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2 部位はまず本人に痛む場所を説明してもらう. 多くのケースでは罹患臓器の直上の部位を痛がるが, 必ずしも本人が説明する箇所が疾患部位とは限らない. 典型的なのが 急性虫垂炎. 本人は 胃が痛い! と上腹部痛であることを訴えたので, 上腹部のみ診察したところ圧痛も反跳痛もないため 急性胃腸炎 と診断

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日外科系連会誌 38(6):1224 1228,2013 症例報告 福井大学医学部第一外科, 同がん診療推進センター 2) 呉林秀崇森川充洋澤井利次小練研司 村上真廣野靖夫五井孝憲飯田敦 2) 片山寛次山口明夫 内容要旨症例 1は32 歳, 女性. 脳性麻痺で前医入院中であった. 腹部膨満を主訴に当院を受診した. 腹部 X 線検査,multidetector row computed tomography(mdct) にて盲腸軸捻転症と診断した. 内視鏡による整復術を行ったが, 翌日再発を認めたために, 腹腔鏡補助下右結腸切除術を施行した. 術中所見では, 卵巣と結腸間膜が癒着し, その部位を軸に遊離盲腸が捻転していた. 症例 2は90 歳, 女性. 腹痛と下腹部膨隆を主訴に, 当院を紹介受診した. 来院時, 腹膜刺激徴候を認め,MDCTと併せ盲腸軸捻転症による絞扼性イレウスと診断し, 緊急開腹手術を行った. 術中所見では, 移動盲腸が捻転し, 拡張した盲腸に多発性の縦走漿膜損傷を認めた. 捻転解除後, 右結腸切除術を施行した. 盲腸軸捻転症は結腸捻転症の約 5.4% と比較的稀な疾患であり, 状況に応じて腹腔鏡手術を含めた治療選択が必要と考えられた. 索引用語 : 和文 : 盲腸軸捻転症, 移動盲腸 はじめに盲腸軸捻転症は全腸閉塞中 0.4% とされ, 結腸捻転症の中でも5.9% と比較的稀な疾患である. しかし腸管壊死を伴うと, 重症化する場合があり, 早期診断 治療が必要と考えられる. 今回われわれは, 盲腸軸捻転症に対して手術加療を行った2 例を経験したために, 若干の文献的考察を加えて報告する. 症例症例 1 :32 歳, 女性. 主訴 : 腹部膨満. 現病歴 : 脳性麻痺にて前医入院中であった. 腹部膨満が出現し, 腹部レントゲン検査にて結腸捻転症が疑われ, 当院を紹介受診した. 受付 :2013 年 5 月 21 日, 採用 :2013 年 6 月 10 日連絡先呉林秀崇 910-1193 福井県吉田郡永平寺町松岡下相月 23-3 福井大学医学部第一外科 既往歴 :5 歳時に脳性麻痺. 入院時身体所見 : 腹部膨隆と圧痛を認めたが, 腹膜刺激徴候は認めなかった. 血液検査所見 : 白血球 9,700/μL と軽度上昇を認めるも, その他異常所見を認めなかった. 腹部単純 X 線検査所見 (Fig. 1 ): 盲腸の著しい拡張像を認め, 体位変換にて盲腸ガス像の移動を認めた. 腹部造影 MDCT 所見 : 盲腸から上行結腸にかけての拡張像と捻転部位を疑わせる狭窄部位を認めた. 以上より盲腸軸捻転症と診断し, 大腸内視鏡による捻転整復術を施行したが, 翌日の腹部 X 線検査にて再燃を認めたために, 腹腔鏡補助下右結腸切除術を施行した. 手術所見 (Fig. 2 ): 臍直下, 上腹部正中にそれぞれ5mmポートを留置し腹腔内の観察を行ったところ, 拡張した盲腸を認めた. 盲腸は後腹膜に固定されておらず, 移動盲腸であった. 結腸間膜 1224

Fig. 1 Case 1. Abdominal radiography showed Dilated loops of cecum and small intestine was displaced to the right side. Fig. 2 Surgical finding of Case 1:Cecal volvulus was shown, and cecum was rotated in anticlockwise direction. Mescolon had cozy relations with ovary (arrow). と卵巣に癒着を認め, この部分を軸として捻転が生じたものと考えられた. 右側腹部に4cmの小切開を追加し, 腹腔鏡補助下右結腸切除を施行した. 術後経過は良好であり, 術後 7 日目に原疾患治療のために転院となった. 症例 2 :90 歳, 女性. 主訴 : 腹痛, 下腹部膨満. 現病歴 : 血管性認知症にて前医に入院中であった. 腹痛および下腹部膨満が出現し, 増強してきたために, 当院を紹介受診した. 既往歴 : 閉鎖孔ヘルニア術後, 便秘症. 入院時身体所見 : 下腹部膨隆を認め, 腹部は板状硬であり, 著明な圧痛と腹膜刺激徴候を認めた. 血液検査所見 : 白血球数 7,800/μL,CRP 0.01mg/ dlと炎症反応は認めず,hb 9.2g/dLと軽度貧血を認めたが, 他にあきらかな異常所見は認めなかった. 腹部 X 線検査所見 (Fig. 3 ): 著明な盲腸の拡張像と, 右側に圧迫された拡張小腸を認めた. 腹部造影 MDCT 所見 (Fig. 3 ): 左側に偏位した虫垂開口部および回盲弁を認め, 拡張した腸管は 1225

日本外科系連合学会誌第 38 巻 6 号 Fig. 3 Case 2. Left ) Abdominal radiography:dilated loops of cecum (arrow), and small intestine was displaced to the right side. Middle, Right) MDCT:Vermiform appendix (middle figure:arrow) and ileocecal valve (right figure:arrow) was displaced to the left side by torsion. Fig. 4 Surgical finding of Case 2:Cecal volvulus was shown, and cecum was rotated in anticlockwise direction into 270-degree (arrow), and multiple longitudinal insults of serosa was observed (arrow). 盲腸と同定可能であった. またwhirl signを認め, 盲腸軸捻転症と診断した. 腹水も認められ, 腹部所見と併せ, 腸管壊死を疑った. 以上より盲腸軸捻転症による絞扼性イレウスと診断し, 緊急手術を行った. 手術所見 (Fig. 4 ): 拡張した盲腸を認め, 反時計回りに270 度捻転していた. 拡張した盲腸に多発性の縦走漿膜損傷を認めた. 壊死腸管は認めなかったが, 漿膜損傷の程度が強く多発しており, 右側結腸切除術となった. 術後は誤嚥性肺炎を呈したが, 保存的加療にて軽快し, 術後 23 日目に前医転院となった. 考察盲腸軸捻転症は盲腸, 上行結腸が長軸方向に捻 転する疾患で,1873 年にRokitansky 2) により初めて報告された. 先天的要因として盲腸の後腹膜との固定不全, いわゆる移動盲腸が存在する. 移動盲腸は胎生期の中腸回転異常により盲腸, 上行結腸が後腹膜に固定されていない状態であり, 成人剖検例の11.2% に存在するといわれているが 3), 盲腸軸捻転症は移動盲腸の1/400 程度の発症頻度に過ぎない 4). つまり, 先天的要因に支点 ( 癒着, 腸間膜根部の狭小, 索状物 ), 作用力 ( 妊娠, 跳躍 ), 盲腸内容の停滞 ( 肛門側腸管の通過障害, 大腸の atony, 過食, 便秘 ) などが加わって盲腸軸捻転症を発症すると考えられている. また長期臥床による慢性的な腸管の弛緩状態が誘因になったケースも報告されており 5), 本症例においても長期臥 1226

床状態は誘因の一因となった可能性がある. 症状としては, 腹痛, 腹部膨満, 嘔吐などといった消化器閉塞症状で発症することが多いが, 特異的なものはない. 診断には種々の検査が有用であったとの報告もあるが, 術前の正診は困難とされる 6) 7). 腹部単純 X 線所見では, 異常部位にある拡張盲腸,2) ガスで拡張した小腸係蹄が拡張した盲腸の右側に存在することなどが挙げられる. また, 注腸造影での bird beak sign 8),CTでの whirl sign などがある. 特にMDCTでは低侵襲にかかわらず短時間でより詳細な画像診断が可能である 9). 本症例でもMDCTにて虫垂開口部や回盲弁を同定することで, 拡張盲腸や捻転部位の同定が可能となり, 術前診断を得ることができた. 治療法としては, 大腸内視鏡による減圧, 整復の報告が散見される 6) 7) が, 成功率がS 状結腸捻転より低く, 再発率が高く, 手術的な治療が一般的とされる. 症例 1においても, 内視鏡整復術を試みたが, 翌日に再燃し, 手術加療を行った. また本症の腸管壊死の合併は約 20% とされ, 腸管壊死を認めない場合の死亡率が12%, 壊死を合併した場合の死亡率は33% と約 3 倍高くなるため, 腸管壊死を疑う所見 ( 腸管壁の造影効果の不良, 大量腹水, 門脈内ガス像や腸管壁内ガスなど ) が得られた場合, 早急な手術が原則となる 10) 1. 手術術式としては腸管壊死や穿孔を伴う場合は腸管切除が必要となり, 閉塞性腸炎を合併している場合も多く, 場合によっては一期的腸吻合を避け, 腸瘻造設を考慮する必要がある. 腸管壊死を伴わない場合, 捻転解除に盲腸固定術あるいは盲腸瘻造設術, 腸管切除 ( 回盲部切除, 右半結腸切除 ) を追加する方法が挙げられる. 近年, 腹腔鏡下での固定術などが報告されており 12), 可能な場合, 腹腔鏡手術は良い適応になりうると考えられた. 今回, 手術加療を施行した盲腸軸捻転症の2 例を経験した. 早期に診断し, 患者の状態に応じた 治療の選択が重要と考えられ,MDCTは有用であった. 腸管壊死を起こすことで重症化するため, 腹腔鏡手術を含めた手術加療のタイミングには注意が必要である. 文献 松田光弘, 松村理史, 青沼宏, 他 : 盲腸軸捻転症の1 例. 日臨外会誌 59:2834-2837,1998 2)Rokitansky C : Intestinal stranguration. Arch Gen Med 14 : 202-204, 1873 3)Wolfer JA, Beaton LE, Anson BJ, et al : Volvulus of the cecum : Anatomical factor in its etiology. Surg Gynecol Obset 74 : 882-894, 1942 4) 長嶺弘太郎, 木村英明, 大田貢由, 他 : 脳性麻ひ患者に生じた盲腸軸捻転症の1 例. 日臨外会誌 61:2119-2122,2000 5) 平成人, 曽我浩之, 小島茂嘉 : 超高齢者に生じた盲腸軸捻転症の1 例. 日臨外会誌 59:2838-23840,1998 6) 三浦直也, 浜本哲郎, 野口美智子, 他 : 内視鏡的に整復し得た盲腸軸捻転症の1 例. Gastroenterol Endosc 48:1246-1249,2006 7) 菅野敦, 菅野潤子, 高橋健一 : 内視鏡的に整復し得た盲腸軸捻転症の1 例. Gastroenterol Endosc 44:1856-1861,2002 8) 平山一久, 笠原善郎, 宗本義則, 他 : 盲腸捻転症による大腸穿孔の1 例. 外科 63:1009-1013,2001 9) 名和正人, 土屋十次, 浅野雅嘉, 他 :MDCTによるmultiplanar reformation 像およびCT-colonog- raphyにて術前診断した盲腸軸捻転症の1 例. 日臨外会誌 67:635-639,2006 10) 渡邊泰治, 中野末広, 佐藤良太郎, 他 : 網盲腸軸捻転症の2 例. 日臨外会誌 66:1371-1375,2005 1 鬼塚幸治, 伊藤重彦, 田上貴之, 他 : 盲腸軸捻転症の3 例. 日腹救急医会誌 30:463-467,2010 12)Tsutumi T, Kurazumi H, Takemoto Y, et al : Laparoscopic cecopexy for mobile cecum syndrome manifesting as cecal volvulus : report of a case. Surg today 38 : 359-362, 2008 1227

日本外科系連合学会誌第 38 巻 6 号 Cecal Volvulus; Report of Two Cases Hidetaka Kurebayashi, Mitsuhiro Morikawa, Katsuji Sawai, Kenji Koneri, Makoto Murakami, Yasuo Hirono, Takanori Goi, Atsushi Iida, Kanji Katayama 2) and Akio Yamaguchi First Department of Surgery and Cancer Care Promotion Center 2), University of Fukui We report 2 cases of cecal volvulus here. In case 1, a 32-year-old woman who had cerebral palsy complained of abdominal fullness. A plain abdominal radiography showed a giant colonic gas shadow. We diagnosed her condition as cecal volvulus by using multidetector row computed tomography (MDCT). We subsequently performed colonoscopic detorsion; however, the patient experienced a relapse the following day. We therefore performed a laparoscopic surgery. Owing to the intraoperative findings of torsion and dilatation of the cecum, we performed a right colon resection. In case 2, a 90-year-old woman was admitted to our hospital because of lower abdominal pain and fullness. We diagnosed her condition as cecal volvulus and strangulated ileus by using abdominal radiography and MDCT, and performed an emergency right colon resection. Cecal volvulus is a rare condition, and the cases reported here reaffirm that when feasible, laparoscopic surgery proves useful in the treatment of this condition. Key words: cecal volvulus, displaced cecum 1228