(2) 当該国における地震防災分野の開発政策と本事業の位置づけネパール政府は 2009 年に災害リスク国家管理戦略を制定し 対象災害の一つとして地震を上げている 地震防災分野は 2009 年に設置された National Platform for Disaster Risk Reduction にお

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護ディプロマ課程を 3 年制看護ディプロマ課程に変更したのに加え ディプロマ課程看護師の現任研修により学士が取得できる 2 年制ポスト ベーシック課程とは別に大学教育として看護学士課程制度 (4 年制 ) を導入することを定めた 学術的に高度な 4 年制看護学士課程の卒業生は輩出されたばかりであるが

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と衝突して沈没し 147 人が死亡 2014 年 8 月にはパドマ川で約 250 人を乗せたフェリーが荒天のため転覆し 110 人が死亡等の大事故が発生している また 同国は 雨季には大型サイクロンが度々ベンガル湾から来襲し 沿岸部で遭難事故が多発するなど 地理的に自然災害の影響を受けやすい地域であ

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会実装を担うことになる相手側機関であるカンデリ地震観測所 (KOERI) の研究者に対しても十分なトレーニングがなされている また 研究成果を住民に還元する手法として 相手国研究機関 (KOERI) における防災教育拠点の拡充整備への協力 防災アニメをはじめとする防災教育のための教材の作成 地域セミ

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<ハード対策の実態 > また ハード対策についてみると 防災設備として必要性が高いとされている非常用電源 電話不通時の代替通信機能 燃料備蓄が整備されている 道の駅 は 宮城など3 県内 57 駅のうち それぞれ45.6%(26 駅 ) 22.8%(13 駅 ) 17.5%(10 駅 ) といずれも

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区間を頻度の低い通勤線が非電化路線として運行しているのみであり 十分な公共交通手段が確保されていないため 同エリアと周辺に住む住民はバスや自動車等により通勤しているが 道路の混雑により 通勤に大きな支障が出ている 加えて 南北鉄道事業南線 ( 通勤線 ) ( 以下 本事業 という ) の対象区間には

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架鉄道三路線 ( うち 二路線は軽量 ) の総延長は 50km にとどまっている 首都圏南方については マニラ市ツツバンからカブヤオ市ママティッドまでの区間を頻度の低い通勤線が非電化路線として運行しているのみである 首都圏北方は 居住エリアが拡大しているものの 十分な公共交通手段が確保されていないた

のような事象でさえ わずか数分前の警告によって生命を救えることもある リスクの発生を定期的に再検討することが重要である たとえば 気候変動やその他の変化の結果として極端な気象現象 ( 暴風雨 熱波 野火など ) の発生頻度や激しさが高まる可能性があり 新たな地球物理学的データやその他のデータによって

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先行的評価の対象とするユースケース 整理中. 災害対応に関するユースケース. 健康に関するユースケース. 移動に関するユースケース. 教育に関するユースケース. 小売 物流に関するユースケース 6. 製造 ( 提供した製品の保守を含む ) に関するユースケース 7. 農業に関するユースケース 8.

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資料 2-2 SUT タスクフォース 意見取りまとめ (1) ー SUT 産業連関表の基本構成の考え方ー 2017 年 8 月 24 日国民経済計算体系的整備部会 部会長 SUTタスクフォース座長宮川努 1

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事前評価表 ( 地球規模課題対応国際科学技術協力 (SATREPS)) 1. 案件名国名 : ネパール国案件名 : 和名ネパールヒマラヤ巨大地震とその災害軽減の総合研究英名 The Project for Integrated Research on Great Earthquakes and Disaster Mitigation in Nepal Himalaya 2. 事業の背景と必要性 (1) 当該国における地震防災分野の開発実績 ( 現状 ) と課題ネパールはプレート衝突帯に位置しており 山岳地形の形成と巨大地震の発生という地質学的なリスクを日本同様に抱えている国である 首都カトマンズ ( 人口約 100 万人 ) の位置するカトマンズ盆地は過去 大きな地震災害が度々発生しており 1934 年のビハール地震 ( マグニチュード8.4) では カトマンズ盆地の建築物のうち約 20 % が破壊され 9,040 人の死者を出し 2011 年 9 月 18 日にはインドを震源とするシッキム地震 ( マグニチュード6.9) により 市内で7 名の死者 136 名の負傷者が発生した ネパールNational Seismological Centreの観測データによれば 2013 年に発生したマグニチュード4 以上の地震はFar Western 及び Mid-Western 地域を中心に25 回発生しており 災害履歴から考えても 地震発生リスクが高まっていることが指摘されてきたが 建築物の耐震化や土地利用規制 建築基準法の遵守等 具体的な地震対策は取られなかった そうした中 2015 年 4 月 25 日に発生したネパール / ゴルカ地震 ( マグニチュード7.8) ではネパール全国で死者 8,856 人 負傷者 22,300 人 約 600,000 棟が全壊 285,000 棟が半壊 1 という被害が生じ 実質 GDP 成長率予測値も0.8% 下方修されるなど 長期にわたる影響が懸念されている ネパール / ゴルカ地震の発生によってもたらされた断層間圧力の変化により カトマンズ盆地周辺の地震発生リスクは震災以前よりも高まっていると考えられており ネパール / ゴルカ地震よりも大きな被害をもたらす可能性のある地震へ備えるための対策の検討は喫緊かつ重要な課題となっている 本事業では以下の成果の達成を通して 地震被害 リスクの軽減を目指すものである 1 断層の科学的評価によって対象地域における地震発生ポテンシャルを明らかにする 2 カトマンズ盆地の地震動モデルを作成し シナリオ地震に基づくシミュレーションを行う 3 対象地域の地盤モデルを作成し 対象地域のハザード評価を行う 4 地震観測網及び情報処理能力を強化し 地震関連情報の発信能力を強化する 5 科学的分析結果に基づいた被害軽減の対策の提言及び高等教育レベルにおける人材育成 1 Disaster Recovery and Reconstruction Information Platform データベース 1

(2) 当該国における地震防災分野の開発政策と本事業の位置づけネパール政府は 2009 年に災害リスク国家管理戦略を制定し 対象災害の一つとして地震を上げている 地震防災分野は 2009 年に設置された National Platform for Disaster Risk Reduction においても優先プログラム中の課題の一つに位置づけられている ネパール / ゴルカ地震の発生を受けて 2015 年 6 月 25 日に開催されたネパール復興に関する国際会議においてネパール政府はネパール / ゴルカ地震からの単なる復興 復旧のみならず 第 3 回国連防災世界会議 (2015 年 3 月 ) において採択された 仙台防災枠組 2015-2030 における より良い復興(Build Back Better) を目指すことを基本方針とすることを表明した 本事業では 日本の知見を活用し精緻なハザード分析を行うことで 地震災害リスクの低減に資することを目標としており ネパール政府の上記戦略に資するものである (3) 地震防災分野に対する我が国及び JICA の援助方針と実績 JICA は 2002 年に カトマンズ盆地地震防災対策計画調査 を実施し JICA 国別分析ペーパー (2014 年 4 月 ) において 都市環境改善 プログラムの中の一課題として整理 2015 年より カトマンズ盆地における地震災害リスクアセスメントプロジェクト を実施している また 2015 年に発生したネパール / ゴルカ地震を受け 日本政府の方針である 仙台防災協力イニシアティブ (2015 年 3 月 ) を念頭に より良い復興 をコンセプトとしたネパールの災害に対するレジリエンス強化実現に向けて JICA は 国際緊急援助隊による緊急 人道支援から開発までをシームレスに行うこととし 復興支援関連活動において 防災力の向上を図るとともに 迅速な復興に貢献することを目標としている (4) 他の援助機関の対応 2009 年の 災害リスク管理国家戦略 の策定を受けて ネパール国内務省 国連機関 主要なドナーが集まり ネパールリスク軽減コンソーシアム (NRRC) を UNDP 主導の下 立ち上げた 2011 年から 2014 年をターゲット期間とした 5 つのフラグシッププログラム (1 学校及び病院の安全 2 事前準備と応急対応 3コシ川流域の洪水管理 4 統合化されたコミュニティ防災 5 災害リスク管理に係る政策 / 制度への支援 ) を設置 プログラム毎に中心支援ドナーを設定し実施してきた 2015 年 6 月に Post Disaster Needs Assessment がドナーの協力も得て実施され ネパール政府は 2015 年 12 月に復興庁を設置したが 具体的なアクションプランが含まれた復興計画は 2015 年 2 月 15 日現在 まだドラフト段階にある 3. 事業概要 (1) 事業目的 ( 協力プログラムにおける位置づけを含む ) 本事業はカトマンズ盆地及び中央ヒマラヤ地震空白域において 地震ポテンシャル評価 地震動予測 ハザード評価を行い 地震観測機関の能力向上を図るとともに 科学的分析に基づいた対策への提言等を行うことにより 将来のネパールヒマラヤ巨大地震によるカトマンズ 2

盆地における地震対策及び防災 減災に貢献することを図るものである (2) 事業スケジュール ( 協力期間 ) 2016 年 4 月 ~2021 年 3 月 (60 か月 ) (3) 本事業の受益者 ( ターゲットグループ ) 直接受益者 ; 研究メンバー及び関連省庁 ( 約 40 名 ) 間接受益者 : カトマンズ盆地内自治体及び住民 ( 約 176 万人 ) (4) 総事業費 ( 日本側 ) 約 3.5 億円 (5) 相手国側実施機関 代表機関 産業省鉱物地質研究所 (DMG) 協力機関 トリブバン大学 都市開発省都市開発建設局他 (6) 国内協力期間 代表機関 東京大学 協力機関 高知大学 北海道大学 応用地質 ホームサイモメーター社 建築研究所他 (7) 投入 ( インプット ) 1) 日本側研究員派遣 ( 地震周期シミュレーション 強震動観測 地震観測システム他 ) 長期専門家 / 業務調整員機材供与 ( 地震計 強震計 トレンチ調査他 約 1.6 億円 ) 研修員受け入れ その他 2) ネパール国側 プロジェクトスーパーバイザー (1 名 ) プロジェクトマネージャー (1 名 ) 合同調整委 員会 共同研究者にかかる予算の確保 関連データの提供 執務スペース その他 (8) 環境社会配慮 貧困削減 社会開発 1) 環境に対する影響 / 用地取得 住民移転 1 カテゴリ分類 (A,B,C を記載 ) C 2 カテゴリ分類の根拠観測 分析作業が中心であり 環境配慮に該当する活動はない 3 環境許認可該当なし 3

4 汚染対策該当なし 5 自然環境面該当なし 6 社会環境面該当なし 7 その他 モニタリング該当なし 2) ジェンダー平等推進 平和構築 貧困削減特になし 3) その他特になし (9) 関連する援助活動 1) 我が国の援助活動カトマンズ盆地を対象としては カトマンズ盆地地震リスク評価プロジェクト ( 技術協力型開発調査 2015 年 5 月 ~2018 年 4 月 ) ネパール地震復旧 復興プロジェクト( 緊急開発調査 2015 年 7 月 ~2017 年 6 月 ) が実施されている 対象地域 災害が一致する カトマンズ盆地地震リスク評価プロジェクト と本事業成果は以下の様に相互に補完 連携することを想定する 地震リスク評価プロジェクトで行われるハザード評価に対し 本事業研究メンバーはその専門的知見から助言を行い 両プロジェクトにおけるハザード評価の基本コンセプト ( 想定シナリオ地震等 ) に齟齬が生じることを避ける まら リスク評価プロジェクトより地盤モデルや関連観測データを受領し 本事業活動を効率的に行うよう取り組む 4

2) 他ドナー等の援助活動災害リスク管理国家戦略 (2009 年 ) の策定を受けて ネパール国内務省 国連機関 主要なドナーが集まり UNDP 主導の下 NRRC を立ち上げている 2011 年から 2014 年をターゲット期間 2 とした 5 つのフラグシッププログラム (1 学校及び病院の安全 2 事前準備と応急対応 3コシ川流域の洪水管理 4 統合化されたコミュニティ防災 5 災害リスク管理に係る政策 / 制度への支援 ) を設置し プログラム毎に中心支援ドナーを設定し実施している JICA はフラッグシップ4 及び5を中心として同枠組みを支援しており 本事業は同フラッグシッププログラム5に位置付けられる 2015 年 4 月のネパール / ゴルカ地震の発生を受け カトマンズ盆地内外での地震観測活動に対する計画が複数の研究機関によって進められているが ネパール側の能力強化が含まれたものはわずかであり 本プロジェクトとの重複はない 4. 協力の枠組み (1) 協力概要 1) プロジェクト目標と指標 科学的知見を用い カトマンズ盆地の高度化された地震ハザード評価を取りまとめ 今 後の地震対策及び防災 減災に貢献すること < 指標 > 1. カトマンズ盆地周辺の地震発生可能性評価に基づき整理されたシナリオ地震が発表される 2. 新たに開発された地盤モデルとそれを用いたシミュレーション結果が公表される 3. カトマンズ盆地及びその周辺地域におけるリスク評価結果が取り纏められる 4. プロジェクト成果に基くカトマンズ盆地における地震対策への提言が行われる 2) 成果 1 主前縁断層帯沿いの中央ヒマラヤ地震空白域の地震発生ポテンシャルが評価され それをもととした震源モデルが構築される 2 カトマンズ盆地とその周辺地域の地盤モデル及び速度構造モデルが検証 高度化され 震源モデルと併せてシナリオ地震動予測が行われる 3 カトマンズ盆地とその周辺における地震ハザード評価が行われ その結果に基づきハイリスクエリアの地震災害リスクが再評価される 4 地震観測ネットワークが強化され 震源 地震規模の特定能力が向上し ネパール政府内の地震情報発信力が強化される 5 地震発生ポテンシャル評価に基づいたハイリスクエリアにおける地震対策等の提案が行われ 高等教育における地震学教育の基盤が構築される 2 当初想定期間において目標が達成されなかったため ターゲット期間は 2015 年まで延長された ( 震災を受けて再度延長される予定 ) 5

5. 前提条件 外部条件 (1) 前提条件特になし (2) 外部条件 ( リスクコントロール ) ネパール政府の地震対策や防災への優先的な取り組み姿勢に変更が生じない 6. 評価結果 本事業は ネパール国の開発政策 開発ニーズ 日本の援助政策と十分に合致しており また計画の適切性が認められることから 実施の意義は高い 7. 過去の類似案件の教訓と本事業への活用 (1) 類似案件の評価結果 2002 年に実施された カトマンズ盆地地震防災対策計画調査 のハザード評価含めたリスク評価結果はカトマンズ盆地の持つ地震リスクの可視化及び共通理解の形成には一定の効果はあったが具体的な施策につながることまでには至らなかった リスク評価結果は社会 経済の変化に合わせて更新されるとともに ハザード評価についても新たに得られた知見を反映する等 情報の維持体制が明確になっていることが重要である また 他の類似 SATREPS プロジェクト ( ペルーにおける地震 津波減災技術の向上に関する研究 チリ津波防災研究等 ) において 研究成果を取りまとめた論文は必ずしも行政組織において求められている情報スタイルとは一致せず 省庁 地方政府 民間企業 コミュニティ等のユーザーが使いやすいように加工 編集される必要があることが確認されており 研究組織以外への成果発信の在り方の工夫については配慮が必要である また 地震計等の機材については 日本と海外との使用環境が大きく異なるため 研究者が普段使用している観測機器が不具合を起こす事例がある (2) 本事業への教訓ハザード評価含めたリスク評価研究結果が具体的な施策につなげられるためには 評価結果の活用先となる行政組織のニーズに合わせた形に研究結果を加工することが重要である 特に ネパールにおいては 2015 年に発生したネパール / ゴルカ地震において カトマンズ盆地の地質構造が地震応答に大きな影響を及ぼしていることが確認された これらハザード情報の持つ意味を対策実施を担当する政府担当組織が正しく理解することが 研究成果の活用にとって重要である 機材については設置場所の状況を確認した上で 仕様の決定を行う必要がある 特に野外設置し長期間観測をすることが必要な機材については観測の精度と観測目的 維持管理費を踏まえて選択する必要がある 6

8. 今後の評価計画 (1) 今後の評価に用いる主な指標 4.(1) のとおり ( 未設定のものについてはプロジェクト開始後に作成される PDM において検討する ) (2) 今後の評価計画事業終了 3 年後事後評価 (3) 実施中モニタリング計画プロジェクト中間時に相手国実施機関との合同レビュー及び事業終了 6 か月前を目途に終了前合同レビューを実施する 7