第 節蚕のその他の器官とその生理 6 を通じて 0 数個の細胞で構成され, この細胞から分泌される物質は幼若ホルモンといわ れ脱皮ホルモンとともに幼虫脱皮に関与する ( 図 ) 第 節 蚕のその他の器官とその生理 第. 神経系 蚕の神経系は中枢 ( 中央 ) 神経系 末梢神経系及び交感 神経系からなっている 中枢神経系は 対 ( 外観 は 個に見える ) の神経球 と, これを連ねる神経索から なり, 体の腹面正中線を縦走 している このうち, 第 と 第 神経球は頭部内にあり, 第 神経球を脳, 第 神経球 を食道下神経球と呼び, 他の 神経球より大きい 第 ~ 神経球は胸部及び第 6 腹節ま での各体節に 対ずつあり, 第 腹節には第 神経 球が接合している 神経索は 第 ~ 神経球の間は 本が 認められるが, それ以降は合 一して 本に見える ( 図 ) 頭部 胸 部 腹6 部 図蚕の神経系. 脳. 食道下神経球 ~. 各神経球. 交感神経. 末梢神経 末梢神経は中枢神経から派出して, 体内の各組織 器官に分布する神経で脳から 対, 食道下神経球から 対, その他の各神経球から 対ずつ出されている 交感神経系は中枢神経の支配を受けずに独自に働く神経で, 頭部交感神経と腹面交感神 経の 種がある 頭部交感神経は脳と前額神経球と連絡し, さらにそこから前後に派出さ れて消化管, 背脈管に分布するものと, 脳と側心体 ( 咽腔側神経球 ) と連なり, さらにア ラタ体と連なって分枝し, 消化管に分布する二つがある 腹面交感神経は, 胸腹部の各神 経球の後端中央から出て, 次の神経球の中間で左右に 分し, 気門の内面を通り, さらに 6. 脳. 食道下神経球. 前額神経球. 図蚕の頭部神経系 咽腔側神経球. アラタ体 6. 胃背交感神 経. 上唇神経. 触角神経. 視神経. 下唇神経. 小あご神経. 大あご 神経. 側心体神経. アラタ体神経
6 第 章蚕体の構造と各器官のはたらき 背脈管に分布する ( 図 ) 第. 循環系 蚕の循環系は背脈管 ( 心臓 ) と血 液に分けられる 背脈管は体の背面 正中線の皮膚直下を縦走する管状器 官で, 頭部の脳の下側前方で開口し, 後端は第 腹節の前端で盲管となっ ている 第 腹節から第 腹節の管 壁には, 各節に 対ずつの扇状筋が 付着しており, 第 胸節から末端ま での管壁背面には, 血液の流入口で ある 対ずつの弁孔がある また, ここには管腔後方から前方に向かう はくどう弁膜があり, 血液の循環を助ける 背脈管の後部には搏動の 自動能があり, この働きによって背脈管は搏動し, 血液を 後部より前方に送って循環させる ( 図 ) ねん血液は粘ちょうな液体で, 血しょうと血球からなり 0 ~% の水分を含む 血球は 6 種類の血球細胞, すなわち 原白血球, 顆粒細胞, 小球細胞 ( 及び成虫型小球細胞 ), プ ラズマ細胞, エノシトイドに区別され, その数は蚕品種, 発育の時期によって異なるが,mm 中におよそ,000~,000 個ある 血液の色は一般に黄繭種では黄色, 白繭種のでは無色または薄い黄色であ るが, これは血しょうの色による 大動脈 背脈管 ( 心臓 ) 扇状筋 弁孔 図蚕の背脈管 6 図蚕の気管分布 ( 腹面 ) ~. 気門. 退化気門. 灰色部 6 第. 呼吸系 蚕の呼吸系は 対の気門と気管からなる 気門の内面には開閉する 枚の膜と, これを 動かす 種類の筋肉がある また, 気門の内側は膨らんで室を作っている 中腸の両側には前後に走る左右 本ずつの縦走気管がある 各体節には気管の集まりで そうある気管叢があり, その部分は気門と連絡している 左右の縦走気管は対をなす気管叢ご とにはしご状に連絡されている 気管は気管叢から分岐するに従い細い管となり, 体内の あらゆる器官に分布する 気管は外側より固有膜, 皮膜細胞層及び内膜の 部からなる
第 節蚕のその他の器官とその生理 6 らせん内膜の内面には螺旋状のキチン質からなる黄褐色の螺旋糸 ( デニディウム ) があり, 気管 の内腔を一定に保っている この内膜は脱皮の際に更新される ( 6 図 ) 蚕においては気門 気管を通して呼吸が行われ, 皮膚呼吸はほとんど行われない 第. 排泄器 蚕に消化吸収された物質は, 貯蔵され, また 生活のために利用される 利用された物質は分 解されて, マルピギー管で排泄される マルピ ギー管から排泄される主な物質は尿酸及びしゅ う酸石灰である 幼虫のマルピギー管は小腸と結腸の境界部に 対開口し, 後端は直腸壁内で盲管で終わる黄 色の細い管である これは開口部の近くで枝分 かれして左右それぞれ 本の計 6 本となり, そ れぞれが中腸壁に沿って上 下行し, 結腸付近 で複雑に屈曲した後, 直腸壁に入る なお, 開 口部近くのマルピギー管は膨れており, この部 ぼうこう分を膀胱と呼んでいる ( 図 ) 6 小腸後端部の開口部 直腸より出る 本のマルピギー管 図蚕のマルピギー管. 中腸. マルピギー管. 小腸. 結腸. 直腸 6. ぼうこう. 背面管. 側面管. 腹面管 第. 脂肪組織体内に広く分布する白いへん平柔軟な葉状 紐状または帯状の組織で, 脂肪体ともいう これは多数の脂肪細胞の集合体で, 細胞中にタンパク質 脂肪 グリコーゲンなどをたくわえ, また代謝に関係する重要な器官である 第 6. 筋肉歩行運動 大顋の食桑運動 消化管のぜん動運動 排糞動作 吐糸の際の頭胸部運動などは筋肉の働きによってなされる 蚕は堅い 図筋肉の構造. 筋しょう. 筋しょう核. 筋肉線維. 筋核. 筋原形質 キチンを含む皮膚を骨格として体形を保持しており, 筋肉は骨格または体内器官に付着し,
6 図蛹の外形 ( 鶴井 ) 0 第 章蚕体の構造と各器官のはたらき その伸縮によって運動する 蚕の筋肉は, 主に筋肉線維が集まった横紋筋である ( 図 ) 第 節蛹及び蛾 第. 蛹外形は褐色の紡錘形をしており, 蛹期間中ほとんど外形には変化が見られない 体は頭部, 体節の胸部及び 体節の腹部からなる 頭部には発達した触角と目 ( 複眼 ) が見られるようになるが, 口器は退化して小さい ( 図 ) 胸部 腹部 ⅠⅡⅢ触角 前翅 気門 ( 雌 ) ( 雄 ) Ⅰ~Ⅲ. 胸部体節 ~. 腹部体節 はね胸部は前 中 後胸からなり, 各体節には 対の胸脚と中胸及び後胸には 対の翅が生 じ, 体に固着している 中胸の翅を前翅, 後胸の翅を後翅といい, 後翅は前翅と重なって 被われているために見ることはできない 腹部の第 体節は小さいが, 後方になるに従い大きくなり, 第 6 体節が最も大き く, さらに後方は小さくなる 雌蛹の腹部は太く末端が円形をしており, 第 腹節の腹面 中央には縦に走る溝がある 一方, 雄蛹の腹部は雌よりも細く末端が尖っていて, 第 腹 節の腹面中央に小点がある これらの特徴は蛹の雌雄鑑別に用いられる 蛹の体内では幼虫組織が解離し, 新たに成虫組織が形成される, きわめて変化の激しい 時期である 糸繭生産では蛹は殺され乾燥されるが, 種繭生産では蚕種製造上重要な時期であって温
第 節蛹及び蛾 度 内外, 湿度 0% 前後に保護される 第. 蛾 ( 成虫 ) ようひ早朝に蛹皮を破り, 次いでアルカリ性の液を口から出して繭層を湿し, 繭糸をかき分け て繭から出てくる 体の頭部 胸部 腹部が明瞭になり, 体表は全面白色の鱗 おわれ, 鱗毛が乾き翅も十分に伸びるとまもなく雌雄は交尾する りん もう毛 によりお 頭部の背面両側には, 六角形をした多数の個 ( 小 ) 眼によって構成された複眼があり, 赤褐色の半球状をしている 複眼の上方には羽毛状の 対の触角があり, 触覚及び嗅覚を つかさどる感覚毛が密生している 口器は頭部の腹面にあるが, 退化してこん跡の様相を 示している 胸部は前 中 後胸の 節からなるが, 前胸は他に比べて非常に小さい 胸部の各部に はほとんど同型の 対ずつの胸脚があり, 中胸及び後胸には 対ずつの翅がある しかし, この翅で飛ぶことはできない 腹部は雌が 節, 雄は 節からなっている 雌雄 とも腹部の末端には複雑な構造の生殖外器 ( 交尾器 ) があるが, これは消失した腹部の末端節の変化によ って生じたものである 生殖外器の主なものは, 雄 では陰茎及びかく握器, 雌では産卵管 側唇及び誘 引腺である. 雄の生殖器精巣 輸精管 貯精のう 射 精のう 付属腺 射精管及び陰茎からなる 輸精管 は幼虫の導管が変化したもので, 貯精のう 付属腺 及び射精管はヘロルド腺から作られたものである 精巣は腹部第 体節の背面に 対あり, 内部は四つ の精のうに分かれており, この中には精子が充満し ている 貯精のうは精子を貯える所で, 精巣中の精 子は輸精管を通ってここに貯えられる 射精は射精 のう 射精管を通り, 陰茎から行われる ( 0 図 ). 雌の生殖器雌蛾の生殖器は卵管 輸卵管 膣 交尾のう 受精のう及び粘液腺 からなる 輸卵管は幼虫の導管に相当し, 幼虫の石渡前腺は交尾のう 受精のう及び膣の 前半部を, 石渡後腺は粘液腺と膣の後半部に, それぞれ発達して作られたものである 粘 液腺は膣の両側にあり, 粘液物質を貯えており, 産卵のときにこの物質を卵の表面に出し, 精巣 輸精管 射精のう 付属腺 貯精のう 射精管 陰茎 0 図雄蛾の内部生殖器
第 章蚕体の構造と各器官のはたらき 卵が物に付着する役目をする 交尾のうは交尾のときに雄から精液を受け入れる この精 液はさらに小管を経て受精のうに運ばれ, 産卵の際には再び膣まで戻って卵中に入る ( 図 ) 卵管 受精のう 受精のう付属腺 粘液腺 輸卵管 直腸 交尾のう 産卵管 膣 図雌蛾の内部生殖器. 交尾及び受精 雌蛾の腹部末端にある誘引腺から性フェロモン ( ボンビコール ) が発散されると, 雄蛾は触角によってこれを感じて雌蛾の位置を知り, 雌蛾に向かって激しく翅を振るわせながら移動して交尾する ( 図 ) 交尾後 0~0 分以内に第 回の射精があり, 第 回の射精はそれから 60 ~0 分以内に行われる 受精すなわち卵子と精子の合一は, 蚕では交尾と同時には起こらず, 産卵後 ~ 時間後に行われる 発蛾した日の夕刻から翌朝までに産卵し, そのまま何も食べないで数日の後には死ぬ 図 交尾 ( 左 : 雌, 右 : 雄 )