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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P3-2-176) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典子 ( おおすみのりこ ) 電話番号 :022-717-8203 E メール :osumi@med.tohoku.ac.jp 報道担当 東北大学大学院医学系研究科 医学部広報室講師稲田仁 ( いなだひとし ) 電話番号 :022-717-7891 ファックス :022-717-8187 E メール :pr-office@med.tohoku.ac.jp

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していたが 高齢 (18M)Pax6 変異父マウスに由来する仔は 野生型でも USV が減少しているために Pax6 変異仔マウスの USV と有意差が無かった ( 図 5A, B) 以上の結果から (1) 母体の影響や社会的な影響が限りなく少ない条件下において 父マウスが加齢することにより仔マウスの USV は減少することがわかった また自閉症発症のリスクがある Pax6 変異マウスを父とする仔マウスの場合には (2) 加齢や (3)IVF の影響がより若齢の父マウスの場合にも生じることが明らかにされた このことは これまでに多数行われているモデルマウスを用いた実験において 加齢や IVF の影響を配慮した実験が為されるべきであるということを警鐘する 今回の結果は人間の場合に直接当てはめる事はできないが 近年の晩婚化や生殖補助医療の発展により 母親だけでなく父親の加齢も 子どもの自閉症発症に影響する可能性があること また遺伝的なリスクのある場合には より加齢や IVF による影響が出やすい可能性があることを示唆する 今後 父マウスの加齢や IVF がどのようなエピゲノム変異を誘発し 仔マウスの遺伝子発現等に影響を与えているかを明らかにすることにより 自閉症発症の生物学的メカニズムが解明されることが期待される 図 1: 自閉症と診断される子どもの割合の増加 ( 左 ) および想定されるその理由 ( 右 ) これまでに発達遅延とみなされていた患児が自閉症と診断されるようになったことや 自閉症そのものの認知度が向上したこともあるが 両親の年齢も自閉症発症の理由として示唆されている (Weintraub, Autism counts, Nature, 2011 より改変 )

図 2: 父親の年齢と自閉症発症リスクの増加 若齢の父親のリスクを 1 とした場合の起 こりやすさ ( オッズ比 ) は 父親の年齢とともに増大する 図 3: 自然交配野生型マウスにおける父マウス加齢の影響 若齢 (3M) 野生型父マウスに由来する仔に比して 高齢 (>12M) 野生型父マウスに由来する仔は 遺伝子型はどちらも野生型であるが 後者において著しく母子分離による超音波発生 (USV) 数が減少する P<0.01

図 4:Pax6 変異と加齢の関係 Pax6 変異 (Sey/+) 父マウスと野生型若齢雌マウスの自然交配において 若齢 (3M) 父マウス由来 Sey/+ 仔マウスの USV は野生型と変わらない (A) が 若干加齢した (6-8M) 父マウス由来の Sey/+ 仔マウスの USV は野生型に比して 50% 程度に減少する (B, p<0.01) 高齢(>12M) 父マウス由来の仔マウスでは Sey/+ 仔マウスの USV は野生型仔マウスと有意差が無かった 図 5:Pax6 変異と体外受精 (IVF) の関係 Pax6 変異 (Sey/+) 父マウス精子と 野生型若齢雌マウス卵子の IVF により得られた仔において 若齢 (3M) 父マウス由来 Sey/+ 仔マウスの USV は野生型仔マウスに比して 50% 程度に減少していたのに対し 高齢 (>12M) 父マウス由来の仔マウスでは Sey/+ 仔マウスの USV は野生型仔マウスと有意差が無かった