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平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

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2015年1~3月期GDP速報と先行き経済への視点

2014年4~6月期GDP速報と先行き経済への視点

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

経済・物価情勢の展望(2018年1月)

長と一億総活躍社会の着実な実現につなげていく 一億総活躍社会の実現に向け アベノミクス 新 三本の矢 に沿った施策を実施する 戦後最大の名目 GDP600 兆円 に向けては 地方創生 国土強靱化 女性の活躍も含め あらゆる政策を総動員することにより デフレ脱却を確実なものとしつつ 経済の好循環をより

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

月例経済報告

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

(Microsoft Word \214\216\215\206_\203g\203s\203b\203N1\201i2010\224N\223x\214o\215\317\214\251\222\312\202\265\201j.doc)

月例経済報告

物価の動向 輸入物価は 2 年に入り 為替レートの円安方向への動きがあったものの 原油や石炭 等の国際価格が下落したことなどから横ばいとなった後 2 年 1 月期をピークとし て下落している このような輸入物価の動きもあり 緩やかに上昇していた国内企業物価は 2 年 1 月期より下落した 年平均でみ

チーフエコノミスト : 高田創 [ 経済予測チーム ] 山本康雄 ( 全体総括 ) 米国経済小野亮 山崎亮

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平成23年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

第1章

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

けた この間 生産指数は 上昇傾向で推移した (2) リーマン ショックによる大きな落ち込みとその後の回復局面平成 20 年年初から年央にかけては 米国を中心とする金融不安 景気の減速 原油 原材料価格の高騰などから 景気改善の動きに足踏みが見られたが 生産指数は 高水準で推移していた しかし 平成

別紙2

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平成 23 年 3 月期 決算説明資料 平成 23 年 6 月 27 日 Copyright(C)2011SHOWA SYSTEM ENGINEERING Corporation, All Rights Reserved

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建設経済モデルによる建設投資の見通し

資料1

個人消費の回復を後押しする政策以外の要因~所得の減少に歯止め、節約志向も一段落

2018年4-6月期2次速報値 時系列表1

建設経済モデルによる建設投資の見通し

建設経済モデルによる建設投資の見通し

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2018年夏のボーナス見通し

経済情報:日銀短観(2011年6月)の結果について.doc

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

金融政策決定会合における主な意見

2017年夏のボーナス見通し

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

時系列表1

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

2 / 6 不安が生じたため 景気は腰折れをしてしまった 確かに 97 年度は消費増税以外の負担増もあったため 消費増税の影響だけで景気が腰折れしたとは判断できない しかし 前回 2014 年の消費税率 3% の引き上げは それだけで8 兆円以上の負担増になり 家計にも相当大きな負担がのしかかった

今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

第45回中期経済予測 要旨

日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

中国:PMI が示唆する生産・輸出の底打ち時期

SERIまんすりー2月号 今月のみどころ

平成14年1月20日

2014~2016年度 東海経済見通し

第 79 回 2017 年 5 月投資家アンケート調査結果 アンケート調査にご協力下さりました皆様 今年 5 月に実施致しましたアンケート調査にご回答下さり誠にありがとうございます このたび調査結果をまとめましたのでお送りさせていただきます ご笑覧賜れましたら幸 いです 今後もアンケート調査にご協力

Economic Indicators   定例経済指標レポート

1 概 況

Economic Indicators   定例経済指標レポート

○ユーロ

2018 年度第 3 四半期運用状況 ( 速報 ) 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に判断することが必要ですが 国民の皆様に対して適時適切な情報提供を行う観点から 作成 公表が義務付けられている事業年度ごとの業務概況書のほか 四半期ごとに運用状況の速報として公表を行うも

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タイトル

( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 金 25, 2, 15, 12, 営業利益率 経常利益率 額 15, 9, 当期純利益率 6. 1, 6, 4. 5, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 8 社 214 年度 215 年度前年度差 ( 単位 : 億円 ) 前年

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1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

Economic Trends    マクロ経済分析レポート

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金融市場2018年12月号

○ユーロ

経済財政モデル の概要 経済財政モデル は マクロ経済だけでなく 国 地方の財政 社会保障を一体かつ整合的に分析を行うためのツールとして開発 人口減少下での財政や社会保障の持続可能性の検証が重要な課題となる中で 政策審議 検討に寄与することを目的とした 5~10 年程度の中長期分析用の計量モデル 短

我が国中小企業の課題と対応策

米国の利上げ見送りと日本の長期化した金融緩和

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

スライド 1

4月CPI~物価は横ばいの推移 耐久財の特殊要因を背景に、市場予想を上回る3 ヶ月連続の上昇

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Economic Trends    マクロ経済分析レポート

平成28年度国民経済計算 年次推計 (支出側系列等)

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

経済見通し

イクル成分 のみから 需要側の動きの 仮置き値 の作成を行う これにより 次 QE から 2 次 QE への改定幅を縮小させることが期待される 本改善策は 22 年 4-6 月期 次 QE から導入する 本改善策の効果について 一定の仮定をおいて試算を行ったところ 民間企業設備の 2 年 7-9 月

「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

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マネーマーケットマンスリー 2018年3月

1. 総論 総括判断 都内経済は 回復している 項目前回 ( 1 月判断 ) 今回 (3 年 1 月判断 ) 前回比較 総括判断回復している 回復している ( 注 )3 年 1 月判断は 前回 1 月判断以降 1 月に入ってからの足下の状況までを含めた期間で判断している ( 判断の要点 ) 個人消費

( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

( 第 11 号 ) 2018 年 8 月 21 日 MRFRD 新生銀行金融調査室伊藤篤 ( ) 金融機関 が金融政策を歪めるリスク : 最適な金融政策を考える 金融緩和の副作用の 2つの論点 金融仲介機能 金融機関収益の改善のための利上げ との見方 金融市

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平成23年11月1日

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Transcription:

2011 年 月期 GDP 速報 (1 次速報 ) の概要 ~ 海外経済の先行き不安により不透明感が強まる我が国経済 ~ 調査情報担当室竹田智哉 1. 供給力の早期回復による下げ止まり傾向の明確化 2011 年 月期のGDP 成長率 (1 次速報値 2011 年 8 月 15 日公表 ) は 実質では 0.3%( 年率 1.3%) 名目では 1.4%( 同 5.7%) と3 四半期連続のマイナス成長となった ( 図表 1 2) この理由として 3 月 11 日の東日本大震災の発生による供給力 ( 生産設備やサプライチェーンなど ) の毀損等から 輸出 ( 前期比 4.9% 寄与度 1 0.8% ポイント ) が大きく落ち込んだことが挙げられる その一方 内需については 1 復旧事業に関連した公的固定資本形成 ( 前期比 3.0% 寄与度 0.1% ポイント ) が増加したこと 2 2 供給力の回復が進み 5 月以降は生産の持ち直しの動きが本格化する中で 3 震災後の自 図表 1 GDP 成長率と構成要素別の成長率の推移 ( 季節調整値 前期比 (%)) 2009 ( 年度 ) ( 年度 ) 7~9 10~12 2011 1~3 実質 GDP 2.4 2.3 0.1 1.0 0.6 0.9 0.3 内需 ( 2.7) (1.4) ( 0.5) (1.2) ( 0.6) ( 0.7) (0.4) 民間最終消費支出 0.0 0.8 0.4 0.9 0.9 0.6 0.1 民間住宅投資 18.2 0.3 0.1 2.1 2.8 0.2 1.9 民間企業設備投資 13.6 4.2 2.4 1.1 0.1 1.4 0.2 民間在庫品増加 ( 1.1) (0.5) ( 0.5) (0.5) (0.0) ( 0.3) (0.3) 政府最終消費支出 3.5 2.2 0.9 0.5 0.4 0.9 0.5 公的固定資本形成 14.2 10.0 5.3 2.2 5.8 1.0 3.0 公的在庫品増加 ( 0.0) (0.0) (0.0) ( 0.0) (0.0) (0.0) (0.0) 外需 (0.3) (0.9) (0.3) ( 0.2) ( 0.1) ( 0.2) ( 0.8) 財貨 サービスの輸出 9.6 17.0 6.7 0.7 1.0 0.0 4.9 財貨 サービスの輸入 11.0 11.0 4.9 2.6 0.6 1.5 0.1 名目 GDP 3.7 0.4 0.9 0.6 1.0 1.5 1.4 名目雇用者報酬 3.6 1.0 0.2 0.2 0.0 0.3 0.0 ( 注 ) 内需 外需 民間在庫品増加 公的在庫品増加の数値は実質 GDP への寄与度 ( 出所 ) 内閣府 2011( 平成 23) 年 月期四半期別 GDP 速報 (1 次速報値 ) 1 実質 GDPへの寄与度 以下同じ 2 内閣府 与謝野内閣府特命担当大臣記者会見要旨平成 23 年 8 月 15 日 3 鉱工業生産指数 ( 季節調整済指数 ) は 2011 年 3 月には大幅なマイナスの伸び ( 前月比 以下同じ ) に陥ったものの 4 月以降はプラスの伸びが続いており 特に5~6 月は大きく伸びている ( 経済産業省 生産 出荷 在庫指数速報 (2011 年 7 月 )) 19 経済のプリズム No95 2011.9

図表 2 実質 GDP 成長率 ( 季節調整値 ) と需要項目別寄与度 5 (% % ポイント ) 民間最終消費支出 民間住宅投資 4 民間企業設備投資 民間在庫品増加 政府最終消費支出 公的固定資本形成 3 公的在庫品増加 財貨 サービスの輸出 2 財貨 サービスの輸入 GDP 1 0-1 0.3-2 2009 2009 2009 2011 2011 7~9 10~12 1~3 7~9 10~12 1~3 ( 暦年 / 四半期 ) ( 注 )GDPは前期比 他はGDPへの寄与度 ( 出所 ) 内閣府 2011( 平成 23) 年 月期四半期別 GDP 速報 (1 次速報値 ) 粛ムードの沈静化等を背景に民間消費 ( 前期比 0.1% 寄与度 0.0% ポイント ) 及び民間設備投資 ( 前期比 0.2% 寄与度 0.0% ポイント ) の落ち込みにおおむね歯止めがかかったこと等から プラスの寄与度 (0.4% ポイント ) に復しており 輸出による押下げ分が緩和されている なお 今回のGDP 速報において 実質 GDPは 年 10~12 月期から3 四半期連続のマイナス成長となったものの 政府は景気が後退局面に入ったとは判断しておらず 4 むしろ生産など供給力の早期回復等 5 を背景に景気判断を上方修正している 6 実際 震災直後に急落した輸出も6 月には一段落したことを踏まえると 7 7~9 月期にはプラス成長となることが確実視されており 我が国経済は東日本大震災による急激な落ち込みからは脱することができたと考えられる 4 脚注 2 参照 5 経済産業省 東日本大震災後の産業実態緊急調査 2 によると 被災した生産拠点の 80% が震災前の生産水準あるいはそれを上回る生産水準になっており 震災前の水準を下回ると回答した拠点のうち7 割以上が 2011 年内に震災前の生産水準に回復すると回答している 6 内閣府 月例経済報告 における景気に対する基調判断は 生産の回復を背景に 6 月には 景気は 東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるなかで このところ上向きの動きがみられる と 8 月には 景気は 東日本大震災の影響により依然として厳しい状況にあるものの 持ち直している と徐々に上方修正されている 7 輸出について月別に見ると 4~5 月に見られた急激な落ち込みは6 月には一段落している ( 財務省 貿易統計速報 (2011 年 7 月 )) 経済のプリズム No95 2011.9 20

また 2011 年 月期の物価 ( 前年同期比 以下同じ ) については GD Pデフレーターが 2.2%( 図表 3 - -) 内需デフレーターが 0.9%( 図表 3 - -) と引き続きマイナスの伸びとなった 内需デフレーターの落ち込みは 民間消費デフレーター ( 図表 3 赤色部分) のデフレ基調が続いていることが大きな理由である 8 GDPデフレーターについては これに円高などを背景とした輸出入価格下落の影響が加わっており 9 さらにデフレ傾向が強まっている 図表 3 GDP デフレーターの推移 ( 前年同期比 ) と寄与度 6 (% % ポイント ) 4 2 0.9 0-2 -4 2.2-6 2009 2009 7~9 2009 10~12 1~3 7~9 ( 暦年 / 四半期 ) 10~12 2011 1~3 民間消費デフレーター輸出デフレーター輸入デフレーター その他のデフレーター GDP デフレーター内需デフレーター 2011 ( 注 1)GDP デフレーター 内需デフレーターは前年同期比 それ以外は GDP デフレーターへの寄与度 ( 注 2) 各項目別デフレーターの GDP デフレーターへの寄与度は 各項目の名目成長率への寄与度と実質成長率への寄与度の差として計算した ( 出所 ) 内閣府 2011( 平成 23) 年 月期四半期別 GDP 速報 (1 次速報値 ) より作成 8 なお 民間消費デフレーターと関係が深いと考えられる消費者物価指数 ( 全国 ) は 2011 年 7 月分の指数より基準改定が行われており 全体的に伸び率 ( 前年同期比 以下同じ ) は下方改定されている ( 総務省 消費者物価指数全国 (2011 年 7 月 )) 特に 月における各月の総合指数及びコア指数 ( 総合指数から生鮮食品を除いた指数 ) の伸び率は 旧基準ではプラスであったのに対し 新基準ではマイナスに陥っている 9 GDP デフレーターと内需デフレーターの伸びの差は 輸出デフレーター及び輸入デフレーターの動きに左右され 輸入デフレーターは上昇すると GDP デフレーターにマイナスの寄与となる その理由は GDP 及びその構成要素には名目値 = 実質値 デフレーターという関係があることから 輸入デフレーターの上昇は名目輸入額を押し上げるが 名目輸入は名目 GD P の控除項目であるため 名目 GDP を押し下げてしまうからである なお これは実質値を固定した場合であり 名目値を固定した場合は実質輸入の押下げ = 実質 GDP の押上げとなる 21 経済のプリズム No95 2011.9

2. 民間シンクタンク見通し~ 復興の上振れと世界経済の下振れ 2-1. 民間シンクタンク見通しの共通認識シナリオ今回のGDP 速報を受け改定された民間シンクタンクの短期見通しでは まず東日本大震災により大きく毀損した供給力が当初の見込み以上に回復しつつあることから おおむね生産活動は震災前の水準に復しており 10 また懸念されていた夏期の電力供給の制約についても 家計 企業の節電対応等を背景に 全国的に見れば景気への影響は限定的と見られている このように 我が国国内では供給力が早期に回復した一方 欧米の財政不安等を背景に世界経済がある程度減速すると想定されているため 我が国においても輸出を起点とした景気回復の足取りは緩やかなものにとどまる ( 図表 4) というシナリオが 共通認識 となっている 今回の民間シンクタンクの見通しは 震災発生後最初のGDP 速報が公表さ 図表 4 民間シンクタンク見通しの共通認識における景気動向 ( イメージ ) 580 ( 兆円 ) 560 震災で毀損した供給力の回復は見込み以上に進行 世界経済は減速 2012 年度 540 2008 年度 2009 年度 年度 2011 年度 回復の足取りは緩やか 520 500 2008 2009 2011 2012 ( 暦年 / 四半期 ) ( 注 ) 棒グラフは各四半期の実質 GDP( 実績値 季節調整値 ) 赤色の水平線は各年度の実質 GDPを示す ( 実線は実績値 点線は前年度実績値から民間シンクタンクの共通認識 ( 図表 5の 平均 ) の伸び率で成長した場合の数値 ) また 黒色の太線は 民間シンクタンク見通しの共通認識における先行きの景気動向をイメージしたものである ( 出所 ) 内閣府 2011( 平成 23) 年 月期四半期別 GDP 速報 (1 次速報値 ) 等より作成 10 脚注 3 及び脚注 5 参照 経済のプリズム No95 2011.9 22

れた5 月時点の見通しと比較すると 以下のような違いがある 5 月時点の見通しでは 世界経済は比較的堅調さを保っていたことから 世界経済という需要が健在であるうちに我が国の供給力が回復できるならば 再び輸出主導の景気回復が実現されると考えられていた そのため 供給力の早期回復が復興後の景気回復においても大前提というべき条件であり シナリオを左右する大きな要因とされていた 一方 今回の見通しでは 足下で確認された供給力の回復を基準とし 震災前と同様に輸出主導の景気回復プロセスが想定されており その始点である輸出の動向を占う世界経済の先行きがシナリオを左右するポイントとなっている 5 月時点の見通しでは 健在 としていた世界経済は 足下では既に景気の減速が見られており 11 今後についても欧米の財政不安などその後の急激な先行き不透明感の強まりを受けて 減速は否めないものとされている 2-2. 共通認識シナリオの下での見通しの数値 2-1 節の共通認識シナリオを踏まえ 民間シンクタンクの見通しの数値を見ると 2011 年度の実質 GDP 成長率 ( 平均 ) は 0.4% 2012 年度は 2.4% となっている ( 図表 5) まず 2011 年度について見ると 5 月時点の見通しと比べ 実質 GDP 成長率は 0.4% ポイント程度の上方修正となっている その理 図表 5 民間シンクタンクの短期経済予測 ( 前年度比 (%)) 2011 年度 (5 月時点切り落とし切り落とし平均の平均 ) 最大最小 最大 最小 実質 GDP 0.0 0.4 0.8 0.0 1.0 0.5 民間最終消費支出 0.8 0.4 0.2 0.5 0.2 0.7 民間住宅投資 4.6 2.2 3.9 1.1 4.5 0.8 民間企業設備投資 1.7 2.0 3.0 0.4 3.7 0.4 政府最終消費支出 3.1 2.2 2.6 1.8 3.6 1.6 公的固定資本形成 5.7 4.3 6.6 1.8 7.5 1.6 輸出 0.7 0.2 1.5 1.9 2.0 2.9 ( 控除 ) 輸入 5.0 4.2 6.2 2.4 7.2 2.4 名目 GDP 1.1 1.3 0.9 1.9 0.6 2.7 GDPデフレーター 1.1 1.7 1.4 1.9 1.2 2.2 消費者物価指数 0.5 0.2 0.0 0.4 0.0 0.5 国内企業物価指数 2.3 1.9 2.3 1.2 2.5 1.0 11 世界経済における 2011 年 月期の実質 GDP 成長率は 米国は 1.0%( 年率 ) EUは 0.2% となっている ( 米国 Bureau of Economic Analysis 資料 EUROSTAT 資料 ) 23 経済のプリズム No95 2011.9

2012 年度 (5 月時点切り落とし切り落とし平均の平均 ) 最大最小 最大 最小 実質 GDP 2.9 2.4 2.8 2.0 3.0 2.0 民間最終消費支出 1.0 0.8 1.0 0.4 1.6 0.3 民間住宅投資 7.2 5.9 11.2 3.8 11.8 2.5 民間企業設備投資 5.8 5.2 7.3 3.8 7.3 3.5 政府最終消費支出 0.9 1.4 2.3 0.0 3.3 0.0 公的固定資本形成 4.7 8.0 11.6 1.4 35.2 0.9 輸出 9.1 6.6 9.0 3.1 9.2 2.8 ( 控除 ) 輸入 6.4 5.5 9.7 2.8 16.8 0.6 名目 GDP 2.6 2.0 2.8 1.4 3.2 1.1 GDPデフレーター 0.3 0.4 0.2 0.9 0.3 1.4 消費者物価指数 0.4 0.3 0.0 0.8 0.2 0.8 国内企業物価指数 1.3 0.7 1.9 0.0 2.2 1.2 ( 注 1) 平均 とは 出所資料(2011 年 8 月集計 ) における 14 機関 ( 消費者物価指数 及び国内企業物価指数は 13 機関 ) の予測値の平均値である ( 注 2) 5 月時点の平均 とは 出所資料 (2011 年 5 月集計 ) における 13 機関 ( 国内 企業物価指数のみ 12 機関 ) の予測値の平均値である ( 注 3) 切り落とし最大 切り落とし最小 とは 出所資料(2011 年 8 月集計 ) にお ける 14 機関 ( 消費者物価指数及び国内企業物価指数は 13 機関 ) の予測値のうち 各項目について最大値と最小値を除いた 12 機関 ( 同 11 機関 ) の予測値の最大値と 最小値を示す ( 注 4) 消費者物価指数は 生鮮食品を除く総合指数 ( 注 5)GDPデフレーターは 名目及び実質 GDP 成長率の差として計算した ( 出所 ) 日本経済研究センター 民間調査機関経済見通し (2011 年 8 月集計 ) 日本経 済研究センター 民間調査機関経済見通し (2011 年 5 月集計 ) より作成 由は 足下で回復傾向が見られることなどを背景に 民間消費と輸出の落ち込みが和いだことが挙げられる なお 8 月 12 日に公表された 平成 23 年度の経済動向について ( 内閣府年央試算 ) においては 2011 年度の実質 GDP 成長率を 0.5% としており 民間シンクタンクの平均値に近い ただし 名目 G DP 成長率では 民間シンクタンクの平均値が 1.3% であるのに対し 内閣府試算では 0.4% としており 大きな違いが見られている これは デフレの評価が異なることが理由である 2012 年度については 2011 年度とは対照的に 実質 GDP 成長率は 0.5% ポイント程度の下方修正となっている この理由は 5 月時点では 健在 であった世界経済が減速するとの予想を背景に 輸出の伸びが抑えられていることが大きい その他の内需については 公的固定資本形成を除いて特段の違いは見られない また 両年度の公的固定資本形成については 全機関がプラスの伸びと見ているものの 平成 23 年度第 2 次補正予算の規模が5 月時点の民間シンクタンク 経済のプリズム No95 2011.9 24

の想定よりも小さく 今後策定される3 次補正の予算執行は 2012 年度にずれ込む可能性があるとして 2011 年度の伸びを若干弱め 2012 年度の伸びを高めている 12 なお 物価について見ると 両年度の物価 3 指標 ( 消費者物価指数 国内企業物価指数及びGDPデフレーター ) の伸びは 円高等を背景に 平均で見ると5 月時点の見通しよりも下方修正されており デフレ脱却は今回の見通しでも先送りされている 3. 世界経済を中心に警戒感が高まる下振れリスク 2 節で述べた民間シンクタンクの共通認識シナリオにおいては 世界経済が減速するという想定の下で 我が国の景気回復の足取りは緩やかなものにとどまるとの見通しがなされている しかし 足下では 世界経済の先行きについての不透明感は増しており 減速 という程度でとどまるかどうかは大きなポイントと考えられる この点に関して 民間シンクタンクは その見通しには反映させていないものの 1 欧米のソブリンリスク等を背景とした国際的な金融市場の先行きへの懸念 21 及び欧米の財政引締めによる景気減速懸念などを下振れリスクとして指摘しており 警戒感を強くもっている ( 図表 6) 既に足下では 欧米経済の減速傾向が顕著となっており 欧州一部諸国の国債利回りの更なる上昇 米国債格付けの引下げや8 月以降の世界的な株安が見られている さらに 米国については緊縮財政による景気冷え込み懸念があることなどを踏まえると 1 及び2の先行きについては 減速 にとどまるかどうかは予断を許さない状況にあると言えよう さらに 歴史的な高水準が続く円高が現在程度の水準で今後も推移していくようならば 大きな下振れリスク要因となることが懸念される 民間シンクタンクでは 為替レートの先行きについて 欧米経済の減速を受けて相対的かつ消極的な意味で円が買われることで円高が続くという 共通認識 があり 2012 年度には1ドル=70 円台後半から 80 円台後半程度を見込んでいる 今後についても 既述の海外経済の先行き次第では更なる円高が進むことも考えられる また 定期点検中の原発再稼働に関する電力供給への不安 復興財源調達のための増税の時期及び規模という点についても 下振れリスクとして指摘されている 12 3 次補正については 現時点でその具体的な時期 内容は不透明であることから 民間シンクタンクの見通しでは統一的には取り扱われていない 25 経済のプリズム No95 2011.9

世界経済 図表 6 先行きの経済シナリオの論点 企業 家計 財政緊縮 電力不安 復興増税 ( 時期 額 ) 減速でとどまる? 拡大緩やか 拡大緩やか プラスの波及は限定的 欧米経済 輸出生産収益 回復緩やか 雇用所得 国際金融市場 円高 設備投資 民間消費 欧米ソフ リンリスク 先行き不透明 回復緩やか 回復緩やか ( 出所 ) 筆者作成 3 次補正による復興需要 4. 懸念される下振れリスクの顕在化と産業空洞化以上の点を踏まえると 我が国経済の先行きについては 下振れリスクが顕在化しなかったとしても 世界経済は減速すると見込まれることから 輸出が大幅に伸びることを期待することは難しい そのため 企業の生産 収益について震災前水準より大幅に上積みされることは見込みがたく 家計の雇用 所 13 得環境の改善は限定的であると考えられる ( 図表 6) このため 我が国の景 13 3 月の東日本大震災後から足下までの雇用 所得環境を整理すると まず雇用環境については 2011 年 3 月以降 1 完全失業率 ( 季節調整値 ) は 4.5~4.7% の範囲で推移している ( 総務省 労働力調査 ( 基本集計 ) 速報 (2011 年 7 月 )) 2 有効求人倍率 ( 季節調整値 ) も 0.61 ~0.64 倍の範囲にとどまっている ( 厚生労働省 一般職業紹介状況 (2011 年 7 月 )) 3 常用雇用指数 ( 前年同月比 ) も 0.6~0.8% の範囲内にある ( 厚生労働省 毎月勤労統計調査速報 (2011 年 7 月 )) など 震災の前後で大きな違いは見られない ( なお 労働力調査の 3 月分以降及び毎月勤労統計調査の 3~4 月分は岩手 宮城 福島 3 県の結果が 毎月勤労統計調査の 5 月分は宮城県の一部の結果が含まれていない また 毎月勤労統計調査においては 当面の間 東京電力福島第一原子力発電所周辺の一部地域の調査を中止することとしている ) その一方 所得環境について見ると 労働者の現金給与総額の伸び ( 前年同月比 ) は 2011 年 4 月に大きくマイナスに転じ 5 月はプラスに復している ( 厚生労働省 毎月勤労統計調査 経済のプリズム No95 2011.9 26

気回復の足取りは緩やかなものにとどまると見込まれる しかし 下振れリスク要因の動向次第では このシナリオの実現可能性がおびやかされることとなるだろう 特に 世界経済や国際金融市場については 景気減速や市場の変調といった状況が見られはじめていることから 先行きは予断を許さない さらに 足下では 電力不安が完全に解消されていない上 歴史的な水準での円高が続いていることを背景に 我が国企業の生産拠点の海外移転等に伴う産業空洞化への懸念が高まっている このような動きが実際に進むならば 我が国国内においては生産力及び雇用に大きな打撃となり 中長期的に続く景気への大きな下押し圧力になることが懸念される 14 我が国経済は 供給力の回復にはある程度の目途が立ったと見られるものの 世界経済の情勢を背景に 先行きの不透明感は強い状況にあると言えよう ( 内線 75045) 補論円高及び世界経済減速の強まりによる影響 ( モデルシミュレーション ) 本論のとおり 東日本大震災により毀損した供給力は全国的には震災前の水準をおおむね回復したものの 健在 であった海外経済は減速すると見られ 足下において歴史的な水準で進んでいる円高についても 海外経済との相対的な比較の下で 大きく円安方向に振れるとする見方は乏しい このような中で 民間シンクタンクの 共通認識 という標準的な見方においても 今後の我が国経済は 景気回復は緩やかなものにとどまると考えられている しかし 世界経済が 減速 程度でとどまるか 円高についても現行水準あるいは若干の円安という範囲内の推移でとどまるのか という点は大きなポイントであり これらは下振れリスクとして 共通認識 の実現可能性に影を落とすことになるだろう 本補論では 共通認識 の下で世界経済の先行きは減速し 為替レートはほぼ足下の水準で推移する場合 ( 標準シナリオ ) に加え 世界経済の減速度合いが標準シナリオよりも強まるとともに円高も更に進む場合 ( リスクシナリオ ) との比較を行い 世界経済の減速及び円高が更に進む場合の我が国経済への影 速報 (2011 年 7 月 )) なお 6 月及び 7 月は再びマイナスとなっているものの 5 月には震災の慰労金 6 月にはその反動減及び東日本大震災によるボーナス支給の遅れなど特殊要因の存在を指摘する声もあり 基調的な動きの判断は難しい 14 なお 本稿で説明した民間シンクタンクの短期経済見通しは おおむね足下 2 年程度を対象としており 産業空洞化など中長期的な産業構造の変化を伴う点については基本的に考慮されていない 27 経済のプリズム No95 2011.9

響を試算した ( 補論図表 ) 15 これによると 輸出が押し下げられ また雇用 者所得の縮小を通じて民間消費にもマイナスの影響が及ぶため 16 2012 年度の 実質 GDP 成長率は 0.4% ポイント程度引き下げられるという結果になった 補論図表世界経済の減速と円高が更に進む場合の影響 ( 単位 :% % ポイント ) 2011 年度 2012 年度 リスク標準リスク標準差シナリオシナリオシナリオシナリオ 差 実質 GDP 0.4 0.6 0.2 2.0 2.4 0.4 実質民間消費 0.3 0.4 0.0 0.8 0.8 0.1 実質輸出 1.8 0.0 1.9 4.5 7.0 2.5 ( 注 1) 差 は リスクシナリオの下での伸び率- 標準シナリオの下での伸び率 ( 注 2) 四捨五入の関係で 両シナリオの伸び率の差分と 差 が一致しないことがある ただし 本補論のシミュレーションで想定した世界経済の減速及び円高が更に進む場合には それに伴って1 世界同時的な株価の下落など国際金融市場への悪影響 21による我が国株価の落ち込み といった影響が及ぶ可能性があるものの 本補論のシミュレーションにおいてはこのような要因については織り込まれていない このような要因も加味するならば リスクシナリオの想定は 補論図表の試算よりも大きな影響をもたらす可能性がある 15 具体的には 標準シナリオにおいては 2011 年第 3 四半期以降 1 為替レートについては 足下から 2012 年度末まで1ドル=81.7 円 (2011 年第 2 四半期における実績値 ) 2 米国実質 GDP 成長率については前年比 2% 台での伸び 3 欧州実質 GDP 成長率 ( 世界輸出額で代替 ) については緩やかな伸びを想定している 一方 リスクシナリオにおいては 2011 年第 3 四半期以降 1 為替レートは1ドル=70 円 2 欧米の実質 GDP 成長率は1% ずつ引き下げるとした 16 なお 2011 年度の民間消費について リスクシナリオの伸びの方が高くなっているのは 円高により 2011 年度の民間消費デフレーターが名目民間消費以上に大きく下落したためである 詳細は 脚注 9を参照 経済のプリズム No95 2011.9 28