世界初ミクログリア特異的分子 CX3CR1 の遺伝子変異と精神障害の関連を同定 ポイント ミクログリア特異的分子 CX3CR1 をコードする遺伝子上の稀な変異が統合失調症 自閉スペクトラム症の病態に関与しうることを世界で初めて示しました 統合失調症 自閉スペクトラム症と統計学的に有意な関連を示したア

Similar documents
統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

統合失調症に関連する遺伝子変異を 22q11.2 欠失領域の RTN4R 遺伝子に世界で初めて同定 ポイント 統合失調症発症の最大のリスクである 22q11.2 欠失領域に含まれる神経発達障害関連遺伝子 RTN4R に存在する稀な一塩基変異が 統計学的に統合失調症の発症に関与することを確認しました

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

プレスリリース 報道関係者各位 2019 年 10 月 24 日慶應義塾大学医学部大日本住友製薬株式会社名古屋大学大学院医学系研究科 ips 細胞を用いた研究により 精神疾患に共通する病態を発見 - 双極性障害 統合失調症の病態解明 治療薬開発への応用に期待 - 慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

自閉スペクトラム症と統合失調症 : 2 つの精神疾患における変異と発症メカニズムのオーバーラップを発見! ~ ゲノム医療への展開に期待 ~ ポイント 自閉スペクトラム症と統合失調症の日本人患者を対象に ゲノムコピー数変異の大規模か つ直接的に比較する解析を実施した 両疾患の患者の各々約 8% で病的

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

Microsoft Word - tohokuuniv-press _02.docx

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

<4D F736F F D A8DC58F4994C C A838A815B C91E5817B90E E5817B414D A2E646F63>

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

発達期小脳において 脳由来神経栄養因子 (BDNF) はシナプスを積極的に弱め除去する 刈り込み因子 としてはたらく 1. 発表者 : 狩野方伸 ( 東京大学大学院医学系研究科機能生物学専攻神経生理学分野教授 ) 2. 発表のポイント : 生後発達期の小脳において 不要な神経結合 ( シナプス )

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

2. 手法まず Cre 組換え酵素 ( ファージ 2 由来の遺伝子組換え酵素 ) を Emx1 という大脳皮質特異的な遺伝子のプロモーター 3 の制御下に発現させることのできる遺伝子操作マウス (Cre マウス ) を作製しました 詳細な解析により このマウスは 大脳皮質の興奮性神経特異的に 2 個

精神医学研究 教育と精神医療を繋ぐ 双方向の対話 10:00 11:00 特別講演 3 司会 尾崎 紀夫 JSL3 名古屋大学大学院医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野 AMED のミッション 情報共有と分散統合 末松 誠 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 11:10 12:10 特別講

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

Untitled

<4D F736F F D208DC58F4994C581798D4C95F189DB8A6D A C91E A838A838A815B83588CB48D EA F48D4189C88

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

概要 独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事長 ) は うつ病と並ぶ代表的な精神疾患である統合失調症 1 の発症と関連する遺伝子変異を発見しました 理研脳科学総合研究センター ( 利根川進センター長 ) 分子精神科学研究チームの高田篤客員研究員 吉川武男チームリーダーらによる共同研究グループの成

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

生物時計の安定性の秘密を解明

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

<4D F736F F D F4390B388C4817A C A838A815B8358>

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

汎発性膿庖性乾癬の解明

研究の内容 結果本研究ではまず 日本人のクロザピン誘発性無顆粒球症 顆粒球減少症患者群 50 人と日本人正常対照者群 2905 人について全ゲノム関連解析を行いました DNAマイクロアレイを用いて 約 90 万個の一塩基多型 (SNP) 6 を決定し 個々の関連を検討しました その結果 有意水準を超

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

統合失調症といった精神疾患では シナプス形成やシナプス機能の調節の異常が発症の原因の一つであると考えられています これまでの研究で シナプスの形を作り出す細胞骨格系のタンパク質 細胞同士をつないでシナプス形成に関与する細胞接着分子群 あるいはグルタミン酸やドーパミン 2 系分子といったシナプス伝達を

<4D F736F F D DC58F49288A6D92E A96C E837C AA8E714C41472D3382C982E682E996C D90A78B408D5C82F089F096BE E646F6378>

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

本成果は 主に以下の事業 研究領域 研究課題によって得られました 日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム ( 平成 27 年度より文部科学省より移管 ) 研究課題名 : 遺伝子改変マーモセットの汎用性拡大および作出技術の高度化とその脳科学への応用 研究代表者 : 佐々木えり

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

り込みが進まなくなることを明らかにしました つまり 生後 12 日までの刈り込みには強い シナプス結合と弱いシナプス結合の相対的な差が 生後 12 日以降の刈り込みには強いシナプス 結合と弱いシナプス結合の相対的な差だけでなくシナプス結合の絶対的な強さが重要であることを明らかにしました 本研究成果は

いて認知 社会機能障害は日々の生活に大きな支障をきたしますが その病態は未だに明らかになっていません 近年の統合失調症の脳構造に関する研究では 健常者との比較で 前頭前野 ( 注 4) などの前頭葉や側頭葉を中心とした大脳皮質の体積減少 海馬 扁桃体 視床 側坐核などの大脳皮質下領域の体積減少が報告

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

染色体微小重複による精神遅滞・自閉症症例

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

平成14年度研究報告

平成24年7月x日

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

共同研究報告書

<4D F736F F D E616C5F F938C91E F838A838A815B835895B68F B8905F905F8C6F89C8816A2E646F63>

第6号-2/8)最前線(大矢)

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

Microsoft Word - tohokuuniv-press _03(修正版)

統合失調症の病名変更が新聞報道に与えた影響過去約 30 年の網羅的な調査 1. 発表者 : 小池進介 ( 東京大学学生相談ネットワーク本部 / 保健 健康推進本部講師 ) 2. 発表のポイント : 過去約 30 年間の新聞記事 2,200 万件の調査から 病名を 精神分裂病 から 統合失調症 に変更

研究の背景 古くから精神疾患を診断する補助として 病前の性格や体型に興味が持たれ 多くの仮説が提唱されています 有名な所では メランコリー親和性気質 ( まじめで几帳面など ) は うつ病に罹患しやすいというものがあり 臨床的にも受け入れられています 体型との関係も実は有名で 奇妙に思われるかもしれ

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

<4D F736F F D DC58F4994C5817A C A838A815B83588CB48D F4390B3979A97F082C882B5816A2E646F6378>

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

研究の背景社会生活を送る上では 衝動的な行動や不必要な行動を抑制できることがとても重要です ところが注意欠陥多動性障害やパーキンソン病などの精神 神経疾患をもつ患者さんの多くでは この行動抑制の能力が低下しています これまでの先行研究により 行動抑制では 脳の中の前頭前野や大脳基底核と呼ばれる領域が

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

untitled

(1) ビフィズス菌および乳酸桿菌の菌数とうつ病リスク被験者の便を採取して ビフィズス菌と乳酸桿菌 ( ラクトバチルス ) の菌量を 16S rrna 遺伝子の逆転写定量的 PCR 法によって測定し比較しました 菌数の測定はそれぞれの検体が患者のものか健常者のものかについて測定者に知らされない状態で

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

( 図 ) 自閉症患者に見られた異常な CADPS2 の局所的 BDNF 分泌への影響

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

Microsoft Word - 01.doc

論文の内容の要旨

表紙.indd

<4D F736F F D BE391E58B4C8ED2834E C8CA48B8690AC89CA F88E490E690B62E646F63>

名古屋教育記者会各社御中本リリースは文部科学記者会 科学記者会 宮城県政記者会 名古屋教育記者会各社に配布しております 膠芽腫に対する新たな治療法の開発 ポドプラニンに対するキメラ遺伝子改変 T 細胞受容体 T 細胞療法 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 脳神経外科学の夏目敦

<4D F736F F D208DC58F498A6D92E88CB48D652D8B4C8ED289EF8CA992CA926D2E646F63>

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

Microsoft Word - PR docx

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

Microsoft Word - プレスリリース(EBioMed)180612_final.docx

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

Microsoft Word - HP用(クッシング症候群).doc

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

Transcription:

報道の解禁日 ( 日本時間 ) ( テレヒ, ラシ オ, インターネット ): 平成 29 年 8 月 1 日 23 時 ( 新聞 ) : 平成 29 年 8 月 2 日付朝刊 名古屋教育記者会各社御中 平成 29 年 8 月 1 日 世界初ミクログリア特異的分子 CX3CR1 の遺伝子変異と精神障害の関連を同定 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 精神医学 親と子どもの心療学の尾崎 紀夫 ( おざきのりお ) 教授 Aleksic Branko( アレクシッチブランコ ) 准教授 ( 責任著者 ) 石塚佳奈子 ( いしづかかなこ ) 助教 ( 筆頭著者 ) 大阪大学大学院医学系研究科 / 生命機能研究 科の山下俊英 ( やましたとしひで ) 教授 同蛋白質研究所の中村春木 ( なかむらはるき ) 教 授らの研究グループは 脳内免疫細胞ミクログリアにおいて特異的に発現する CX3CR1 をコード する遺伝子上のアミノ酸置換変異が統合失調症 自閉スペクトラム症の発症リスクに関与しう ることを世界で初めて示しました 本研究は 理化学研究所 岡山大学 新潟大学 藤田保健衛生大学 国立国際医療研究センタ ー国府台病院との共同研究で行われました 脳内の免疫細胞として知られるミクログリアは 発達期に過剰に作られた神経細胞間シナプ スを適切に刈り込むという神経発達上の役目を担います この刈り込みの異常は 統合失調症 や自閉スペクトラム症など精神障害の病態仮説の一つと考えられてきました この神経細胞間 シナプス刈り込みにおいて重要な役割を果たすのがミクログリア特異的分子 CX3CR1 です 死後 脳研究やモデル動物研究によって CX3CR1 の量的異常と統合失調症や自閉スペクトラム症の病態 が関連づけられてきました しかし これまで CX3CR1 の遺伝子上の変異と両疾患を関連づける 報告はありませんでした 本研究は CX3CR1 をコードする遺伝子上の一塩基変異を探索し 検出したアミノ酸置換変異 と両疾患の関連を統計学的に裏付けました この変異探索は 統合失調症および自閉スペクト ラム症患者と健常者合計 7,000 人を超える人々の協力によって得られたゲノムを用いています さらに三次元構造解析と機能解析を行い 検出したアミノ酸置換変異が CX3CR1 の機能に変化を もたらすことを明らかにしました ミクログリア特異的分子をコードする遺伝子上のアミノ酸 置換変異が統合失調症や自閉スペクトラム症に関連することを世界で初めて明らかにした本研 究成果は 両疾患の生物学的基盤や病態解明に寄与する重要な知見と考えます 本研究成果は 平成 29 年 8 月 1 日 15 時 ( 英国時間 ) に 英国のオンライン科学誌 Translational Psychiatry に掲載されます < 研究内容 > 名古屋大学医学部 医学系研究科精神医学 親と子どもの心療学分野助教石塚佳奈子 TEL:052-744-2282 FAX:052-744-2293 E-mail:ishizuka-k@med.nagoya-u.ac.jp < 報道対応 > 名古屋大学医学部 医学系研究科総務課総務係 TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785 E-mail:iga-sous@adm.nagoya-u.ac.jp <AMED 事業について> 日本医療研究開発機構戦略推進部脳と心の研究課 TEL:03-6870-2222 FAX:03-6870-2244

世界初ミクログリア特異的分子 CX3CR1 の遺伝子変異と精神障害の関連を同定 ポイント ミクログリア特異的分子 CX3CR1 をコードする遺伝子上の稀な変異が統合失調症 自閉スペクトラム症の病態に関与しうることを世界で初めて示しました 統合失調症 自閉スペクトラム症と統計学的に有意な関連を示したアミノ酸置換変異は CX3CR1 の機能に変化をもたらしうることが確認されました 発達期の神経細胞間シナプス刈り込みに重要な役割を果たす CX3CR1 の遺伝子上のアミノ酸置換変異が統合失調症や自閉スペクトラム症の発症リスクであるという本研究成果は 精神障害の病態メカニズム解明につながる重要な知見と言えます 1. 背景統合失調症と自閉スペクトラム症はそれぞれ人口の 1% 以上が罹患する頻度の高い精神障害です ともに長期の臨床経過をたどることから患者家族の心理的負担や社会的損失が大きく 病因 病態の解明と 病因 病態に基づいた治療法の開発が求められています また 精神症候学に基づく現在の精神科臨床診断は生物学的に極めて不均質です これを解決するべく遺伝的要因と生物学的指標から診断分類を見直す動きが進んでいます 精神障害の病態理解および病態に基づいた診断分類を構築するためには 遺伝的要因を明らかにすることが必要です 統合失調症と自閉スペクトラム症の病態仮説のひとつとして 脳内ミクログリア注 1 の機能異常が挙げられます 脳内の免疫細胞であるミクログリアは 統合失調症や自閉スペクトラム症のみならず アルツハイマー病 多発性硬化症など精神神経疾患全般への関与注が想定されています なかでも ミクログリア特異的分子 CX3CR1 2 の異常は神経細胞間シナプス刈り込みの障害を介して統合失調症や自閉スペクトラム症の病態に関与する という証左が死後脳の遺伝子発現解析やノックアウト動物の行動解析などから見出されてきました しかし CX3CR1 をコードする遺伝子上のゲノム変異と両疾患の関連はこれまで明らかにされていませんでした 2. 研究成果 統合失調症 370 名と自閉スペクトラム症 192 名のゲノムを対象に CX3CR1 のエクソン 注 3 注上の頻度の稀な一塩基変異 4 を探索し さらに患者と健常者合計 7,000 人超の協力を 得て 変異と精神障害の統計学的関連を探索しました その結果 同定したアミノ酸置換 を起こす変異は神経発達障害に対してオッズ比注 5 8.3 と強い関連を示しました このアミ ノ酸置換変異は 1. 三次元構造解析により CX3CR1 の C 末端の動きを変化させて G タ ンパク質の活性化を妨げる可能性が示され 2. 細胞レベルの機能解析によって CX3CR1 に結合するフラクタルカインの刺激で生じるはずの Akt リン酸化亢進が見られないこと が示されました 本研究は 精神障害と統計学的に有意な関連を示すアミノ酸置換変異が CX3CR1 の機能に変化を及ぼしうることを明らかにしました

3. 今後の展開 CX3CR1 は発達期に作られた過剰な神経細胞間シナプスを適切に刈り込むという 神経発達上の役目を担います CX3CR1 は多くの薬剤が標的とする G タンパク質共役受容体のひとつでもあります 本遺伝子上のアミノ酸置換変異が精神障害の発症に関与しうる可能性を世界で初めて示した本研究成果は 神経発達障害の病態メカニズムの解明につながる重要な知見であるのみならず G タンパク質共役受容体である CX3CR1 に作用する化合物を用いた 精神障害の根本的な治療薬の開発にもつながることが期待されます 本研究成果は多くの当事者および一般の方々の協力によって得られたものです また 本研究は日本医療研究開発機構 (AMED) 脳科学研究戦略推進プログラム( 発達障害 統合失調症等の克服に関する研究 ) 革新的技術による脳機能ネットワークの全容解明プロジェクト 新学術領域 包括型脳科学研究推進ネットワーク グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態 の支援を受けて行われました

4. 用語説明注 1: ミクログリアグリア細胞は神経細胞とともに中枢神経系 ( 脳 脊髄 ) を構成する細胞です ミクログリアはグリア細胞の一種で 神経損傷が起きると活性化して死んだ細胞を貪食します 近年 ミクログリアは発達期のシナプス形成と適切な刈り込みにも貪食細胞として貢献することが明らかとなりました シナプスとは 神経細胞どうしが情報を伝達するためにつながっている部分のことです シナプスは発達早期に過剰に形成されます その後 必要なシナプスは強められ 不必要なシナプスは除去されることによって神経ネットワークが成熟します この過程をシナプス刈り込みと呼び 脳の正常な機能に必須の現象と考えられています 統合失調症や自閉スペクトラム症ではシナプス密度の異常が観察されており シナプス刈り込みの異常 ひいてはミクログリアの機能異常と精神障害の関連が注目されています 注 2:CX3CR1 G タンパク質共役受容体で フラクタルカインと結合して細胞間接着や遊走に関与します 末梢では免疫関連細胞に広く発現し 自己免疫疾患や慢性炎症疾患の病態との関連が示唆されています 脳内ではミクログリア特異的に発現します 発達期に作られた過剰な神経細胞間シナプスを適切に刈り込むミクログリアの働きにはこの CX3CR1 が重要な役割を果たします CX3CR1 のノックアウトマウスは社会性の低下など自閉スペクトラム症様の行動異常を示すことが観察されています

注 3: エクソンゲノム上の遺伝情報がコードされている部分 エクソンの配列に基づいてタンパク質が作られるため エクソン領域の変異はタンパク質を構成するアミノ酸を変えることがあります 本研究ではアミノ酸をコードするエクソン領域を標的にしたことで 検出した変異がタンパク質の機能に及ぼす影響を明らかにすることができました 注 4: 頻度の稀な一塩基変異ゲノム配列の個人差のうち 標準的な配列と一塩基だけ異なっており かつ集団内の 1% 未満の頻度で観察されるもの 発症に強く関与する変異は頻度の稀な変異に集積するという仮説に基づいて 本研究は頻度の稀な変異に着目しました 注 5: オッズ比ある事象の起こりやすさについて二つの群で比較した時の違いを示す統計学的尺度の一つ 本研究では 検出した遺伝子上の変異が精神障害の患者に多く集積するか否かという事象について 患者群と健常者群の 2 群を比較してオッズ比を算出しました 5. 発表雑誌 Kanako Ishizuka, Yuki Fujita, Takeshi Kawabata, Hiroki Kimura, Yoshimi Iwayama, Toshiya Inada, Yuko Okahisa, Jun Egawa, Masahide Usami, Itaru Kushima, Yota Uno, Takashi Okada, Masashi Ikeda, Branko Aleksic, Daisuke Mori, Toshiyuki Someya, Takeo Yoshikawa, Nakao Iwata, Haruki Nakamura, Toshihide Yamashita, Norio Ozaki " Rare genetic variants in CX3CR1 and their contribution to the increased risk of schizophrenia and autism spectrum disorders" Translational Psychiatry ( 英国時間 2017 年 8 月 1 日付けの電子版に掲載 ) DOI: 10.1038/tp.2017.173 6. 問い合わせ先研究内容名古屋大学医学部 医学系研究科所属 職名 : 精神医学 親と子どもの心療学分野 助教氏名 : 石塚佳奈子 TEL:052-744-2282 FAX:052-744-2293 e-mail:ishizuka-k@med.nagoya-u.ac.jp 大阪大学大学院医学系研究科 医学部 所属 職名 : 分子神経科学 教授 氏名 : 山下俊英

TEL:06-6879-3661 FAX:06-6879-3669 e-mail:yamashita@molneu.med.osaka-u.ac.jp 大阪大学蛋白質研究所所属 職名 : 蛋白質情報科学 教授氏名 : 中村春木 TEL:06-6879-4310 FAX:06-6879-8636 e-mail:harukin@protein.osaka-u.ac.jp 広報担当名古屋大学医学部 医学系研究科総務課総務係 TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785 e-mail:iga-sous@adm.nagoya-u.ac.jp AMED 事業について日本医療研究開発機構戦略推進部脳と心の研究課 TEL:03-6870-2222 FAX:03-6870-2244