情報ネットワーク論無線 LAN 編 産業技術科学科多田知正 用語の定義 計算機 コンピュータのこと データ 計算機で扱う情報のこと 文字 ( テキスト ), 画像, 音声など 通信 計算機間でデータをやり取りすること ネットワーク 複数の計算機が接続され, 通信を行うことができる仕組み 送信, 受信 データを送ること, 受け取ること サーバ 他の計算機にサービスを提供する計算機 クライアント サーバからサービスを受ける計算機 ユーザ 計算機を使う人間 2010/7/2 情報ネットワーク論 1 2010/7/2 情報ネットワーク論 2 今回のテーマ 復習 : 電気で情報を送る よくある会話 無線 LAN ってなんとなく遅いのよねえ ほんと,11gで 54Mbpsとか言うけど実際そんなに出てないわよねえ 1. OFF で 0,ON で 1 を表す 2. 1 秒間隔でスイッチを切り替える 3. 8 個で切れる 150(10010110) を送りましょう ON,OFF,OFF,ON,O FF,ON,ON,OFF ON,OFF,OFF,ON, OFF,ON,ON,OFF 10010110 150が来た 無線 LAN が遅いのは気のせいなのか? 2010/7/2 情報ネットワーク論 3 2010/7/2 情報ネットワーク論 4 情報を電気の波として送る 無線で情報を送る 情報が電気の波 ( 電圧の変化 ) として表される 電気の波を線を通じて送る 電波の変化によって情報を表す 空気中を飛び交う電波が情報を運ぶ 実はこれがすごく大変 2010/7/2 情報ネットワーク論 5 2010/7/2 情報ネットワーク論 6 1
有線の場合 無線の場合 電波は四方八方に広がる 他の通信に干渉する 電気信号は線上のみを流れる 他の通信に影響しない 2010/7/2 情報ネットワーク論 7 2010/7/2 情報ネットワーク論 8 無線 LAN の必要条件 複数の通信を同時に行えるようにするための工夫が必要 複数の通信を同時に行うために 情報を 波として 送るのではなく 011100101100 波に情報を 乗せて 送る 011100101100 2010/7/2 情報ネットワーク論 9 2010/7/2 情報ネットワーク論 10 波に情報を乗せる方法 ( その 1) 元となる波 波に情報を乗せても これに,01010110 という情報を乗せる 0 1 0 1 0 1 1 0 0のときに振幅が小さく,1のときに振幅が大きくなる ASK(Amplitude shift keying) という 2010/7/2 情報ネットワーク論 11 同時に通信が起こると電波は混ざってしまう なぜ複数の通信が同時に行えるのか 2010/7/2 情報ネットワーク論 12 2
復習 : 音の分解と合成 音を高さによって分解したり, それらを組み合わせて元の音を再現したりできる高い音 波に情報を乗せると 異なる周波数 ( チャネル ) の電波で送る 低い音 波は周波数によって複数の波に分解することができる 元の音 電波が混ざっても目的の信号を切り出すことができる 2010/7/2 情報ネットワーク論 13 2010/7/2 情報ネットワーク論 14 ASK の欠点 波の振幅 ( 信号の強弱 ) が情報をあらわしている 信号の強さは様々な理由で変動する 波に情報を乗せる方法 ( その 2) 元となる波 元の信号 遠くなると信号が弱くなる これに,01010110 という情報を乗せる ノイズや障害物の影響で信号の強さが変わる 振幅が変動すると 0 と 1 の判定が難しくなる 2010/7/2 情報ネットワーク論 15 0 1 0 1 0 1 1 0 1のときに周波数が増える FSK(Frequency shift keying) という 2010/7/2 情報ネットワーク論 16 FSK の利点 振幅 ( 信号の強さ ) が情報を持たない元の信号 FSK よりいけてる方法 実は無線 LANでは, これらとは異なる方法が用いられている振幅を変える : ASK 周波数を変える : FSK 他に何を変えられるというの? 振幅の変動によらず安定して信号を送ることができる 2010/7/2 情報ネットワーク論 17 2010/7/2 情報ネットワーク論 18 3
波に情報を乗せる方法 ( その 3) 元となる波 波の周期と角度 波の1 周期における位置を1 周期を360 度とした角度で表すことができる 90 度 これに,01010110 という情報を乗せる 0 1 0 1 0 1 1 0 0のときと1のときで波の位相が異なる PSK(Phase shift keying) という 位相って? 270 度 2010/7/2 情報ネットワーク論 19 2010/7/2 情報ネットワーク論 20 位相とは 信号波の基準信号に対する時間のずれを角度で表したもの 基準信号 PSK の利点 FSK よりもさらにノイズに強い 位相が 90 度進んだ波 同じようにノイズが加わったときに PSK の方が正しい信号を復元できる可能性が高い 位相が 180 度進んだ波 2010/7/2 情報ネットワーク論 21 2010/7/2 情報ネットワーク論 22 PSK の改良版 元となる波 何が改良されたのか? 伝送中に位相がずれることがあり得る これに,01010110 という情報を乗せる ずれが少しずつ蓄積して本来の位相から大きくずれるかも知れない 0 1 0 1 0 1 1 0 0のときは変化なし 1のときだけ位相が180 度ずれる DPSK(Differential Phase shift keying) という 2010/7/2 情報ネットワーク論 23 ある波が, 0 を表す位相なのか 1 を表す位相なのか を判定するより 位相が 180 度ずれたかそうでないか を判定する方が簡単 2010/7/2 情報ネットワーク論 24 4
転送速度を上げるには 0 と 1 の切り替えを速く行えば良い そこで 位相を 2 つ用いる場合 位相を 4 つ用いる場合 01 0 1 0 1 0 1 1 0 1 0 11 00 0 1 0 1 0 1 1 0 もちろん限界がある 1 回の切り替えで 1 ビットの情報を送れる 10 1 回の切り替えで2ビットの情報を送れる 2010/7/2 情報ネットワーク論 25 2010/7/2 情報ネットワーク論 26 PSK の改良版の改良版 元となる波これに,01010110 という情報を乗せる半分の時間 01 01 01 10 2 倍の情報を送ることができる位相が90 度進む位相が90 度戻る DQPSK(Differential Quarternary Phase shift keying) という 2010/7/2 情報ネットワーク論 27 無線 LAN の周波数帯域 現在一般的に使われている無線 LAN の規格である IEEE802.11b や IEEE802.11g では 2.4GHz 帯の帯域を利用している 2400MHz から 2497MHz ISM バンドとも呼ばれる 免許不要で利用できる領域 2010/7/2 情報ネットワーク論 28 電波の無法地帯 この周波数帯はさまざまな用途に用いられている かぶったら大変 Bluetooth 電子レンジ コードレス電話 リモコン ( 一部 ) トランシーバ マイクロ波治療器 http://www.nihonmedix.co.jp/ commodity/log/entry02/42.html 無線 LANで使用している周波数が他の機器と思いっきりかぶったら 信号がぐちゃぐちゃになって回復できない場合がある 2010/7/2 情報ネットワーク論 29 2010/7/2 情報ネットワーク論 30 5
そこで 必殺スペクトル拡散 写真は本文と関係ありません 著作権の関係により自粛 http://blog.livedoor.jp/nainaiann/archives/50946276.html 2010/7/2 情報ネットワーク論 31 復習 : 周波数成分 波をコサイン波の重ね合わせで表すことができる 分解されたそれぞれを周波数成分という + + 10 5 2010/7/2 情報ネットワーク論 32 + + + : 3 7 1 スペクトル 波の中に含まれる各周波数成分の強さ ( 振幅 ) を表したグラフ 振幅 スペクトル拡散とは 信号を元の信号より広い周波数帯域に拡散した上で送信すること 周波数 2010/7/2 情報ネットワーク論 33 2010/7/2 情報ネットワーク論 34 スペクトル拡散の方法 ( その 1) 周波数ホッピング 元となる波の周波数をあらかじめ決められたパターンにしたがって, 短い間隔でどんどん変えていく 元となる波を信号波という 振幅 送信側と受信側で同じパターンにしたがって変える ある時点で他の機器とぶつかっても次の切り替えで脱出できる 周波数ホッピング (Frequency Hopping Spectrum Spread: FHSS) という 2010/7/2 情報ネットワーク論 35 周波数 2010/7/2 情報ネットワーク論 36 6
周波数ホッピングの欠点 周波数の切り替えに時間がかかる 高速化がはかれない スペクトル拡散の方法 ( その 2) 変調した信号波にさらに周期的な別の信号を掛け合わせる信号波 = 拡散符号 送信する信号 現在では無線 LAN ではほとんど使われていない 信号波の波長よりも十分短い 直接拡散 (Direct Sequence Spectrum Spread: DSSS) という 2010/7/2 情報ネットワーク論 37 2010/7/2 情報ネットワーク論 38 直接拡散 振幅 元の信号波 ( 変調 ) 拡散後の信号 逆拡散 受信した信号にもう一回同じ拡散符号を掛け合わせると元の信号波が得られる 受信した信号 拡散符号 = 元の信号波 周波数 これを逆拡散と言う 2010/7/2 情報ネットワーク論 39 2010/7/2 情報ネットワーク論 40 スペクトル拡散の流れ ノイズの影響 元の信号 変調 拡散 振幅 ノイズ 逆拡散 復調 拡散後の信号 周波数 2010/7/2 情報ネットワーク論 41 2010/7/2 情報ネットワーク論 42 7
逆拡散の結果 振幅 元の信号波 無線 LAN のパケットの送り方 無線 LAN のパケットの送り方は有線の LAN の場合とは少し違う 逆拡散はノイズにとっては拡散になる 拡散されたノイズ 周波数 2010/7/2 情報ネットワーク論 43 2010/7/2 情報ネットワーク論 44 復習 :LAN のデータの送り方 各計算機は 空いていればいつでも データの断片を送れる 通信の衝突 たまにこういうことも... 誰か送っているな 誰か送っているな 続けて送ろう 空いたな 送り終わった 空いたな Go! 2010/7/2 情報ネットワーク論 45 あ! あ! 複数の通信が同時に発生することを通信の衝突という 2010/7/2 情報ネットワーク論 46 衝突の検出 通信が衝突する =2 つ以上の計算機が同時に信号を出す 信号が混じりあっておかしくなる 無線の場合 計算機がデータの送信中に信号の変化を見張るのは難しい ON,OFF,OFF,ON,O NONOFFON N,ON,OFF,ON OFF,OFF,ON,OFF,O N,OFF,ON,ON ON ON 計算機はデータを送信中のケーブル上の信号を見張っている信号変化がおかしい 衝突が起きたことがわかる なぜか? 2010/7/2 情報ネットワーク論 47 2010/7/2 情報ネットワーク論 48 8
信号の強さ ( 有線の場合 ) 信号の強さ ( 無線の場合 ) 電気はケーブル内に閉じこめられている 信号の強さはそれほど弱まらない 2010/7/2 情報ネットワーク論 49 電波は四方八方に拡散していく 信号は距離の 2 乗に反比例して急激に弱まる 2010/7/2 情報ネットワーク論 50 電波のエネルギー 同時に通信が起こった場合 そこで 無線 LAN ではより慎重な送り方をする 自分の出す電波にかき消されて周りの出す電波が検出できない 衝突が起きたことに気がつかない 2010/7/2 情報ネットワーク論 51 2010/7/2 情報ネットワーク論 52 まず確認 通信を開始する前に, しばらくの間受信を試みて現在通信している計算機が他にないか確認する しばらく待つ 他に通信している計算機がいる場合は終わるまで待つ 誰も送っていないかな しばらく待とう 2010/7/2 情報ネットワーク論 53 2010/7/2 情報ネットワーク論 54 9
さらに待つ 通信が終了しても, さらにランダムな時間だけ待つ 待っている人が他にいる場合の衝突を避けるため 通信開始 ランダムな時間だけ待って誰も通信していなければ, パケットを送信する もう少しだけ待とう 今がチャンス 終わった 2010/7/2 情報ネットワーク論 55 2010/7/2 情報ネットワーク論 56 返事のパケット パケットを受信した計算機は返事のパケットを返す 次のパケット 返事のパケットを確認して次のパケットを送り出す ついたで 返事来た 2010/7/2 情報ネットワーク論 57 2010/7/2 情報ネットワーク論 58 まだある問題 これで解決とは行かない アクセスポイント 通常無線 LAN を使う計算機はアクセスポイントと通信する 問題は他にもある 2010/7/2 情報ネットワーク論 59 2010/7/2 情報ネットワーク論 60 10
衝突の回避 計算機はデータを送る前に他の計算機が通信していないか確認することで衝突を避ける 誰も送っていないかな 届かない電波 同じアクセスポイントに接続する他の計算機の電波が届かない場合がある 距離が離れすぎている 障害物がある お互いの通信を検出できない 2010/7/2 情報ネットワーク論 61 2010/7/2 情報ネットワーク論 62 隠れ端末問題 事前に確認したにもかかわらず, それぞれの計算機が同時にアクセスポイントと通信 衝突が発生 隠れ端末問題の解消 隠れ端末の問題を解消するために, さらに面倒なことをする RTS/CTS(Request to Send/ Clear to Send) 方式という さすがにこれはオプションになっている ( 不要なら解除できる ) 隠れ端末問題という 2010/7/2 情報ネットワーク論 63 2010/7/2 情報ネットワーク論 64 通信のお伺い 計算機は通信を行う前にアクセスポイントにお伺いを立てる 通信の許可 アクセスポイントは通信可能であれば許可を出す 送っていいです 送っていいですか 送っていいです 計算機からのパケットは届かない 送っていいです アクセスポイントからのパケットは届く 許可のメッセージを傍受する 2010/7/2 情報ネットワーク論 65 2010/7/2 情報ネットワーク論 66 11
許可メッセージの中身 通信の開始 許可を得た計算機が通信を開始する さっきリクエストした人送ってもいいです 2 秒待とう 他の人は 2 秒待ってね 他の計算機の待ち時間が指定されている 2 秒待とう 2010/7/2 情報ネットワーク論 67 2010/7/2 情報ネットワーク論 68 アクセスポイントからの返事 アクセスポイントは送られたパケットについて返事を返す 許可メッセージの中身 データちゃんと着きました アクセスポイントからの返事も傍受する 他の人はあと 3 秒待ってね 待ち時間の延長を指定される場合もある 2010/7/2 情報ネットワーク論 69 2010/7/2 情報ネットワーク論 70 無線 LAN の遅いわけ このように, 無線 LAN では有線 LAN と比べて相当慎重なデータの送り方をしているのでその分転送速度は低下する スロースタートの影響 有線 LAN では転送速度は一定だが, 無線 LAN では環境にあわせて転送速度が異なる どのような環境でも通信できることを保証しなければならない 最初は一番遅い速度で通信を開始して, その後, 両者が合意した通信速度に切り替える 必ず最初に遅い通信が入るために全体の転送速度が遅くなる 2010/7/2 情報ネットワーク論 71 2010/7/2 情報ネットワーク論 72 12
無線 LAN の本当の性能 IEEE802.11b 公称 :11Mbps 実質 :7Mbps 以下 IEEE802.11g 公称 :54Mbps 実質 :20Mbps 以下 公称速度は理想的な環境における瞬間最大速度 電波状態によって遅くなるというのとは別の問題 2010/7/2 情報ネットワーク論 73 IEEE802.11a 無法地帯の2.4GHz 帯ではなく,5GHz 帯を用いる利点ノイズの影響が少ない高速 ( 同じ公称 54Mbpsの11gより速い ) らしい 互換性のしがらみがないため欠点到達距離が短い使える場所 ( アクセスポイント ) が少ない屋外での利用は法律で禁止されている日本国外の利用も禁止 2010/7/2 情報ネットワーク論 74 まとめ 無線 LANが遅いのは気のせいではない 54Mbpsとか絶対出ない 無線であるが故のさまざまな処理のせい 無線で送るのは結構大変 涙ぐましい努力がある できなかった話 OFDM WEP などセキュリティがらみの話 2010/7/2 情報ネットワーク論 75 13