岡山種雄牛センター神澤児太朗 平成 24 年 11 月 8 日 9 日にカナダオンタリオ州トロントにて開催されたロイヤルアグリカルチュアルウインターフェアと牧場視察を目的に 北海道ホルスタイン農業協同組合およびデーリィマン社主催のカナダホルスタイン酪農視察旅行に参加しました 私と目的を同じくするツアーメンバーは北海道ホルスタインナショナルショウの審査員もされた成田純哉氏 ( 北海道釧路市 ) を団長とする総勢 12 名でした 参加者 ( 敬称略 順不同 ) 成田純哉 (( 株 ) 敬和ファーム ) 稲山智明 ( 北海道ホルスタイン農業協同組合 ) 佐々木求 ( 北海道協同組合通信 ) 佐々木尚洋 (JA 中標津町 ) 小宮山瞳 (JA 道東あさひ ) 直井千奈津 (JA 道東あさひ ) 神内正成 ( 北海道酪農家 ) 永田正樹 ( 八紘学園 ) 吉田隼人 ( 八紘学園 ) 松原薫 ( 家畜改良事業団 ) 神澤児太朗 ( 家畜改良事業団 ) 岡橋勇太 ( 家畜改良事業団 ) ロイヤルアグリカルチュアルウインターフェア会場となったトロントのカナダ全国博覧会 (CNE) に到着すると 会場前に駐車された多くのバスが目に飛び込んできました これは カナダの王室農業祭として位置付けられているこのフェアが 食育の一環としても開催されているからで 会場内に多くの子供向けのブースが出展されていたのが印象的でした 中でも驚いたのは 某有名ハンバーガーチェーンのブースが出展されていて 一般的に ジャンクフード と呼ばれ 健康を害するというイメージを持たれがちなハンバーガーやフライドポテトだが 当社の製品は健康的であることを伝えたい と 3 人の女性スタッフがPRしていました ハンバーガーの中に様々な野菜が含まれていること スムージーには果物が入っていること そしてフライドポテトの塩分は 1 日の摂取量のわずか5% 程度であることなどを力説していました さて 私たちがメインイベントとして楽しみにしていたナショナル ホルスタインショウは 未経産牛 6 クラス 経産牛 9クラスの17クラスで競われ 2 日間の日程で開催されました ほとんどの審査が集中した 2 日目は何と7:30から審査が開始され 出品頭数が36 頭にもなるクラスもある中 1クラスおよそ40 分程度で進行していきました 未経産牛は胸の幅 肋の充実 そして肢蹄が素晴らしく 体高 体長に優れた牛が多く見られました これまで ショウにおいて体高や体長だけが重要ではないと学んできましたが なるほど上位の牛たちには それらに見合うバランスのとれた美しさがありました 経産牛については 力強くバランスの良い乳房を付 20
けた牛が多く いつ序列が変わってもおかしくないほど上位牛は接近していたため 最終決定までのリードマンの緊張が私たちにまで伝わってきました 特に 12 部のシニア3 才クラスでは 2 度にわたって首席と次席が入れ替わり 最終的にはファーストピックされた牛がクラスチャンピオンになったのですが 序列が変わるたびに会場内に大きな歓声が上がり 序列が決定したときには それが一際大きくなり会場全体を包みました た つまり 大きな牛を力で押え付けるのでなく そこに人と牛の信頼関係が存在していることがよくわかりました 会場では この他に 馬 羊 犬などのショウも開催されており この王室農業祭が カナダが世界に向けて農畜産物を発信する場として位置付け 国策をもって開催していることも強く感じました 最後のグランドチャンピオン決定戦では 派手なBGMと照明の中 各クラスのチャンピオン牛たちが紹介を受けながら入場してくるなど 演出も洗練されていてチャンピオン決定に向けて最高の雰囲気となって行きました かつて このショウを見た方から この瞬間は鳥肌が立つほど盛り上がると聞いたことがありますが なるほど私も同様の感覚を体験することができました さて 栄えあるグランドチャンピオンに輝いたのは RF ゴールドウインヘイリー ( 父 : ゴールドウイン ) で 北米 2 大ショウといわれる ワールドデイリーエキスポとこのロイヤルの2 冠を制したわけです また ヘイリーは全品種を通じてのグランドチャンピオンにも輝きました このショウで 出品牛の素晴らしさとともに 日本と大きな違いを感じたのは リードマンでした 素晴らしい牛達が リードマンの思い通りに歩行していることに加え 多くの女性がリードマンを務めていまし 牧場訪問今回の訪問のもう一つの目的である牧場訪問ですが 今回はオンタリオ州にある4 戸の牧場に案内してもらいました 訪問した牧場の共通した印象は 兎に角 牛舎のつくりや環境全般がオシャレで 清潔であるということでした 1. 能力の向上を一番に! サミットホルム牧場 経産牛 400 頭 未経産牛 300 頭 フリーストール牛舎経営者である兄弟の他に 従業員を雇い 搾乳時にはパートも導入しているとのことでした 牛舎内はもちろんのこと 牛舎周辺に至るまで綺麗で 見学者を受け入れる気持ちがこちらまで十分に伝わってきました また 牛舎の裏にあった 香りのよいハイモイスチャーコーンがぎっしり詰まった10 基のバンカーサイロも印象に残りました 飼料は 綿実と粉末大豆を除いて 濃厚飼料と粗飼料をすべて自給し その作業は 年間契約のコントラクターに依頼しているとのことでした 21 LIAJ News No.139
牛群の能力は 平均乳量 12,500kg(39kg/ 日 ) F3.8% P3.2% で 体型よりも能力を追求する改良を進めているように感じました 利用している精液 特にゲノミックヤングサイアーについて伺うと 基本的には検定済種雄牛のみを使いたいが リピートブリーダーには より安価なゲノミックヤングサイアーを使うこともある ということで その選定にあたっては 血統にはこだわらず インデックスや脂肪の高い牛を選んでいる とのことでした 最後に少し調子に乗って 日本にも優秀な種雄牛がいますが 使ってみたいですか? とセールストークに持ち込もうとしましたが 日本に優秀な種雄牛がいることは知らなかった インデックスや脂肪が高いなら 機会があれば使ってみたい と笑顔 ( 愛想笑い?) で往なされました ている点はないか伺うと 牛乳取引において脂肪は重要だから そのような種雄牛を選んで使っている 乳脂率を高くするには 遺伝的要素と飼い方の両方が重要なんだ と話していました この牧場の牛舎は非常に明るく 牛舎内にはこの牧場で生産された種雄牛のパンフレットとともにコーヒーやクッキーまで用意されており この整った視察者受け入れ体制は個体販売を経営の軸に置く牧場ならではのものだと感じました たまたま アメリカからの視察者がいたので感想を伺うと 牛が落ち着いていて よく手入れされているのが分かる 体型 乳器の良い牛が多く 持って帰りたいと思う牛が多い と買う気満々? でした 最後にゲノミックサイアーについての質問には ゲノミックサイアーはほとんど利用しない 使うとしてもゴールドウインやタレントの息牛で体型のいいものだけ ときっぱりとした答えでした 2. 個体販売のため体型を重視! フラドン牧場 牛舎 2 ヶ所で合計 140 頭 タイストール牛舎 兄弟とその息子で経営する牧場で 経理畑の奥さんは 会計士として会社勤めをされているとのことで カナダの酪農家では このように夫婦で別の仕事をしていることは珍しくないとのことでした この牧場は 個体販売のために徹底的に体型の良い牛を作るという方向性を持っていました 種雄牛では レッドや無角 (Polled) の種雄牛も多く利用するそうで その理由を伺うと 答えは簡単 レッドは珍しいし 個体販売に有利だから と一言でした 能力的には 平均乳量 10,000kg F4.2% P3.3% を搾っているとのこと 脂肪が高いので 特に気を付け 3. 無駄を無くした効率的な経営! ボスデール牧場 経産牛 185 頭 未経産牛 115 頭 タイストール牛舎 1958 年に牧場を創業し 1978 年からは体型審査を開始し 現在ではEX 牛 58 頭 VG 牛 115 頭という非常に体型に優れた牛群を所有していました この牧場では 総面積 480haの広大な土地を利用して養豚経営も行っていましたが 養豚との複合経営はカナダでも珍しいようです この牧場で驚いたのは 約 150 頭の搾乳を2 人で8 台のミルカーを使って僅か1 時間半で終わらせてしまうところでした さぞや泌乳能力が低いのではと思いき 22
や 平均乳量 10,500kg F4.0% P3.2% とノー プロブレムでした 交配種雄牛は体型と能力のバランスを考えて選び 未経牛への初回授精は 17 18 ヶ月齢で体格が十分に備わるまで待ち 分娩事故を減らすことに注意を払っているとのことでした なお カナダでは珍しいことではないそうですが 授精はSEMEXの職員が行っているそうで 日本ではちょっと想像がつかないことです この牧場もやはり牛舎はきれいで 牛についても年 3 4 回は全頭の毛刈りを行い 年 1 回は削蹄もするそうで 牛の健康管理と衛生管理の整った牧場という印象を受けました 庭市にある中国四国酪農大学校を卒業した方で この牧場での研修が決まった時には こんなに視察の多い牧場だとは思っていなかった というとおり 世界中から多くの視察者が訪れているとのことでした 彼は 今では 一部の牛の搾乳を任されているとのこと 我々が訪問した時も搾乳中の手を休め熱心に説明をしてくれました 因みに 牧場名を見てお気付きの方も多いと思いますが 当団の検定済種雄牛で かつて多くの皆さんにご利用いただいたクオリテイエアロスターローン (P5788) は この牧場の生産によるものです 市内観光 4. 個体販売と種雄牛造成にも! クオリティ牧場 経産牛 70 頭 タイストール牛舎この牧場は クオリティーシードという種苗メーカーのポール エクスタイン氏がオーナーを務めています もともとは オーナーが種子を販売しながら様々な牧場を回り 気に入った牛を買い集めていったことが始まりだそうです 牧場の総面積は 30haで 今回訪問した牧場の中では最も小さい規模でした 飼料も70% は購入だそうです 平均乳量は12,000kgで 未経産牛 経産牛共に個体販売を積極的に行う一方で 種雄牛造成にも力を入れているとのことでした 現在は 3 人の従業員と1 人の日本人研修生で管理していました この研修生 冨永さんは 昨年岡山県真 トロント市内トロント市は 日本の大阪とほぼ同じくらいの人口約 420 万人で 訪問した11 月上旬には 気温が零下になることも珍しくなく 当日もマイナス2 度でした レンガ造りの建物が多く 古い建物と近代的な建物が入り混じる魅力的な街並みに魅了されました 中国からの移民を多く受け入れているため 非常に大きなチャイナタウンもあり 近くにあるトロント大学では中国人留学生が特に多いそうです 23 LIAJ News No.139
地元のスーパーを覗くと やはり乳製品や肉製品の充実が目につきました ヨーグルトや飲用乳については いろいろなフレーバーの製品が数多く並び それらのほとんどが成分調整乳 ( 低脂肪 無脂肪 ) であったことが印象的でした また 精肉コーナーは 赤身のブロックが豊富に揃えられているのに加え 燻製肉が沢山ディスプレイされているところに文化の違いを大いに感じました す しかし 私たちが訪れた時期は シーズンオフに加えて早朝だったため 他に観光客は見当たりませんでした また 水量は 上流にあるインターナショナルウォーターコントロールゲート ( 水門 ) で調節されているのですが この日の水量は 最盛期の約 25% とのことでした 確かに25% でもそれなりの迫力でしたが 改めて最盛期を見たいものです きっと想像を超えるものなのでしょう また この観光地として有名なナイアガラですが 以前は大規模な水力発電所があったことから エネルギー生産の街として位置づけられていたということには驚かされました かつての水力発電所跡も見学しましたが 知らなければちょっとおしゃれな寺院に見える建物でした 最後に ナイアガラの滝ナイアガラの滝は ご存じのとおり世界的にも有名な観光スポットで 年間約 1,000 万人もの人が訪れま 新しい発見の連続で あっという間に7 日間の日程が過ぎてしまいました カナダという国の大きさに驚き! 素晴らしい牛たちに驚き! 個性的な酪農家にも驚いた! 視察でした 特に 世界最大のショウの1つであるロイヤルアグリカルチュアルウィンターフェアを視察出来たことはもとより カナダで酪農を営む方々から直接話を聞くことが出来たのは私にとって非常に刺激的で興味深いものでした 職業柄 現地の精液事情も伺いましたが ゲノミック評価値しか持たないゲノミックヤングサイアーについて 訪問前は カナダでは検定済精液同様に使われているという先入観をもっていましたが 今回訪問した牧場では積極的な利用をしていませんでした 価格が安いからリピートブリーダー用のみに使う 信頼度が低い なんとなく使わない等 理由は様々でした 今回は4 戸でしたが 実際に多くの酪農家を訪問し 直接話を聞くことで真の姿が見えるものも多いと感じました まさに 百聞は一見に如かず という言葉を体感したカナダ酪農視察でした 今後 この体験を生かし 積極的に現場の声をお聞きし自分のものにしていこうと誓うところです 24