山口大学新技術説明会 (H20.6.13) 改質天然繊維を強化材とする 新しい複合材料の開発 -GFRP に迫る先進グリーンコンポジット - 山口大学大学院理工学研究科システム設計工学専攻材料信頼性工学研究室教授合田公一
なぜ, 天然繊維か? 環境重視の社会的ニーズ 汎用プラスチック等の焼却によるCO2 発生 ( 地球温暖化 ) 及び化石資源の枯渇 天然繊維はカーボンニュートラル FRP(Fiber Reinforced Plastics) の廃棄処理問題 使用されているガラス繊維のリサイクル処理が困難なことや焼却廃棄では環境負荷が高いこと. また, 製造工程中の衛生管理面の問題も指摘されるようになった. 天然繊維はこれらにおいて何ら問題なし自動車メーカがプラスチックの補強材として本格的に取り入れるようになりつつある メルセデス, トヨタ等
代表例 : メルセデス ベンツ社の天然繊維の採用状況 ポリプロピレン + サイザル麻, 亜麻
日本での企業の取り組み トヨタ自動車 インドネシアの広大な土地でケナフ生産に従事. すでに一部の自動車にケナフ /PLA 材を搭載. NEC コンピュータの電子機器基盤 ケナフ /PLA 材. 天然繊維を使ったバイオマス製品は, 環境問題の解決に向けて, 従来合成樹脂で賄われた部材へ新規参入している. 企業の環境にやさしいイメージ造り 消費者の環境保全志向を満たす ガラス繊維のイメージの一新 ( トヨタ ) 問題点 環境ビジネスとして展開 しかし, 実際には天然繊維の強度 靭性はガラス繊維に比べて劣り, 構造材料に欠かせない強度的機能, すなわち天然繊維複合材料の強度 靭性の向上とその信頼性の確保がなされていない.
天然繊維の構造 Wall interfaces Secondary wall S3 Lumen Secondary walls S1 & S2 Microfibrils of cellulose セルロースの強さ :2~5GPa: セルロースの結晶弾性率 :140GPa: ガラス繊維の強さ :1.8: 1.8~2.2GPa ガラス繊維のヤング率 :70GPa: Primary wall つまり, セルロースの強度と剛性はガラス繊維より上
各種天然繊維の引張強度と破断ひずみ 天然繊維 本数 繊維径 (mm) 引張強度 (MPa) 比強度 (MPa/g cm 3 ) 破断ひずみ (%) 竹 52 0.140 368 460 ラミー 20 0.034 560 483 3.59 ケナフ 20 0.078 448 432 2.20 クラワ 20 0.066 913 662 2.0 Eガラス繊維 0.013 1800~ 833 2.0~3.0 2200 大差あり ほぼ同等
高靭性と高強度を目指して 1. 天然繊維 ( 糸 ) のマーセル化による高靭性グリーンコンポジットの開発 2. 繰返し荷重負荷による高強度グリーンコンポジットの開発
化学処理 マーセル化 研究により 天然繊維をそのまま, または緊張下で高濃度アルカリ水溶液に浸す処理 繊維産業におけるマーセル化の目的 繊維に光沢を付与 染料や薬剤の浸透性を改善 ラミー繊維において 定荷重負荷下で高濃度アルカリ水溶液処理 ( 独自技術 ) 大幅な靭性の改善に成功
Stress (MPa) 引張試験によるラミー単繊維の応力 ひずみ線図 1000 800 600 400 未処理繊維 マーセル化繊維 200 treated untreated 0 0 2 4 6 8 Strain (%) 注釈 : 強度とは応力の最大値を意味するが, 靭性とは応力 - ひずみ線図下の面積を意味する. ともに立ち上がりにおいてほぼ同様な傾きで変化 マーセル化繊維はひずみ 1% 辺りから非線形的なふるまい 6% 辺りまで大きく伸び, 未処理繊維の最大応力とほぼ同じレベルまで応力が上昇し破断 未処理繊維はガラス繊維と同様に脆性的な挙動を示すのに対し, マーセル化を施した繊維では伸びが改善されているため, 複合材料の高靭化が期待される.
荷重負荷効果 + アルカリ処理効果について マイクロフィブリル マーセル化 ヘミセルロースが除去マイクロフィブリルが繊維方向に再配列ヘミセルロース 複合材のマトリックスにあたるヘミセルロースが取り除かれ, マイクロフィブリル間のすべりが実現 繊維へ塑性変形能塑性変形能が付与される
乾薄板に改質ラミー糸を巻きつける乾燥加熱熱後改質ラミー糸を用いたグリーンコンポジット引張試験片の作製 燥繊維部にマトリックス材 ( とうもろこし澱粉系水分散型生分解性樹脂 ) を塗りつける 6.5MPa の圧力をかけ 常温まで冷却する. 仮成形体 ( プリプレグ ) 金型にプリプレグを 2 枚入れ, 加圧成形装置を用い温度 150 微小圧力下で 30 分加熱する. 加後改質ラミー糸を用いたグリーンコンポジット
Stress (MPa) 改質ラミー糸を用いたグリーンコンポジットの応力 - ひずみ線図 400 300 200 100 UT 未処理 T0 無負荷マーセル化 T4 荷重負荷マーセル化 UT T-0 T-4 0 0 2 4 6 8 Strain (%) 4% 辺りまで伸びる UT 材と同等の応力レベルで最終破断 若干の強度低下 6% 辺りまで大きく伸びる マーセル化による繊維の破断ひずみの向上効果がグリーンコンポジットに反映し高靭化される.
縦糸衝撃試験片の作製 試験片の成形条件 3 枚の仮成形体を用意し ラミー糸の方向が 0 o /90 o /0 o また 平織ラミー麻糸を用いた仮成形体を 2 枚用意し 繊維の方向が 0 o /90 o になるようにして金型にはめる 横糸糸横糸 10mm 加圧成形装置を用い温度 150 3.2MPa の微小圧力下で 30 分加熱する加熱後 6.5MPa の圧力をかけ 常温まで冷却する
改質ラミー糸を用いたグリーンコンポジットの衝撃特性 落錘が試験片を貫通落錘がリバウンド吸収エネルギが大幅に増加 サンプル数 厚さ (mm) V f (%) U 0 (J) 衝撃応答 吸収エネルギー (J) UT 2 2.24 50 7.36 penetration 6.34 T-0 (L) 3 2.33 61 7.36 rebound 4.45 1 2.21 63 24.5 penetration 13.4 T-0 (TX) 2 1.89 45 24.5 penetration 13.2 GFRP 2 1.34 62 24.5 penetration 9.04 UT: 未処理ラミー糸,T0: 改質ラミー糸 (L): 積層材,(TX): 平織り材,GFRP: ガラス繊維ロービングクロス / 不飽和ポリエステル V f : 繊維体積率, U 0 : 初期エネルギー
衝撃損傷 糸が破断, 横方向に亀裂 糸が延びて 横方向に亀裂が入っていない 未処理ラミー糸による 改質ラミー糸による マーセル化による繊維の高靭化によって 吸収エネルギーが大幅に増える
他の繊維を用いた場合の例 : 改質クラワ繊維を用いたグリーンコンポジットの高靭化 Stress (MPa) 400 300 200 100 0 Untreated ( V f =74%) 10% Treated (V f =74%) 15% Treated (V f =78%) 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 Strain (%) 10mm クラワ繊維束の外観 未処理繊維に比べて改質クラワ繊維によるグリーンコンポジットの靭性が大きいことがわかる (10( 10%, %,15%% は NaOH 溶液の濃度 )
2. 繰返し荷重負荷による高強度グリーン コンポジットの開発 ラミー繊維およびラミー糸グリーンコンポジットに対して強度の 70% レベルの応力で 20 回ほど繰返し荷重を負荷する. その後, 試験片の破断まで引張試験を実施する. X Stress Strain
繰返し荷重負荷によるラミー繊維の引張性質 の変化 強度 剛性の改善達成 試験片の種類 本数 繊維径 (μm) 引張強度 (MPa) 破断ひずみ (%) ヤング率 (GPa) UT 20 30.9 610 3.59 23.1 UT-70-20 10 28.0 902 2.76 30.7 T0 20 29.1 420 8.11 16.5 T0-70-20 10 27.9 517 5.69 22.2 強度の増加 ヤング率の増加 UT: 未処理繊維, T0: マーセル化繊維 ( 改質繊維 ) UT-70-20: 未処理繊維 - 強度の 70% レベルで負荷 -20 回繰返し T0-70-20: マーセル化処理繊維 - 強度の 70% レベルで負荷 -20 回繰返し
繰返し荷重負荷によるラミー糸グリーンコンポジットの引張性質の変化 強度 剛性の改善達成 試験片の種類 本数 繊維体積率 (%) 引張強度 (MPa) 破断ひずみ (%) ヤング率 (GPa) UT 6 58.2 309 2.45 21.7 UT-70-20 3 59.8 333 1.49 33.8 T0 5 66.1 284 5.69 16.3 T0-70-20 3 66.8 307 2.99 21.5 強度の増加 ヤング率の増加 UT: 未処理糸 GC, T0: マーセル化糸 ( 改質糸 )GC (GC: グリーンコンポジットの略 ) UT-70-20: 未処理糸 GC- 強度の 70% レベルで負荷 -20 回繰返し T0-70-20: マーセル化処理糸 GC- 強度の 70% レベルで負荷 -20 回繰返し
繰返し荷重負荷によるラミー繊維及びラミー糸グリーンコンポジットの応力 - ひずみ線図 800 400 Stress (MPa) 600 400 UT 200 UT-70-20 T0 T0-70-20 0 0 2 4 6 8 10 Strain (%) ラミー繊維 Stress (MPa) 300 200 100 0 0 2 4 6 8 Strain (%) UT UT-70-20 T0 T0-70-20 ラミー糸グリーンコンポジット
まとめ : 化学処理 ( マーセル化 ) および力学処理 ( 繰返し荷重負荷 ) によるラミー繊維及びラミー糸グリーンコンポジットの引張性質の改善効果 化学処理 ( マーセル化 ) 一定荷重 無負荷 引張強度ヤング率破断ひずみ 力学処理 ( 繰返し荷重負荷 ) 引張強度 ヤング率 破断ひずみ 強度レベル 70% 繰返し数 20
まとめ 1. 高濃度アルカリ処理と荷重負荷により, 天然繊維は強度を落とすことなく, 延性が付与される. つまり, 延性が付与される. つまり, ナノ構造の改変によって天然繊維は高靭化される. 2. マーセル化による天然繊維の高靭化効果は衝撃特性においても発揮される. 3. 天然繊維およびグリーンコンポジットの強度 剛性は繰返し荷重負荷により改善される. 実用化に向けた課題 (1) マーセル化の更なる検討による高度な塑性変形能付与. (2) 繰返し荷重負荷条件の詳細検討による強度 剛性の増加. (3) 荷重負荷を与えた状態での連続処理技術の構築.
想定される分野, 用途 改質天然繊維の用途は, 織布, 板材 ( シート材 深絞り材を含 む ), 射出成形製品などへ二次加工し, 自動車内装材, 電気製 品の構造体, 建材などへの応用展開が考えられる. 企業への期待 (1) マーセル化処理に関する共同研究, 実用化を検討. (2) 繰返し荷重負荷の連続処理に関する共同研究, 実用化を検討. (3) 処理された改質天然繊維の複合化に関する共同研究, 実用化を検討.
本技術に関する知的財産権 特許特許 (1) 特開 2004-256947 256947 出願人 : 山口 TLO 発明者 : 合田公一ほか 天然繊維の改質方法とその装置 及びその改質した天然繊維とそれを用いた複合材料 (2) 特開 2006-255909 255909 出願人 : 山口大学発明者 : 合田公一ほか 装飾性を有する生分解性複合材の製造方法と装飾性を有する生分解性複合材 (3) 特開 2007-051405 051405 出願人 : 山口大学 発明者 : 合田公一 改質植物繊維及びその改質方法 及び改質植物繊維を用いた複合材料 お問合せ先 山口大学産学公連携 イノベーション推進機構 TEL(0836)85-9961 FAX (0836)85-9962 E-mail:yuic@yamaguchi-u.ac.jpu.ac.jp 担当 : 産学連携コーディネーター浜本俊一