顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

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横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

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蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

案1 SIDMR

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報告は 523 人 (14. 5) で前週比 9 と減少した 例年同時期の定点あたり平均値 * (16. ) の約 9 割である 日南 (37. 3) 小林(26. 3) 保健所からの報告が多く 年齢別では 1 歳から 4 歳が全体 の約 4 割を占めた 発生状況 ( 宮崎県 ) 定

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1 月号は以下の情報を掲載しています 1. 茨城県感染症発生動向調査事業に基づく試験検査 検出状況 1) 全数把握疾患 2) 病原体定点依頼検査その他の検査 3) 集団 ( 施設や学校等 ) 事例 月別検出件数 1) 三類 四類 五類 ( 全数把握 ) 2) 五類 ( 定点 ) その他の検査 3)

第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

院内感染対策マニュアル

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別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 歳 歳以上 合計 ( 注 ) *

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第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

事務連絡 令和元年 6 月 21 日 ( 公社 ) 岡山県医師会 ( 一社 ) 岡山県病院協会 御中 岡山県保健福祉部健康推進課 手足口病に関する注意喚起について このことについて 厚生労働省健康局結核感染症課から別添のとおり事務連絡が ありましたので 御了知いただくとともに 貴会員への周知をお願い

定点報告疾患 ( 定点当たり報告数の上位 3 疾患の発生状況 ) (1) インフルエンザ 第 51 週のインフルエンザの報告数は 1025 人で, 前週より 633 人多く, 定点当たりの報告数は であった 年齢別では,10~14 歳 (240 人 ),7 歳 (94 人 ),8 歳 (

別記様式 7-2 感染症発生動向調査 ( インフルエンザ定点 ) 調査期間平成年月日 月日医療機関名 : 性別 0-5 ヶ月 6-11 ヶ月 1 歳 歳以上 合計 (

02別添:日本脳炎ワクチン接種に関するQ&A[H28.3月版]

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<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り 2. 平成 3 年 月 29 日 ~ 3 月 4 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

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Weekly Report on Aomori Prefecture Infectious Disease 青森県感染症発生情報 (2019 年第 3 週 ) 発行青森県感染症情報センター (2019 年 1 月 24 日 ) ( 青森県環境保健センター : 担当微生物部 ) TEL

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

<< インフルエンザ >> 区別 別報告定点当り. 平成 3 年 2 月 5 日 ~ 3 月 日 [ 平成 3 年 ~ ] 鶴見神奈川 西 中 南 港南保土ケ谷 旭 磯子金沢港北 緑 青葉都筑戸塚 栄 泉 瀬谷 定点数

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Microsoft PowerPoint - 51w 梅毒

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別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

2019 年 7 月 4 日 ( 木 ) 愛知県保健医療局健康医務部健康対策課感染症グループ担当内田 久野内線 ダイヤルイン 手足口病警報を発令します!! 愛知県では 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律 に基づき 県内の小児科を標榜する

鹿児島県感染症発生動向調査事業 ( 内容に関するお問い合わせ : 健康増進課感染症保健係 ) 感染症のホームページアドレス 第 20 週の手足口病の定点当た

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

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健康た?よりNo107_健康た?より

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 東地方 人 三戸地方 人 上十三 人 (8 年計 : 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (8 年計 :5 人 ) アメーバ赤痢 ( 五類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (8 年計 : 人 ) カルバペネム

記号の説明 前からの推移 : 倍以上の減少.~ 倍未満の減少. 未満の増減.~ 倍未満の増加 倍以上の増加流行状況 : 空白発生なし 僅か 少し やや多い 多い 非常に多い 定点当り患者数について 過去 年間の標準偏差値に感染症の種類毎に係数を乗じた値を 等分し 流行状況の目安として 段階で表示して

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Ⅰ 第 30 週の発生動向 (2017/7/24~2017/7/30) 1. 手足口病については むつ保健所管内で警報が発令されました 東地方 + 青森市保健所管内 弘前保健所管内 上十三保健所管内で警報が継続しています 三戸地方 + 八戸市保健所管内では 定点当たり報告数の増加が続いており 警報レ

熊本県感染症情報 ( 第 14 週 ) 県内 165 観測医の患者数 (4 月 4 日 ~4 月 10 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 10 8 ヘルパンギーナ 6 5 咽頭結膜熱 A 群溶血性連鎖球菌咽頭炎 感染性胃腸炎

Microsoft Word - H24年報表紙・目次・合紙

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日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

耐性菌届出基準

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Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 1 人 上十三 1 人 (2018 年計 :146 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 五所川原 1 人 (2018 年計 :30 人 ) 梅毒 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 1 人 八戸市 2 人 (2

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数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数人 / 定点数 小児科内科インフルエンザ 小児科 眼科 基幹 Weekly Report on Aomori Prefecture Infec

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

Microsoft Word - 案1 week14-21

第 12 回こども急性疾患学公開講座 よくわかる突発性発疹症 その症状と対応 ~ 発熱受診患者解析結果を交えて ~ 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野 長坂美和子

Bull. Nagano Environ. Conserv. Res. Inst. No.8(2012) 3. 結果および考察 3.1 長野県における手足口病患者およびヘルパンギーナ患者からのエンテロウイルス検出状況 手足口病患者およびヘルパンギーナ患者 67 検体のうち, が 45 株 (67 %

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

<B 型肝炎 (HBV)> ~ 平成 28 年 10 月 1 日から定期の予防接種になりました ~ このワクチンは B 型肝炎ウイルス (HBV) の感染を予防するためのワクチンです 乳幼児感染すると一過性感染あるいは持続性感染 ( キャリア ) を起こします そのうち約 10~15 パーセントは

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疾患名 平均発生規模 ( 単位 ; 人 / 定点 ) 全国 県内 前期 今期 増減 前期 今期 増減 県内の今後の発生予測 (5 月 ~6 月 ) 発生予測記号 感染性胃腸炎 水痘

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が


日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール 014 年 10 月 1 日版日本小児科学会 乳児期幼児期学童期 / 思春期 ワクチン 種類 直後 6 週 以上 インフルエンザ菌 b 型 ( ヒブ )

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

熊本県感染症情報 ( 第 31 週 ) 県内 170 観測医の患者数 (7 月 28 日 ~8 月 3 日 ) 今週前週今週前週 インフルエンザ 0 1 百日咳 0 0 RS ウイルス感染症 7 0 ヘルパンギーナ 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎


2018 年 47 週 (11 月 19 日 ~11 月 25 日 ) 2 類感染症 3 類感染症 都道府県 結核 ジフテリア 重症急性呼吸器症候群 中東呼吸器症候群 鳥インフルエンザ (H5N1) 鳥インフルエンザ (H7N9) コレラ 細菌性赤痢 総数北海道青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県茨

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (8 年計 :3 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 弘前 人 八戸市 人 上十三 人 むつ 人 (8 年計 : 人 ) 百日咳 ( 五類全把握対象疾患 ): 弘前 3 人 (8 年計 :3 人 ) Ⅳ 病

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報告風しん

(Microsoft PowerPoint \217\254\216\231\227\\\226h\220\332\216\355\202\314\214\273\217\363.ppt)

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 八戸市 人 弘前 3 人 (8 年計 :65 人 ) 腸管出血性大腸菌感染症 ( 三類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (8 年計 :3 人 ) 百日咳 ( 五類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (8 年計 :5 人 ) Ⅳ 病原体

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平成 27(2015) 年エイズ発生動向 概要 厚生労働省エイズ動向委員会エイズ動向委員会は 3 ヶ月ごとに委員会を開催し 都道府県等からの報告に基づき日本国内の患者発生動向を把握し公表している 本稿では 平成 27(2015) 年 1 年間の発生動向の概要を報告する 2015 年に報告された HI

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 3 人 弘前 人 八戸市 2 人 五所川原 2 人 上十三 人 (28 年計 :97 人 ) レジオネラ症 ( 四類全把握対象疾患 ): 青森市 人 (28 年計 :7 人 ) カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 ( 五類全把握対象疾

Ⅲ 全把握対象疾患 結核 ( 二類全把握対象疾患 ): 青森市 人 弘前 2 人 八戸市 人 上十三 3 人 (28 年計 :87 人 ) デング熱 ( 四類全把握対象疾患 ): 弘前 人 (28 年計 : 人 ) カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症 ( 五類全把握対象疾患 ): 八戸市 人 (2

日本脳炎ワクチン接種についてQ&A(改定案)

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Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

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第14巻第27号[宮崎県第27週(7/2~7/8)全国第26週(6/25~7/1)]               平成24年7月12日

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

Microsoft Word - 感染症週報第48週

流行の推移と発生状況疾病名 推移 発生状況 疾病名 推移 発生状況 インフルエンザ RSウイルス感染症 咽頭結膜熱 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 感染性胃腸炎 水痘 手足口病 伝染性紅斑 突発性発疹 百日咳 ヘルパンギーナ 流行性耳下腺炎 急性出血性結膜炎 流行性角結膜炎 細菌性髄膜炎 無菌性髄膜炎

Microsoft Word - p docx

Transcription:

2017 年 8 月 30 日放送 無菌性髄膜炎の診断と治療 川崎医科大学小児科教授寺田喜平はじめに本日は無菌性髄膜炎をテーマにお話しさせていただきます 時間も限られていますので 4 つに焦点を絞ってお話しいたします はじめに 図 1 の無菌性髄膜炎から分離 検出されたウイルスについて 2013 年から 2017 年までのデータを見ていただきましょう 2013 年は黄色のエコー 6 と青色のエコー 30 が目立ちます 2014 年は青色のエコー 30 2015 年は紫色のエコー 18 2016 年はピンク色のコクサッキー B 群 5 が 2017 年はムンプスが目立ちます そのため 一つ目はムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎 2 つ目はエコーやコクサッキーウイルスなどのエンテロウイルスによるものを取り上げたいと思います 3 つ目は成人で見逃してはならないヒト免疫不全ウイルス (HIV) の急性感染時のもの 最後に日本脳炎ウイルスによる無菌性髄膜炎について解説したいと思います ムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎 まず流行性耳下腺炎 ムンプスについてです 症状は 発熱と唾液腺 ( 耳下腺および

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌性髄膜炎 脳炎 突発性難聴 思春期以降の男性では睾丸炎がよく知られています ムンプス発症者の約半数は無菌性髄膜炎の症状がなくても 髄液の細胞数が増加しています 有症状の無菌性髄膜炎の発生率は年齢が高くなるほどが高くなります さらに脳炎も 0.02 ~0.3% に認められ ワクチン使用前に米国においてウイルス性脳炎の 1 番多い原因はムンプスウイルスでした ムンプスはワクチンで予防できる感染症で 日本を除いた先進国はこのワクチンを定期接種 ( 無料 ) で接種しています 欧米では 2 回のワクチン接種で ほとんど流行性耳下腺炎の流行がなくなっています たとえば 米国では人口 3 億人で年間約 1000 名しか患者は発生しません しかし わが国では 例えば岡山県のある市では人口約 50 万人で昨年の 2016 年 1500 名を超える患者が発生しました また任意接種での接種率も約 30% しかないため 4~6 年おきに流行しています 最近のムンプス流行年は 2006 年 2010 年 2016 年です また 10 年間における定点からの無菌性髄膜炎の報告数をみますと 図 2 のように水色の線が 2016 年を示していますが 2016 年がもっとも多いことが分かります ムンプス流行と無菌性髄膜炎の関連が深いと考えられています 我が国がこのワクチンを定期接種していない理由は 過去の MMR ワクチン使用時 ムンプスワクチンによる無菌性髄膜炎多発から使用中止となったからです わが国のムンプスワクチン接種後における無菌性髄膜

炎の発症頻度は 1/2,000 一方 自然感染では 1/80 とワクチン接種に比較して発症頻 度は 25 倍高いと報告されています 現在 新しい MMR ワクチンの第 2 相治験が実施さ れ ムンプスの定期接種化が検討されていますが もう少し時間がかかりそうです エンテロウイルスが原因の無菌性髄膜炎次にエンテロウイルスが原因となる無菌性髄膜炎について説明したいと思います エンテロウイルスは病原性と血清型を基に 表 2 のようにポリオウイルス コクサッキー A 群 B 群 エコー エンテロ 68~71 に分類されています ポリオはヒトに小児麻痺を コクサッキー A 群は乳のみマウスに弛緩性麻痺 B 群は強直性麻痺を起こします それ以外はエコーウイルスと呼ばれています エンテロ 68 以降新たに同定されたものを単にエンテロ 68~71 とされています さらに近年 ゲノム塩基配列情報を基にした分子系統解析によって再分類され Human Enterovirus A B C D とポリオウイルスの 5 種類に分類されるようになっていますが 現在も血清型を基にした従来の名前も継続して使用されています 無菌性髄膜炎から分離されたエンテロウイルスは エコー 30 が約半数を占め エコー 9 コクサッキー B 群 5 エコー 7 6 と続きますが 流行年によって変化することが知られています 表 3 に示すように エンテロウイルスは様々な感染症を起こします 夏に小児で流行する特殊な夏かぜ ( 手足口病 ヘルパンギーナ ) が有名です ポリオ以外ではエンテロウイルスと感染症が 1 対 1 の関係でないことを知っておくとよいでしょう 手足口病の原因ウイルスは年によって流行株が変化しますが コクサッキー A 群 16 が半数以上を占め 続いてエンテロ 71 やコクサッキー A 群 10 が検出されることが多いようです とくにエンテロ 71 が流行するときには 無菌性髄膜炎や重症化例の増加が

知られています 1990 年代より東アジア地域で小児の急死例が多発する報告が増加しています 2008 年中国で短期間に 20 名以上の急死例が報告され 他のアジアの国々でも報告されました わが国の調査でも エンテロ 71 による手足口病の流行した 2000 年には 死亡 2 名 脳炎 脳症 7 名 小脳失調 18 名 心筋炎 9 名 などの重症例が報告されました 2011 年に流行した手足口病は コクサッキー A 群 6 が主流で 従来の発疹とは異なるパターンで 水痘との鑑別に迷うような例が多くありました ヘルパンギーナの原因ウイルスは コクサッキー A 群 4 がもっとも多く 種々の A 群 時に B 群やエコーウイルスが原因となることもあります HIV 急性感染時次は HIV です このウイルスは後天性免疫不全症候群 (AIDS) を起こすウイルスです HIV 感染の 2~6 週間後 すなわち急性感染時に 80~90% はインフルエンザ様の発熱や様々な非特異的症状を来し 自然に 1~2 週間で改善します その際の症状や所見の頻度を表 4に示します 発熱 発疹 咽頭炎 筋肉痛 関節痛 白血球減少 無菌性髄膜炎 肝障害などを認めます また異型リンパ球を認めることから伝染性単核球症と誤診されることもあります そして 約 4 人に 1 人の割合で無菌性髄膜炎を認めます 成人の無菌性髄膜炎には HIV の急性感染も鑑別に含めるべきです そのほかの参考となる所見は B 型肝炎や梅毒感染の既往歴に注意するとよいでしょう そして 重要なことは HIV の急性感染を疑っても HIV 抗体による検査のみでは診断できないことです Window 期であるため遺伝子による検査診断が必要となります この急性期に診断を逃しますと 自覚的 他覚的にも無症状であるため AIDS を発症するまで診断する機会を失うことになります 成人における無菌性髄膜炎の鑑別診断として HIV を忘れないでいただきたいと思います 日本脳炎ウイルスによる無菌性髄膜炎 最後に日本脳炎についてお話したいと思います 日本脳炎の死亡率は 20~30% 神 経学的後遺症は 30~50% に認める重症神経感染症で 有効な治療法はありません 日

本脳炎ウイルスはヒト ヒト感染ではなく 主にコガタアカイエカによって媒介されます ブタは感染しても無症状で 蚊が豚を刺したときにウイルスを吸い込み その蚊がヒトを刺して日本脳炎ウイルスがヒトに感染します しかし 感染しても多くは不顕性感染で 日本脳炎を発症するのはわずか 1/100~1/1000 であります また一部に無菌性髄膜炎を起こすことがあります 昨年 2016 年 わが国における日本脳炎報告数は数十年ぶりに 10 名を越え 増加傾向にありますので 注意が必要です 診断例は氷山の一角であり 実際の症例数はもっと多いのではないかと推測されています 広島県で髄液の PCR 法による検討で無菌性髄膜炎 4 名に日本脳炎ウイルスを検出した報告があります また表 5 に示すように 我々も脳炎および無菌性髄膜炎を対象とし 岡山県内で都市部と養豚数の多い農村部において検討を行いました その結果 農村部で無菌性髄膜炎の 3/12 例 (25%) に PCR で遺伝子を検出しました 夏の無菌性髄膜炎は原因をエンテロウイルスに結びつけてしまいがちですが 日本脳炎ウイルスも考慮する必要があります 日本脳炎ワクチンは 2005 年より積極的な勧奨の差し控えとなりましたが 2010 年から新しい日本脳炎ワクチンで再開されています さらに 2011 年 5 月から接種漏れ児にも 定期接種として接種ができるようになりました 母子手帳で日本脳炎ワクチンの接種歴を調べて ぜひ接種されていない方にはお勧めしてほしいと思います