この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案

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遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

本件リリース先 文部科学記者会 科学記者会広島大学関係報道機関 広島大学学術 社会産学連携室広報グループ 東広島市鏡山 TEL: FAX: 平成 2

法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

Microsoft Word - 【広報課確認】 _プレス原稿(最終版)_東大医科研 河岡先生_miClear

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

背景 私たちの体はたくさんの細胞からできていますが そのそれぞれに遺伝情報が受け継がれるためには 細胞が分裂するときに染色体を正確に分配しなければいけません 染色体の分配は紡錘体という装置によって行われ この際にまず染色体が紡錘体の中央に集まって整列し その後 2 つの極の方向に引っ張られて分配され

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

別添資料 平成 27 年 9 月 10 日福島県立医科大学 医療被ばく (CT 検査 ) による生体影響に関する発見 研究成果のポイント 1. 1 回の CT 検査 (5.78 msv~60.27 msv) によって染色体異常が誘発されている可能性が示唆された msv 未満の放射線被ば

生物時計の安定性の秘密を解明

Microsoft Word - 【変更済】プレスリリース要旨_飯島・関谷H29_R6.docx

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

ん細胞の標的分子の遺伝子に高い頻度で変異が起きています その結果 標的分子の特定のアミノ酸が別のアミノ酸へと置き換わることで分子標的療法剤の標的分子への結合が阻害されて がん細胞が薬剤耐性を獲得します この病態を克服するためには 標的分子に遺伝子変異を持つモデル細胞を樹立して そのモデル細胞系を用い

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

< 研究の背景 > 肉腫は骨や筋肉などの組織から発生するがんで 患者数が少ない稀少がんの代表格です その一方で 若い患者にしばしば発生すること 悪性度が高く難治性の症例が少なくないこと 早期発見が難しいことなど多くの問題を含んでいます ユーイング肉腫も小児や若年者に多く 発見が遅れると全身に転移する

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

研究の背景 B 型肝炎ウイルスの持続感染者は日本国内で 万人と推定されています また, B 型肝炎ウイルスの持続感染は, 肝硬変, 肝がんへと進行していくことが懸念されます このウイルスは細胞へ感染後,cccDNA と呼ばれる環状二本鎖 DNA( 5) を作ります 感染細胞ではこの

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

プレスリリース Press Release Date : 表題 : がん免疫治療の標的分子 PD-L1 が DNA 修復を介して制御される新たな分子機構を発見 ~ 先端免疫治療において DNA 修復の関わりを示す世界初の研究成果 ~ プレスリリース要約 : 今や国民病とも言える

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背景 人工 DNA 切断酵素である TALEN や CRISPR-Cas9 を用いたゲノム編集技術により 遺 伝性疾患でみられる一塩基多型を導入または修復する手法は 疾患のモデリングや治療のた めに必須となる技術です しかしながら一塩基置換のみを導入した細胞は薬剤選抜を適用で きないため 正確に目的

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Microsoft Word CREST中山(確定版)

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1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

図 1. 微小管 ( 赤線 ) は細胞分裂 伸長の方向を規定する本瀬准教授らは NIMA 関連キナーゼ 6 (NEK6) というタンパク質の機能を手がかりとして 微小管が整列するメカニズムを調べました NEK6 を欠損したシロイヌナズナ変異体では微小管が整列しないため 細胞と器官が異常な方向に伸長し

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

情報解禁日時の設定はありません 情報はすぐにご利用いただけます 基礎生物学研究所配信先 : 岡崎市政記者会東京工業大学配信先 : 文部科学記者会 科学記者会 報道機関各位 2017 年 7 月 25 日 自然科学研究機構基礎生物学研究所国立大学法人東京工業大学 遺伝子撹拌装置をタイミング良く染色体か

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

急性骨髄性白血病の新しい転写因子調節メカニズムを解明 従来とは逆にがん抑制遺伝子をターゲットにした治療戦略を提唱 概要従来 <がん抑制因子 >と考えられてきた転写因子 :Runt-related transcription factor 1 (RUNX1) は RUNX ファミリー因子 (RUNX1

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

研究の内容 結果本研究ではまず 日本人のクロザピン誘発性無顆粒球症 顆粒球減少症患者群 50 人と日本人正常対照者群 2905 人について全ゲノム関連解析を行いました DNAマイクロアレイを用いて 約 90 万個の一塩基多型 (SNP) 6 を決定し 個々の関連を検討しました その結果 有意水準を超

_PressRelease_Reactive OFF-ON type alkylating agents for higher-ordered structures of nucleic acids

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解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

神経細胞での脂質ラフトを介した新たなシグナル伝達制御を発見

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

イマチニブ家族10-11

研究の詳細な説明 1. 背景病原微生物は 様々なタンパク質を作ることにより宿主の生体防御システムに対抗しています その分子メカニズムの一つとして病原微生物のタンパク質分解酵素が宿主の抗体を切断 分解することが知られております 抗体が切断 分解されると宿主は病原微生物を排除することが出来なくなります

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Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

Microsoft Word - PRESS_

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

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一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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長期/島本1

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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Microsoft Word - 熊本大学プレスリリース_final

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

4. 発表内容 : [ 研究の背景 ] 1 型糖尿病 ( 注 1) は 主に 免疫系の細胞 (T 細胞 ) が膵臓の β 細胞 ( インスリンを産生する細胞 ) に対して免疫応答を起こすことによって発症します 特定の HLA 遺伝子型を持つと 1 型糖尿病の発症率が高くなることが 日本人 欧米人 ア

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

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化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

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難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

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平成24年7月x日

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

世界初! 細胞内の線維を切るハサミの機構を解明 この度 名古屋大学大学院理学研究科の成田哲博准教授らの研究グループは 大阪大学 東海学院大学 豊田理化学研究所との共同研究で 細胞内で最もメジャーな線維であるアクチン線維を切断 分解する機構をクライオ電子顕微鏡法注 1) による構造解析によって解明する

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公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

商用周波磁界ばく露と小児白血病発症の可能性に関する研究提言 2007 年 WHO( 世界保健機関 ) は 環境保健クライテリアモノグラフ 238 およびファクトシート 322 で 商用周波磁界ばく露の長期的健康影響に関し 小児白血病との間に弱い関連性はあるものの 因果関係があると見る程証拠は揃ってい

本成果は 以下の研究助成金によって得られました JSPS 科研費 ( 井上由紀子 ) JSPS 科研費 , 16H06528( 井上高良 ) 精神 神経疾患研究開発費 24-12, 26-9, 27-

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< 備考 > 本研究は 文科省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業 バイオメタルと生体反応の連関解明に基づいた疾患治療ファルマコメタロミクスの確立 (S20008) 文科省科学研究費補助金 基盤研究(C) (8K06940) 公益財団法人武田科学振興財団の薬学系研究助成などの支援を受けて行なわれました

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

論文の内容の要旨

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本件リリース先 文部科学記者会 科学記者会 広島大学関係報道機関 NEWS RELEASE 本件の報道解禁につきましては 平成 30 年 5 月 15 日 ( 火 ) 午後 4 時以降にお願いいたします 広島大学広報グループ 739-8511 東広島市鏡山 1-3-2 TEL:082-424-4657 FAX:082-424-6040 E-mail: koho@office.hiroshima-u.ac.jp 平成 30 年 5 月 10 日 記者説明会 (5 月 15 日 10 時 30 分 広島 ) のご案内 放射線や抗がん剤による染色体異常を防ぐ分子機構を解明 ATM は DNA 損傷の修復を促進するだけでなく 抑制して調整することが判明 本研究成果のポイント 放射線被ばくや薬剤などによる染色体異常は 白血病やがんの原因となることが知られています 今回の研究で DNA 損傷シグナル制御因子 ATM は クロマチン構造変換複合体の構成因子である ARP8 をリン酸化することで 修復因子の損傷 DNA への結合を適度に抑制していることがわかりました すなわち ATM は修復のアクセルとしての役割だけでなく ブレーキとしても働くことで 修復の活性を適切なレンジに調整し 染色体異常を防いでいることが明らかになりました 今回の研究成果は DNA 修復機構を制御することで 放射線被ばくや薬剤などによるがんを予防するという新しい医療の確立に繋がることが期待されます 概要 広島大学原爆放射線医科学研究所の孫継英講師 田代聡教授らの共同研究チームは 放射線被ばくや薬剤による染色体の異常が形成されないようにする 傷ついた DNA を正確に修復するメカニズムを明らかにしました 放射線被ばくや薬剤などにより傷ついた DNA の周辺では DNA とヒストンなどのタンパク質からなるクロマチン構造が変化して 修復に関わる様々な因子が損傷 DNA に結合するのを促進し DNA 修復を進めることが知られています しかし 修復に失敗して 切れた DNA が間違った場所に繋がれて染色体転座が作られてしまうと遺伝子の構造を壊してしまい 白血病やがんの原因になります 特に 11 番染色体転座は 抗がん剤エトポシドによる治療に関連する二次性白血病に特徴的な染色体異常として知られています ただ これらの染色体転座のメカニズムは不明でした 今回の研究では エトポシドによる 11 番染色体転座をモデルに 染色体転座のメカニズムの解明に取り組みました その結果 DNA 損傷シグナル制御因子 ATM が INO80 クロマチン構造変換複合体 ( 注 1) の構成因子である ARP8 をリン酸化することが 11 番染色体転座を防ぐために重要であることがわかりました ATM による ARP8 のリン酸化が INO80 クロマチン構造変換複合体や DNA 修復因子 RAD51 の損傷 DNA への結合を適度に抑制することで 染色体転座を防ぐことを明らかにしました 今回の研究成果は 正確な DNA 修復をおこなうための重要な分子機構を明らかにしたもので 放射線被ばくや薬剤の後障害である白血病やがんの発症予防法の確立に繋がることが期待されます

この研究成果は 日本時間の 2018 年 5 月 15 日午後 4 時 ( 英国時間 5 月 15 月午前 8 時 ) に英国オンライン科学雑誌 elife に掲載される予定です 本成果につきまして 下記のとおり記者説明会を開催し ご説明いたします ご多忙とは存じますが 是非ご参加いただきたく ご案内申し上げます 日時 : 平成 30 年 5 月 15 日 ( 火 )10:30~11:10 場所 : 広島大学霞キャンパス研究棟 B( 旧歯学部 B 棟 )2F 歯学部大会議室 ( 広島市南区霞 1-2-3) 出席者 : 広島大学原爆放射線医科学研究所教授田代聡 記 掲載雑誌 :elife 論文タイトル Distinct roles of ATM and ATR in the regulation of ARP8 phosphorylation to prevent chromosome translocations. DOI: 10.7554/eLife.32222.001 著者と所属 Jiying Sun 1, Lin Shi 1, Aiko Kinomura 1, Atsuhiko Fukuto 1, 5, Yasunori Horikoshi 1 Yukako Oma 2, Masahiko Harata 2, Masae Ikura 3, Tsuyoshi Ikura 3, Roland Kanaar 4, Satoshi Tashiro 1* 1) 広島大学 原爆放射線医科学研究所 細胞修復制御研究分野 2) 東北大学 大学院農学研究科 分子生物学 3) 京都大学 放射線生物学研究所 クロマチン動態制御学分野 4) オランダ Erasmus MC Oncode Institute 5) 広島大学病院 眼科 *: 責任著者 背景 原爆被爆者では 原爆放射線により染色体 DNA が傷つけられることから 白血病やがんが増えることが知られています 一方 放射線や抗がん剤によるがんの治療は がん細胞の染色体 DNA を傷つけることで 抗がん作用を発揮します しかし このようながんの治療は 同時に正常細胞の染色体 DNA も傷つけてしまうので 癌治療の経験者にも 被爆者と同じように白血病やがんが増えることが知られています DNA 損傷シグナル制御因子 ATM は 様々なタンパク質をリン酸化することで細胞全体に DNA 損傷が誘導されたことを伝えます そして DNA を修復するために ATM や INO80 クロマチン構造変換複合体などは損傷 DNA 周辺のクロマチンの構造を変え RAD51 などの修復因子を損傷 DNA に結合しやすくします しかし 損傷 DNA の修復過程で切断された DNA が本来とは違うところに繋がれると 染色体転座などの染色体異常が引き起こされ 遺伝情報が改変されてしまいます このことが 二次性の白血病 がんの原因とされています 特に 11 番染色体転座を持つ白血病は エトポシドという抗がん剤の治療に関連することが知られています そこで 本研究では 発がんにつながる染色体転座のメカニズムを解明するために ヒト培養細胞を用いて 11 番染色体転座をモデルとすることにしました

研究成果の内容 今回の研究により ATM が INO80 クロマチン構造変換複合体と損傷 DNA との結合に重要な ARP8 のリン酸化を促進することがわかりました ( 図 1) そして ARP8 のリン酸化は INO80 の損傷 DNA への結合を抑制することが示されました さらに このような状態では DNA 修復因子である RAD51 も損傷 DNA に結合しにくくなることがわかりました すなわち DNA 損傷シグナル制御因子 ATM は 今まで知られていたように DNA 修復を活性化するだけでなく ARP8 をリン酸化して INO80 と RAD51 の損傷クロマチンへの結合を抑制することで 染色体転座を防いでいることが明らかになりました ( 図 2) アンジェリーナ ジョリーについての報道で有名になったように DNA 修復因子の一つである BRCA1 などの遺伝子異常によって DNA 修復の活性が弱い人には 染色体異常が多く認められ がんになりやすいことが知られています しかし 今回の研究から 修復エラーを起こさないためには DNA 修復活性を適度に 抑制する ことも大事であること すなわち DNA 修復は 過ぎたるは及ばざるが如し であることが明らかになりました ( 図 3) 今後の展開 今回の研究成果は 白血病やがんの発症に関わる染色体転座を防ぐメカニズムを明らかにしたものです 今後 この研究を進めることで 原発事故などでの放射線被ばくやがん治療の後障害としての白血病やがんの発症を予防する方法の確立に繋がることが期待されます 用語解説 ( 注 1)INO80 クロマチン構造変換複合体 : 細胞核では 染色体 DNA がタンパク質と結合してクロマチンという高次構造を作って存在しています クロマチンは DNA の修復や複製 遺伝子の転写などの DNA 代謝を制御するために構造を変えることが知られており この構造の変化を司る複数のタンパク質から構成されるタンパク質複合体のことをクロマチン構造変換複合体と呼びます INO80 クロマチン構造変換複合体は クロマチン構造変換複合体の一つで INO80 を中心とした複数のタンパク質からなるタンパク質複合体です

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参考資料 ATM modulates the loading of recombination proteins onto a chromosomal translocation breakpoint hotspot. Sun J, Oma Y, Harata M, Kono K, Shima H, Kinomura A, Ikura T, Suzuki S, Mizutani S, Kanaar R, Tashiro S. PLoS ONE 5(10), e13554, 2010. お問い合わせ先 原爆放射線医科学研究所細胞修復制御研究分野教授田代聡 Tel:082-257-5818 FAX:082-256-7104 E-mail:ktashiro@hiroshima-u.ac.jp 発信枚数 :A4 版 8 枚 ( 本票含む )

( 別紙 ) FAX 返信用紙 FAX:082-424-6040 広島大学財務 総務室広報部広報グループ行 放射線や抗がん剤による染色体異常を防ぐ分子機構を解明 ATM は DNA 損傷の修復を促進するだけでなく 抑制して調整することが判明 日時 : 平成 30 年 5 月 15 日 ( 火 )10:30~11:10 場所 : 広島大学霞キャンパス研究棟 B( 旧歯学部 B 棟 )2F 歯学部大会議室 ( 広島市南区霞 1-2-3) ご出席 ご欠席 貴 社 名 部 署 名 ご 芳 名 ( 計 名 ) 電話番号 誠に恐れ入りますが 上記にご記入頂き 5 月 14 日 ( 月 )12:00 までにご連絡願います 研究棟 B 2 階 歯学部大会議室