PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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PRESS RELEASE (2012/9/27) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

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公表雑誌 :Journal of Fish Biology 公表日 : 英国時間 2015 年 2 月 12 日 ( 木 )( オンライン版 ) 研究成果の概要 ( 背景 ) 多くの生物は, 成長に伴い雄と雌で形態が異なってきます しかし, 雌雄それぞれが異なる種として記載されることは普通ありません

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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PRESS RELEASE (2015/10/23) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

PRESS RELEASE (2017/7/28) 北海道大学総務企画部広報課 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL FAX URL:

博士学位論文審査報告書

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( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

報道発表資料 2002 年 10 月 10 日 独立行政法人理化学研究所 頭にだけ脳ができるように制御している遺伝子を世界で初めて発見 - 再生医療につながる重要な基礎研究成果として期待 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は プラナリアを用いて 全能性幹細胞 ( 万能細胞 ) が頭部以外で脳

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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平成14年度研究報告

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学位論文の要約

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統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

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研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

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法医学問題「想定問答」(記者会見後:平成15年  月  日)

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Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

平成 30 年 8 月 17 日 報道機関各位 東京工業大学広報 社会連携本部長 佐藤勲 オイル生産性が飛躍的に向上したスーパー藻類を作出 - バイオ燃料生産における最大の壁を打破 - 要点 藻類のオイル生産性向上を阻害していた課題を解決 オイル生産と細胞増殖を両立しながらオイル生産性を飛躍的に向上

新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

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報道発表資料 2007 年 8 月 1 日 独立行政法人理化学研究所 マイクロ RNA によるタンパク質合成阻害の仕組みを解明 - mrna の翻訳が抑制される過程を試験管内で再現することに成功 - ポイント マイクロ RNA が翻訳の開始段階を阻害 標的 mrna の尻尾 ポリ A テール を短縮

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別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

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平成16年6月  日

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PRESS RELEASE (2014/2/6) 北海道大学総務企画部広報課 060-0808 札幌市北区北 8 条西 5 丁目 TEL 011-706-2610 FAX 011-706-2092 E-mail: kouhou@jimu.hokudai.ac.jp URL: http://www.hokudai.ac.jp クワガタムシの雌雄差を生み出す遺伝子の同定に成功 研究成果のポイント クワガタムシで雌雄差を生み出す遺伝子を同定した この遺伝子の機能を阻害した個体は, 雌雄の中間的な特徴を持つことを明らかにした ( 注 この遺伝子は, 雌雄で大きさが顕著に異なる大顎 1) の発達制御も行っていることを明らかにした この遺伝子は, 大顎発達を促進するホルモンへの応答性を制御している可能性がある これまで, 性決定遺伝子のホルモンを通した形態形成制御の実験的証拠は, 昆虫ではほとんどない 本研究の結果は, 昆虫の雌雄の違いがどのように生じるかを明らかにする上で重要な知見である ( 注 1) 昆虫の口の一部位 クワガタムシのオスでは顕著に発達し, 俗に ハサミ と呼ばれる 研究成果の概要クワガタムシはオスとメスで非常に異なった姿をしていることで知られています オスは俗に ハサミ と呼ばれる一対の発達した大顎を持っていますが, メスではこの大顎発達は見られません 同じ種であるにも関わらず, このような全く異なった姿へと成長する背景にはどんなメカニズムがあるのでしょうか? 本研究では, メタリフェルホソアカクワガタを材料に, 性決定遺伝子と幼若ホルモン ( 注 2) 経路に注目してこのメカニズムの解明に取り組みました 研究の結果, 昆虫の性決定遺伝子の 1 つである dsx 遺伝子がクワガタムシでも雌雄の形態の違いを制御していることが示されました また特に雌雄差が大きい大顎発達の程度の違いは,dsx 遺伝子が幼若ホルモン応答性を雌雄で異なる方向に制御することで生み出されていると示唆されました この結果は, これまで昆虫ではほとんど知られていなかった ホルモン応答性を介した dsx 遺伝子による性分化制御機構 を明らかにした点で画期的であり, 他の昆虫においても性による形態の違いがどのように生ずるかを研究する上で重要な知見であると言えます ( 注 2) 昆虫のホルモンの一種 昆虫全般で成長や変態の制御を行うことが知られる これらの機能に加えて, クワガタムシでは大顎発達を促進する機能を持つことが明らかになっている 論文発表の概要研究論文名 :Developmental link between sex and nutrition; doublesex regulates sex-specific mandible growth via juvenile hormone signaling in stag beetles ( 性と栄養の発生学的リンク : クワガタムシにおける性特異的大顎発達は幼若ホルモン経路を通して doublesex 遺伝子が制御している )

著者 : 氏名 ( 所属 ) 後藤寛貴 *1*2, 宮川一志 *1*2, 石川麻乃 *1*4, 石川由希 *1*5*6, 杉目康広 *1, Douglas J. Emlen *7,Laura C. Lavine *2 *1, 三浦徹 *1 北海道大学 *2 ワシントン州立大学 *3 基礎生物学研究所 *4 国立遺伝学研究所 *5 東北大学 *6 名古屋大学 *7 モンタナ大学公表雑誌 :PLoS Genetics 公表日 : 米国東部時間 2014 年 1 月 16 日 ( 木 ) 研究成果の概要 ( 背景 ) 生物の中にはクジャクやカブトムシのように, オスとメスで姿が大きく異なる種類が数多く知られています クワガタムシもこのような生物の代表的な例であり, オスは俗に ハサミ と呼ばれる一対の発達した大顎を持っていますが, メスではこの大顎発達は見られません ( 図 1) 同じ種であるにも関わらず, このような全く異なった姿へ成長する背景にはどんなメカニズムがあるのでしょうか? 本研究では, これを明らかにするために 性 を決める遺伝子 ( 性決定遺伝子 ) の 1 つである doublesex (dsx) 遺伝子に注目しました この遺伝子は多くの昆虫で性決定に関与することが知られており, クワガタムシでも同様の機能を持つ可能性が考えられました また, クワガタムシでは幼若ホルモン (juvenile hormone: 以下 JH) が大顎発達を引き起こすことが, 我々のグループにより既に明らかにされています JH の大顎発達促進効果はオスだけで見られ, メスでは JH に対して応答が見られないことが明らかになっています これらの背景より, 我々は 性決定遺伝子が大顎の JH 応答性制御を通して, 雌雄の大顎発達の違いを生じさせている という仮説を立てました ( 研究手法 ) まずは材料として用いたメタリフェルホソアクワガタ Cyclommatus metallifer から,dsx 遺伝子を単離し, 配列の同定を行いました. 次いで RNA 干渉 (RNAi) という手法を用いて dsx の機能阻害を行い, その機能を解析しました 最後に,dsx の機能阻害と JH 処理を組みあわせた実験を行い, dsx の機能阻害で大顎の JH 応答性が変化するかを調べました ( 研究成果 ) 配列同定と発現解析の結果, 材料種のクワガタでは dsx は少なくとも 4 種類の異なるタンパク質へと翻訳されることが明らかになりました うち 2 つは主にオスで作られ あとの 2 つは主にメスで作られることが明らかになりました 性特異的に作られるオス型とメス型の dsx タンパクは, それぞれオスへの分化とメスへの分化を促進すると考えられます 幼虫の期間中 ( 成虫の形態が形成される前 ) に RNAi により dsx の機能阻害を行ったところ,dsx の機能を抑制した個体では, オスでもメスでも, 雌雄の中間的な特徴を持つ成虫へなりました ( 図 2) この結果より,dsx は雌雄のいずれでも正常な性分化に必要だと考えられます 最後に,dsx の機能阻害と JH 処理を組み合わせた実験を行いました dsx の機能阻害を行っていない場合では, オスでは JH 処理により大顎の過剰発達が引き起こされましたが, メスでは大顎サイズに変化はありませんでした しかし dsx を機能阻害した場合では, オスでもメスでも JH 処理により大顎の発達が引き起こされました ( 図 3) これは,dsx が働かない状態ではオスでもメスでも

大顎は JH に応答して発達を起こすことを示しています つまり, メスでは dsx の機能阻害を行うか否かで大顎の JH への応答性が変化しています これより, メスで発現するメス型 dsx には大顎の JH 応答性を抑制する働きがあると示唆されました これらの結果は, 性決定遺伝子が大顎の JH 応答性制御を通して, 雌雄の大顎発達の違いを生じさせている という仮説を支持するものです ( 今後への期待 ) 本研究では, これまで全く知られていなかったクワガタムシの雌雄差が生じる発生メカニズムの一端を明らかにしました dsx は様々な昆虫で性決定 性分化に関与することが知られていましたが, ホルモンへの応答性を通して雌雄で異なる形態形成を制御している例は, 本研究で初めて示されました これまで良くわかっていなかった性決定遺伝子とホルモン経路の関係について新しい知見が提供されたことで, 様々な昆虫で雌雄間の形態差を生じさせる発生メカニズムについて, 研究の進展が期待できます お問い合わせ先所属 職 氏名 : 北海道大学大学院地球環境科学研究院准教授三浦徹 ( みうらとおる ) TEL:011-706-4524 FAX:011-706-4524 E-mail:miu@ees.hokudai.ac.jp ホームページ :http://noah.ees.hokudai.ac.jp/~miu/miura_lab_japanese.html

参考図 図 1. 今回の研究に用いられたメタリフェルホソアカクワガタ (Cyclommatus metallifer) メス ( 左 ) に比べてオス ( 右 ) は非常に発達した大顎を持つ スケールバー : 20mm 発表論文中の図を改変して引用

図 2.dsx の機能阻害の効果 A) メスの場合, 対照個体 ( 左 ) では通常の個体と変わらないが,dsx を機能阻害した個体 ( 右 ) では, 金色の体色, やや大きくなった大顎などオスとメスの中間的な表現型となる スケールバー :10mm B) オスの場合, 対照個体 ( 左 ) は通常の個体と変わらないが,dsx を機能阻害した個体 ( 右 ) では大顎発達が抑制されるなど, オスとメスの中間的な表現型となる スケールバー :10mm 発表論文中の図を改変して引用

図 3.dsx の機能阻害と JH 処理の組み合わせ実験の結果 A,B)dsx 機能阻害を行っていないオスの場合 JH 処理をしていない個体 ( 青丸 写真左) に比べ JH 処理を行った個体 ( 水色四角 写真右) では大顎の過剰な発達が引き起こされている スケールバー :10mm C,D)dsx 機能阻害を行ったオスの場合 JH 処理をしていない個体 ( 青丸 写真左) に比べ JH 処理を行った個体 ( 水色四角 写真右) では大顎の過剰な発達が引き起こされている スケールバー :10mm E,F)dsx 機能阻害を行っていないメスの場合 JH 処理をしていない個体 ( 桃色丸 写真左) と JH 処理を行った個体 ( 橙四角 写真右) では大顎サイズに違いは見られない つまり JH 処理に対して大顎サイズは影響を受けない スケールバー :5mm G, H)dsx 機能阻害を行ったメスの場合 JH 処理をしていない個体 ( 桃色丸 写真左) に比べ,JH 処理を行った個体 ( 橙四角 写真右) では大顎サイズが大きくなっている つまり dsx の機能阻害をすると大顎サイズ JH 処理に対しては影響を受けるようになっており応答性が変化していると言える スケールバー :5mm A, C, E, G のグラフの横軸は蛹重 ( 体サイズの指標 ), 縦軸は大顎の長さを示す 発表論文中の図を改変して引用