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( 公財 ) 航空機国際共同開発促進基金 解説概要 21-6 この解説概要に対するアンケートにご協力ください 耐熱複合材料の動向 1. 概要耐熱複合材料の動向について 株式会社 I.S.T および宇部興産株式会社の協力の下 1 株式会社 I.S.T の RTM(Resin Transfer Molding) 用ポリイミド樹脂 Skybond 8000 2 宇部興産株式会社の RTM 用ポリイミド樹脂 PETI-330 3 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) のプリプレグ用可溶性ポリイミド樹脂 TriA-SI の特性および研究開発の現状について報告する 2. 調査内容 2.1 耐熱複合材料開発の流れエポキシ基炭素繊維強化プラスチック (CFRP) はその軽量かつ高強度の特性から 航空機の構造材料として欠かせない材料となっているが その耐熱性は 120 程度であるため 高温部材としては主にチタン合金が使用されている しかし 比強度等の観点から 高温でも使用可能な耐熱 CFRP の潜在的な需要は高いものと思われる CFRP の耐熱性はマトリックス樹脂の特性によって決まるが ポリイミドなど耐熱性の高い樹脂は逆に言えば高温にしても溶融成形可能な流動性 ( 低粘度 ) を示すことができないため 一般的に成形加工性に難がある FRP 用マトリックス樹脂として ポリイミドの分子量を小さくし 末端を熱架橋基で変性した熱硬化性ポリイミド樹脂 ( 熱付加型イミドオリゴマー ) がこれまでに多数研究開発されているが 成形性 靱性 長期熱安定性のいずれかに課題を抱えているものがほとんどであり 本格的な実用化はごく一部に限られている しかし 1998 年に文部科学省宇宙科学研究所と宇部興産株式会社により 非対称化学構造を導入することで低溶融粘度 高耐熱性 高靱性をすべて兼ね備えた熱硬化性ポリイミド樹脂 TriA-PI が開発され これを機に耐熱複合材料の研究開発も大幅に進歩しつつある 本調査報告では 特に 1 株式会社 I.S.T のスカイボンド 2 宇部興産株式会社の RTM 用樹脂 PETI-330 3 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) の可溶性熱付加型イミドオリゴマー TriA-SI の研究開発動向について報告する 2.2 スカイボンド ( 株式会社 I.S.T) (1) 株式会社 I.S.T と耐熱複合材料 I.S.T 社は 1983 年の創業以来 機能性材料をキーワードに高付加価値製品を生み出してきた 中でも 1996 年にモンサント社より取得した 350 超の耐熱複合材料用ポリイミド樹脂 Skybond は 現在まで製造販売を手がけ 欧米の航空宇宙産業において高い信頼と知名度を誇っている 2008 年には複合材料の設計 製造 販売を手がけるスーパーレジン工業 ( 株 ) をグループ会社に加え 豊富な販売実績と販売チャンネルも獲得した 耐熱複合材料は経営計画における中核技術であり 産業機械 航空宇宙への展開を進めている また新規研究開発テーマで近年とくに注力してきたのが RTM 成型可能なポリイミド樹脂 Skybond 8000 を用いた耐熱複合材料である (2)RTM 用ポリイミド樹脂 Skybond 8000 とこれを用いた耐熱複合材料 Skybond 8000 は すでにイミド化された粉末 ( 図 2.2-1) で成形中に縮合水が出ない大きなメリットがある ガラス転移温度は 後述の RTM 用ポリイミド樹脂である PETI-330 1

( ガラス転移温度 330 ) と比較すると 290 と低いものの PETI-330 が 250 以上 で溶融 350 以上で硬化させる必要があるのに対して Skybond 8000 は 250 以下 で溶融 300~350 で硬化できるプロセス上のメリットがある ( 図 2.2-2) 粘度 ( ポイズ ) 1.0E+07 1.0E+06 1.0E+05 1.0E+04 1.0E+03 1.0E+02 1.0E+01 250 以下で 最低溶融粘度に 350 以下で 溶融粘度が上昇 図 2.2-1 Skybond 8000 1.0E+00 50 100 150 200 250 300 350 400 温度 ( ) 図 2.2-2 Skybond 8000 のプロセスウインドウ 一方 耐熱複合材料は 各種物性試験に供試できるように 12 インチサイズの平板耐熱複合材料作製技術を確立した 現在 ガラス転移温度が 270 で 空隙率が 2 % 未満の耐熱複合材料を試作することが可能である 高温耐久試験も始めており 現在のところ 250 で 1,000 時間後も曲げ強度に低下は見られていない 本耐熱複合材料はサンプルワークを開始するとともに 高温での長期耐久試験を継続しているところである 断面の顕微鏡写真 図 2.2-3 Skybond 8000 を用いた耐熱複合材料と これの非破壊検査結果 断面写真 2.3 PETI-330( 宇部興産株式会社 ) (1) 開発の背景耐熱性の高い CFRP を製造するにはマトリックス樹脂として耐熱性の高いポリイミドを適応することが有効な手段であり 米国 NASA により溶液として炭素繊維に含浸する PMR-15 PETI-5 等のポリイミドマトリックス樹脂などが開発された しかし 耐熱性や機械特性 ( 靭性 ) が不十分であったり CFRP の成形が難しく高コストになるといったことから ごく特殊な用途にのみ限定利用されているにとどまっていた その後 2002 年に NASA により PETI-330 が報告され 宇部興産 では NASA からのライセンスを受け 独自の原料 長年のポリイミド製造 開発の蓄積から新規の耐熱 CFRP マトリックス樹脂 PETI-330 を上市するに至った (2) 製品の概要 PETI-330 は 独自の酸無水物(2,3,3,4 -ビフェニルテトラカルボン酸無水物) と末端基 (4-(2-フェニルエチニル) 無水フタル酸 ) を組合わせることにより 低粘度と耐熱性 ( 硬化後 ) の両立を図った RTM 成型により耐熱 CFRP を製造できるポリイミド樹脂である 従 2

来 耐熱 CFRP は炭素繊維に樹脂溶液を含浸した中間材料 ( プリプレグ ) を積層してオート クレーブで溶媒を除去しながら成型するのが主流であり 溶剤等を除去するために複雑な 工程が要求されていたが PETI-330 は無溶剤であり RTM による製造により 成型 時間の大幅な短縮が図れる (3) 製品の特徴 a. ニート樹脂の特徴 PETI-330 は粉状の製品( 図 2.3-1) として提供しており 溶融すると低い溶融粘度を 示し 粘度の時間安定性も優れている 図 2.3-2 に PETI-330 の溶融粘度の安定性を示 した PETI-330 は 280 で 1Pa sec 以下の安定した低粘度を 100 分以上維持でき るので RTM 成型時にプリフォームを乱すことなく注入することができることが特徴の 一つである 安定した低粘度状態を実現することで CFRP の RTM 成型以外にも フィラ ー等とのコンパウンドとしても耐熱性マトリックス樹脂としての活用もある PETI-330 は 280 程度で溶融後 表 2.3-1 PETI-330 特性 ( ニート樹脂 ) 370 に昇温し 1 時間硬化することで耐熱性のマトリックス樹脂となる 樹脂単体で硬化した PETI-330 の特性を表 2.3-1 に示す ガラス転移温度 (Tg / DSC 測定 ) は 330 であり 溶融成型できる樹脂としては最高レベルである 動的粘弾性測定結果からも Tg 付近の温度まで弾性率の低下が見られない また 破断伸び ( 引張試験 ) は 8% 程度あることから CFRP マトリックス樹脂としての靭性も十分あることがわかる 項目体積抵抗 ** 単位 特性値 試験方法 密度 ** g/cc 1.30 ASTM D792 Tg (DSC)** o C 330 ASTM E1356 引張り試験 (23 o C) ** 強度 MP a 118 ASTM D638 弾性率 GPa 2.68 ASTM D638 破断伸び % 8 ASTM D638 吸水率 (23 o C 飽和 ) * % 3.2 ASTM D570 表面抵抗 ** Ω >10 16 ASTM D257 Ω cm >10 16 ASTM D257 * : 硬化条件 371oC 1 時間 5MPa ホットプレス使用 ** : 硬化条件 371oC 1 時間 1.4MPa ホットプレス使用 図 2.3-1 PETI-330 粘度 η* (Pa-sec) 1.E+05 1.E+04 280oC 1.E+03 1.E+02 1.E+01 1.E+00 1.E-01 0 100 200 300 時間 (min) 図 2.3-2 PETI-330 溶融粘度 400 300 200 100 0 温度 ( ) 図 2.3-3 PETI-330CFRP (RI 成型 ) b. CFRP 成型例と特徴 PETI-330 の RTM 成型例を以下に示す 1PETI-330 をインジェクターに入れ 280 で溶融し真空脱気を行う 2 炭素繊維プリフォームを金型にセットして 300 に保持する 3 溶融脱気した PETI-330 を 1.34MPa 程度の圧力で注入する 4 注入完了後 金型を昇温し 370 で 1 時間硬化を行う 5 硬化完了後 金型温度を 100 まで冷却し CFRP を取出す (CFRP 取出しまで型締め圧は保持 ) 3

RTM 成型した CFRP の特性を表 2.3-2 に示す 316 での強度が室温強度の 65~80% を維持しており 300 を超える温度範囲での使用可能性を示している また ホットプレスを用いたレジンインフュージョン (RI) 成型により 厚物 CFRP を成型することもできる 図 2.3-3 は試作した厚さ約 5cm の CFRP である 表 2.3-2 PETI-330CFRP の特性 (RTM 成型品 ) 項目 単位 特性値 試験方法 MPa ASTM 層間せん断強度 (23 ) 61.1 D2344 (316 ) 39.7 有孔圧縮試験 強度 (23 ) MPa 298 (316 ) 234 弾性率 (23 ) GP a 48.9 (316 ) 49.0 炭素繊維 :T650/35 3k 8 朱子織擬似等方 8 層 (Vf:58~61%) 2.4 TriA-SI( 宇宙航空研究開発機構 ) プリプレグを経由する従来の熱硬化性ポリイミド樹脂を母材とした炭素繊維複合材料は 硬化前のポリイミド樹脂 ( 熱付加型イミドオリゴマー ) が溶媒にあまり溶けないために イミドの前駆体であるアミド酸の溶液を炭素繊維に含浸 半乾燥して得られるアミド酸プリプレグを積層 加熱硬化して作製されている この方法では 成形中にアミド酸からイミドに化学変化する過程で水が発生し 丁寧に水抜きをしないと成形体内部にボイドが発生する可能性が大きい これに対し イミドオリゴマーが溶媒に 30 wt% 以上の高濃度で溶け イミドオリゴマー溶液から直接プリプレグを作製することができれば 成形中の水の発生を抜本的になくすことができる JAXA では 嵩高いフルオレニリデン基と柔軟なエーテル基を併せ持つジアミンモノマー 9,9-ビス (4-(4-アミノフェノキシ) フェニル ) フルオレン (BAOFL) を用いると 汎用品である対称型モノマー 3,3,4,4 -ビフェニルテトラカルボン酸二無水物 (s-bpda) との組み合わせでも 30wt% 以上の高溶解性 易成形性 高耐熱性 高強度のポリイミド樹脂 (TriA-SI) が得られることを見出した TriA-SI の硬化前イミドオリゴマーは N-メチル-2-ピロリドン (NMP) に 33% 以上可溶で さらに溶液保存安定性にも優れていることから イミドオリゴマー溶液から直接イミドウェットプリプレグを作製することが可能であった また 最低溶融粘度も 326 Pa s と低粘度であり 成形性にも優れていた さらに 硬化後樹脂の Tg は 321 破断伸びは 10.2% であり 高耐熱性と高靭性を兼ね備えている イミドウェットプリプレグは手塗り塗工による 300mm 角平織材 および機械塗工による一方向材プリプレグとも特に問題なく得られた 熱重量分析 (TGA) によりプリプレグの揮発量温度依存性を測定したところ アミド酸プリプレグでは 250 まで揮発分 ( 溶媒の NMP とイミド化によって副生する水 ) が飛び続けるのに対し イミドウェットプリプレグは 200 以下でほぼ揮発が完了し より低温で揮発成分を除去できることが確認された オートクレーブによる成形では 300mm 角サイズで平織材プリプレグからの単純積層 32 層および一方向材プリプレグからの一方向積層 [0]20(20 層 ) 擬似等方積層 [+45/0/-45/90]4S(32 層 ) のいずれも積層板内部にボイドやクラックは見られず 良好な成形体を得ることができた ( 図 7 図 8) 今後はさらなる厚肉化 および曲面部品の試作を検討する予定である 複合材料の試作と並行して ポリイミド樹脂のさらなる改良も検討している これまで 縮合型ポリイミドでは広く使用されている無水ピロメリット酸 (PMDA) では 溶融成形性のある熱硬化性ポリイミドは存在しなかった しかし 株式会社カネカとの共同研究の結果 ジアミンとして側鎖にフェニル基を有する 2-フェニル-4,4 -ジアミノジフェニルエーテルを用いると PMDA との組み合わせでも良好な成形性を有し かつ溶解性 硬化後の 4

耐熱性も優れたポリイミド樹脂を得ることができた 特に ジアミンとして 9,9-ビス (4- アミノフェニル ) フルオレン (BAFL) を少量共重合させることにより 硬化後樹脂の Tg が約 370, 破断伸びは 11% と TriA-SI に比べて溶解性 成形性 靱性を下げることなく 耐熱性を大幅に向上させた樹脂が得られている 図 2.4-1 [+45/0/-45/90]4S TriA-SI 複合材の外観 図 2.4-2 [+45/0/-45/90]4S の断面顕微鏡写真 3. まとめ上記の通り 旧来からの大きな課題であった難成形性を克服した耐熱複合材料の開発が急ピッチで進んでいる 現状コスト面での課題は大きいものの いったん実用化されればスケール効果によりコストは大幅に低下することが予想され これからの研究開発に一層の期待がかかる この解説概要に対するアンケートにご協力ください 5