図 1 鼻炎診療の手順とポイント鼻汁や湿性咳嗽を認める小児では 急性鼻副鼻腔炎がある可能性も念頭に置き 丁寧な問診と鼻腔観察を行う まず いつから どのような症状があるのかを問診で聴取する 鼻水の色や量 性質 ( 水っぽいか ねばねばしているか ) のほか いびきの有無についても聞く 鼻が詰まってい

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で言われています このような 副鼻腔炎と喘息の合併のことを 同一の気道で起こるので One airway one disease と呼ばれ久しくなっています それぐらいに 上気道と下気道の関連が密接であることが 広く認識されています また 副鼻腔炎に下気道の慢性炎症を合併する疾患としては 副鼻腔気管

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

耐性菌届出基準

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

もちろん単独では診断も除外も難しいが それ以外の所見はさらに感度も特異度も落ちる 所見では鼓膜の混濁 (adjusted LR, 34; 95% confidence interval [CI], 28-42) や明らかな発赤 (adjusted LR, 8.4; 95% CI, ) が

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

す ウイルスの中で検出頻度の高いものはライノウイルス コロナウイルスが多く これに続くのが RS ウイルス インフルエンザウイルス パラインフルエンザウイルス アデノウイルスです また これらのウイルスには季節的流行の特徴があり ライノウイルスは春と秋 RS ウイルス コロナウイルス インフルエンザ

インフルエンザ(成人)

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Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

監修 作成作成ご協力者 喜多村 健 東京医科歯科大学耳鼻咽喉科耳鼻咽喉科学教授 小児急性中耳炎診療ガイドライン作成委員会委員長 日本耳科学会理事長

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

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花粉症患者実態調査(平成28年度) 概要版

2009年8月17日

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第3章 調査のまとめ

改訂の理由及び調査の結果直近 3 年度の国内副作用症例の集積状況 転帰死亡症例 国内症例が集積したことから専門委員の意見も踏まえた調査の結果 改訂することが適切と判断した 低カルニチン血症関連症例 16 例 死亡 0 例

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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2012 年 1 月 25 日放送 歯性感染症における経口抗菌薬療法 東海大学外科学系口腔外科教授金子明寛 今回は歯性感染症における経口抗菌薬療法と題し歯性感染症からの分離菌および薬 剤感受性を元に歯性感染症の第一選択薬についてお話し致します 抗菌化学療法のポイント歯性感染症原因菌は嫌気性菌および好

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日本内科学会雑誌第98巻第12号

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スライド 1

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インフルエンザ院内感染対策

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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48小児感染_一般演題リスト160909

<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

与するプロトコールで抗菌薬使用は全体の 31%(Siegel et al. 2003) あるいは 34% (McCormick et al. 2005) にとどまったと報告している Rovers ら (2004) も 抗菌薬非投与で軽快する例があるが 発症 2~3 日の観察が重要であるとしている 1

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

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600人の耳鼻咽喉科医師とその家族対象 アレルギー疾患に関する全国調査

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症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

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抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

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審査結果 平成 26 年 1 月 6 日 [ 販 売 名 ] ダラシン S 注射液 300mg 同注射液 600mg [ 一 般 名 ] クリンダマイシンリン酸エステル [ 申請者名 ] ファイザー株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 25 年 8 月 21 日 [ 審査結果 ] 平成 25 年 7

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0 歳 0カ月 乳幼児の予防接種スケジュール ( 例 : その 1) 同時接種を希望するが 1 回に受ける数は 2 種類以下を希望する場合 ( 受診回数 : インフルエンザを除いて 18 回 ) 1 歳 カ月 日本小児科学会推奨案 ジフテリア 百日咳 破傷風混合ワクチン生ワクチン別の種類のワクチンを

ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン<医療従事者用>

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アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

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4 耐性ウイルス添付文書によれば, タミフルを投与した患者の1.4%( 小児では4.5 %) に耐性ウイルス, つまりタミフルが効かないウイルスが出現しています ( 1) また, 後述のように, 乳幼児の場合は18~33% と報告されています ( 4) 2 タミフルの副作用はタミフルが承認されるまで

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

(2009 年 4 月 1 日第 1 版公開 ) やさしい解説 では 病気について 一般の方向けにやさしく解説しています どんな病気なのか どんな人がかかりやすいのか 病気に関係する臓器のしくみやはたらき 症状や検査の方法 治療の種類 日常生活上の留意点などをわかりやすい言葉と図を用いて解説していま

Part 1 症状が強すぎて所見が取れないめまいをどうするか? 頭部 CT は中枢性めまいの検査に役立つか? 1 めまい診療が難しい理由は? MRI 感度は 50% 未満, さらには診断学が使えないから 3

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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topics vol.82 犬膿皮症に対する抗菌剤治療 鳥取大学農学部共同獣医学科獣医内科学教室准教授原田和記 抗菌薬が必要となるのは 当然ながら細菌感染症の治療時である 伴侶動物における皮膚の細菌感染症には様々なものが知られているが 国内では犬膿皮症が圧倒的に多い 本疾患は 表面性膿皮症 表在性膿


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顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

ロタウイルスワクチンは初回接種を1 価で始めた場合は 1 価の2 回接種 5 価で始めた場合は 5 価の3 回接種 となります 母子感染予防の場合のスケジュール案を示す 母子感染予防以外の目的で受ける場合は 4 週間の間隔をあけて2 回接種し 1 回目 の接種から20~24 週あけて3 回目を接種生

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

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アレルギー疾患対策基本法 ( 平成二十六年六月二十七日法律第九十八号 ) 最終改正 : 平成二六年六月一三日法律第六七号 第一章総則 ( 第一条 第十条 ) 第二章アレルギー疾患対策基本指針等 ( 第十一条 第十三条 ) 第三章基本的施策第一節アレルギー疾患の重症化の予防及び症状の軽減 ( 第十四条

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

プロローグ 最初に自分の失敗談を書きます 同じような経験をした小児科医は多 いのではないでしょうか 症例 生後 10 ヵ月 基礎疾患なし 男児 兄弟なし 主訴 鼻汁と咳嗽 未就園児 現病歴 生後 3 4 ヵ月頃から 鼻汁や咳嗽の症状が続き近医 に通院していた 何度も症状を繰り返し 5 日前にも受診し

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

です 経過中に 3 割の人が気管支喘息に移行するとされていますので 咳喘息を疑うなら呼吸器専門医を受診してください がいそうがいそう アトピー性咳嗽 は 咳喘息と同じ 乾性咳嗽 ですが のどのイガイガ感やかゆみを訴える中年女性に多いとされています アレルギー疾患 ( 特に花粉症 ) の合併がみられま

2012 年 7 月 18 日放送 嫌気性菌感染症 愛知医科大学大学院感染制御学教授 三鴨廣繁 嫌気性菌とは嫌気性菌とは 酸素分子のない環境で生活をしている細菌です 偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌があります 偏性嫌気性菌とは 酸素分子 20% を含む環境 すなわち大気中では全く発育しない細菌のことで 通

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とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白


補聴器販売に関する禁忌 8 項目 の解説 はじめに 難聴の方が 最近 聞こえが悪くなった と感じて補聴器店を訪れたとき しばしば 補聴器をあわせる より先に 診断と治療 が必要な場合があります このような時には できるだけ早く診断と治療を受けることが望ましく まずは耳鼻咽喉科専門医である補聴器相談医

入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

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小児の 急性鼻副鼻腔炎 急性鼻副鼻腔炎は 急性に発症し 発症から 4 週間以内の鼻副鼻腔の感染症 と定義される 小児の急性鼻副鼻腔炎は ウイルス感染を契機に細菌感染へと移行した状態 副鼻腔における急性炎症の多くは 急性鼻炎に引き続いて生じるとされる また そのほとんどが急性鼻炎を併発しているため 海外では以前から 急性副鼻腔炎 (acute sinusitis) ではなく 急性鼻副鼻腔炎 (acute rhinosinusitis) という名称が使用されている 症状と局所所見を基に 適切な治療方針を立てる必要がある 鼻閉や鼻漏 後鼻漏 咳嗽といった呼吸器症状を呈し 頭痛や頬部痛 顔面圧迫感などを伴う疾患 小児の長引く湿性咳嗽の原因が副鼻腔炎であることは かなり多い 急性鼻副鼻腔炎は 日常診療において極めて頻度の高い疾患 だが現状は 鼻汁や湿性咳嗽が認められる小児に対し 喘息様気管支炎 などの診断が漫然と下され 適切な治療が行われていないケースが散見される 急性鼻副鼻腔炎を慢性化 難治化させないためにも 急性期に適切な診断 治療を行うことが重要 小児科医の多くが 急性鼻副鼻腔炎の頻度の高さや湿性咳嗽などの重要な所見を認識していないのが現状 急性鼻炎 いわゆる鼻風邪のほとんどはウイルス感染によるもの この時点では 粘膜からの分泌物が漿液性の鼻汁として認められるが 無治療でも数日で軽快する ただ ウイルス感染によって鼻の粘膜が障害されると 肺炎球菌やインフルエンザ菌などの常在菌の感染を起こしやすくなる ウイルス感染から数日後 副鼻腔で細菌感染が生じると 細菌の病原性によって 粘性の鼻汁や鼻閉 発赤や発熱 頭痛といった症状が現れる 乳幼児や小児は副鼻腔までの距離が短いため 小児の急性鼻炎は急性副鼻腔炎とほぼ同じ意味 粘膜の腫脹によって自然口が塞がると 副鼻腔は嫌気性細菌にとって格好の増殖の場になり 副鼻腔炎が遷延化する原因となる 患者の臨床所見や経過を基に 感染相のどの段階にあるのかを考え 抗菌薬を適切に使用する 長引く咳嗽は急性副鼻腔炎を疑う 急性鼻副鼻腔炎の診断の基本は 臨床症状と局所所見 臨床症状としては一般に 感冒様症状や後鼻漏 鼻閉が認められるが 患児の家族が気付きやすい症状は 湿性咳嗽 湿性咳嗽は 咽頭に流出した鼻汁 ( 後鼻漏 ) によって誘発されることから 特に就床時や起床時に痰がからんだ咳が出現するケースでは 鼻副鼻腔炎を疑う必要がある 鼻閉や頭痛を訴えることができない乳幼児では 機嫌が悪い ミルクや母乳の飲み具合が悪いといった所見も 急性鼻副鼻腔炎を疑う指標となる 急性鼻副鼻腔炎に伴う鼻汁は粘性が高く 外から見ただけでは鼻汁の有無が分からない場合もあることから 鼻症状がなくても ほかの臨床症状から急性鼻副鼻腔炎が疑われれば 咽頭や下気道だけでなく 鼻も注意して診察する 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン では 診断とそれに基づく治療を考えるに当たって 臨床診断基準が設けられた 急性鼻副鼻腔炎の診療の基本は 臨床症状と局所所見

図 1 鼻炎診療の手順とポイント鼻汁や湿性咳嗽を認める小児では 急性鼻副鼻腔炎がある可能性も念頭に置き 丁寧な問診と鼻腔観察を行う まず いつから どのような症状があるのかを問診で聴取する 鼻水の色や量 性質 ( 水っぽいか ねばねばしているか ) のほか いびきの有無についても聞く 鼻が詰まっている場合 睡眠時に口を開けて呼吸するため いびきを生じやすい また 粘性が高かったり痂皮化した鼻汁によって鼻孔が塞がれ 外からは鼻汁が観察されないこともあるので 鼻は出ていません という保護者の言葉を鵜呑みにしてはいけない 中耳炎やアレルギー性鼻炎 気管支喘息の既往歴 兄弟の有無や通園状況など生活環境についても尋ねる 漿液性の鼻汁や 眼のかゆみやアトピー性皮膚炎を伴う場合は アレルギー性鼻炎の可能性も考慮する 鼻の所見を取っていく まずは外から見て 外鼻孔や鼻橋にただれや痂皮がないかをチェック 鼻橋のただれは 漿液性の鼻汁が多く出ていたことによる鼻のかみすぎが疑われる 後鼻漏の有無は 咽頭を診ることで代用できる 鼻汁が鼻孔から出ていなくても 喉の方へと流れ出した鼻汁が中咽頭の後壁に認められることがある 臨床症状と鼻汁の量で重症度をスコアリングガイドラインでは 非専門医でも適切な治療方針を立てられるよう 鼻汁の性質や量を基にした重症度分類を行った 小児の急性鼻副鼻腔炎のスコアリングシステムと重症度分類

図 2 小児急性鼻副鼻腔炎のスコアリングと重症度分類発熱 (38.5 ) 以上の持続 顔面腫脹 発赤 炎症所見 ( 血液検査 ) などが認められる場合は 急性鼻副鼻腔炎合併症として 画像診断などが必要 ( 出典 : 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010 年版 日本鼻科学会会誌 2010; 49: 143-247.) このスコアリングシステムでは 臨床症状と鼻腔所見から 鼻漏 不機嫌 湿性咳嗽 の程度と 鼻汁 後鼻漏 の性状と量を評価し すべての点数を足し合わせて重症度を判断する ( 症例 ) 鼻汁と後鼻漏については いずれか量が多い方を評価 特に鼻腔所見が 診断と経過観察を行う上で重要であることから 臨床症状に対して 2 倍のスコアを付けることとされた 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン では 画像診断は鼻内所見の評価を優先した上で行うことが望ましい ( 推奨グレード C1) とされている 今後 より多くの医師に超音波検査が普及すれば 感度や特異度が明らかにされ 評価が固まっていくだろう急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインでは 重症度に応じた治療アルゴリズムが示されている ( 図 1~3) 粘性の鼻汁や湿性咳嗽が認められるなど 臨床症状と鼻腔所見から急性鼻副鼻腔炎と診断された患児に対しては まず 鼻処置を優先して行うことが重要

図 1 急性鼻副鼻腔炎治療アルゴリズム ( 小児 軽症 ) ABPC: アンピシリン AMPC: アモキシシリン CDTR: セフジトレン CFPN: セフカペン CFTM: セフテラム ( 出典 : 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010 年版 日本鼻科学会会誌 2010; 49: 143-247.) 丁寧に鼻汁吸引を行うだけでも 急性副鼻腔炎の症状はかなり和らぐ 鼻処置に関して エビデンスによる裏付けはないが 鼻処置によって臨床症状が改善することは経験的に知られている ガイドラインを作成した専門医の間でもコンセンサスが得られたため 鼻処置は重症度によらず優先して行うという位置付けとされた 鼻汁吸引を丁寧に行うだけで 症状は大幅に軽減する 患児も すごくすっきしりた と喜ぶ 軽症例に対しては 鼻腔内に貯留した鼻汁をオリーブ管や吸引器を使って取り除く 中等症以上に対しては 自然口開大処置も考慮する 自然口開大処置は エピネフリン製剤 ( 商品名ボスミン ) を噴霧して鼻腔と副鼻腔とをつなぐ自然口の粘膜の腫脹を取り除き 上顎洞に貯留した膿性鼻汁を細い吸引管を使って吸引するというもの リドカイン噴霧薬 ( キシロカインポンプスプレーほか ) を噴霧すれば 痛みも伴わない 自然口開大処置を要する場合は耳鼻科に紹介してほしいというのが専門医の共通見解だが 軽症例に対する鼻汁吸引は簡単に行えるので ぜひ小児科の先生方も日常診療に取り入れるようにしてほしい 抗菌薬に関しては 軽症例に対しては投与せず 経過観察することが推奨されている ( 推奨グレード B) 急性鼻副鼻腔炎はウイルス感染による鼻炎に引き続いて発症すると考えられている 本来ならば ウイルス感染か細菌感染かを厳密に判断して抗菌薬の投与を決定すべきだが 日常臨床でいずれかを判断するのは容易ではない 耐性菌の増加を防ぐ意味でも 5 日間は抗菌薬非投与で経過観察し 臨床経過に伴って 非改善例に対しては抗菌薬投与を考慮してもよいと考えられる 軽症患児の保護者の中には せっかく受診したのに 鼻汁吸引だけで 薬がもらえなかった と不満に思う人もいるだろう 5 日間の経過観察中に患児の症状が急に悪化した場合 それが休診日に重なってしまうと 保護者の不安感や不信感が増長されかねない セーフティネットとして 抗菌薬を 安心量 持たせておくのも一つの方法 お子さんは軽症なので お薬なしで様子を見ましょう ただ 万一 週末に熱が出たらこれを飲ませて 月曜日にまた受診してくださいね 経過観察は 放置 ではないことに注意すべき wait & watch を意識し ちょっとした努力による声掛けやフォローが保護者の不安感を減らすだけでなく 抗菌薬の適正使用にもつながる 中等症 ~ 重症例にはアモキシシリンが第一選択薬重症度のスコアを参考に 中等症以上と診断される症例に対しては 鼻処置に加えて ペニシリン系抗菌薬のアモキシシリンかアンピシリンを常用量 投与する ( 図 2 図 3) 急性鼻副鼻腔炎ガイドライン http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrhi/49/2/143/_pdf/-char/ja/

図 2 急性鼻副鼻腔炎治療アルゴリズム ( 小児 中等症 ) ABPC: アンピシリン AMPC: アモキシシリン CDTR: セフジトレン CFPN: セフカペン CFTM: セフテラム ( 出典 : 急 性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010 年版 日本鼻科学会会誌 2010; 49: 143-247.)

図 3 急性鼻副鼻腔炎治療アルゴリズム ( 小児 重症 ) ABPC: アンピシリン AMPC: アモキシシリン CDTR: セフジトレン CFPN: セフカペン CFTM: セフテラム ( 出典 : 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010 年版 日本鼻科学会会誌 2010; 49: 143-247.) アモキシシリンは小児 成人ともに急性鼻副鼻腔炎に対する保険適用が認められていないが 治療効果に関するエビデンスが十分にあり 海外でも急性鼻副鼻腔炎に対して一般的に用いられていることから わが国のガイドラインにも推奨薬剤として組み込まれた アモキシシリンの小児に対する常用量は 20~40mg/kg/ 日を 3~4 回分服 基本は 5 日間の投与で 改善しない場合は高用量の投与を考慮する アモキシシリンは中耳炎に対する第 1 選択薬でもある 鼻症状を訴えて来院した小児の中には 中耳炎を併発しているケースも少なくない 特に耳の痛みを訴えられない乳幼児では 急性鼻副鼻腔炎が疑われれば 同時に鼓膜所見も取るようにしたい 経口カルバペネム系抗菌薬については 中等症に対しサードライン 重症にはセカンドラインとすることがガイドラインに明示されている 経口カルバペネム系抗菌薬がよく効くからといって 安易に使用すべきではない とし 抗菌薬の適正使用を呼び掛けている 小児の急性鼻副鼻腔炎に対しては 抗菌薬による治療は不要 海外で近年行われた調査の結果 抗菌薬の投与の有無は小児の副鼻腔炎の臨床経過に影響しなかったという ( 参考 :Garbutt JM et al. Pediatrics 2001;107:619-25. Kristo A et al. Acta Paediatr 2005;94:1208-13.) 高熱を伴うなど 菌血症が疑われる場合は抗菌薬を投与すべき 生活環境などから肺炎球菌やインフルエンザ菌の保菌リスクが高いと考えられる小児に対しては ワクチンの接種を徹底させるべき と予防対策の重要性も強調している ( 日経メディカル記事 )