KSR判決のその後

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Ⅰ. はじめに 近年 企業のグローバル化や事業形態の多様化にともない 企業では事業戦略上 知的財産を群として取得し活用することが重要になってきています このような状況において 各企業の事業戦略を支援していくためには 1 事業に関連した広範な出願群を対象とした審査 2 事業展開に合わせたタイミングでの

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平成  年(行ツ)第  号

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問 2 戦略的な知的財産管理を適切に行っていくためには, 組織体制と同様に知的財産関連予算の取扱も重要である その負担部署としては知的財産部門と事業部門に分けることができる この予算負担部署について述べた (1)~(3) について,( イ ) 内在する課題 ( 問題点 ) があるかないか,( ロ )

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作成日 :2006 年 10 月 1 日 世界知的所有権機関 World Intellectual Property Organization (WIPO) 所在地 :34 chemin des Colombettes, 1211 GENEVE 20, Switzerland Tel : (41 2

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なって審査の諸側面の検討や評価が行われ 関係者による面接が開始されることも ある ベトナム知的財産法に 特許審査官と出願人またはその特許代理人 ( 弁理士 ) の間で行われる面接を直接定めた条文は存在しない しかしながら 審査官は 対象となる発明の性質を理解し 保護の対象を特定するために面接を設定す

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定していました 平成 25 年 4 月 1 日施行の 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律 では, 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止について規定されていますが, 平成 25 年 4 月 1 日の改正法施行の際, 既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準につい

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平成 27 年 2 月までに, 第 1 審原告に対し, 労働者災害補償保険法 ( 以下 労災保険法 という ) に基づく給付 ( 以下 労災保険給付 という ) として, 療養補償給付, 休業補償給付及び障害補償給付を行った このことから, 本件事故に係る第 1 審原告の第 1 審被告に対する自賠法

1 A 所有の土地について A が B に B が C に売り渡し A から B へ B から C へそれぞれ所有権移転登記がなされた C が移転登記を受ける際に AB 間の売買契約が B の詐欺に基づくものであることを知らなかった場合で 当該登記の後に A により AB 間の売買契約が取り消された

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Transcription:

KSR 判決のその後キーワードとしての 予見可能性 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所弁理士佐木啓二 1. はじめに 2007 年 4 月 30 日に米国連邦最高裁判所においていわゆるKSR 事件の判決が出されてから1 年が経過した このKSR 判決は 複数引例の組合せにより発明の非自明性を拒絶する際の判断基準に大きな影響を与えるものとして 米国の知財関係者だけでなく 我が国の知財関係者にもフェスト事件以来の衝撃を与えた 判決が出されてからしばらくの間は 各地でセミナーや講習会が盛んに開催され また 各種雑誌等において多くの論文や解説が発表されていたが ここにきて少し落ち着きを取り戻したようである 米国出願を扱う一実務家として 発明の非自明性の問題は最も日常的なテーマであり 審査に与える判決の影響に注目してきたが 或る程度の期間が経過したこともあり 今回 KSR 判決についてレビューしてみた 2.KSR 判決簡単におさらいすると KSR 事件とは 車両制御ペダル装置の特許 ( 以下 本件特許 という ) を有する米国テレフレックス社が 当該特許を侵害するとして カナダのKSRインターナショナル社 ( 以下 KSR 社 という ) を訴えた事件である 本件特許は 車両のアクセルペダル又はブレーキペダルに関するものであり このペダルは 支持部材に固定されたピボット ( 旋回軸 ) の廻りを旋回可能である また ペダルは ガイドロッドの長手方向に沿って移動可能であり ドライバーの体格に合わせた位置で固定できるように構成されている ( ペダルの前後方向の位置調整が可能 ) そして 支持部材に取り付けられた電子制御装置により ペダルの旋回量 ( 踏込量 ) に応じた信号が生成される 訴えられたKSR 社は 当然のように反訴として本件特許の無効を主張した 1

主引例である浅野特許には 前後方向の位置調整が可能なペダルが開示されているが ペダルの旋回量は 機械的センサ ( ケーブル ) により検出される また ペダルの位置 ( 踏込み状態 ) を検出する制御装置自体は 本件特許の発明時にすでに製品化されていた 地裁では KSR 社の主張が求められて本件特許は無効となったが 控訴審において CAFC( 米国連邦巡回控訴裁判所 ) は 浅野特許と市販品の制御装置とを本件特許のクレームのように組み合わせることへの 教示 (teaching) 示唆 (suggestion) 又は動機 (motivation) が存在しないことを理由に地裁によるサマリージャッジメント ( 略式判決 ) を破棄し 本件特許は有効であるとした KSR 社の上告を受けた米国最高裁は teaching suggestion or motivation (TSM) テストの厳格 (rigid) な適用は 開放的且つ柔軟なアプローチをとった最高裁判決と矛盾するとして CAFCの判決を破棄し 差し戻した 3. 米国特許商標局 (USPTO) の対応最高裁の判決に対し USPTOは迅速な反応を示した 判決から3 日後の5 月 3 日にメモランダムを発表し KSR 判決を考慮した審査官へのガイダンスを近日中に発布する予定であるが それまでは以下の (1)~(4) の点に留意すべきである旨をアナウンスした (1) 最高裁は KSR 判決において 103 条の自明性の判断におけるグラハム要因 (Graham factors) を再確認した グラハムの4つの事実調査 (factual inquiries) は (a) 先行技術の範囲と内容を判断すること (b) 先行技術とクレームとの差異を確認すること (c) 発明当時の技術水準を勘案すること 及び (d) 二次的考慮事項の証拠を評価することである (2) また 最高裁は 自明性の分析における要因として teaching suggestion or motivation (TSM) を用いることを完全に否定したわけではない むしろ 先行技術を組み合わせてクレームされた発明にする TSM を示すことは 当該発明が自 2

明であるか否かを判断するのに役立つことを認めている (3) 一方 最高裁は 先行技術における teaching suggestion or motivation の提示 (showing) を要求するという TSM テストの厳格な (rigid) 適用を否定した (4) また 最高裁は 103 条による拒絶のための分析は明確に行わなければならず また 先行技術の構成要素をクレームされたごとく結合させるように当業者を駆り立てた理由を特定することが重要であった と述べた 以上を踏まえ USPTOは 先行技術の構成要素の組合せに基づく103 条の拒絶を行う場合には 何故当業者がクレームされたやり方で先行技術の構成要素を組み合わせたかを特定する必要がある と述べた 4. 改正審査ガイドライン 2007 年 10 月 10 日 USPTOは 最高裁の判示内容を反映させた審査ガイドラインを発布した このガイドラインでは 最高裁の判示内容が随所に盛り込まれており 非自明性欠如の拒絶をサポートするのに使用できる7つの論拠 (rationale) が示されている (A) 既知の手法によって先行技術の構成要素を組み合わせ 予見可能な結果 (predictable results) をもたらしているに過ぎないか否か (B) 或る既知の構成要素を単に他の構成要素に置き換え 予見可能な結果 (predictable results) をもたらしているに過ぎないか否か (C) 既知の技術を用いて 類似の装置 ( 方法 製品 ) を ( 当該既知の技術と ) 同じ手法で (in the same way) 改善したに過ぎないか否か (D) 既知の技術を既知の装置 ( 方法 製品 ) に適用して改善し 予見可能な結果 (predictable results) をもたらしているに過ぎないか否か (E) 試してみることが自明か否か 成功するという合理的な期待のもとでの 特定され且つ予見可能な (predictable) いくつかの解決策からの選択に過ぎないか否か (F) 設計上の誘引又は市場の影響力に基づいて 或る技術分野での既知の作業結果を 同一又は異なる技術分野で用いるために改変したものに過ぎず その 3

改変が当業者にとって予見可能な (predictable) ものであったか否か (G) 先行技術内にある教示 (teaching) 示唆(suggestion) 又は動機 (motivation) が 当業者をして先行技術を改善させるか 又は 先行技術の教示を組み合わせてクレームされた発明に到達させたものであるか否か 審査官は グラハム要因の分析を行った後に 原則として前記 7つの論拠の1 又は2 以上で自明性の結論が導き出せるか否かを検討する ただし 先行技術調査とグラハム要因の分析の結果 いままでの TSM テストを用いて非自明性欠如の拒絶ができるときは そのような TSM テストによる拒絶がなされる 最高裁は TSM テストの厳格な適用は否定したが TSM テストが発明の自明性を判断するために有効な論拠の1つであることは認めているからである また 7つの論拠は制限的なものではなく 自明であることを結論付けるのに他の論拠を用いることも許されている 5. 予見可能性 7つの論拠のうち (A) (B) (D) (E) 及び (F) の5つには 予見可能な (predictable) という用語が用いられている また 論拠 (C) では predictable という用語そのものが用いられているわけではないが in the same way ということは in the predictable way でもあることから 7つの論拠のうち6つの論拠で predictable であるか否かの判断が行われることになる これら6つの論拠では TSM テストは適用されない また 論拠 (G) は KSR 判決が出される以前よりCAFCにおいて支持されてきた TSM テストを述べたものであるが この論拠 (G) においても 審査官は 成功することへの合理的な期待感があったことの認定を明確に述べなければならない 以上より 審査官は 発明の自明性を主張するためには 構成要素の適用又は組合せによる効果等の予見が可能であったことを認定しなければならない この場合に 予見 をするのは もちろん当業者である この当業者について KS R 判決は 当業者とは 一般的な創造力を有する人物であり ロボットではない 4

多くの場合において当業者は パズルのピースのように 複数の特許の教示内容を組み合わせることができる と述べており このうち ロボットではない (not an automaton) という表現は TSM テストを厳格に適用したCAFC 判決に対する痛烈な批判と考えられなくもない 最高裁は このような当業者の一般常識や一般知識を考慮したうえで 自明性の判断をすべきであると述べており この一般常識 ( 知識 ) には 設計上の誘引 市場のニーズ あるいは省力化 コンパクト化 簡素化といった普遍的な技術課題が含まれる 要するに これからは かかる一般常識 ( 知識 ) とともに創造力を備えた当業者において 構成要素の組合せや適用による効果等が予見可能であったか否かが 発明の自明性を判断するうえでのキーポイントとなる 6. 出願人の対応以上の論拠に基づく非自明性欠如の拒絶を受けた出願人の対応が これまでと大きく変わるとは考えられないが 予見可能性 という壁を突き崩すために (ⅰ) 当業者が 発明により解決された課題を認識していなかった証拠の提出 (ⅱ) 構成要素の組合せ全体が 個々の構成要素とは異なる効果を奏することの証明 (ⅲ) 発明による効果が予測される程度を超える顕著なものであるか 又は 予測されない異質のものであることを示すデクラレーション (37CFR1.13 2) の提出 (ⅳ) 構成要素の組合せや適用が困難であったとする 客観性のある専門家の意見の提出が考えられる また 出願時においては 構成要素個々の独立した効果ではなく 他の要素との組合せにおいて初めて発揮される効果がないか否か 組み合わせることによって個々の要素からは予想し得ない異質の効果が得られるか否か 予測の域を超える顕著な効果が得られるか否か といった観点からの検証が必要であろう そし 5

て 確認された効果については 最初から明細書に記載しておくのが望ましい 日本出願の場合 審査基準において 明細書に記載されてなく かつ 明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張 立証された効果は参酌すべきでない とされており これに対応する規定を米国の審査マニュアルに見出すことはできないが 明細書中に全く記載されていない効果の主張よりも 明細書中に記載された効果を実験データに基づき主張する方が 審査官にとって受け入れ易いであろうことは容易に想像される 7. 終わりに KSR 判決が出たことにより 審査官は非自明性の欠如を理由とする拒絶をし易くなったであろう もっとも いままでのところ 非自明性のバーが高くなり 出願が拒絶される割合が急に高くなったとの印象はない 変化といえば 現地代理人からのアナリシス中に KSR 判決の教示に鑑み さらなる補正をすることなく審査官の組合せによる拒絶を克服するのは難しいであろう KSR 判決は 組み合わされたものにおいて通常に機能する部品を引例が開示する場合 当該引例の組合せに基づく拒絶を覆すのをより困難にしている といった類のコメントが見られるようになったことである KSR 判決以前のオフィスアクションにおいても 構成要素の組合せや適用が自明である理由付けとして デザイン上の選択や設計事項で片付けられる場合もあった また KSR 判決以前においても 引例を組み合わせることの教示や示唆がいずれの引例中にもない といった理屈にのみ基づく反論を行うことはまれであり ( 現地代理人がUSPTOへ提出するレスポンスにおいて 反論を補強するために行うことはある ) まずは 審査官に指摘された引例中の構成要素と 本願発明の構成要素との差異 及びその差異に基づく効果の差を見つけようとしてきた 日米両国に出願された発明の最終処分についての経験的感触からして 進歩性のレベルにおいて 米国の方が日本よりも高いとは思われないので 日本の拒絶理由に対するのと同様の反論材料を基本とし これを米国特有の論理で展開すればよいと思われる ( 論理展開自体は現地代理人マターである ) ただし 米国では 6

日本ほどクレームを限定しなくても特許になることが充分に考えられるので 同様の反論材料とはいえ できるだけ上位概念での権利化ができないかという検討が必要であり また 無用のRCE( 継続審査請求 ) を避けるためにも ファーストアクションにおいて 必要なクレームの補正を行っておくべきであろう 今回のKSR 判決が出された背景として レベルの低い発明に対して特許権が付与され過ぎているのではないかという産業界の意見が強くなってきたこと 中小企業や個人発明家から不実施の特許権を買い集めて大企業に損害賠償を請求する いわゆるパテント トロール (patent troll) の存在が問題化し始めたこと があげられている 最高裁は このような意見や問題に対して 毅然とした態度で取り組み始めた というのである 損害賠償額が 我が国のそれに比べて桁違いに大きく また 訴訟に対する抵抗が少ない米国ならではの事情である 7