中国、家計消費の伸びは歴史的低水準に | 第一生命経済研究所 西濵徹

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中国、一段の景気下振れを示唆する動きが顕在化 | 第一生命経済研究所 西濵徹

○ユーロ

中国、財新サービス業PMIは4ヶ月ぶりの低水準に(Asia Weekly(3/4~3/8)) | 第一生命経済研究所 西濵徹

金融市場2018年12月号

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中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

○ユーロ

マーケット フォーカス経済 : 中国 2019/ 5/9 投資情報部シニアエコノミスト呂福明 4 月製造業 PMI は 2 ヵ月連続 50 を超えたが やや低下 4 月 30 日 中国政府が発表した4 月製造業購買担当者指数 (PMI) は前月比 0.4ポイントの 50.1となり 伸び率がやや鈍化し

2018 年 10 月号 中国の金融経済動向について 中国の AI 動向について 千葉銀行上海駐在員事務所

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○ユーロ

金融政策決定会合における主な意見

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

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中国におけるインフレの行方 中国経済は減速しているものの 過熱の解消にはまだ至っていない 年 9 月のリーマン ショックを受けて 中国は輸出が大幅に落ち込み 景気後退を余儀なくされたが 兆元に上る内需拡大策や 金利と預金準備率の大幅な引き下げをはじめとする拡張的財政 金融政策が実施されたことを受けて

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経済・物価情勢の展望(2016年10月)

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

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2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

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平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

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経済・物価情勢の展望(2018年1月)

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中国:なぜ経常収支は赤字に転落したのか

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

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1. 各都市の不動産市場トレンド 1-1. オフィス価格指数 対前回変動率 (2016 年 4 月から 2016 年 10 月まで ) 図表 1-1は オフィス価格指数の各都市 対前回変動率 今回 (2016 年 10 月現在 ) 対前回変動率が最も高かったのは 東京 の +3.4% 次いで 大阪

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先行き高めの成長が持続 現状 : 内外需要が堅調足許の経済は内外需要が堅調を維持 輸出は世界経済の回復を背景に急拡大 個人消費は良好な雇用所得環境を受けて 若干減速しつつも安定的に拡大 企業マインドの改善によって 固定資産投資に底入れの兆し 堅調な需要拡大を受けて 工業生産は高めの伸びを維持 展望

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SERIまんすりー2月号 今月のみどころ

スライド 1

中国経済展望2018年12月号

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2019 年 3 月期決算説明会 2019 年 3 月期連結業績概要 2019 年 5 月 13 日 太陽誘電株式会社経営企画本部長増山津二 TAIYO YUDEN 2017

経済・物価情勢の展望(2017年7月)

Economic Indicators   定例経済指標レポート

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(1月号)~輸出の好調続くも新型スマホ関連がピークアウトへ

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

タイトル

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長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

PowerPoint プレゼンテーション

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けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

先行き景気は緩やかに減速 現状 : 景気は減速局面入りでは 217 年 1~12 月期の実質 GDP が前年同期比 +6.8% と 前の期から横ばいに 環境規制の強化や貸出金利の上昇が景気の押し下げ要因となった一方 世界経済の回復を反映した輸出の拡大が押し上げ要因に 217 年通年の経済成長率は前年

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

Microsoft Word ECB利下げ.doc

Invesco Premia Plus Fund

先行き景気は緩やかに減速 現状 : 景気は減速局面入り経済は減速局面入り 政府が環境規制を強化したため 重工業で減産の動き 短期市場金利を高めに誘導するとともに 金融監督を強化したことも 企業の資金調達コストを上昇させ 固定資産投資が緩やかに減速 小型車減税措置の完全終了 (217 年末 ) に伴い

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(10月号)~輸出はスマホ用電子部品を中心に高水準を維持

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

先行き高めの成長が持続 現状 : 内外需要が堅調経済は内外需要が堅調を維持 輸出が世界経済の回復を背景に拡大 工業生産も高めの伸びが持続 もっとも 固定資産投資の増勢は鈍化傾向 内訳をみると 民間投資と不動産開発投資が小幅に加速したものの 国有企業の設備投資やインフラ投資が減速 政府は 民間投資が拡

Microsoft Word - 第8回「国際不動産価格賃料指数」(2017年4月現在)


目次 要旨 1 Ⅰ. 通信 放送業界 3 1. 放送業界の歩み (1) 年表 3 (2) これまでの主なケーブルテレビの制度に関する改正状況 4 2. 通信 放送業界における環境変化とケーブルテレビの位置づけ (1) コンテンツ視聴環境の多様化 5 (2) 通信 放送業界の業績動向 6 (3) 国民

2019年の日本経済

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

中国 資金流出入の現状と当局による対応

マイナス金利付き量的 質 的金融緩和と日本経済 内閣府経済社会総合研究所主任研究員 京都大学経済学研究科特任准教授 敦賀貴之 この講演に含まれる内容や意見は講演者個人のものであり 内閣府の見解を表すものではありません

2019年の中国経済見通し:強まる景気減速感

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

本文

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I. 調査結果概況 景気判断 DI( 現状判断 ) は小幅に上昇し最高値を更新 仕入原価高止まりも客単価が上昇 10 月スーパーマーケット中核店舗における景気判断 49.1 と小幅に上昇し 2010 年 4 月の調査開始以降最高値を記録した 経営動向調査によると売上高 DI が 1.1 とはじめてプ

株式市場 米国株 景気 企業業績は依然として堅調 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 貿易摩擦への懸念から下落米国株式市場は下落しました トランプ米大統領が鉄鋼やアルミニウムの輸入を制限する方針を表明したことから 世界的な貿易摩擦への懸念が高まり下落して始まりました その後 貿

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【ロシア最新経済金融週報】

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

中国:大都市の住宅頼みの景気底入れへ

平成10年7月8日

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【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(5月号)~輸出は好調も、旧正月の影響を均せば増勢鈍化

[ 調査の実施要領 ] 調査時点 製 造 業 鉱 業 建 設 業 運送業 ( 除水運 ) 水 運 業 倉 庫 業 情 報 通 信 業 ガ ス 供 給 業 不 動 産 業 宿泊 飲食サービス業 卸 売 業 小 売 業 サ ー ビ ス 業 2015 年 3 月中旬 調査対象当公庫 ( 中小企業事業 )

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第6回 国際不動産価格賃料指数(2016年4月現在)

PowerPoint プレゼンテーション

12月CPI

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Economic Indicators   定例経済指標レポート

Transcription:

1 / 5 発表日 :2018 年 11 月 14 日 ( 水 ) 中国 家計消費の伸びは歴史的低水準に ~ 規模の魅力は大きい一方 急速に勢いが陰りをみせる動きが一段と鮮明に~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部主席エコノミスト西濵徹 ( :03-5221-4522) ( 要旨 ) 足下の中国経済を巡っては減速懸念が高まっている 当局は景気下支えに向けて様々な政策対応を打ち出しているが 10 月の金融市場を巡る動きは効果を挙げていないことを示唆する 融資は伸び悩みが続くほか 国際金融市場の動揺に伴う資金流出圧力の高まりを受け 当局は人民元相場の安定を図ったとみられ 外貨準備高も大きく減少した 中国経済を取り巻く状況が厳しさを増すなか 政策対応は困難を極めている 10 月の小売売上高は前年比 +8.6% に鈍化し 実質ベースでは同 +5.6% と歴史的低水準となった 家計部門を巡る環境が厳しさを増すなか 消費全般に下押し圧力が掛かっている 消費市場としての魅力は依然高いが 勢いは急速に鈍化している 他方 インフラ投資の進捗を反映して 10 月の固定資本投資は年初来前年比 +5.7% と加速した 外需の堅調さを反映して 関連分野で投資が底入れする動きも出る一方 資金需給のタイト化は不動産投資の重石となっている また インフラ投資の底入れに伴い 10 月の鉱工業生産は前年比 +5.9% に加速した 当面については インフラ投資の進捗は生産を下支えする展開が続くと期待される 当局は足下の景気を 安定成長 とする一方 物価が低水準に留まるなかで追加的な政策対応の必要性に言及している 当面は自律的な景気回復が見込めず 当局の次なる対応にこれまで以上に要注目と言える 足下の中国経済を巡っては 米中貿易摩擦の激化により製造業 サービス業問わず企業マインドが急速に悪化しているほか 年明け以降の株価下落によるバランスシート調整圧力に加え 中国の報復措置に伴う物価上昇を受けて家計消費など内需への下押し圧力が顕在化し ( 詳細は9 日付レポート 中国の家計部門は株価下落と物価上昇の板ばさみ をご参照下さい ) 景気減速が意識されている 米中貿易摩擦に伴う経済への悪影響を緩和すべく 中国政府は企業部門を対象に増値税や法人税の引き下げのほか 輸入関税の段階的な引き下げ実施など企業が直面するコスト上昇圧力の緩和に取り組んできた また 政府主導による企業部門を対象とするデレバレッジ ( 債務抑制 ) 策と景気下支えの両立を目指すべく 的を絞った 形での金融緩和に取り組んできたが 充分な成果を挙げることが出来ず 先月には全面的な預金準備率の引き下げに動いた ( 詳細は 10 月 9 日付レポート 中国 景気減速懸念払拭へ 全面的な 政策対応へ をご参照下さい ) さらに 家計部門を取り巻く環境が厳しさを増していることに対応すべく 個人所得税の基礎控除引き上げによる実質減税を決定し 改正法の施行は来年 1 月ながら 基礎控除の引き上げは先月から行われるなど 前倒しで景気下支えに取り組んでいる ただし こうした様々な取り組みにも拘らず 10 月の中国金融市場を巡る動きは 一連の取り組みが依然として効果を挙げるには至っていない様子を示唆する 10 月の新規の人民元建融資額は 6970 億元と前年同月 (6632 億ドル ) から+5.1% 拡大したが 前月 ( 同 +8.7%) から伸びが鈍化し 10 月末時点の人民元建融資残高は前年同月比 +13.1% と前月 ( 同 +13.2%) から鈍化するなど伸び悩んでいる さらに 預

2 / 5 金準備率の引き下げなどに伴い狭義のマネーサ図 1 外貨準備高の推移プライの伸びは底入れする一方 広義のマネーサプライであるM2の 10 月の伸び率は前年同月比 +8.0% と前月 ( 同 +8.3%) から鈍化するなど資金需要は伸びず 中国の内需を取り巻く環境は厳しい状況を脱していない また 10 月の国際金融市場では夏場以降の混乱の要因となった トルコ ショック 一巡にも拘らず 新興国などで資金流出圧力が強まり 中国金融市場でも株価下落 が続いたほか 人民元の対ドル相場も下落基調を 強めるなど資金流出圧力が強まった 結果 10 月末時点の外貨準備高は3 兆 531 億ドルと前月から 339 億ドルと3ヶ月連続で減少するなど 人民元相場の安定に向けて当局が積極的な為替介入に動いた可能性を示唆する動きもみられる 足下の状況は中国経済を取り巻く状況が厳しさを増すなか 当局の局面打開に向けた積極姿勢にも拘らず 充分な効果を挙げることが難しいことを示唆している こうした状況は 10 月の経済指標の動きでも明らかである 家計消費の動向を示す 10 月の小売売上高は前年同月比 +8.6% と前月 ( 同 +9.2%) から伸びが鈍化し 物価の影響を除いた実質ベースでも同 + 5.6% と前月 ( 同 +6.4%) から鈍化して 24 年強ぶりの低い伸びとなるなど 急速に勢いが弱まってい る 前月比は+0.64% と前月 ( 同 +0.56%) からわずかに拡大ペースが加速したものの 足下では米中貿易摩擦の激化を受けて食料品やエネルギーなど生活必需品を中心に物価上昇圧力が高まっており 実質ベースでも弱含む展開が続いている 都市部及び農村部ともに個人消費の勢いが鈍化し 財別ではエネルギー価格の上昇の動きなどを反映して石油製品関連の消費の伸びは加速したほか 住宅需要の堅調さを受けて建築資材関連の消費も比較的堅調な動きが続く 他方 米中貿易摩擦の激化に伴い国内で米国製品に対するボイコットの動きが広がるなか 自動車市場では米国メーカーのシェアが比較的高いことから自動車販売台数が前年割れの展開が続くほか スマートフォンをはじめとする通信機器類の販売の伸びも鈍化するなど 貿易摩擦の影響が出ている 他方 食料品関連や衣類関連 化粧品関連 日用品関連など 近年のインターネットの爆発的普及に伴いEC( 電子商取引 ) を通じた購買が拡大し 図 2 小売売上高 ( 前年比 実質ベース ) の推移 ( 出所 ) 国家統計局, CEIC より第一生命経済研究所作成 図 3 自動車販売台数の推移, 季調値は当社試算

3 / 5 ている財も軒並み伸びが鈍化し 結果的にECを通じた小売売上高も 10 月は年初来前年比ベースで+ 25.5% と前月 ( 同 +27.0%) から鈍化するなど 幅広く個人消費に下押し圧力が掛かっている可能性がある なお 中国では今月 11 日の 独身の日 に大手 ECサイトが 2009 年以降毎年大々的なセールを展開しており それに伴い前月の消費が抑制された可能性はある ただし 当該セールを始めた大手 E Cのアリババの当日の売上高は 2135 億元 ( 約 3.5 兆円 ) と過去最高を更新したが 前年比 +26% と前年 ( 同 +39%) から伸びが鈍化しており その水準は魅力的な一方で勢いに陰りが出ている 当局の景気下支え策に加え 金融市場活性化に向けた様々な対策を受け 足下の株価は一進一退の動きが続いているが 年明け以降の下落局面の打開には繋がっておらず 家計資産に占める株式の割合が相対的に高い中国では家計消費の重石になりやすい展開が続く 先行きについても当面は当局による動きが左右する状況が続く可能性が高いと見込まれる なお 中国当局は景気減速が懸念されて以降も 過去に行った大規模インフラ投資が足下の企業部門を中心とする過剰債務の元凶になったため 大規模な財政出動を伴うインフラ投資拡充には及び腰の姿勢をみせてきた 他方 インフラ投資は 的を絞った と対象を絞るなど過去の教訓を反省材料に抑制的な対応を示してきたが 結果的にこうした動きは投資の効果発現のタイミングを遅らせるとともに このところの景気減速懸念を一段と助長させた可能性がある ただし 足下ではようやく効果が発現する動きが出ている模様であり 10 月の固定資産投資は年初来前年比ベースで+5.7% と前月 ( 同 +5.4%) から2ヶ月連続で伸びが加速し 当研究所が試算した単月ベースの前年比も加速感を強めるなど底入れが進む 前月比も+0.44% と前月 ( 同 +0.43%) からわずかながら拡大ペースが加速し 夏場を底に緩やかに拡大傾向を強めている 実施主体別では 国有企業による投資で 図 4 固定資産投資 ( 年初来前年比 ) の推移 底入れの動きが明確になるなど 公的部門で軒並み拡大傾向が強まり インフラ投資の進捗が進んでいる様子がうかがえる また 民間部門による固定資本投資の伸びも加速感を強めており このところ伸び悩みの動きが鮮明になってきた通信機器関連や電気機械関連のほか 特殊機械関連 一般機械関連 金属製品関連など幅広い分野で伸びに底打ち感が出ている また 足下で販売が伸び悩む自動車関連でも投資の伸びに底打ちの兆しが出ており 政府の補助金による普及の後押しなどを背景にEV( 電気自動車 ) の販売が堅調なことも後押ししているとみられる なお 内訳をみると建設関連で伸びに底入れの動きがみられるが 製造設備をはじめとする機械購入関連の伸びは鈍化しており 景気の先行き不透明感がくすぶるなかで能力増強投資は手控えられている可能性がある 他方 年明け以降は比較的堅調に推移してきた不動産投資は年初来前年比ベースで 10 月は+9.7% と前月 ( 同 +9.9%) から伸びが鈍化し 分野別ではオフィス関連や商業用不動産関連では引き続き前年割れで推移しており マイナス幅が拡大するなど一段と鈍化傾向を強める一方 堅調な動きが続いた住宅向けの伸びに頭打ち感が出ている 当局による金融緩和にも拘らず 国際金融市場の動揺などの余波で資金需給がタイト化する展開が

4 / 5 続き 不動産市場への資金流入の動きが細っていることが影響しているとみられ 不動産関連の景況感も 101.94 と依然高水準ながら前月 (101.99) から 0.05pt 低下している なお 共産党及び政府は先月末以降 弱い部分を対象とするインフラ投資の強化 を発表するなど 進捗促進に向けた取り組みを強化する動きをみせており この効果発現は固定資本投資の押し上げを通じて景気を下支えすると期待される 他方 当局は金融機関に対して新規融資の半分を中小 零細を中心とする民間企業向けに振り向けるよう要請するなど 潜在的な不良債権化が懸念されるほか ゾンビ企業 の延命措置に繋がることで金融機関の体力を奪うリスクもある 過剰債務懸念が依然払拭出来ないなかで 新たな金融膨張によりリスクが増幅する可能性にも注意が必要と言える 家計消費は勢いに乏しい展開が続く一方 インフラ関連を中心に固定資産投資に底入れの兆しが出ていることを反映して 10 月の鉱工業生産は前年同月比 +5.9% と前月 ( 同 +5.8%) から伸びが加速し ( 物価の影響を除いた実質ベースでも数値はともに同じ ) 底打ち感が出ている 前月比は+0.48% と前月 ( 同 +0.48%) と同じペースで推移しており 昨年末から年初と比べるとペースは力強さを欠く展開であるが 底這いの状況が続いていると捉えられる なお 実施主体別では国有企業や地方政府に関連する集体企業などで生産が鈍化する動きが続く一方 民間企業や外資系企業などで生産底入れの動きが強まるなど対照的な展開となっている こうした動きは 中国国内景気に対して不透明感がくすぶる一方 世界経済は引き続き拡大の動きが続いており このところの人民元安の 図 5 鉱工業生産 ( 前年比 ) の推移 進展などに伴い輸出競争力が向上するなか 外需向けを中心に生産が底入れしている可能性を示唆する こうしたことは 業種別でも輸出に関連する通信機器などの電子設備関連のほか 特殊機械関連や一般機械関連 電気機械関連などで軒並み生産の伸びが加速感を強めていることに現れている ただし 米中貿易摩擦の激化などを反映してスマートフォンをはじめとする携帯電話の生産は引き続き前年割れとなったほか 自動車販売の低迷に伴いSUV( 多目的自動車 ) を中心に自動車の生産台数も前年割れが続くなど こうした動きによる減産圧力を反映して産業用ロボットの生産も低迷するなど厳しい環境もみられる また 国内向けが太宗を占める医薬品関連や農業及び食品加工関連などの生産は鈍化しており 内需と外需を取り巻く状況の違いが足下の生産の動きにも現われている なお 上述のようにインフラ投資に底入れの動きが出ていることなどを反映して 鋼材や粗鋼をはじめとする鉄鋼製品関連のほか セメントなどインフラに大きく関連する財の生産は軒並み伸びが加速しており 今後もインフラ投資の促進が期待されるなかで生産が下支えされる展開が続くと見込まれる なお 10 月の経済指標発表に併せて国家統計局の報道官は 足下の中国経済について 下押し圧力に直面している としつつ 適切な政策対応により安定成長が続いている との認識を示し 先行きについても 妥当な水準での伸びが続き 成長率の年間目標 (6.5% 前後 ) は達成可能 との見方を示している 他方 政策を巡っては 貿易摩擦による影響が懸念されるなか 経済成長の支援に資する政策

5 / 5 措置を講じる必要がある としたほか 足下のインフレ率は緩やかな水準に留まっており 政策対応の余地は依然として比較的大きい と述べるなど さらなる景気下支えの必要性に言及している 具体的には インフラ投資に対する支援が続くであろう とする一方 物価は落ち着いた推移が続く との見通しを示し 必要に応じて追加的な預金準備率の引き下げなどを通じて株価低迷などに伴う需給ひっ迫懸念がくすぶる金融市場の下支えに動く可能性も考えられる ただし こうした状況は当面の中国経済は自律的な景気回復が期待しにくく 政策対応の行方に掛かっていることを意味しており 今月下旬にも行われる見通しの4 中全会 ( 第 19 期共産党中央大会第 4 回全体会議 ) の行方にこれまで以上に注目が集まるであろう 以上 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 作成時点で 第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが その正確性 完全性に対する責任は負いません 見通しは予告なく変更されることがあります また 記載された内容は 第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません