プロジェクト研究 Ⅰ 不確実性の高い環境下における 新規ビジネスの成功要因モデルの構築 ダイナミック競争戦略と企業戦略との融合 2009 年 9 月 12 日 河合プロジェクト研究経営戦略グループ相川秋葉橋本千歳
目次 1. はじめに 2. 研究の目的 3. 研究のフレームワークと研究範囲 4. 先行研究 5. 仮説 6. 事例分析 -Case: ソフトバンク ( 株 ) 携帯電話ビジネス - 7. 結論 2
1. はじめに ( 問題意識 ) 日本企業を取り巻く 環境の変化 と 日本企業の収益低下 製造業 サービス業 グローバル競争 技術革新 情報探索の手段の多様化 業界構造の変化 PLC の短命化 消費者の価値観の変化 買い手の交渉力の飛躍的な向上 既存事業において競争優位が維持できない状況 顧客にとって真に価値のあるものしか売れない状況 日本企業の収益低下 3
1. はじめに 戦略論的視点からの考察 1980 年ポーターが 競争戦略論 を著してからの約 30 年 企業を取り巻く外部環境がどう変化したのかを把握 1980 年 1990 年 2000 年 2010 年 競争の戦略 RBV コアコンピタンス 新戦略論 企業実務の視点から 現在における 日本企業の視点 から 企業が真に必要とする 新しい戦略論 を考察する 日本企業の収益向上 4
2. 研究の目的 不確実性の高い環境下における新規ビジネスの成功要因モデルの構築を図る ダイナミック環境 注目変数 競争戦略実現のケイパビリティ アライアンス構築能力 本業の資源活用能力 既存事業との補完能力 競争戦略 コストリーダーシップ 差別化 グループ経営能力 5
3. 研究のフレームワークと研究範囲 ダイナミック戦略論フレームワーク 理念ビジョン中長期戦略 D 戦略思考 DP SP 創発的戦略イニシアティヴ 研究範囲 ダイナミックケイパビリティ 6
4. 先行研究と課題 (1/2) どの研究も特定の分野に特化しているため 適用範囲が狭くなる ファイブフォース 外部環境 戦略ビジネスモデル コストリーダーシップ差別化集中 パフォーマンス 内部資源 RBV コアコンピタンス 現実の事象を説明するには 各研究の統合を図らなければならない 一時点の戦略と結果ではなく 時間の経過を考慮する必要がある
4. 先行研究と課題 (2/2) ポーターの 3 つの基本戦略 競争優位 他社より低いコスト 差別化 戦略ターゲットの幅 広いターゲット狭いターゲット コスト リーダーシップ戦略集中戦略 差別化戦略 ある一時点での戦略決定の図式であり 連続的な戦略決定は想定していない 3 つの基本戦略のうち 1 つの選択を行い 変更してはいけない 業界は その境界が明確であり 構造が不変であるという前提 一度手にした競争優位は不変であるという前提 不確実性の高い環境における戦略論としては不十分である!
5. 仮説 新規事業における 成功要因モデル (CHAA モデル ) 競争戦略実現のリソース アライアンス構築能力 本業の資源活用能力 既存事業との補完能力 グループ経営能力 ケイパビリティ 1 競争戦略ミックス & マネジメント ローコスト イノベーション コストリーダーシップ 差別化 ダイナミック環境 2 新規事業成功 事業成長 新戦略論の方向性 重要な成功要因を統合し 既存の戦略論の拡張を図る 1 競争戦略 と ケイパビリティ の統合を図る 2 時間の経過を考慮した競争戦略マネジメントを取り入れる ( 参入期 ~ 成長期をターゲット ) 9
6. 事例分析 Case: - ソフトバンク ( 株 ) 携帯電話ビジネス - 10
6-1. 分析の流れ (1) 本分析は 2006 年度 ( 参入期 )~2007 年度 ( 成長期 ) の 2 年間について 年度毎の戦略を分析する (2) 分析結果についての解釈を整理する 2006 年度 参入期 競争戦略分析ケイパビリティ分析 パフォーマンス 要因分析 結果の解釈 2007 年度 成長期 競争戦略分析 ケイパビリティ分析 11
6-2. パフォーマンス (1/2) 市場シェア獲得比較 ( 契約純増 ) 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 2006/1Q 2006/2Q SoftBank 契約純増 NO.1 2006/3Q 2006/4Q 2007/1Q 2007/2Q 2007/3Q 2007/4Q 2008/1Q 2008/2Q 2008/3Q 2008/4Q docomo 純増 KDDI 純増 SoftBank 純増 12
6-2. パフォーマンス (2/2) 契約数純増 2 年連続 No.1 2 年連続 2 けた成長 ( 対前年度 +11%) ボーダフォン買収 なぜ新規参入したソフトバンクは巨大企業を倒せたのか? 13
6-3. 年度毎の分析 ( 参入期 ) 参入期 2006 年度 (2006 年 4 月 ~2007 年 3 月 ) 14
(1) ソフトバンクの戦略 (2006 年度 ) 市場環境 スタティック MNP 開始 ダイナミック 顧客獲得競争 CL 端末 利用料 2006.10 割賦販売 2006.10 予想外割 2007.1 ホワイトプラン 2007.3 W ホワイト コンテンツ 2006.10 Yahoo ケータイ 差別化 ハード 2006.8 905SH AQUOS ケータイ 2006.11 911SH AQUOS ケータイ 2007.1 812SH PANTONE ケータイ 2006 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 ケイパビリティ 2006.4 ボーダフォン買収 2006.10 ソフトバンク ブランドへ 15
(2) 成功要因分析 ( 競争戦略 ) コストリーダーシップ (CL) docomo KDDI SoftBank 端末奨励金モデル 割賦販売モデル MNP のタイミング に合わせた施策 端末料金奨励金をつけて販売 分離 端末料金ユーザーが負担 単なる値引き販売ではない 通信料金高価 通信料金安価 予想外割 わかり易さで ユーザーからの 支持を得る 様子見 通信料金更に値下げ ホワイトプラン W ホワイト 割賦モデルの 成功を確認した上での 値下げ 施策の実行 16
(2) 成功要因分析 ( 競争戦略 ) 差別化 SoftBank 主導で 機種のカテゴリ 分けを行い重複 をなくしたラインナップを実現 機種 色の量で 他社を圧倒 多様化する ユーザーへの対応 17
(3) 成功要因分析 ( ケイパビリティ ) アライアンス PANTONE 伊藤忠シャープ 開発 PANTONE ケータイ QUOS ケータイ SoftBank SoftBank 主導で 異業種企業とのコラボレーション による差別化 ケータイの実現 外部資源の 有効活用 本業の資源活用能力 既存事業との補完性 ポータル ヤフー ( 株 ) 資源活用 SoftBANK 本業である固定通信の ポータル 活用 コンテンツ 相互補完 インターネット上のコンテンツは相互補完的 18
6-4. 年度毎の分析 ( 成長期 ) 成長期 2007 年度 (2007 年 4 月 ~2008 年 3 月 ) 19
(1) ソフトバンクの戦略 (2007 年度 ) 市場環境 ダイナミック競争 MNP 2G 3G 顧客獲得競争 CL 2007.6 ホワイト家族 24 Docomo au の新価格サービスに 24 時間以内に対抗サービス発表 2007.12 Docomo 割賦販売 開始 2008.2 ホワイト学割 差別化 3.5G ケータイ投入 THE PREMIUM ケータイ投入 電子コミック 2008.3 922SH インターネットマシン 2007 年 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 3 月 ケイパビリティ テレビ CM によるブランド力向上 東京ミッドタウンを 広告ジャック ケータイと固定通信のシナジー開始 20
(2) 成功要因分析 ( 競争戦略 ) コストリーダーシップ SoftBank KDDI docomo 1 年遅れで追随 割賦販売モデル 割賦販売が ユーザーに 受け入れられる 通信料金 ホワイトプラン W ホワイト 拡充 通信料金 ホワイト家族 24 ホワイト学割 ホワイトプランの幅を広げ 新しいユーザーの需要を喚起 21
(2) 成功要因分析 ( 競争戦略 ) 差別化 インターネット端末としての差別化開始 SoftBank 主導で機種のカテゴリ分けを行い重複をなくしたラインナップを実現 2006 年 2007 年 KDDI docomo メーカー主導のラインナップ 22
(3) 成功要因分析 ( ケイパビリティ ) アライアンス マイクロソフト HTC Windows ケータイ 開発 SoftBank 日本初 Microsoft Windows Mobile 6 搭載 携帯でのインターネット利用拡大のための端末を投入 外部資源の 有効活用 本業の資源活用能力 既存事業との補完性 ソフトバンクBB 個人 固定電話ソフトバンクテレコム 無料 無料 資源活用 相互補完 SoftBANK ホワイトプラン 本業である 固定通信と 携帯通信の シナジー 法人 固定電話 23
6-5. 結果の解釈 ( 競争戦略 ) SoftBank コストリーダーシップ (CL) のバリエーション 割賦販売により競争の土俵を変えた 単なる値引きではない Docomo au はスキミングプライス SoftBank はペネトレーションプライス 短期間でのユーザー獲得 Docomo au の価格追随を 24H 以内にキャッチアップ 既存ユーザーの離反率低下 ユーザーは安価に感じた ネットワークの外部性が働いた ユーザーは価格に対しての不満を出さない 短期間でのシェア獲得 維持 ある程度の差別化 24
6-5. 結果の解釈 ( ケイパビリティ ) SoftBank コストリーダーシップ (CL) のバリエーション アライアンス能力端末の差別化を実現 グループ経営能力買収という外部成長がビジネスのスピード UP ケイパビリティが CL と差別化を実現させた 本業の資源活用能力固定電話との融合 既存事業との補完能力ポータル等のインターネット相互補完 ある程度の差別化 25
7. 結論 競争戦略 ( ビジネスモデル ) 全社戦略 26
7-1. 仮説の修正 拡張 新規事業における 成功要因モデル (CHAA モデル ) 競争戦略実現のリソース競争戦略ミックス & マネジメントダイナミック環境 グループ経営能力 外部成長の活用 ケイパビリティ ローコスト コストリーダーシップ 新規事業成功 既存事業との補完能力 シナジー効果 アライアンス構築能力 ペネトレーションプライス CLのバリエーションが必要 顧客認知価格の変化 土俵を変える 短期間での顧客獲得 コンビネーション ケイパビリティ イノベーション 差別化 事業成長 本業の資源活用能力 成長ドライバー 成長期には アライアンス + 内部成長 を活用 他社提携を活用し 差別化にスピードを出す 27
7-2. 全社戦略との関連性 (1/2) SoftBank の狙い 個人利用料金の増加ではなく バランスの変化を狙っている 今までの携帯ビジネス コンテンツ利用料 ポータル データ利用料 音声利用料 基本料 端末料金 コンテンツ利用料 ポータル データ利用料 音声利用料 基本料 端末料金 コストリーダーシップ戦略は ケータイキャリアとしての成功ではなく インターネットビジネス成功のための 手段 でしかない! 本業のインターネット ビジネスにおける パイの拡大 出来るだけ圧縮 Docomo/au 追随できない ( 自己破壊 ) 28
7-2. 全社戦略との関連性 (2/2) SoftBank の狙い 大 成長 差別化 中 小 高中低 価格 参入期 : インフラ拡大によるインターネット環境の拡大成長期 : 本業であるインターネットビジネスへのシフト 29 参入
7-3. 新戦略論 新戦略論の新規性 競争戦略 と ケイパビリティ を統合 競争戦略を実現させるためには 相応のケイパビリティが必要になる 競争戦略の変化に応じて 必要なケイパビリティを変化させる 時間の経過による 優位性の変化を考慮 コストリーダーシップと差別化は 状況応じて使い分ける コストリーダーシップにはバリエーションがある 全社戦略と 競争戦略を連動 全社戦略が競争戦略を定義する 個々の競争戦略による部分最適ではなく 全社戦略から みた全体最適を実現する競争戦略を選択する 30
END 2009 年 9 月 12 日 相川秋葉橋本千歳