横浜市の小 中学校における LD ADHD 高機能自閉症等の児童生徒への教育的支援のためのガイドライン ~ 気づいて わかって 支えよう ~ 特別な教育的支援が必要な子どもたちのための 指導資料第 3 集 横浜市教育委員会
はじめに 平成 18 年 6 月の学校教育法の一部改正により 小 中学校等においては LD 等を含む障害のある幼児児童生徒への適切な教育を行うことが新たに規定され 平成 19 年 4 月より施行されます 本市においては 小 中学校の普通学級に在籍する LD( 学習障害 ) ADHD( 注意欠陥多動性障害 ) 高機能自閉症等の児童生徒が約 6.5% ( 平成 15 年度調査 ) と把握されており こうした児童生徒に対する適切な指導や必要な支援を行うために 小 中学校 盲 ろう 養護学校 ( 特別支援学校 ) 全校において校内委員会を設置するともに 特別支援教育コーディネーターを指名し 養成研修を行ってきました 学校全体として特別支援教育についての理解や取組は着実に進んでおり 児童生徒の実態の把握がほとんどの学校で行われていますが 特別な教育支援が必要と考えられる対象児童生徒については 判断 や 観点 等にばらつきが見られ 学校間に差が生じています また 具体的な支援につなげる場合 どこから手をつけたらよいのかわからないといった戸惑いに直面している担任 学校も多いようです 個別教育計画の作成については 約 3 割の学校において取組を行っていますが 多くの学校では 検討中であり 作成の手順やこれに基づく具体的指導内容 方法が課題となっています そこで LD 等の児童生徒を含む特別な教育的支援が必要な子どもの教育的ニーズを的確に把握し その上で行う教育的判断や手順等について 平成 16 年度から開始している特別支援教育指導体制モデル校の実践等を参考にしながら 各学校での指導資料となる 横浜版ガイドライン を作成することにしました 作成にあたっては 文部科学省が平成 16 年 1 月に公表した 小 中学校における LD ADHD 高機能自閉症の児童生徒への教育支援体制の整備のためのガイドライン ( 試案 ) を参考にしつつ 校内支援体制ハンドブック ( 平成 16 年 8 月 ) の続編として位置づけるとともに 特別支援教育コーディネーターをはじめ 担任等が指導資料集として活用できるよう 実践例を多く盛り込み その中から学校に合わせて選択できるようにしました さらに 横浜市特別支援教育推進会議 の重要テーマの一つとして 約 2 年間にわたって審議を重ね 委員の皆様から貴重なご意見 ご示唆をいただきました 平成 17 年 12 月 国の中央教育審議会の答申で示された 特別支援教室 ( 仮称 ) 構想の制度化については 引き続き研究開発学校などで検討し システムの法令上の位置付け等課題の整理を行うとされています 本市では 特別支援教育指導体制モデル校の成果をもとに 平成 19 年度より特別支援教室の整備を開始し 3 カ年間で小 中学校全校での整備を目指します 今後 特別支援教育の取組が学校全体に浸透していくことにより 障害の有無にかかわらず 学校における児童生徒の確かな学力の向上や豊かな心の育成に資するものと考えています この ガイドライン が各学校長のリーダーシップのもと 特別支援教育の充実のために積極的に活用されることを期待しています 平成 1 9 年 5 月教育委員会教育長押尾賢一
はじめに - 目 次 - 1 特殊教育から特別支援教育への転換 ~ 国の動向 ~ 1 2 本市の特別支援教育の基本的な考え方 4 3 ガイドライン策定の趣旨 5 4 ガイドラインの使い方 6 5 気づきから支援まで 7 (1) 気づきから支援までの流れ (2) 担任の気づき (3) 実態把握 (4) ケース会議 ( 事例検討 ) (5) 教育的判断 ( 支援内容 方法等の決定 ) (6) 個別教育計画 個別の教育支援計画 の作成 (7) 普通学級での取組 (8)TT アシスタントティーチャー 少人数指導の取組 (9) 特別支援教室での支援 (10) 取組の評価 改善 (11) 保護者の理解と協力 (12) 個人情報の保護と活用 6 実践例 28 (1) ケース会議 ( 事例検討 ) (2) 普通学級での取組 (3) アシスタントティーチャーの取組 (4) 特別支援教室での支援 7 特別支援教育を支えるもの 41 (1) 支援チームの活用 (2) 関係機関との連携 (3) 特別支援教育コーディネーター連絡協議会 (4) 通級指導教室
8 モデル校による実践事例 48 (1) 関係機関との連携 教職員の意識の変化 (2) 個から学校全体へ (3) 学校全体で取り組む支援体制 (4) 複数の眼で子どもを見守る (5) できるところから始める (6) 支援の広がり (7) 関係機関との連携 具体的なやり取り (8) 困り感に寄り添う (9) 個別支援学級を基点として (10) 学校の資源の活用 9 書式と記入例 60 (1) 支援のための実態把握確認シート (2) 気づきの記録 (3) 家庭生活表 (4) アセスメントシート (5) 個別教育計画 (6) 連携支援シート (7) 保護者への通知 (8)LD ADHD 高機能自閉症等の特性と支援 10 参考資料 90 (1) 特別支援教育の推進について ( 文部科学省通知 ) (2) 学校教育法等の一部を改正する法律の概要 (3) 学校教育法等の一部を改正する法律の概要 (4) 小 中学校における特別支援教育の推進 ( 中教審答申 ) (5) 発達障害のある児童生徒等への支援について ( 文部科学省通知 ) (6) 発達障害者支援法概要 (7) 主な発達障害の定義について (8) 今後の特別支援教育の在り方について ( 最終報告 ) のポイント 神奈川県内の主な相談機関
1 特殊教育から特別支援教育への転換 ~ 障害児 者施策を巡る国の動向 ~ 近年の障害の重度化 重複化 さらには障害者の自立や社会参加の意欲の高まりから 障害児 者施策の一層の推進に向けた関係法令の整備がここ数年一段と進んでいます 以下に関係法令等の概要を示します (1) 障害者基本法 ( 平成 16 年 6 月一部改正 ) 障害者に対して障害を理由として差別その他の権利利益を侵害してはならない ことや 障害のある児童生徒と障害のない児童生徒との交流及び共同学習の積極的推進による相互理解の促進に努めること が新たに規定される (2) 障害者基本計画 ( 平成 14 年 12 月閣議決定 ) 障害のある子ども一人ひとりのニーズに応じてきめ細かな支援を行うために乳幼児期から学校卒業後まで一貫して計画的に教育や療育を行うとともに 学習障害 注意欠陥 / 多動性障害 自閉症などについて教育的支援を行うなど 教育 療育に特別のニーズのある子どもについて適切に対応すること が基本方針として盛り込まれる (3) 発達障害者支援法 ( 平成 17 年 4 月 1 日施行 ) 発達障害者には 症状の発現後できるだけ早期に発達支援を行うことが特に重要であることにかんがみ 発達障害を早期に発見し 発達支援を行うことに関する国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに 学校教育における発達障害者への支援 発達障害者の就労の支援 発達障害者支援センターの指定等について定めることにより 発達障害者の自立及び社会参加に資するようその生活全般にわたる支援を図り もってその福祉の増進に寄与することを目的とする 発達障害 とは 自閉症 アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害 学習障害 注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもののうち 言語の障害 協調運動の障害 心理的発達の障害 行動及び情緒の障害 をいう これらには 従来から特殊教育の対象となっている障害が含まれるほか 通常の学級に在籍する児童生徒が有するLD AD HD 高機能自閉症等も含まれている 1
(4) 発達障害のある児童生徒等への支援について ( 文部科学省通知 )( 平成 17 年 4 月 1 日 ) 平成 19 年度を目途に全ての小学校等の通常の学級に在籍するLD 等を含む障害のある児童生徒への教育的支援のための支援体制の整備についての通知 校長のリーダシップの下 全校的な支援体制を確立するため LD 等の実態把握や支援方策の検討を行う校内委員会を設置するとともに 特別支援教育コーディネーターを指名し これらを校務分掌に明確に位置づけること 小学校等においては 必要に応じ 児童生徒一人ひとりのニーズに応じた 個別の指導計画 及び関係機関の連携による乳幼児期から学校卒業後までの一貫した支援 (5) のための教育的支援の目標や内容を盛り込んだ 個別の教育支援計画 の作成を進中央教育審議会答申 ( 平成 17 年 4 月 1 日 ) めることが示される (5) 特別支援教育を推進するための制度の在り方について 中央教育審議会答申 ( 平成 17 年 12 月 8 21 世紀の特殊教育の在り方について ( 最終報告 ) ( 平成 13 年 1 月 ) 今後の特日 ) 別支援教育の在り方について ( 最終報告 ) ( 平成 15 年 3 月 ) をふまえ 平成 17 年 1 2 月 特別支援教育を推進するための制度の在り方について ( 答申 ) が中央教育審議会より示される 特別支援教育の概念と基本的な考え方 特別支援教育 とは 障害のある幼児児童生徒の自立や社会参加に向けた主体的な取組を支援するという視点に立ち 幼児児童生徒一人一人の教育的ニーズを把握し その持てる力を高め 生活や学習上の困難を改善又は克服するため 適切な指導及び必要な支援を行うものである 盲 聾 養護学校制度の見直しについて 幼児児童生徒の障害の重度 重複化に対応し 一人一人の教育的ニーズに応じて適切な指導及び必要な支援を行うことができるよう 盲 聾 養護学校を 障害種別を超えた学校制度 ( 特別支援学校( 仮称 ) ) に転換 特別支援学校( 仮称 ) の機能として 小 中学校等に対する支援を行う地域の特別支援教育のセンターとしての機能を明確に位置付ける 小 中学校における制度的見直しについて 通級による指導の指導時間数及び対象となる障害種を弾力化し LD ADHD を新たに対象とする 特殊学級と通常の学級における交流及び共同学習を促進するとともに 特殊学級担当教員の活用による LD ADHD 等の児童生徒への支援を行うなど 特殊学級の弾力的な運用を進める 2
特別支援教室 ( 仮称 ) の構想については 研究開発学校やモデル校などを活用し 特殊学級が有する機能の維持 教職員配置との関連や教員の専門性の向上等の課題に留意しつつ その法令上の位置づけの明確化等について検討する ( 注 ) 特別支援教室 ( 仮称 ) とは LD ADHD 高機能自閉症等も含め障害のある児童生徒が通常の学級に在籍した上で 一人一人の障害に応じた特別な指導を必要な時間のみ特別の場で行う形態 教員免許制度の見直しについて 盲 聾 養護学校の 特別支援学校 ( 仮称 ) への転換に伴い 学校の種別ごとに設けられている教員免許状を 障害の種類に対応した専門性を確保しつつ L D ADHD 高機能自閉症等を含めた総合的な専門性を担保する 特別支援学校教員免許状 ( 仮称 ) に転換 (6) 学校教育法施行規則の一部改正 ( 平成 18 年 3 月 ) 通級による指導の対象にLD ADHDが新たに加わる さらに指導の弾力化が図れるように指導時間の一部が改正される (7) 特別支援教育推進のための学校教育法等の一部改正 ( 平成 19 年 4 月施行 ) 平成 18 年 6 月 学校教育法等の一部改正が行われ 小 中学校等においては LD ADHD 等を含め 障害のある児童生徒に対して適切な教育を行うこと が新たに規定された 従来の盲 ろう 養護学校制度をより柔軟な制度とし 効果的な配置が可能となるよう 障害種別を超えた学校制度である特別支援学校制度を創設する (8) 特別支援教育の推進について ( 文部科学省通知 )( 平成 19 年 4 月 1 日 ) 特別支援教育が法的に位置付けられた改正学校教育法が施行されるに当たり 幼稚園 小学校 中学校 高等学校 中等教育学校及び特別支援学校において行う特別支援教育について基本的な考え方 留意事項等を示すもの 特別支援教育の理念 校長の責務 特別支援教育を行うための体制の整備及び必要な取組 特別支援学校の取組 教育委員会等における支援 保護者からの相談への対応や早期からの連絡 教育活動等を行う際の留意事項等が示されている 特別支援教育を行うための体制の整備及び必要な取組として 校内委員会の設置 実態把握 特別支援教育コーディネーターの指名 関係機関との連携を図った 個別の教育支援計画 の策定と活用等が示される 3
2 本市の特別支援教育の基本的な考え方 (1) 小 中学校における特別支援教育の現状と課題 本市では 平成 14 年より専門家による支援チームを学校に派遣し 指導助言等を通して学校支援を行ってきています 平成 15 年 9 月に国の調査と同様の手法で行った本市の実態調査では 小 中学校の普通学級に在籍するLD ADHD 高機能自閉症等の児童生徒が約 6.5% と把握されました こうした児童生徒に対する適切な指導や支援のため 平成 16 年度中に 小 中学校 盲 ろう 養護学校全校において 校内委員会を設置するとともに 特別支援教育コーディネーターを指名し 養成研修を実施してきました 児童生徒の実態の把握はほとんどの学校で行われていますが 特別な教育的支援が必要と考えられる児童生徒については 判断 や 観点 等にバラツキが見られ 学校間に差があります 普通学級に在籍するLD 等発達障害のある児童生徒の個別教育計画の作成は約 3 割にとどまる等 作成を推進していく必要があります (2) 特別支援教育指導体制モデル校事業の成果を生かした取組を 平成 16 年 8 月 小 中 盲 ろう 養護学校全校に 個別教育計画作成の手引き ( 改訂版 ) とともに 校内支援体制ハンドブック を作成 配布しました 平成 16 年度 特別支援教育指導体制モデル校事業を開始し ( 平成 16~18 年度 : 27 校 ) 特別支援教育指導体制の構築と校内での指導の場として中教審答申等で構想する 特別支援教室 の設置 運営に関する実践的取組を行い その主な成果や課題を把握しています 平成 18 年度より 文部科学省の 教育システム開発プログラム における研究に本市も参画し 特別支援教室 等 実践的な研究を行っています (5 校 ) 特別支援教育指導体制モデル校事業の試行を踏まえ 現行の制度の中で校内支援体制の工夫や 個別支援学級の弾力的な運用により 平成 19 年度より全校での特別支援教育指導体制の構築を目指しています (3) 横浜教育ビジョン推進プログラム における 横浜から創る新たな特別支援教育の推進 平成 19 年 1 月に策定した 横浜教育ビジョン推進プログラムでは 横浜から創る新たな特別支援教育の推進 を重点施策 8として位置づけています 重点政策 8において 最重点事業に 特別な教育的支援の必要な児童生徒への指導体制整備 通級指導教室 5か年計画の策定と推進 を位置づけています 特別支援教室 の設置については 平成 19 年度より3ヶ年間で全校設置を目指すとともに 通級指導教室の方面別適正配置を推進すること また 特別支援教育推進体制を整備するとともに 通級指導教室による周辺小 中学校への支援のためのセンター的機能の強化を推進していくこととしています 4
横浜市特別支援教育推進会議の設置による審議3 ガイドライン策定の趣旨 本市では 平成 16 年に 横浜市障害児教育プラン を策定し 特別支援教育に積極的に取組んできました 平成 19 年度からの小 中学校の特別支援教育全校展開に向けて 平成 16 年度より取組を行った 特別支援教育指導体制モデル校事業の実践を踏まえ 各学校の特別支援教育を一層充実させるために 横浜版ガイドライン を策定します H16 横浜市障害児教育プラン 校内支援体制ハンドブック個別教育計画作成の手引き H18 H19 特別支援教育コーディネーターの指名 校内委員会の設置 特別支援教育指導体制モデル校事業 ガイドラインの策定 特別支援教育の全校展開 個別教育計画 個別の教育支援計画の作成 特別支援教室の設置 (3 年間で全校設置へ ) 特別支援教育の推進 本ガイドラインの活用により 各学校で教職員一人ひとりが特別支援教育についての理解を深め 一人ひとりの子どもの姿を見取り よりていねいに支援することができるようになるとともに すべての学校の校内支援体制が充実し 発達障害のある子どもを含め 教育的支援を必要とするすべての児童生徒への支援が 保護者の理解と協力を得ながら 一層充実していくことが望まれます 5
4 ガイドラインの使い方 本ガイドラインでは 特別な教育的支援の必要な児童生徒について 気づきから支援 までの一連の流れを示すとともに 特別支援教育指導体制モデル校の実践事例等を紹介し それぞれの学校で活用しやすいように工夫しています 5 気づきから支援まで気づきから支援までの主なポイント 留意点 特別支援教育コーディネーター 校内委員会の動き モデル校の取組例が書かれています 気づきから支援の流れは 全教職員が理解しておく必要があります (P7~27) 6 実践例ケース会議の持ち方 実際の支援 ( 普通教室 TT 等 特別支援教室 ) について モデル校の実践を中心に紹介しています (P28~40) (1) 気づきから支援までの流れ 主なポイント 留意事項校内委員会特別支援教育 コーディネーター 実践例 P 7 特別支援教育を支えるもの支援チーム 学校を支える関係機関 特別支援教育コーディネーター連絡協議会 通級指導教室を紹介しています (P41~46) 8 モデル校の実践事例特別支援教育指導体制モデル校の取組から10 校の取組を紹介します (P48~58) 9 書式と記入例特別支援教育指導体制モデル校で実際の取組例や特別支援教育の取組で使われる各種シートと記入例 LD 等の特性と支援等を紹介します 書式等はそのままコピーして使えます (P60~88) 10 参考資料文部科学省の通知等を紹介しています (P90~109) 6