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米国の利上げ見送りと日本の長期化した金融緩和

資料1

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○ユーロ

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

平成 25 年 3 月 19 日 大阪商工会議所公益社団法人関西経済連合会 第 49 回経営 経済動向調査 結果について 大阪商工会議所と関西経済連合会は 会員企業の景気判断や企業経営の実態について把握するため 四半期ごとに標記調査を共同で実施している 今回は 2 月下旬から 3 月上旬に 1,7

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米国経済見通し 個人消費の加速と不透明感

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平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

第1章

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[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

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平成10年7月8日

チーフエコノミスト : 高田創 [ 経済予測チーム ] 山本康雄 ( 全体総括 ) 米国経済小野亮 山崎亮

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

2009 年 2 月号 米国経済 金融市場の概況 景気対策法と新たな金融安定化策の議論が大詰めを迎えている 一方 民需は悪化基調を辿り 世界貿易の縮小にも歯止めがかかった様子は見られない 米国経済の回復がむしろ遠のいている懸念すらある 景気対策によって 2009 年のマイナス成長は逃れないとしても

金融市場2018年12月号

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中小企業の動向

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

目次 調査結果の概要 1 小企業編 中小企業編 概況 3 概況 15 調査の実施要領 4 調査の実施要領 16 業況判断 5 業況判断 17 売上 1 売上 2 採算 11 利益 21 資金繰り 借入 12 価格 金融関連 22 経営上の問題点 13 雇用 設備 23 設備投資 価格動向 14 経営

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1 概 況

現代資本主義論

米労働市場は直近の回復基調に変化なし ~FRB出口政策への影響は限定的~

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月例経済報告

NZD NZDANZActivityOutlook 01:00 21: NZD ニュージーランド NBNZビジネス信頼感指数 01:00 21: AUD オーストラリア HIA 新規住宅販売件数 (MoM) 01:00 21:00 0.6% AUD オーストラリア民間事業

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平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

ニュースリリース 農業景況調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 1 8 日 株式会社日本政策金融公庫 平成 30 年農業景況 DI 天候不順響き大幅大幅低下 < 農業景況調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日本政策金融公庫 ( 略称 : 日本公庫 ) 農林水産事業は 融資先の担い手農業者

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FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

月例経済報告

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

インフレ加速の足音-物価指標はインフレ加速を示唆。今後も賃金上昇、GDPギャップ解消からインフレは加速しよう

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関西経済レポート (2019 年 9 月 ) 令和元年 (2019 年 )9 月 30 日 ~ 輸出減少が継続 インバウンド消費はプラスの伸びを維持 ~ 足元の経済情勢と当面の見通し 関西経済は輸出 生産が斑模様であるが 内需が下支えとなり底堅く推移している 企業部門では 輸出は中国経済の減速等によ

産業トピックス

マーケット フォーカス経済 : 中国 2019/ 5/9 投資情報部シニアエコノミスト呂福明 4 月製造業 PMI は 2 ヵ月連続 50 を超えたが やや低下 4 月 30 日 中国政府が発表した4 月製造業購買担当者指数 (PMI) は前月比 0.4ポイントの 50.1となり 伸び率がやや鈍化し

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第 70 回経営 経済動向調査 公益社団法人関西経済連合会 大阪商工会議所 < 目次 > 1. 国内景気 2 2. 自社業況総合判断 3 3. 自社業況個別判断 4 4. 現在の製 商品およびサービスの販売価格について 8 参考 (BSI 値の推移 ) 11 参考 ( 国内景気判断と自社業況判断の推

○ユーロ

Economic Indicators   定例経済指標レポート

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景気見通し調査 ( 平成 25 年 3 月期 ) 調査結果 福井商工会議所 中小企業総合支援センター 調査の概要 当調査は 福井商工会議所管内の小規模事業所の短期的な景気動向を把握するため 毎年 3 月 6 月 9 月 12 月の年 4 回実施している 調査時期 平成 25 年 3 月 13 日 (

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

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オーバルネクスト ETF 情報 2010 年 2 月 15 日号 ( 株 ) オーバルネクスト 東京都中央区日本橋兜町 13-2 TEL 03(5641)5777

富山県金融経済クォータリー(2018年秋)

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

製造業の雇用削減が本格化し 失業率は5.4% に上昇 雇用情勢の悪化が足元で鮮明になっている 急激な減産局面に突入した昨年 11 月あたりから 派遣切り と言われるような非正規労働者を中心とした解雇に注目が集まったが 実際には今年 2 月まで雇用者数はほぼ横ばいで推移しており (2008 年平均は前

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個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

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別紙2

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

ニュースリリース 食品産業動向調査 : 景況 平成 3 1 年 3 月 2 6 日 株式会社日本政策金融公庫 食品産業景況 DI 4 半期連続でマイナス値 経常利益の悪化続く ~ 31 年上半期見通しはマイナス幅縮小 持ち直しの動き ~ < 食品産業動向調査 ( 平成 31 年 1 月調査 )> 日

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

Ⅱ 用語等の説明 今期の状況 来期の状況 前年同期 ( 平成 29 年 4~6 月期 ) と比べた今期 ( 平成 30 年 4~6 月期 ) の状況 前年同期 ( 平成 29 年 7~9 月期 ) と比べた来期 ( 平成 30 年 7~9 月期 ) の状況 前期平成 30 年 1~3 月期 来期平成

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

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Ⅱ 用語等の説明 今期の状況 来期の状況 前年同期 ( 平成 28 年 4~6 月期 ) と比べた今期 ( 平成 29 年 4~6 月期 ) の状況 前年同期 ( 平成 28 年 7~9 月期 ) と比べた来期 ( 平成 29 年 7~9 月期 ) の状況 前期平成 29 年 1~3 月期 来期平成

不動産経済 表紙OL

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高値となった後 下がり始めた 前述の通り CI 一致指数は 生産や雇用など様々な経済指標を統合し算出されている そのため CI 一致指数の上昇 下降にどの指標 が寄与しているのかについても 内閣府は詳細に発表している 表 1は 各指標がCI 一致指数に対してプラスに寄与したのか マイナスに寄与したの

米国経済動向~深刻さ増す住宅不況

平成 21 年第 1 回 ( 平成 21 年 2 月 1 日実施 ) 鳥取県企業経営者見通し調査報告 目次ヘ ーシ 御利用にあたって 1 1 業界の景気判断 3 2 自己企業の売上高判断 5 3 自己企業の経常利益判断 7 4 生産数量の判断 9 5 在庫水準の判断 10 6 生産設備の規模判断 1

米国経済動向~GDP下方修正でもソフトランディングへ

共働きは 収入源の分散化や世帯所得の増加をもたらすことから 基本的には消費に対する自由度を高めるものと予想される つまり 配偶者収入も含めて 収入が消費に結びつきやすくなる可能性があるということだ しかし 実際には 共働き世帯が増加しているにも拘わらず 家計は消費に対して慎重になっているようだ 世帯

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生活衛生関係営業の景気動向等調査 平成17年7~9月期

けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

Transcription:

みずほ米国経済情報 2015 年 6 月号 トピック原油安下のテキサス経済 ( 現地ヒヤリング報告 ) ダラスやオースティンなどでは産業構造の原油離れが進んでいる 一方 原油依存度の高いヒューストンはこれから調整が本格化する可能性があり 注視が必要である 景気判断景気は踊り場から持ち直す動き 西海岸港湾の労働争議と悪天候の影響ははく落した ドル高と原油安の影響も一巡し 経済指標は持ち直している 物価は低インフレが続いているが 持ち直しつつある

1. トピック : 原油安下のテキサス経済 ( 現地ヒヤリング報告 ) ヒューストンとダラスで現地ヒヤリング実施テキサス経済は減速 足元持ち直しの兆しも原油価格に左右され易いヒューストン 高値圏でのヘッジが切れる今夏以降が正念場産業集積の多様化に支えられるダラス原油離れ経済の実力が問われるのはこれから 6 月上旬 米国テキサス州のヒューストンとダラスに出張し 地域経済に対する原油安の影響について 日系企業や現地専門家から意見を聴取する機会を得た 以下ではそのエッセンスを紹介したい ダラス連銀の企業サーベイ調査によれば テキサス州経済はサービス業に支えられて拡大が続いているが サービス業の勢いは鈍っている ( 図表 1) 製造業では原油安とドル高の影響で業況の悪化が一段と進んでいる その一方で テキサス経済が持ち直す兆しもある テキサス州の雇用者数は 3 月に前月比減少したが 4 月には小幅ながら増加に転じた テキサス州の景気先行指数も 4 月には 2014 年 8 月以来初めて前月比上昇に転じた テキサス州の中で石油 ガス産業と最も深い関わりを持つのがヒューストンである 今のところ 原油安を受けたエネルギー関連産業のレイオフは一巡している 石油掘削業者は 生産に必要な資材価格の低下に加え 新規の設備投資の抑制 原油生産の効率化などを通じて損益分岐点を大きく引下げ 収益性を維持しているようだ ( 図表 2) しかしダラス連銀によれば ヒューストンの景気一致指数は 4 月時点で前月比低下しており ( 図表 3) ヒューストン経済は景気の山を越えた可能性がある 現地でも 原油安の影響が今年の夏から本格化するとの見方が大勢を占めた 石油掘削業者は 上述した損益分岐点の引き下げのほか 昨夏の高値圏で契約したヘッジ取引によって原油安の影響から逃れてきたとされる しかしヘッジ取引の期間は 1 年 ~1 年半が中心と言われており 今夏以降は 石油掘削業者に有利なヘッジ取引の契約が切れ始めるとみられている 彼らが原油安に曝されるようになる今年後半には レイオフや企業破たん M& Aが活発化する可能性があるという ヒューストンと異なり ダラスについては地域経済の安定性が指摘されている 実際 ダラスの景気一致指数は拡大が続き 1980 年以降で比較すると ヒューストンとの景気の安定性の違いは明らかである ( 前掲 図表 3) ダラス経済の安定性は 産業集積の多様性 に理由があるようだ 州法人税 所得税がないこと 米国中央部や中南米へのアクセスの容易さ 西海岸地域と比べた生活コストの低さに加え 高度な都市集積による生活の質の高さなどがダラス固有の立地競争力となり カリフォルニア州などから幅広い産業の企業移転に結び付いてきていると言う 他州からの企業移転という点ではオースティンも同様であり 原油とは無縁のハイテク産業の集積が進んでいる 原油離れが進むダラスやオースティンの成長は 原油安に対する一定の防波堤になるだろう ただ前述したように 石油産業に対する調整圧力は今後本格化する可能性が高い 原油安に対するテキサス州経済の持久力が問われるのはむしろこれからであり それはとりもなおさず金融政策の行方をも左右する 1 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

図表 1 テキサス州内の企業業況 40 30 20 サービス業 売上指数 増加 10 0 10 20 30 40 製造業 生産指数 減少 2007 08 09 10 11 12 13 14 15 ( 年 ) ( 注 ) 前月比増加 と回答した企業の割合から 前月比減少 と回答した企業の割合を控除した指数 季節調整値の後方 3 カ月移動平均をプロット ( 資料 ) ダラス連銀より みずほ総合研究所作成 図表 2 石油掘削業者の収益を支える要因 図表 3 テキサス州と主要都市圏の景気循環 テキサス州全体 損益分岐点の引き下げ 新規投資の抑制 ヒューストン 原油安による資材価格の低下 ダラス 回収率の高い鉱区での生産集中 オースティン 高値圏でのヘッジ取引 1980 85 90 95 2000 05 10 15 ( 資料 ) 現地ヒヤリングより みずほ総合研究所作成 ( 注 ) 景気一致指数が前月比低下した局面を凸で表しており 長引けば景気後退を意味する ( 資料 ) ダラス連銀より みずほ総合研究所作成 2 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

2. 概況 : 米国経済は踊り場から持ち直し 米国経済は持ち直し年明け以降 エネルギーを除く生産は横ばい企業業況は拡大 堅調な非製造業との業況格差が懸念されていた製造業では 受注環境に持ち直しの動き製造業の一部業種や エネルギー依存の高い地域でドル高や原油安の悪影響が残存 下振れリスクには留意 米国経済は踊り場から持ち直しており 米国の経済指標は足元で市場予想を超える改善を示している 1~3 月期の実質 GDP 成長率 ( 暫定 ) は 前期比年率 0.7% とマイナスに下方修正された ( 図表 4) しかし 下押し要因であった西海岸港湾の労働争議と悪天候の影響は既にはく落しており ドル高 原油安の進行にも一服感がある 今後は踊り場からの持ち直しが続くだろう 年明け以降の生産活動は概ね横ばいで推移している 変動の大きいエネルギーを除く 5 月の鉱工業生産指数は 前月比 0.1% と低下した ( 図表 5) 4 月実績は上方修正されており 3 か月前比で見れば自動車関連が増産基調にあるが 幅広い業種の増産には至っていない エネルギー部門の生産指数は 2 月以降減産傾向が続いている このうち 石油 ガス掘削関連は原油安を受けて生産指数の悪化が続いているが 悪化テンポは鈍化している これらの結果 鉱工業部門全体で見た設備稼働率は 2014 年 1 月以来の水準まで低下した 米国の企業業況は拡大している 堅調な非製造業との業況格差が懸念されていた製造業では 受注環境の持ち直しが見られる 5 月のISM 製造業指数は 52.8(4 月 51.5) と低下基調からの持ち直しを示した ( 図表 6) 個別指数をみると 新規受注 輸出受注の両指数が持ち直し傾向にあり 受注環境の改善が見られる 他方 6 月の連銀製造業業況指数は フィラデルフィア連銀が大きく上昇する一方でニューヨーク連銀が低下しており 全米での力強い拡大には未だ至っていない 5 月のISM 非製造業指数は 55.7(4 月 57.8) と前月から低下したものの 堅調な水準を維持している ( 図表 7) 6 月 3 日に発表されたベージュブックでは 景気全般と製造業について 全体的には改善していることが報告された ただし 個別業種 地域に関する報告では ドル高による一次金属や加工金属産業への悪影響や 原油安によるエネルギー産業への悪影響からダラス連銀地区の一部などに弱さが見られることが指摘されている こうした原油安 ドル高による下振れリスクが残存している点には留意したい 3 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

図表 4 実質 GDP 成長率 図表 5 鉱工業生産と稼働率 ( 前期比年率 %) 政府支出 純輸出 在庫投資 8 設備投資 住宅投資 個人消費 実質 GDP 6 4.5 3.5 4.6 5.0 4 2.2 1.8 2 0.7 0 2 2.1 4 4~6 7~9 10~12 1~3 4~6 7~9 10~12 1~3 2013 2014 2015 ( 年 / 四半期 ) (2007=100) (%) 102 81.0 101 80.5 100 80.0 99 79.5 98 79.0 97 78.5 96 78.0 鉱工業生産 ( 除くエネルキ ー ) 設備稼働率 ( 総合 右目盛 ) ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 連邦準備制度理事会より みずほ総合研究所作成 図表 6 製造業 ISM 指数 図表 7 非製造業 ISM 指数 62 60 58 56 54 52 50 新規受注 生産 雇用 入荷遅延 在庫 総合指数 64 62 60 58 56 54 52 50 新規受注 事業活動 雇用 入荷遅延 総合指数 48 14/5 14/8 14/11 15/2 15/5 48 14/5 14/8 14/11 15/2 15/5 ( 資料 )ISM より みずほ総合研究所作成 ( 資料 )ISM より みずほ総合研究所作成 図表 8 景気の全体感を示す主要統計 Q2 2014 Q3 2014 Q4 2014 Q1 2015 2014/12 2015/1 2015/2 2015/3 2015/4 2015/5 成長率 実質 GDP 成長率 前期比年率 % 4.6 5.0 2.2 0.7 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. 国内最終需要 前期比年率 % 3.4 4.1 3.3 0.8 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. 純輸出 寄与度 %Pt 0.3 0.8 1.0 1.9 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. 在庫投資 寄与度 %Pt 1.4 0.0 0.1 0.3 n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. n.a. 月次実質 GDP 成長率 前期比 % n.a. n.a. n.a. n.a. 0.3 0.1 0.5 0.5 0.8 n.a. 企業業況 製造業 ISM 指数 DI 55.5 56.9 56.9 52.6 55.1 53.5 52.9 51.5 51.5 52.8 非製造業 ISM 指数 DI 55.9 58.2 57.4 56.7 56.5 56.7 56.9 56.5 57.8 55.7 生産活動 鉱工業生産指数 前期比 % 1.4 1.0 1.1 0.1 0.0 0.4 0.0 0.0 0.5 0.2 非エネルギー部門 前期比 % 1.7 1.1 0.9 0.5 0.1 0.7 0.3 0.3 0.0 0.1 鉱工業設備稼働率 % 79.1 79.3 79.5 79.0 79.6 79.1 79.0 78.8 78.3 78.1 製造業 % 77.1 77.5 77.8 77.2 77.9 77.3 77.1 77.2 77.2 77.0 ( 資料 ) 米国商務省 マクロエコノミック アドバイザーズ ISM 連邦準備制度理事会より みずほ総合研究所作成 4 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

3. 家計部門 : 消費は 5 月に大きく増加 雇用 住宅は総じて堅調な推移 家計部門は総じて堅調雇用は堅調 5 月は 30 万人弱の雇用増失業率は低下基調を維持賃金上昇率は緩やかに伸びを高める兆し原油安による雇用調整は相応に進展した模様 現時点では影響限定的小売売上高は持ち直しマインド指標は高水準住宅着工は減少したが 先行指標が大幅に増加住宅販売は住宅需要の底堅さを示す 家計部門の経済指標は 全般に持ち直している 良好な雇用と消費者マインドに支えられ 消費は 5 月に大きく増加している 住宅市場は総じて堅調である 雇用は堅調だ 5 月の非農業部門雇用者数は前月差 +28.0 万人 (4 月同 + 22.1 万人 ) と増加基調にある ( 図表 9) また 3 4 月実績は累計 3 万人強の上方修正となった (3 月同 +8.5 万人 同 +11.9 万人 4 月同 +22.3 万人 同 +22.1 万人 ) 内訳では 余暇 娯楽 小売 宿泊 食品サービスなどの業種がけん引役となっている 労働需給は改善傾向にある 失業率は 5 月 5.5%(4 月 5.4%) と小幅上昇したが 低下基調を維持している ( 図表 9) また より幅広く失業問題を捉えるための指標である代替的失業率 (U6) も 改善傾向を維持している 賃金上昇率は 緩やかに伸びを高めつつある 5 月の時間当たり賃金 ( 農業を除く民間部門 ) の上昇率は 前月比で+0.3% と高めの伸びとなった ( 図表 10) 前年比では+2.3% と 2013 年 8 月以来の高さである 民間調査会社 Challenger, Gray & Christmas によれば 米国のエネルギー関連企業の 5 月のレイオフ計画人数は 約 3 千人と大きく減少した 年初からの累計で見ると 約 6 万人のレイオフ計画に対し 鉱業部門の雇用者数は 7 万人弱減少しており 計画にほぼ見合う規模である 現時点では エネルギー部門で計画通りレイオフが進む中でも 米国全体の雇用への影響は限定的である 小売売上高は持ち直している ( 図表 11) 5 月は前月比 +1.2% と大幅に増加し 3 4 月の実績も上方修正された (3 月同 +1.1% 同 +1.5% 4 月同 ± 0.0% 同 +0.2%) コア小売は幅広い業種で大きく増加し 新車自動車販売台数 (Autodata Corporation) は前月比 +7.8% と大幅増加となった GDP への影響が相対的に大きいライト トラック (SUV 等が含まれる ) の販売台数は 輸入車を中心に増加傾向を保っている 消費者マインドの水準は高い 6 月のミシガン大学指数は前月から上昇し 金融危機によって大きく落ち込む前の 2007 年 1 月以来の水準にある 5 月の住宅着工件数は年率 103.6 万件と 前月から減少した ( 図表 12) しかし 先行指標と見られる着工許可件数は大幅に増加し 建築業者の景況感を表す住宅市場指数も大きく上昇している 住宅販売は 住宅需要の底堅さを示している 4 月の新築住宅販売は増加した 地域別にみると 中西部が大きく増加したほか 南部も増加した 北東部や西部は減少したが 西部での販売件数は依然高い水準にある 5 月の中古住宅販売は大幅に増加し 2009 年 11 月以来の高水準を示した 先行指標と見られる中古住宅仮契約指数 ( 全米不動産協会 販売契約時点で集計 ) は 4 月前月比 +3.4%(3 月同 +1.2%) と堅調に推移し 中古販売の持ち直しが続くことを示唆した 5 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

( 前月差 万人 ) 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 図表 9 雇用統計 (%) 7.0 6.8 6.6 6.4 6.2 6.0 5.8 5.6 5.4 5.2 非農業部門雇用者数失業率 ( 右目盛 ) 図表 10 時間当たり賃金 ( 前月比 %) 0.6 0.4 0.2 0.0 0.2 0.4 後方 3か月移動平均 ( 資料 ) 米国労働省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 米国労働省より みずほ総合研究所作成 図表 11 小売売上高 ( 前月比 %) 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 0.5 1.0 コア自動車 建材 ガソリン 図表 12 住宅着工件数と住宅市場指数 ( 年率 万件 ) 120 110 100 90 80 60 50 40 30 20 14/6 14/12 15/6 住宅着工件数 住宅市場指数 ( 右目盛 ) ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 米国商務省 NAHB より みずほ総合研究所作成 図表 13 家計部門の主要統計 Q2 2014 Q3 2014 Q4 2014 Q1 2015 2014/12 2015/1 2015/2 2015/3 2015/4 2015/5 雇用環境 非農業部門雇用者数 前期差 千人 265 248 283 259 329 201 266 119 221 280 失業率 % 6.2 6.1 5.7 5.6 5.6 5.7 5.5 5.5 5.4 5.5 週当たり労働時間 時間 34.5 34.5 34.6 34.6 34.6 34.6 34.6 34.5 34.5 34.5 時間当たり賃金 前期比 % 0.5 0.5 0.4 0.7-0.2 0.6 0.1 0.3 0.1 0.3 個人消費 小売売上高 前期比 % 2.3 0.8 0.5 1.0 0.9 0.8 0.5 1.5 0.2 1.2 コア小売 前期比 % 1.8 1.1 1.2 0.2 0.0 0.1 0.3 0.9 0.3 0.6 新車自動車販売台数 台数 百万台 16.6 16.8 16.9 16.7 16.9 16.7 16.2 17.1 16.5 17.8 ミシガン大消費者信頼感 1966 年 Q1=100 82.8 83.0 89.8 95.5 93.6 98.1 95.4 93.0 95.9 90.7 カンファレンスホ ート 消費者信頼感 1985 年 =100 83.4 90.9 92.7 101.3 93.1 103.8 98.8 101.4 94.3 95.4 住宅市場 住宅着工件数 年率 千戸 984 1,029 1,055 978 1,080 1,080 900 954 1,165 1,036 住宅着工許可件数 年率 千戸 1,041 1,045 1,092 1,065 1,077 1,059 1,098 1,038 1,140 1,275 新築住宅販売件数 年率 千戸 425 439 472 514 495 521 538 484 517 n.a. 中古住宅販売件数 年率 千戸 4,887 5,057 5,060 4,973 5,070 4,820 4,890 5,210 5,090 5,350 NAHB 住宅市場指数 DI 47 56 57 55 58 57 55 52 56 54 ( 資料 ) 米国労働省 米国商務省 Autodata ミシガン大 カンファレンスボード NAR NAHB よりみずほ総合研究所作成 6 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

4. 企業 対外 政府部門 : 設備投資は持ち直し 輸出にドル高の影 設備投資には緩やかな持ち直しの動き足元で設備投資マインドは低下基調建設投資は堅調な増加輸入は昨年秋以降で見れば増加基調 輸出はドル高が下押し要因連邦財政は前年並みペースで赤字拡大 設備投資は 2 月を底に緩やかに持ち直しており ドル高 原油安の悪影響は徐々に落ち着きを示している 機械関連の設備投資動向を示す非国防資本財 ( 除く航空関連 ) の 4 月の出荷額 ( 米国商務省 ) は前月比 +0.5% と 2 か月連続で増加した ( 図表 14) また 4 月の新規受注額は前月比 0.3% と減少したが 緩やかな持ち直し傾向は崩れていない ( 図表 14) 一方 ニューヨーク連銀とフィラデルフィア連銀の製造業調査によれば 足元で製造業企業の設備投資マインドは低下基調を示しており 気がかりな材料だ 建設投資 ( 除く住宅 ) は 1 月を底に持ち直している ( 図表 15) エネルギー産業への依存度が高い地域での商業不動産市況の悪化には警戒が必要だが 製造業やオフィスなど幅広い分野への投資が堅調な推移を示している 4 月の輸出入は 輸入が減少した一方で輸出が持ち直した ( 図表 16) 昨年秋以降で見れば 輸入は増加基調にある 他方 輸出は資本財や産業資材などがけん引役となり 持ち直しの動きを示している しかし 回復は緩やかで ドル高の影響が下押し要因になっていることが示唆される 連邦財政は 概ね前年度並みのペースで赤字額が膨らんでいる ( 図表 17) 米国では 3 月 15 日に債務上限規定の適用免除が法律通りに失効し 財務省による資金のやり繰りが行われている CBOによれば今年 10~11 月まではこうしたやり繰りが可能である (3/3) 7 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

図表 14 資本財出荷 新規受注 ( 年率 億ドル ) いずれも 740 航空関連を除く 720 図表 15 非住宅建設投資 ( 年率 億ドル ) 3600 3500 700 3400 680 660 非国防資本財出荷非国防資本財新規受注 3300 3200 14/4 14/10 15/4 ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 図表 16 実質財輸出 輸入 (2013 年平均 =100) 114 112 110 108 106 104 102 100 98 14/4 14/10 15/4 輸出 輸入 図表 17 累積連邦財政収支 ( 億ドル ) 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 10 12 2 4 6 8 ( 月 ) 2014 年度 2015 年度 ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 米国財務省より みずほ総合研究所作成 図表 18 企業 対外 政府部門の主要統計 Q2 2014 Q3 2014 Q4 2014 Q1 2015 2014/12 2015/1 2015/2 2015/3 2015/4 2015/5 企業業況 ニューヨーク (NY) 連銀現状判断 12.9 21.7 5.9 8.2 1.2 10.0 7.8 6.9 1.2 3.1 フィラテ ルフィア (PHL) 連銀現状判断 18.0 22.3 27.8 5.5 24.3 6.3 5.2 5.0 7.5 6.7 設備投資 コア資本財受注金額 前期比 % 0.4 3.5 3.8 2.2 0.9 0.2 5.1 1.6 0.3 n.a. コア資本財出荷金額 前期比 % 1.0 3.7 1.4 1.1 1.2 0.5 2.3 1.0 0.5 n.a. 非住宅建設支出 前期比 % 1.8 1.7 3.4 0.8 1.1 1.8 0.8 2.7 3.1 n.a. NY 連銀 6か月先設備投資判断 18.4 13.4 21.6 22.0 15.6 14.7 32.6 18.6 24.5 15.6 PHL 連銀 6か月先設備投資判断 25.0 19.6 23.0 16.8 24.8 13.2 20.9 16.4 15.8 16.8 輸出入 貿易収支 10 億ドル 129 126 128 130 46 42 37 51 41 n.a. 輸出 10 億ドル 588 589 589 564 195 189 187 188 190 n.a. 輸入 10 億ドル 717 715 717 695 241 232 224 239 231 n.a. 実質財輸出 2013 年 =100 103 104 106 n.a. 106 104 101 102 104 n.a. 実質財輸入 2013 年 =100 104 104 106 n.a. 107 107 104 113 109 n.a. 財政 財政収支 10 億ドル 47 117 177 263 2 18 192 53 157 82 歳入 10 億ドル 938 760 739 680 335 307 139 234 472 212 歳出 10 億ドル 890 877 916 943 333 324 332 287 315 295 ( 資料 ) ニューヨーク連銀 フィラデルフィア連銀 米国商務省 米国財務所よりみずほ総合研究所作成 8 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

4. 物価動向 : コア インフレ率は低い水準にあるが 持ち直しの兆しも 輸入物価は大きく低下しているが 前年比で見れば下落には一服感国内企業部門の物価下落には一服感 一方 コアは低下コアPCEデフレーターは低い水準で推移しているが 足元では持ち直しの兆しも市場取引ベースのインフレ期待は足元で持ち直しの動きが継続 輸入物価は原油安 ドル高を背景に大きく低下しているが 前年比で見れば物価下落には一服感が見られる 3 月の輸入物価指数は前年比 9.6% となり 前月から下落率が縮小した ( 図表 19) 原油安の進行が一服していることから石油関連輸入財物価の前年比上昇率は底打ちしている 一方 最終財 ( 自動車 消費財 資本財 ) 物価は前年比で低下が続いており ドル高の影響がうかがえる 国内企業部門でもヘッドラインの物価下落には一服感がある一方 コア インフレ率には低下傾向が見られる 4 月の最終需要 生産者物価指数 (PPI) は 前年比上昇率のマイナス幅が小幅縮小した 一方 食品 エネルギーを除くコアPPIの上昇率は前年比 +0.6% と 前月から低下した ( 図表 20) リテール部門では ヘッドラインのインフレ率が低下した 基調的なコア インフレ率は低い水準で推移しているが 足元では持ち直しの兆しが見られる 個人消費支出 (PCE) デフレーターは 4 月前年比 +0.1% と インフレ率が低下した ( 図表 21) 食品 エネルギーを除くコアPCEデフレーター上昇率も前年比 +1.2% と 前回から低下している 4 月のダラス連銀刈込平均 PCEデフレーターの上昇率は前年比 +1.6% と 前月並みのインフレ率を示した 5 月のコアCPIは前年比 +1.7%(4 月同 +1.8%) と 上昇率が前月から低下し クリーブランド連銀の刈込平均 CPI 上昇率 ( 前年比 ) も+1.6%(4 月同 +1.7%) と前月から低下した 以上のように 前年比で見ると基調的なインフレ率が低下しているが 3 か月前比で見ると上昇率の高まりが確認でき インフレ率は低位ながら持ち直しつつある サーベイ調査に基づくインフレ期待は 概ね安定的な推移を続けている ( 図表 22) また 市場取引ベースのインフレ期待は昨年秋以降の低下傾向が一服し 足元では持ち直しの動きが続いている 以上 9 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

図表 19 輸入物価 図表 20 最終需要 PPI ( 前年比 %) ( 前年比 %) 5 0.5 ( 前年比 %) 3.0 0 0.0 2.0 5 0.5 1.0 10 1.0 0.0 1.0 15 1.5 輸入物価 うち最終財 ( 右目盛 ) 2.0 総合 コア ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) 米国労働省より みずほ総合研究所作成 図表 21 PCE デフレーター 図表 22 期待インフレ率 ( 前年比 %) 2.0 1.5 1.0 0.5 (%) 3.0 2.5 2.0 0.0 総合 コア 1.5 14/6 14/12 15/6 ミシガン大期待インフレ率 (5~10 年先 ) BEI(5 年先 5 年 ) ( 資料 ) 米国商務省より みずほ総合研究所作成 ( 資料 ) ミシガン大 Bloomberg より みずほ総合研究所作成 図表 23 物価の主要統計 Q2 2014 Q3 2014 Q4 2014 Q1 2015 2014/12 2015/1 2015/2 2015/3 2015/4 2015/5 輸入物価 輸入物価指数 前年比 % 0.5 0.3 3.6 10.0 5.6 8.9 10.2 10.9 10.5 9.6 最終財 前年比 % 0.0 0.2 0.0 0.8 0.1 0.8 0.8 1.0 1.2 1.5 生産者物価 最終需要生産者物価指数 前年比 % 1.9 1.8 1.2 0.5 0.9 0.0 0.6 0.8 1.3 1.1 コア生産者物価指数 前年比 % 1.7 1.8 1.8 1.2 2.0 1.7 1.0 0.9 0.8 0.6 消費者物価 消費者物価指数 前年比 % 2.1 1.8 1.2 0.1 0.8 0.1 0.0 0.1 0.2 0.0 コア消費者物価指数 前年比 % 1.9 1.8 1.7 1.7 1.6 1.6 1.7 1.8 1.8 1.7 PCEデフレーター 前年比 % 1.6 1.5 1.1 0.3 0.8 0.2 0.3 0.3 0.1 n.a. 前期比 % 0.6 0.3 0.1 0.5 0.2 0.5 0.2 0.2 0.0 n.a. コアPCEデフレーター 前年比 % 1.5 1.5 1.4 1.3 1.3 1.3 1.3 1.3 1.2 n.a. 前期比 % 0.5 0.3 0.3 0.2 0.0 0.0 0.1 0.1 0.1 n.a. 刈込平均 PCEデフレーター 前年比 % 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 1.6 n.a. インフレ期待 ミシガン大期待インフレ率 % 2.8 2.7 2.8 2.7 2.8 2.8 2.7 2.8 2.6 2.8 BEI(5 年先 5 年 ) 期末値 % 2.4 2.1 1.9 n.a. 2.0 1.8 1.8 1.9 1.9 2.1 ( 資料 ) 米国商務省 米国労働省 ダラス連銀 ミシガン大 Bloomberg より みずほ総合研究所作成 10 みずほ米国経済情報 (2015 年 6 月号 )

2015 年 6 月 23 日発行 欧米調査部主席エコノミスト小野亮 03-3591-1219 makoto.ono@mizuho-ri.co.jp 欧米調査部エコノミスト山崎亮 03-3591-1289 ryo.yamasaki@mizuho-ri.co.jp 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証するものではありません また 本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります