平成 26 年度第 3 回食品と放射性物質に関する講座秦野市保健福祉センター 2014 年 10 月 16 日 放射性物質の基礎知識と食品に含まれる放射性物質の安全性について 東海大学原子力工学科大江俊昭 1
概要 2/45 1. 放射能と放射線 2. 食品への放射能の汚染 3. 食品による被ばく 4. どうやって放射能を測るか 簡単な測定デモ 2
東京電力福島第一原子力発電所事故 3/45 2011 年 3 月 14 日 11 時 1 分 航空機モニタリングによる地表に沈着した放射性セシウム濃度 134Cs+137Cs 合計 (Bq/km 2 ) H23 年 7 月 16 日の値に換算 文部科学省ホームページより 3
神奈川県のホームページから 4/45 大部分は放射性セシウム未検出 一部の食材にわずか含有 4/3 測定生シイタケ 品目測定時期検体数 測定値 Bq/kg NDは検出下限以下 食品衛生法基準値 Bq/kg 牛乳 4/2~10/1 24 ND 50 野菜 4/21~9/22 15 ND 100 林産物 4/3~9/26 10 生シイタケ (ND~39) タケノコ (ND~4.6) 100 米 9/8 9/17 2 ND 100 牛肉 豚肉 4/23~9/29 7 ND 100 水産物 4/7~9/12 76 ND 100 飲用茶 5/7~6/20 7 ND~0.99 10 県内流通食品 4/8~9/24 味噌 豆腐 ハム ソーセージなど全 67 検体すべて ND 平成 26 年度 食品中の放射性物質検査結果 4
印象はどうですか? 5/45 事故後約 3 年半経過して まだ放射能があるのか! それほど気にならないレベルになった 情報がありすぎてよくわからない ( 少なすぎて ) 5
秦野市の取り組み 6
市内空間放射線量 秦野市の取り組み 水道水 表丹沢野外活動センターで使用している水の検査 下水汚泥に含まれる放射能濃度 剪定枝チップに含まれる放射能濃度 清掃工場の焼却灰等の放射能濃度 給食の放射能濃度 ( 年間約 750 検体 ) いずれも基準値以下検出下限を超えたのは 1 例のみ (H24 年 4 月 ~H26 年 3 月 ) 7
6/45 1. 放射能と放射線 2. 食品への放射能の汚染 3. 食品による被ばく 4. どうやって放射能を測るか 簡単な測定 8
放射線と放射能の違い 7/45 放射性物質 ヨウ素 セシウム 131 I, 137 Cs などは 放射能をもった物質 放射能の強さ 放射性物質の量 単位 : ベクレル Bq 放射能とは放射線を出す能力 放射線の強さ単位 : シーベルト Sv 9
放射線音でお聞かせします 8/45 種類 (3 つの代表的なもの ) アルファ線 ベータ線 ガンマ線小 貫通力 大 GM 管式放射線検出器 CsI(Tl) シンチレーション式環境放射線モニタ ベータ線 有無 強弱の検出ガンマ線空間線量率測定可のものもある ガンマ線空間線量率の測定 10
放射能の特徴 ~ 半減期 ~ 9/45 不安定 放射能 放射線 元々 不安定な物質 放射性物質は 放射線を放出して安定になろうとします 安定 放射能 放射線 放射能 放射線 時間 明るさ 自然に壊れる 放射能の強さは徐々に小さくなってゆきます 自然に壊れる速さを示すのが半減期 電圧 11
ベクレル Bq とシーベルト Sv 10/45 放射線 数を測定カウント 放射能の強さ Bq 線量換算係数 Sv Bq 放射性物質 線量換算係数の工夫 被ばくによる影響の程度 数だけでは決まりません放射線のエネルギー人体の場所 ( 臓器 ) 放射線の種類 Sv 放射線の強さ 12
1 シーベルト 11/45 放射線影響を測る ( 尺度 ) 137-Cs 1Bq 1 秒間に 0.662MeV ガンマ線を 0.85 本放出 エネルギー吸収 吸収したエネルギーが生体に何らかの変化 ( 影響 ) を与える 1Gy : 物質 ( 生体 )1kg が 1J( ジュール ) のエネルギーを吸収 グレイ 1Gy 1Sv ( ベータ線 ガンマ線 ) 13
ガンマ線のエネルギー 12/45 137-Cs 1Bq は 9.02 10-14 (J/s)=9.02 10-14 (W) 微々たる量 福島事故での放出量 1.3 10 16 Bq =11700W 100W 電球を 117 個を点灯半減期 30 年なので 長 ~ く! 14
13/45 放射能 放射線による影響 15
被ばく線量と人体影響 14/45 日常生活で重要な線量の値 自然放射線による被ばく (1 年間 ):1~2mSv 胸部 X 線撮影 (1 回 ):0.05mSv 胃の X 線検診 (1 回 ):0.5mSv 腹部の CT 検査 (1 回 ):5~15mSv 国際線搭乗 (12 時間程度 1 回 ): 約 0.05mSv 16
確率的影響と確定的影響 15/45 がんなど 白内障 奇形発生など 安全領域がないようにみえる 安全領域 ( 小須田茂 放射線生物学ノート ) 17
確定的影響 16/45 組織 影響 急性被ばくのしきい線量 (Gy) msv *) 精巣 一時不妊 0.15 150 永久不妊 3500~6000 3.5~6 卵巣 一時不妊 0.65~1.5 650~1500 永久不妊 2500~6000 2.5~6 水晶体 水晶体混濁 500~2000 0.5~2 白内障 2000~10000 2~10 骨髄 機能低下 0.5( 500 全身骨髄被ばく ) 皮膚 紅斑 乾燥皮 5000 5( 広範囲被ばく ) 膚炎 胎児 奇形 0.1 100 * *) 正しくは X 線, 線の場合 mgy であるがガンマ線では, 放射線荷重係数はmGy msv 1 なので,Gy=Sv とみなせるである. すべて 100mSv 以上で現れる ( 窪田宜夫, 2008) 18
放射線によりがんになる確率 確率的影響 17/45 明確に放射線による影響かどうか判別が困難 10 万人当たり 5.5 人と考えて対策を講ずる これまでの調査で放射線による影響が判っている 直線モデル 100 人当たり 5.5 人 1000 人当たり 5.5 人 1mSv (0.001Sv) 100mSv (0.1Sv) 1Sv ICRP (2007 年勧告 ) 低線量での確率を求めるものではなく 対策を講ずる際の目安 19
18/45 身の回りの放射線 放射能 原因 msv/ 年 備考 宇宙線 0.27 0.3 食物 0.41 0.99 食品には 40 K, 210 Po 等が含まれる 呼吸吸 0.45 0.48 ( 主に 222 Rn ガス ) 大地 0.32 0.33 合計 1.45 合計 2.1 外部被ばくと内部被ばくを合わせて 放射線医学総合研究所 2013 年 ( 平成 25 年 )5 月 28 日改訂 20
食品中の自然放射能 (Bq/kg) カリウム -40 半減期 12.8 億年 20/45 ビールこめ牛肉 10 30 100 ほうれん草ポテトチップ干し椎茸干し昆布 200 400 700 2000 注 )Bq 数だけでは人体影響は判断できない ( 電気の広場情報より ) 21
21/45 1. 放射能と放射線 2. 食品への放射能の汚染 3. 食品による被ばく 4. どうやって放射能を測るか 簡単な測定 22
水 農作物の汚染 22/45 大気中に浮遊している放射性物質微粒子で目には見えません雨に溶け込む 降下ばいじん ( やや大きい浮遊じんが沈降 ) 一か所に集中 葉物野菜に付着 放射能濃度がいったん上昇 土に沈着 牛肉を汚染したワラへの沈着 根菜類のように根からの吸収 23
放射性セシウムの飛散 23/45 137-Cs は 1 京 3 千兆ベクレル 地表面への放射性セシウムの沈着量 上空からの測定で精度は期待しない 土壌の測定結果 (2200 地点 ) と一致 重量にすると 約 4 kg 文部科学省公表データより 24
24/45 基準値は どう決まったか 25
暫定規制値 ( 旧 ) 25/45 汚染は一過性 汚染物質が出続けるという前提ではない 1 年間同じ量をとり続けて 同じ放射能量を摂り続けて ではない 仮定のもとで 野菜約 0.6kg ( 毎日 ) 摂取 水約 1 リットル ( 毎日 ) 飲用 穀類 平常時の一般公衆の被ばく限度とは異なることに注意! 1mSv/ 年 放射性 Cs: 全身の線量が 5mSv/ 年となる放射性物質濃度 肉 卵 魚牛乳 乳製品 26
放射線によりがんになる確率 26/45 食品販売規制 5mSv の意味 放射性セシウムは筋肉蓄積 ( 全身 ) 明確に放射線による影響かどうか判別が困難 10 万人当たり5.5 人と考えて対策を講ずる これまでの調査で放射線による影響が判っている 摂取制限で 5mSv 以下に 直線モデル 1000 人当たり 5.5 人 100 人当たり 5.5 人 1 年間の摂取があると 1mSv では 10 万人あたり 5.5 人のがん がんのリスクは 5 倍の 1 万人あたり 2.75 人 1mSv (0.001Sv) 5mSv では 10 万人あたり 27.5 人 100mSv (0.1Sv) 1Sv 不慮の事故のリスク がんのリスク 1 万人あたり3.2 人 / 年 1 万人あたり2.75 人 1 桁違っていても 1000 人あたり 2.75 人 放射線以外のがんのリスク 10 人あたり 3 人 / 年よりも十分低い 27
旧基準への不満 27/45 国際食品規格 国際動向との不整合 100 Bq/kg ( コーデックス委員会 ) 一過性の前提? チルノブイリ事故での汚染物輸入への対処のまま小児への特別な配慮 放射性セシウムの濃度 ( 新旧規制値の比較 ) 暫定規制値 新基準値 備考 食品群 野菜類 穀類 肉 卵 魚 その他 規制値ベクレル /kg 500 牛乳 乳製品 200 飲料水 200 食品群 規制値ベクレル /kg 一般食品 100 食品の区分を変更 乳児用食品 50 年間線量の上限を引き下げ 牛乳 50 飲料水 10 89 Sr, 90 Srを考慮 90 Sr 106 Ru, 238 Pu, 239 Pu, 240 Pu, 241 Puを考慮一般食品の50% が汚染 28
食品の基準値の設定 28/45 基準値のもととなる 1 人当たりの年間線量の上限値 1 ミリシーベルト 水約 0.1 ミリシーベルト 食品約 0.9 ミリシーベルト 飲料水の基準値 (10 ベクレル /L) の水を 1 年飲んだ場合に相当する線量を割当て 放射性セシウム セシウム 134 セシウム 137 放射性セシウム以外 ストロンチウム 90 プルトニウム 239,241 などルテニウム 106 セシウム以外の放射性物質による影響を考慮 ( 例 :19 才以上では 多めに見積もって食品からの線量の約 12%) 厚生労働省のホームページ http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/20131025-1.pdf を参考にした 29
30/45 1. 放射能と放射線 2. 食品への放射能の汚染 3. 食品による被ばく 4. どうやって放射能を測るか 簡単な測定 30
農産物中の放射能濃度 農林水産省のホームページより H26 年 8 月 31/45 分類品目検査点数 50 Bq/kg 以下 ( 検出せず含 ) 50 Bq/kg~ 100 Bq/kg 基準超 米 全袋検査分 ( 福島県 ) 74 74 0 0 抽出検査分 ( 福島県を除く 16 都県 ) 63 63 0 0 麦 315 315 0 0 野菜 8313 8313 0 0 果実 1214 1214 0 0 米以外 大豆その他の豆類 9 9 0 0 その他地域特産物 72 72 0 0 きのこ 山菜類 4309 4086 157 66 茶注 検査点数 5 Bq/kg 以下 ( 検出せず含 ) 5 Bq/kg~ 10 Bq/kg 基準超 169 169 0 0 茶の規制値は 10Bq/kg それ以外は 100Bq/kg 31
水産物中の放射能 32/45 水産庁 H26 年 10 月 3 日更新 福島県における調査結果 基準値を超過した水産物については 出荷制限や採捕自粛等の措置が執られています 32
市場の調査 食品検査への疑問 33/45 1. 測定をすり抜けたものはないのか? 2. 放射性セシウムだけの測定で良いのか? 33
福島県 ( 浜通り ) 福島県 ( 中通り ) 福島県 ( 会津 ) 北海道 岩手県 宮城県 茨城県 栃木県 埼玉県 東京都 神奈川県 新潟県 大阪府 高知県 長崎県 実効線量 msv/ 年 マーケットバスケット試料による推定平成 25 年 9-10 月に試料調製のための食品を購入 生鮮食品は可能な限り地元産品 あるいは近隣産品通常の食生活における放射性物質の摂取量を算出 食品中の放射性セシウムから受ける被ばく線量 34/45 0.005 0.004 0.003 基準値 1mSv/ 年の 1 パーセント以下 0.002 0.001 0 検出限界以下の時は その 1/2 が含まれていると仮定 厚生労働省ホームページの数値より 34
実効線量 msv/ 年 35/45 マーケットバスケット試料経時変化 0.01 厚生労働省ホームページの数値より 0.008 0.006 0.004 0.002 0 H24 2 3 H24 9 10 H25 2 3 H25 9 10 0 1 2 3 4 5 検出限界以下の時は その 1/2 が含まれていると仮定 いつまでたっても線量はゼロにはならない 35
ミリシーベルト / 年 全国各地の一般家庭で調理された食事 ( 陰膳試料 ) 36/45 厚生労働省ホームページ 36
Sr / Cs 濃度比 セシウム以外の放射性核種食品中の放射性ストロンチウム及びプルトニウムの測定 ( 平成 24 年春に採取した試料厚生労働省 HP より ) 38/45 82 の試料 20 マーケットバスケット方式 62 陰膳試料 食品中にプルトニウムは全て未検出 38 試料中に 90-Sr 検出 1 検体以外 Sr/Cs<1 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 マーケットバスケット方式 陰膳試料 新潟県高齢 最大 0.06Bq/ 日 新潟県 高知県でも? 北海道高齢 北海道成人 高知県成人 高知県高齢 食品の規制基準値 Csと同濃度のSrが存在すると仮定 0.2 0 37
39/45 日常食中の 90 Sr 濃度の推移 大気中核実験のフォ - ルアウト降下物 陰膳試料最大 0.06Bq/ 日 http://www.rist.or.jp/atomica/data/pict/09/09010403/06.gif 38
40/45 1. 放射能と放射線 2. 食品への放射能の汚染 3. 食品による被ばく 4. どうやって放射能を測るか 簡単な測定デモ 39
内部被ばくと外部被ばく 36/45 外部被ばく 汚染した地面等からの放射線 内部被ばく 線量計で判るのは外部被ばく 体内に取り込んだ放射性物質からの放射線 40
内部被ばくと外部被ばく 41/45 外部被ばく 線量計で判るのは外部被ばく 内部被ばく 体内に取り込んだ放射性物質からの放射線 水や食品を計測器で測る 1 年間の摂取量を計算 人体影響を示すシーベルト Sv/ 年 ( 年間被ばく量 ) 放射性物質の量 Bq/kg ( 濃度 ) 統計データ kg/ 年 41
39/45 食品の測定事例 検出限界値 1 ベクレル /kg 程度 検出限界値 50 ベクレル /kg 約 450 万円 http://seikatsuclub.coop/coop/news/20111227h.html 約 1500 万円 42
カウント数 線は高感度で 42/45 非破壊測定ができる 40 35 30 25 134 Cs 137 Cs 20 15 134 Cs 10 5 0 0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 ガンマ線エネルギー kev 高純度 Ge 半導体検出器 ただし非常に高価 1000~1500 万円 43
カウント数 42/45 放射能測定のデモンストレーション NaI(Tl) シンチレーションスペクトロメータ 何から放射線が出ているのか? が判る デモでは遮蔽なし 10000 1000 137 Cs 134 Cs 40 K 試料は天然放射性物質 100 10 右図は 福島県の土壌を計測した例 1 0 200 400 600 800 1000 チャンネル 44
44/45 放射線は何に由来するのか 137 Cs 134 Cs 自然放射線 空間線量率は 0.46 msv/ 時 自然放射線 放射性ヨウ素は検知されません 45
空間線量率が周囲よりも高い放射性セシウムの寄与とばかりは限らない 44/45 131 I 364keV なし 自然放射線 214 Bi 609keV 空間線量率は 0.088 msv/ 時 自然放射線 214 Pb 352keV 137 Cs 661keV なし 134 Cs 796keV なし 46
まとめ 45/45 東京電力福島第一原子力発電所の事故から約 3 年経過し その間 食品の基準の見直し 被ばく影響 継続的な食品検査 流通規制 ( 自粛 ) が行われてきた 国際的な動きと合わせ 5mSv/ 年から 1 msv/ 年へ 小児が放射線の影響を受けやすいことを考慮し 区分見直し 規制対象核種の追加 (Pu Ru Sr ただし Sr は旧規制でも考慮ずみ ) 現状での食品中放射能の実態と食生活を考えると 放射性セシウムによる被ばくの可能性は極めて小さい ゴールは被ばくゼロ? 自然放射能との比較を参考に 47