市街地再開発事業による社会的便益の分析

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国土技術政策総合研究所 プロジェクト研究報告

第 Ⅱ ゾーンの地区計画にはこんな特徴があります 建築基準法のみによる一般的な建替えの場合 斜線制限により または 1.5 容積率の制限により 利用できない容積率 道路広い道路狭い道路 街並み誘導型地区計画による建替えのルール 容積率の最高限度が緩和されます 定住性の高い住宅等を設ける

工業地域用途地域の一つで 主として工業の業務の利便の増進を図る地域のこと 住宅や店舗は建てられるが 学校や病院 ホテルなどは建てられない 高次都市機能行政 教育 文化 情報 商業 交通 レジャーなど都市自体が持つ住民生活や企業の経済活動に対する各種のサービス機能のうち 受益圏が広域にわたる質の高い機

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及びその周辺の地域における自然的条件 建築物の建築その他の土地利用の状況等を勘案し 集落の一体性を確保するために特に必要と認められるときは この限りでない (2) 区域内の主要な道路が 環境の保全上 災害の防止上 通行の安全上又は事業活動の効率上支障がないような規模及び構造で適当に配置されており か

Ⅰ 用途地域指定の基本方針 1 用途地域別 市街地像 と指定の基本方針 1 2 境界の設定 4 3 用途地域見直しの時期 5 4 その他の地域地区や地区計画の活用 6 Ⅱ 用途地域の指定基準 第一種低層住居専用地域 7 第二種低層住居専用地域 9 第一種中高層住居専用地域 11 第二種中高層住居専用

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目次 Ⅰ 運用基準の策定にあたって P1 1 策定の目的 P1 2 運用基準の位置づけ P1 Ⅱ Ⅲ 土地利用のあり方 P1 地区計画の活用 P2 1 地区計画とは P2 2 地区計画の活用類型 P2 (a) 地域資源型 P3 (b) マスタープラン適合型 P3 (c) 街区環境整序型 P3 (d)

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(2) 区域内の主要な道路が 環境の保全上 災害の防止上 通行の安全上又は事業活動の効率上支障がないような規模及び構造で適当に配置されており かつ 区域外の相当規模の道路と接続していること (3) 区域内の排水路その他の排水施設が その区域内の下水を有効に排出するとともに その排出によって区域及びそ

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3 市長は 第 1 項の規定により指定した土地の区域を変更し 又は廃止しようとするときは あらかじめ久喜市都市計画審議会 ( 以下 審議会 という ) の意見を聴くものとする 4 第 1 項及び第 2 項の規定は 第 1 項の規定により指定した土地の区域の変更又は廃止について準用する ( 環境の保全

稲毛海岸5丁目地区

3-3 新旧対照表(条例の審査基準).rtf

< 解答例 > 一小問 (1) について不動産の価格は 不動産の効用及び相対的稀少性並びに不動産に対する有効需要に影響を与える諸要因の相互作用によって形成されるが その形成の過程を考察するとき そこに基本的な法則性を認めることができる 不動産の鑑定評価は その不動産の価格の形成過程を追究し 分析する

エ建替え後の建築物の絶対高さ制限を超える建築物の部分の水平投影面積の合計は 現に存する建築物又は現に建築の工事中の建築物の絶対高さ制限を超える建築物の部分の水平投影面積の合計を超えないこと オ建替え後の建築物の絶対高さ制限を超える建築物の部分の水平投影部分の形状は 現に存する建築物又は現に建築の工事

市街化調整区域の土地利用方針の施策体系 神奈川県 平塚市 神奈川県総合計画 神奈川県国土利用計画 平塚市総合計画 かながわ都市マスタープラン 同地域別計画 平塚市都市マスタープラン ( 都市計画に関する基本方針 ) 平塚都市計画都市計画区域の 整備 開発及び保全の方針 神奈川県土地利用方針 神奈川県


第1号様式(第9条第1項関係)

Taro-03_H3009_ただし書同意基準


目   次

イメージ図 ( 医療施設の場合 ) イメージ図 ( 誘導施設 : 地域医療支援病院の場合 ) 5 届出を要しない軽易な行為などについて都市再生特別措置法第 108 条並びに都市再生特別措置法施行令第 35 条 第 36 条の規定により 以下の行為は届出の対象となりません 軽易な行為その他の行為で政令

目 次 調査結果について 1 1. 調査実施の概要 3 2. 回答者の属性 3 (1) 主な事業地域 3 (2) 主な事業内容 3 3. 回答内容 4 (1) 地価動向の集計 4 1 岐阜県全域の集計 4 2 地域毎の集計 5 (2) 不動産取引 ( 取引件数 ) の動向 8 1 岐阜県全域の集計

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別記様式第4

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新しいまちづくりのために

令和元年長崎県地価調査結果の概要について 1. 調査目的等地価調査は 地価公示と併せて一般の土地取引の価格に対する指標及び公的土地評価の基準等となるものであり 毎年 1 回 7 月 1 日現在の県下の基準地価格を判定し 公表している 基準地数 :447 地点 ( 住宅地ほか :438 地点林地 :9

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地区計画パンフレットP.1

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

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4. 都市機能誘導区域 4.1 都市機能誘導区域設定の基本的な考え方 (1) 都市機能誘導区域とは医療 福祉 商業等の都市機能を都市の中心拠点や生活拠点に誘導し集約することにより これらの各種サービスの効率的な提供を図る区域のことです 原則として 居住誘導区域内において設定します これらの都市機能は

目次 方針策定の背景 1-1. 用途地域指定の基本的な考え方 1-2. 住居系 [ 第一種低層住居専用地域 ] [ 第二種低層住居専用地域 ] [ 第一種中高層住居専用地域 ] [ 第二種中高層住居専用地域 ] [ 第一種住居地域 ] [ 第二種住居地域 ] [ 準住居地域 ] [ 田園住居地域 ]

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市街地再開発事業による社会的便益の分析 ( 株 ) 谷澤総合鑑定所九州支社 藤野裕三 1. はじめに市街地再開発事業は 低層の木造建築物が密集し 生活環境の悪化した平面的な市街地において 細分化された宅地の統合 不燃化された共同建築物の建築及び公園 緑地 広場 街路等の公共施設の整備と有効なオープンスペースの確保を一体的 総合的に行い 安全で快適な都市環境を形成することを目的とした事業である 公共的な性格を有する事業であることから 補助金等の公的資金が投入される事業があるが 公的資金の効率的な投入及び透明性の確保の観点から 補助金等の公的資金が投入される事業については その経営主体にとっての収支分析に加えて 社会的な側面からの事業評価が必要とされている その事業評価の方法としては 費用便益分析 が用いられることが多い 費用便益分析は 当該事業が実施される場合と実施されない場合の便益と費用を比較することにより事業の評価を行うものである ここでは 費用 便益のうち便益についてフォーカスをあて その発生の仕組み 推計の方法について紹介するものである 2. 便益の定性的分析 (1) 便益の内容等築年が経過した収益性の低い小規模な店舗 事務所 住宅等が密集し 十分な高度利用が図られていないエリアに 市街地再開発事業が施行されることにより 細分化された土地の整序 統合 土地の高度利用が具現化された再開発ビルの建設と同時に街路整備 公開空地等の整備等がなされる その結果 再開発事業の事業区域内においては 高度な商業 業務活動を行うことが可能となり 住民は快適な居住環境を得ることが期待されることにより 従前の状態に比較して事業区域内における収益性 快適性 利便性が向上する さらに市街地再開発事業の施行は 事業区域内だけでなく事業区域外に対しても影響を及ぼし 同様に収益性 快適性 利便性の向上が認められる このような便益の内容 その受益者等は< 表 1>のとおり整理される 1

表 1 便益の内容 受益者等 整備項目便益の内容受益者等 容積率の拡大により ビルの建設 容積率の拡大街路整備駐車場 駐輪場の整備商業床の整備業務床の整備住宅床の整備 可能床面積が増大し 収益性が向上する 幹線街路 周辺街路整備により 交通利便性が向上する 自動車 自転車によるアクセスが容易となり 交通利便性が向上する 商店等の配置により 買い物等の利便性が向上する オフィス等の配置により 雇用の場の創造 ビジネスの利便性が向上する 住居の配置により 居住者が増加し 再開発ビル内の商業売上の増加に加え 周辺店舗等の売上も増加し 収益性が向上する 土地所有者土地所有者 賃貸営業者事業区域外の住民 企業賃貸営業者事業区域外の住民 企業賃貸営業者事業区域外の住民 企業賃貸営業者事業区域外の住民 企業賃貸営業者事業区域外の住民 企業 便益の発生する場所は 事業区域内と事業区域外に分類され 事業区域内の便益を享受するのは 主に土地所有者及び再開発ビルの賃貸事業者であり その便益の内容は収益性の向上が主である 一方 事業区域外の便益を享受するのは周辺住民及び企業であり その便益の内容は主に利便性の向上である (2) 便益の発生範囲一般的な再開発事業においては 事業区域周辺の街路整備 公開空地が整備され 共同住宅 商業 業務施設等を有する再開発ビルが建設される 街路整備 公開空地については 大規模な整備が行われるケースは少なく その効果も遠方へ及びにくいと考えられる また 共同住宅の整備については 当該住宅の居住 2

者が周辺商業施設の顧客になることが予測されるが その効果は遠方へは波及しないものと考えられる 一方 商業 業務施設の整備については 買い回りの向上や就業機会の拡大などが期待され 鉄道等の交通施設 乗用車等の利用によりアクセス可能な範囲までその影響が及ぶと考えられ 比較的広い範囲まで便益が発生すると考えられる そこで 便益の計測範囲については 狭域圏 ( 再開発ビルから徒歩圏内 ) と広域圏 ( 再開発ビルから徒歩圏外 ) のエリアに区分する さらに 事業区域内及びその隣接部には市街地再開発事業の効果が直接的に現れると考えられることから 狭域圏 ( 徒歩圏内 ) をさらに細分化し 事業区域 隣接部 周辺部に区分する 次の表は 各区分の特性等を具体的に示している 狭域圏 a 事業区域 b 隣接部 c 周辺部 市街地再開発事業の施行地区内事業区域内に隣接する地域事業区域端から50メートル程度の区域事業区域内まで徒歩でのアクセスが容易な地域事業区域内重心から500メートル程度の区域事業区域内まで鉄道や自動車利用でのアクセスが容易な地 d 広域圏 域 事業区域内重心から 10 キロメートル程度の区域 また 再開発ビルから距離が離れるにしたがい その便益の大きさは減少して いくと考えられる 次の図は 便益計測の範囲及び便益の大きさの変化を概念的 に表現している 3

便益の大きさ 事業区域 隣接部 周辺部 広域圏 便益の測定範囲 3. 便益の推定方法収益性の向上は 商業 業務活動 居住環境の向上を背景として生み出されるものであり これらは結果的に商業施設 業務施設 住居部分からの賃料収入として現れる したがって 事業区域内における収益性の向上については 建設される再開発ビルの商業床 住宅床の賃料収入に基づき測定することが可能である 一方 事業区域外における利便性の向上を測定するためには その利便性向上分を貨幣額に変換する必要があるが 直接的に利便性の向上という便益を測定することは困難である そこでヘドニック アプローチを適用し 事業区域外の便益を測定する 4

一般に 鉄道駅 大規模な商業施設等への接近性に優れ かつ居住環境が良好な地域は利便性 快適性が高く その結果地価水準も高い ヘドニック アプローチは このような利便性等の水準の差が地価の差に現れるという考えに基づき 便益を地価という指標を用いて貨幣額にて計測する方法である 一般に 環境の改善等により土地の収益 ( 地代 フローとしての収益 ) が増加することにより地価が上昇する この地価上昇分は環境の改善等という便益が資本化 ( ストック化 ) されたものであるという仮説をキャピタリゼーション仮説という ヘドニック アプローチは このキャピタリゼーション仮説に基づくものである 今回の分析においては 市街地再開発事業が施行されていない状態において 価格形成要因 ( 街路条件 交通接近条件等 ) を説明変数とする 地価関数 を推計する 次に事業の施行による価格形成要因の変化分を地価関数に代入することにより 事業の施行有無における地価の変化分を把握する この地価変化分は 便益を資本還元したものとみなすことが可能である したがって この地価変化分に還元利回りを乗じることにより 当該事業による便益 ( 年当たり収益 ) を査定する 4. 便益の推定事業区域内と事業区域外では 発生している便益の特性がそれぞれ異なるため これらを別個にみていく (1) 事業区域内収益還元法における純収益 (NOI) の査定と同様に 新築される再開発ビルと類似性が認められる賃貸事例に基づき各施設における賃料収入を査定し 総収益を求める 次に賃貸経営を継続するため必要となる総費用を求め 総収益から総費用を控除することにより 再開発ビルの純収益を査定する (2) 事業区域外事業区域外の便益を求めるに当たっては ヘドニック アプローチを適用する 主な手順は次のとおりである 地価関数の推定 地価変化分の査定 事業区域外便益の査定 1 概略 5

事業区域外の便益については まず 各地点の地価を推計する地価関数を推定する この地価関数により 市街地再開発事業による価格形成要因の変化分に対応した地価変化分 ( 単価 ) が査定される 次に各地点の存する区画の宅地面積を乗じることにより 当該区画の地価増価分を査定し 各区画の地価増価分を合算することにより事業区域外の便益を求める 例えば 土地単価 (L P ) が次の関数で表されている場合について考える L P = t + ax 1 + bx 2 市街地再開発事業により 価格形成要因 X 1 が X 1 に変化した場合 土地単価 の変化分 (ΔL P ) は次のとおりとなる ΔL P = a(x 1 - X 1 ) このエリアの宅地面積 (S k ) に上記土地単価変化分を乗じることにより 当 該エリアの地価変化分が査定される 次に便益計測範囲内のすべてのエリアの 地価変化分を合算し 総地価変化額を算出する L PT = Σ(ΔL Pk S k ) 最後に 総地価変化額に還元利回り (Cap. Rate) を乗じて 年当たりの便 益を査定する 便益 = L PT Cap. Rate 2 地価関数の推定 説明変数 ( アクセシビリティ ) について地価を被説明変数 価格形成要因を説明変数とする地価関数を重回帰分析を用いて推定する この際 市街地再開発事業の効果を地価関数に反映させることが必要である そのために アクセシビリティ という要因を説明変数の一つとする アクセシビリティとは 商業施設 業務施設等の利便施設への接近性を表す 6

概念であり 施設等の規模 ( 床面積等 ) と当該施設等へアクセスするために要する費用 ( 所要時間 運賃を考慮した一般化費用 ) により次のように定義される 下式に示すとおり 施設等の規模が大きくなればなるほど また 当該施設等へのアクセスが容易であればあるほどアクセシビリティは大きくなる 地点 X の施設 p までのアクセシビリティ = 施設 p の規模 ( 延床面積 )/( 地点 X から施設 p までの一般化費用 ) 1.2 地価関数の推定 サンプル地価データを収集し それらについての価格形成要因 ( 道路幅員 容積率 アクセシビリティ ) を調査し 重回帰分析により地価関数を求める L P = C + a FRW + b FAR + c ACC 3 地価変化分の推定市街地再開発事業により 事業区域内に再開発ビルが建築され 住宅, 商業施設が供給されることにより 事業区域外から見れば アクセシビリティの増分が生まれる 事業区域外のうち 便益の測定範囲を複数のゾーンに分け 当該ゾーン毎に増分アクセシビリティを求め 当該増分アクセシビリティに上記地価関数のアクセシビリティの係数 (c) を乗じて 地価変化分 ( 単価 ) を査定する 次に各ゾーンの宅地面積を乗じることにより 各ゾーンの地価変化分が査定される 最後に 各ゾーンの地価変化分を合算することにより 事業区域外における総地価変化分が査定される 4 事業区域外便益の査定上記総地価変化分は 市街地再開発事業による便益が資本還元されたものと見ることができる したがって 総地価変化分に還元利回りを乗じることにより 年当たりの便益が査定される 5. 終わりに 7

費用便益分析では 将来発生する便益と費用の現在価値を求め それらの合計値を比較することによりその効果の測定を行う 実際の分析例をみていく ある 100 万都市の中心部周辺にて行われている市街地再開発事業について 費用便益分析を行った この事業では 30,900 m2の床面積が供給される予定であるが 分析の結果 便益 / 費用は 1.67 となり 十分に効果が認められるという結果を得た 以上 8