60 第 3 章 空き家 空き地への法的対応 解 説 1 空家対策特別措置法に基づく処置空家対策特別措置法では 特定空家等 に該当する建物については 市町村長が建物所有者に対して 建物の修繕や除却を命じることができるとしています ここにいう 特定空家等 とは 適切な管理が行われていない空家等のうち特

Similar documents
●空家等対策の推進に関する特別措置法案


<4D F736F F D FF095B6817A BF389C CE8DF482CC C98AD682B782E993C195CA915B A594D48D8692C789C D97528DED8F9C816A>

た損害賠償金 2 0 万円及びこれに対する遅延損害金 6 3 万 9 円の合計 3 3 万 9 6 円 ( 以下 本件損害賠償金 J という ) を支払 った エなお, 明和地所は, 平成 2 0 年 5 月 1 6 日, 国立市に対し, 本件損害賠償 金と同額の 3 3 万 9 6 円の寄附 (

練馬区空き家等対策に関する基本的な方針

なお, 基本事件被告に対し, 訴状や上記移送決定の送達はされていない 2 関係法令の定め (1) 道路法ア道路管理者は, 他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については, その必要を生じた限度において, 他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一

市町村合併の推進状況について

坂戸市条例第 号

<4D F736F F D2090AC89CA95A887458F8A974C8ED282AA95A CC8FEA8D8782CC97AA8EAE91E38EB78D732E646F6378>

( 別式第 7 ) をもって 当該所有者等に対し代執行の内容を通知するものとする 5 町長は 法第 14 条第 9 項に基づき行政代執行法による特定空家等の処分を行う場合は その代執行の現場に責任者を派遣し 当該責任者に対し行政代執行法第 4 条に基づく証票として 執行責任者証 ( 別式第 8 )

空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく立入検査の実施について ( 通知 ) 貴の所有 ( 管理 ) する下物件 ( 建築物又はそれに付属する工作物及びその敷地を含む 以下同じ ) について 空家等対策の推進に関する特別措置法 ( 平成 26 年法律第 12 7 号 以下 法 という ) 第 9

1 A 所有の土地について A が B に B が C に売り渡し A から B へ B から C へそれぞれ所有権移転登記がなされた C が移転登記を受ける際に AB 間の売買契約が B の詐欺に基づくものであることを知らなかった場合で 当該登記の後に A により AB 間の売買契約が取り消された

〔問 1〕 抵当権に関する次の記述のうち,民法の規定によれば,誤っているものはどれか

平成11年6月8日

附則 この規則は 平成 29 年 3 月 1 日から施行する

法第 20 条は, 有期契約労働者の労働条件が期間の定めがあることにより無期契約労働者の労働条件と相違する場合, その相違は, 職務の内容 ( 労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度をいう 以下同じ ), 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して, 有期契約労働者にとって不合

最高裁○○第000100号

民法 ( 債権関係 ) の改正における経過措置に関して 現段階で検討中の基本的な方針 及び経過措置案の骨子は 概ね以下のとおりである ( 定型約款に関するものを除く ) 第 1 民法総則 ( 時効を除く ) の規定の改正に関する経過措置 民法総則 ( 時効を除く ) における改正後の規定 ( 部会資

自治基本条例素案のたたき台大和市自治基本条例をつくる会

平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

〔問 1〕 A所有の土地が,AからB,BからCへと売り渡され,移転登記も完了している

北上市空家等対策規則 ( 趣旨 ) 第 1 条この規則は 北上市空家等対策条例 ( 平成 28 年北上市条例第 17 号 以下 条例 という ) の実施に関し必要な事項を定めるものとする ( 守秘義務 ) 第 2 条条例第 7 条に定める空家等対策審議会の委員は 職務上知り得た秘密を他に漏らしてはな

( 事案の全体像は複数当事者による複数事件で ついての慰謝料 30 万円 あり非常に複雑であるため 仮差押えに関する部 3 本件損害賠償請求訴訟の弁護士報酬 分を抜粋した なお 仮差押えの被保全債権の額 70 万円 は 1 億円程度と思われるが 担保の額は不明であ を認容した る ) なお 仮差押え

様式 1 P3-(1) 空家等相談受付台帳 : 裏面 不動産登簿又は固定資産税台帳による所有者等の確認 所在地番地目地積 土 東伊豆町 東伊豆町 東伊豆町 m2 m2 m2 地 所有権 そ の 他 の 権 利 無 有 ( 有の場合 権利の内容を下欄に入 ) 家屋番号 1 種類 2 構造 床面積 原因

その他の法令等 消防法京都市火災予防条例道路法廃棄物の処理及び清掃に関する法律 対象 状況屋外における火災予防上危険なもの ( 火災の危険が迫っている場合のみに限定 ) 空き家, 空き地で火災予防上危険なもの認定区域内に生じている道路の交通に支障を及ぼすおそれのある行為自己所有地でごみ ( 一般廃棄

平成 24 年 7 月 26 日 区長会議 老朽家屋問題検討部会 経過とりまとめ報告書 ~ たたき台 ~ 1. 検討部会等開催状況 (1) 平成 24 年 3 月 16 日幹事区 ( 西成区 生野区 東淀川区 ) 打合せ各区の現状および課題を共有し 関係局を交えての検討会のあり方について議論 (2)

平成 30 年 10 月 26 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 平成 30 年 ( ワ ) 第 号発信者情報開示請求事件 口頭弁論終結日平成 30 年 9 月 28 日 判 決 5 原告 X 同訴訟代理人弁護士 上 岡 弘 明 被 告 G M O ペパボ株式会社 同訴訟代理人弁護士

2006 年度 民事執行 保全法講義 第 4 回 関西大学法学部教授栗田隆

第 1 民法第 536 条第 1 項の削除の是非民法第 536 条第 1 項については 同項を削除するという案が示されているが ( 中間試案第 12 1) 同項を維持すべきであるという考え方もある ( 中間試案第 12 1 の ( 注 ) 参照 ) 同項の削除の是非について どのように考えるか 中間

仮訳 / JICA 2012 [ 国章 ] インドネシア共和国最高裁判所 仮処分決定に関する インドネシア共和国最高裁判所規則 2012 年第 5 号 インドネシア共和国最高裁判所は a. 意匠に関する法律 2000 年第 31 号第 49 条から第 52 条 特許に関する法律 2001 年第 14

する 2 行政代執行に係る行政代執行法 3 条 2 項の規定による通知は 代執行令書 ( 式 8 ) により行うものとする 3 行政代執行に係る行政代執行法 4 条の証票の式は 執行責任者証 ( 式 9 ) のとおりとする 4 行政代執行に係る行政代執行法 5 条の規定による納付の命令は 代執行費用

平成  年 月 日判決言渡し 同日判決原本領収 裁判所書記官

⑶ 特定空家等法第 2 条第 2 項に規定する特定空家等をいう ⑷ 居住建築物等区内に存する居住の用に供されている建築物その他の建築物またはこれに付属する工作物およびその敷地 ( 立木その他の土地に定着する物を含む ) であって 空家等に該当しないものをいう ただし 国または地方公共団体が所有し ま

目次 Ⅰ 特定空家等 ( 老朽危険空き家 ) の認定基準について 1 Ⅱ 老朽危険空家等に対する対応 5 Ⅲ その他報告事項について 6 ( 添付資料 ) 1 特定空家等に対する措置 に関する適切な実施を図るために必要な指針 ( ガイドライン ) 抜粋 8 2 ガイドライン [ 別紙 1]~[ 別紙

に含まれるノウハウ コンセプト アイディアその他の知的財産権は すべて乙に帰属するに同意する 2 乙は 本契約第 5 条の秘密保持契約および第 6 条の競業避止義務に違反しない限度で 本件成果物 自他およびこれに含まれるノウハウ コンセプトまたはアイディア等を 甲以外の第三者に対する本件業務と同一ま

〔問 1〕 Aは自己所有の建物をBに賃貸した

☆ソフトウェア特許判例紹介☆ -第31号-

点で 本規約の内容とおりに成立するものとします 3. 当社は OCN ID( メールアドレス ) でログインする機能 の利用申込みがあった場合でも 任意の判断により OCN ID( メールアドレス ) でログインする機能 の利用をお断りする場合があります この場合 申込者と当社の間に利用契約は成立し

事実 ) ⑴ 当事者原告は, 昭和 9 年 4 月から昭和 63 年 6 月までの間, 被告に雇用されていた ⑵ 本件特許 被告は, 次の内容により特定される本件特許の出願人であり, 特許権者であった ( 甲 1ないし4, 弁論の全趣旨 ) 特許番号特許第 号登録日平成 11 年 1

<4D F736F F D DC58F49817A936F95CA8E738BF389C CE8DF482CC C98AD682B782E993C195CA915B E7B8D738DD791A581698FF095B6817B976C8EAE816A>

また 立入調査は 市職員又は市長が委任した者が行い 調査者については身分等を示す証明書を携帯し 関係者からの請求があった場合は提示しなければならないため 立入調査員証 ( 様式第 2 号 ) により身分を証明するものとします 参考 < 基本指針 > 一 7(p.12~13) <ガイドライン> 第 3

(1) 家賃債務保証業者に対する損害額の調査結果 調査の概要 調査対象 国土交通省の家賃債務保証業者登録制度に登録している家賃債務保証業者 13 社 対象期間 各事業者が保有する平成 28 年又は平成 29 年のデータのうち直近で集計可能な過去 1 年分又は直近の1,000 件ただし 事業者によって

5 条条例 9 条 2 項の規定による勧告は 空き家等改善勧告書 ( 式 4 ) により行うものとする ( 命令 ) 6 条条例 1 0 条 1 項の規定による命令は 空き家等改善措置命令書 ( 式 5 ) により行うものとする ( 公表の方法 ) 7 条条例 1 1 条 1 項の規定による公表は

空家

差押債権目録索引

( 措置完了報告 ) 第 13 条法第 14 条第 1 項から第 3 項までの規定による助言等及び行政代執行法第 3 条第 1 項の規定による戒告に対し措置を行った場合は 措置完了報告書 ( 様式第 14 ) により報告するものとする ( 標識 ) 第 14 条法第 14 条第 11 項の規定による

名張市地域振興券交付事業特別会計条例

次のように補正するほかは, 原判決の事実及び理由中の第 2に記載のとおりであるから, これを引用する 1 原判決 3 頁 20 行目の次に行を改めて次のように加える 原審は, 控訴人の請求をいずれも理由がないとして棄却した これに対し, 控訴人が控訴をした 2 原判決 11 頁 5 行目から6 行目

上陸不許可処分取消し請求事件 平成21年7月24日 事件番号:平成21(行ウ)123 東京地方裁判所 民事第38部

<4D F736F F D2081A181798E9197BF82572D32817A92B7956C8E738BF389C C98AD682B782E98FF097E18E7B8D738B4B91A C4816A89FC2E646F63>

実務家の条文の読み方=六法の使い方の基礎

ものであった また, 本件規則には, 貸付けの要件として, 当該資金の借入れにつき漁業協同組合の理事会において議決されていることが定められていた (3) 東洋町公告式条例 ( 昭和 34 年東洋町条例第 1 号 )3 条,2 条 2 項には, 規則の公布は, 同条例の定める7か所の掲示場に掲示して行

<4D F736F F D2092B7956C8E738BF389C C98AD682B782E98FF097E18E7B8D738B4B91A B95B6816A2E646F63>

山陽小野田市空き家等の適正管理に関する条例 ( 素案 ) ( 目的 ) 第 1 条この条例は 空き家等が管理不全な状態となることを防止し 又は管理不全な状態にある空き家等を適正な管理状態に導くことにより 生活環境の保 全及び安全で安心なまちづくりの推進に寄与することを目的とする この条は この条例の

公益社団法人大分県不動産鑑定士協会では 不動産鑑定評価制度に関する社会一般の理解と信頼性をより一層高め 県民からの不動産に関するあらゆる相談に適切に対処するため 毎年 2 回 4 月 ( 不動産鑑定評価の日 ) と 10 月 ( 土地月間 ) に 県内の各市役所などで 不動産に関する無料相談会を行っ

保険金支払事例

情報の開示を求める事案である 1 前提となる事実 ( 当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実 ) 当事者 ア原告は, 国内及び海外向けのモバイルゲームサービスの提供等を業とす る株式会社である ( 甲 1の2) イ被告は, 電気通信事業を営む株式会社である

2 当事者の主張 (1) 申立人の主張の要旨 申立人は 請求を基礎づける理由として 以下のとおり主張した 1 処分の根拠等申立人は次のとおりお願い書ないし提案書を提出し 又は口頭での告発を行った ア.2018 年 3 月 23 日に被申立人資格審査担当副会長及び資格審査委員長あてに 会長の経歴詐称等

2

Security Z 利用規約 第 1 条 ( 規約の適用 ) 東京ベイネットワーク株式会社 ( 以下 当社 といいます ) は この Security Z 利用規約 ( 以下 本規約 といいます ) に基づき Security Z サービス ( 以下 本サービス といいます ) を提供します 第

第 8 条を削り, 第 9 条を第 8 条とし, 第 10 条から第 12 条までを 1 条ずつ繰り上げる 別記第 1 号様式を次のように改める

PowerPoint プレゼンテーション

借地権及び法定地上権の評価 ( 競売編 ) 出典 : 株式会社判例タイムズ出版 別冊判例タイムズ第 30 号 借地権の評価 第 1 意義 借地権とは 建物所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう ( 借地法 1 条 借地 借家法 2 条 1 号 ) 第 2 評価方法 借地権の評価は 建付地価格に

<4D F736F F D2094DB944690BF8B818C8892E BC96BC8F88979D8DCF82DD816A2E646F63>

Unit1 権利能力等, 制限行為能力者 ( 未成年 ) 1 未成年者が婚姻をしたときは, その未成年者は, 婚姻後にした法律行為を未成年であることを理由として取り消すことはできない (H エ ) 2 未成年者が法定代理人の同意を得ないで贈与を受けた場合において, その贈与契約が負担付の

( その他 ) 第 11 条この規則に定めるもののほか, 必要な事項は, 市長が別に定める 附則この規則は, 平成 30 年 4 月 1 日から施行する

第 2 条ガイアは 関係法令等及びこれに基づく告示 命令によるほか業務要領に従い 公正 中立の立場で厳正かつ適正に 適合審査業務を行わなければならない 2 ガイアは 引受承諾書に定められた期日までに住宅性能証明書又は増改築等工事証明書 ( 以下 証明書等 という ) を交付し 又は証明書等を交付でき

日税研メールマガジン vol.111 ( 平成 28 年 6 月 15 日発行 ) 公益財団法人日本税務研究センター Article 取締役に対する報酬の追認株主総会決議の効力日本大学法学部教授大久保拓也 一中小会社における取締役の報酬規制の不遵守とその対策取締役の報酬は ( 指名委員会等設置会社以

目 次 第 1 章総則頁第 1 条目的 1 第 2 条定義 2 第 3 条所有者等の管理義務 7 第 4 条市長, 市民及び事業者の責務 8 第 2 章市民等からの情報提供及び調査の実施等第 5 条立入調査等 9 第 6 条類似空家等又は空地等の所有者等に関する情報の利用等 11 第 7 条データベ

最高裁○○第000100号

11総法不審第120号

務の返済が不可能になった状態 と定義されている 商事裁判所法では以下の 3 種類の破産が規定されている 真実の破産 (real bankruptcy): 一般的に健全な経営をしており 正式な帳簿を作成し 浪費をしていなかったが 資産に明白な損失が生じた場合 怠慢による破産 (bankruptcy b

Webエムアイカード会員規約

処分済み

併等の前後を通じて 上告人ら という 同様に, 上告人 X1 銀行についても, 合併等の前後を通じて 上告人 X1 銀行 という ) との間で, 上告人らを債券の管理会社として, また, 本件第 5 回債券から本件第 7 回債券までにつき上告人 X1 銀行との間で, 同上告人を債券の管理会社として,

5-1から3許可・不許可

目次 1 資料 1 略式代執行について 1 2 資料 2 空き家データベースについて 3 3 資料 3 命令に係る措置の履行が不十分な状態の 特定空家等への対応について 4 4 資料 4 その他報告事項 7 ( 別添資料 ) 1 空家等対策の推進に関する特別措置法 2 姫路市老朽危険空家等の対策に関

2 前項の規定による通知を行った場合において 市長は 当該特定空家等の所有者等が除却 修繕 立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置を講じたことにより特定空家等の状態が改善され 特定空家等でないと認めるときは 遅滞なくその旨を 特定空家等状態改善通知書 ( 様式第 7 号 ) に

平成 30 年度新潟県自殺対策強化月間テレビ自殺予防 CM 放送業務委託契約書 ( 案 ) 新潟県 ( 以下 甲 という ) と ( 以下 乙 という ) とは 平成 30 年度新潟県自殺対 策強化月間テレビ自殺予防 CM 放送業務について 次の条項により委託契約を締結する ( 目的 ) 第 1 条

11総法不審第120号

第 2 節 監督処分等 ( 監督処分等 ) 第 81 条 国土交通大臣 都道府県知事又は市長は 次の各号のいずれかに該当する者に対して 都市計画上必要な限度において このの規定によってした許可 認可若しくは承認を取り消し 変更し その効力を停止し その条件を変更し 若しくは新たに条件を付し 又は工事

第 4 審理員意見書の結論 本件各審査請求は理由がないから 行政不服審査法 4 5 条 2 項に より いずれも棄却すべきである 第 5 調査審議の経過審査会は 本件諮問について 以下のように審議した 年月日審議経過 平成 30 年 3 月 6 日 諮問 平成 30 年 4 月 26 日審議 ( 第

ある 2 請求の趣旨 被告は, 原告に対し, 金 1800 万円及びこれに対する平成 18 年 9 月 1 日から 支払済みまで年 5 分の割合による金員を支払え 3 請求原因 訴訟費用は被告の負担とする 仮執行の宣言 原被告間の売買契約の成立 原告の被告に対する所有権移転登記 引渡し債務について弁

平成 29 年 2 月 20 日判決言渡同日原本交付裁判所書記官 平成 28 年 ( ワ ) 第 号損害賠償請求事件 口頭弁論終結日平成 29 年 2 月 7 日 判 決 原 告 マイクロソフトコーポレーション 同訴訟代理人弁護士 村 本 武 志 同 櫛 田 博 之 被 告 P1 主 文

<4D F736F F D F93FC82E D835382CC82DD816A2E646F63>

ア建築物の部材等が落下し 飛散するおそれのある状態イ建築物の老朽化又は台風等の自然災害により 倒壊又は損傷するおそれのある状態ウ建築物の外壁 窓等が剥落し 建築物の外部から内部が見通せる状態エ竹木その他の土地の定着物が 道路との境界線を越え通行の妨げになっている状態オ物が大量に堆積されている状態カね

( 定義 ) 第 2 条この条例において 次の各号に掲げる用語の意義は それぞれ当該各号に定めるところによる (1) 空き家等本市の区域内に所在する建物その他の工作物で 正当な権限を有する者の用に現に継続して供されていないもの及びその敷地並びに空き地 ( 原則として農林業用地を除く 以下同じ ) を

< F2D F090E0967B95B C52E6A7464>

(Microsoft Word - \201iAL\201jAG-Link\227\230\227p\213K\222\350.doc)

別式第 1 号 ( 第 2 条関係 ) ( 表面 ) 第 号 立入調査員証 写 真 所 属 職 氏名生 年 月 日 上の者は 米子市空き家等の適正管理に関する条例 ( 平成 24 年米子市条例第 28 号 ) 第 4 条第 2 項の規定に基づき立入調査を行う職権を有する者であることを証する ( 裏面

( 空家等対策計画 ) 第 6 条町は 空家等に関する対策を総合的かつ計画的に実施するため 法第 6 条第 1 項に規定する空家等対策計画 ( 以下 空家等対策計画 という ) を定めなければならない 2 法で定めるもののほか 空家等対策計画の策定等に関し必要な事項は 町長が別に定める ( 協議会

Microsoft Word - シャトルロック利用規約+個人情報の取扱いについてver4-1.docx

<4D F736F F D20819D96D491968E738BF382AB89C CC934B90B38AC7979D82C98AD682B782E98FF097E18E7B8D738B4B91A52E646F63>

求めるなどしている事案である 2 原審の確定した事実関係の概要等は, 次のとおりである (1) 上告人は, 不動産賃貸業等を目的とする株式会社であり, 被上告会社は, 総合コンサルティング業等を目的とする会社である 被上告人 Y 3 は, 平成 19 年当時, パソコンの解体業務の受託等を目的とする

Microsoft Word - 文書 1

丙は 平成 12 年 7 月 27 日に死亡し 同人の相続が開始した ( 以下 この相続を 本件相続 という ) 本件相続に係る共同相続人は 原告ら及び丁の3 名である (3) 相続税の申告原告らは 法定の申告期限内に 武蔵府中税務署長に対し 相続税法 ( 平成 15 年法律第 8 号による改正前の

Microsoft Word 資料1 プロダクト・バイ・プロセスクレームに関する審査基準の改訂についてv16

(1) 法第 14 条第 3 項の規定に基づく 措置を命じられている場合 (2) 不動産販売 不動産貸付又は駐車場貸付等を業とするものが当該業のために行う除却工事である場合 (3) 国 地方公共団体その他の団体からこの要綱に基づく助成と同種の助成を受けている場合 ( 助成対象者 ) 第 5 条この要

1 茨城県認可外保育施設指導監督実施要項(H29.3)

判例研究 情報システム障害 事故における IT 事業者の責任東京地判平 判時 2221 号 71 頁 弁護士法人内田 鮫島法律事務所伊藤雅浩 I. 事案の概要等原告は, インテリア商材の卸小売及び通信販売等を行う株式会社であり, 被告は, 情報処理システムの保守受託等を行う株式会社で

Transcription:

第 3 章空き家 空き地への法的対応 59 第 1 損害発生前の法的手段 ( 妨害排除 ) Q17 隣の空き家が傾いてきた場合の対応 Q 隣の空き家が年々私の敷地に傾いてきています 今年はとうとう私の家に接触するぐらい傾いてきまし た このままでは私の敷地に侵入してきそうですが 何とか止めてもらう方法はありませんか A 空家対策特別措置法は 適切な管理が行われていない空き家のうち ある一定の状態になったものを 特定空家等 と し これに該当すれば市町村長が 建物所有者に対して建物の除却 修繕を命じることができるとしています したがって 隣の建物が特定空家等に該当すれば 市町村長は除却等の必要な措置をとることができます また 隣の家が傾いて敷地に侵入してきそうな場合であれば あなたの家が建っている土地の所有権侵害が問題になります したがって その可能性が高い場合には 侵害されることを予防するために土地所有権に基づく妨害予防請求権を根拠として傾斜防止措置を求めることになります 相手方が任意に措置をしない場合には 補修を求める裁判を起こして相手方に防止措置を命じてもらいます なお 相手方がそれでも実行しない場合には 判決に基づいて代替執行をすることができます

60 第 3 章 空き家 空き地への法的対応 解 説 1 空家対策特別措置法に基づく処置空家対策特別措置法では 特定空家等 に該当する建物については 市町村長が建物所有者に対して 建物の修繕や除却を命じることができるとしています ここにいう 特定空家等 とは 適切な管理が行われていない空家等のうち特定の状態 例えば そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態 そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態 その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態 にあるものなどを指します ( 空家 22) そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態 にあるかどうかの判断の参考として 国土交通省が 特定空家等に対する措置 に関する適切な実施を図るために必要な指針 ( ガイドライン ) を作定しています ガイドラインによれば 判断基準の1つとして 著しい傾斜がある か否かが問題となり 著しい傾斜とは20 分の1 超の傾斜とされています したがって 隣の空き家の傾斜が20 分の1 超であれば特定空家等に該当する可能性があります この場合 あなたは市町村に情報を提供して 市町村の調査を求め特定空家等の認定を促します 市町村が特定空家等と判断すれば空き家所有者に助言 指導 勧告等を出すことができ これに所有者が応じれば問題は解決することになるでしょう

第 3 章空き家 空き地への法的対応 61 2 所有権に基づく物上請求権仮に特定空家等に該当しない場合には 市町村は手が出せませんので あなたと空き家所有者との個人的な問題となります 民法に明確な条文はありませんが 物の所有権の効力として これに対する侵害行為が生じた場合には この侵害を排除するために 物の所有者は侵害者に対して侵害を止めさせることができると考えられています これを物上請求権といいます この中には 1 返還請求権 ( 相手方に物の返還を求める ) 2 妨害排除請求権 ( 相手方に物に対して現に行われている侵害行為をやめさせる ) 3 妨害予防請求権 ( 相手方がこれから行おうとする侵害行為を事前に阻止する ) の3つがあるとされています 本件では 妨害予防請求が問題となります 3 妨害予防請求権の要件傾いている空き家をこのまま放置するとあなたの土地に侵入するわけですから その時点であなたの土地の所有権が侵害されることとなります このような場合に 将来の所有権侵害を阻止するために建物がこれ以上傾斜してこないよう相手方に請求し 傾斜防止のための措置を求めることが認められています これが妨害予防請求と呼ばれる権利です この権利は民法上の条文はありませんが 判例上は認められています ( 最判平 24 9 4( 平 22( ク )1198)) なお 妨害予防請求をするには 以前に現実に妨害されたという事実は必要ありませんが将来の妨害の可能性が大きい場合に認められますので 多少の傾斜では認められないものと思われます 4 相手方に対する訴訟 かなり傾いてきているにもかかわらず 相手方が何らの手段もとらず放置している場合には 相手方に補修の措置をとるよう裁判を提起

62 第 3 章 空き家 空き地への法的対応 しなければなりません そのためには 建物のどの部分にどのような工事をして欲しいのかを提訴の段階である程度特定しておく必要があります 5 代替執行 ( 民執 1711) 仮に相手方が裁判所の判決に従わない場合は 建物が倒壊する可能性が増大することになります そこであなたは 相手方が判決に従わない場合には 裁判所の許可を得て本来相手方がするべき措置を相手方に代わって行うことができます これが代替執行と呼ばれるものです なお 執行にかかった費用は 相手方が負担することとなります 6 仮処分裁判に長期間かかる場合 裁判中に建物が倒れてきては裁判の意味がなくなってしまいますから 裁判の結論が出る前でも倒壊防止の措置をしてもらう必要があります このような場合 暫定的措置として相手方に倒壊防止措置を施すよう裁判所に求める方法があります これが仮処分と呼ばれる方法です 仮処分申請は 申請書に裏付資料をつけて地方裁判所に提出することとなります 裁判所で仮処分決定が出れば建物所有者に対して予防措置をとるように命令されることになります この場合には あなたは裁判所に指定された保証金を裁判が確定するまでの間預けておくことになります なお 仮処分の申立ての趣旨は 以下のようなものとなると考えられます 債務者は この決定送達の日から5 日以内に 別紙物件目録記載の建物の東側壁面 ( 別紙添付図面中赤線で表示する部分 ) に 別紙工事目録記載のとおりの亜鉛鉄板工事をせよ

第 3 章空き家 空き地への法的対応 63 債務者が上記期間内に上記補修工事をしないときは 債権者は 〇〇地方裁判所の執行官に債務者の費用で上記工事をさせることができるとの裁判を求める 参考判例〇公有水面埋立法 2 条 1 項の免許を受けたものは 公有水面の埋立てを妨害しようとする者に対して 妨害予防請求権に基づいて 妨害禁止の保全命令を得ることができるとした事例 ( 最判平 24 9 4( 平 22( ク ) 1198))

第 7 章参考となる判例 257 事例 4 無施錠のまま放置された空き家における火災保険金請求の可否 ( 福島地会津若松支判平 8 3 26 判タ 918 241) ポイント 無施錠のまま放置されていた空き家が 何者かによって放火された場合 保険契約者に重大な過失があるとして 保険会社は火災保険金の支払を免責されるか 判決要旨 鍵が掛けられていない状態で長期間空き家となっていて 放火犯人が鍵の掛かっていない入り口から侵入したと認められるときは 火災の発生について保険契約者に重過失があると解すべきである そのため 保険会社には 本件火災に基づく保険金を支払う必要はない 事案の概要 1 X( 原告 ) は 平成 4 年 8 月 6 日 Y1 保険会社 ( 被告 ) との間で 本件建物につき 次の内容の住宅総合保険契約を締結した 期間平成 4 年 8 月 6 日 10 時から平成 5 年 8 月 6 日 16 時まで保険金額 3,500 万円 ( 内訳建物 2,500 万円 家財 1,000 万円 ) 2 Xは 平成 4 年 8 月 30 日 Y2 保険会社 ( 被告 ) との間で 本件建物につき 次の内容の住宅総合保険契約を 更新して締結した 期間平成 4 年 8 月 30 日午後 4 時から平成 5 年 8 月 30 日午後 4 時まで

258 第 7 章 参考となる判例 保険金額 2,000 万円 3 本件建物は 平成 4 年 11 月 11 日 何者かによる放火により焼失し た 4 そこで 保険金受取人である X が Y1 Y2 保険会社に対して 火 災保険金の支払を求めて提訴した 当事者の主張 原告 (X) の主張保険契約者には重過失はない 被告 (Y1 Y2 保険会社 ) の主張住宅総合保険普通約款には 保険契約者等の故意又は重過失によって生じた損害については 保険金を支払わない旨を定めている 本件建物は 平成 4 年 5 月頃 前所有者が退去してからは空き家であった また 本件建物は施錠されていなかった 保険契約者は 施錠をするなどして放火されないように厳重な注意をすべきであった ところが 保険契約者は無施錠のまま空き家としていて放火されたから 重過失がある したがって 保険会社には 本件火災に基づく保険金を支払う義務がない コメント 1 火災の発生経緯検証の結果によると 本件建物の2か所から出火したと認めるのが相当であり 2か所から出火していることから 本件火災は 何らか

第 7 章参考となる判例 259 の目的の下 本件建物を完全に焼失させようとの意図の下になされた放火と認めるのが相当であるとされました 2 重過失の判断本件建物は 平成 4 年 7 月以降 本件火災まで3か月以上 空き家のまま放置されていたと認められています 火災保険との関係では 鍵が掛けられていない状態で長期間空き家となっていて 放火犯人が鍵の掛かっていない入り口から侵入した場合には 火災の発生について保険契約者に重過失があると解すべきであるとされています そのため 保険会社は 重過失を理由として保険金を支払う必要はないと判断されました ここでいう重過失の意義については 故意に準じる程度の注意義務の欠如 ( ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態 ) をいうと解するものと 通常の意味での重過失 ( 注意義務の著しい懈怠 ) をいうと解するものとがあり 裁判例も分かれています 本判決は 重過失の意義について 通常の意味での重過失だと考えて 緩やかに解釈しています その上で 本件建物に侵入され放火される具体的な危険性があったかについて検討することなく 本件建物を無施錠の状態で長期間空き家としたことを重過失としているところに特徴があります アドバイス空き家と火災保険火災保険契約が締結されていても その建物が空き家として放置され その管理が杜撰であるとされる場合には そのことが火災発生との関係で重過失とされることがあります その場合 保険約款の規定から 火災保険金が支払われなくなります

260 第 7 章 参考となる判例 空き家における火災の場合は 出火原因として放火が一番考えられますが 空き家の管理が不十分だと火災保険が下りないことがありますので 注意が必要です 空家対策特別措置法における特定空家等に認定されていると 空き家の管理が不十分であることが公的に示されているのと同じですから 重過失による火災保険金不払となる可能性が非常に高まると考えられます 参考判例〇無施錠のままとなっていた空き家が放火された場合でも 保険契約者等に重過失があるとはいえないとされた事例 ( 東京地判平 18 2 8( 平 16 ( ワ )5663))