大阪南部 泉北ニュータウンにある近畿大学医学部堺病院は 1999 年に国立泉北病院から経営委譲を受けて開院 24 の診療科を備えた総合病院として堺市民の医療を支えています その理念は 患者本位の良質で安全な医療を提供する 腎臓内科でも この理念を基に 患者さんの QOL 重視の診療を展開 慢性腎臓病 (Chronic Kidney Disease : CKD) の原因となる腎臓疾患や 糖尿病 高血圧 膠原病などに由来する腎臓障害を 初期の段階から腎不全まで 総合的に診療できる体制を整えています 中でも腎不全治療では 患者さんへのインフォームドコンセントを徹底させ PD HD 移植の 3 療法を実施しています 腎不全治療の中でも腹膜透析は 1980 年代の治験段階から 大阪狭山市にある同大学附属病院で行われていた歴史と伝統があり 堺病院でも開院時から 常に3 療法を平等に患者さんに説明し 選んでもらう ということがスタッフ間でも自然なこととして受け止められてきました 長谷川廣文教授は 3 療法をきちんと説明するのが 当院の腎臓内科の方針であり モットーです 透析導入時期になった患者さんに対しては HDと PD そして移植について同時に説明して選んでいただくことが大切です それは 患者さんに納得していただいた上での治療が それからの生活の質に大きく影響するからであり 長年続く慢性疾患の治療には患者と医療者側が協力することが これからは不可欠と考えるからです 4 年前まで私がいた狭山の附属病院では 多いときで年間導入のうちの50% 近くがPDを選択されたこともあります それは別に誘導していたわけではなく 最終的に患者さんに選んでいただいた結果です 患者さんが納得のいく療法選択に重要なのは きちんとした説明 同院では 保存期から いずれは透析をしなければならない可能性を伝えて自覚を持っていただき ビデオ 冊子などわかりやすいツールを活用して説明を始めます もちろん患者さんの不安や質問にも答えます このように丁寧に対応することにより 私はこういう生活をしたいから こっちにしたい という納得の選択をすることができるのです と長谷川教授は 十分なインフォームドコンセントの重要性を強調します - 1 -
現在 同院のPD 患者さんは37 人 治療方法としては Automated Peritoneal Dialysis( 以下 APD) が25 人 Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis( 以下 CAPD) が12 人となっています PD 患者さんの対応を 医師 3 人 PD 専任の看護師 2 人で行っています 特筆すべきは PDの処方メニューが豊富なこと 37 名のうち 32 名でエクストラニールを使用しています また APD 患者さんの中で 24 名がExtraneal-APD( 以下 E-APD) を 5 名がタイダールPDを行っています これはどうしてなのでしょうか という問いに 長谷川教授は明確に答えます 患者さんの立場に立ったら 医師があらゆる手段を持っていた方がいい APDの患者さんが多いのも APDを使う方が 患者さんのライフスタイルやニーズに合わせた処方が組みやすいと考えているからです この言葉を受けて坂口美佳講師が次のように説明します 要はいかに社会生活をきちんと送れるか ということです E-APDでは 透析液を日中 長く入れていられることで 社会生活がうまくできている部分もあると思います それがなければ 夜まで貯留しておくと除水量がマイナスになる事が多いため 透析液を日中手動で排液する必要が出てきます 当院では 水分のコントロールがしっかりできている患者さんや まだ尿量があってPDでの除水の必要がないような患者さんではNPD(APDで夜だけの治療 ) で開始しています しかし 体液が過剰な状態になって むくみが出てきている患者さんには E-APDに処方を変更します E-APDを特別には考えていない これが当院の常識なのです - 2 -
とにかく 患者さんの状態に合わせて 患者さんがなるべく普通に近い状態で生活できるよう 医師は手を変え品を変え というようにベストな処方をして差し上げるべき タイダール法についてもその一つだと考えています それが患者さんのためになるならばやり方はいくつ知っていてもいいのではないでしょうか ( 坂口講師 ) タイダール法を実施する患者さんの基準も明快です 長谷川教授は 何も特別に考えるのではなく 夜中に器械のアラームが鳴ってしまうような患者さんは この処方にしていく そういう流れですね と話します APD 中は 透析液の排液スピードが遅くなってしまい 排液がうまくいかない場合があります そうすると器械のアラームが鳴りますね これが患者さんの安眠を妨げます それでは アラームが鳴らない方法はどれが一番いいか それが タイダールPDです 器械の設定で 排液を途中までにして 排液のスピードが早いうちに注液に移行します そのため アラームは鳴りません この方法でよく眠れたという患者さんなら タイダールPDを続けてみます これも当院では普通に行われています いわば処方の常道の一つ という位置づけです 本当に特別に考えたことはないのです ( 坂口講師 ) - 3 -
患者さんにとっては精神的にも体調維持の点においても睡眠時間の確保は非常に大切 まずそれを解決するのが医師の仕事なのではないか と長谷川教授は問いかけます だからと言ってPDをやめてHD に変更してしまう というのでは余りにも短絡と言わざるを得ません PDを選んだ患者さんの選択の理由を思い返すと 仕事を続けたい 旅行や趣味を楽しみたい とそれぞれわけがあるはずです PDの良さは 患者さん個々の生活スタイルに合わせて処方が変えられる ということでしょう E-APD またタイダールPDなど こちらが手段を持っていれば 患者さんの希望する生活をできるだけ長く続けていくことができるのです それで患者さんがよく眠れて 痛みがなくなるのであれば 痛かったり 眠れなかったりするよりはいい 極めて実質的な考え方でやっているのです と長谷川教授は 患者さんのメリットを追求する姿勢を強調します また 最近の研究では APDはタイダール法を用いた方が残存腎機能を保持する ( タイダール ノン タイダール患者の残存クレアチニンクリアランス 尿量を3 年間比較 ) という研究結果も出ています( Advances in Dialysis,Vol.23,2007 ) - 4 -
同院のこのような患者さん中心主義を もう一方で強力に支えるのが看護部 透析室所属の看護師は7 人 今年 PDの専門性を高め 患者さんにより丁寧な対応ができるよう 専任の看護師として2 人が正式に任命され 活動を開始しています その CAPDチーム の一人である橋爪かおる看護師は 1カ月に1 回の診察なので 患者さんにはより自己管理が求められます その生活に即した指導と言いますか 生活の様子などをうかがって いま何が問題なのかということを見極め より一層的確なアドバイスができるようにしてなければいけないと考えています HDと重複するところもありますが 特に 腹部カテーテルかシャントかというアクセスの違いは大きいので 創部の状態や チューブの出口部をきちんと診て 生活のアドバイスをしています とその使命を語ります もう一人のメンバー中村淳子看護師も HDは週 3 回来院されるので ある意味でこちらが全部管理しているところがありますが PDはできているとか できていないという判断を患者さん自身が迫られます 患者さんが自宅できっちり腹膜透析をできるように指導するために 自分たちも勉強していかなくてはなりません PDを選択した人は なるべくHDになりたくないとか なるべく食べたい 仕事があるなど さまざまな希望や事情をもっていますから なるべくその意向に添ったアドバイスができるように心がけています と同様に決意を述べます 患者さんは医者にはいい顔をしてしまうことが多々あります しかし ナースは見る角度が違い あの患者さんはそういうことを言っているけれども 実はそうではないんですよ など 僕らよりももっと細かいところまで患者さんを見てもらえる だから 本当に重要な立場にあるわけです 透析治療 特にPDは 看護師がいて成り立つのだと思っています と長谷川教授は PDにおける看護師の役割の重要性を指摘します また 組織として大事なのは 知識や技術がだれか一人に偏るのではなく 継承されていくこと ローテーションで異動が多い看護師ではなおのことそれが大切になってきます それには核となる人を常に存在させることです 今後はこの2 人の看護師が中心となってPDを専門的に診ることができる看護師が 次々と育ってくれることを期待したいですね 4 月からのスタートで いまはいろいろと新しいことに取り組んでいる最中です まずは病棟との連携を強め カテーテル挿入手術の前後に病棟に出向いたり 退院後の患者さんの生活に相互理解を持つ などから始めています また 透析室の7 名の看護師全員が PD 患者さんの緊急時には対応できるようトレーニングをしています ( 橋爪看護師 ) - 5 -
これからはPDのシステムを社会全体で考え 構築していく時代 と長谷川教授は言います 昔と違い いまはきちんと説明すれば PDを選ぶ人はちゃんと選んでくれます これからは いかにPDがシステム化されて どこの施設でもできるような体制を作るかということだと思います 例えばHDがこれだけ広まったというのも センター病院があって サテライト施設があって そこでちゃんと連携できているでしょう PDはまだセンター病院がそれぞれ自前でやっていて 横のつながりがあまりない それをHDと同じようなシステムにして どこでも診られるようなかたちのシステムができれば もっと育っていくのではないかと思います これは ますます高齢化する社会にあって 自宅で治療可能なPDの必要性がより高まると考えられるからにほかなりません 一方 近畿大学医学部堺病院として坂口講師は いままでの歴史の良いところを生かしながら 不十分なところは改善していきたいと思います 看護師も 今年に入ってチーム分けをして みんなで目標を作ってやっていこうという感じに変わっています 患者さんにとっては何がいいかということを考えるのはもちろんですが 患者さんが満足できるいい医療を提供するために 施設として常に成長していかなければいけないと思っています 患者さんの考え方も変わっています インターネットなどで情報も得ているでしょう もっとニーズも増えていると思います 今後は療法選択外来の開設ということも考えています と熱く語ります 大学病院でありながら 各科間の敷居の低さ サッと協力体制が組めるところが自慢だという同院 患者さん本位 という理念が 治療法 スタッフ体制 今後の展望に 見事なまでに貫かれていました 所在地 590-0132 大阪府堺市南区原山台 2 丁 7-1 TEL: 072-299-1120 http://www.med.kindai.ac.jp/sakai/index.html 腎臓内科医師 3 人透析室看護師 7 人うちCAPD 担当看護師 2 人臨床工学技士 6 人 07~08 年度透析導入実績 47 件 ( うちHD36 件 PD11 件 ) PD 患者数 37 人 - 6 -