1 検査の背景 我が国の郵政事業は 長期に及ぶ郵政省による運営の後 中央省庁の再編 公社化 民営化を経て 平成 27 年 11 月に 日本郵政株式会社 ( 以下 日本郵政 という ) 株式会社ゆうちょ銀行 ( 以下 ゆうちょ銀行 という ) 及び株式会社かんぽ生命保険 ( 以下 かんぽ生命 という

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1 検査の背景 (1) 租税特別措置の趣旨及び租税特別措置を取り巻く状況租税特別措置 ( 以下 特別措置 という ) は 租税特別措置法 ( 昭和 32 年法律第 26 号 ) に基づき 特定の個人や企業の税負担を軽減することなどにより 国による特定の政策目的を実現するための特別な政策手段であるとさ

1 制度の概要 (1) 金融機関の破綻処理に係る施策の実施体制金融庁は 預金保険法 ( 昭和 46 年法律第 34 号 以下 法 という ) 等の規定に基づき 金融機関の破綻処理等のための施策を 預金保険機構及び株式会社整理回収機構 ( 以下 整理回収機構 という ) を通じて実施してきている (2

1 検査の背景 (1) 日本年金機構における個人情報 情報システム及び情報セキュリティ対策の概要厚生労働省及び日本年金機構 ( 以下 機構 という ) は 厚生年金保険等の被保険者等の基礎年金番号 氏名 保険料の納付状況等の個人情報 ( 以下 年金個人情報 という ) について 社会保険オンラインシ

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第四ディスクロ09.indd

株主通信2015年4月1日から2016年3月31日まで

おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金


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2017 年度第 1 四半期業績の概要 年 8 月 9 日 日本生命保険相互会社

日本郵政株式会社株式を取り巻く環境

(訂正・数値データ訂正)「平成25年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」の一部訂正について

平成11年度決算:計数資料

独立行政法人鉄道建設 運輸施設整備支援機構の特例業務勘定における利益剰余金につき 国庫納付が可能な資金の額を把握し 将来においても 余裕資金が生じていないか適時に検討することとするとともに これらの資金が国庫に納付されることとなるように適切な制度を整備するよう国土交通大臣に対して意見を表示したものに

平成 21 年 12 月 18 日東海財務局 管内証券会社の平成 21 年 9 月期決算の概要 速報集計値 1. 損益の状況 東海管内証券会社 (19 社 ) の 21 年 9 月期決算については 営業収益は収益の柱である株券委託手数料収入の改善等により 前年同期に比べ 1.2% の増加 販売費 一

平成30年公認会計士試験

Microsoft Word - 訂正短信提出2303.docx

XBRL導入範囲の拡大

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Microsoft PowerPoint - 平成22年度決算の概要(Ver2)

運用手段の多様化は堅実に進み 銀行界への影響は これまでのところ ほとんど見受けられない おもな商品の国内市場規模 ~2007 年度の組成額 発行額等 ~ ゆうちょ銀行の新規業務 ゆうちょ銀行の新規業務 ~2008 年 3 月末残高 3 ~~ シンジケート ローン ( 注 1) 26.1 兆円貸出債

平成16年度中間決算の概要

有価証券等の情報(会社計)162 満期保有目的の債券 がを超えるもの がを超えないもの 公社債 435, ,721 31, , ,565 29,336 外国証券 ( 公社債 ) 1,506,014 1,835, ,712 1,493,938 1,778

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2019年年3月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)

1. 国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 抜粋 翻訳 ) 国際財務報告基準に準拠した財務諸表の作成方法について当行の国際財務報告基準に準拠した財務諸表 ( 以下 IFRS 財務諸表 という ) は 平成 27 年 3 月末時点で国際会計基準審議会 (IAS B) が公表している基準及び解釈指針に

162 有価証券等の情報(会社計 満期保有目的の債券 ( 単位 : 百万円 ) がを超えるもの がを超えないもの )合計 2,041,222 2,440, ,058 1,942,014 2,303, ,434 責任準備金対応債券 ( 単位 : 百万円 ) が貸借対照表 公社債

注記事項 (1) 当中間期における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) : 無新規 社 ( 社名 ) 除外 社 ( 社名 ) (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 : 無 2 1 以外の会計方針の変更 : 無

株式会社神奈川銀行

科目 期別 損益計算書 平成 29 年 3 月期自平成 28 年 4 月 1 日至平成 29 年 3 月 31 日 平成 30 年 3 月期自平成 29 年 4 月 1 日至平成 30 年 3 月 31 日 ( 単位 : 百万円 ) 営業収益 35,918 39,599 収入保証料 35,765 3

『学校法人会計の目的と企業会計との違い』

主な評価指標 主な定量的指標 : 設定なし 評価の視点 : 中期計画における所期の目標を達成しているかどうか等 評定と根拠 評定 : B 根拠 : 中期計画における所期の目標を達成していると認められるため 課題と対応 中期計画及び年度計画の実施状況 ( 主要な業務実績 ) 並びに当該事業年度における

付加退職金の概要 退職金の額は あらかじめ額の確定している 基本退職金 と 実際の運用収入等に応じて支給される 付加退職金 の合計額として算定 付加退職金は 運用収入等の状況に応じて基本退職金に上乗せされるものであり 金利の変動に弾力的に対応することを目的として 平成 3 年度に導入 基本退職金 付

2 事業活動収支計算書 ( 旧消費収支計算書 ) 関係 (1) 従前の 消費収支計算書 の名称が 事業活動収支計算書 に変更され 収支を経常的収支及び臨時的収支に区分して それぞれの収支状況を把握できるようになりました 第 15 条関係 別添資料 p2 9 41~46 82 参照 消費収入 消費支出

第101期(平成15年度)中間決算の概要

決算短信

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注記事項 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) : 無 新規 社 ( 社名 ) 除外 社 ( 社名 ) (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 : 有 2 1 以外の会計方針の変更 : 無 3

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サマリー

(2) 電気及びガスの小売市場の自由化 我が国の電気及びガスの小売市場は 近年自由化が進められている このうち 電 気については 16 年 4 月に 契約電力が原則として 500kW 以上の使用者は 一般の需要 に応じて電気を供給する事業者 ( 以下 一般電気事業者 という ) 以外の事業者か らも


2013年6月xx日


注記事項 (1) 期中における重要な子会社の異動 ( 連結範囲の変更を伴う特定子会社の異動 ) : 無 新規 社 ( 社名 ) 除外 社 ( 社名 ) (2) 会計方針の変更 会計上の見積りの変更 修正再表示 1 会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 : 無 2 1 以外の会計方針の変更 : 無 3

目次 1 グループ概況 2 国内生命保険事業 3 業績見通し 参考 グループ各社の概況 1

退職等年金給付積立金等の管理運用の方針

( 株 ) 四国銀行 (8387) 平成 28 年 3 月期第 1 四半期決 添付資料の目次 頁 1. 当四半期決算に関する定性的情報 2 (1) 連結経営成績に関する定性的情報 2 (2) 連結財政状態に関する定性的情報 2 (3) 連結業績予想に関する定性的情報 2 2. サマリー情報 ( 注記

科目当年度前年度増減 [ 負債の部 ] 流動負債未払金 3,44,15,654 3,486,316,11-46,3,357 給付金未払金 3,137,757,265 3,192,611,196-54,853,931 年金未払金 287,13, ,91,778 7,228,646 その他未

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電磁的方法による書面の交付及び 電磁的方法による交付に対する同意書 第 1 電磁的方法による書面の交付 1 契約締結前の電磁的交付ラッキーバンク インベストメント株式会社 ( 以下 当社 といいます ) は お客様が契約をご締結するにあたっては あらかじめ 下記事項を 書面によらず電磁的方法により交

リリース

投資法人の資本の払戻 し直前の税務上の資本 金等の額 投資法人の資本の払戻し 直前の発行済投資口総数 投資法人の資本の払戻し総額 * 一定割合 = 投資法人の税務上の前期末純資産価額 ( 注 3) ( 小数第 3 位未満を切上げ ) ( 注 2) 譲渡収入の金額 = 資本の払戻し額 -みなし配当金額

野村アセットマネジメント株式会社 平成30年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

6. データ集 2) 国内金融事業 1 日本保証 主要残高 貸借対照表 日本基準に基づく単体数値 ( 連結調整前 ) で作成しています ( 単位 : 百万円 ) 2015/ / / / / / /03 (a) 現金及び預金 1,

2. 基準差調整表 当行は 日本基準に準拠した財務諸表に加えて IFRS 財務諸表を参考情報として開示しております 日本基準と IFRS では重要な会計方針が異なることから 以下のとおり当行の資産 負債及び資本に対する調整表並びに当期利益の調整表を記載しております (1) 資産 負債及び資本に対する

3. 改正の内容 法人税における収益認識等について 収益認識時の価額及び収益の認識時期について法令上明確化される 返品調整引当金制度及び延払基準 ( 長期割賦販売等 ) が廃止となる 内容改正前改正後 収益認識時の価額をそれぞれ以下とする ( 資産の販売若しくは譲渡時の価額 ) 原則として資産の引渡

PowerPoint プレゼンテーション

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10年分の主要財務データ

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Microsoft Word - 原稿ver9.docx

経 [2] 証券投資信託の償還 解約等の取扱い 平成 20 年度税制改正によって 株式投資信託等の終了 一部の解約等により交付を受ける金銭の額 ( 公募株式投資信託等は全額 公募株式投資信託等以外は一定の金額 ) は 譲渡所得等に係る収入金額とみなすこととされてきました これが平成 25 年度税制改

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4 地方公営企業会計基準の見直しの影響 ( 概要 ) 地方公営企業会計基準の見直しのため 平成 23 年度に地方公営企業法施行令等を改正し その改正内容が平成 26 年度予算 決算から全面的に適用となっている (1) 見直しの趣旨 昭和 41 年以来大きな改正がなされていない地方公営企業会計制度と国

有価証券管理規程 第 1 章総則 ( 目的 ) 第 1 条この規程は 株式会社 ( 以下 会社 という ) の有価証券の運用および管理を適正に行うため 会社の保有する有価証券に関する管理基準および管理手続を定めるとともに 余裕資金の有効運用ならびに経営効率の向上を図ることを目的とする ( 有価証券の

(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

3 流動比率 (%) 流動資産流動負債 短期的な債務に対する支払能力を表す指標である 平成 26 年度からは 会計制度の見直しに伴い 流動負債に 1 年以内に償還される企業債や賞与引当金等が計上されることとなったため それ以前と比べ 比率は下がっている 分析にあたっての一般的な考え方 当該指標は 1

検査の背景 (1) 事業者免税点制度消費一般に幅広く負担を求めるという消費税の課税の趣旨等の観点からは 消費税の納税義務を免除される事業者 ( 以下 免税事業者 という ) は極力設けないことが望ましいとされている 一方 小規模事業者の事務処理能力等を勘案し 課税期間に係る基準期間 ( 個人事業者で

野村アセットマネジメント株式会社 2019年3月期 個別財務諸表の概要 (PDF)

第 16 回ビジネス会計検定試験より抜粋 ( 平成 27 年 3 月 8 日施行 ) 次の< 資料 1>から< 資料 5>により 問 1 から 問 11 の設問に答えなさい 分析にあたって 連結貸借対照表数値 従業員数 発行済株式数および株価は期末の数値を用いることとし 純資産を自己資本とみなす は

財務諸表に対する注記 1. 継続事業の前提に関する注記 継続事業の前提に重要な疑義を抱かせる事象又は状況はない 2. 重要な会計方針 (1) 有価証券の評価基準及び評価方法 満期保有目的の債券 償却原価法 ( 定額法 ) によっている なお 取得差額が少額であり重要性が乏しい銘柄については 償却原価

営業活動によるキャッシュ フロー の区分には 税引前当期純利益 減価償却費などの非資金損益項目 有価証券売却損益などの投資活動や財務活動の区分に含まれる損益項目 営業活動に係る資産 負債の増減 利息および配当金の受取額等が表示されます この中で 小計欄 ( 1) の上と下で性質が異なる取引が表示され

第3 法非適用企業の状況

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公募株式投資信託の解約請求および償還時

目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

綿貫財団会計

ほくほくフィナンシャルグループ (8377) 2019 年 3 月期 4. 補足情報 株式会社北陸銀行の個別業績の概要 2019 年 5 月 10 日 代表者 ( 役職名 ) 取締役頭取 ( 氏名 ) 庵栄伸 問合せ先責任者 ( 役職名 ) 執行役員総合企画部長 ( 氏名 ) 小林正彦 TEL (0

平成 27 年度高浜町の健全化判断比率及び資金不足比率 地方公共団体の財政の健全化に関する法律 が平成 21 年 4 月から全面施行され この法律により地方公共団体は 4 つの健全化判断比率 ( 実質赤字比率 連結実質赤字比率 実質公債費比率 将来負担比率 ) と公営企業ごとの資金不足比率を議会に報

日本基準基礎講座 資本会計

発行日取引の売買証拠金の代用有価証券に関する規 同じ ) であって 国内の金融商品取引所にその株券が上場されている会社が発行する転換社債型新株予約権社債券 ( その発行に際して元引受契約が金融商品取引業者により締結されたものに限る ) 100 分の80 (7) 国内の金融商品取引所に上場されている交

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プレゼン

第28期貸借対照表

ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)

. 個人投資家の年齢層と年収 個人投資家 ( 回答者 ) の年齢層 8% 6% 28% 2~3 代 5% 2% 3% 4 代 5 代 6~64 歳 65~69 歳 7 代以上 個人投資家 ( 本調査の回答者 ) の過半数 (56%) は 6 歳以上のシニア層 昨年調査 6 歳以上の個人投資家 56%

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第1回 オリエンテーション

金融監督等にあたっての留意事項について*事務ガイドライン*第三分冊:金融会社関係

スライド 1

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Transcription:

日本郵政グループの経営状況等についての報告書 ( 要旨 ) 平成 2 8 年 5 月 会計検査院

1 検査の背景 我が国の郵政事業は 長期に及ぶ郵政省による運営の後 中央省庁の再編 公社化 民営化を経て 平成 27 年 11 月に 日本郵政株式会社 ( 以下 日本郵政 という ) 株式会社ゆうちょ銀行 ( 以下 ゆうちょ銀行 という ) 及び株式会社かんぽ生命保険 ( 以下 かんぽ生命 という 以下 ゆうちょ銀行とかんぽ生命を合わせて 金融 2 社 という ) の株式の上場に至っている また この間 法令 制度等の改正に伴って組織の再編等が行われるとともに 日本郵政グループの各業務は関係法令による各種の規制の下で運営されている 会計検査院は これまで個別の事業の経営等を検査した結果について報告を行ってきたところである 一方 日本郵政グループは 今後の株式売却に向けて日本郵政グループ全体として企業価値を維持向上させることなどにより 復興財源の確保に貢献すること また 日本郵政及び日本郵便株式会社 ( 以下 日本郵便 という ) は 情報通信手段の多様化等によって国民の生活様式等が変化する中でユニバーサルサービスを提供すること 郵便局ネットワークを維持することなどが求められている そして 日本郵政は中期経営計画を策定して 各業務における収益力及び経営基盤の強化 ユニバーサルサービスの責務の遂行 日本郵政グループの企業価値の向上等を経営方針として掲げるなどしている そこで 会計検査院は 日本郵政グループの経営状況等について 合規性 経済性 効率性 有効性等の観点から 19 年度から26 年度までの間の日本郵政及び日本郵便のユニバーサルサービスに対する監督の状況及び27 年 11 月に実施された日本郵政の株式売却の実施状況等について説明を聴取するなどし また 14 年度から26 年度までの間の郵政事業の業務及び財務の状況等について 財務諸表等のほか 関係法令等に基づいて作成された各種報告書等により その内容を分析するなどして 総務省 財務省 独立行政法人郵便貯金 簡易生命保険管理機構並びに日本郵政 日本郵便 ゆうちょ銀行及びかんぽ生命において会計実地検査を行った 2 検査の状況 (1) 郵政事業の運営に係る組織形態 制度等の変遷等 - 1 -

郵政事業の公社化及び民営化に伴って その運営に係る組織形態 制度等は大きく変遷しており 公社化後は 財政状態及び経営成績をより明らかにするために 企業会計原則による会計処理が導入されるなどしている また 従業員数は減少しているが 郵便局ネットワークの水準を維持することを旨とすることが郵政民営化法 ( 平成 17 年法律第 97 号 ) 等に規定されていることなどから 郵便局数は僅かに減少した後 おおむね横ばいで推移しており 26 年度には24,470 局となっている (2) 日本郵政グループの損益等の状況公社の連結決算及び日本郵政グループの連結決算における経常収益等の推移をみると 経常利益及び当期純利益については 民営化後においても黒字基調で推移しているものの 経常収益については減少傾向が続いている 26 年度には 経常収益が14 兆 2588 億余円 経常利益が1 兆 1158 億余円 当期純利益が4826 億余円となっている そして 民営化後の当期純利益及び総資産額の推移をみると 銀行業の業績及び財政状態は長期にわたって日本郵政グループの経営に大きな影響を与えてきた また 日本郵政グループ内における取引については 日本郵政が基本方針を定めており 各社の業務の健全かつ適切な遂行に支障を及ぼすことのないようアームズ レングス ルールにのっとって公正に行うこととしている (3) 各業務等の実績等の状況 ア 郵便 物流事業及び金融窓口事業 郵便 物流事業では 郵便物に係る営業収益及び営業費用は規模が縮小する中 営業損益については 15 年度以降 利益の規模は変動しているものの 毎年度 営業利益を計上しており 26 年度の営業利益は115 億円となっている 一方 荷物に係る営業収益は増加しているものの 営業費用も22 年度に急増するなどしており 20 年度以降は営業損失を計上していて 26 年度には営業損失が208 億円となっている このような状況に対して 日本郵便は 25 年度から郵便 物流ネットワーク全体の生産性の向上等を図っており 郵便 物流ネットワーク再編に向けた取組を実施している イ 銀行業 ゆうちょ銀行には 新規業務の制限 貸出業務の範囲の制限等 他の銀行にはな い規制が課せられている ゆうちょ銀行の貯金残高の推移をみると 22 年度まで減 少傾向にあり 23 年度以降は増加に転じ 26 年度末には 177 兆 7107 億余円となってい - 2 -

る また 運用資産額については 22 年度まで貯金残高が減少していたことなどにより減少していたが その後 貯金残高の増加等に伴って増加しており 26 年度の資金運用収益は1 兆 8932 億余円となっている ゆうちょ銀行と都市銀行とを26 年度の運用資産の構成等について比較すると ゆうちょ銀行は 個人及び法人向けの貸出業務の範囲が制限されていることなどから 運用資産に占める貸出金の割合や預貸率は都市銀行と比較して低くなっている 一方 有価証券 特に国債を中心とする資金運用が行われているため 運用資産に占める有価証券の割合や預証率は都市銀行より高くなっていて 有価証券利息配当金が主な収益源泉となっている そして 民営化後は 顧客の満足度を高めるサービスの充実等を図るために各種の取組が行われている ウ 生命保険業 かんぽ生命には 新規業務の制限 加入限度額等の他の生命保険会社にはない規制が課せられている かんぽ生命が保有する保険契約件数の推移をみると 長期にわたり減少傾向が続いており 26 年度末には 個人保険の保険契約件数は約 3348 万件 個人年金保険の保険契約件数は約 426 万件となっている そして 運用資産額が減少する中 金銭の信託の運用額が大きく減少したことなどに伴って 資産運用収益も減少しており 26 年度の資産運用収益は1 兆 4607 億余円となっている かんぽ生命と他の生命保険会社等とを26 年度末における運用資産の構成等について比較すると 国内債券については かんぽ生命では運用資産に占める割合は他の生命保険会社等と比べて高くなっている一方 国内株式 外国債券 外国株式等については いずれも 他の生命保険会社等と比べて低くなっている そして かんぽ生命は 顧客のニーズに対応した商品を開発するなどしている エ ユニバーサルサービスの提供責務等 日本郵政及び日本郵便に提供責務が課されているユニバーサルサービスの提供状況をみると 郵便差出箱数 郵便物の送達日数達成率 過疎地における営業中の郵便局数等の必要なユニバーサルサービスの提供水準はおおむね維持されていると考えられる また 25 年度のユニバーサルサービスコストについて 総務省情報通信審議会による総務大臣への答申における試算によれば その計算過程や集配局エリア単位での損益については公表されていないものの 郵便の業務が1873 億円 銀行 - 3 -

窓口業務が 575 億円 保険窓口業務が 183 億円と多額に上っている オ その他の事業 病院事業については 日本郵政が 26 年度末現在で14 逓信病院を運営しているが 毎年度営業損失を計上していて 26 年度の営業損失は60 億余円となっており 厳しい経営状況となっている また 宿泊事業については 日本郵政が 26 年度末現在でかんぽの宿等 64 施設及びメルパルク11 施設を運営するなどしているが 毎年度営業損失を計上していて 26 年度の営業損失は29 億余円となっており 厳しい経営状況となっている (4) 株式売却に係る手続等及び株式売却収入の復興財源への充当の状況等国が保有する日本郵政の株式については 東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法 ( 平成 23 年法律第 117 号 ) により その売却収入を復興財源に充てることとなっている 27 年 11 月 4 日の日本郵政及び日本郵政の資産の大半を占める金融 2 社の株式の上場においては ブックビルディング方式により売出価格が決定された 日本郵政 ゆうちょ銀行及びかんぽ生命のそれぞれの株式の売出価格に売却株式数を乗じた金額から引受手数料を除くなどした金額は6807 億余円 5881 億余円 1428 億余円となっている そして 同年 12 月 3 日に 日本郵政が 上記の金融 2 社の株式売却収入を原資として 国が保有する日本郵政の株式を国から取得し 国はこの収入から売却手数料を除いた 7301 億余円と上記の6807 億余円を合わせた1 兆 4109 億余円を復興財源に充当した 3 所見 日本郵政グループは 郵便 物流事業 金融窓口事業 銀行業 生命保険業等の業務を実施している そして 前記のとおり 日本郵政は中期経営計画を策定しており 各業務における収益力及び経営基盤の強化 ユニバーサルサービスの責務の遂行 日本郵政グループの企業価値の向上等を経営方針として掲げるなどしている 一方 国が保有する日本郵政の株式の売却収入は復興財源に充当されることとなっており 日本郵政及び金融 2 社の株式が上場されたことにより 日本郵政及び金融 2 社の株式の一部については それぞれ少数株主が保有することとなった ついては 日本郵政グループ及び国において 郵政事業の運営がより効率的 効果 - 4 -

的なものとなるよう また 企業価値を維持向上できるよう 今後 次のような点に 留意して取り組む必要がある ア 日本郵政グループの連結決算における経常利益及び当期純利益については黒字基 調で推移しているものの 経常収益については減少傾向が続いており 日本郵政グループ各社は 今後の株式売却に向けた企業価値の維持向上のために 引き続き 経常利益や当期純利益の確保に努めること また 日本郵政グループ内における取引に係る支払額及び受取額は多額に上っており 一方 株式上場により日本郵政及び金融 2 社の株式の一部は少数株主が保有していることから こうした取引が 各社の業務の健全かつ適切な遂行に支障を及ぼしたり 少数株主の利益を害したりすることのないよう アームズ レングス ルールにのっとって公正に行われるように適切に配慮すること イ 郵便 物流事業について 荷物に係る営業損失を継続して計上していること ま た 郵便物に係る営業利益が減少していることから 日本郵便は 情報通信手段の 多様化等に対応した取組や現在実施している郵便 物流ネットワーク再編に向けた 取組を更に進めるなどして生産性の向上等に努めること ウ 銀行業について 業績及び財政状態は長期にわたって日本郵政グループの経営に 大きな影響を与えてきたが ゆうちょ銀行は 公社時代と比べて 貯金残高が減少するなどして運用資産額が減少していることから 新規業務の制限 貸出業務の範囲の制限等 他の銀行にはない規制が課せられ 預貸率 預証率等が都市銀行と大きく異なっている中で 顧客の満足度を高めるサービスの充実等を図るための取組を更に進めるなどして 貯金等の総預かり資産の拡大に努めること また 資金運用収益が減少していることから 資金運用に当たっては 引き続き 安全 確実な運用を行いつつ リスクを適切に管理しながら 市場の状況を踏まえて収益源泉の多様化を進めるなどして資金運用の収益性の向上に努めること エ 生命保険業について かんぽ生命は 長期にわたり保険契約件数の減少傾向が続 いていることから 新規業務の制限 加入限度額等の他の生命保険会社にはない規制が課せられている中で 顧客のニーズに対応した商品の開発等を更に進めるなどして 保険契約件数の維持等に努めること また 運用資産の多様化を促進するとしているが 資産運用収益が減少する中 資産運用に当たっては 引き続き 安全 確実な運用を行いつつ 許容可能なリスクの範囲を十分に検討した上 市場の状 - 5 -

況を踏まえて運用資産の多様化を進めるなどして資産運用の収益性の向上に努める こと オ ユニバーサルサービスの提供等について 郵便 物流事業で営業損失を計上する などしており 日本郵政及び日本郵便は ユニバーサルサービスの提供水準を将来にわたって維持するなどのために 郵便 物流事業及び金融窓口事業の収益性の向上等に努めること また 総務省は ユニバーサルサービスの提供水準を維持するなどのために 引き続き 日本郵政及び日本郵便に対する監督を適切に行うこと カ その他の事業について 日本郵政は 病院事業及び宿泊事業において営業損失の 計上が継続していることから 患者の需要に応じた医療や顧客のニーズに対応したサービスの提供等の取組を一層進めるとともに 長期にわたって営業損失を計上していて 今後も改善が見込み難い施設等については 引き続き 譲渡等を含む見直しを検討すること キ 株式売却に係る手続等について 財務省は その収入が復興財源に充当される日 本郵政の株式売却に当たり また 日本郵政は 日本郵政の資産の大半を占めていて日本郵政の株式の価値に影響を及ぼす金融 2 社の株式売却に当たり 引き続き 広範な投資家に対する需要状況の調査 需要の積上げなどに基づいて 合理的な方法による売出価格の設定等を行うよう努めること 会計検査院としては 日本郵政グループの経営状況等について引き続き注視していく こととする - 6 -