感染症学
微生物学概論 B. 感染症学 c. 微生物の病原因子 d. 感染経路の種類 e. 感染症の種類 1 微生物と宿主の関係を列挙する 5 微生物の主要な病原因子を列挙する 6 組織侵襲性に関与する病原因子を説明する 7 外毒素と内毒素の違いを説明する 8 感染経路を列挙し 特徴を説明する 9 感染症の種類を列挙する 10 日和見感染を説明する 11 院内感染を説明する 12 内因感染を説明する 13 菌交代症を説明する 14 菌血症と敗血症の違いを説明する 15 歯科処置に関連した菌血症の特徴を説明する 16 病巣感染について説明する
感染と発症
感染と類似した用語 感染 ; 一人の宿主 伝染 ; 一人からもう一人に感染 ( 発症 ) 流行 ; 複数の宿主間 ( 社会全体 ) における伝染 汎発性 (pandemic) 流行 ; 多国間にまたがって広範囲な流行 地方性 (endemic) 流行 ; 狭い地域での流行
感染症成立の因子 感染源 感染症患者 汚染された医療器具 患者環境 感染経路 ; 接触感染 飛沫感染 空気感染 感受性宿主 特定の病原体に獲得免疫を持たない患者 重症 低栄養 基礎疾患有り など感染しやすい 易感染宿主
感染から発症へ進展するには 感染から発症へ進展するためには病原体の病気を起こす力 ( 病原性 ) だけでなく一定以上の菌数が必要である 病原性と菌数 * したがって 菌数 ( ウイルス数 ) を減らすことが有効な感染対策になりうる!
発症に必要な菌数 ( 経口感染 * の場合 ) 細菌菌数 コレラ菌 1 億個 (10 8 ) サルモネラ菌 10 万 100 万個 (10 5~6 ) チフス菌 1000 万 1 億個 (10 7~8 ) 腸管出血性大腸菌 (O157H2) 10 個 * 経口感染 : 口から飲食物を介して感染する
感染と発症に関わる因子 ; 寄生体 ( 病原体 ) 側 病原性 ; 微生物が感染症 ( 病気 ) を起こす性質ビルレンス 菌力 毒力 病原因子 :1) 付着 / 定着に関するもの 2) 組織侵入性と寄生性 3) 食細胞への抵抗性に関係するもの 4) 鉄の獲得能力に関係するもの 5) 毒素産生性 6) 酵素産生性
線毛 1) 付着 / 定着に関するもの 病原性を発揮するためにはまず宿主の細胞表面に付着しなければならない付着とそれに続く増殖 = 定着 線毛先端のアドヘジンが結合のための分子 : 宿主側の分子をレセプターと呼ぶ 線毛以外の細菌細胞表層の物質 グラム陽性菌のリポタイコ酸 (LTA) M タンパク ; 溶血性レンサ球菌の細胞壁構造の一部 ミュータンス菌の細胞壁タンパク (Pac)
2) 組織侵入性と寄生性 全ての病原体が生体内に侵入するわけではない 細胞非侵入性 ; 粘膜表層に定着し それ以上侵入しないもの ; 毒素や酵素の働きにより宿主に感染症を起こす 細胞侵入性 ; 粘膜に定着後 上皮細胞の取り込みを利用し細胞内に入るもの ; 上皮細胞に侵入し さらに上皮細胞を出て基底膜に達し おもにそこで増殖あるいは組織内 血管内やリンパ管内に侵入する 細胞内寄生性 ; 食細胞に貪食されず 逆に食細胞を利用し体のあちこちに移動するもの
細胞内寄生性の例 細胞壁か細胞壁の外側に食細胞の貪食作用に抵抗する物質があるとき 単に抵抗するだけでなく細胞内に寄生することがある
3) 食細胞への抵抗性に関するもの 細菌細胞表層に存在する構造物 莢膜 溶血レンサ球菌のMタンパク 結核菌表層の厚い脂質
食細胞による食菌作用に抵抗 する細菌の表面構造 ないもの = 食菌される あるもの = 食菌されない
4) 鉄の獲得能力 ヒトの血漿中の鉄の総モル濃度は 10-6 M だが細菌が 利用できる遊離濃度は 10-18 M しかない 宿主にとっても必要な鉄を宿主から奪い取るため 鉄獲得能力 が重要な病原因子となった! 血球のヘモグロビンはヘム ( 鉄とプロトポルフィリン ) とタンパク ( グロビン ) から成る 溶血毒はヘモグロビンから鉄を奪う
5) 毒素産生性 1 外毒素 ; 細菌が菌体外に分泌し生体に毒性に働く物質 2 内毒素 ; グラム陰性菌の細胞壁の構造の一成分 外膜のリポ多糖 (LPS) * 本来の意味で毒素ではない!
1 外毒素 タンパク 一般的なタンパクの性質を示す 易熱性 ( 熱に弱い ) 抗原性が強い 毒性が強い 毒性の種類 ; 細胞毒 神経毒 腸管毒スーパー抗原となる毒素 スーパー抗原 ; 免疫とは無関係にリンパ球を活性化し サイトカインを産生する
外毒素の種類とその作用 種類 細菌種 ; 毒素 細胞毒 Staphylococcus aureus ( 黄色ブドウ球菌 ); α/β 毒素 Streptococcus pyogenes( 化膿性レンサ球菌 ); ストレプトリジン O Clostridium perfringens( ウエルシュ菌 ); α 毒素 神経毒 Clostridium tetani( 破傷風菌 ); 破傷風毒素 Clostridium botulinum( ボツリヌス菌 ); ボツリヌス毒素 腸管毒 ( エンテロトキシン )Vibrio colelae( コレラ菌 ), diarrhetic Escherichia coli( 下痢性大腸菌 ) Staphylococcus aureus( 黄色ブドウ球菌 ),Clostridium perfringens( ウエルシュ菌 ), スーパー抗原 Staphylococcus aureus( 黄色ブドウ球菌 ); 毒素型ショック症候群毒素になる毒素 (TSST-1)
リポ多糖 (LPS)
リポ多糖 lipopolysaccharaide(lps) の 内毒素活性 1 発熱因子 2 シュワルツマン反応 3 血管の傷害 血圧低下 4 免疫担当細胞である B 細胞の活性化 5 炎症 / 免疫担当細胞であるマクロファージの活性化 6 補体の活性化 = 炎症の惹起 7 抗腫瘍作用 8 骨吸収作用 ; 歯周病との関連
外毒素と内毒素の比較 外毒素 内毒素 由来 細菌の菌体内で産生され菌体外に分泌 グラム陰性菌の外膜 に存在する 成分タンパク質リポ多糖 熱感受性易熱性耐熱性 毒性 強い (μg) 弱い (mg) 菌種により作用異なる 菌種による差ない 臓器特異性に作用 抗原性強いほとんどない ホルマリン できる できない による無毒化 トキソイド トキソイド ; 外毒素を無毒化し 抗原性のみを残したもので外毒素による疾病を予防 / 治療するために使用
6) 酵素産生性 病原体が産生し菌体外へ放出する酵素は宿主の組織を破壊し病巣を拡大する作用があり 毒素と区別化できないこともある
病原性細菌が産生するおもな酵素 ヒアルロニダーゼ ; 細胞外基質であるヒアルロン酸を分解 コラゲナーゼ ; 生体の構成タンパクであるコラーゲンを分解 スタフィロキナーゼ ; プラスミン活性によりフィブリンを分解 組織破壊 = 病巣拡大 免疫グロブリン分解酵素 ; 免疫グロブリンを分解することにより生体防御作用から回避 DNA/RNA 分解酵素 ; 核酸を分解することにより細胞を傷害
感染の分類
A 感染経路による分類 1 直接感染 ; 感染源と直接に接触 * 性行為による感染 * 呼吸器からの感染 飛沫感染 空気感染 ; 結核 麻疹水痘 帯状疱疹 * 動物からの感染 ; 人畜共通感染症オウム病 野兎病 狂犬病など
飛沫感染と空気感染の違い 飛沫感染は病原体 ( 飛沫核 ) と水分を含み粒子が大きい ; それでも約 2m は飛ぶ 空気感染は飛沫核のみで小さいため 空気中に長く留まり さらに遠くまで浮遊する ; 吸い込まれて肺胞に達する
A 感染経路による分類 2 間接感染 ; 介在物がある * 経口感染 ( 食物感染 水系感染 ); 消化器感染症 * 経皮感染 ; ベクター ( 吸血昆虫 ) による感染 発疹チフス 日本脳炎 ツツガ虫病 ペスト
B 伝染の仕方による分類 垂直感染 ; 母親から子供へ * 胎盤経由 ; 梅毒 風疹 AIDS B 型肝炎 * 産道経由 ;AIDS B 型肝炎 * 母乳経由 ; 成人 T 細胞白血病 水平感染 ; ヒトからヒトへ * 呼吸器感染症 * 消化器感染症など
C その他の分類 1 内因感染と ( 外因 ) 感染 ; 常在微生物によるものが内因感染 一次感染と二次感染 ; 最初にある病原体によって感染症が起こったあと 別の病原体によって感染症が起こったとき 前者を一次 後者を二次と呼ぶ 混合感染 ;2 種類以上の病原体が感染すること 持続感染 1 慢性感染 2 潜伏感染 3 ; 長期間にわたって感染が継続し病原体の増殖が続く場合 1 何らかの症状がでている場合 2 ほぼ病原体の増殖が止まっている場合 3
C その他の分類 2 局所感染 全身感染 ; 侵入した病原体が限局した局所のみに定着し感染症を起こすのが局所感染 侵入した病原体が全身に広がり感染症を起こすのが全身感染 異所性感染 ; 常在微生物が本来の居場所以外で感染すること 細胞内感染 ; 病原体が生体細胞内部に感染すること 偏性細胞内寄生性 ; ウイルス リケッチア クラミジア 細胞内寄生性菌 ; 結核菌 チフス菌 リステリア菌
感染症と原因微生物 1 オウム病 ;Chlamydophila psittaci による人畜共通感染症オウムは本クラミジアの自然宿主 感染した鳥の排泄物 汚染羽毛を吸入することにより 感染インフルエンザに似た症状 野兎病 ;Francisella tularensis による人畜共通感染症 狂犬病 ; 狂犬病ウイルス (Rabies virus) による人畜共通感染症神経系を介し 脳神経組織に到達し発病精神錯乱を起こし 呼吸障害で死亡 結核 ;Mycobacterium tuberculosis 肺 中枢神経 リンパ組織 血流 泌尿生殖器 骨 関節に感染し全身に及ぶ 麻疹 ; 麻疹ウイルス (Measles virus) 感染力強く 感受性のある者には 100% 発症 コプリック斑が口腔粘膜に出現 水痘 帯状疱疹 ; 水痘 帯状疱疹ウイルス (Varicella-Zoster virus) 初感染時には水痘 潜伏感染し成人してから回帰発症すると帯状疱疹
感染症と原因微生物 2 梅毒 ;Treponema pallidum による感染症 性行為感染症でもあるが 垂直感染すると新生児が先天梅毒 ( 実質性角膜炎 内耳性難聴 ハッチンソンの歯 ) になることがある 風疹 ; 風疹ウイルスによる感染症 俗名は三日はしか 妊娠初期に感染すると新生児が先天性風疹症候群 ( 脈絡網膜炎 聴力障害など ) になることがある AIDS( 後天性免疫不全症候群 ); ヒト免疫不全ウイルス (HIV) により後天的に免疫不全を起こす T 細胞に感染し 細胞を破壊するから B 型肝炎 ;B 型肝炎ウイルス (HBV) による肝炎 垂直感染するとキャリア化しやすい 成人 T 細胞白血病 ; 腫瘍ウイルスであるヒト T 細胞白血病ウイルス (HTLV-1) による白血病もしくは悪性リンパ腫
プレ / ポストテスト 4/17/15 正しいのは a 間違っているのは b にマークしてください 1 線毛以外に宿主の付着に関連する物質は存在しない 2 結核菌は細胞内寄生性細菌である 3 莢膜は細菌を宿主の食細胞の攻撃から守る 4 外毒素はホルマリンにより無毒化できる 5 内毒素は外毒素よりも毒性が強い 6 性行為感染症は間接感染である 7 消化器感染症は経口感染である 8 結核菌は空気感染する 9 水平感染は母親から子供に感染することである 10 胎盤を介して母親から胎児に感染することもある