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青森県六ヶ所村 核燃料サイクル関連施設の社会的受容性 に関する調査報告書 2016 年 7 月 5 日 科研バックエンド問題研究会 ( 科研 基盤研究 (B) 高レベル放射性廃棄物 (HLW) 処理 処分施設の社会的受容性に関する研究 ) 早稲田大学 ( 国際学術院 アジア太平洋研究科 松岡研究室 ) 0

目次 1. 調査の概要... 1 1.1 調査目的... 1 1.2 調査団... 1 1.3 調査日程... 1 1.4 調査方法... 1 2. 青森県六ヶ所村の概要... 2 2.1 六ヶ所村の基本情報... 2 2.2 核燃料サイクル関連施設の現状... 2 2.3 核燃料サイクル関連施設の受入過程... 3 2.4 六ヶ所村次世代エネルギーパーク... 5 3. 調査結果... 5 3.1 六ヶ所村役場... 5 3.2 日本原燃株式会社... 10 3.3 花とハーブの里 代表菊川慶子... 15 3.4 調査および視察風景... 21 0

1. 調査の概要 1.1 調査目的青森県六ヶ所村は 日本の核燃料サイクル政策を担う中核施設が集中立地している地域である 本調査は 高レベル放射性廃棄物 (HLW) 処理関連施設の立地受入事例という観点から 六ヶ所村の現状を把握し 今後の HLW 処理 処分施設立地の社会的合意形成 ( 社会的受容性 ) のあり方を検討するため実施した 核燃料サイクル関連施設の立地受入過程や現状および事業者 行政 地域住民というアクターに焦点を当て 現地調査を行った 1.2 調査団 氏名 所属 松岡俊二 早稲田大学国際学術院 ( アジア太平洋研究科 ) 教授 ( 研究代表 ) 黒川哲志 早稲田大学社会科学総合学術院 ( 社会科学研究科 ) 教授 井上弦 神奈川県農業技術センター 技師 李洸昊 早稲田大学国際学術院 ( アジア太平洋研究科 ) 博士後期課程 (RA) 中川唯 東京工業大学大学院 ( 社会理工学研究科 ) 博士後期課程 (RA) 吉田朗 早稲田大学社会科学総合学術院 ( 社会科学研究科 ) 博士後期課程 (RA) 1.3 調査日程日時 行程 備考 5 月 27 日 ( 金 ) 08:20-09:35 移動 8:20 東京 ( 羽田 ) 三沢空港 5 月 27 日 ( 金 ) 10:00-12:10 5 月 27 日 ( 金 ) 12:10-16:20 5 月 28 日 ( 土 ) 08:00-10:10 5 月 28 日 ( 土 ) 10:10-14:30 5 月 28 日 ( 土 ) 15:35-17:00 六ヶ所村移動 11:00 六ヶ所村企画調整課 訪問調査企画調整課現地調査吉岡主悦 移動 現地調査移動 現地調査移動 視察移動 六ヶ所村原子燃料サイクル施設見学 (13:30 日本原燃視察六ヶ所原燃 PR センター ウラン濃縮工場 低グループレベル放射性廃棄物埋設センターなど見学 ) 蛭名詩織 9:00 花とハーブの里代表 菊川慶子インタビュー調査むつ小川原ウィンドファーム ソーラーパーク 石油備蓄基地 六ヶ所村 三沢など 15:35 三沢空港 羽田空港 1.4 調査方法 調査は 核燃料サイクル関連施設に関する青森県や六ヶ所村の公開資料などの収集による分 析に基づき 日本原燃の現地視察および訪問先の関係者に対しヒアリングを実施した 1

2. 青森県六ヶ所村の概要 2.1 六ヶ所村の基本情報六ヶ所村は 1889 年の村制施行時に 泊村 出戸村 尾駮村 鷹架村 平沼村 倉内村の 6 村が合併して成立した村である 大間原子力発電所 ( 大間町 ) 使用済核燃料中間貯蔵施設 ( むつ市 ) 東通原子力発電所 ( 東通村 ) などの原子力施設が立地している青森県下北半島に位置している 六ヶ所村の国家石油備蓄基地や原子燃料サイクル施設等の立地もあいまって 下北半島は エネルギー半島 とも呼ばれている ( 光本 2011) 表 1 六ヶ所村の基本情報 項目 内容 人口 (2015 年 12 月 31 日現在 ) 10,636 人 面積 252.68 km 2 人口密度 42.1 人 / km 2 世帯数 (2015 年 12 月 31 日現在 ) 4,651 世帯 主要産業 サービス業 卸売 小売 建設業 医療施設 診療所 3( 公立 2 私立 1) 教育施設 こども園 1 保育所 4 小学校 4 中学校 4 高等学校 1 教員数 18 人 選挙人登録者数 (2015 年 9 月 1 日現在 ) 8,812 人 実質公債費比率 (2014 年度 ) 4.8% 経常収支比率 (2014 年度 ) 70.7% 財政力指数 (2015 年度 :3 ヵ年平均 ) 1.619 ( 出所 ) 六ヶ所村 HP 六ヶ所村 (2016a, 2016b) などにより作成 六ヶ所村は 全国の原子力施設立地地域 22 市町村の中で 産業構造面では 第 2 次産業就業者比率が最も高く 昼夜間人口比や大規模事業所従業者割合も高い 財政面では 財政力指数が高く 経常収支比率 実質公債費比率が低い 第 1 次産業就業者比率 人口当り課税対象者所得も比較的高い 雇用面では 日本原燃 ( 株 ) のほか 比較的大規模な製造業事業所の安定した雇用がある また 六ヶ所村は周辺地方自治体からの人口流出入が活発である 六ヶ所村の通勤流出入 ( 平成 22 年 ) では 流出者数 369 人に対し 流入者数は 5,265 人であり 流入者が流出者より約 5,000 人多く 六ヶ所村の核燃料サイクル施設などが 六ヶ所村だけではなく 周辺市町村にも大きな経済的影響を与えている 市町村別には 三沢市からの流入が 1,564 人と多く 野辺地町 752 人 むつ市 458 人 東北町 412 人 おいらせ町 389 人 八戸市 316 人などとなっており 広範囲な地域から流入人口がある ( 六ヶ所村 2015) 2.2 核燃料サイクル関連施設の現状原子力発電所で発生した使用済燃料の再処理を国内で行うことを目指し 日本原燃 ( 株 ) は 再処理工場 の操業開始と MOX 燃料工場 の建設に取り組んでいる ウラン濃縮工場 2

高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター 低レベル放射性廃棄物埋設センター の 3 つの施設の操業とともに 再処理工場 MOX 燃料工場が完成すると ウランの濃縮から再処理 燃料加工 廃棄物管理までの核燃料サイクルを完結させることが想定されている ( 六ヶ所村 2012) 2.3 核燃料サイクル関連施設の立地受入の過程核燃料サイクル政策に基づき 9 電力会社出資の日本原燃サービス ( 株 )( 現在の日本原燃 ( 株 )) が 使用済燃料再処理工場の建設 運営を行うことになり 立地先が求められていた 青森県が既に整備していたむつ小川原工業開発地域が ウラン濃縮 低レベル放射性廃棄物貯蔵と再処理を併せて立地するのに好適と判断され 1984( 昭和 59 年 ) 年 電気事業連合会が青森県および六ヶ所村に立地を申入れ 1985 年には六ヶ所村など関係者の間で立地受入の基本協定が締結された 1992 年末にはウラン濃縮工場が稼動し 低レベル廃棄物貯蔵センターも操業を開始した 1995 年には高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターが操業を開始した 再処理工場は正式稼動に向け 原子力規制委員会員会の最終審査を受けている (ATOMICA HP) 表 2 むつ小川原開発 原子燃料サイクル事業のあゆみ 年月 / 日事項 1969( 昭和 44 年 ) 5/30 新全国総合開発計画 閣議決定 1972( 昭和 47 年 ) 6/8 青森県がむつ小川原開発第 1 次基本計画を決定 12/25 青森県むつ小川原開発公社が用地買収交渉を開始 1975( 昭和 50 年 ) 12/20 青森県がむつ小川原開発第 2 次基本計画を決定 1979( 昭和 54 年 ) 10/1 むつ小川原開発地区に国家石油備蓄基地が立地決定 1980( 昭和 55 年 ) 3/1 日本原燃サービス ( 株 ) 設立 1984( 昭和 59 年 ) 電気事業連合会 青森県および六ヶ所村に対し 原子燃料サイクル 3 施設の 7/27 立地受入を要請 8/30 六ヶ所村が原子燃料サイクル施設対策協議会を設置 3/1 日本原燃産業 ( 株 ) 設立 1985( 昭和 60 年 ) 4/18 4/18 青森県および六ヶ所村は電気事業連合会に対し 原子燃料サイクル 3 施設の受入を回答青森県 六ヶ所村 日本原燃産業 ( 株 ) 日本原燃サービス ( 株 ) が 原子燃料サイクル施設の立地への協力に関する基本協定 を締結 1987( 昭和 62 年 ) 5/26 日本原燃産業 ( 株 ) がウラン濃縮工場の事業許可申請を国に提出 1988( 昭和 63 年 ) 4/27 日本原燃産業 ( 株 ) が低レベル放射性廃棄物埋設事業許可申請を国に提出 1988( 昭和 63 年 ) 10/14 ウラン濃縮工場着工 1989( 平成元年 ) 3/30 日本原燃サービス ( 株 ) が再処理事業指定申請および廃棄物管理事業許可申 請を国に提出 1990( 平成 2 年 ) 11/30 低レベル放射性廃棄物埋設センター着工 1991( 平成 3 年 ) 7/25 青森県 六ヶ所村 日本原燃産業 がウラン濃縮施設に関する安全協定締結 7/1 日本原燃サービス ( 株 ) と日本原燃産業 ( 株 ) が合併 日本原燃 ( 株 ) 設立 1992( 平成 4 年 ) 9/21 青森県 六ヶ所村 日本原燃 ( 株 ) の間において低レベル放射性廃棄物貯蔵 施設に関する安全協定を締結 3

1993( 平成 5 年 ) 4/28 再処理工場着工 1994( 平成 6 年 ) 12/26 1/30 青森県 六ヶ所村 日本原燃 ( 株 ) が高レベル放射性廃棄物貯蔵施設に関する安全協定を締結六ヶ所村が国際熱核融合実験炉 ITER をむつ小川原開発地区に誘致すると表明 1995( 平成 7 年 ) 4/26 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター操業開始 海外からの高レベル放射 性廃棄物を初搬入 10/23 青森県が ITER のむつ小川原開発地区への誘致を表明 1999( 平成 11 年 ) 12/3 再処理事業の開始 2000( 平成 12 年 ) 11/20 日本原燃 ( 株 ) MOX 燃料加工事業に関する事業主体表明 12/19 国内の原子力発電所からの使用済燃料の初搬入 2001( 平成 13 年 ) 5/22 8/24 青森県 青森県議会 六ヶ所村が文部科学省および科学技術庁へ ITER のむつ小川原開発地区への誘致を要請日本原燃 ( 株 ) が青森県および六ヶ所村に対し ウラン プルトニウム混合酸化物 (MOX) 燃料加工工場の立地協力を要請 5/31 六ヶ所村 ITER の国内候補地に閣議決定 2002( 平成 14 年 ) 11/13 日本原燃 ( 株 ) が 高ベータ ガンマ廃棄物 を処分する次期埋設事業予定 地の本格調査を開始 2004( 平成 16 年 ) 12/21 日本原燃 ( 株 ) がウラン試験用の劣化ウランを初搬入 1/17 日本原燃 ( 株 ) が再処理工場においてウラン試験を開始 2005( 平成 17 年 ) 4/19 青森県 六ヶ所村 日本原燃 ( 株 ) が MOX 燃料加工施設の立地への協力 に関する基本協定 を締結 六ヶ所村および日本原燃 ( 株 ) 六ヶ所再処理工場における使用済燃料の受 2006( 平成 18 年 ) 3/29 入れおよび貯蔵並びにアクティブ試験に伴う使用済燃料等の取扱いに当た っての周辺地域の安全確保および環境保全に関する協定 を締結 2007( 平成 19 年 ) 5/14 青森県が新むつ小川原開発基本計画を策定 10/24 ITER 協定発効 2008( 平成 20 年 ) 5/21 国際核融合エネルギー研究センターの建設工事着工 2010( 平成 22 年 ) 5/13 経済産業大臣が日本原燃 ( 株 ) に対し MOX 燃料加工施設の事業を許可 10/28 MOX 燃料加工施設の工事着工 3/11 東日本大震災発生 2011( 平成 23 年 ) 4/25 日本原燃 ( 株 ) 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター増設分完成 12/28 日本原燃 ( 株 ) ウラン濃縮工場に導入した新型遠心分離機の運転開始 2013( 平成 25 年 ) 7/26 ガラス固化体試験終了 12/18 国 ( 原子力規制委員会 ) 核燃料施設等の新規制基準を施行 2014( 平成 26 年 ) 1/7 2015( 平成 27 年 ) 11/16 ( 出所 ) 六ヶ所村 (2016c) 日本原燃 ( 株 ) に対し 新規制基準の適合確認のため 事業変更許可および保安規定 変更許可を申請 再処理工場の竣工時期を変更日本原燃 ( 株 )MOX 燃料加工施設の竣工時期を 平成 31 年上期 に変更 再処理工場の竣工時期を 平成 30 年上期 に変更 4

2.4 六ヶ所村次世代エネルギーパーク六ヶ所村は 原子燃料サイクル関連施設や国際核融合エネルギー研究センターおよび石油備蓄基地 大規模風力発電施設 太陽光発電施設など多様なエネルギー関連施設が集まっている これらの施設を活かし 経済産業省資源エネルギー庁が次世代エネルギーのあり方についての理解を深めるために推進している 次世代エネルギーパーク の整備を進めている ( 六ヶ所村 2012) ( 出所 ) 六ヶ所村 (2012) 図 1 六ヶ所村次世代エネルギーパーク 3. 調査結果 3.1 六ヶ所村役場 日時 対応者 2016 年 5 月 27 日 ( 金 )11:00-12:00 六ヶ所村企画調整課吉岡主悦 六ヶ所村企画調整課木村雅勝 (1) 調査先概要六ヶ所村には 原子燃料サイクル施設のほか 国家石油備蓄基地 国際核融合エネルギー研究センター 大規模な風力発電施設やメガソーラー施設など 様々なエネルギー関連施設が集積しており 日本における原子力関連産業 環境エネルギー産業分野の重要拠点として位置付けられている 六ヶ所村役場は これらの施設の立地 電源三法交付金等による豊富な財政能力を活かし 少子高齢化 人口減少の本格化などの地域課題の改善に取り組んでいる 最近では 第 4 次六ヶ所村総合振興計画 2016-2025 を公表している ( 六ヶ所村 2016b) 5

(2) 調査目的六ヶ所村 ( 行政サイド ) が どのようなプロセスで原子力関連施設を受け入れるにいたったのか 行政が住民に対してどのように受け入れを説得したのか等について質疑を行った また 今後 受け入れ可能性のある高レベル放射性廃棄物について 村としての取り組みや議会の現状認識を調査する (3) 調査結果 1 舩橋晴俊論文を軸とした村側の説明今回の調査で 吉岡氏より 舩橋晴俊論文 ( 以下 舩橋 (2003) と表記 ) に対する指摘があり その上で むつ小川原開発の理解から話を始めたいとの提案があった そこで 指摘された論文は 法政大学舩橋ゼミによる調査報告書のことであった この報告書は 毎年 舩橋ゼミ ( 学部 ) が青森に赴き 現地調査を行い それをまとめたものである 舩橋 (2003) では むつ小川原開発の歴史が 異なる水準の利害関心と論理の存在 中心部と周辺部の格差 開発の性格変容 拠点施設を基軸にした地域社会の変形 地域社会の自己決定性 という視点から分析されている 今回の調査では 地域社会の自己決定権 について議論があり この点について 舩橋 (2003) の記述を確認する むつ小川原開発について 日本で試みられた地域開発の中で これほど当初の企画と生み出された帰結の落差が大きいプロジェクトは他に見あたらない と 舩橋は指摘している 住民から開発への批判が出た理由として 自己決定権の放棄と抑圧が原因であるとしている むつ小川原開発では むつ小川原開発の歴史的経過を回顧すると 青森県レベルでも六ヶ所村レベルでも 地域社会の自己決定性 が再三抑圧されたり 放棄されたりしてきた と舩橋 (2003) で指摘されている 住民投票も行われなかった それを踏まえた上で 舩橋 (2003) は 短期的 ミクロ的に見た場合にそれらの主体にとって 政治的に得策 な方策が 長期的にみた場合には 青森県と六ヶ所村の自己決定性を喪失させる方向に作用してきたと言わなければならない と指摘した 自己決定性について 舩橋 (2003) は 静岡県の沼津 三島 清水におけるコンビナート建設問題の対応の事例が紹介され 地域社会の自己決定性 が 非常に重要な機能を発揮している と結論付けている 舩橋の指摘した自己決定権の放棄について 行政サイドがどのように認識しているかの質問に対し この指摘は間違っておらず 正しいとの見解を吉岡氏は示した 住民の反対運動については 以下のような説明があった 反対運動は 自治基本協定が受け入れられた段階で 終息の方向に向かった この協定が受け入れられた段階で 住民サイドも 原子力関連施設を受け入れるという方向になっていった 六ヶ所村サイドは 原子力開発の現状を知るという目的で 茨城県東海村等に村民 400 人を派遣し 原子力関連施設の現地見学をおこなった 東海村見学によって 地域振興の現状や原子力施設が安全であることを住民に認識させることが出来た その裏付けとして 見学ツアー終了後に行った村民アンケートでは 六ヶ所村への原子力施設受け入れについて容認するとの回答が大多数を占めていた 六ヶ所村は 原子力関連施設を受け入れてから 20 年近く経過しており 経験上の実績があるとしたうえで 今までは特段の事故もなかったため 村民は安心しているとの見解であった 放射性廃棄物処分場について 村としては 廃炉により排出される原子炉格納容器などの中レベル放射性廃棄物処理施設 ( 日本の法律上は 高レベル 低レベルしか定義されていないが 6

吉岡氏の発言通りにこの報告書では示す ) の立地受入れの準備があることが明らかにされた また HLW の地層処分についても 村議会で容認する声もあることが明かにされた 2 事前質問項目に対する村側の回答調査団では 視察前に 六ヶ所村に対して 4 点の事前質問項目を送った 質問項目は 1) 核燃料サイクル関連施設の立地合意の制度とプロセス 2) 核燃サイクル関連施設に関する国 青森県 周辺自治体との関係 3) 核燃サイクル関連施設の村民への説明や納得のプロセス 4) 地域社会振興との関係について である 1 点目の村からの回答は 以下の通りである 立地合意に関する制度はないが 住民等の合意形成を証する裏付けとして議会の同意が必要になると思われる それを受けた首長の判断となる また 青森県では 施設立地の協力要請を受け 11 名の専門家による施設の安全性に関わる検討を実施し 国内外の技術や実績 専門家による専門的知見から 電事連の示した安全確保は基本的に確立しうるとの判断を知事に答申した 知事は 答申を受け議会への説明 更には 県民説明会を開催し 各方面から意見を集約し判断したと考えられる 村の合意プロセスとしては 村長が村内の各種団体等の長で組織する 村原子力サイクル対策協議会 を設置 住民 400 名を茨城県東海村への視察を行い アンケート等による調査を実施し 集約した意見を参考に受け入れを決定した 受け入れに関して 安全性を第一義に地域振興を図る上 県 電事連へ要請している なお 当時 原子力防災計画は 今ほど重要視されていなかった 2 点目の村からの回答は以下の通りである エネルギー基本計画にも記載され アメリカと 1988 年に結んだ 日米原子力協定 によって 日本では核保有国以外では世界で唯一 再処理事業が認められたことから 核燃サイクル事業は国策であると認識している また 県 村が核燃料サイクル施設受け入れを決定した後 国のむつ小川原総合開発会議 (14 省庁 ) で県の策定した むつ小川原開発第二次基本計画 ( 付 ) を申し合わせ閣議で了解をしている 周辺自治体に関しては 県での説明会等を実施したほか 事業者の操業にあたり 安全協定 を締結している 村の関与はない 3 点目の村からの回答は 以下の通りである 村は原子燃料サイクル対策協議会を設置し 住民の視察研修 アンケート調査 村との共催による説明会を村内 6 か所で実施 各方面から徴集した意見を 37 項目に集約し 村に立地要請に協力すべきとの回答とともに要望を上程した 村は 37 項目を 7 項目に集約し 施設受入受諾文書とともに 電事連に回答している その要望項目を県 事業者が実施していくことで核燃料サイクル事業への反対活動の沈静化 また 寛容が図られたものと考えられる 4 点目の村からの回答は 以下の通りである 村は 電事連からの立地要請時の産業構造は 第 1 次産業が 4 割 第 2 次産業が 2 割となっていた これらの従事者のほとんどは 冬期間に作業等の減少により出稼ぎを余儀なくされていたが 近年では 出稼ぎ労働者はほとんどいない また 新規学卒者の就職に関しても 以前は地元雇用が少なかったことから都市圏の就職が多かったが 現在は村内に希望すれば村内に就職できる状況である これらのことからも 核燃料サイクル施設の進展とともに村内に雇用が生まれ 経済活動も活発になったものと考えられる 地域振興に関しては 国においては 電源三法交付金等 県 ( 核燃料取扱税交付金 ) 事業者 ( 寄付金 行事等への人道支援等 ) においては 37 項目の要望の履行をしている 7

3 質疑応答高レベル放射性廃棄物中間貯蔵センターの立地に関する質問に対し 大きな問題はなく 再処理施設の付帯施設として説明を受けた 最終処分施設の立地が未決定であると 結果的に六ヶ所村に HLW 廃棄物が残ることに関して 村側は 青森県を最終処分地としないという確約を得ており それが今でも効力があると回答した 中レベル廃棄物施設の立地受入れに関しては 議員参加の勉強会を開催したが まだ議会での議論段階には到達しておらず 原燃から低レベル廃棄物施設の増設の打診はあったことが村側から示された その上で 再処理工場がまだ動いていない段階で 議論が進まないのは当然であり 施設稼動よりも低レベル放射性施設が満杯になる方が早い可能性があることの指摘もあった 核燃サイクル関連施設に従事して生計を立てている村民が多いと思われるが 農業者や漁業者への生計補助の制度の有無に関しては 国 県レベルで補助がおこなわれているとの回答があった 福島原発事故以降の安全対策や避難計画の村民への周知状況については 防災計画の見直しがあったことが説明された 防災指針に関しては 今年の秋までには確定させたいが 事故から 5 年経っても策定されてないのが現状であることが説明された また 避難訓練は 6 年ぐらいやっていないとの回答があった 避難計画の実効性に関しては 避難計画の実効性に疑問が生じ県議会で議論になったことがあり ( 例えば バスの台数が根本的に足りない ) 現在 避難計画を練り直している最中であるとの説明があった 避難計画の広報活動もあまり実施されず チラシを配る程度で終わってしまい 住民説明会もやれなかったとの回答であった (4) 研究課題従来 原子力関連施設に代表される施設立地には NIMBY(Not in my backyard) の問題が付きまとってきた 行政サイドも 住民が抱える NIMBY の感情にいかに対処するのかに苦慮してきた 先行研究では NIMBY は以下のように扱われている 鈴木 (2015) は 迷惑施設立地をめぐる NIMBY 現象の克服にあたっても 立地をめぐって企業や行政と周辺住民との間に求められるのは公正さの確保 が重要であると指摘している 廃棄物処理という観点から金 (2004) は 東京都日の出町の事例において 反対派と対話をおこなっていない現状や 反対運動を住民が騒いでいるだけと一蹴した行政の状況 東京都も市町村の問題は市町村で解決するという姿勢を見せたことを明らかにしている 日の出町の事例は焼却施設の事例であるが 手続き上の公正を担保したとしても 杉並区と江東区が対立を起こした東京ゴミ戦争や小金井市のごみ処理施設の建て替え問題で住民との理解が得られなかった事例もあることが 増田 (2013) が指摘している 先行研究では NIMBY の問題解決の難しさが多くの事例を用いて指摘されている 六ヶ所村のケースを先行研究と比較をすると 明らかに先行研究と異なる点がある 舩橋 (2003) では 六ヶ所村住民が三度にわたって 行政 ( 国 県 村 ) から無視されてきたことを指摘した 現在 住民は廃棄物処理施設の受け入れ姿勢を見せている さらに 住民を東海村等の原子力関連施設の見学に 400 人規模で行かせたことも 他地域の NIMBY の事例とは異なっている それに加え 根強い反対運動が終息している点も NIMBY の問題を抱えている地域と比較をすると異なる点である 他地域との比較で浮き彫りになった相違点のさらなる分析が必要である 8

六ヶ所村役場での調査 (5) 収集 関連資料 収集資料 青森県(2016) 青森県の原子力行政 青森県エネルギー総合対策局原子力立地対策課, 2016 年 2 月, <http://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/energy/g-richi/files/00h28gensiryokugyousei.pdf> 船橋晴俊(2003) むつ小川原開発及び核燃料サイクル計画施設建設の歴史と六ヶ所村住民意識の概要, <http://funabashi-ken.ws.hosei.ac.jp/kenkyuushitsuannai/2004mo.pdf>, ( 閲覧日 2016 年 6 月 15 日 ) 原子燃料サイクル施設対策協議会 (1985) 原子燃料サイクル事業の立地協力要請に対する意見ついて ( 昭和 60 年 1 月 5 日 原対協第 9 号 ) 六ヶ所村 (1985) 原子燃料サイクル事業の立地協力要請について ( 昭和 60 年 4 月 18 日 六ヶ所企第 107 号 ) 六ヶ所村 (2016a) 2016 六ヶ所村勢要覧 六ヶ所村企画調整課, 2016 年 3 月. 六ヶ所村 (2016b) 第 4 次六ヶ所村総合計画 (2016~2025) 六ヶ所村, 2016 年 3 月. 六ヶ所村 (2016c) 六ヶ所村と原子燃料サイクル 六ヶ所村企画調整課, 2016 年. 六ヶ所村 (2015) 平成 26 年版六ヶ所村統計書 六ヶ所村企画調整課, 2015 年 3 月. 六ヶ所村 (2012) 六ヶ所村と原子燃料サイクル 六ヶ所村企画調整課, 2012 年. 関連資料 金今善(2004) 迷惑施設の立地をめぐる政策執行過程における 合意形成 : 東京都日の出町最終処分場立地紛争を中心に ( 渕倫彦教授退職記念論文集 ) 東京都立大学法学会雑誌,, 45(1), pp. 313-370. 光本伸江 (2011) 青森県六ヶ所村 エネルギーの村 六ヶ所, 福岡県立大学人間社会学 9

部紀要, 20(1), pp. 89-102. 増田知也 (2013) 迷惑施設と住民の問題意識 - 奈良県葛城市焼却場問題を事例として, 自治総研 (417), 2013 年 7 月, pp. 58-59. 鈴木晃志郎 (2015) NIMBY から考える迷惑施設, 都市問題 106(7), 2015 年 7 月, pp. 7-8. 六ヶ所村 HP, < http://www.rokkasho.jp/>. 3.2 日本原燃株式会社 日時 対応者 2016 年 5 月 27 日 ( 金 )13:30-16:20 日本原燃 ( 株 ) 地域本部広報部赤坂猛氏 日本原燃 ( 株 ) 地域本部広報部池田整氏 (1) 調査先概要日本原燃 ( 株 ) は ウラン濃縮工場 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター 低レベル放射性廃棄物管理センターを操業している 2011 年の東日本大震災により 2014 年に新規制基準が制定され その基準に対応するため 再処理工場と MOX 燃料工場の稼働が遅れている 現在 再処理工場 (2018 年度上期 ) と MOX 燃料工場 (2019 年度上期 ) の竣工を目指して取り組んでいる ( 日本原燃 2016) 表 3 日本原燃の概要設立 : 日本原燃サービス (1980 年設立 ) と日本原燃産業 (1985 年設立 ) が 1992 年合併し 日本原燃 発足資本金 :4,000 億円売上高 :2,909 億円 (2014 年度 ) 総資産 :2 兆 5,213 億円 (2014 年度末 ) 株主 :84 社 (2015 年 11 月 )9 電力会社と日本原子力発電が主要な株主 ( 全体の 91%) 従業員 :2,588 名 (2016 年 4 月 ) 2016 年度新入社員 (100 名 : 青森県内の高卒 60 名 全国の大卒 40 名 ) を含む ( 出所 ) 日本原燃 (2016) ( 出所 ) 日本原燃 HP 図 2 日本原燃の施設 10

(2) 調査目的 日本原燃の核燃料サイクル関連施設の現状と今後の計画を把握し こうした施設の立地と地 域社会との関係について調査する (3) 調査結果 1 日本原燃事業の経緯電気事業連合会は 1985 年に青森県および六ヶ所村と 原子燃料サイクル施設の立地への協力に関する基本協定書 を締結し 同じ年に 原燃の前身である原燃産業株式会社が 9 電力出資で設立された 新全総による むつ小川原開発計画 により 既に土地が確保されていた六ヶ所村が 核燃料サイクル関連施設の立地地域として適切であると判断され 1984 年 電気事業連合会が青森県および六ヶ所村に立地を申入れ 受け入れられた 1980 年代末から 1990 年代初期まで核燃料施設の立地反対運動が活発であったが 1991 年青森県知事選において核燃料推進派の木村知事が当選して以来 反対運動は沈静化していった 1992 年末 ウラン濃縮工場と低レベル廃棄物貯蔵センターが操業を開始し 1995 年には高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターも操業を開始した 再処理工場と MOX 燃料工場は最終段階にある なお 日本原燃は 2003 年 1 月に本社機能を六ヶ所村へ移転している ( 表 4 参照 ) 表 4 日本原燃事業における主要経緯 年 事項 1985 年 立地基本協定締結 ( 日本原燃と青森県 六ヶ所村など ) 村 青森県 全国レベルの反対運動 1986 年 チェルノブイル原発事故(1986.4.26) により反対運動が激化 村内の海域調査をめぐって激しい闘争 1987 年 県内の 60% の農協で核燃施設立地反対決議 1988 年 六ヶ所村村長選挙反対派の三上氏当選 1989 年 参議院選挙青森選挙区において反核燃候補が当選 六ヶ所村村長選で核燃施設立地凍結を掲げた候補が当選 1990 年 衆議院選挙で凍結派の社会党候補 2 名が当選 1991 年 知事選において推進派の北村氏が当選 ( 現職 4 選 ): 県内 村内の反核燃運動が徐々に衰退 1992 年 ウラン濃縮工場操業開始 低レベル放射性廃棄物埋設センター操業開始 1995 年 木村知事 返還廃棄物輸送船の接岸拒否 ( 最終処分にしない確約 ) 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター操業開始 1998 年 試験用使用済燃料搬入に伴う安全協定および覚書締結 ( 再処理事業が困難となった場合には使用済燃料の施設外へ搬出を含め措置を講ずる ) 2006 年 再処理工場アクティブ試験開始 2010 年 MOX 燃料工場建設着工 ( 出所 ) 日本原燃 (2016) 茅野 (2004) 11

2 日本原燃の事業内容日本原燃は 現在 ウラン濃縮事業 ( ウランの濃縮 ) 廃棄物管理事業 ( 海外再処理に伴う廃棄物の一時保管 ) 廃棄物埋設事業 ( 低レベル放射性廃棄物の埋設 ) の 3 つの事業を行っている 再処理事業 ( 原子力発電所等から生ずる使用済燃料の再処理 ) と MOX 燃料製造事業 ( 混合酸化物燃料の製造 ) に関しては それぞれ 2018 年度上期と 2019 年度上期の竣工 操業開始を目指している 日本原燃の計画では 再処理工場は年間最大 800 トンの使用済燃料を再処理し 40 年間操業する予定である ( 出所 ) 日本原燃 (2016) 図 3 日本原燃の事業 表 5 日本原燃の事業概要 (2016 年 5 月現在 ) 施設規模工期建設費現状 再処理工場 最大処理能力 : 800 トン ウラン / 年使用済燃料貯蔵容量 : 3,000 トン ウラン 工事開始 :1993 年しゅん工時期 :2018 年度上期 約 2 兆 1,930 億円 試運転中 425 トン再処理済使用済燃料貯蔵量 : 2,964 トン 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター ガラス固化体貯蔵容量 : 2,880 本 工事開始 :1992 年操業開始 :1995 年 約 1,250 億円 1,698 本受入済 MOX 燃料工場 最大加工能力 : 130 トン / 年 工事開始 :2010 年しゅん工時期 :2019 年度上期 約 2,100 億円 建設中 ウラン濃縮工場 最終規模 : 1,500 トン SWU/ 年 工事開始 :1988 年操業開始 :1992 年 約 2,500 億円 75 トン SWU/ 年操業中 低レベル放射性廃棄物埋設センター 最終規模 : 300 万本 ( ドラム ) 操業開始 :1992 年立方メートル ( 同約 300 万本相当 ) 約 1,600 億円 約 28 万本受入済 ( 出所 ) 日本原燃 (2016) 12

3 日本原燃の現状 ウラン濃縮工場 天然ウランのなかには 核分裂を起こして膨大な熱エネルギーを放出するウラン 235 と 核分裂を起こさないウラン 238 が含まれている しかし 天然ウラン鉱石のウラン 235 含有率は 0.7% しかなく このままでは原子力発電所 ( 軽水炉 ) の燃料として使用することはできない 原子力発電所の燃料として使用するには ウラン 235 の濃度を 3~5% 程度にまで高める必要がある このウラン 235 の濃度を高めるために行う同位体分離をウラン濃縮という ウラン濃縮工場は旧型遠心機で 1992 年 3 月に操業を開始し 2012 年 3 月より新型遠心機による生産を開始している 新型遠心機 ( 最終規模は 1,500 トン SWU/ 年 ) の初期導入分 (75 トン SWU/ 年 ) については 安定的に生産を継続している 2016 年 4 月末現在の製品ウラン出荷量は約 1,698 トン UF 6 である 新型遠心機の本格導入分については 新規制基準の施行に伴い 現在 安全審査を行っている 低レベル放射性廃棄物埋設センター 原子力発電所では 運転や定期検査などにともなって低レベル放射性廃棄物が発生する 液体状のものは煮つめて水分を除き 燃えるものは焼却して容量を減らした後 プラスチックやセメントなどでドラム缶に固型化する (1 号埋設設備 ) また 固体状廃棄物は切断 圧縮 溶融などの処理を行い セメント系充てん材 ( モルタル ) でドラム缶に一体となるよう固型化する (2 号埋設設備 ) 低レベル放射性廃棄物埋設センターでは 全国の原子力発電所から発生するドラム缶の埋設 管理を行っている 低レベル放射性廃棄物埋設センターは 1992 年 12 月に操業を開始し 最終的には 200 リットルドラム缶 300 万本に相当する廃棄物を埋設することができる 2016 年 4 月末現在の 200 リットルドラム缶の受入本数は 1 号埋設 ( 均一固化体 ) が約 14.8 万本 2 号埋設 ( 充填固化体 ) が約 13.6 万本であり 2016 年度の受入予定本数は 15,272 本となっている 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター 使用済燃料再処理の際に発生する廃液をガラスに混ぜ合わせたものをキャニスター ( ガラス固化体 ) という特殊な容器に密封する これを冷却しながら貯蔵するのが 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターである 現在は フランス イギリスから返還されたガラス固化体を冷却 貯蔵している 高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターは 1995 年 4 月に操業を開始し 返還ガラス固化体の貯蔵容量は 2,880 本である 2016 年 4 月末現在の受入本数は 1,698 本であり その内訳はフランスから返還された 1,310 本 (2007 年 3 月終了 ) とイギリスから変化された 388 本 ( 予定返還総数は約 2,200 本 ) である 再処理工場 再処理工場は 年間最大 800tU の処理能力をもち 建設工事はほぼ完了している ( 進捗率約 99%) 主工程の使用前検査も 2008 年 2 月に終了し ( 使用済燃料を約 425tU 再処理済 ) ガラス固化設備についてもガラス固化試験 ( 社内試験 ) は 2013 年 5 月をもって全て終了している ガラス溶融炉も運転できる状態にある 現在 新規制基準の施行により 原子力規制委員会へ事業変更許可の申請を行い 現在その審査が続いている 13

( 出所 ) 日本原燃 (2016) 図 4 再処理工場のプロセス 使用済燃料受入貯蔵施設 使用済燃料受入貯蔵施設 ( 再処理工場内 ) は 1999 年 12 月に事業を開始し 受入容量は 3,000 トン U X 2 棟 (6,000 トン U) である 2016 年 3 月末現在の受入量は約 3,389 トン U であり 今後 約 2,964 トン U が受入可能である MOX 燃料工場 (MOX: Mixed Oxide Fuel 混合酸化物燃料 ) 再処理工場で取り出されたウラン プルトニウム混合酸化物粉末を原料に 軽水炉用 MOX 燃料に加工する MOX 燃料工場は 現在 燃料加工建屋の建築工事が進んでいる 新規制基準の施行により 原子力規制委員会へ事業変更許可の申請を行い その審査が続いている 竣工は 2019 年度上期が予定されている 日本原燃の視察風景 14

(4) まとめ日本原燃は 国のエネルギー安全保障の確立 電力の安定的な供給 地球温暖化対策に貢献する原子力発電 また ウラン資源の有効活用 高レベル放射性廃棄物の減容化 有害度低減に資する再処理をはじめとする原子燃料サイクル政策推進という国の原子力政策に沿って事業を推進している 再処理工場の稼働は トラブルにより 24 回延期されている しかし 現在は ガラス固化の社内試験も終了し 新規制基準への対応が終われば すぐに稼働が可能であるという 再処理事業により MOX 燃料によるウラン資源の節約 ( 約 3 分の 1) と高レベル放射性廃棄物の安定化と減容化への効果があると説明されている 日本原燃は 六ヶ所村をはじめ青森県全地域の市町村と積極的なコミュニケーション関係を結んでいる 安全対策に関しても 六ヶ所村や隣接地方自治体との安全協定による協力体制が構築されている しかし 六ヶ所村役場の話によると 避難計画をはじめ具体的な安全対策は何も決まっていないということであった (5) 収集 関連資料 収集資料 日本原燃 (2016) 原子燃料サイクル施設 日本原燃株式会社, 2016 年 5 月 ( 配布資料 ). 関連資料 茅野恒秀(2005) 核燃料サイクル施設と住民意識 : 青森県六ヶ所村における住民意識調査報告 ( 資料調査報告 ), 環境社会学研究 ( 11), pp. 253-261. 原子力百科事典 (ATOMICA)HP, <http://www.rist.or.jp/atomica/index.html>, 一般財団法人高度情報科学技術研究機構 (Research Organization for Information Science and Technology: RIST). 日本原燃株式会社 HP, <http://www.jnfl.co.jp/ja/>. 3.3 花とハーブの里 代表菊川慶子 日時 対応者 2016 年 5 月 28 日 ( 土 )10:00-11:00 花とハーブの里 代表菊川慶子 (1) 調査先概要原燃に頼らない村づくりをしたいと 花とハーブの里 を経営し 毎年チューリップ祭りを開催している 声をあげて反核を訴える村人がほとんどいない中 すでに 23 年も地元でメッセージを発信している 表 6 菊川氏プロフィール 菊川慶子プロフィール 1948 年青森県生まれ 1964 年集団就職で東京へ 1986 年同年起きたチェルノブイリ原発事故に衝撃を受け 原発問題に関心をもつようになる 六ヶ所村に建設が予定されている再処理工場から排出される放射能でふるさとが汚染されてしまうという危機感から 帰郷を決意 1990 年六ヶ所村へ帰郷 以後 六ヶ所村核燃料サイクル基地の建設 稼働中止をもとめて 15

地元住民として粘り強く運動を続ける 1993 年農場 花とハーブの里 を設立 年に一度のチューリップ祭りの開催やルハーブジャム工場の運営等を通じて 核燃に頼らない村づくり にチャレンジしている ( 出所 ) 菊川慶子 (2010) (2) 調査目的六ヶ所村における核燃サイクル施設の立地をめぐり 行政側の意見だけでなく 地域の住民の観点から どのように問題が受け止められ どのように認識されているのかを明らかにすることが必要である 住民運動の経緯と現状について 反原子力の立場から長年活動を行っている菊川氏に話をうかがった (3) 調査結果 1 核燃料サイクル施設の立地受入れをめぐる六ヶ所村の経緯と現状について菊川氏によると 六ヶ所村においては過去に 2 回 大きな反対運動が行われたことがあったが 村内の反対運動は現在までにかなり沈静化した状態にあるという 活動を行っている反対派グループは存在せず また選挙などの政治面においても反対派の議員や村長は選出されていない 確かに 先行研究においても 1987 年から 1991 年にかけては反核燃の気運が高まった状況にあったとされる 当時の各種の世論調査においては 核燃反対もしくは消極論が多数派であった 六ヶ所村内においても 1986 年に海域調査の実施をめぐる住民の抵抗運動が激しく行われていた これらの背景にはチェルノブイリ原発事故 (1986 年 ) の影響などがあり 1989 年の参院選においては反核燃の革新派候補 ( 三上隆雄氏 ) が大差で勝利している これにより 村長および知事が交代すれば 核燃料サイクル施設立地の手続きの根拠となりうる 立地協力基本協定 (1985 年締結 ) を破棄させうるという政治状況が現実味を帯びて語られるようになり 1989 年の村長選 1991 年の知事選が焦点となった 2 政治活動における反核燃の動きについて 1989 年 12 月に行われた村長選では 核燃立地を推進してきた古川村長に代わり 土田浩氏が 核燃凍結 を掲げて当選した 菊川氏によると この選挙を支援したのが 漁業関係者や 核燃から子供を守る母親の会 の主婦層を中心とした女性たち ( カッチャ軍団 と称される ) であった 彼女の著作にも 核燃から子供を守る母親の会 が土田氏と 高レベル廃棄物と再処理工場の受け入れの是非は住民投票で決める という旨の協定を結び 主婦などが村内全戸を個別訪問するなどの選挙活動を行ったことが記述されている しかし 当選後の土田村長は凍結の公約を反故にし 実質的にはゆるやかな推進の姿勢に変化し 安全協定を締結し 核燃の建設プロセスを是認した このことで村内の反対運動は大きな打撃を受け その後は再び反対派が集結することはなかったとされる 菊川氏の話にも 反対運動が挫折し内部崩壊したという説明があった 1991 年 2 月に行われた青森県知事選においては 推進派の北村正哉知事が 4 選を果たし 核燃反対の第一候補であった金沢茂氏を退けた 県知事選の敗北により 農業者関係者団体には諦めと無力感が広がり 組織的な反対運動は沈静化していった その後の選挙戦をみても 1991 16

年 4 月の参院補選 県議選 1992 年の参院選 1995 年の参院選および知事選 県議選 1996 年の衆院選と 1993 年の衆院選を除いて 核燃反対派は敗北を続けている ( 長谷川 2003) 六ヶ所村内においても同様で 村長選や村議選挙でも反対派の候補は一人も当選できないのが現状である こうした状況の一方で 1991 年以降 次々と完成した核燃施設が操業を開始していった さらに 1991 年秋に津軽地方をおそった台風 19 号の影響も大きく 災害復旧事業に関して 県 国に多くを依存したことが 反対運動を沈滞化させた直接的な契機であると言われている ( 長谷川 2003) こうした経緯で 現在では村内の反対勢力はほとんど存在しない状況にある 3 六ヶ所村における今後の展望について六ヶ所村内の農業関係者による反対運動に関して菊川氏は 1995 年と 1996 年に八森という集落で酪農家の人々のグループが音楽祭を開催するなどの反対運動の芽となるような行動を起こしたことがあったが その後に防衛庁による土地の買い上げ ( 公には騒音問題の解決を理由にしたもので 核燃料サイクル事業とは関係がないとされる ) が始まり 反対運動を起こした人々が村外へ移ったという 主立った活動を行っている反対派グループが村内には存在しないため 菊川氏は周辺都市などにおけるグループ ( 八戸市を活動拠点とする 核燃サイクル阻止 1 万人訴訟原告団 など ) と協力して活動を展開することが多いということであった HLW の最終処分場受入れを前向きに検討しようという村の雰囲気については 村議の中には どちらにせよ核のゴミは残る 既に埋まっている低レベル廃棄物は他所へ持っていけない 高レベル廃棄物は一時貯蔵ということだが 最終処分場が決定しないままなし崩し的に置かれてしまうよりは 正式にお金を貰って引き受けた方がよい といった考えがあるだろうという見解を 菊川氏は示した 県レベルでも同様の姿勢が見られるが 県議の中には反対派や反対派に一定の理解を示す議員もいるとのことであった 現在は 村で反対運動を起こすことに対して 一般の人々の拒否反応が強いということであった 17

菊川氏へのヒアリング風景 表 7 核燃料サイクル施設の立地をめぐる動向 ( 六ヶ所村 ) 年事項むつ小川原開発計画の具体案の公表 1971 年六ヶ所村で強力な反対運動が組織され 村を二分する対立が長期にわたって続く ~1983 年 むつ小川原開発用地に関して この時点で用地買収がほぼ完了し 核燃施設用地に関して は完全に終了 漁業補償も完了 1984 年核燃施設立地計画の公表 1985 年 4 月 1986 年 ~ 立地協力基本協定の締結 ( 事業者側 3 社と青森県知事 六ヶ所村村長の計 5 者による ) 立地の手続き的な根拠となりうるもの チェエルノブイリ原発事故以後 青森県全域にわたって農業者 市民 労働組合 革新政党らが担う反核燃運動が高揚する 1986 年 核燃から子供を守る母親の会 の結成 1986 年前半 1987~1991 年 立地協定に基づき 核燃施設海域調査が実施されたが 泊漁協を中心とする激しい抵抗運動が起こる ( 結果的に 原燃 2 社は警察機動隊の力を借りて調査を強行した ) 反対運動が最も高揚した時期当時の各種世論調査では 核燃反対ないし消極論が多数派だった 参院選における予想外の勝利 ( 保守系候補の乱立にも助けられ 反核燃候補は 革新 系 1989 年 7 月 候補としては類を見ない 37 万票を獲得し 大差で勝利した ) 1989 年の村長選 1991 年の知事選が焦点になる 村長選 : 凍結 を掲げて当選した土田浩村長は 凍結 = ゆるやかな推進 であるとして 1989 年 12 月 前任者よりは慎重な姿勢を見せながらも 安全協定を締結し 核燃の建設プロセスを是認 した 1990 年 2 月 衆院選において 核燃反対を掲げてきた社会党が 2 議席を獲得 1990 年 4 月 ウラン濃縮工場にて遠心分離機の搬入が開始 1990 年 11 月 低レベル放射性廃棄物施設が着工 知事選 : 推進派の北村知事が 4 選 それ以降 核燃料サイクル施設の既成事実化は政治的 1991 年 2 月 にも進んだ これ以降 1993 年の衆院選以外 核燃反対運動は選挙戦での敗北を続けてい る 1991 年 4 月参院補選 県議選において 核燃反対運動勢力の敗北 1991 年秋台風 19 号による災害 18

1991 年 10 月 ウラン濃縮工場にて濃縮操業が開始 1992 年 参院選において 核燃反対運動勢力の敗北 1992 年 12 月 低レベル放射性廃棄物施設が操業を開始 再処理事業に許可が下りる 1993 年 衆院選において 核燃反対運動勢力が 1 議席を獲得 1993 年 4 月 再処理工場の着工 ( 当初の完成予定は 2000 年 1 月とされた ) 1995 年 参院選および知事選 県議選において 核燃反対運動勢力の敗北 1996 年 衆院選において 核燃反対運動勢力の敗北 ( 出所 ) 各種資料を参考に筆者作成 (4) 研究課題六ヶ所村の状況に関しては 先行研究 ( 長谷川 2003 など ) においては 1996 年 8 月に住民側の働きかけによって原発建設計画の中止に至った新潟県巻町の事例と比較し McAdam らが住民運動の成立条件として提示した 政治的機会構造 動員構造 文化的フレーミング の 3 要因に注目した分析がなされている 1 二つの事例における 政治的機会 の違い巻町の事例では 原発敷地予定地内に未買収の町有地が存在し 町当局が実質的な原発建設の可否の決定権を持っていた 反対運動側は 原発受入れを表明した推進派町長 ( 原発を争点とした住民投票の実施という住民からの要請を拒否していた ) のリコールを成功させ 町長を選出することによって巻町住民は政治的機会を作り出した これに対し 六ヶ所村の核燃料サイクル施設に関しては既に用地買収が完了し 漁業補償も終了しており また村議のほとんどは推進派であったため 政治的機会を生み出す制度的な契機は限定されたものであったと指摘されている ( 船橋他 2012) 限られた数少ない機会になりえたのが 1989 年の村長選 1991 年の知事選による村長および知事の交代であったが それらが結果に結び付かなかったのは先述の通りである 2 二つの事例における 動員構造 の違い 動員構造 の要因に関しても 巻町の事例では 住民投票運動の中心となった 巻原発 住民投票を実行する会 の主な担い手が地付きや U ターンの商工業自営業者であり 町内で信用と知名度が高く また地元在住の自立型専門職層 ( 弁護士 医師 大学教員など ) の存在も運動の中で大きな役割を果たしたとされる 巻町への原発立地は 日本においては数少ない過疎型立地ではない事例であったことが関係していると思われる しかしながら 六ヶ所村の場合は 地理的 社会的 歴史的な周辺性 が顕著であったと指摘されている ( 舩橋ほか 2012) むつ小川原開発が決定されるまで 六ヶ所村には高校やテレビ局 地方紙の支局もなく 第一次ベビーブーム世代の多くは村を離れているなど 周辺性 ゆえに 反対運動にとっての諸資源が不足した状況であった かつては村内で反対運動を起こそうとしていた反対派の多くの人々が村外に流出してしまったことは菊川氏の話にあった通りである 現在 六ヶ所村の村民の多くは 何らかの形で村役場や原燃に関わっているとされ そのため自由な立場で核燃料サイクル事業をめぐって自由に発言できる存在が限られていると考えられる 19

3 二つの事例における 文化的フレーミング の違い集合行為 社会運動を正当化し 参加を動機づけるような 参加者に共有された状況の定義 運動の 自己イメージ とされる 文化的フレーミング の要因に関して 巻町は既存の反対運動と一線を画して 原発建設に反対 や 建設反対運動 というフレーミングを採用せず 自分たちのことを自分たちで決める という意思表示を強調したフレーミングによって 地域振興 フレームに競り勝つことに成功し その結果住民の多くを支持者として動員することに成功したと考えられる 実際 巻町においては 1996 年 8 月 4 日の投票終了まで 原発についての賛否は明言されていなかったとされる 六ヶ所村においては 日本原燃が地元産業として位置づいており 核燃料サイクル事業が経済的な受益をもたらしているという認識も村民の多数意見となっている ( 舩橋ほか 2012) このような状況下 核燃料サイクル事業による 地域振興 に打ち勝つようなフレームは明確ではない 4 今後の研究課題今後の研究課題としては こうした六ヶ所村の現状をさらに掘り下げ 現在の社会にとって大きな懸念となっている高レベル放射性廃棄物の最終処分場立地をめぐるプロセスを検討する上で有用な知見を得ていくことと考えられる 原発立地計画の凍結に至った巻町の事例と異なり 六ヶ所村においては核燃施設をめぐる住民運動は展開されていない こうした地域の状態は 果たして原子力施設が十分な社会的受容性を獲得していると言えるのかどうか 明らかにしていく必要がある (5) 収集 関連資料 収集資料 核燃サイクル阻止 1 万人訴訟原告団 (2016) パンフレット 核燃料サイクル施設と原発 : 青森県の現状 ( 第 3 版 ) 核燃サイクル阻止 1 万人訴訟原告団, 2016 年 3 月 11 日 ( 第 3 版 ). 関連資料 菊川慶子 (2010) 六ヶ所村ふるさとをふく風 株式会社影書房. 舩橋晴俊, 長谷川公一, 飯島伸子 (2012) 核燃料サイクル施設の社会学 : 青森県六ヶ所村 有斐閣. 長谷川公一 (2003) 第 9 章住民投票の成功の条件 - 原子力施設をめぐる環境運動と地域社会, 環境運動と新しい公共圏 - 環境社会学のパースペクティブ - 有斐閣. 末田一秀 ( 核のごみキャンペーン関西会員 / はんげんぱつ新聞編集委員 ) ウェブサイト 放射性廃棄物を考える, <http://homepage3.nifty.com/ksueda/waste-top.html>, ( 閲覧日 2016 年 6 月 17 日 ). 20

3.4 青森県六ヶ所村の視察風景 21