経済統計 Ⅱ 第 13 回 : 産業連関表の基礎 2016 年 12 月 19 日 元山斉 石田和彦 吉野克文 美添泰人
産業連関表とは 1. 産業連関表とは 国内経済において一定期間 ( 通常 1 年間 ) に行われた財 サービスの産業間取引を一つの行列 ( マトリックス ) に示した統計表 詳細は後述 1936 年アメリカの経済学者レオンチェフ博士によって考案され 産業連関分析による経済予測等について 精度の高さと有用性が認められたことから 広く世界で使われるようになった 博士はその功績により 1973 年にノーベル経済学賞を受賞 日本では 総務省および関係府省庁 ( 内閣府 金融庁 財務省 文部科学省 厚生労働省 農林水産省 経済産業省 国土交通省 環境省 ) とが共同で作成 基幹統計 西暦の末尾が 0 ないし 5 の年を対象として 5 年毎に作成されるのが原則 工業統計調査 商業統計調査など各種の基礎資料を基に推計される 非常に加工度の高い統計 概念上 A 産業が B 産業に売った金額 と B 産業が A 産業から買った金額 は一致するはずであるが 基礎資料の相違等により実際には一致しない これを調整して表全体の値を整合的に構成する推計を行う 最新は 2011 暦年 (2015 年 6 月公表 ) 原則と異なるが 重要な基礎資料となる 経済センサス - 活動調査 が 平成 23 年 (2011 年 ) を対象に実施されたことを受けたため 国民経済計算は産業連関表を受けて基準改定するため原則 5 年毎の基準改定となる 国民経済計算の基準改定が 2016 年 12 月に行われたのは最新の産業連関表が 2015 年公表であるため 本頁以下 資料出所は総務省ホームページ http://www.soumu.go.jp/toukei_toukatsu/data/io/index.htm ( このほか詳細な説明は 経済統計入門 ( 第 2 版 ) などを参照 ) 2
産業連関表の構造 各列 ( タテ方向 ) では その部門の財 サービスの生産に当たって用いられた原材料 燃料 労働力などへの支払の内訳 ( 費用構成 ) が示される 投入 (input) 各行 ( ヨコ方向 ) では その部門で生産された財 サービスの販売先の内訳 ( 販路構成 ) が示される 産出 (output) このため産業連関表は 投入産出表 (Input- Output Tables 略して I -O 表 ) とも呼ばれる 概念的には 最終需要が国民経済計算の支出面 粗付加価値が国民経済計算の生産面に対応する 3
産業連関表の 取引基本表 取引基本表 は 産業相互間や産業と最終需要 ( 家計など ) との間で取引された財 サービスの金額を行列形式で表示したもの 例えば A 産業をタテ ( 列 ) に見ると 原材料等の中間投入として A 産業から 30 億円 B 産業から 60 億円購入し 210 億円の粗付加価値が加わることで 300 億円の生産が行われたことを示す 一方 A 産業をヨコ ( 行 ) に見ると 生産額 300 億円のうち 中間需要として A 産業に 30 億円 B 産業に 150 億円販売 ( 産出 ) され 残る 120 億円が最終需要として販売されたことを示す 取引基本表は 各部門とも タテの合計 ( 投入額合計 ) とヨコの合計 ( 産出額合計 ) が一致する (A 産業については 300 億円 B 産業については 500 億円で タテ ヨコともに一致 ) また粗付加価値の合計 310(=210+100) は最終需要の合計 310(=120+190) と一致する ( 実務的には一致するように推計を重ねる ) 4
産業連関表の 投入係数表 投入係数 とは 取引基本表の中間需要の列部門ごとに 原材料等の投入額を当該部門の生産額で除して得た係数のこと 例えば 表 1 の A 産業について投入係数を求めると 各投入額を A 産業の生産額 300 億円で除したものとなり 表 2 のとおり A 産業が 0.1 B 産業が 0.2 粗付加価値が 0.7 となる つまり 投入係数とは ある産業において 1 単位の生産を行う際に必要とされる原材料等の単位を示したもの これを使用することにより 取引基本表では金額で表されている産業間の取引関係を比率として見ることが可能になる そして この投入係数を列部門別に一覧表にしたものが 投入係数表 であり 表 1 から算出される投入係数表は 表 2 のとおりとなる 5
産業連関表の 逆行列係数表 逆行列係数 とは ある部門に対して新たな最終需要 ( 以下 新規需要 という ) が 1 単位発生した場合に 当該部門の生産のために必要とされる ( 中間投入される ) 財 サービスの需要を通して各部門の生産がどれだけ発生するか 即ち 直接 間接の生産波及の大きさを示す係数 例えば 図 2 のとおり A 産業で生産する財 サービスに新規需要が 1 単位発生した場合 A 産業の生産そのものを 1 単位増加させる必要があることは言うまでもないが ( 直接効果 ) そのためには A 産業における生産活動で用いられる原材料の投入を増加させる必要があり A 産業には 0.1 B 産業には 0.2 の生産増が発生する ( 間接効果 ( 第 1 次 )) そして この A 産業 0.1 及び B 産業 0.2 の生産増のために用いられる原材料について 更なる生産の増加が必要となり ( 間接効果 ( 第 2 次 )) このような投入係数を介した波及が続いていくこととなる 6
産業連関表の 逆行列係数表 生産の波及に関する大きさの総和が逆行列係数に相当する これを産業別に一覧表にしたものが 逆行列係数表 ( 表 3) このように 逆行列係数表は 特定部門の生産を 1 単位行うために 直接 間接に必要とされる各部門の生産増加の水準が 最終的にどのくらいになるかを算出した表であることから この表の列和は 当該部門に新規需要が 1 単位発生したときの産業全体への波及効果の合計に相当する 表 3 の例でいえば A 産業に新規需要が 1 単位発生した場合 産業全体で 1.795 の波及効果を生じさせることを表していることになる イベントの経済波及効果 ( 経済効果 ) などを算出する際に広く用いられる 注意 : この経済波及効果の計算では その生産活動の結果生み出された粗付加価値額の一部 ( 雇用者所得等 ) が 再び最終消費等にまわって新たな最終需要を発生させ これによってさらに生産活動が行われるという効果までは考えていない 例えば 1 公共投資の実施 2 各産業部門の生産額の増加 3 雇用者所得及び営業余剰等の増加 4 家計消費支出や国内総固定資本形成額の増加 という流れの中で 1~3 までの効果を捉えており 4 以降は捉えていない 7
参考 : 経済波及効果の計算 参考 総務省は経済波及効果を簡易に計算する計算シートを公表している HTTP://WWW.SOUMU.GO.JP/TOUKEI_TOUKATSU/DATA/IO/HAKYU.HTM ここに 部門ごとの新規需要額を入れると 右側に波及効果額が表示されます 計算結果 1 部門の例示 新規需要額 ( 単位 : 百万円 ) 波及効果 01 農林水産業 米 野菜 畜産 漁業 0 4 01 06 鉱業 石油 原油 天然ガス 金属鉱物 0 0 06 11 飲食料品 食肉 精米 パン類 冷凍食品 酒類 0 13 11 15 繊維製品 衣服 じゅうたん 帽子 寝具 0 0 15 16 パルプ 紙 木製品 木材 家具 紙 段ボール箱 0 3 16 20 化学製品 化学肥料 医薬品 化粧品 洗剤 0 2 20 21 石油 石炭製品 ガソリン 灯油 LPG コークス 0 13 21 22 プラスチック ゴム プラスチック管 タイヤ チューブ 0 2 22 25 窯業 土石製品 ガラス セメント 陶磁器 0 1 25 26 鉄鋼 鋼板 鋼管 0 2 26 27 非鉄金属 銅 アルミニウム 電線 ケーブル 0 0 27 28 金属製品 鉄骨 シャッター ボルト ドラム缶 刃物 0 1 28 29 はん用機械 ボイラ 原動機 ポンプ 0 0 29 30 生産用機械 パワーショベル ドリル 印刷機 旋盤 耕うん機 0 0 30 31 業務用機械 複写機 自動販売機 医療器具 カメラ 0 0 31 32 電子部品 液晶パネル 磁気ディスク 電子回路 0 0 32 33 電気機械 電気照明器具 エアコン 冷蔵庫 0 0 33 34 情報 通信機器 パソコン テレビ デジタルカメラ 携帯電話機 0 0 34 35 輸送機械 乗用車 鉄道車両 航空機 船舶 0 4 35 39 その他の製造工業製品 印刷 革靴 楽器 がん具 時計 装身具 0 2 39 41 建設 住宅建築 建設補修 公共事業 0 3 41 46 電力 ガス 熱供給 電気 自家発電 都市ガス 熱供給 0 6 46 47 水道 上水道 工業用水 下水道 0 2 47 48 廃棄物処理 ごみ処理 産業廃棄物処理 0 2 48 51 商業 卸売 小売 0 15 51 53 金融 保険 金融 生命保険 損害保険 0 5 53 55 不動産 住宅賃貸 貸店舗 駐車場管理 0 5 55 57 運輸 郵便 鉄道 トラック輸送 航空輸送 水運 郵便 100 110 57 59 情報通信 電話 放送 ソフトウェア 映画制作 新聞 0 7 59 61 公務 国 地方公共団体 0 0 61 63 教育 研究 学校 研究所 図書館 博物館 0 1 63 64 医療 福祉 病院 保健所 保育所 福祉施設 介護 0 0 64 65 その他の非営利団体サービス 商工会議所 労働団体 学術団体 0 1 65 66 対事業所サービス 物品賃貸 広告 法律事務所 労働者派遣 警備業 0 24 66 67 対個人サービス ホテル 旅館 飲食店 遊園地 冠婚葬祭 100 100 67 68 事務用品 鉛筆 消しゴム テープ のり 0 1 68 69 分類不明 0 2 69 合計 200 331 例えばイベントの開催により運輸 郵便が100 対個人サービスが100 増加すると 経済波及効果は331となる宿泊客への飲食料品の提供 輸送のための燃料 それらに係る卸売 小売 事務処理のための事務用品など 8
実例 : 学園祭の経済効果は? 前頁で示した総務省のホームページにある 経済波及効果 を試算するシートを用いて 学園祭の経済波及効果を試算すると 学生を含む来場者の支出およびイベント準備費用等を新規の需要とみなす なお無償労働 ボランティア ( 来場者から代金を受け取らない ) サークル活動等は生産活動ではないので新規需要には該当しない 学生を含む来場者の支出およびイベント準備費用等 の中から 最終需要 を見極めるのがポイント 無償労働等は含まれないため 実際にお金が支払われたもの の中から 中間需要 を除き 最終需要 を特定する 例えば 1 調理器具 ( ガスボンベ込み ) をレンタル 2 小麦粉 冷凍たこ 調味料を購入 3 たこ焼きを販売した場合 3 の金額が最終需要 1 および 2 は中間需要 (3 は 飲食料品 1 は 対事業所サービス 2 は 飲食料品 ) 3 の金額のみを新規需要額に計上し 1 および 2 は計上しないで計算する 9
実例 : 学園祭の経済効果は? ( 続き ) 今回の前提 あくまで一例 別の想定もあるかもしれない * 今回は需要側から推定 供給側 類例からの推定も可能 併用すれば精度が高まる 主催側を含め参加者 30 千人 ( 延べ人数 ) 学生の同数 (15 千人 ) が参加し 同数の知人等が来場 知人等は 一人当たり平均 飲食料品 1000 円 その他製造工業製品 ( パンフレットや雑貨など )400 円 交通費 800 円を支出 学生は 一人当たり平均 飲食料品 1000 円 対事業所サービス 1000 円を支出 定期券があるので交通費の追加支出はなし そのほか舞台 音響装置等の設営で対事業所サービス 300 万円 ゲストのギャラで対個人サービスが 400 万円 上記以外の電力 水道 事務用品等は僅少と見做して捨象 注 : 上記 経済波及効果 シートは百万円単位となっているが これを 円単位 と読み替えて利用する ( 百万円の新規需要があれば 1 ではなく 1000000 とそのまま入力して計算する という意味 ) 10
学園祭の経済波及効果の計算 上記の前提に基づくと 新規需要は 7000 万円 波及効果は 1 億 1617 万円 幅広い波及効果があることを確認できる 想定次第で結果は大きく異なる! 部門の例示 新規需要額 ( 単位 : 百万円 ) 波及効果 01 農林水産業 米 野菜 畜産 漁業 0 5806399 01 06 鉱業 石油 原油 天然ガス 金属鉱物 0 64419 06 11 飲食料品 食肉 精米 パン類 冷凍食品 酒類 30000000 30828956 11 15 繊維製品 衣服 じゅうたん 帽子 寝具 0 113999 15 16 パルプ 紙 木製品 木材 家具 紙 段ボール箱 0 1736910 16 20 化学製品 化学肥料 医薬品 化粧品 洗剤 0 1653431 20 21 石油 石炭製品 ガソリン 灯油 LPG コークス 0 2257923 21 22 プラスチック ゴム プラスチック管 タイヤ チューブ 0 1646287 22 25 窯業 土石製品 ガラス セメント 陶磁器 0 271003 25 26 鉄鋼 鋼板 鋼管 0 938662 26 27 非鉄金属 銅 アルミニウム 電線 ケーブル 0 290225 27 28 金属製品 鉄骨 シャッター ボルト ドラム缶 刃物 0 729894 28 29 はん用機械 ボイラ 原動機 ポンプ 0 235622 29 30 生産用機械 パワーショベル ドリル 印刷機 旋盤 耕うん機 0 294150 30 31 業務用機械 複写機 自動販売機 医療器具 カメラ 0 153109 31 32 電子部品 液晶パネル 磁気ディスク 電子回路 0 386718 32 33 電気機械 電気照明器具 エアコン 冷蔵庫 0 235038 33 34 情報 通信機器 パソコン テレビ デジタルカメラ 携帯電話機 0 29820 34 35 輸送機械 乗用車 鉄道車両 航空機 船舶 0 1551047 35 39 その他の製造工業製品 印刷 革靴 楽器 がん具 時計 装身具 6000000 5700796 39 41 建設 住宅建築 建設補修 公共事業 0 697557 41 46 電力 ガス 熱供給 電気 自家発電 都市ガス 熱供給 0 1551593 46 47 水道 上水道 工業用水 下水道 0 299419 47 48 廃棄物処理 ごみ処理 産業廃棄物処理 0 179896 48 51 商業 卸売 小売 0 5460584 51 53 金融 保険 金融 生命保険 損害保険 0 1263721 53 55 不動産 住宅賃貸 貸店舗 駐車場管理 0 1116516 55 57 運輸 郵便 鉄道 トラック輸送 航空輸送 水運 郵便 12000000 15709317 57 59 情報通信 電話 放送 ソフトウェア 映画制作 新聞 0 3225346 59 61 公務 国 地方公共団体 0 146639 61 63 教育 研究 学校 研究所 図書館 博物館 0 852539 63 64 医療 福祉 病院 保健所 保育所 福祉施設 介護 0 20222 64 65 その他の非営利団体サービス 商工会議所 労働団体 学術団体 0 160671 65 66 対事業所サービス 物品賃貸 広告 法律事務所 労働者派遣 警備業 18000000 25622002 66 67 対個人サービス ホテル 旅館 飲食店 遊園地 冠婚葬祭 4000000 4162805 67 68 事務用品 鉛筆 消しゴム テープ のり 0 134695 68 69 分類不明 0 646425 69 合計 70000000 116174358 11