論文 長野県工技センター研報 No.9, p.p33-p37 (2014) 通信ポート伝導雑音の再現ある測定方法の確立 蜜澤雅之 * 1 寺島潤一 * 1 Establishment of Reproducible Conducted Disturbance Measurement for Telecommunication Port Masayuki MITSUZAWA Junichi TERASHIMA LANポート等に接続されている通信ケーブルから広域ネットワークへ漏洩する通信ポート伝導雑音は早くから規制の必要性が認識されていた その対応として, 国際規格 CISPR16-2-1により, 測定方法が規定され, 国内でも情報処理装置等の電磁雑音規制を行うVCCI 協会では2010 年度から, 規制項目として新規に追加された 長野県工業技術総合センターでも測定評価体制を整え, 多くの企業にご利用いただいている ただ, 測定方法に曖昧さが残り, 来場利用者が意識し無い設定条件によって測定結果に差異を生ずる可能性がある 通信データ種類, 本体の接続機器, 使用対向装置等の設定項目が原因で測定結果に差異が生じないか, 影響があった場合, それがどの程度かの確認を行い, その結果から, 通信ポート伝導雑音測定での測定再現性について検討した キーワード : 通信ポート伝導雑音, 電磁雑音, 測定再現性 1 緒言電子機器からの電磁雑音は, 無線通信等の保護目的で, その発生強度が規制されている 主要規制項目は空間伝播による放射妨害波, 商用電源線へ漏洩する電源ポート伝導雑音であったが, 通信ポート伝導雑音も新規に規制項目に追加され, 国内では情報処理装置等のEMI 規制を行うVCCI 協会が, その規制を行っている 通信ポート伝導雑音の測定方法はVCCI 技術基準 1) で規定しており, その方法は国際規格等での測定方法とほとんど同一である 但し, 設定条件が総て厳密に規定されている訳では無く, 曖昧さの残る部分もある VCCI 技術基準での測定機器配置を図 1に示し, これを元に測定方法概要を以下に記す 試験対象機器 (Equipment Under Test:EUT) から発生した雑音は,EUT から通信ケーブルを介して, 対向装置側に伝導する その強度測定は, グランドプレーン ( 床の金属面 ) を基準として, 両装置間に挿入されている擬似通信回路網 (Impedance Stabilization Network :ISN) に誘起される電圧を測定することで行う グランドプレーンが雑音測定 * 1 電子部 80cm EUT 80cm 50Ω 終端 40cm LISN 電源線 の基準電位となるため, それとの相対位置で測定電圧に大きな影響があると考えられるEUT ケーブル配置は厳密に規定されている 他方, 規制制定当初は非常に細かい規定があった送受信データ設定は, 現在は単にデータ送受信して測定, その際の通信設定 ( データ種類 ( 映像, 文章, 音楽等 ) と条件 ( 伝送速度等 )) を記録との記述のみで, 設定条件は非常に緩やかである 設定が曖昧な点では, 対向装置 使用ケーブル等も同様で, 特段の規定は無く使用機材を記録する程度となる 工業技術総合センターでは通信ポート伝導雑音測定を利用企業の皆様の設定条件に従い実施しているが, 各種設定条件が異なった場合, その影響度まで把握しきれていない 再現性ある測定結果を得る目的で, 今回, 測定結果に大きな影響を与える要因の洗い出し, その影響度合を確認したので報告する 2 測定比較方法測定比較の基準となる標準設定はVCCI 技術基準に基づき決定したが, 技術基準で曖昧な部分は, 最も標準と通信ケーブル対向装置発泡スチロール等 ISN グランドプレーン図 1 通信ポート伝導雑音の測定機器配置 - P 33 -
考えられる設定とした この標準設定に対し, 洗い出した要因を変化させ, 標準設定と有意な差が生じるか, また差があった場合, その影響程度について, 実機を使用しての測定比較を行った 各測定時間は 1 分間とし, その間の最大値を記録する この測定を基準, 比較とも各々 8 回実施し, その平均値について測定比較を行った 標準設定の項目, 設定条件は表 1の通りである 表 1 標準設定項目及び条件設定項目設定条件機器配置図 1の配置通りデータ送受信サンプル映像データの連続送信使用 LANケーブル CAT5 対応 LANケーブル (2m) 余長部分は中央で束ねる EUT 接続機器本体添付 ACアダプタ,USB マウス EUT 及び対向機ノートPC,100BASE-TX 影響要因として選出, 比較測定を行った項目は以下の通りである 尚, 比較方法や項目詳細については測定結果で後述する (1) 送受信データ種類及び通信状態 ( 送信, 受信の違い ) (2) 接続通信ケーブル (3) 対向装置 ( 対向装置の間にHUBを追加接続 ) (4) ケーブル配置 (5) EUTへの接続機器 10MHz 以上の周波数, また単発性の雑音を拾った周波数では, エラーバー外にも測定結果が存在しているが, 概ねエラーバー内に測定結果は収まっている 尚, 結果表示が非明瞭となるので, エラーバーは特定周波数のみを表示させた 以上から考慮要因と標準設定の有意差判定は, 両測定結果の差がエラーバー内に収まるか, 収まらないかで判定可能と考えた 3.2 送受信データによる影響データ送受信の際, 映像データ等の大容量データを連続的に送受信するのと, 文章 音楽等, 個々のデータはさほど大きくは無いが, それらを組み合わせて大容量としたデータでの送受信, 両者のデータ種類違いで測定結果に差が発生しないかの確認を行った また, 組合せデータ送受信の際, 実データの送受信以前に, 関連データを送受信する時間が数分間程度発生しており, その際のデータ (Prと表記) も追加で測定対象とした データ種類は, 映像データ (Mvと略記), 組合せデータ (Wdと略記) 並びにPr,3 種類条件, それにEUT 側からの送受信方向 - 送信側 (Stと略記) か, 受信側 (Rvと略記 )-の2 条件を組み合わせ, 合計 6 条件での比較測定を行った 測定結果を図 3に示す 結果表示は, 映像データの送信側を標準設定とし, それとの各条件での差分, 並びに代表的周波数でのエラーバー表示を併記した エラーバー外に下振れしている結果もあるが, ピーク 3 測定結果 3.1 測定のばらつき程度測定対象が 雑音 のため, 測定結果自体にある程度のばらつきがある 測定結果が考慮要因による差異なのか, 標準設定自身の測定ばらつきなのか, その評価が第一に必要となる そのため, 標準設定での測定値ばらつき程度を評価した 標準設定での 8 回測定に於いて, 測定周波数毎での平均値, 最大値, 最小値, 並びに2σエラーバー ( 信頼区間 95%) を表示させたグラフを図 2に示す 図 2 標準設定での測定雑音ばらつき程度 図 3 データ種類による測定値差異 - P 34 -
値包絡線はエラーバー内に収まり, かつ, 確認したデータ組み合わせの総てで同じ傾向を示している 以上から, 送受信データが異なっても, 雑音強度の測定結果には影響しないことを確認した 3.3 使用ケーブルによる差異擬似通信回路網は使用通信ケーブルの種類に合わせて対応装置を準備とVCCI 技術基準 1) には記載されている 今回のEUT 対向装置は両者とも100Base-TX 対応のため, CAT5 のケーブルであれば, どのケーブルでも構わないことになる 確認目的で, 長さ2m 程度ケーブルを4 本用意した ケーブル内訳は, 一般店頭で入手可能な標準価格品 3 本と低価格品 1 本とした CAT5 の標準価格品 1 本を標準ケーブルとして, それ以外のケーブルとの比較測定結果を図 4に示す 尚, 比較に用いた標準ケーブル以外を便宜的にA~Cと表記した 各ケーブルの標準ケーブルとの測定差は,Cケーブルを除いて, ばらつきはあるものの, その値はエラーバー内に収まっており, またその傾向も同一である Cケーブルは7MHz 程度から他のケーブルより測定結果が大きく, かつエラーバー外で, 明らかに他のケーブルと異なる結果を示している このケーブルが低価格ケーブルで, データ通信では問題は無いが, ケーブルの太さや触感等で, 他ケーブルとは異質のケーブルである 以上から, 通常は使用ケーブルでの測定差は生じないが, 極端に安価なケーブル使用は控えるのが無難となる 3.4 対向装置による差異対向装置側からも雑音は発生し,EUT 側への回り込みが考えられるが, 擬似通信回路網の機能として, 回り込み雑音の遮蔽がある ( 仕様要求 :55dB 以上 1.5~30MHz, 35~55dB 以上 150kHz~1.5MHz) その機能から対向装置は無規定と考えるが, 実状を確認した 具体的には, 対向装置の前段にHUBを追加接続し, 測定強度を比較した 用意した2つのHUB(A,Bと表記 ) に対し,HUB 無接続を標準設定とした差分測定結果を図 5に示す AのHUBに関して, 明らかにエラーバーを越える大きな測定差が1MHz 以上の周波数で確認できる 使用対向装置は技術基準では指定されていないが, それによって測定値に明確な差が発生するため, 使用対向機の管理が必要である 3.5 ケーブル配置による差異ケーブル配置による影響を確認した ケーブル配置は厳密に定義されていて配置に疑義は無い が, ケーブル配置は写真等で記録し, 測定再現性の担保としているが, 完全に同一配置とはならない 配置違いでどの程度の測定差が生じるか, その確認目的で, 敢えて技術基準とは異なる設定とし, その影響程度を2 項目, ケーブル高さと, 余長部分の処理について確認した ケーブル配置高さは, 配置要素で一番影響が顕著と考えられる そのため, グランドプレーンから40cmの基準高さに対し, ケーブルをどこまでグランドプレーンに接近させると影響するかを確認した 具体的には, グランドプレーンから0,1,5,10cmの高さ配置での測定比較を行った 基準 40cmとの測定結果差分を図 6に示す 差分がエラーバー外にある結果を確認すると,0cm( グランドプレーン上にケーブルを密着させた ) に関して 14MHz 以上の周波数で, 小さな測定値となっている この結果はケーブルに伝播する雑音が, ケーブル浮遊容量を介して漏洩するためと考えられる また,4MHz~ 図 4 ケーブル違いによる測定値差異 図 5 対向装置の違いによる測定値差異 - P 35 -
6MHzに於いて, グランドプレーンとの共振と考えられる有意な差分が見受けられる この共振による差分は 1cmに於いても同様であるが これら以外では, 総てエラーバー内に収まり, 加えて傾向も同一かつ僅かである 以上から, グランドプレーンから5cm 以上高さにケーブルを離すと, グランドプレーンとの影響は同一となり, 多少の高さ変化ではほとんど影響しないことが判明した 次に, ケーブルの余長処理は, 中央で30cm~40cm 長さで折り返すと規定されている が, 長いケーブルの場合, 一般的な処理の場合, ループ状もありえる 両ケーブル処理方法の比較を5m 長さのケーブルを用い行った その測定結果を,( ケーブル種類が異なるが ) 標準ケーブルとの差分で図 7に示す ケーブルを技術基準通り, 結束しての結果は, 長さの異なる標準ケーブルと20MHzまでほとんど同一の結果 となった 他方, ループでは共振の影響で, 明白な差が生じており, その差は先のケーブル高さ1cmより遥かに大きい ケーブルが長い分, 影響も大きくなる 3.6 接続機器での差異標準設定の測定は先述した通り,EUT 添付 ACアダプタ並びにUSBマウスを接続して測定を行った これらの接続機器が代わった場合の影響を確認した 具体的には, 標準添付とは別 ACアダプタでの測定, 規格指定外だが ACアダプタを取り外してのバッテリー駆動, 並びにマウスに代えてUSBDVDドライブを接続しての測定を行った 結果が明白なため, 差分ではなく, 比較結果そのままを図 8に示す 尚 グラフ中でRefは基準機器構成, ACadpは別 ACアダプタ,Btrはバッテリー駆動,USBは USBDVDドライブを接続しての結果を表している 電源関連に着目し,0.3MHz までの結果を見ると, 測定強度に明確な差がある しかもバッテリー駆動が最もその強度が小さい 通信ポート の雑音を測定しているが, その発生源が必ずしも通信用 ICからではなく,AC アダプタからの雑音が通信線に回り込んでいると考えられ, その回り込みが測定値そのままの周波数も存在する この現象はUSBDVDでも同様で, この装置の発生雑音 図 7 余長ケーブル処理違いによる測定値差異 図 6 ケーブル配置高さによる測定値差異 図 8 接続機器での測定値差異 - P 36 -
が, 通信線に回り込み, 測定強度を大きくしている 以上から,AC アダプタ等 EUTへの接続機器からの雑音は通信線に回り込み, 測定強度を押し上げるため, 接続機器の厳格な管理が必要となる 4 結論通信ポート伝導雑音の測定強度結果に影響を与える項目に関して, その影響程度を実測比較により, 確認した 比較した項目とその結果をまとめると, 以下の通りである (1) 送受信するデータの種類による測定差, データ種類によっては小さな測定値を示す場合も見受けられたが, 概ね, データによる測定差は見受けられなかった (2) 使用ケーブルで, 極端に安価なケーブルでは測定結果が大きくなる場合があったが, それ以外のケーブルではどのケーブルでも同じ測定結果のため, 一定品質以上のケーブルを使用すれば問題ない (3) 対向装置からの回り込み雑音の影響が認められたので, 使用対向装置, 使用条件の記録が必要である (4) ケーブル配置は基準設定方法が明示されている (40cm 高さで80cm 伸ばしISNに接続し, 余長部分は中央で束ねる ) この設定方法から大幅にずれなければ, 測定結果に大きな差は生じない (5) EUTに接続するACアダプタ, 接続周辺機器からの雑音が通信ケーブルに回り込む現象を確認した 測定値がそのまま回り込み値といった場合もあるため, 使用接続機器の記録に留まらず, 必要であれば発生雑音強度が小さな機器を選定し, 測定に用いる必要がある 参考文献 1) 一般財団法人 VCCI 協会技術基準 V-3 /2014.04 https://www.vcci.jp/activity/regulation/y14/kitei03_1404.pdf - P 37 -