報道発表資料

Similar documents
kouenyoushi_kyoshida

2. 背景わが国では気候変動による様々な影響に対し 政府全体として整合のとれた取組を総合的かつ計画的に推進するため 2015 年 11 月 27 日に 気候変動の影響への適応計画 が閣議決定されました また 同年 12 月の国連気候変動枠組条約第 21 回締約国会議で取りまとめられた 新たな国際的な

<4D F736F F D20826D C C835895B681698DC58F4994C5816A89FC322E646F63>

(1) 継続的な観測 監視 研究調査の推進及び情報や知見の集積〇気候変動の進行状況の継続的な監視体制 気象庁では WMO の枠組みの中で 気象要素と各種大気質の観測を行っている 1 現場で観測をしっかりと行っている 2 データの標準化をしっかりと行っている 3 データは公開 提供している 気象庁気象

WTENK4-1_982.pdf

Microsoft Word - 01.doc

( 第 1 章 はじめに ) などの総称 ) の信頼性自体は現在気候の再現性を評価することで確認できるが 将来気候における 数年から数十年周期の自然変動の影響に伴う不確実性は定量的に評価することができなかった こ の不確実性は 降水量の将来変化において特に顕著である ( 詳細は 1.4 節を参照 )

Microsoft PowerPoint - d4PDF予稿集原稿_V7.pptx

資料1-1 「日本海沿岸域における温暖化に伴う積雪の変化予測と適応策のための先進的ダウンスケーリング手法の開発」(海洋研究開発機構 木村特任上席研究員 提出資料)

正誤表 ( 抜粋版 ) 気象庁訳 (2015 年 7 月 1 日版 ) 注意 この資料は IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書の正誤表を 日本語訳版に関連する部分について抜粋して翻訳 作成したものである この翻訳は IPCC ホームページに掲載された正誤表 (2015 年 4 月 1

IPCC 第 5 次報告書における排出ガスの抑制シナリオ 最新の IPCC 第 5 次報告書 (AR5) では 温室効果ガス濃度の推移の違いによる 4 つの RCP シナリオが用意されている パリ協定における将来の気温上昇を 2 以下に抑えるという目標に相当する排出量の最も低い RCP2.6 や最大

2. エルニーニョ / ラニーニャ現象の日本への影響前記 1. で触れたように エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海洋 大気場と密接な関わりを持つ大規模な現象です そのため エルニーニョ / ラニーニャ現象は周辺の海流や大気の流れを通じたテレコネクション ( キーワード ) を経て日本へも影響

(c) (d) (e) 図 及び付表地域別の平均気温の変化 ( 将来気候の現在気候との差 ) 棒グラフが現在気候との差 縦棒は年々変動の標準偏差 ( 左 : 現在気候 右 : 将来気候 ) を示す : 年間 : 春 (3~5 月 ) (c): 夏 (6~8 月 ) (d): 秋 (9~1

橡Ⅰ.企業の天候リスクマネジメントと中長期気象情

21世紀気候変動予測革新プログラム 平成21年度研究成果報告会

[ ここに入力 ] 本件リリース先 2019 年 6 月 21 日文部科学記者会 科学記者会 名古屋教育記者会九州大学記者クラブ大学プレスセンター 共同通信 PR ワイヤー 2019 年 6 月 21 日立正大学九州大学国立研究開発法人海洋研究開発機構名古屋大学 立正大 九州大 海洋研究開発機構 名

An ensemble downscaling prediction experiment of summertime cool weather caused by Yamase

Microsoft PowerPoint _HARU_Keisoku_LETKF.ppt [互換モード]

Microsoft Word - cap5-2013torikumi

<4D F736F F D F193B994AD955C8E9197BF816A89C482A982E78F4882C982A982AF82C482CC92AA88CA2E646F63>

図 1 COBE-SST のオリジナル格子から JCDAS の格子に変換を行う際に用いられている海陸マスク 緑色は陸域 青色は海域 赤色は内海を表す 内海では気候値 (COBE-SST 作成時に用いられている 1951~2 年の平均値 ) が利用されている (a) (b) SST (K) SST a

資料2-3 気候変動適応技術社会実装プログラムの研究開発体制・進捗状況

< F2D81798B438FDB817A95BD90AC E93788EC090D1955D89BF>

Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

Microsoft Word - cap3-2013kaiyo

Microsoft PowerPoint - Noda2009SS.ppt

2

Microsoft Word - 1.1_kion_4th_newcolor.doc

気候変化レポート2015 -関東甲信・北陸・東海地方- 第1章第4節

Microsoft PowerPoint - 02.pptx

Microsoft PowerPoint - Ikeda_ ppt [互換モード]

Microsoft Word - cap4-2013chugoku-hirosima

1. 気温と産業の関係 2. 気温と販売数の関係の分析 過去の気温データをダウンロードする 時系列グラフを描く 気温と販売の関係を調べる 散布図を描く 定量的な関係を求める 気温から販売数を推定する 2 週間先の気温予測を取得し 活用する 気温以外の要素の影響 3. 予報精度 過去の 1 か月予報

結果を用いて首都圏での雪雲の動態を解析することができました ( 詳しい解説 は別添 ) こうした観測事例を蓄積し 首都圏降雪現象の理解を進め 将来的に は予測の改善に繋げていきたいと考えています 今回の研究成果は 科学的に興味深く 新しい観測研究のあり方を提案するものとして 日本雪氷学会の科学誌 雪

PowerPoint プレゼンテーション

風力発電インデックスの算出方法について 1. 風力発電インデックスについて風力発電インデックスは 気象庁 GPV(RSM) 1 局地気象モデル 2 (ANEMOS:LAWEPS-1 次領域モデル ) マスコンモデル 3 により 1km メッシュの地上高 70m における 24 時間の毎時風速を予測し

2016 年 5 月 17 日第 9 回気象庁数値モデル研究会 第 45 回メソ気象研究会第 2 回観測システム 予測可能性研究連絡会 気象庁週間アンサンブル予報 システムの現状と展望 気象庁予報部数値予報課 太田洋一郎 1

あおぞら彩時記 2017 第 5 号今号の話題 トリオ : 地方勤務の先輩記者からの質問です 気象庁は今年度 (H 29 年度 )7 月 4 日から これまで発表していた土砂災害警戒判定メッシュ情報に加え 浸水害や洪水害の危険度の高まりが一目で分かる 危険度分布 の提供を開始したというのは本当ですか

1. 天候の特徴 2013 年の夏は 全国で暑夏となりました 特に 西日本の夏平均気温平年差は +1.2 となり 統計を開始した 1946 年以降で最も高くなりました ( 表 1) 8 月上旬後半 ~ 中旬前半の高温ピーク時には 東 西日本太平洋側を中心に気温が著しく高くなりました ( 図 1) 特

IPCC 第1作業部会 第5次評価報告書 政策決定者のためのサマリー

PRESS RELEASE 2018/5/21 シャコガイ殻に残された台風の痕跡 ~ 新たに発見過去の台風の復元指標 ~ ポイント 台風を経験したシャコガイの殻の化学組成や成長線の幅に特徴的な変化が生じることを発見 沖ノ鳥島のシャコガイに刻まれた日輪を数えると化学分析結果の正確な日付がわかることが判

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

III

福島第1原子力発電所事故に伴う 131 Iと 137 Csの大気放出量に関する試算(II)

平成21年度実績報告

要旨 昨秋 日本に多大な被害を与えた台風 15 号は静岡県浜松市に上陸し 東海大学海洋学部 8 号館気象台では過去 3 年間での最高値に相当する 1 分平均風速 25 m/s を記録した また 西日本から北日本の広範囲に暴風や記録的な大雨をもたらし 東京都江戸川区で最大風速 31 m/s を記録する

マルチRCMによる日本域における 力学的ダウンスケーリング

専門.indd

水田 亮

などの極端現象も含め 気候変動による影響を評価している さらに AR4 は 長期的な展望として 適応策と緩和策のどちらも その一方だけではすべての気候変動の影響を防ぐことができないが 両者は互いに補完し合い 気候変動のリスクを大きく低減することが可能であることは 確信度が高い とし 最も厳しい緩和努

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

プレスリリース 2018 年 10 月 31 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 台風の急激な構造変化のメカニズムを解明 - 台風の強度予報の精度を飛躍的に向上できる可能性 - 慶應義塾大学の宮本佳明環境情報学部専任講師 杉本憲彦法学部准教授らの研究チームは 長年の謎であった台風の構造が急激に変化する

4

WTENK5-6_26265.pdf

スライド 1

資料6 (気象庁提出資料)

する距離を一定に保ち温度を変化させた場合のセンサーのカウント ( センサーが計測した距離 ) の変化を調べた ( 図 4) 実験で得られたセンサーの温度変化とカウント変化の一例をグラフ 1 に載せる グラフにおいて赤いデータ点がセンサーのカウント値である 計測距離一定で実験を行ったので理想的にはカウ

Microsoft Word - [HP]森教授プレス.docx

地球温暖化に関する知識

研究の背景これまで, アルペンスキー競技の競技者にかかる空気抵抗 ( 抗力 ) に関する研究では, 実際のレーサーを対象に実験風洞 (Wind tunnel) を用いて, 滑走フォームと空気抵抗の関係や, スーツを含むスキー用具のデザインが検討されてきました. しかし, 風洞を用いた実験では, レー

別紙 1600 年分の自然災害を振り返る災害年表マップ ~スマートフォン タブレット対応のお知らせと Web 技術者向け API 配信項目拡大のご案内 ~ 1. 災害年表マップについて災害年表マップは 過去の自然災害事例を発生年ごとに市区町村単位で Web 地図上に表示する Web サービスです 地

梅雨 秋雨の対比とそのモデル再現性 将来変化 西井和晃, 中村尚 ( 東大先端研 ) 1. はじめに Sampe and Xie (2010) は, 梅雨降水帯に沿って存在する, 対流圏中層の水平暖気移流の梅雨に対する重要性を指摘した. すなわち,(i) 初夏に形成されるチベット高現上の高温な空気塊

220km Close Up 820m m 6,897.5m

LEDの光度調整について

日本の海氷 降雪 積雪と温暖化 高野清治 気象庁地球環境 海洋部 気候情報課

IPCC 第 5 次評価報告書第 1 作業部会報告書概要 ( 気象庁訳 ) 正誤表 (2015 年 12 月 1 日修正 ) 第 10 章気候変動の検出と原因特定 : 地球全体から地域まで 41 ページ気候システムの特性第 1 パラグラフ 15 行目 ( 誤 ) 平衡気候感度が 1 以下である可能性

1

作図コマンド : pscoast -R125/148/30/46 -JM15c -B5g5 -Di -W5 -S235 -X6c -Y4c > test.ps 作図例 : 2 分布図の作成 2.1 点を描く 地点の分布を作図するときは たとえば以下のように行います > pscoast -R125/1

<4D F736F F D C A838A815B B438CF395CF93AE91CE8DF D48505F205F F8DC58F4994C5205F838D835393FC82E88F4390B3816A2E646F63>

リスク分析・シミュレーション

津波警報等の留意事項津波警報等の利用にあたっては 以下の点に留意する必要があります 沿岸に近い海域で大きな地震が発生した場合 津波警報等の発表が津波の襲来に間に合わない場合があります 沿岸部で大きな揺れを感じた場合は 津波警報等の発表を待たず 直ちに避難行動を起こす必要があります 津波警報等は 最新

東京大学学内広報 NO.1405 ( )

<4D F736F F D2089FC92E82D D4B CF591AA92E882C CA82C982C282A282C42E727466>

気象庁 札幌管区気象台 資料 -6 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 平成 29 年度防災気象情報の改善 5 日先までの 警報級の可能性 について 危険度を色分けした時系列で分かりやすく提供 大雨警報 ( 浸水害 )

図 表 2-1 所 得 階 層 別 国 ごとの 将 来 人 口 の 推 移 ( 億 人 ) 開 発 途 上 国 中 間 国 先 進 国

jphc_outcome_d_014.indd

(別紙1)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書統合報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要(速報版)

日本海溝海底地震津波観測網の整備と緊急津波速報 ( 仮称 ) システムの現状と将来像 < 日本海溝海底地震津波観測網の整備 > 地震情報 津波情報 その他 ( 研究活動に必要な情報等 ) 海底観測網の整備及び活用の現状 陸域と比べ海域の観測点 ( 地震計 ) は少ない ( 陸上 : 1378 点海域

平成14年4月 日

データ同化 観測データ 解析値 数値モデル オーストラリア気象局より 気象庁 HP より 数値シミュレーションに観測データを取り組む - 陸上 船舶 航空機 衛星などによる観測 - 気圧 気温 湿度など観測情報 再解析データによる現象の再現性を向上させる -JRA-55(JMA),ERA-Inter

予報時間を39時間に延長したMSMの初期時刻別統計検証

<4D F736F F F696E74202D E63289F1934B899E8DF E BBF975C91AA82CC8CA992CA82B55F FC92F988C42E >

台風23 集約情報_14_.PDF

い水が海面近くに湧き上っている 図 (a) をみると 太平洋赤道域の海面水温は西部で高く 東部で低くなっていることがわかる また 北半球 ( 南半球 ) の大陸の西岸付近では 岸に沿って南向き ( 北向き ) の風が吹くと 海面付近の暖かい海水は風の方向に力を受けるとともに 地球自転に

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

2015 年 1 月 5 日 カンボジア自然災害リスク < シリーズ 3> カンボジアの台風リスクについて インターリスクアジアタイランド シリーズ 3 回目はカンボジアの台風リスクについてご紹介します 日本と比較し カンボジアの台風リスクは低いと言えます 1. 台風ハザードの概要 Strategi

NEWS 特定非営利活動法人環境エネルギーネットワーク 21 No 年 9 月 IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change) の概要 環境エネルギーネットワーク 21 主任研究員大崎歌奈子 今年の夏は世界各国で猛暑や洪水 干ばつ

PowerPoint Presentation

委 44-4 TRMM の最近の成果と これからの展望について 第 44 回宇宙開発委員会平成 14 年 11 月 20 日 ( 水 ) 宇宙開発事業団独立行政法人通信総合研究所

Microsoft PowerPoint TV-meeting_mizo.pptx

PowerPoint プレゼンテーション

佐賀県の地震活動概況 (2018 年 12 月 ) ( 1 / 10) 平成 31 年 1 月 15 日佐賀地方気象台 12 月の地震活動概況 12 月に佐賀県内で震度 1 以上を観測した地震は1 回でした (11 月はなし ) 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 図 1 震央分布図 (2018 年 1

種にふくまれているものは何か 2001,6,5(火) 4校時

DE0087−Ö“ª…v…›

RSS Higher Certificate in Statistics, Specimen A Module 3: Basic Statistical Methods Solutions Question 1 (i) 帰無仮説 : 200C と 250C において鉄鋼の破壊応力の母平均には違いはな

Microsoft PowerPoint nakagawa.ppt [互換モード]

DIAS はこう使う! 第 3 回 DIAS 利用ワークショップ全体セッション 西村一 JAMSTEC

その人工知能は本当に信頼できるのか? 人工知能の性能を正確に評価する方法を開発 概要人工知能 (AI) によるビッグデータ解析は 医療現場や市場分析など社会のさまざまな分野での活用が進み 今後さらなる普及が予想されています また 創薬研究などで分子モデルの有効性を予測する場合にも AI は主要な検証

PowerPoint プレゼンテーション

AIMテンプレ

Transcription:

報道発表資料平成 2 9 年 1 0 月 2 6 日 ( 一財 ) 気象業務支援センター気象庁気象研究所 地球温暖化で猛烈な熱帯低気圧 ( 台風 ) の頻度が日本の南海上で高まる ~ 多数の高解像度温暖化シミュレーションによる予測 ~ これまでにない多数の高解像度地球温暖化気候シミュレーション実験の結果を解析して 温暖化が最悪のシナリオで進行した場合の21 世紀末には 全世界での熱帯低気圧 ( 台風 ) の発生総数は3 割程度減少するものの 日本の南海上からハワイ付近およびメキシコの西海上にかけて猛烈な熱帯低気圧の出現頻度が増加する可能性が高いことが示されました この結果は10 月 4 日付けで国際的科学誌 Geophysical Research Letters に掲載されました 図. 猛烈な熱帯低気圧 ( 台風 ) が存在する頻度の将来変化 赤色の領域で頻度が増加している 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第五次評価報告書では 温暖化の進行とともに地球全体での台風の発生数が減少または実質的に変化しないことと 個々の台風の最大風速や降水量が強まる可能性が高いことが示されています 一方 猛烈な台風の数については 地球全体として数が増加するのか 減少するのか また海域ごとにどのような変化傾向があるのかについて 既存の気候シミュレーションデータベースでは精度の良い結論を導き出すのは困難でした この問題を解決するために 今回 ( 一財 ) 気象業務支援センター及び気象庁気象研究所の研究グループは 将来気候予測についての不確実性を考慮したこれまでにない多数の高解像度地球温暖化気候シミュレーション実験結果をとりまとめた 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース (d4pdf) 1 を活用して 台風の将来変化を高精度で求めました その結果 IPCC 第五次評価報告書の RCP8.5 シナリオ 2 での 21 世紀末に相当する気候状 3 態で 最大地表風速 59m/s 以上の猛烈な台風の数は地球全体では現在よりも減るものの 日本の南海上からハワイ周辺およびメキシコの西海上にかけて 現在よりも高頻度で現れる可能性が高いことが分かりました その一方で北東太平洋において 猛烈な台風の数が

どの程度増えるのかについては 将来にどの領域で大きい海面水温上昇を予測しているかによって大きく異なることもわかりました ( 詳しい解説は別添 1) 今回の研究成果は 防災や水資源管理など社会性の高いテーマにも関連し 学術的にも高い評価が得られています さらに 日本国内だけでなく地球規模での将来の防災対策 適応計画を立案する上で考慮されるべき結果であると考え 調査結果をまとめ 国際的な科学誌であるアメリカ地球物理連合の Geophysical Research Letters に発表しました 本論文が示した将来の台風についての見通しが 国民生活の安全性を高める施策決定に役立つことを期待します また IPCC 第五次評価報告書では 台風の将来変化について 根拠不十分で確度の高い評価ができませんでした 今回の成果である地域的な熱帯低気圧発生の変化傾向や量的な変化については 次回の評価報告書に貢献できるものと期待されます 1 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース (d4pdf: database for Policy Decision making for Future climate change) 気象研究所 東京大学 京都大学 国立環境研究所 筑波大学 海洋研究開発機構が共同で実施した 将来気候予測についての不確実性を考慮したこれまでにない多数の高解像度地球温暖化気候シミュレーション実験をとりまとめたアンサンブル気候予測データベースである 実験では 気象研究所が開発した高解像度大気モデルが使用された d4pdf では シミュレーションのサンプル数が少ない従来の温暖化データベースでは求めることのできなかった 豪雨や豪雪 台風などの極端現象の発生頻度や強度の将来的な変化について 精度良く求めることができる 気象庁の現業用大気モデルを元に気象研究所が温暖化研究用として開発した全球モデルと日本域モデルを使用して作成した地球温暖化気候シミュレーション実験結果のデータベースからなる 全球モデルでは 過去 60 年 100 メンバー ( のべ 6000 年 ) 将来 60 年 90 メンバー ( のべ 5400 年 ) 分の多数のシミュレーションを行って作成されている ( 詳しい解説は別添 2) 本データベースは 国立研究開発法人海洋研究開発機構が公募した 平成 27 年度地球シミュレータ特別推進課題 (https://www.jamstec.go.jp/es/) で 文部科学省の 気候変動リスク情報創生プログラム (https://www.jamstec.go.jp/sousei/) ならびに 地球環境情報統融合プログラム (http://www.diasjp.net/) の協力を得て作成された 2 RCP8.5 シナリオ IPCC 第五次評価報告書における地球温暖化シナリオのうち最も温暖化が進む想定のシナリオ 政策的な地球温暖化の緩和策が行われず 放射強制力が 2100 年の時点で 8.5 W/m 2 を超え ( 現在よりも地球上の平均気温が3 度以上高くなる ) その後も気温の上昇が続く 3 猛烈な台風本研究では 世界の熱帯低気圧研究で広く使われている Saffir-Simpson Hurricane wind scale において カテゴリー 4 以上 ( 最大地表風速 59 m/s 以上 ) の台風を 猛烈な台風 と定義しています 米国海洋大気庁 National Hurricane Center のウェブページ (http://www.nhc.noaa.gov/aboutsshws.php) によると カテゴリー 4では 壊滅的 (catastrophic)

な被害が発生します ほとんどの木が 折れたり 引き抜かれたりするなど 大きな被害が発生しま す 気象庁における台風の強さの階級では最大風速 54 m/s 以上が 猛烈な 台風に相当 謝辞. 本研究は文部科学省による統合的気候モデル高度化研究プログラム 1 の 一般財団法人気象業務支援センター 2 を主管機関とする領域テーマ C 統合的気候変動予測 課題 ( 研究代表 : 高藪出 ) のもとで行われた 1:http://www.mext.go.jp/b_menu/boshu/detail/1384493.htm 2:http://www.jmbsc.or.jp/jp/gecrpo/gec-research.html 本件に関する問い合わせ先 ( 一財 ) 気象業務支援センター地球環境 気候研究推進室 029-853-8617( 直通 ) 気象庁気象研究所企画室 029-853-8535( 直通 )

別添 1 本研究の成果の詳しい解説高解像度気候シミュレーションデータベース d4pdf は 現在と将来の気候状態についてこれまでにない多数のシミュレーション ( 以下 それぞれ現在気候再現実験と将来気候予測実験 ) を行うことで台風のような発生数の少ない極端現象の年変動の傾向や将来的な変化を精度良く求めることができます それは世界を 60 km 間隔の格子で覆った高解像度モデルにより台風は現実的に表現されるようになり データのサンプル数を増やすことで統計的な信頼性が高まるためです さらに本研究では再現するのが特に難しい台風の強度をより適切に評価するため観測の台風の最大地表風速を用いてシミュレーションの台風の最大地表風速を補正し 再現性を高めています また 気候変動に関する政府間パネル (IPCC) 第五次評価報告書で報告された将来予測についての不確実性を考慮したシミュレーションであることから 以下に述べる実験結果の信頼性は高いと考えられます 現在と将来の気候状態で熱帯低気圧が地球上で年間何個発生するかについて確率分布を見たのが図 1です 観測の場合は限られた年数 ( 本研究では 32 年間 ) のデータしかないため 凸凹の大きい粗い確率分布になります ( 黒実線 ) 一方 d4pdf の現在気候を再現した実験では観測の 100 倍程度のデータがあるため非常に詳細で滑らかな確率分布を描くことができます ( 青実線 ) 将来予測シミュレーションの確率分布についても同様です( 赤実線 ) 結果として 地球温暖化が進行した状態において d4pdf では台風の地球全体の発生数は現在気候より 33% 程度減少することが分かりました また1つあたりの台風に伴う最大地表風速と降水の強さが地球全体として増加することが過去の研究と同様に確認されました シミュレーションで得られた全ての台風の経路から 地球上の各地点で台風がどれだけ通過したか ( 以下 存在頻度 ) を求め 図 2 上段にその将来変化を示しました 全ての台風に着目すると従来の研究で指摘されてきたとおり 地球全体で減少するとともに ハワイを中心とした東部 ~ 中部北太平洋域では増加します 猛烈な ( 最大地表風速が 59 m/s 以上 ) 台風に着目すると地球全体では減少します 個々の台風の強化に伴い 地球全体で全ての台風発生数に占める猛烈な台風の数の割合は将来増加しますが 全ての台風発生数の減少が大きいため 猛烈な台風の数は減るという結果となりました ( 図 3) しかし地球上の各地点では 日本の南海上からハワイ付近およびメキシコの西海上にかけて猛烈な台風の存在頻度が増加する可能性が高いことがわかりました ( 図 2 下段 ) 限られた数の気候シミュレーション結果に基づく従来研究では上記のように結論することは信頼性が十分でないために困難でしたが 今回の多数のアンサンブル実験では サンプル数の多さと 将来予測についての不確実性を適切に考慮することで 上記の結論を示すことができました そして海域ごとに見た場合でも猛烈な台風の発生数が統計的に有意な変化をしていることもわかります ( 図 4) これらの変化の幅には各国の気候モデルで予測された将来の海面水温上昇分布の不確実性が主に影響し 特に北東太平洋で猛烈な台風の数がどの程度増加するのか 北大西洋で増加するのか減少するのかについては 値が大きくばらつくことが示され 海域ごとの台風の変化を評価するには将来の海面水温上昇の不確実性を考慮することが重要であることも示されました 本研究では高解像気候モデルによる将来の海面水温上昇の予測不確実性を取り込んだかつてない多数アンサンブルシミュレーションにより信頼性の高い台風の将来予測を示すことができました しかし 将来予測に用いるシナリオや 気候モデルの違い等による不確実性 現行モデルで取り込めてない大気海洋相互作用

等の影響は本研究では十分には考慮されていません また 日本域を含む中緯度での台風の変化については今回詳しく述べませんでした 今後はより精度の高いモデル開発を進めていくと同時に 世界各国の気候モデルとの相互比較などによる多角的な評価が必要と考えています 図 1. 現在気候再現と将来気候予測における地球全体での熱帯低気圧の年間発生数の確率分布 これまでにない多数のシミュレーションにより 現在再現と将来予測の両方で熱帯低気圧の発生数について滑らかなで詳細な確率分布が得られた

図 2. 緯度経度 2.25 度 2.25 度格子で見た熱帯低気圧の存在頻度の将来変化で赤い領域で頻度が増加する 統計的に有意な変化をしている領域のみ描いている ( 上段 ) すべての強度の熱帯低気圧 ( 下段 ) 地表最大風速が 59 m/s を超える猛烈な熱帯低気圧 図 3. 個々の台風が最も発達した時の最大地表風速の地球全体での年間発生頻度 将来 猛烈な台風の発生頻度は減っているが すべての台風に占める猛烈な台風の割合は増加し 70 m/s を超える台風の発生頻度は現在とほとんど変わらない

図 4. 海域別に見た猛烈な台風の発生数の将来変化率を図 3 下段の存在頻度マップ上に示している 各々の横実線とグラフ下側の数値は現在気候再現実験と将来気候予測実験の期間平均 アンサンブル平均した変化率を示す グラフ左上の数値は現在再現実験における 1 年あたりの猛烈な台風発生数を示す 青 緑 赤のエラーバーは将来実験の期間平均した各アンサンブルメンバーの不確実性 灰色のエラーバーは現在気候再現実験の変動の大きさを示している 他の海域に比べて北大西洋と北東太平洋で予想される将来変化の幅が大きいのが分かる これらの海域では 現在気候での発生数が少ないことも 大きな幅の一因となっている Geophysical Research Letters 10 月 4 日付で掲載された論文 Kohei Yoshida, Masato Sugi, Ryo Mizuta, Hiroyuki Murakami, and Masayoshi Ishii, 2017: Future changes in tropical cyclone activity in high-resolution large-ensemble simulations, Geophys. Res. Lett., 44, doi:10.1002/2017gl075058. 2017 年 10 月 4 日オンライン発表 : http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/2017gl075058/full

別添 2 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース [ d4pdf ] の詳しい解説 地球温暖化への適応策を考えるにあたっては 気候変動の予測結果にどのくらい不確実性があるのか評価すること つまり温暖化に伴う自然災害がいかなる頻度で生じるのかを知ることが必須です しかし従来は 発生頻度の低い台風 豪雨などの極端事象についてはアンサンブル実験を行うモデル数が 10 程度と少なく 信頼性は十分とはいえませんでした 今回 各テーマ間で連携し 世界でも例のない最大 100 にものぼる多数のアンサンブル実験を行うことによって 極端事象の再現と変化について十分な議論ができる 地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース database for Policy Decision making for Future climate change (d4pdf) を作成しました d4pdf を公開することにより 過去の極端事象の要因分析 将来変化予測の不確実性の理解 影響評価研究などが飛躍的に進むこと また 各省庁や自治体 産業界での温暖化適応策の策定が推進されることが期待されています 現在 極端事象の発生頻度や強度の将来変化を解明する研究 将来の高潮や洪水に対する防災研究 農業や環境への影響評価研究等に d4pdf は活用されています 関連情報 http://www.miroc-gcm.jp/~pub/d4pdf/ http://www.jamstec.go.jp/sousei/jp/event/others/d4pdfsympo/index.html d4pdf で豪雨のより正確な災害リスク予測が可能に右の図は 中国南部で平均した年最大日降水量の頻度の分布です 図から モデル数が増えるにつれ頻度分布が滑らかになり データの信頼性が上がってくることが見て取れます 多数アンサンブルでは 平均からはみ出た予測のサンプルが十分に取得できるため 豪雨のようなめったに起こらない現象の起きる確率を知ることができます 多数のサンプルから 台風による災害リスク予測の精度も向上下の図は アンサンブル実験で得られたすべての台風の経路を示したもので 左図 (a) は 30 年間気候計算によるもの 右図 (b) は d4pdf の全ケースに相当する 5400 年実験 (60 年 90 メンバー ) から求めたものです 台風による災害が 特定の地域で将来どのように変化するのかを確率的に調べるためには十分な数のサンプルが必要です しかし台風は日本全土でも年間 2 3 個しか上陸しません そのため 通常のタイムスライス実験では十分な数のサンプルは得られませんでした (a) d4pdf ならば (b) に見るように非常に大きいサンプル数が得られ 台風による超低頻度のハザードを確率的に調査することができるようになります