日本における「カンガルーケア・ガイドライン」

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Transcription:

日本における カンガルーケア ガイドライン 2009.05.30 第 12 回 カンガルーケア ガイドラインワーキンググループ 1

カンガルーポジション カンガルーポジション WHO カンガルーケアガイド (2003) より 2

南米ボゴタ コロンビア発 1970 年代後半 保育器が不足 スタッフも不足 院内感染頻発 当初在宅ケアHome care program カンガルーケア 3 要素 1) カンガルーポジション 2) カンガルー授乳 3) カンガルー退院 フォローアップ 3

世界各地への広がり 欧州のテレビ番組での紹介 1983 ユニセフ白書 死亡率の大幅な減少 育児拒否の改善 加えて低コスト 1980 年代後半様々な臨床研究 1990 年代教科書 書籍の登場 1996 WHO 正常出産のガイドライン 出生直後のカンガルーケアの推奨 4

日本のカンガルーケア はじまり : 1990 年代後半 32 週以後の安定した極低出生体重児 ( 堀内ら,1997) NICU 等の医療現場で阻害されてきた親子関係を何とか支援したい 各地で多くの成果 対象 時期 期間 環境など 施設ごとに試行錯誤 カンガルーケアのブランド化 事故も散見 効果と安全性に関して 日本の診療現場に則したツール ( 道具 ) が必要 5

毎年 日本各地で持ち回りで開催 今回で 12 回目 昨年は浜松で その前は大阪で開催でした 日本全国から カンガルーケアに関心のあるスタッフが集合 20 歳代 30 歳代が中心 看護師 > 助産師 > 医師 第 11 回 : 浜松にて ガイドラインづくりのワークショップも開催 6

ガイドライン とは? 守らなければいけない規則 ではありません! 医療者と患者 ( 家族 ) が特定の臨床状況で適切な決断を下せるよう支援する目的で体系的な方法に則って作成された文書 Minds 診療ガイドライン作成の手引き,2007 7

ガイドライン作成の手順 1) 文献レビュー 2) 科学的根拠のまとめ の作成 3) ガイドライン案の作成 4) デルファイ法を用いた意見の集約 5) パブリックコメントの募集 6) ガイドラインの完成 8

特長 1) 科学的根拠に基づく Evidence-based ガイドライン : 体系的な方法に則って作成 作成者の経験や 医療の権威者の発言により内容が左右されないように 科学的根拠に基づいた手法 一定水準以上の研究 ( 臨床試験 特にランダム化比較試験 ) から得られた結果を手順に沿って吟味 評価 9

科学的根拠に基づいたケア 科学的根拠 Evidence Values 価値観 好み 資源 環境 Resources Muir Gray, Evidence-Based Healthcare,2001 10

特長 2) 総意形成法を用いる Consensus method ガイドライン作成メンバーとは独立に 評価メンバーを募り ガイドラインを評価 ガイドラインの文言が現状に則しているか 個々の立場から意見を寄せてもらう 職種 年齢 性別等を考慮した 12 名 デルフィー変法を用いて 総意形成 広く一般からも意見を募集 ホームーページ メーリングリスト 学会 etc. 11

デルフィー変法の手順 I ガイドライン案の提示 (1 回目 ) II ガイドライン案に対する評価 (1 回目 ) III 改訂ガイドライン案の提示 (2 回目 ) IV ワークショップ ( 第 11 回in 浜松 ) V 改訂ガイドライン案に対する評価 (2 回目 ) VI 再改訂ガイドライン案の提示 (3 回目 ) VII 再改訂ガイドライン案に対する評価 (3 回目 ) VIII ガイドライン推奨案の完成 12

カンガルーケアを 3 つに分類 1. 全身状態が落ち着いた低出生体重児に対するカンガルーケア 2. 集中治療下にある児に対する一時的なカンガルーケア 3. 正期産児に出生直後に行うカンガルーケア 13

カンガルーケアガイドライン 14

ガイドラインの構成 はじめに + 前提条件 + トピックス 3 つ はじめに ガイドラインは守らなければいけない規則ではありません 利用しながら育て上げていく道具 前提条件 家族の心理 社会的な支援を整える 十分な情報提供を行い 家族の希望を確認 15

全身状態が落ち着いた低出生 体重児に対する カンガルーケア 全身状態がある程度落ち着いた低出生体重 ( 注 1) には まず母子同室を行った上で出来る限り 24 時間継続した ( 注 2) カンガルーケアをすることが薦められる 注 1: ここでは 体重が 2500g 未満の児で バイタルサイン ( 体温 呼吸数 脈拍数など ) が安定していて 原発性の無呼吸 ( 呼吸中枢の未熟性による無呼吸 ) がない または治療済みの場合をさします 注 2: 出来るだけ長時間 出来るだけ中断なく実施することが望まれます 16

全身状態が落ち着いた低出生体重児 科学的根拠その 1 24 時間継続して行うカンガルーケア かなり強力な科学的根拠あり 安全性有害事象の報告なし 有効性院内感染 重症感染症 退院時母乳率 母親の満足感 退院時体重増加 死亡率 修正 12カ月時精神運動発達 17

全身状態が落ち着いた低出生体重児 科学的根拠その 2 実施対象 実施時間 科学的根拠はあるが不十分 2500g 未満 バイタル安定 無呼吸なし 32 週以降 軽度の呼吸障害でも可 科学的根拠はあるが不十分 頻回な状況変化は児にストレス 1 回の実施時間は最短でも60 分以上 中断せずに 日に1-2 時間のカンガルーケアは90-95% の時間母子が離ればなれ 処置時も継続可 18

全身状態が落ち着いた低出生体重児 ガイドライン作成の 道のり 科学的根拠 : 有効性 安全性ともあり 日本の現状 : 短時間 (30-60 分 ) が主流 24 時間継続 vs 出来る限り長時間 精神的 肉体的に家族の負担多すぎ? 施設のハード面での制限あり? カンガルーケア以前の問題 : その前に 母子同室ができていない! 19

集中治療下にある児に対する 一時的な カンガルーケア 集中治療下 ( 注 3) にある児へのカンガルーケアは 体温 酸素飽和度などのモニタリングで安全性を確保し 児の経過 全身状態から適応を入念に評価する ( 注 4) 必要がある さらにご両親の心理面に十分に配慮する環境が得られた場合 ( 注 5) 実施を考慮する 注 3: 超急性期は除く 人工呼吸管理下を含むか否かは 各施設の状況にあわせ あらかじめスタッフ内で十分な意思統一が必須です 注 4: カンガルーケア実施中のみならず 前後数時間の状態 移動中も含めて赤ちゃんの状態を評価することが必要です 特に実施後の状態変化には注意を要します 注 5: ご両親の心の準備が十分にできていない状態でのカンガルーケアは不安を増大することがあるので注意を要します 20

集中治療下にある児科学的根拠 その1 早産児 低出生体重児に対する生後早期のカンガルーケアかなり強力な科学的根拠あり 安全性有害事象の報告なし 有効性評価指標が一致せず ( 結論得られず ) 体温 心拍数 酸素飽和度への影響かなり強力な科学的根拠あり 体温穏やかに 外気温低いと保温効果 心拍数変化なし 酸素飽和度ケア中 後で低下 21

集中治療下にある児 科学的根拠その 2 実施時間 開始時期の検討 信頼性の高い科学的根拠は見つからず ケア開始の条件の検討 信頼性の高い科学的根拠は見つからず 22

集中治療下にある児 ガイドライン作成の 道のり 科学的根拠 : 有効性 安全性とも不十分 日本の現状 : 積極的に取り組まれてきている 家族にとって : 不安もかなり強い 家族の心理的 社会的配慮への言及が必要 安全性の確保 : ケア中 + 前後 移動中も 集中治療下 の定義 : 一律に決めるのは不可能 施設ごとの判断 23

正期産児に出生直後に行う カンガルーケア 健康な正期産児には ご家族に対する充分な事前説明と 機械を用いたモニタリングおよび新生児蘇生に熟練した医療者による観察など安全性の確保 ( 注 6) をした上で 出生後できるだけ早期に できるだけ長く ( 注 7) ご家族 ( 特に母親 ) とカンガルーケアをすることが薦められる 注 6: 今後さらなる研究 基準の策定が必要です 注 7: 出生後 30 分以内から 出生後すくなくとも最初の2 時間 または最初の授乳が終わるまで カンガルーケアを続ける支援をすることが望 まれます 24

出生直後の正期産児 科学的根拠その 1 生後早期の肌と肌の接触の有効性 かなり強力な科学的根拠あり 母乳育児初回授乳の成功 母乳継続期間 乳房トラブル 不安感 等 児の体のサイン体温保持 泣く回数 血糖値 呼吸循環の安定 等 母親の愛着行動愛情行動 接触行動 等 25

出生直後の正期産児 科学的根拠その 2 科学的根拠はあるが不十分 経膣分娩生後 30 分以内 30 分以上 帝王切開少なくとも半数は30 分以内に開始 生後最初の2 時間または最初の授乳が終わるまで 実施時間 信頼性の高い科学的根拠は見つからず 後期早産児 帝王切開児?? 実施対象 安全性 国内 NICU 調査 : 重大な急変まれではない 26

出生直後の正期産児 ガイドライン作成の 道のり 科学的根拠 : 有効性は十分 安全性は? 日本の現状 : 積極的に適応を広げて取り組まれてきている 機械的モニタリング vs 医療者の観察 母子相互関係が阻害される 安全性の配慮が第一 安全性 : 充分な事前説明が不可欠 出生直後は全ての児が不安定 更なる研究 調査が必要 27

より安全でより効果的なケアのために 正しい情報を入手 正しく実施する 環境整備から カンガルー ガイドライン を充分に理解し 広めてください 28

http://www.seirei.or.jp/hamamatsu/hama/guide/kcm/under/kcm_c.htm 検索エンジンで カンガルーケア ガイドライン ガイドライン 検索 クリック! 29

カンガルー ガイドライン 冊子がほしい ( 送料実費 ) ご意見 ご質問 連絡先 : Kmcgl.jp@gmail.com 30