研究の背景 世界のエネルギー消費量は年々増加傾向にあり, 地球規模のエネルギー不足が懸念さ れています このため, 発電により生み出したエネルギー ( 電力 ) の利用の更なる高効 率化が求められており, その鍵は電力制御を担っているパワーデバイス ( 6) が握っ ています 現在主流である Si(

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開発の社会的背景 パワーデバイスは 電気機器の電力制御に不可欠な半導体デバイスであり インバーターの普及に伴い省エネルギー技術の基盤となっている 最近では高電圧 大電流動作が技術的に可能になり ハイブリッド自動車のモーター駆動にも使われるなど急速に普及し 市場規模は 2 兆円に及ぶといわれる パワー

Microsoft Word - 01.doc

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

記者発表資料

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

記 者 発 表(予 定)

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

スライド タイトルなし

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

研究の背景有機薄膜太陽電池は フレキシブル 低コストで環境に優しいことから 次世代太陽電池として着目されています 最近では エネルギー変換効率が % を超える報告もあり 実用化が期待されています 有機薄膜太陽電池デバイスの内部では 図 に示すように (I) 励起子の生成 (II) 分子界面での電荷生

低損失V溝型SiCトレンチMOSFET 4H-SiC V-groove Trench MOSFETs with the Buried p+ regions

Micro Fans & Blowers Innovation in Motion マイクロファン & ブロワー 有限会社シーエス技研 PTB 事業部東京オフィス 千葉県市原市辰巳台西

研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

hetero

リチウムイオン電池用シリコン電極の1粒子の充電による膨張の観察に成功


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電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー A 電子部品の試料加工と観察 分析 解析 ~ 真の姿を求めて ~ セミナー 第 9 回 品質技術兼原龍二 前回の第 8 回目では FIB(Focused Ion Beam:FIB) のデメリットの一つであるGaイ

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

高耐圧SiC MOSFET

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

平成 21 年度資源エネルギー関連概算要求について 21 年度概算要求の考え方 1. 資源 エネルギー政策の重要性の加速度的高まり 2. 歳出 歳入一体改革の推進 予算の効率化と重点化の徹底 エネルギー安全保障の強化 資源の安定供給確保 低炭素社会の実現 Cool Earth -1-

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1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

マスコミへの訃報送信における注意事項

報道発表資料 2000 年 2 月 17 日 独立行政法人理化学研究所 北海道大学 新しい結晶成長プロセスによる 低欠陥 高品質の GaN 結晶薄膜基板作製に成功 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 北海道大学との共同研究により 従来よりも低欠陥 高品質の窒化ガリウム (GaN) 結晶薄膜基板

報道発表資料 2008 年 11 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 メタン酸化反応で生成する分子の散乱状態を可視化 複数の反応経路を観測 - メタンと酸素原子の反応は 挿入 引き抜き のどっち? に結論 - ポイント 成層圏における酸素原子とメタンの化学反応を実験室で再現 メタン酸化反応で生成

Electrical contact characteristics of n-type diamond with Ti, Ni, NiSi2, and Ni3P electrodes

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報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

ロナ放電を発生させました これによって 環状シロキサンが分解してプラスに帯電した SiO 2 ナノ微粒子となり 対向する電極側に堆積して SiO 2 フィルムが形成されるという コロナ放電堆積法 を開発しました 多くの化学気相堆積法 (CVD) によるフィルム作製法には 真空 ガス装置が必要とされて

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報道機関各位 平成 29 年 7 月 10 日 東北大学金属材料研究所 鉄と窒素からなる磁性材料熱を加える方向によって熱電変換効率が変化 特殊な結晶構造 型 Fe4N による熱電変換デバイスの高効率化実現へ道筋 発表のポイント 鉄と窒素という身近な元素から作製した磁性材料で 熱を加える方向によって熱

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

マスコミへの訃報送信における注意事項

1 薄膜 BOX-SOI (SOTB) を用いた 2M ビット SRAM の超低電圧 0.37V 動作を実証 大規模集積化に成功 超低電圧 超低電力 LSI 実現に目処 独立行政法人新エネルギー 産業技術総合開発機構 ( 理事長古川一夫 / 以下 NEDOと略記 ) 超低電圧デバイス技術研究組合(

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

FANUC i Series CNC/SERVO

コバルトとパラジウムから成る薄膜界面にて磁化を膜垂直方向に揃える界面電子軌道の形が明らかに -スピン軌道工学に道 1. 発表者 : 岡林潤 ( 東京大学大学院理学系研究科附属スペクトル化学研究センター准教授 ) 三浦良雄 ( 物質材料研究機構磁性 スピントロニクス材料研究拠点独立研究者 ) 宗片比呂

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新技術説明会 様式例

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

報道関係者各位 平成 26 年 5 月 29 日 国立大学法人筑波大学 サッカーワールドカップブラジル大会公式球 ブラズーカ の秘密を科学的に解明 ~ ボールのパネル構成が空力特性や飛翔軌道を左右する ~ 研究成果のポイント 1. 現代サッカーボールのパネルの枚数 形状 向きと空力特性や飛翔軌道との

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研究成果の詳細 ( 背景 ) 3) 金属や半導体のゼーベック効果注によって温度差を直接電気に変換できる熱電変換は, 工場や火力発電所, 自動車などの廃熱を直接電気エネルギーに変換する, クリーンなエネルギー変換技術として注目されています この熱電変換技術に利用できる半導体 (= 熱電変換材料 ) の

マスコミへの訃報送信における注意事項

背景光触媒材料として利用される二酸化チタン (TiO2) には, ルチル型とアナターゼ型がある このうちアナターゼ型はルチル型より触媒活性が高いことが知られているが, その違いを生み出す要因は不明だった 光触媒活性は, 光吸収により形成されたキャリアが結晶表面に到達して分子と相互作用する過程と, キ

振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

Microsystem Integration & Packaging Laboratory


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CKTB-3103 東芝スーパー高効率菜種油入変圧器 2014 スーパー高効率菜種油入変圧器 シリーズ

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

世界最高面密度の量子ドットの自己形成に成功

窒化アルミニウムによる 高効率フィールドエミッションを実現 ディスプレイパネル実用レベルのフィールドエミッション特性

   

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がんを見つけて破壊するナノ粒子を開発 ~ 試薬を混合するだけでナノ粒子の中空化とハイブリッド化を同時に達成 ~ 名古屋大学未来材料 システム研究所 ( 所長 : 興戸正純 ) の林幸壱朗 ( はやしこういちろう ) 助教 丸橋卓磨 ( まるはしたくま ) 大学院生 余語利信 ( よごとしのぶ ) 教

プレスリリース 2017 年 4 月 14 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 有機単層結晶薄膜の電子物性の評価に成功 - 太陽電池や電子デバイスへの応用に期待 - 慶應義塾基礎科学 基盤工学インスティテュートの渋田昌弘研究員 ( 慶應義塾大学大学院理工学研究科専任講師 ) および中嶋敦主任研究員 (

円筒型 SPCP オゾナイザー技術資料 T ( 株 ) 増田研究所 1. 構造株式会社増田研究所は 独自に開発したセラミックの表面に発生させる沿面放電によるプラズマ生成技術を Surface Discharge Induced Plasma Chemical P

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

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開発の社会的背景 再生可能エネルギーの大量導入時代を見据えて 光 熱 振動などを利用する発電技術の研究開発が盛んに行われている その一つである熱電発電は 熱電材料 ( 固体 ) を用いて自然熱や未利用廃熱 分散した微小熱を電力として回収する技術であり 省スペース 無振動 長寿命などの長所がある 高効

sample リチウムイオン電池の 電気化学測定の基礎と測定 解析事例 右京良雄著 本書の購入は 下記 URL よりお願い致します 情報機構 sample

2008 年度下期未踏 IT 人材発掘 育成事業採択案件評価書 1. 担当 PM 田中二郎 PM ( 筑波大学大学院システム情報工学研究科教授 ) 2. 採択者氏名チーフクリエータ : 矢口裕明 ( 東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻博士課程三年次学生 ) コクリエータ : なし 3.

燃料電池反応を高効率化する「助触媒」の役割を実験的に解明

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IB-B

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平成22年11月15日

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

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サーマルプリントヘッド

Gifu University Faculty of Engineering

資料1:地球温暖化対策基本法案(環境大臣案の概要)

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News Release 平成 30 年 4 月 27 日 各報道機関文教担当記者 殿 水蒸気とニッケルを用いた非プラズマプロセスによるダイヤモンドの高速 異方性エッチング技術を開発 金沢大学理工研究域電子情報通信学系の德田規夫准教授, 大学院自然科学研究科電子情報科学専攻博士後期課程の長井雅嗣氏らの研究グループ ( 薄膜電子工学研究室 ) は, 国立研究開発法人産業技術総合研究所先進パワーエレクトロニクス研究センターダイヤモンドデバイスチームの牧野俊晴研究チーム長, 山崎聡招聘研究員, 加藤宙光主任研究員との共同研究 ( 平成 29 年 7 月に包括連携協定を締結 ) により, 究極のパワーデバイス材料であるダイヤモンドの高速 異方性エッチング ( 1) 技術を開発しました 省エネルギー 低炭素社会の実現のためのキーテクノロジーとして次世代パワーデバイスの開発が求められています ダイヤモンドは, パワーデバイス材料の中で最も高い絶縁破壊電界 ( 2) とキャリア移動度 ( 3), そして熱伝導率を有することから, 究極のパワーデバイス材料として期待されています ダイヤモンドは最も硬い物質であることから, これまでエッチングにはプラズマプロセス ( 4) が用いられていましたが, エッチング速度が低いことやエッチング表面近傍に形成されたプラズマダメージがデバイス特性を劣化させること, そして半導体シリコンのプロセスに用いられている結晶の異方性エッチングがなかったことなどから, 非プラズマプロセスによるダイヤモンドの高速 異方性エッチング技術の開発が期待されていました 今回, 研究グループはプラズマを用いないニッケルの炭素固溶反応 ( 5) によるダイヤモンドエッチングに着目し, ダイヤモンドの高速 異方性エッチング技術を開発しました 将来, 本技術を応用することで省エネ 低炭素社会の実現に資する超低損失なダイヤモンドパワーデバイスの創製が期待されます 本研究成果は,2018 年 4 月 27 日午前 10 時 ( 英国時間 ) に国際学術誌 Scientific Reports のオンライン版に掲載され, また, ダイヤモンドの加工方法 として特許も出願しております なお, 本研究の一部は, 日本学術振興会 (JSPS) 科学研究費補助金および金沢大学が独自に行う戦略的研究推進プログラム ( 先魁プロジェクト ) 革新的省エネルギーデバイスの創製 の支援を受けて実施されました 1 / 5 筑波研究学園都市記者会, 資源記者クラブ, 文部,

研究の背景 世界のエネルギー消費量は年々増加傾向にあり, 地球規模のエネルギー不足が懸念さ れています このため, 発電により生み出したエネルギー ( 電力 ) の利用の更なる高効 率化が求められており, その鍵は電力制御を担っているパワーデバイス ( 6) が握っ ています 現在主流である Si( シリコン ) パワーデバイスは高度に発展を遂げてきまし たが, その性能は既に限界に近付きつつあり,Si パワーデバイスの更なる高性能化は極 めて困難です それ故,Si よりも優れた物性を有する SiC( シリコンカーバイド ),GaN ( 窒化ガリウム ),Ga2O3( 酸化ガリウム ), ダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ 半導体 ( 7) が近年注目されています 特にダイヤモンドは半導体材料において最大 の絶縁破壊電界, キャリア移動度に加え, 物質中最大の熱伝導率を有しています この ことはパワーデバイスに要求される高耐圧化 低損失化 高速化 小型化を実現する上 で大変有利に働くため, ダイヤモンドは究極のパワーデバイス材料として期待されてい ます しかし, 最高水準の硬度と化学的安定性を有するダイヤモンドをエッチングし, デバイス構造を作製することは容易ではありません 現在のダイヤモンドデバイス構造 の作製にはプラズマプロセスが用いられていますが, エッチングが低速である上に, ダ イヤモンドのエッチング面近傍にプラズマ起因のダメージが生じ, デバイス性能を劣化 させてしまいます このため, ダイヤモンドを高速にエッチングできる非プラズマプロ セスの開発が望まれていました そこで, ニッケルへの炭素の固溶反応に着目し, ダイ ヤモンドエッチングプロセスの開発に取り組みました 研究成果の概要 本研究では, 高温水蒸気雰囲気下におけるニッケルへの継続的な炭素固溶反応を用いることにより, 世界最速の異方性ダイヤモンドエッチンングプロセスを実現しました ( 図 1 参照 ) 高温水蒸気雰囲気を用いることで, ニッケル表面が酸化し, ニッケル中の固溶炭素はその酸化ニッケルとの酸化還元反応により, 二酸化炭素および一酸化炭素として排出されます これによりニッケル中の炭素の不飽和状態が維持され, 高速かつ継続的なダイヤモンドのエッチングが可能です ( 図 2 参照 ) さらに, 高温水蒸気は酸素とは異なり, ダイヤモンドを直接エッチングする作用がないため, ダイヤモンドのニッケルと接触する部分のみを選択的にエッチングすることが可能となりました また, プラズマを用いないためデバイス性能を劣化させるプラズマダメージはありません 今後の展開 本技術を用いて, ダイヤモンドのトレンチ構造を形成することで低損失かつ高耐圧の縦型トレンチゲートダイヤモンドパワーデバイスが実現できると考えています また, デバイス構造の作製だけでなく, ダイヤモンドの平坦化や切断などの加工プロセスへの応用も期待されます 2 / 5 筑波研究学園都市記者会, 資源記者クラブ, 文部,

図 1 ( 左 ) 高速エッチング技術を用いて穴をあけた単結晶ダイヤモンド ( 中 ) 異方性エッチング技術を用いて周期的なトレンチ ( 8) 構造を形成した単結晶ダイヤモンド基板と ( 右 ) そのトレンチ構造の上面図と断面模式図 図 2 高温水蒸気雰囲気下におけるニッケルとダイヤモンドの熱化学反応によるダイヤ モンドエッチングのメカニズム 3 / 5 筑波研究学園都市記者会, 資源記者クラブ, 文部,

掲載論文 雑誌名 :Scientific Reports 論文名 :Anisotropic diamond etching through thermochemical reaction between Ni and diamond in high-temperature water vapour ( 高温水蒸気中におけるニッケルとダイヤモンドの熱化学反応による異方性ダイヤモンドエッチング ) 著者名 :M. Nagai, K. Nakanishi, H. Takahashi, H. Kato, T. Makino, S. Yamasaki, T. Matsumoto, T. Inokuma, N. Tokuda( 長井雅嗣, 中西一浩, 高橋開, 加藤宙光, 牧野俊 晴, 山崎聡, 松本翼, 猪熊孝夫, 德田規夫 ) 用語解説 1 異方性エッチングある方向のエッチング ( 薬品等によって化学的に, またはイオン衝突によって物理的に材料を除去することで目的の形状を得る加工方法 ) 速度が, 他の方向に比べて異なるエッチングのこと 結晶面によってエッチング速度が異なることを用いる方法とプラズマ中の垂直方向に加速したイオンを用いる方法がある 一方, 等方性エッチングは, あらゆる方向のエッチング速度が等しいエッチングのこと 2 絶縁破壊電界 絶縁体に電圧をかけた際, 絶縁状態が保てなくなる電界のこと 3 キャリア移動度 固体中で電流に寄与するキャリア ( 電子, 正孔 ) の動きやすさの指標のこと 4 プラズマプロセスプラズマ ( 気体分子を電離することで正の電荷をもつイオンと電子に分離した状態となった電離気体 ) を用いたプロセスのこと 化学反応ではエッチングが難しい材料でも, プラズマ中の加速したイオンやラジカルによりエッチングが可能となる 5 炭素固溶反応 炭素がある金属の中に溶け込む反応のこと その際, 金属は元の結晶構造を保った状態 である 溶け込める量には限界があり, それを固溶限という 4 / 5 筑波研究学園都市記者会, 資源記者クラブ, 文部,

6 パワーデバイス 電力変換を担うインバータやコンバータなどを構成する半導体素子のこと 送電システ ムや生産設備, 輸送機器, 家電など世の中のあらゆる製品に組み込まれている 7 ワイドバンドギャップ半導体 バンドギャップが Si のバンドギャップ (1.1 ev) よりも大きい半導体材料のこと 8 トレンチ 基板表面に形成する溝 ( トレンチ ) のこと 本件に関するお問い合わせ先 < 研究に関すること > 金沢大学理工研究域電子情報通信学系准教授 / リサーチプロフェッサー ( ) 德田規夫 ( とくだのりお ) TEL:076-234-4875 E-mail:tokuda@se.kanazawa-u.ac.jp 金沢大学独自の制度であり, 研究に専念するために管理業務の軽減など特別の措置を適用される教員の こと 広報担当 金沢大学総務部広報室戦略企画係舘正裕樹 ( たちまさゆき ) TEL:076-264-5024 E-mail:koho@adm.kanazawa-u.ac.jp 金沢大学理工系事務部総務課総務係吉田和史 ( よしだかずちか ) TEL:076-234-6951 E-mail:s-somu@adm.kanazawa-u.ac.jp 産業技術総合研究所企画本部報道室小見千尋 ( おみちひろ ) TEL: 029-862-6216 E-Mail:press-ml@aist.go.jp 5 / 5 筑波研究学園都市記者会, 資源記者クラブ, 文部,