名古屋市食の安全 安心フォーラム 平成 28 年 12 月 17 日於 : 名古屋市立大学 Department of Electric and Electronic Engineering Faculty of Science and Engineering Kindai University 食品と放射性物質について 近畿大学理工学部電気電子工学科 原子力研究所教授渥美寿雄 1
1. はじめに 1. 放射能 放射線と聞いた時のイメージは? (1) 怖い (2) 危ない (3) 恐ろしい (4) がんになる (5) 白血病 (6) 毛が抜ける (7) 原爆 (8) 奇形 (9) 遺伝的影響 遺伝障害 (10) 原発 (11) 原発事故 (12) 福島事故 (13) 目に見えない (14) よくわからない (15) 被ばく ( 被爆?) (16) レントゲン (17) 病院の検査 (18) がん治療 2. 放射能 放射線等の情報をどこから得ていますか? (1) テレビ ラジオ (2) 新聞 雑誌 (3) 行政機関の情報 (4) 地方公共団体の情報 (5) 友人 知人 (6) インターネット (7) 大学 研究機関の情報 (9) SNS 学校 ( 中学校 ) でも習うようになった 文部科学省などの副読本 消費者庁 Q&A 誌 2
2. 放射線とは? 放射線とは 大きなエネルギーを持った小さな粒子 です 下にあげた放射線は 原子核 から飛び出してきます X 線 ( レントゲン ) は 原子核の外で作られて飛び出してきます α 線 ( アルファ線 ) 原子核の粒子の一部 : ヘリウム原子核 β 線 ( ベータ線 ) 原子核の中で作られた電子 γ 線 ( ガンマ線 ) 原子核から放出される高エネルギーの光 ( 電磁波 ) 中性子線 原子核の中にいた中性子 3
エックス線 ガンマ線は 大きなエネルギーの光 紫外線 : たくさん浴びると ガン ( 皮膚ガン ) ができることがあります 放射線 : たくさん浴びると ガンや白血病を起こすことがあります 人間には 傷を治す力 があります 傷を治す力 よりも大量に浴びた時に このような病気になることがあります 量 が問題 4
3. 用語を正しく知ろう 放射線 と 放射能 放射線 放射能 放射線を出す能力 ( 放射線を出す物質 ) 大きなエネルギーを持った小さな粒子 原子核 ( 原子 ) から飛び出す 放射性物質 放射能を持った物質 放射線を出す物質 放射線を持った物質 放射能を出す物質 被曝 ( 被ばく ) 放射線をあびる ( 放射線が体にあたる ) ことを被曝 ( 被ばく ) と言います 被爆 は 爆弾によって被害を受けることです 本当は 放射性物質 と言うべきですが 5
放射線漏れ と 放射能漏れ 放射性物質 放射線漏れ 放射線漏れ と 放射能漏れ 言葉は似ているけど 起こっていることはまったく違う 放射能漏れ 本当は 放射性物質漏れ だけど 6
放射能 放射線の単位 放射能の強さを表わす単位 ( 放射性物質が放射線を出す能力を表す単位 ) 人体に対する影響を表わす単位 ( 放射線によって人体が受けた影響の度合いを表す単位 ) 7
放射性物質の性質 ( 半減期 ) 1) 放射性物質 は 放射線を出して別のものに変わる 2) 放射能 は 放射線を出しながら時間がたつにつれて減る 3) 半分になる時間を 半減期 という 4) 半減期 は 物質によって違う 放射性物質半減期 トリウム 232 ウラン 238 カリウム 40 炭素 14 セシウム 137 ストロンチウム コバルト 60 セシウム 134 ヨウ素 131 ラドン 220 141 億年 45 億年 13 億年 5730 年 30 年 28.7 年 5.3 年 2.1 年 8 日 55.6 秒 8
放射性物質の具体例 天然に存在する放射性物質には極めて多くの種類がある 天然放射性同位元素でも カリウム 炭素 ルビジウム ポロニウムなどは食物や人体に取り込まれやすい 9
原子炉の 核分裂 で発生する放射性物質 核分裂によって 足して 92 番 になるような組み合わせの核分裂生成物ができる 1 水素 2 ヘリウム 3 リチウム : 6 炭素 13 アルミニウム 26 鉄 : 核分裂 92 ウラン 36 クリプトン 56 バリウム 37 ルビジウム 55 セシウム 38 ストロンチウム 54 キセノン 39 イットリウム 53 ヨウ素 クリプトン 福島事故直後には報告された 気体として拡散し 現在は検出されない セシウム 水に溶けるため 蒸気に混ざって広く拡散した 食品中で問題とされるのはこの物質 ナトリウム カリウムと似た性質を持つ ストロンチウム 水に溶けにくいことが多いので海洋底などに沈む カルシウムに近い性質のため 骨に沈着しやすい ヨウ素 揮発性のため広く拡散 半減期が 8 日なので現在は存在しない
4. 身の回りの放射線 ( 自然放射線 ) 宇宙から 宇宙から 常に放射線 ( 宇宙線 ) が地球に降り注いでいる 地上からの高度が高いほど受ける放射線は多くなる 大地から 大地からは 常に放射線が出ている ( ウラン ラジウム等 ) 放射線の量は 場所によって違う 私たちは太古の昔から 日常生活でも放射線を受け続けてきた 空気から 空気中から 常に放射線が出ている ( ラドン ) 放射線の量は 場所によって違う 食べ物から 食べ物からも放射線が出ている ( カリウム -40 炭素 -14 等 ) 食べ物を食べている私たちの身体からも放射線は出ている? 自然放射線の中で進化し 自然放射線に耐えるしくみを持つ 11
放射線の量は 場所によって違う 都道府県で違う 違う理由は? 1) 宇宙からの放射線? 2) 地面からの放射線? 3) 空気からの放射線? 4) 食べ物からの放射線? の種類が違うから
放射線を出しているもの 赤身の部分には カリウム が含まれるため 放射線が出ているが 脂身からは ほとんど出ていない 花崗岩の 黒雲母 長石 には カリウム が含まれることに加え ウランやラジウムなどの不純物が含まれる 目で見る自然放射線 ( 中部原子力懇談会 ) より 13
体の中の放射性物質 ( 自然界のもの ) 食べ物の中には 大昔から 放射性物質が含まれている 私たちの体の中には 約 7,000 ベクレルの放射性物質がある 約 7,000 ベクレル どんな食物にも 大昔から 放射性物質が含まれている 食物 1 kg 中のカリウム 40 の放射性物質の量 ( 単位 : ベクレル /kg) 14
問題 干し昆布 干ししいたけ 中に含まれる放射性物質の量が 多いのはなぜでしょう? ここで表示されている 濃度 は 1kg あたり の放射性物質の量 干せば 水分が飛んで軽くなるので より大量の食材を測定することになる 平成 11 年 2 月 1 日埼玉県所沢市のホウレンソウで 野菜での濃度の全国平均に対して 5 倍のダイオキシンが検出されたとの報道があった ( テレビ朝日 ) 実際は 煎茶のデータ の誤報だった 高い値なのは当然 よくある大きな誤解天然の放射性物質は無害で 人工の放射性物資は有害 天然のものは害がないという思い込み 毒キノコ トリカブト フグ毒 ジャガイモのソラニン 種々の発がん性の強い カビ など 天然の毒物は いくらでもある 15
自然界から受ける放射線量 1) 日本平均では 食物による被ばく が最大 小魚をよく食べるので 自然放射線である ポロニウム 210 による被ばく量が多い 2) 世界平均では 大気中のラドンによる被ばく が最大 鉄筋コンクリートの住宅では 換気が悪く コンクリートから出るラドンの影響を受けやすい 3) 日本では 自然放射線被ばくに対し約 2 倍の医療被ばくがある 16
5. 放射線の人体への影響 ( 全身 ) 致死 >10000 msv 半数致死 > 4000 msv 白内障 > 4000 msv 脱毛 > 3000 msv 不妊 > 3000 msv ガン 白血病による死亡 > 100 msv ( より増加 ) 遺伝的影響は 人間では見つかっていない ( 有意な増加は確認されていない ) 17
放射線によるがん 白血病の増加 がんによる死亡率 ( 日本人の場合 ) 30% msv 100mSv 200mSv 300mSv 受けた放射線の線量 重要なポイント まとまった量の放射線を浴びたと言っても 将来必ずガンになる のではない なる確率が増加する と理解してほしい 200mSv( 胸部レントゲン 4000 枚相当 ) で 1% 増加する 18
6. 食品中の放射性物質と基準値 放射性セシウムの基準値 ( 平成 24 年 4 月 1 日 ~) 食品群 基準値 (Bq/kg) 飲料水 10 牛乳 50 一般食品 100 乳児用食品 50 算定の根拠 1) その食品を 1 日当たり標準的な摂取量で 1 年間食べ続けたとして 他の食品群と合わせて年間の被ばく線量が 1mSv を超えない濃度を評価した 2) 年齢 性別などで食生活の違いを考慮し ( 最も食べ盛りの )13~18 歳男性でも年間 1mSv を超えない値まで下げた 3) 乳児の放射線感受性 ( 成人の 2~3 倍とされる ) を配慮して 半分の値とした 現実には 13~18 歳の食品摂取量への配慮があるので約 1/9 に設定したことになる 19
7. 放射線についてまとめ 1. 私たちの身の回りにも放射線がある ( 地面 宇宙 空気 食物 私たちの身体の中 ) 2. 強い透過力や物質の性質を変える能力を コントロールしながら色々な分野で利用している 3. 大量の放射線を受けると障害が発生する 100 msv 以下の被曝では がん の増加は確認されていない (1 年間の自然放射線のおよそ 100 倍以上が問題 ) 4. 放射能 放射線がうつる ( 病原菌のように伝染する ) 福島事故のため今後遺伝的影響が多数発生するというような 誤解 は無くしたい 5. デマや誤解も多いので 正しく知って 正しく怖がる ことが大切です 20