Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

タイトル

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

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2. 消費税率引き上げが個人消費に与える影響 (1)1997 年度の消費増税時のレビュー ~ 大きかった駆け込み需要の影響消費税は 89 年 4 月に税率 3% で導入され 97 年 4 月に 5% に引き上げられた 89 年度の導入時は従来の物品税廃止によって自動車など耐久財の多くが実質減税となっ

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別紙2

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2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

(1) 駆け込み需要とその反動 前回増税時の駆け込み需要は 12 兆円程度 14 年 4 月に消費税率が 5% から 8% に上昇した際に 駆け込み需要とその反動はどの程度発生したのか 財 サービス分類別にその規模を試算する 図表 1 耐久財を中心に増税前後の消費に大きな波前回増税時の駆け込み需要と

減税のメリットが生じる 一方定額減税の場合は年収 600 万円を超える所得階級については ほぼ同じ減税のメリットを生じることになる 年収 600 万円に満たない所得階級については 現行制度のもとで 所得税をほとんど負担していないために 定額減税でもほとんど減税の恩恵は生じない 一方 定額給付金は 現

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経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短


 95年度の日本経済は、年前半の円高や公共投資の息切れ、米国経済の減速から景気回復の足取りに途中やや足踏みが見られました。しかし、その後の円高修正、政府の経済対策、金融緩和の効果から、年度後半は再び緩やかな回復基調に戻りました。

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つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

2 / 5 エルニーニョ現象とは 南米沖から日付変更線付近にかけての太平洋赤道海域で 海面水温が平年より1~5 度高くなる状況が1 年から1 年半続く現象である エルニーニョ現象が発生すると 地球全体の大気の流れが変わり 世界的に異常気象になる傾向がある 近年では 2015 夏から 2016 年春に

NIRA 日本経済の中期展望に関する研究会 家計に眠る過剰貯蓄国民生活の質の向上には 貯蓄から消費へ という発想が不可欠 エグゼクティブサマリー 貯蓄から消費へ これが本報告書のキーワードである 政府がこれまで主導してきた 貯蓄から投資へ と両立しうるコンセプトであるが 着眼点がやや異なる すなわち

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○ユーロ

第 3 節食料消費の動向と食育の推進 表 食料消費支出の対前年実質増減率の推移 平成 17 (2005) 年 18 (2006) 19 (2007) 20 (2008) 21 (2009) 22 (2010) 23 (2011) 24 (2012) 食料

1 社会保障制度 改革 の全体像 国の社会保障の責任を放棄 家族相互 国民の助け合い に変質 ト ポイン 1 社会保障は長年の労働者 国民のたたかいでかちとっ てきたもの 労働者 国民間の貧困をなくし 生活を 守る制度 憲法25条はすべての国民に生存権を保障 し その責任を国に課している 2 安倍内

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

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年収階層別に増税前後の消費動向をみると 低所得者ほど回復の動きが弱い 高所得者層 ( 第 5 分位 ) では 1997 年時を上回る駆け込み需要が生じたが 増税直後の落ち込みは小さく その後は緩やかに持ち直している ( 前頁図表 2) 一方 低所得者層( 第 1 分位 第 2 分位 ) については

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握の問題 執行面での対応の可能性等を含め様々な角度から総合的に検討する 複数税率の導入について 財源の問題 対象範囲の限定 中小事業者の事務負担等を含め様々な角度から総合的に検討する 施策の実現までの間の暫定的及び臨時的な措置として 簡素な給付措置を実施する つまり 低所得者対策として 給付付き税額

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なお こども保険 は子どもを持っていない人も保険料を負担しながら給付を受けられないことから 保険原理とは相いれないとする批判がある しかし 1 民間保険と公的保険は自ずと性格が異なること 2 当保険の目的は ( 子どもが必要な保育 教育等を受けられないために ) 少子化が進行することで国民が不利益を

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税幅を 1% ずつ小刻みに引き上げるべきであるといった意見も浮上しており 予定通り引上げが実施されるかは 不透明な状況です Q 消費税増税で住宅取得時の税負担は どのくらい増加しますか A そもそも住宅購入にかかる消費税は 土地にはかからず新築物件なら建物部分のみです 仮に図表 1の モデル のよう

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Q2: 軽減税率導入の狙いは A: 税金 10% 以上への地ならし 消費税率が 8% に増税されて個人消費は落ち込んだまま回復の兆しは見えず 実体経済は悪化しています 働く人たちの実質賃金は 4 年連続でマイナスとなりました ( 厚生労働省 8 日発表 ) 日銀が異例のマイナス金利を導入しましたが

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おカネはどこから来てどこに行くのか―資金循環統計の読み方― 第4回 表情が変わる保険会社のお金

Transcription:

Economic Trends マクロ経済分析レポート テーマ : 消費税率再引上げのマクロ的影響 2016 年 2 月 3 日 ( 水 ) ~ 平均的家計の負担額は年 4.6 万円 2017 年度の成長率 0.8% 押し下げの可能性 ~ 第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト永濱利廣 (03-5221-4531) ( 要旨 ) 前回の消費税率 3% 引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった 次回は消費増税の負担額だけでは税収が 5.6 兆円増えることになるが 酒類 外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合の必要な財源が1 兆円となるため 家計全体では 4.6 兆円程度の負担になる 世帯主の年齢階層別の負担額を算出すると 世帯主の年齢が 30 代 ~60 代の世帯では4 万円 / 年を上回るも 世帯主が 20 代以下か 70 代以上になるとその額が4 万円 / 年を下回る 世帯の年収階層別では 年収が 1500 万円以上の世帯では負担額が 10 万円 / 年を上回るも 年収 200 万円未満ではその額が2 万円 / 年を下回ることになる 内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに経済成長率への影響を試算すれば 2016 年度は駆け込み需要により+0.4% ポイント経済成長率を押し上げるが 2014 年度については 0.8% ポイントも経済成長率を押し下げると試算される 外部環境にもよるが 無防備で消費税率を引き上げれば相当景気腰折れの可能性が高まる ESPフォーキャスト調査に基づけば フォーキャスターのコンセンサス通りに成長した場合はデフレギャップが来年度後半に解消することになるが 2017 年 4 月から消費税率を引き上げることになると再度デフレギャップが生じてしまう 2014 年 4 月に消費税率を引き上げた際も 消費税率引き上げ直後に安倍政権発足以前の水準までデフレギャップが逆戻りしてしまった経緯がある 軽減税率の事前準備も難しく 再来年 4 月までに法律を作るには相当の困難を伴う 前回の消費税率引き上げでは家計向けの支援策が 0.7 兆円弱にとどまったことからすれば 家計向けの支援策等 ある程度の予算を配分した対策は不可欠 一方で 将来のさらなる消費税率引き上げ幅を抑制する意味でも 社会保障の効率化も必要な策といえる 日本も将来的にはインボイスの導入を前提に 標準税率を引き上げる際には軽減税率を引き下げることも検討に値する 将来の消費税率引き上げを確実なものにする意味でも 経済のパイが拡大する中での家計負担軽減策は不可決である 負担額自体は前回の半分程度となる次回の消費増税次回の消費増税の負担額を試算すると 消費増税そのものは景気へのダメージが前回の半分程度になると判断される 参考のために 89 年度と 97 年度 2014 年度 それから次回 2017 年度に2% ポイント引き上げた場合のそれぞれについてマクロの負担額を見ると 89 年には物品税の廃止等の減税もあり ネットの増税幅は 1.8 兆円にとどまる 当時はバブル景気末期で景気の勢いもあったため 結果的に景気への影響は軽微だったといえよう ( 資料 1)

それに対し 97 年度は消費税率の引上げ幅自体は2% で 負担増は5 兆円程度と限定的であった しかし 特別減税の廃止や年金医療保険改革等の負担が重なり 結果的には9 兆円近い大きな負担となった 更に 景気対策がない中で同年 6 月にアジア通貨危機が起こり 同年 11 月に金融システム不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回の消費税率 3% 引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった 次回の消費増税の負担額は 財務省の試算によれば 2017 年 4 月から軽減税率を導入せずに消費税率が 10% に引き上げられると 最終的に税収が 5.6 兆円増えることになる これは 一方で酒類 外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合の必要な財源が1 兆円となるため 家計全体では 4.6 兆円程度の負担になることを示唆している 平均負担額は年平均 4.6 万円一方 2014 年の総務省 家計調査 を用いて 具体的に平均的家計への負担額を試算すれば 年間約 4.6 万円の負担増となる また 世帯主の年齢階層別の負担額を算出すると 世帯主の年齢が 30 代 ~60 代の世帯では4 万円 / 年を上回るも 世帯主が 20 代以下か 70 代以上になるとその額が4 万円 / 年を下回る ( 資料 2) 同様に 世帯の年収階層別では 年収が 1500 万円以上の世帯では負担額が 10 万円 / 年を上回るも 年収 200 万円未満ではその額が2 万円 / 年を下回ることになる ( 資料 3) なお 軽減税率導入により1 兆円の財源が必要になるといわれている 自民党と公明党の協議により 総合合算制度の見送りで4 千億円の財源確保は可能となっているため 残りの6 千億円の財源をどう確保するかが今後の課題となる 自公の協議では あらかじめ軽減税率のために赤字国債は発行しないと決めているため たばこ増税や社会保障サービスの縮減などを通じて軽減税率とは別に負担増になる可能性もあることには注意が必要である

消費税率引き上げで 2017 年度の経済成長率を1% 程度押し下げ一方 先述の通り 2017 年 4 月から軽減税率を導入せずに消費税率が 10% に引き上げられると 最終的に税収が 5.6 兆円増えることになる これは 一方で酒類 外食を除く食料を軽減税率の対象品目とした場合の必要な財源が1 兆円となるため 家計全体では 4.6 兆円程度の負担になることを示唆している そこで 内閣府の最新マクロモデルの乗数を用いて 前回の消費税率が3% ポイント引き上げられた場合の影響を試算すると 初年度に個人消費の 1.53% 押し下げを通じて実質 GDP を 0.72% 押し下げたことになる 一方 次回の消費税率が2% ポイント引き上げられて軽減税率が導入された場合の効果を試算すると 初年度に個人消費の押し下げ 0.84% を通じて実質 GDP を 0.39% 押し下げることになる 従って 次回の消費税率引き上げに伴うマクロ経済への悪影響としては 前回の約半分程度にとどまることになる ( 資料 4)

資料 4 消費税率引き上げの影響 1 消費税率を 3% ポイント引き上げ 2 消費税率を 2% ポイント引き上げ + 軽減税率 実質 GDP 消費 実質 GDP 消費 1 年目 -0.72-1.53 1 年目 -0.39-0.84 2 年目 -0.51-1.14 2 年目 -0.28-0.62 3 年目 -0.45-1.26 3 年目 -0.25-0.69 ( 出所 ) 内閣府マクロモデル乗数をもとに筆者試算 また 内閣府のマクロ計量モデルの乗数をもとに経済成長率への影響を試算すれば 前回は駆け込み需要により 2013 年度の成長率が+0.7% ポイント引き上げられた一方で 2014 年度の経済成長率は 1.4% ポイントも押し下げられたと試算される 同様に次回の影響も試算すれば 2016 年度は駆け込み需要により+0.4% ポイント経済成長率を押し上げるが 2017 年度については 0.8% ポイントも経済成長率を押し下げると試算される 従って 外部環境にもよるが 無防備で消費税率を引き上げれば相当景気腰折れの可能性が高まるだろう ( 資料 5) なお 軽減税率導入となると IT 関連業界への直接的な恩恵となるが 事業所などの会計システム変更を余儀なくされることが想定されるため その分の一時的な効果も考慮しなければならない 一方 先に指摘した通り 財源捻出のために軽減税率以外の分野で増税となる可能性もあり トータルでどの程度のメリットとなるかの試算は困難である 今後の課題今後の消費税率引き上げにおける課題としては まずデフレ脱却への影響が指摘できる 理由としては ESPフォーキャスト調査に基づけば フォーキャスターのコンセンサス通りに成長した場合はデフレギャップが来年度後半に解消することになるが 2017 年 4 月から消費税率を引き上げることになると再度デフレギャップが生じてしまうためである ( 資料 6) 特に 2017 年 4 月に消費税率を

引き上げた際も 引き上げ直前にデフレギャップが一時的に解消したものの 消費税率引き上げ直後 に安倍政権発足以前の水準までデフレギャップが逆戻りしてしまった経緯がある また 軽減税率の 事前準備が難しく 来年 4 月までに法律を作るには相当の困難を伴おう 更に 前回の消費税率引き上げの影響を勘案すると 安定的な財源が確保されることにより税収増が期待できる一方で 家計の恒常的な購買力低下で内需への影響が大きいという声もある 従って 前回の消費税率引き上げでは家計向けの支援策が 0.7 兆円弱にとどまったことからすれば 家計向けの支援策等 ある程度の予算を配分した対策は不可欠であると思われる 一方で 将来のさらなる消費税率引き上げ幅を抑制する意味でも 社会保障の効率化も必要な策といえる なお 諸外国においては 標準税率が平均 15% を超えているにもかかわらず 食料品の軽減税率が 5% 以下になっていることからすれば 日本も将来的にはインボイスの導入を前提に 標準税率を引き上げる際には軽減税率を引き下げることも検討に値する ( 資料 7) ちなみに 今回の酒類 外食を除く食料品を軽減税率の対象とすれば 軽減税率 1% 引き下げに際して 0.5 兆円の財源が必要となる一方 標準税率 1% 引き上げで税収が 2.3 兆円増えることになる つまり 8% の軽減税率を0% にするには4 兆円の財源が必要となるため あくまで筆者の考えだか 軽減税率を0% にしても標準税率を 12% 以上に引き上げれば ネットで消費税収はプラスとなる 従って 将来的にはインボイス導入で益税問題を解消するとともに 標準税率の引き上げと軽減税率の引き下げをすることが検討に値しよう 将来的にも 更なる消費増税を実施しても生活必需性の高い軽減税率の引き下げを併用すれば その後の消費増税も実施しやすくなるが 逆に負担軽減策をおろそかにして国民の不満を高めてしまうとその後の消費増税が政治的に困難になる 将来の消費税率引き上げを確実なものにするという意味でも 経済のパイが拡大する中での家計負担軽減策は不可決であると考えられる