第 6 回母乳育児支援研修会 母乳育児の第 1 歩から 赤ちゃんにやさしい病院 認定へ 母乳育児成功のための 10 カ条の日本の実践を学ぶ ステップ 1 1) 基調講演 : 母乳育児がヒトにもたらすもの 私たちはどうやって人になったか 吉永宗義 ( 小 ) 日本母乳の会研修委員会委員長 日本赤十字九州看護大学 日本における母乳育児の推進は急速にではありませんが 着実に進んでいます しかし 一方では母乳育児という言葉を聞くだけで拒否反応を示す医療関係者がいることも事実です その方々も 母乳育児に反対しているのではありません 母乳育児を進める方法に異議を唱えていることが多いようです 私たちは 母乳育児率を上げることが最終的な目的ではありません 母乳育児を行うことによって 世界のすべての人たちが幸せになることが目的です その中には WHO いうように乳幼児の健康が改善されれば幸せになる場合もあるでしょう では 日本ではどうでしょうか? 健康問題もさることながら 人を育てる視点から母乳育児をとらえることが重要ではないでしょうか? そのための母乳育児支援であれば 母乳育児を推進する際に遭遇するいろいろな問題 批判を乗り越えてみんなが納得できる活動ができると思います 2) なぜ 施設 病院全体で母乳育児に取り組む姿勢が必要なのでしょうか 中野隆 ( 産 ) 日本母乳の会研修会委員 富山県立中央病院 母乳育児支援は 施設で始まり地域や社会の中でさらに育まれ 継続されていくものです したがって 施設での母乳育児支援はその後のより充実した支援を継続するための基盤となります そのためには 母乳育児成功のための 10 か条の遵守が基本です スタッフや妊産婦さんへの教育 啓蒙にはじまり バースプランに基づいた主体的分娩 早期母子接触 頻回授乳 母子同室 自律授乳に至る過程を支援し 母乳育児に対する母親の自立を促し地域に帰っていただくことになります 地域に戻られてからのエモーショナルサポートの一環として 電話相談 2 週間健診 1 か月健診など施設としての役割はかなり大きいものがあります なにより重要なことは 施設は赤ちゃんが偏見やハンディキャップのない人生の旅立ちへの支援をする極めて重要な場所であることです そのためにも スタッフの教育 啓蒙は母乳育児支援の根幹にあたる部分であります
ステップ 2 出産直後の新生児ケア 3) 赤ちゃんと母乳 ; 栄養 免疫の視点から 赤ちゃんの不思議にせまる 永山善久 ( 小 ) 新潟市民病院新生児内科 イノチェンティ宣言に謳われているように 6 カ月までの赤ちゃんはお母さんの母乳以外何にも必要としません それは 母乳が完全栄養だからです 母乳の利点は 枚挙に暇がないほど挙げられます 1 炭水化物の 95% が乳糖ですが 乳糖は単にエネルギー源になるだけでなく カルシウムの吸収を高め また腸管のビフィズス菌の繁殖を助ける働きもあります 2 蛋白質はカゼインとホエイに分けられますが その比が4:6でホエイが多くなっています ホエイにはαラクトアルブミンや機能性蛋白であるラクトフェリンや成長因子 免疫グロブリン サイトカイン 酵素などが含まれます 乳児では準必須アミノ酸であるシステインやそれから合成されるタウリンも多く含まれています 3 脂肪には トリグリセリド コレステロール リン脂質や DHA AA などの多価不飽和脂肪酸などがバランスよく含まれています 何よりも脂質の消化が苦手な新生児が利用できるように胆汁酸活性リパーゼが同時に含まれています 免疫 感染防御の面からは 4 分泌型 IgA が初乳には多く含まれています また 母児が一緒にいることによって 周りの環境にいる抗原から分泌型 IgA でいつも守られています 5 免疫グロブリン以外にもマクロファージやリンパ球などの免疫担当細胞が母乳中には含まれています 6ラクトフェリン リゾチーム オリゴ糖 ムチンなども抗菌物質として働きます 赤ちゃんも母乳を飲むための準備を胎児期から着々としています そのひとつが消化管ホルモンの分泌細胞である基底顆粒細胞が集合している 瀬木の帽子 です これにはパラニューロンの提唱者である藤田先生と山内先生の間で解釈をめぐって心の交流があったというエピソードがあります 当日はみなさんと一緒に 栄養 免疫の視点から母乳を考えてみたいと思います 4) 早期母子接触から母子同室へーその意義と安全に行うための工夫 林時仲日本母乳の会研修委員北海道療育園 1. 早期母子接触と母子同室の意義 母乳育児を成功させるための10ヵ条 の第 4 条と第 7 条では 生後 30 分以内に初回授乳を実施し 母子は出産直後から一緒にするように求めている その理由は早期母子接触 (early skin to skin contact, STS) と早期授乳 そして出生直後からの母子同室が母乳育児を成功させるための極めて重要な支援だからである さらに母子関係の確立 感染防御など数多くの長所があることから 我々はこれらを積極的に行わなければならない 2. 早期母子接触は危険な行為ではない STS は危険な行為であると誤解され これを取りやめる施設も出て来ている しかし その後の調
査研究から STS そのものが急変例の直接の原因とは考えにくく STS を実施していてもいなくても発症する早期新生児期に特有の病態をみている可能性が高いことが明らかとなった 3. 安全に行うための工夫と実践そこで我々が行わなければならないことは 正期産新生児は急変するものと認識しまた国民にも周知したうえで 安全に実施できるような方策を講じることである 具体的には十分な説明と同意 実施基準や手順などの策定と遵守 母親と協働した注意深い観察と観察法の標準化 蘇生法の習熟などである さらに十分な看護要員を配置するなど 正期産新生児も一人の患者として診療を受けられるような制度的基盤や経済的基盤の整備も不可欠である 手間やお金はかかっても次世代を手塩にかけて育てるという心意気が我々に求められている 5) 赤ちゃんの環境と補足 医学的適応を考える - 黄疸 脱水 低血糖 依田卓 ( 小 ) 日本母乳の会研修委員練馬光が丘病院 本来 新生児は母乳のみで育てることができ 補足はほとんど必要性がありません しかし 乳汁分泌や新生児哺乳不足に対して充分な理解がないために 不必要な補足が行われているのが現状です 現在 多くの施設は 補足の基準として体重減少率 排尿回数 血液検査などの数値的な変動を中心として用いられています しかし 生まれたばかりの新生児は 在胎週数 出生体重 分娩時状況が同じではありません 新生児を取り巻く環境は 個々で異なります 従って 全ての新生児を同じ基準で図ることはできません 補足を考える際も同様で 大切なことは個別性です そのためには 乳汁分泌を理解し 出生後の新生児の知っておく必要があります ここでは 以下のことについて説明します 1. 乳汁分泌について 1 乳汁分泌の推移 2 乳汁分泌を遅延させる因子など 2. 新生児側について 1 新生児の哺乳量 2 哺乳量不足と補足 3 新生児の黄疸 脱水 低血糖についてこれにより 不必要な補足が防げれば幸いです
ステップ 3 妊娠中からの母親のからだと心のケア 6) 世界と日本の母乳育児の共通点と文化の違いを知って 母乳育児支援を考える 永山美千子日本母乳の会研修委員フリージャーナリスト 1. 母乳育児推進の運動について当たり前のはずである母乳育児がなぜ 世界的な運動となったのか 母乳育児成功のための10カ条の制定 BFHI 認定運動の背景 日本の母乳育児運動の動き 2. 母乳育児環境の違いを知り 母乳育児支援を行う母乳育児は人間として子どもを育てる基本であり 世界中変わることはないが 育児は文化の一環であることを踏まえて 母乳育児支援を進めていく必要がある 世界の実情を見て グローバルスタンダードをどう捉え 日本に当てはめていくかを考える 入院期間と母乳育児 身体感 とりわけ乳房に対する文化の違いによる母乳育児支援 助産師の仕事と分業細分化 母乳育児と母乳栄養の考え方 グローバルスタンダードと文化 文化の違いから生まれる母乳育児支援 3 先進国 BFHI 会議からの報告 4 妊娠 出産 授乳中の母親の心身の状態を知る母親達に母乳育児の知識を教えることは重要であるが 授乳中の心身の状態に会って教えられないと母親達に伝わらないことが多い それはなぜか 欧米との身体観の違い 知識はいつ どのように伝えるか 母親たちに伝わるということの見直し
7) 母乳育児のための 妊娠中の準備 - 妊娠中からのイメージ作りとケアの実際 - 聖マリアンナ看護専門学校非常勤講師助産師飯田ゆみ子はじめに妊娠中は スムーズに母乳育児を開始するための準備期間としては重要な時期である 多くの妊婦が 出産に向けた心身の準備は行っているが その後の育児に向けての取り組み ( 殊に母乳育児について ) は少ないと言える 特に産後早期の自律頻回授乳を乗り切るためには 妊娠中からのイメージ作りが重要である 妊娠 出産は 長い間自分の身体からの感覚の情報をキャッチするという生活習慣から遠ざかって来た女性が 自分の身体の中で起こっている事を素直に感じ 表現するよい機会である 妊娠をきっかけに日常の生活習慣や食生活を見直し 子育て環境の改善など社会に向けて活動し始める例もある一方で 受身の妊婦も多いのが実情である 現代の日本では 母乳育児が伝承されてこなかったため 新たな母乳育児文化を作る必要がある そういう観点にたって 妊娠中からのイメージ作りやケアの実際と BFH 施設における実践状況について述べる 1. 妊娠中からのケアの必要性と目標 1) 医療モデルとケアモデル 2) 母乳育児における支援者の構えコミュニケーションの基本や 支援者としてのありよう 2. 妊娠中からのイメージ作り機会や場面 方法 内容 3. 妊娠中の具体的なケア観察の時期 内容 手入れ 4.BFH 施設における実践状況平成 21 年の調査結果から
8) 出産後の母子のからだとこころのケア 倉富明美 ( 助 ) 日本母乳の会研修委員九州医療センター 1. 母乳育児の理想と現実 1) 妊娠中からの意識付けの重要性 母乳育児へのイメージ化をいかに作っていくか 産後に出てくる言葉 母乳ってこんなに大変なんて 産んだらでると思ってた 2) 見守り 支えの姿勢 2. 授乳の仕方の指導 3. 頻回授乳への支援 1) 母児同室の意義 2) 頻回授乳へのスタッフの意識のすり合わせ 4. 母乳育児に携わるスタッフ教育
ステップ 4 なぜ 赤ちゃんにやさしい病院 BFH 認定をめざすのか めざせ BFH 9)BFH 施設認定に向けた道のり 個人の取り組みを いかに施設認定へつなげるか 桑間直志日本母乳の会研修委員富山赤十字病院 1. BFH 施設認定はボトムアップの取り組みである必要がある 個人の取り組み 部署 : 病棟 外来での取り組み 施設での取り組みという流れが大切 2. 個人の取り組み 母乳育児支援研修会や各種母乳育児学習会への参加 : 母乳育児支援に関する知識の習得 個人のスキルアップ 個人が得た母乳育児支援に関する知識を病棟へ広める 早期母子接触や完全母子同室の開始につながる 母乳育児ワークショップへの参加 ( 特に医師と共に参加すること ) 部署 : 病棟 外来での母乳育児支援に対する活動の大きな推進力となる 母乳育児シンポジウムに参加し他施設での母乳育児支援の取り組みを参考にする 自施設での母親教室 妊婦健診 助産師外来 母乳外来の改善 2 週間健診 自助サークル等の立ち上げに役立つ 3. 個人の取り組みから部署 : 病棟 外来での取り組みへ 院内母乳育児学習会の開催や病棟でのチームカンファレンス 病棟 外来全体のレベルアップ 4. 部署 : 病棟 外来での取り組みから施設全体での取り組みへ 母乳育児推進委員会の設置 院長等 病院のトップが構成員として入ると施設全体としての活動が迅速かつ円滑に行うことができる 近隣に BFH 認定施設があれば その施設での取り組みを参考にする 母乳育児推進委員会を中心に施設として 母乳育児成功のための 10 か条 達成をめざす 院内講演会の開催 新規採用職員研修会 医局会等で BFH に対する取り組みの周知徹底 施設職員全体の母乳育児支援に対する意識向上 BFH 認定が施設の行動目標となれば それに向けた病棟 外来等の施設 設備の改善も容易となる 以上の活動で 10 か条 を満たすことができれば BFH 施設認定となる
10)BFH 認定後におきやすい問題点と対応 母乳育児支援をして お産も変わり ました 佐藤文彦 ( 産 ) 日本母乳の会研修委員山形市立病院済生館 BFH めざして 10 ケ条に基づいて色々なことを改善し 学んでいくと しっかりとした母乳育児支援ができるようになり この過程はスタッフが一丸となり楽しいとも思える時期です この過程で母乳育児支援に積極でない人 抵抗する人をどうやって聞き込むかを考えてみたいと思います BFH に認定されると 物心とも充実し 母乳育児支援をしているという自覚がみんなに根付きます しかし 年数が経過してくると 医師の移動に伴って 母乳育児支援に障害のある指示が医師から出ることがあります また スタッフのモチベーションの低下 移動でぶれが生じて母乳育児継続に支障が出てくることもあります これを乗り越えるのは しっかりとした母乳育児支援への熱意 方法論を持つことではないでしょうか また 当院では母乳育児支援を進めていくとともに お産のやり方 お産に対する気持ちが劇的に変化していきました 母乳育児に影響を与えないお産とは と考えていくと 医療介入の少ない 自然なお産 お母さんがすぐに赤ちゃんに向き合え 育児への意欲が湧くお産が望ましいと思われました この取り組みについてもお話したいと思います 母乳育児はお母さん 赤ちゃんを育てますが 病院 施設 お産も育てると感じました