京大学 太陽電池の接合界面に相競合状態を持たせ光電変換効率を向上 - 多重キャリア生成により光電流が増幅 強相関太陽電池の実現へ前進 - 本研究成果のポイント 光照射で相転移を起こす強相関電子系酸化物と半導体を接合した太陽電池を作製 金属と絶縁体の相競合状態をヘテロ接合界面のごく近くで誘起することに成功 界面での相競合状態を磁場を使うことで観測可能に 理化学研究所 ( 理研 野依良治理事長 ) と東京大学 ( 濱田純一総長 ) は 強相関電子系 [1] 酸化物と半導体という異種材料のヘテロ接合 [2] の界面に相競合状態 [3] を持たせた太陽電池を作製し 強相関電子系酸化物の化学組成などを調整すると 磁場によって太陽電池の光電変換効率を変化可能であることを発見しました また このような磁場依存性を示す接合は それ以外の接合に比べ光電変換効率が高いことを明らかにしました これは 理研創発物性科学研究センター ( 十倉好紀センター長 ) 強相関界面研究グループの川﨑雅司グループディレクター ( 東京大学大学院工学系研究科教授 ) 盛志高研究員 中村優男上級研究員 牧野哲征研究員と 強相関理論研究グループの小椎八重航上級研究員らの共同研究グループによる成果です 遷移金属酸化物などの強相関電子系で現れる電子状態の 1 つである電荷整列状態 [4] では クーロン相互作用 [5] によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなるため絶縁体となります 電荷整列絶縁体に光を照射すると 止まっていた電荷が一斉に動き出して金属化します 光による絶縁体相から金属相への相転移の過程では 1 つの光子が複数の電荷を励起する多重キャリア生成 [6] が起きています 次世代太陽電池として注目されている強相関太陽電池では この現象による光電変換効率の飛躍的な向上が期待されています そこで共同研究グループは 太陽電池と同様のヘテロ接合界面で 光照射による絶縁体相から金属相への相転移を起こすことを目指しました 共同研究グループは 光照射で相転移を起こす代表的な物質 ペロブスカイト型マンガン酸化物 [7] と半導体を接合した太陽電池を作製し その特性を調べました 格子歪みや化学組成の異なる数種類の接合をつくり 磁場中で太陽電池特性を測定した結果 格子が界面に平行な面内で異方的 ( 特定の方向に依存すること ) に歪み 組成が [La0.7Sr0.3MnO3] のペロブスカイト型マンガン酸化物を用いた接合で 光電変換効率が磁場によって大きく向上しました この結果は 接合界面に相競合状態が誘起されていることを示唆しています さらに 大きな磁場依存性を示す接合では 磁場依存性をほとんど示さない接合に比べて 大きな短絡電流密度 [8] が観測されました これは 接合界面近くで局所的な光照射による相転移が起こり 多重キャリア生成によって光電流が増幅していると考えられ 強相関太陽電池の実現に近づく重要な結果といえます 本研究成果は英国のオンライン科学雑誌 Nature Communications ( 8 月 1 日付け 日本時間 8 月 1 日 ) に掲載されました 1

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示します ( 図 1) これはいわば氷のような状態です このような絶縁体に光を照射すると 氷が解けて水になるように 止まっていた電荷が一斉に動き出して金属となることがしばしば起きます 特に 絶縁体の状態と金属の状態がエネルギー的に拮抗して 相競合状態 になっているときに 光照射による相転移が最も起こりやすくなることが知られています 近年の光照射による相転移の研究で 光子のエネルギーが絶縁体のバンドギャップ [9] よりも 2 倍以上大きい場合には 1 つの光子が複数の電荷を励起して 止まった状態の電荷を動き回れる状態に変えていることが明らかになってきました ( 図 1) これは 半導体の量子ドット [10] で観測されている多重キャリア生成と呼ばれる現象と類似の現象と考えられます 現在の太陽電池では バンドギャップを超える光子エネルギーは熱として捨てられてしまいますが 多重キャリア生成を用いるとバンドギャップ以上の光子エネルギーを新たな電荷の生成に有効利用できます これが 次世代太陽電池として期待されている強相関太陽電池で光電変換効率を大幅に上昇させるための重要な原理の 1 つになると考えられています 一般に太陽電池は異なる物質同士を接合させた素子構造をしており その接合界面に自発的に生じる内部電界を利用して 光で励起された電子正孔対を空間分離し 電流に変換しています 従って 電荷整列絶縁体での多重キャリア生成を太陽電池構造で効率良く起こすためには 相競合状態を接合界面のごく近くで実現する必要があります しかし通常は 界面の電子状態と物質内部の電子状態は大きく異なるため 物質内部で相競合状態が起きていても界面で同様の状態が実現されるとは限りません また 界面での相競合状態をどのようにして観測するかも難しい問題となっていました 2. 研究手法と成果共同研究グループは 絶縁体と金属の相競合状態を示す代表的な物質 ペロブスカイト型マンガン酸化物 と半導体をヘテロ接合した太陽電池を作製し その特性を調べました ペロブスカイト型マンガン酸化物では 化学組成や格子歪みを変えることで バンド幅 [11] を変化させることができます バンド幅が広いときは金属 狭いときは電荷整列絶縁体となります 本研究では バンド幅が広く金属相の [La0.7Sr0.3MnO3 (LSMO)] と バンド幅がちょうど中間で金属相と絶縁体相が拮抗している [Pr0.55(Ca0.7Sr0.3)0.45MnO3(PCSMO)] の 2 つの組成のペロブスカイト型マンガン酸化物を比較しました また 格子歪みだけの違いの影響を調べるために 結晶面の異なる 2 つのヘテロ接合を作製しました 図 2 に示すように (001) 面での接合 [(001) 接合 ] では界面に平行な面内で等方的 ( 特定の方向に依存しないこと ) に (110) 面での接合 [(110) 接合 ] では異方的に格子が歪みます ペロブスカイト型マンガン酸化物の相競合状態は 磁場に対して非常に敏感に変化するため 接合界面での相競合状態の検出に磁場を用いました つまり 磁場によっ 2

て光電変換効率や短絡電流密度といった太陽電池特性が変化すれば 接合界面で相競合状態が実現していると考えることができます 実験では LSMO(001) 接合 LSMO (110) 接合 PCSMO(110) 接合の 3 つの太陽電池特性を調べました ( 図 3) その結果 LSMO(001) 接合 PCSMO(110) 接合では 磁場をかけても太陽電池特性がほとんど変化しませんでした これは LSMO(001) 接合では物質内部と同様に界面も金属状態が安定であるため磁場依存性を示さず PCSMO(110) 接合では物質内部は相競合状態ですが 界面は電荷整列状態が強く安定化して磁場に応答しなくなっていると考えられます 一方 LSMO(110) 接合では 6 テスラの磁場によって短絡電流密度が磁場をかけないときに比べて 12% 増加しました 一般的な半導体接合では磁場によってこのように太陽電池特性が変化することはありません 従って この結果は接合界面近くのマンガン酸化物が相競合状態になり 磁場により電子状態が変化していることを強く示唆しています さらに 3 つの接合の短絡電流密度を比較したところ 大きな磁場依存性を示した LSMO(110) 接合での短絡電流密度が最も大きいことが分かりました この結果から推測される 界面近くのバンドギャップと光電流の大きさの関係を示したものが図 4 です この概念図は LSMO(001) 接合のように界面のバンドギャップが小さく金属状態が安定であっても 逆に PCSMO(110) 接合のようにバンドギャップが開きすぎて電荷整列状態が安定であっても光電流は減少していまい その中間のバンドギャップサイズのときに相競合状態が実現されて 高い太陽電池特性が現れることを示しています 相競合状態では 光子が当たった場所の近くで局所的に光照射による相転移が起きており これが多重キャリア生成を誘起して光電流の増幅につながっていると考えられます 3. 今後の期待今回の成果によって 強相関電子系と半導体の接合界面ごく近くで相競合状態を誘起することで 太陽電池特性が向上することが明らかになりました また 界面での相競合状態を実現する上で 化学組成の最適化に加えて 接合を作る結晶面を適切に選ぶことが重要であることも明らかになりました 今後は 得られた知見をもとに さらに効率よく多重キャリア生成を起こせるように材料や素子構造を改良することによって 強相関太陽電池の実現につながると期待できます 原論文情報 : Magneto-tunable photocurrent in manganite based heterojunctions Z. G. Sheng, M. Nakamura, W. Koshibae, T. Makino, Y. Tokura, and M. Kawasaki, Nature Communications,2014,doi: 10.1038/ncomms5584 3

< 報道担当 問い合わせ先 > ( 問い合わせ先 ) 独立行政法人理化学研究所創発物性科学研究センター強相関界面研究グループグループディレクター川﨑雅司 ( かわさきまさし ) 上級研究員中村優男 ( なかむらまさお ) ( 報道担当 ) 独立行政法人理化学研究所広報室報道担当 < 補足説明 > [1] 強相関電子系物質中の電子間に働く有効なクーロン相互作用が強い物質 多くの遷移金属酸化物はこの系に属する この系では 1 電子近似は成り立たず 多体効果が強く働く [2] ヘテロ接合 異なる性質を持つ物質の接合 一般的に バンドギャップなどの電子構造は異なるが 結 晶構造や格子定数は近い物質同士の接合を指す [3] 相競合状態物質中において 電荷やスピン 軌道などの秩序状態が異なる複数の電子相が エネルギー的にほぼ同じ安定度を持っている状態 このような状態では 小さな外部刺激によって電子相を変化させることができる [4] 電荷整列状態 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質で 近接する電荷間の強いク ーロン相互作用の結果 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を指す [5] クーロン相互利用 荷電粒子間に働く相互作用力 電荷間の距離に反比例し 同符号の電荷間では斥力が 異 なる符号の電荷間では引力が働く [6] 多重キャリア生成光子のエネルギーがエネルギーギャップよりもずっと大きいときに 1 つの光子から複数の電子正孔対が生成される現象 半導体の量子ドットにおける多重キャリア生成では 高エネルギー状態の励起子が緩和する際に逆オージェ効果で別の励起子が生成される [7] ペロブスカイト型マンガン酸化物 ペロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造を持つマンガン酸化物 化学組成は一般的に R1-xAxMnO3(R はランタノイド A はアルカリ土類金属 ) の形で表される 4

[8] 短絡電流密度 太陽電池において 上部電極と下部電極を短絡させた時に生じる電流を 受光面積で割っ たもの [9] バンドギャップ原子が多数集まった物質では 電子の存在できるエネルギー準位は離散的なエネルギー帯 ( エネルギーバンド ) となる このエネルギー帯の間の電子が存在できない領域をバンドギャップと呼ぶ 一般的には 半導体や絶縁体において 電子の詰まった最も高いエネルギー帯 ( 価電子帯 ) の頂上と その上の空いているエネルギー帯 ( 伝導帯 ) の底のエネルギー差のことを指す [10] 量子ドット 主に半導体などから成る数ナノメートルサイズの微結晶 電荷や励起子が狭い空間に閉じ 込められるため エネルギー準位が離散的になるなどの量子サイズ効果が現れる [11] バンド幅 物質において離散的に存在するエネルギー帯の幅 図 1 ペロブスカイト型マンガン酸化物で現れる電荷整列状態と多重キャリア生成 電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質が クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまい絶縁体となる このような絶縁体に光を照射すると 止まっていた電荷が一斉に動き出して金属へと相転移する これは 半導体の量子ドットで観測されている多重キャリア生成と呼ばれる現象と類似の現象と考えられている 5

図 2 (001) 接合と (110) 接合でペロブスカイト型マンガン酸化物に生じる格子歪み 左 :(001) 接合 界面に平行な面内で等方的に格子が歪む 右 :(110) 接合 界面に平行な面内で異方的に格子が歪む 図 3 LSMO(001) 接合 LSMO(110) 接合 PCSMO(110) 接合の電流電圧特性 LSMO(001) 接合 LSMO(110) 接合 PCSMO(110) 接合の光照射なし および光照射下での電流電圧特性を調べた結果 LSMO(001) と PCSMO(110) 接合では 磁場をかけても太陽電池特性がほとんど変化しなかった しかし LSMO(110) 接合では 6 テスラ (T) の磁場を加えた場合 0 テスラのときに比べて短絡電流密度が 12% 増加した 光照射下では 0 3 6 テスラの磁場を加えて測定 6

図 4 接合界面近くでのマンガン酸化物のエネルギーギャップと光電流の大きさの関係 LSMO(001) 接合のようにバンドギャップが小さすぎて金属相が安定でも 逆に PCSMO(110) 接合のようにバンドギャップが大きすぎて電荷整列相が安定でも 光電流は小さくなる LSMO(110) 接合のように中間のバンドギャップサイズで相競合状態が実現すると磁場に対する変化が現れ 同時に光電流が増大する 多重キャリア生成を起こすためには このような適度なバンドギャップを界面で実現することが重要となる 7