報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質

Similar documents
報道機関各位 平成 28 年 8 月 23 日 東京工業大学東京大学 電気分極の回転による圧電特性の向上を確認 圧電メカニズムを実験で解明 非鉛材料の開発に道 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の北條元助教 東正樹教授 清水啓佑大学院生 東京大学大学院工学系研究科の幾原雄一教

Microsoft Word - TokyoTechPR _Azuma.doc

PbTiO3 に比べて約 2% 大きな体積を持つこと また Cr 4+ を含む化合物に期待される金属伝導性を示さず 絶縁体であることなどが長年の謎であった さらに最近 2 万気圧への加圧で 10% もの巨大な体積収縮が起こることが発見され そのメカニズムの解明が望まれていた 研究成果今回の研究では

本研究成果は 平成 28 年 8 月 19 日 ( 米国東部時間 ) に米国化学会誌 Journal of the American Chemical Society のオンライン速報版で公開されました 研究の背景と経緯 超伝導現象はゼロ抵抗や完全反磁性 ( 注 2) を示す科学の観点から重要な物理

平成22年11月15日

Microsoft Word - プレス原稿_0528【最終版】

非磁性原子を置換することで磁性・誘電特性の制御に成功

<4D F736F F D C A838A815B A8CF597E38B4E82C982E682E992B48D8291AC8CB48E7195CF88CA82CC8ACF91AA817C93648E718B4F93B982C68CB48E718C8B8D8782CC8CF590A78CE4817C8140>

体状態を保持したまま 電気伝導の獲得という電荷が担う性質の劇的な変化が起こる すなわ ち電荷とスピンが分離して振る舞うことを示しています そして このような状況で実現して いる金属が通常とは異なる特異な金属であることが 電気伝導度の温度依存性から明らかにされました もともと電子が持っていた電荷やスピ

受付番号:

【最終版・HP用】プレスリリース(徳永准教授)

平成 30 年 1 月 5 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 低温で利用可能な弾性熱量効果を確認 フロンガスを用いない地球環境にやさしい低温用固体冷却素子 としての応用が期待 発表のポイント 従来材料では 210K が最低温度であった超弾性注 1 に付随する冷却効果 ( 弾性熱量効果注 2

平成 30 年 8 月 6 日 報道機関各位 東京工業大学 東北大学 日本工業大学 高出力な全固体電池で超高速充放電を実現全固体電池の実用化に向けて大きな一歩 要点 5V 程度の高電圧を発生する全固体電池で極めて低い界面抵抗を実現 14 ma/cm 2 の高い電流密度での超高速充放電が可能に 界面形

平成 28 年 12 月 1 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院工学研究科 マンガンケイ化物系熱電変換材料で従来比約 2 倍の出力因子を実現 300~700 の未利用熱エネルギー有効利用に期待 概要 東北大学大学院工学研究科の宮﨑讓 ( 応用物理学専攻教授 ) 濱田陽紀 ( 同専攻博士前期

平成 27 年 12 月 11 日 報道機関各位 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR) 東北大学大学院理学研究科東北大学学際科学フロンティア研究所 電子 正孔対が作る原子層半導体の作製に成功 - グラフェンを超える電子デバイス応用へ道 - 概要 東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (

1. 背景血小板上の受容体 CLEC-2 と ある種のがん細胞の表面に発現するタンパク質 ポドプラニン やマムシ毒 ロドサイチン が結合すると 血小板が活性化され 血液が凝固します ( 図 1) ポドプラニンは O- 結合型糖鎖が結合した糖タンパク質であり CLEC-2 受容体との結合にはその糖鎖が

振動発電の高効率化に新展開 : 強誘電体材料のナノサイズ化による新たな特性制御手法を発見 名古屋大学大学院工学研究科 ( 研究科長 : 新美智秀 ) 兼科学技術振興機構さきがけ研究者の山田智明 ( やまだともあき ) 准教授らの研究グループは 物質 材料研究機構技術開発 共用部門の坂田修身 ( さか

結晶

報道関係者各位 平成 24 年 4 月 13 日 筑波大学 ナノ材料で Cs( セシウム ) イオンを結晶中に捕獲 研究成果のポイント : 放射性セシウム除染の切り札になりうる成果セシウムイオンを効率的にナノ空間 ナノの檻にぴったり収容して捕獲 除去 国立大学法人筑波大学 学長山田信博 ( 以下 筑

氏 名 田 尻 恭 之 学 位 の 種 類 博 学 位 記 番 号 工博甲第240号 学位与の日付 平成18年3月23日 学位与の要件 学位規則第4条第1項該当 学 位 論 文 題 目 La1-x Sr x MnO 3 ナノスケール結晶における新奇な磁気サイズ 士 工学 効果の研究 論 文 審 査

論文の内容の要旨

配信先 : 東北大学 宮城県政記者会 東北電力記者クラブ科学技術振興機構 文部科学記者会 科学記者会配付日時 : 平成 30 年 5 月 25 日午後 2 時 ( 日本時間 ) 解禁日時 : 平成 30 年 5 月 29 日午前 0 時 ( 日本時間 ) 報道機関各位 平成 30 年 5 月 25

PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

Microsoft PowerPoint - 第10回電磁気学I 

報道発表資料 2008 年 1 月 31 日 独立行政法人理化学研究所 酸化物半導体の謎 伝導電子が伝導しない? 機構を解明 - 金属の原子軌道と酸素の原子軌道の結合が そのメカニズムだった - ポイント チタン酸ストロンチウムに存在する 伝導しない伝導電子 の謎が明らかに 高精度の軟 X 線共鳴光

SP8WS

高集積化が可能な低電流スピントロニクス素子の開発に成功 ~ 固体電解質を用いたイオン移動で実現低電流 大容量メモリの実現へ前進 ~ 配布日時 : 平成 28 年 1 月 12 日 14 時国立研究開発法人物質 材料研究機構東京理科大学概要 1. 国立研究開発法人物質 材料研究機構国際ナノアーキテクト

Microsoft Word - 02目次

酸化グラフェンのバンドギャップをその場で自在に制御

1. 背景強相関電子系は 多くの電子が高密度に詰め込まれて強く相互作用している電子集団です 強相関電子系で現れる電荷整列状態では 電荷が大量に存在しているため本来は金属となるはずの物質であっても クーロン相互作用によって電荷同士が反発し合い 格子状に電荷が整列して動かなくなってしまう絶縁体状態を示し

Microsoft PowerPoint _量子力学短大.pptx

マスコミへの訃報送信における注意事項

研究成果東京工業大学理学院の那須譲治助教と東京大学大学院工学系研究科の求幸年教授は 英国ケンブリッジ大学の Johannes Knolle 研究員 Dmitry Kovrizhin 研究員 ドイツマックスプランク研究所の Roderich Moessner 教授と共同で 絶対零度で量子スピン液体を示

背景と経緯 現代の電子機器は電流により動作しています しかし電子の電気的性質 ( 電荷 ) の流れである電流を利用した場合 ジュール熱 ( 注 3) による巨大なエネルギー損失を避けることが原理的に不可能です このため近年は素子の発熱 高電力化が深刻な問題となり この状況を打開する新しい電子技術の開

ナノテク新素材の至高の目標 ~ グラフェンの従兄弟 プランベン の発見に成功!~ この度 名古屋大学大学院工学研究科の柚原淳司准教授 賀邦傑 (M2) 松波 紀明非常勤研究員らは エクス - マルセイユ大学 ( 仏 ) のギー ルレイ名誉教授らとの 日仏国際共同研究で ナノマテリアルの新素材として注


要旨 遷移金属の合金系の電子伝導率や帯磁率を測定することで 液体中の電子及びイオンの性質やスピン相互作用がわかる 本論文では V1-cGec 合金について c = まで 0.1 ずつ組成を変えて帯磁率測定を行った 純粋な Ge は温度によりほとんど帯磁率の変化は見られなかったが V

化学 1( 応用生物 生命健康科 現代教育学部 ) ( 解答番号 1 ~ 29 ) Ⅰ 化学結合に関する ⑴~⑶ の文章を読み, 下の問い ( 問 1~5) に答えよ ⑴ 塩化ナトリウム中では, ナトリウムイオン Na + と塩化物イオン Cl - が静電気的な引力で結び ついている このような陽イ

報道機関各位 平成 27 年 8 月 18 日 東京工業大学広報センター長大谷清 鰭から四肢への進化はどうして起ったか サメの胸鰭を題材に謎を解き明かす 要点 四肢への進化過程で 位置価を持つ領域のバランスが後側寄りにシフト 前側と後側のバランスをシフトさせる原因となったゲノム配列を同定 サメ鰭の前

平成 28 年 10 月 25 日 報道機関各位 東北大学大学院工学研究科 熱ふく射スペクトル制御に基づく高効率な太陽熱光起電力発電システムを開発 世界トップレベルの発電効率を達成 概要 東北大学大学院工学研究科の湯上浩雄 ( 機械機能創成専攻教授 ) 清水信 ( 同専攻助教 ) および小桧山朝華

平成 2 9 年 3 月 2 8 日 公立大学法人首都大学東京科学技術振興機構 (JST) 高機能な導電性ポリマーの精密合成法を開発 ~ 有機エレクトロニクスの発展に貢献する光機能材料の開発に期待 ~ ポイント π( パイ ) 共役ポリマーの特性制御には 末端に特定の官能基を導入することが重要だが

超高速 超指向性 完全無散逸の 3 拍子がそろった 理想スピン流の創発と制御 ~ 弱い トポロジカル絶縁体の世界初の実証に成功 ~ 1. 発表のポイント : 理論予想以後実証できずにいた 弱い トポロジカル絶縁体 ( 注 1) 状態の直接観察に世界で初めて成功した 従来の 強い トポロジカル絶縁体で

平成 30 年 5 月 25 日 報道機関各位 東京工業大学中央大学 可視光で働く新しい光触媒を創出 - 常識を覆す複合アニオンの新材料を発見 - 要点 酸素とフッ素を構成元素に含む可視光応答型の新しい光触媒を開発 アニオン複合化で得られる結晶構造を活用し太陽光の主成分を効率よく吸収 太陽光をエネル

マスコミへの訃報送信における注意事項

ポイント 太陽電池用の高性能な酸化チタン極薄膜の詳細な構造が解明できていなかったため 高性能化への指針が不十分であった 非常に微小な領域が観察できる顕微鏡と化学的な結合の状態を調査可能な解析手法を組み合わせることにより 太陽電池応用に有望な酸化チタンの詳細構造を明らかにした 詳細な構造の解明により

<4D F736F F D D58A4589B B CC B838C839392B B191CC82CC93E482F089F096BE2E646F6

記者発表資料

<4D F736F F D DC58F498D65817A88D98FED837A815B838B8CF889CA5F835E834F974C2E646F63>

「セメントを金属に変身させることに成功」

鉱物と類似の構造を持つ白雲母の鉱物表面に挟まれた塩化ナトリウム (NaCl) 水溶液が 厚さ 1 ナノメートル ( 水分子約 3 個分の厚み ) 以下まで圧縮されても著しい潤滑性を示すことを実験的に明らかにしてきました しかし そのメカニズムについては解明されておらず 世界的にも存在が珍しいクリープ

開発の社会的背景 リチウムイオン電池用正極材料として広く用いられているマンガン酸リチウム (LiMn 2 O 4 ) やコバルト酸リチウム (LiCoO 2 ) などは 電気自動車や定置型蓄電システムなどの大型用途には充放電容量などの性能が不十分であり また 低コスト化や充放電繰り返し特性の高性能化

液相レーザーアブレーションによるナノ粒子生成過程の基礎研究及び新規材料創成への応用 北海道大学大学院工学工学院量子理工学専攻プラズマ応用工学研究室修士 2年竹内将人


4. 発表内容 : 超伝導とは 低温で電子がクーパー対と呼ばれる対状態を形成することで金属の電気抵抗がゼロになる現象です これを室温で実現することができれば エネルギー損失のない送電や蓄電が可能になる等 工業的な応用の観点からも重要視され これまで盛んに研究されてきました 超伝導発現のメカニズム す

がら この巨大な熱電効果の起源は分かっておらず 熱電性能のさらなる向上に向けた設計指針 は得られていませんでした 今回 本研究グループは FeSb2 の超高純度単結晶を育成し その 結晶サイズを大きくすることで 実際に熱電効果が巨大化すること またその起源が結晶格子の振動 ( フォノン 注 2) と

解法 1 原子の性質を周期表で理解する 原子の結合について理解するには まずは原子の種類 (= 元素 ) による性質の違いを知る必要がある 原子の性質は 次の 3 つによって理解することができる イオン化エネルギー = 原子から電子 1 個を取り除くのに必要なエネルギー ( イメージ ) 電子 原子

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

機械学習により熱電変換性能を最大にするナノ構造の設計を実現

報道機関各位 平成 30 年 11 月 8 日 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 東京工業大学生命理工学院 第 5 回生命理工オープンイノベーションハブ (LiHub) フォーラム バイオマトリックス : 生命科学 材料工学から健康 医療 美容への架け橋 のご案内 東京工業大学生命理工学院は

Microsoft Word - 01.doc

QOBU1011_40.pdf

と呼ばれる普通の電子とは全く異なる仮説的な粒子が出現することが予言されており その特異な統計性を利用した新機能デバイスへの応用も期待されています 今回研究グループは パラジウム (Pd) とビスマス (Bi) で構成される新規超伝導体 PdBi2 がトポロジカルな性質をもつ物質であることを明らかにし

共同研究グループ理化学研究所創発物性科学研究センター強相関量子伝導研究チームチームリーダー十倉好紀 ( とくらよしのり ) 基礎科学特別研究員吉見龍太郎 ( よしみりゅうたろう ) 強相関物性研究グループ客員研究員安田憲司 ( やすだけんじ ) ( 米国マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルアソシ

詳細な説明 研究の背景 フラッシュメモリの限界を凌駕する 次世代不揮発性メモリ注 1 として 相変化メモリ (PCRAM) 注 2 が注目されています PCRAM の記録層には 相変化材料 と呼ばれる アモルファス相と結晶相の可逆的な変化が可能な材料が用いられます 通常 アモルファス相は高い電気抵抗

報道機関各位 平成 27 年 3 月 20 日 ( 同時提供資料 ) 栃木県政記者クラブ 国立大学法人宇都宮大学 埼玉県政記者クラブ 学校法人 埼玉医科大学 文部科学記者会, 科学記者会 学校法人 早稲田大学 任意の偏光を持つテラヘルツ光の解析法を開発 ( 報道解禁日 :3 月 24 日午後 7 時

Graphite/Graphene Index ( 以下 GG Index と呼びます ) は 今後の研究に伴い 以下の項目 が明らかになっていくことを目標としています 1) 原料黒鉛の性状の特定や同定 2) 黒鉛 グラフェン中間体 およびグラフェンの特定や同定 3) 製品黒鉛 製品グラフェン中間体

Microsoft Word - H29統合版.doc

Microsoft PowerPoint - 熱力学Ⅱ2FreeEnergy2012HP.ppt [互換モード]

( 全体 ) 年 1 月 8 日,2017/1/8 戸田昭彦 ( 参考 1G) 温度計の種類 1 次温度計 : 熱力学温度そのものの測定が可能な温度計 どれも熱エネルギー k B T を


本扉~プロ

Microsoft PowerPoint - summer_school_for_web_ver2.pptx

気体の性質-理想気体と状態方程式 

平成 28 年 6 月 3 日 報道機関各位 東京工業大学広報センター長 岡田 清 カラー画像と近赤外線画像を同時に撮影可能なイメージングシステムを開発 - 次世代画像センシングに向けオリンパスと共同開発 - 要点 可視光と近赤外光を同時に撮像可能な撮像素子の開発 撮像データをリアルタイムで処理する

Microsoft PowerPoint - 10JUL13.ppt

NEWS RELEASE 平成 30 年 11 月 1 日 鉄鋼材料において水素による異常な変態抑制効果を発見 - 鉄の構造を水素で制御する - 九州工業大学大学院生命体工学研究科の平田研二 ( ひらたけんじ ) 大学院生 ( 現 : 産業技術総合研究所 ) 飯久保智 ( いいくぼさとし ) 准教授

スピン流を用いて磁気の揺らぎを高感度に検出することに成功 スピン流を用いた高感度磁気センサへ道 1. 発表者 : 新見康洋 ( 大阪大学大学院理学研究科准教授 研究当時 : 東京大学物性研究所助教 ) 木俣基 ( 東京大学物性研究所助教 ) 大森康智 ( 東京大学新領域創成科学研究科物理学専攻博士課

Title BiFeO_3 系酸化物誘電体の作製と機能特性 Author(s) 尾崎, 友厚 Editor(s) Citation Issue Date 2013 URL Rights

磁気でイオンを輸送する新原理のトランジスタを開発

PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

図 1. スピネル型窒化ケイ素の透明多結晶体 図 2. スピネル型窒化ケイ素 透明多結晶体の透過型電子顕微鏡写真 平均粒径は約 150ナノメートル 背景ケイ素 (Si) と窒素 (N) は地表で簡単に手に入る元素である ケイ素は砂や石の主要元素で 地表そのものといってもいいほどありふれている 一方の

Microsoft Word - 01.docx

世界初! 次世代電池内部のリチウムイオンの動きを充放電中に可視化 ~ 次世代電池の実用化に向けて大きく前進 ~ 名古屋大学 パナソニック株式会社 ( 以下 パナソニック ) および一般財団法人ファインセラミックスセンター ( 以下 ファインセラミックスセンター ) は共同で 走査型透過電子顕微鏡 (

2 成果の内容本研究では 相関電子系において 非平衡性を利用した新たな超伝導増強の可能性を提示することを目指しました 本研究グループは 銅酸化物群に対する最も単純な理論模型での電子ダイナミクスについて 電子間相互作用の効果を精度よく取り込める数値計算手法を開発し それを用いた数値シミュレーションを実

化学結合が推定できる表面分析 X線光電子分光法

記 者 発 表(予 定)

報道発表資料 2007 年 4 月 12 日 独立行政法人理化学研究所 電流の中の電子スピンの方向を選り分けるスピンホール効果の電気的検出に成功 - 次世代を担うスピントロニクス素子の物質探索が前進 - ポイント 室温でスピン流と電流の間の可逆的な相互変換( スピンホール効果 ) の実現に成功 電流

Akita University 氏名 ( 本籍 ) 若林 誉 ( 三重県 ) 専攻分野の名称 博士 ( 工学 ) 学位記番号 工博甲第 209 号 学位授与の日付 平成 26 年 3 月 22 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 研究科 専攻 工学資源学研究科 ( 機能物質工学

STRUCTUAL ANALYSIS OF DAMAGED HAIR UNDER STRETCHING CONDITION BY MICROBEAM X-RAY DIFFRACTION

< 研究の背景と経緯 > 金属イオンと有機配位子から構築される高結晶性の多孔性金属錯体は 細孔の形状 サイズ 表面特性を精密に制御することができるため 次世代の多孔性材料として注目を集め その合成と貯蔵 分離 触媒機能などの研究が世界中で精力的に行われています すでに 既存の多孔性材料の性能を超える

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

PRESS RELEASE (2013/7/24) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

2θχ/φ scan λ= å Al 2 (11-20) Intensity (a. u.) ZnO(<1nm)/MgO(0.8nm)/Al 2 MgO(0.8nm)/Al 2 WZ-MgO(10-10) a=3.085å MgZnO(10-10) a=3.101å

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 5 月 15 日 独立行政法人理化学研究所 モット先生 (1977 年ノーベル物理学賞受賞 ) の謎を解明 - 酸化ニッケルはなぜ金属ではないのか? - 銀白色の金属として知られるニッケルは 耐食性が高くステンレス鋼や硬貨などの原料として広く利用されてい

Microsoft PowerPoint EM2_15.ppt

<4D F736F F D20914F8AFA8AFA96968E8E8CB15F89F0939A97E12E646F6378>

Microsoft PowerPoint - ‚æ4‘Í

Microsoft Word -

物理学 II( 熱力学 ) 期末試験問題 (2) 問 (2) : 以下のカルノーサイクルの p V 線図に関して以下の問題に答えなさい. (a) "! (a) p V 線図の各過程 ( ) の名称とそのと (& きの仕事 W の面積を図示せよ. # " %&! (' $! #! " $ %'!!!

金属イオンのイオンの濃度濃度を調べるべる試薬中村博 私たちの身の回りには様々な物質があふれています 物の量を測るということは 環境を評価する上で重要な事です しかし 色々な物の量を測るにはどういう方法があるのでしょうか 純粋なもので kg や g mg のオーダーなら 直接 はかりで重量を測ることが

Transcription:

報道機関各位 平成 30 年 6 月 11 日 東京工業大学神奈川県立産業技術総合研究所東北大学 温めると縮む材料の合成に成功 - 室温条件で最も体積が収縮する材料 - 〇市販品の負熱膨張材料の体積収縮を大きく上回る 8.5% の収縮〇ペロブスカイト構造を持つバナジン酸鉛 PbVO3 を負熱膨張物質化〇光通信や半導体分野で利用される熱膨張抑制材として活用期待 概要 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所の東正樹教授 山本孟大学院生 ( 現 : 東北大学助教 ) 今井孝大学院生 神奈川県立産業技術総合研究所の酒井雄樹常勤研究員らの研究グループは これまでに発見された材料の中で最大の体積収縮を示す 温めると縮む 負熱膨張材料 ( 用語 1) を発見しました この負熱膨張材料は 光通信や半導体製造装置などで利用される構造材において 精密な位置決めが求められる局面で熱膨張を補償 ( キャンセル ) することなどに利用されます 本成果は ドイツの応用化学誌 Angewandte Chemie International Edition のオンライン版で近く公開されます 研究の背景ほとんどの物質は 温度が上昇すると 熱膨張によって長さや体積が増大します 光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される局面では このわずかな熱膨張が問題になります そこで 昇温に伴って収縮する 負の熱膨張 を持つ物質により 構造材の熱膨張を補償 ( キャンセル ) するような設計がなされています しかしながら 負の熱膨張を持つ材料の種類は少なく 市販品の負熱膨張材料では体積収縮の割合は 1.7% 程度と小さいことが問題でした 平成 28 年 12 月

に 名古屋大学の研究グループによって 層状ルテニウム酸化物の焼結体が 6. 7% の体積収縮を示す事が発見され 注目を集めました これは空隙の多い材料組織に由来することから 材料自身の本質的な負熱膨張ではありませんでした 研究成果今回の研究では 代表的な強誘電体 ( 用語 2) であるチタン酸鉛 PbTiO3 と同じ極性 ( 用語 3) のペロブスカイト構造 ( 用語 4) を持つ バナジン酸鉛 PbVO3 という物質を負熱膨張物質化しました 同じ結晶構造の PbTiO3 も強誘電から常誘電転移に伴い負熱膨張を示すことが知られていますが 体積収縮は約 0.6% に留まります PbVO3 は PbTiO3 に比べて結晶構造の歪みが大きく 圧力を印加すると 10% もの体積収縮を伴って常誘電相に転移しますが 常圧下の昇温ではそうした相転移は起こりません 2 価の鉛イオンを 一部が 3 価のビスマスイオンとランタンイオンで置換して電子ドープ ( 用語 5) を行い バナジウムイオンの価数を 4 価から 3.76 価に変化させた Pb 2+ 0.76La 3+ 0.04Bi 3+ 0.20V 3.76+ O3 にする事で 室温を挟む温度である 200K から 400K の温度域で図 1 の結晶構造変化が起こり 体積が 8.5% も収縮する 巨大な負熱膨張を実現しました この材料について X 線回折実験 ( 用語 6) で調べた微視的な格子定数 ( 用語 7) の変化 さらに熱機械分析装置 ( 用語 8) を用いた巨視的な試料長さの変化から巨大な負熱膨張を確認しました ( 図 2) これらにより この材料の特性について材料自身の本質的な負熱膨張であることが確認できました 今後の展開今回開発した Pb0.76La0.04Bi0.20VO3 は 巨大な負熱膨張を示しますが 環境に有害な鉛を含むという問題を抱えています 本研究で 電子ドープという手法が負熱膨張化に有効である事がわかったためで PbVO3 と同様に巨大な結晶構造歪みを持つ PbTiO3 型のペロブスカイト化合物である BiCoO3 Bi2ZnTiO6 Bi2ZnVO6 が注目されます これらの物質を電子ドープによって負熱膨張化すれば 鉛を含まない巨大負熱膨張材料が得られると期待できます 研究費について本研究の一部は 神奈川県立産業技術総合研究所 戦略的研究シーズ育成事業 革新的環境調和機能性材料の創出 ( 代表 : 東正樹東京工業大学教授 ) 日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究 A ビスマス 鉛ペロブスカイトの s-d 軌道間電荷分布変化解明と巨大負熱膨張への展開 の助成を受けて行いました

用語説明 ( 用語 1) 負熱膨張材料 : 通常の物質は温めると体積や長さが増大する 正の熱膨張を示す しかし 一部の物質は温めることで可逆的に収縮する こうした性質を負熱膨張と呼び ゼロ熱膨張材料を開発する上で重要である ( 用語 2) 強誘電体 : 誘電体 ( 絶縁体 ) の一種で 外部電場がなくとも電気分極の方向が揃っており また 外部電場によってその方向を変化できる物質 ( 用語 3) 極性 : 結晶構造中の陽イオン 陰イオンの変位のため 正の電荷と負の電荷の重心が一致せず 電気分極を持つ事 ( 用語 4) ペロブスカイト構造 : 一般式 ABO3 で表される元素組成を持つ 金属酸化物の代表的な結晶構造 ( 用語 5) 電子ドープ : 化合物の物性を変化させるため 電子の数を増やすことで 複数の価数を持つ事ができる遷移金属イオンの価数を絶縁体となる整数価数状態より小さくすること ( 用語 6) X 線回折実験 : 物質の構造を調べる方法 X 線を試料に照射し 回折強度を調べることで結晶構造 ( 原子の並び方や原子間の距離 ) を決定する ( 用語 7) 格子定数 : 結晶構造中の原子の繰り返し周期の長さ ( 用語 8) 熱機械分析装置 : 温度変化による試料長さの変化を測定する装置 論文情報 論文タイトル :Colossal Negative Thermal Expansion in Electron-Doped PbVO 3 Perovskites 著者 :Hajime Yamamoto, Takashi Imai, Yuki Sakai, and Masaki Azuma 掲載誌 :Angewandte Chemie International Edition DOI:10.1002/anie.201804082 and 10.1002/ange.201804082

図 1 Pb0.76La0.04Bi0.20VO3 の低温相 高温相の結晶構造 図 2 開発した Pb0.76La0.04Bi0.20VO3 の単位格子体積 ( 上 ) と試料長さ ( 下 ) の温度変化

問い合わせ先 < 本研究全般に関すること > 東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所教授東正樹 ( あずままさき ) E-mail: mazuma@msl.titech.ac.jp TEL: 045-924-5315 080-4402-5315 FAX: 045-924-5318 東北大学多元物質科学研究所助教山本孟 ( やまもとはじめ ) E-mail: hajime.yamamoto.a2@tohoku.ac.jp TEL: 022-217-5355 FAX: 022-217-5353 神奈川県立産業技術総合研究所戦略的研究シーズ育成事業常勤研究員酒井雄樹 ( さかいゆうき ) E-mail: yukisakai@msl.titech.ac.jp TEL: 045-924-5342 FAX: 045-924-5318 取材申し込み先 東京工業大学広報 社会連携本部広報 地域連携部門 E-mail: media@jim.titech.ac.jp TEL: 03-5734-2975 FAX: 03-5734-3661 東北大学多元物質科学研究所広報情報室 E-mail: press.tagen@grp.tohoku.ac.jp TEL: 022-217-5198 FAX: 022-217-5835 < 戦略的研究シーズ育成事業に関すること > 神奈川県立産業技術総合研究所 (KISTEC) 研究開発部研究支援課青木智子 E-mail: aoki@newkast.or.jp TEL: 044-819-2034 FAX: 044-819-2026