統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

世界初ミクログリア特異的分子 CX3CR1 の遺伝子変異と精神障害の関連を同定 ポイント ミクログリア特異的分子 CX3CR1 をコードする遺伝子上の稀な変異が統合失調症 自閉スペクトラム症の病態に関与しうることを世界で初めて示しました 統合失調症 自閉スペクトラム症と統計学的に有意な関連を示したア

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

自閉スペクトラム症と統合失調症 : 2 つの精神疾患における変異と発症メカニズムのオーバーラップを発見! ~ ゲノム医療への展開に期待 ~ ポイント 自閉スペクトラム症と統合失調症の日本人患者を対象に ゲノムコピー数変異の大規模か つ直接的に比較する解析を実施した 両疾患の患者の各々約 8% で病的

概要 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は うつ病と並ぶ代表的な精神疾患である統合失調症 1 の発症と関連する遺伝子変異を発見しました 理研脳科学総合研究センター ( 利根川進センター長 ) 分子精神科学研究チームの高田篤客員研究員 吉川武男チームリーダーらによる共同研究グループの成

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

平成14年度研究報告

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汎発性膿庖性乾癬の解明

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

研究の背景 古くから精神疾患を診断する補助として 病前の性格や体型に興味が持たれ 多くの仮説が提唱されています 有名な所では メランコリー親和性気質 ( まじめで几帳面など ) は うつ病に罹患しやすいというものがあり 臨床的にも受け入れられています 体型との関係も実は有名で 奇妙に思われるかもしれ

4. 発表内容 : 研究の背景 イヌに お手 を新しく教える場合 お手 ができた時に餌を与えるとイヌはまた お手 をして餌をもらおうとする このように動物が行動を起こした直後に報酬 ( 餌 ) を与えると そ の行動が強化され 繰り返し行動するようになる ( 図 1 左 ) このことは 100 年以

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

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統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

研究の内容 結果本研究ではまず 日本人のクロザピン誘発性無顆粒球症 顆粒球減少症患者群 50 人と日本人正常対照者群 2905 人について全ゲノム関連解析を行いました DNAマイクロアレイを用いて 約 90 万個の一塩基多型 (SNP) 6 を決定し 個々の関連を検討しました その結果 有意水準を超

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

すことが分かりました また 協調運動にも障害があり てんかん発作を起こす薬剤への感受性が高いなど 自閉症の合併症状も見られました 次に このような自閉症様行動がどのような分子機序で起こるのか解析しました 細胞の表面で働くタンパク質 ( 受容体や細胞接着分子など ) は 細胞内で合成された後 ダイニン

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

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精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

平成24年7月x日

【藤田】統合失調症リリース 1001_理研修正181002_理研2

生物時計の安定性の秘密を解明

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

発症する X 連鎖 α サラセミア / 精神遅滞症候群のアミノレブリン酸による治療法の開発 ( 研究開発代表者 : 和田敬仁 ) 及び文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて行わ れました 研究概要図 1. 背景注 ATR-X 症候群 (X 連鎖 α サラセミア知的障がい症候群 ) 1 は X 染

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

クワガタムシの大顎を形作る遺伝子を特定 名古屋大学大学院生命農学研究科 ( 研究科長 : 川北一人 ) の後藤寛貴 ( ごとうひろき ) 特任助教 ( 名古屋大学高等研究院兼任 ) らの研究グループは 北海道大学 ワシントン州立大学 モンタナ大学との共同研究で クワガタムシの発達した大顎の形態形成に

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報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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のとなっています 特に てんかん患者の大部分を占める 特発性てんかん では 現在までに 9 個が報告されているにすぎません わが国でも 早くから全国レベルでの研究グループを組織し 日本人の熱性痙攣 てんかんの原因遺伝子の探求を進めてきましたが 大家系を必要とするこの分野では今まで海外に遅れをとること

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

研究の背景近年 睡眠 覚醒リズムの異常を訴える患者さんが増加しています 自分が望む時刻に寝つき 朝に起床することが困難であるため 学校や会社でも遅刻を繰り返し 欠席や休職などで引きこもりがちな生活になると さらに睡眠リズムが不規則になる悪循環に陥ります 不眠症とは異なり自分の寝やすい時間帯では良眠で

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

成果 本研究の解析で着目したのは 25 の遺伝性疾患とそれらの 57 の原因遺伝子で これらは ACMG が推奨する 偶発的 二次的所見としての遺伝情報の結果の返却を推奨する遺伝子のセットのうち常染色体上のものに相当し 大部分が遺伝性腫瘍や遺伝性循環器疾患の原因遺伝子です 本研究では 当機構で作成し

染色体微小重複による精神遅滞・自閉症症例

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

平成17年度研究報告

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の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

NIRS は安価かつ低侵襲に脳活動を測定することが可能な検査で 統合失調症の精神病症状との関連が示唆されてきました そこで NIRS で測定される脳活動が tdcs による統合失調症の症状変化を予測し得るという仮説を立てました そして治療介入の予測における NIRS の活用にもつながると考えられまし

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

上原記念生命科学財団研究報告集, 29 (2015)

共同研究報告書

の機能不全がどのように思春期の神経回路網形成に影響をあたえ 最終的な疾患病態へ進行するのかは解明されていません そこで統合失調症の発症関連分子として確立されている遺伝子 DISC1 に注目し 神経培養細胞や生きたままのマウス前頭葉のライブ撮影を行うことで DISC1 の機能を抑制した神経細胞における

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2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

ポイント 急性リンパ性白血病の免疫療法が更に進展! -CAR-T 細胞療法の安全性評価のための新システム開発と名大発の CAR-T 細胞療法の安全性評価 - 〇 CAR-T 細胞の安全性を評価する新たな方法として これまでの方法よりも短時間で正確に解 析ができる tagmentation-assis

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平成 29 年 8 月 23 日 統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 精神医学講座の尾崎紀夫 ( おざきのりお ) 教授 Aleksic Branko( アレクシッチブランコ ) 准教授 ( 責任著者 ) 木村大樹( きむらひろき ) 助教 ( 筆頭著者 ) らの研究グループは 大阪大学大学院医学系研究科 / 生命機能研究科の山下俊英 ( やましたとしひで ) 教授 同蛋白質研究所の中村春木 ( なかむらはるき ) 教授らの研究グループとの共同により 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に存在する Reticulon 4 receptor (RTN4R) 遺伝子内に 統合失調症病態に強い関連を示すアミノ酸配列変異 (RTN4R-R292H) が存在することを 世界で初めて同定しました RTN4R は 22q11.2 欠失内に存在し さらに神経軸索伸張や神経細胞のスパイン形態に密接に関わる Nogo 受容体をコードしており 統合失調症発症への関与が示唆されておりましたが 実際に統合失調症患者内に存在する変異が如何に 統合失調症の発症に関与するのかは不明でした 本研究では 約 2000 名の統合失調症患者のゲノム解析 ( 理化学研究所 藤田保健衛生大学 岡山大学との共同研究 ) を通じて RTN4R-R292H 変異が統合失調症と統計学的に有意な関連を示すことを示しました 本変異を有する患者間で共通する症状の特徴は見出されませんでしたが 計算機によるタンパク質の立体構造モデルにより RTN4R と結合して機能する分子である LINGO1 との相互作用部位に RTN4R R292H が存在し RTN4R R292H により LINGO1 との相互作用が変化することが予想されました その後実施した細胞レベルの in vitro 機能解析により 本変異は LINGO1 との結合性の低下を起こすこと また神経細胞の成長円錐の形成に影響を与えることが判明しました 本研究により同定された一塩基変異は 統合失調症の疾患モデルを説明する上で有望であり 同変異を有する細胞や動物モデルは 統合失調症の病態解明だけでなく 新規の治療薬や診断方法の開発に役立つことが期待されます 以上の研究は 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 発達障害 統合失調症等の克服に関する研究 ) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト 新学術領域 包括型脳科学研究推進ネットワーク グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 の支援を受けて行われました 本成果は 英国オンライン科学雑誌 Translational Psychiatry ( 2017 年 8 月 22 日付の電子版 ) に掲載されました

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました この一塩基変異によって RTN4R タンパク質の 292 番目のアミノ酸がアルギニンからヒスチジンに置換され RTN4R の機能 さらには神経発達に影響を与え得ることが計算機による立体構造モデルで予測され 細胞を用いた実験で確認されました 本研究により同定された一塩基変異は 統合失調症の神経発達障害仮説を支持し 統合失調症の病態を説明するうえで有望な変異であり 今後 治療薬や診断方法の開発に応用されることが期待されます 1. 背景統合失調症は 陽性症状 ( 幻覚や妄想など ) 陰性症状( 意欲低下 感情の平板化 ) 認知機能障害を主症状とし 社会機能の低下 高い自殺率を呈する疾患です 有病率が約 1% と高く 本邦だけで 患者は80 万人に達しますが 病因 病態の解明が進んでいないために 病因 病態に基づく治療法 診断法開発が進まないのが現状です 家系内に本疾患が集積していること 遺伝率が 80% と高いことから 病態解明のためのゲノム解析が有望と考えられています 近年 世代シークエンサーにて実施されるシークエンス解析にて同定される頻度が稀な一塩基変異 ( 注 1)(Single Nucleotide Variant: SNV) が 発症に大きな影響を有し 機能解析も有望であるとして 精神疾患の病態研究のために注目が集まっています ( 図 1) Reticulon R receptor(rtn4r) は 統合失調症の発症に強い関連が知られる 22q11.2 欠失症候群 ( 注 2) を引き起こすゲノムコピー数変異 ( 注 3)(Copy Number Variant :CNV) である染色体 22q11.2 領域内に存在している遺伝子であり Nogo 受容体をコードしています Nogo 受容体は LINGO1 などの他タンパク質と受容体複合体を形成し ミエリンに存在する Nogo の影響を受けて 神経細胞軸索の伸張に関与することが知られており 統合失調症の病態と関連していることが想定されていました しかしこれまで RTN4R 遺伝子内に存在する遺伝子変異と 統合失調症との関与は明らかにされていませんでした そこで我々は RTN4R 遺伝子内に統合失調症発症に強い影響を与える変異が存在し得るとの仮説を立て ゲノム解析に加えて 同定された変異の機能解析を通じて 検討することにしました

2. 研究成果統合失調症患者約 2000 名と 健常対象者約 4000 名を対象に多施設共同でゲノム解析を実施した結果 RTN4R-R292H 変異が統合失調症の発症率を4 倍程度高めることが判明しました ( 図 1) 従来は 遺伝統計学的に関連が示唆された変異から如何なるメカニズムで統合失調症発症に至るのかの評価が困難でした しかし今回 計算機によるタンパク質の立体構造モデルによって RTN4R の 292 番目のアミノ酸は LINGO1 との相互作用位置に存在すること また変異により LINGO1 との相互作用が形成されにくくなることが予想されました ( 図 2) さらに予測にしたがって 細胞レベルの in vitro 解析を実施した結果 RTN4R- R292H 変異は 成長円錐 ( 注 4) の退縮に影響を与え 神経の発達に関連する可能性があることが判明しました 以上の結果から R292H により RTN4R LINGO1 受容体複合体の形成異常を介して 成長円錐退縮や神経細胞軸索伸張を変化させて 神経発達に影響し 統合失調症の病態に関与する可能性が示唆され 病態解明にとって重要な知見と考えられます ( 図 3)

3. 今後の展開 RTN4R-R292H 変異は 統合失調症の病態解明に有用であることが示唆され 変異を有するモデル動物の作製を通じて統合失調症に関連する行動評価をすること さらには同変異を有する患者由来の ips 細胞を樹立し 変異による神経系発達への影響を評価することが期待されます さらに 統合失調症の発症に最も強い関連を有することが知られる 22q11.2 欠失の発症メカニズムの解明において RTN4R を介した系を検討することが 有望と考えられます 4. 用語説明 ( 注 1) 頻度が稀な一塩基変異 : 集団内の1% 未満の頻度で観察される稀な一塩基変異が 精神疾患患者に集積しているという仮説に基づき 本研究では頻度が稀なゲノム変異に着目することにしています ( 注 2)22q11.2 欠失症候群 : 人間は 23 対の染色体を有するが その内の 22 番目の染色体の長腕 (q) の 11.2 という部分に欠失が存在した場合に 22q11.2 欠失症候群とされます この症候群では 心血管異常 特有の顔貌 胸腺低形成 口蓋裂 低カルシウム血症という身体疾患の合併に加えて 種々の精神疾患の発症率も高く 例えば統合失調症のオッズ比は 50 倍以上とされ 本疾患の最大のリスクと考えられています ( 注 3) ゲノムコピー数変異 (CNV): 染色体上の1kb 以上に渡るゲノム DNA が通常は2 コピーの所 1コピー以下 ( 欠失 ) 3コピー以上 ( 重複 ) となる変化 精神疾患に強い影響を及ぼすことがしられているが 内部には複数の遺伝子が含まれており どの遺伝子機能変化が 疾患発症に影響を及ぼしているのかははっきりしていません ( 注 4) 成長円錐 : 神経細胞の軸索や樹状突起の先端に観察される扇状の構造物 神経突起のガイダンスにおいて主要な役割を果たすことが知られ 軸索先端の成長円錐はやがて 標的となる神経細胞の樹状突起に接近して形態変化を引き起こし シナプスを形成することが知られています 5. 発表雑誌 Hiroki Kimura, Yuki Fujita, Takeshi Kawabata, Kanako Ishizuka, Chenyao Wang, Yoshimi Iwayama, Yuko Okahisa, Itaru Kushima, Mako Morikawa, Yota Uno, Takashi Okada, Masashi Ikeda, Toshiya Inada, Aleksic Branko, Daisuke Mori, Takeo Yoshikawa, Nakao Iwata, Haruki Nakamura, Toshihide Yamashita, Norio Ozaki " A novel rare variant R292H in RTN4R affects growth cone formation and possibly contributes to Schizophrenia susceptibility " Translational Psychiatry ( 英国時間 2017 年 8 月 22 日付けの電子版に掲載 ) DOI:10.1038/tp.2017.170

English ver. https://www.med.nagoyau.ac.jp/medical_e/research/pdf/translational_p_20170823en.pdf